魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな 第4話

 

 

 起動六課本部の中央広場にて、1人の青年が待機していた。

 カイザ・ムラカミ。時空管理局本局直属の特別査察官。査察部にて有力の人物で、同僚からの信頼は大きい。査察に置いては一見冷徹や非情とも取れるほどの冷静さで臨むため、査察を受ける側は緊張が絶えないという。

 しばらく待っていたカイザのところへ、リーザからの呼びかけを受けたはやてがやってきた。

「お待たせしました。起動六課部隊長、八神はやて二等陸佐です。」

「時空管理局本局所属特別査察官、カイザ・ムラカミです。」

 はやてとカイザが自己紹介をして敬礼を送る。

「突然の訪問、失礼いたしました。急を要する事態のため、事前の連絡なくこちらに足を運びました。」

「それで、今回の査察の目的は?」

「今回は査察とは言いがたい内容ですが、ご了承のほど。」

 はやての問いかけに、カイザは小さく頭を下げてから答える。

「現在多発している奇怪な事件。その犯行はシャブロスのメンバーの仕業であることが判明しました。ですがシャブロスの他に、今回の事件のキーパーソンとなる人物がいます。タケルという少年です。」

「タケルくんが?」

「彼のおかげで、今回の事件に対して体勢を整えることができました。ですが事件に関する情報を事前に知っていた彼に疑念があるのも事実です。」

 はやてに向けて鋭く問い詰めていくカイザ。はやては平穏さを崩さずに、話に耳を傾ける。

「彼はこれからの対応においてもキーパーソンとなり得ます。いろいろと聞きたいこともありますし、心身の検査も必要となります。八神部隊長、タケルをこちら本局に引き渡してください。」

「タケルをですか!?・・しかし・・・」

「彼への身の安全は保障します。ただ、この事件の打開には、彼と彼の心身の持つ情報が必要なのです。」

「それは、尋問や拷問の類を強いるということですか・・・!?

 はやてが眼つきを鋭くして語気を強める。しかしカイザは一切態度を変えない。

「これは陸、空、海、各部隊の見解に基づいての申し出です。彼が犯行に加担している可能性も否定できない。」

「ですが・・・」

「これは急を要すると言ったでしょう。これを拒否すれば、あなただけではない。起動六課そのものに非難が向けられ、最悪の場合、またスカリエッティ一味の襲撃のような事態の再来にもなりかねない・・あなたは、それでよろしいのですか?」

 はやてに向けて鋭く問い詰めていくカイザ。しかし起動六課全員の気持ちを背に受けたはやても反論する。

「確かにあのようなこと、2度と繰り返してはいけません・・ですが、たとえ最善手やとしても、犠牲を出しての任務には賛同しかねます・・・!」

「つまり、この申し出を拒否すると?」

「タケルくんの話してくれた話のおかげで、我々は事前に防衛策を立てることができました。もしも彼が敵やいうんなら、そんな話などせぇへん・・彼はうちらの大切な協力者、かけがえのない仲間や!」

「仲間?勘違いしないでいただきたい。あなたがトップを務めているのは時空管理局の1部隊。ままごと遊びをする仲良しグループではないのですよ。」

「遊びでもままごとでもない。これはみんなのための部隊・・みんなに悲しい思いをさせへんために、うちらは全力を尽くしてるんや・・・!」

「ではあくまで、タケルをあなたたちの管轄下に置くということなのですね?」

 カイザが鋭く言いかけると、はやては真剣な面持ちのまま頷く。

「この申し出は管理局全土の総意に近い見解から来ています。もしもあなたがこの申し出を拒否するなら、今回の事件における全責任は八神部隊長、あなたたち起動六課に降りかかることになる。あなたにその覚悟はあるのですか?」

