魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな 第1話

 

 

空を駆ける2人のエース。

それぞれの思いと決意を胸に秘めて、未来へと進んでいく。

 

だが、そんな彼らの前に立ちはだかったのは、かつてない危機。

大切なものを守ろうと、すれ違い、ぶつかり合い、傷つけ合っていく。

その先に待っているものは、何なのだろうか・・・

 

全ての気持ちが、ひとつとなって光り輝く・・・

 

魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな、始まります。

 

 

 漆黒に彩られた世界。

 そのあまりの黒に、世界に希望の欠片さえ残されていないと思ってしまいそうな息苦しさが感じられた。

 全てが崩壊し、滅亡し、崩れていく。その絶望の世界の中心に、1人の少年が立っていた。

 少年はこの世界を目の当たりにして愕然となっていた。もはや起死回生すら見込めないことを痛感させられていた。

(ダメだ・・これでは、何もかも終わりだ・・・)

 少年は心の中で、完全なる破滅を理解していた。それでも何とか打開したいと願い、その策を必死に導き出そうとした。

 そして彼が思い立った手段は、過去に向かうことだった。

 

 各次元世界での事件や災害に対しての対処と取り締まりを行っている「時空管理局」。そこに新たに設立された部隊、古代遺物管理部「機動六課」。

 八神(やがみ)はやてが部隊長を務めるこの部隊は、スターズ、ライトニング、ブリザード、シャイニィの4つのフォワード部隊と、後方支援部隊に属するロングアーチで構成されている。隊長クラスがランクAAA+以上の強豪揃いで、無敵の部隊といっても過言ではない。

 部隊としての功績として記憶に新しいのがレリック事件(スカリエッティ事件)である。

 本部に壊滅的な打撃を受け、メンバーが満身創痍に陥りながらも、起動六課は次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ率いる「戦闘機人」の集団、ナンバーズの進撃を食い止めた。

 多大な成果を収めながらも、部隊における問題点も浮き彫りとなった。その中のひとつ、人員不足の解消のための措置として、特別捜査部隊「デルタ」との一時統合することとなった。

 そして、1年間の試験運用期間の終了まで、残り3ヶ月を過ぎたある日のことだった。

 

 坂崎(さかざき)えりな。起動六課ブリザード分隊副隊長。スターズ分隊隊長、高町(たかまち)なのはと並んで「エース・オブ・エース」と称されている少女である。

 えりなは級友、辻健一(つじけんいち)とともに、以前にお世話になった人物、シャーク・ジョーンズとの話し合いに行っていた。シャークからの激励を受けたえりなと健一は、改めて決起することを心に誓うのだった。

 事件の発端は、この帰り道に起きた。

「やれやれ。シャークさんのペースはつかみどころが分かんねぇぜ。」

「アハハ。でもシャークさん、私たちのことを心の底から心配しているんだから。」

 ため息混じりに愚痴をこぼす健一に、えりなが微笑んで弁解を入れる。それからえりなは起動六課本部に向けて念話を送る。

(ロングアーチ、こちらブリザード2、坂崎です。シャーク・ジョーンズ中将との対談、終了しました。みなさんにもよろしくと言っていました。)

“了解。丁度ユウキさんがそっちに向かってるから、そこで少し待ってて。”

 えりなの連絡にシャリオ・フィニーノが答える。シャリオは起動六課の通信主任であり、部隊の扱うデバイスの整備も行っている。ライトニング分隊隊長、フェイト・T・ハラオウンの執務官補佐でもある。

(ユウキさん、久しぶりにゲンヤさんに会いに行っているのでしたね。分かりました。ここで待っています。)

 えりなは頷いて、シャリオとの通信を終える。

「デルタの隊長か・・すごい人に拾われるのかよ、オレたちは。」

 健一が苦笑いを浮かべると、えりなも微笑みかける。

 神楽(かぐら)ユウキ。デルタのコマンダーであり、伝説のデバイス「三種の神器」のひとつ、シェリッシェルの所有者である。

 デルタは時空管理局の正式な部隊と違い、独立独歩の色が強い管理局局長直属の部隊である。ユウキを筆頭に執務官、アレン・ハントがサブコマンダーを務め、査察官としてリーザ・アルティス、豊川玉緒(とよかわたまお)、さらにヴィッツ、アクシオ、ダイナら三銃士で構成されている。

 もう1人、サブコマンダーが部隊に控えている。

 京野仁美(きょうのひとみ)。三種の神器、クライムパーピルの所有者であり、ユウキとの結婚を果たしている。現在は産休のため、戦列を離れている。

「あんなすごい人がはやてさんと肩を並べるなんて・・いや、言い方が逆か・・」

「三種の神器の所有者は、その力がレアスキル扱いになってるからね。はやてさんもレアスキル所有者・・これで仁美さんが戻れば、レアスキルのバーゲンセールだね、エヘへ・・」

 感心の声を上げる健一にえりなが笑みをこぼす。2人はユウキが到着するのをその場で待つことにした。

 それから数分がたとうとしたときだった。

「おい、えりな、あれ・・?」

 健一に声をかけられ、えりなは指し示されたほうに眼を向ける。道路を歩く1匹の子犬の姿があった。あれではいつ車にひかれてしまうか分からない。

 そこへ1人の少年が飛び出し、その犬を助けようとした。

「あっ!」

 健一が声を荒げる先で、犬を抱えた少年に向かって1台の車が向かってくる。

「ブレイブネイチャー!」

Breeze move.”