「あります。タケルくんを保護し、今回の事件の全責任を我々が負いましょう。」

 カイザの忠告を込めた言葉に、はやては即答する。しかし彼にはそれが滑稽に感じられた。

「それは起動六課部隊長としての意見ですか?それとも、あなた個人の意見ですか?」

「どちらでもあり、起動六課メンバー全員の総意です。」

 問い詰めるカイザにはやてが言い放つ。彼女の背後には、フェイトやヴィータ、シグナムたち起動六課メンバーが集まってきていた。

 もはや起動六課の考えはまとまっており、それは揺るぎないものとなっていた。その覚悟と決意を目の当たりにしたカイザは、ある人物に向けて念話を送った。

 しばらく会話を行ってから、カイザははやてに話を戻した。

「いいでしょう。今回の件の責任、あなたたち起動六課、そしてデルタのみなさんにも請け負っていただきましょう。ただし、入手した情報は逐一本局に報告してください。」

「分かりました。お心遣い、感謝いたします。」

 カイザの了承に対し、はやては感謝の意を示して敬礼を送る。

「ではこのことはすぐに局長に報告しておきます。それでは失礼します。」

 カイザも敬礼を送ると、この広場を立ち去っていった。だが玄関を出たところで、彼は足を止めた。

「盗み聞きとは感心しないな、フォルファ。」

 カイザが振り向かずに言いかけると、物陰から白髪の青年が姿を見せてきた。

 フォルファ。三種の神器、およびその保管庫の管理を務めている一族の1人で、「地獄の番犬」の異名を持つ。現在はその保管庫だけでなく、ユーノとともに無限書庫の管理も務めている。

 「三種の神器事件」にてなのはやユウキたちと邂逅。現在は気軽に連絡の取り合える関係となり、彼らをサポートしている。

 カイザとフォルファは親友の間柄であり、気さくに声を掛け合える仲である。

「相変わらず毅然とした態度での査察だな、カイザ。オレのほうこそ感心しちまうよ。」

「査察に私情は挟めないからね。もっとも、それは他の役職や仕事でも同じことだが。」

 憮然さを見せながら言いかけるフォルファに、カイザがため息混じりに答える。

「彼女たちの決意は本物だ。仲間達も世界も守る気でいる。もちろんデルタの面々も。」

「10年前からその決心は変わらないよ。むしろ強まってるって感じだ。」

「お前も彼らをサポートしていくのだろう?オレも本局からサポートを入れていくつもりだ。彼女、全責任を負うと言ってのけてきた。オレたちが助力しなければ、オレたちのほうが悪者にされてしまう。」

 カイザの苦言にフォルファが苦笑いを浮かべる。

「君も力を貸す気でいるのだろう、ヴェロッサ・アコーズ?」

 カイザが立て続けに呼びかけると、緑の長髪の青年、ヴェロッサも姿を見せてきた。

 ヴェロッサはカリムの義弟で、はやてやクロノの友人である。カイザに負けず劣らずの功績を持つ査察官であるが、勤務態度に問題がある模様。

「生真面目な君と違い、僕は私情を挟むことも厭わないよ。」

「そのことはオレは問い詰める気はないが、もう少し真面目に仕事をすべきだと思うぞ。カリムたちのことを思うならなおさら。」

 気さくに言いかけるヴェロッサに、カイザが半ば呆れ気味に言いかける。その言葉にフォルファとヴェロッサから笑みが消える。

「今度の事件の首謀者はかつてない脅威といえる。オレたちも尽力を注ぐ必要がある。」

 カイザの言葉に真剣な面持ちで頷くフォルファとヴェロッサ。

「オレは局長に報告した後、とっつぁんのところに行く。お前たちは彼らに力を貸してやってくれ。」

「言われるまでもない。ゲンヤさんにもよろしくな。」

 カイザの言葉にフォルファが笑みを見せて答える。

 カイザが口にした「とっつぁん」とは、ゲンヤ・ナカジマのことを指す。陸士108部隊部隊長で、スバルとギンガの父である。カイザはかつて108部隊に所属し、ゲンヤの指揮の元で働いていた時期がある。そのため親交があるのだ。

 フォルファとヴェロッサにはやてやユウキたちを任せ、カイザはこの場を後にした。

 

 漆黒に彩られた大広間。オロチ、ミウラ、オメガのいるその場所にノアがやってきた。

「ガゼルが倒されたようだ。だが上位の部隊や無限書庫の無力化、小室ライムとジャンヌ・フォルシア・マリオンハイトの駆逐に成功した。」

 ノアが言いかけると、ミウラが微笑みかける。

「時空管理局はだんだんとギクシャクしてきてるみたいね。そこをどんどん掘り下げていくんでしょう?」

「もちろんだ。今回はガゼルの独断専行となったが、次は本格的に動き出すことになる。戦闘準備を怠るな。」

 ミウラの呼びかけにノアが淡々と答える。

「準備?オレはいつでも準備は万端だ。強い相手を眼の前にすりゃ、すぐにでも本気が出るってもんだ。」

 オメガが不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

「これがオメガという人ですよ、みなさん。」

 そこへ小さな少女が声をかけてきた。30センチほどの全長だが、大人びた雰囲気が表れていた。

 バサラ。オリジナルの古代ベルカ式ユニゾンデバイスの1人であるが、自分の本当の名前を含めた全ての記憶を失っている。現在の名も邂逅したオメガに与えられたものである。

「好きにすればいい。オレたちは別に一揆協力を求めているわけではないからな。」

「そう?なら私もそろそろ自由行動にさせてもらおうかしら。ウフフフ。」

 オロチの言葉にミウラが妖しい笑みをこぼす。

「ん?メトロの姿が見えないが?」

「メトロは最高傑作を起動させると言って出て行った。フェイトの打倒に躍起になっているようだ。」

 ノアの問いかけにオロチが答える。大広間の奥にある研究室にて、メトロの最高傑作が目覚めようとしていた。

 

 カイザの査察の後、起動六課とデルタは今後の襲撃者の動向に備えて態勢を整えようとしていた。その最中、宿舎の1室にてなのは、フェイト、はやては対話をしていた。

「ふぅ。ほんまに冷や汗タラタラや。言ってのけたのが不思議なくらいや。」

 大きく息を吐くはやてに、なのはとフェイトが苦笑いを浮かべる。だがなのはの先ほどの様子を気にして、フェイトが沈痛の面持ちを浮かべる。

「大丈夫、なのは・・・?」

「フェイトちゃん・・大丈夫だよ、私は・・ただ、私もえりなと同じように、少し気が立ってたのかもしれない・・」

 フェイトの心配の声に、なのはも物悲しい笑みを浮かべて答える。

「ユーノくんやジャンヌちゃん、ライムちゃんたちがあんなことになって、どうしたらいいのか分からなくなりかけてた・・いくらいても立ってもいられなかったとはいえ、えりなにあんなことを言われて、カッとなっちゃって・・・」

「なのはの気持ち、私も分かるよ・・なのはだって辛い中で決意した。それをあんな言い方をされたら・・でも、えりなの気持ちも分からなくもないよ。自分のせいでライムがやられたって思ったら・・」

「でも、あのように1人で突っ走っちゃうのはよくないよ・・みんなのことを考えているように見えても、結局は自己満足だから・・・」

 言いかけて、互いに沈痛の面持ちを見せるなのはとフェイト。

「それでも、えりなちゃんらしいといったら、らしいですよ・・」

 そこへ部屋を訪れたスバルが声をかけてきた。ティアナ、アレン、ソアラも一緒だった。

「盗み聞きとは関心せぇへんなぁ。」

「いえ、部屋の前に来たら、なのはさんたちの話が聞こえてきたもので・・」

 はやてが肩を落としながら言いかけると、アレンが苦笑いを浮かべて答える。

「でも、これも結局盗み聞きってことになっちゃうよね。」

「ソアラ、余計なこと言うな。」

 言いかけたソアラにアレンが言いとがめる。そのやり取りになのはたちが思わず笑みをこぼす。

「えりなさんたちのところには、エリオとキャロ、玉緒ちゃんが行ってますよ。」

 ティアナが告げた言葉に、なのはが当惑を覚えていた。

 

 激情を抑えきれないでいたところを健一に気絶させられたえりなは、医務室のベットで眼を覚ました。医務室には健一、タケル、リッキー、シャマル、さらに少し前にやってきたエリオ、キャロ、フリードリヒ、明日香がいた。

「よかった。眼が覚めましたね。」

 キャロが笑みを浮かべて喜びを口にする。

「私は・・ここは・・・?」

「悪かったな、えりな。1人で突っ走りそうな勢いだったんでオレが無理矢理止めたんだ。」

 記憶を巡らせるえりなに、健一が謝罪の言葉を告げる。

「健一が・・・」

「お前の気持ちも分からなくもないけど、お前もお前だ。あまりにも周りが見えなさ過ぎてたぞ。」

 戸惑いを見せるえりなに健一が言いとがめる。

「ライムさんたちがあんなことになって、いても立ってもいられなくなったえりなさんの気持ち、僕も分かります・・でも、こういうときだからこそ、みなさんのことを信じてあげてください・・!」

 エリオがえりなに向けて切実に励ましの言葉をかける。

「僕、一時期何もかもが信じられなくなっていた時がありました。そんな僕を受け入れてくれたのが、フェイトさんでした。」

「信じるということは、本当に大切なことだということを、フェイトさんやみなさんから教わりました。えりなさんと健一さんが、信頼し合っていることは耳にしています。」

 エリオに続いてキャロもえりなに言いかける。2人のストライカーに励まされて、えりなは勇気をもらった気がして、笑みをこぼした。

「ありがとうね、エリオくん、キャロちゃん・・あなたたちの勇気で、力が湧いてきたよ・・」

「後輩に励まされるなんて、お前もまだまだだな、えりな。」

「もう、またそういうこという、健一はー・・」

 健一にからかわれて、えりながふくれっ面を浮かべる。2人のやり取りにエリオたちだけでなく、明日香、リッキー、タケルも笑みをこぼしていた。

「でもまだメンタル面で不安定なところが残ってるよ。本気の戦闘になると危険が出てくるよ。」

 そこへリッキーが忠告を送り、えりなが戸惑いを見せながら頷く。

「リッキーの言うとおりだよ。えりなはしばらく休んで、気分転換したほうがいいよ。」

「明日香ちゃん・・・分かったよ。お言葉に甘えることにします。でも、何かあったら、必ず私にも呼びかけてね。」

 続けて言いかけた明日香に、えりなが笑顔を見せた。

「よし。エリオ、キャロ、お前たちは戻ってろ。えりなはオレが面倒を見てるから。」

「健一さん・・・分かりました。僕たちは戻ります。」

「えりなさんをお願いします。」

 健一の呼びかけを背に受けて、エリオとキャロは医務室を後にした。

「さて、ホントに気分転換に外に出てみるか。」

 健一の口にした言葉にえりなが微笑んで頷く。

「僕も一緒に行きますよ。僕も、そのくらいの力にはなりたいですから・・」

「しょうがないね。僕も監督として一緒に行くよ。」

 タケルとリッキーも同行を申し出た。

「仕方がないですね・・リッキー、しっかり見ててくださいね。」

 シャマルもリッキーにえりなたちを任せ、外出を了承した。

 

 ミッドチルダ市街の食堂。局長への報告を終えたカイザは、ゲンヤに食事に誘われてここに来ていた。2人にはギンガも同行していた。

「とっつぁんとこうして食事をするのも久しぶりだな。」

「お前さんのような小生意気なヤツとの食事も、なかなか味のあるものだと思うぞ。」

 不敵な笑みを浮かべるカイザに、ゲンヤが気さくな笑みを見せる。

「ここ数年の間に、すっかり坊主や譲ちゃんに追い抜かれちまったな。お前さんもオレの部隊に入ってきたばかりのときは、局員とは思えないほどの泣きべそ坊主だったじゃねぇか。」

「それを言うなって。苦い思い出として封印してたことなんだから。」

「しかし今じゃ指折りの査察官か。どいつもこいつも、お前さんに入られてビクビクしてたって聞くぞ。」

 苦笑いを浮かべるカイザと気さくさを崩さずに語りかけるゲンヤ。

「これでもオレは、どの人物も対等であると考えている。だからこそ私情を挟まず、生い立ちや過去の罪、身体に関しては問い詰めない。もちろんギンガさん、あなたに対しても同じだ。」

「すみません、いろいろと気を遣ってくれて・・」

 自分の心境を告げるカイザに、ギンガが感謝の言葉を返す。

 カイザはスバルやギンガの素性を知る1人である。しかしあくまでも彼女をたちを人間として、分け隔てなく接してきていた。

「起動六課とデルタ、彼らが前線に出て事件の解決に尽力を注ぐことになるだろう。だがオレたちにもまだ、やれること、やらなくてはならないことが必ずあるはずだ。」

 カイザの言葉にゲンヤとギンガが頷いた。今回の件に限らず、自分にもやるべきことがある。彼らはそう思っていた。

 

 起動六課とデルタがシャブロスの行方を追って躍起になっている中、ナディアとロッキーは会話していた。

「ナディアちゃん、オレ、必ずみんなを助け出してみせるぞ。オレだって他の連中に負けちゃいねぇんだからな。」

「気合入ってますね、ロックさん。でも、あたしも負けませんからね。」

 意気込みを見せるロッキーに、ナディアも同じく意気込みを見せる。だが彼女は突如、沈痛さを覚える。

「でも、ライムさんがあんなことになって、あたし、とても悲しいです・・絶対、絶対助けないといけないです・・」

「ナディアちゃん・・・そうだな。オレが全部にケリをつけてやるから、ナディアちゃん、そんな顔しないでくれよ・・」

「ロックさん・・・ありがとうございます、本当にここまで気を遣ってくださって・・・ですが、あたしは守られてばかりではありませんからね。」

 決意を告げるロッキーに、ナディアも決意と感謝を告げる。互いを思いやる気持ちが、2人の背中を後押ししていた。

「この状況下に全く臆した様子がないようだね。」

 そこへ声がかかり、ナディアとロッキーが振り返る。その先には1人の男と1人の女性の姿があった。シャークとその使い魔、ピノである。

「シャーク中将、ピノ一等空尉。」

 ナディアがシャークたちに敬礼を送るが、ロッキーは憮然とした態度を見せていた。

「いや、かしこまらなくていい。君たち起動六課やデルタが事件に向けて前線に立とうとしているのを聞いてね。助力を注ぎたいと思ってこちらに赴いたわけだ。」

「そうだったのですか・・八神部隊長なら部屋にいますが、すぐに呼んできますね。」

「いや、私が直接赴くよ。君たちはこれから任務や戦闘に備えなければならない。そこに水を差すわけにはいかないからね。」

 はやてを呼ぼうとしたナディアを呼び止め、自ら赴こうとするシャーク。

 そのとき、緊急を知らせるサイレンが鳴り響き、赤ランプが点等を始める。

「また襲撃でしょうか・・・中将、行ってきます!」

 ナディアがシャークに敬礼を送ると、本部に向かって駆け出していった。ロッキーも彼女を追っていった。

 

 シャブロスの捜索を続けていた起動六課、デルタのオペレーター陣。情報収集を続けていく中、ついにシャブロスの本拠地と思しき場所の特定に成功したのだった。

 そんな作戦室にはやてが駆けつけた。

「シャブロスの本拠地を見つけたそうやね!」

「はい!北北東AZ1974ポイントにて、ファントムの集結を確認しました!」

 はやての呼びかけにシルヴィアが答える。モニターには魔力反応を示すレーダーが表示されており、彼女が言った地点には複数の魔力反応が集結していた。

 しかしそこは湖に位置する場所だった。水中活動に不慣れな陸戦局員は迂闊には踏み込めない。

(今回はなのはちゃんたちに任すしかないか・・・!)

 はやては本拠地への突入を、飛行の使えるなのはたちに任せることにして、スバルたち陸戦魔導師たちを待機させることにした。

 

 スクランブルを受けてAZ1974ポイントに急行したなのは、フェイト、明日香、ラックス、シグナム、ヴィータ、アレン、ヴィッツ、アクシオ、ダイナ。彼らは眼下に広がる湖に潜んでいるシャブロスの地下基地を見据えていた。

「ここに潜んでいたとは・・」

「AMFをアジトの周囲に張り巡らせて、その場所を隠してたみてぇだな。」

 ヴィッツとヴィータが呟くように言いかける。

「ファントムを考えれば、大人数で歓迎されるのは想像がつくね。」

「やはりここは広範囲に渡る対応力のあるメンバーが先行するべきだろう。」

 ラックスとシグナムの言葉に全員が頷く。

「それならなのは、フェイト、明日香、ヴィータ、それとあたしで決まりね。」

「僕たちはここで待機して、外に出てきたシャブロスを迎え撃ちます。何かありましたら連絡をお願いします。」

 アクシオが言いかけ、アレンも呼びかける。なのはたちは眼下の湖を見下ろして身構える。

「それじゃ行くよ、みんな。」

 なのはは呼びかけると、湖に向かっていく。フェイト、明日香、ヴィータ、アクシオも続く。

 5人は転移を駆使して地下基地に潜入する。わずかしか明かりのない廊下の真ん中に彼女たちはたどり着く。

「ここはどの辺りでしょうか?・・魔力はきちんと感じるのですが・・・」

 周囲に警戒心を向けながら、明日香が呟く。

「シャーリー、私たちが来た場所はどの辺り?」

“中央広場から数十メートル離れた地点です。そばに魔力炉のある部屋があります。”

 フェイトの呼びかけにシャリオが答える。なのはたちは魔力反応のあるその部屋に向かって駆け出す。

 その中で彼女たちは違和感を覚えていた。本拠地付近に上位の管理局局員が接近し、なおかつ侵入しているにもかかわらず、敵は迎撃どころか経過の姿勢さえ見せてこない。

(アレンくん、外の様子はどうなっている?)

 疑念を払拭できないでいたなのはが、外で待機しているアレンに呼びかけた。

“なのはさん・・いえ、なのはさんたちが潜入してから、誰も何も基地を出入りしてはいません。”

 アレンの返事を聞いて、なのははさらに疑念を膨らませ、思考を巡らせていた。これだけ入り込んでいるのに、何の反応を見せてこないのは明らかにおかしい。

 その心境を抱えたまま、なのはたちは魔力炉のある部屋にたどり着いた。しかしそこは魔力炉だけが稼動し続けているだけで、人や機械兵士の気配はまるで感じられなかった。

「やっぱおかしいぜ・・もしかして、罠なんじゃ・・・!?

 基地に対する疑念をさらに膨らませるヴィータ。

「ここに関するデータがない・・全て消去されている・・・」

 部屋の中のコンピューターを調べているフェイトが言いかける。彼女たちが感じていた疑念が確信へと変わった。

 これはおびき寄せるための罠であることが。

 

 なのはたちが魔力炉に行き着いた頃、再びミッドチルダ市街にて騒動が起こった。数体のファントムが破壊活動を行い、人々を蹂躙していた。

「こんな手の込んだやり口をしかけてくるなんて・・・!」

 シャブロスの策略に毒づくはやて。なのはたちを呼び戻している時間さえない状況だった。

「やはりここは、私が出るしかあらへんな・・・!」

「八神部隊長、あたしたちが行きます!」

 いきり立とうとしたはやてに、スバルが声をかけてきた。ティアナ、エリオ、キャロ、ナディア、ロッキーも整列し、出撃準備を整えていた。

「部隊長は起動六課の要です。敵の策略に陥らせるわけにはいきません。ここはあたしたちが先陣を切ります。」

 ティアナも真剣な面持ちではやてに呼びかける。彼らストライカーたちの決意を目の当たりにしているはやてに、1人の少女がやってきた。

 リインフォース・ツヴァイ。はやてによって生まれた人格型ユニゾンデバイスであり、彼女の補佐役である。小人と思えるほどに全長が低く、「ちっちゃい上司」と呼ばれることもある。

「マイスター・はやて、ここはみんなに任せるべきだと思います。敵はこの起動六課を狙ってくるかもしれません。攻め手に回るだけじゃなく、守りも固めていかないと。」

「リイン・・そうやな。もう2度と、みんなが傷つくのを見とないからな。」

 リインフォースに励まされて、はやてが笑みを取り戻す。仲間たちを信頼し、その仲間たちを守る盾に自分がなることを、彼女は決意していた。

「起動六課フォワードメンバー、出動!」

「はいっ!」

 はやての呼びかけにスバルたちが答え、出撃していった。そこへ玉緒がはやてに連絡を送ってきた。

“はやてさん、あたしも街に向かいます!”

「玉緒ちゃん、あなたは私と一緒にここで待機や。私とリインと一緒に守りを固める。」

 玉緒の言葉にはやてが返事をする。その指示に玉緒は頷いた。

“はやてちゃん、こっちは割ける人員がいない。玉緒への指示は君に任せる。”

 そこへユウキが声をかけてきた。

「了解。ユウキさんも防衛ライン展開をお願いします。」

 はやてはユウキの言葉を受け入れ、敬礼を送った。

 

 ヴァイスの駆るヘリコプターに搭乗し、襲撃を受けているミッドチルダ市街に向かうスバルたち。ヘリコプターの後部ハッチが開かれ、彼らは出撃しようとしていた。

「相手はファントム複数。こっちはツーマンセル、3組に別れてファントムの撃退と人々の救助を行っていく。ナディアはロックとペアを組んで。」

「分かりました!」

「任せとけ!」

 ティアナの指示にナディアとロッキーが答える。

「それじゃ行くぜ、ストライカーズ。くれぐれもムチャはしないでくれよな。」

「分かってます。僕たちに何かあったら、フェイトさんたちが悲しみますからね。」

 呼びかけるヴァイスにエリオが答える。そしてスバルたちは、眼下の街に向かって飛び降りた。

「マッハキャリバー・・」

「クロスミラージュ・・」

「ストラーダ・・」

「ケリュケイオン・・」

「シティランナー・・」

「ブレスセイバー・・」

 スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ナディア、ロッキーがそれぞれ待機状態のデバイスを手にする。

「セットアップ!」

 彼らの呼びかけを受けて、デバイスたちが起動する。デバイスがそれぞれの戦闘形態へと形を変えると同時に、彼らの体をバリアジャケットが包み込んでいく。

「蒼穹を奔る白き閃光。我が翼となり、天を翔けよ。来よ、我が竜、フリードリヒ・・竜魂召喚!」

 キャロがフリードリヒに向けて召喚魔法を使用する。フリードリヒが真の姿である白く巨大な竜へと変身する。

「それじゃ各組散開!敵はファントムだけじゃないってことも頭に入れておいて!」

「了解!」

 ティアナの指示にスバルたちが答える。スバルとティアナ、エリオとキャロ、ナディアとロッキーに別れて、3組が別方向に進む。

「リボルバー・・シュート!」

 スバルが繰り出した拳「リボルバーナックル」から放たれた射撃が、青のファントム数体をなぎ払う。

「クロスファイアシュート!」

 ティアナの持つ銃型インテリジェントデバイス「クロスミラージュ」から魔力の弾丸が放たれ、赤のファントムを取り囲み、撃ち抜く。

「シャトルソバット!」

 ナディアが繰り出した後ろ回し蹴りが、黄色のファントムの頭部を蹴り飛ばす。

「スラッシュセイバー!」

 ロッキーが振りかざした腕輪型アームドデバイス「ブレスセイバー」から放たれる刃の一閃が、ファントムたちを切り裂き、なぎ払う。

Luftmesser.”

Wing shoot.”

 エリオの槍型アームドデバイス「ストラーダ」とキャロのブーストデバイス「ケリュケイオン」から旋風が放たれ、ファントムたちを貫いていく。

「僕がファントムたちを退ける!キャロはその間に、人々の救助と避難を!」

 エリオがキャロに向けて指示を送ったときだった。

「エリオくん、危ない!」

「えっ!?

 キャロの呼びかけにエリオが眼を見開く。その直後、彼は自分に向かってくる何かに気付き、身構える。

 だが飛び込んできた冷気は、防御の体勢をとったエリオを一瞬にして氷付けにしてしまう。彼は氷に取り付かれ、身動きが取れなくなってしまった。

「エリオくん!」

「大丈夫よ。これはただの挨拶代わり。自力で抜け出せるはずよ。」

 たまらず駆け込もうとしたキャロに向けて声がかかる。止まって振り向いた彼女の視線の先。ビルのひとつの屋上に立つ銀の長髪の女性が、彼女に声をかけてきたのだ。

「あなたたちと直に会うのを楽しみにしていたのよ、坊や、お嬢さん。しかも私と同じ竜召喚士だなんてね。」

 歓喜を覚えて妖しく微笑む女性に、キャロが困惑する。一方、凍らされていたエリオが、自力で氷を打ち破っていた。

「あなたは何者ですか!?もしかして、シャブロスのメンバー・・!?

 エリオがストラーダを構えて問い詰める。その女性の肩に、蒼い竜が乗る。

「蒼い、竜・・・!?

「ブルードラゴン・・竜族の中でもさらに数少ない種族の竜・・・!?

 蒼い竜を眼にしたエリオとキャロが驚きを見せる。その反応を見ながら、女性は名乗った。

「紹介が遅れたわね。私はミウラ。そのお嬢さんと同じ竜召喚士よ。そしてこの子はガイア。私のパートナーよ。」

 

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system