 えりなの呼びかけにグラン式オールラウンドデバイス、ブレイブネイチャーが答える。

 この世界の魔法術式は大きく分けて3種存在する。最も一般的とされているミッドチルダ式、攻撃力と対人戦闘に特化したベルカ式、この2つを掛け合わせたグラン式である。またベルカ式は従来のものを古代ベルカ式、ミッドチルダ式の要素を組み込んだ近代ベルカ式に分けられる。

 混同されがちなグラン式と近代ベルカ式だが、ミッドチルダ色が強いグラン式と、ベルカ色の強い近代ベルカ式に意味合いが分けられている。

 ブレイブネイチャーの補助を受けて、えりなが高速移動を開始する。そして車にひかれそうになった少年を抱えて即座にその場から離れる。

「バカヤロー!危ないだろうがー!」

 運転手の怒鳴り声が響く先で、えりなが歩道に下りて少年を降ろす。

「あなた、危ないじゃない!」

 えりなが少年にたまらず叱り付ける。少年が彼女を見て戸惑いを見せるがすぐに我に返る。

「ごめんなさい・・でもこの子がひかれそうで、そう思ったら放っておけなくて・・・」

「そうだったの・・確かに危なかったけど、いいことをしたというならそうだね・・」

 少年の言葉を聞いて、えりなは微笑みかける。そこへ健一が駆けつけ、2人に声をかける。

「大丈夫か、お前ら!?・・この犬は、お前のか?」

「ううん。でも放っておけなかったんです・・・」

 少年の答えに健一が安堵を浮かべる。

「勇気があるといいたいとこだけど、今のはかなりムチャだったぞ。今度から気をつけろよな。」

「はい。いろいろとすみませんでした。」

「ところで、お前の名前は?」

「はい。えっと・・・タケル。タケルです。」

「タケルか。いい名前だな。オレは辻健一。それでこっちが・・」

 健一が少年、タケルに自己紹介をして、えりなを指し示す。

「坂崎えりな。時空管理局空戦魔導師。今は起動六課に出向してるよ。」

 えりながタケルに笑顔を見せて自己紹介をする。彼女と健一の名前を聞いたとき、タケルは戸惑いを見せていた。

「それじゃ、私たちはそろそろ行くね。いくら助けるためだからって、無闇に道に飛び出したりしたら危ないよ。」

「あっ!待ってください!」

 タケルが立ち去ろうとしたえりなを呼び止める。突然のことにえりなと健一が当惑を見せる。

「僕をみなさんの仲間に会わせてもらえませんか!?

「えっ!?

 タケルの突然の申し出に、えりなも健一も驚きをあらわにした。

 

 時空管理局所属特務艦「ABS」。かつて多くの大敵を撃破してきた特務艦「ミーティア」の後続艦である。

 その艦長と特務隊の隊長を受け持っているのが、ハイネ・ヴェステンフルスである。ハイネは気さくな言動を織り交ぜながら、隊員たちの信頼を勝ち得ている。

 この頃、ABSは次元世界の辺境の地「ランドル」の南部から異質の魔力が発せられているのを感知し、調査のために降りていた。

「ランドルか・・確かえりなたちと三銃士の連中が、最初にドンパチやらかしたとこだったな。」

 情報を思い返してハイネが呟く。彼が指揮を執るハイネ隊の隊員たちが、魔力の正体と行方を追って動く。

「気をつけろよ。あの魔力からして、その持ち主はとんでもないヤツだろう。」

 隊員たちに呼びかけて、ハイネも行動を開始しようとした。

 そのとき、隊員たちの悲鳴が響いてきた。その異変にハイネが身構える。

「どうした!?

「襲撃者です!隊員たちを石化しています!」

 ハイネの呼びかけに隊員が答える。そこへ仮面を被った1人の人物が現れ、ハイネたちを見据えた。

 

 起動六課本部。そのフォワードメンバーたちは、厳しい任務や戦いに備えて自主練習を行っていた。

 スバル・ナカジマ。「スターズ分隊」フロントアタッカー。前向きさと気の弱さを兼ね備えた性格をしており、1度決めたことは貫き通す信念も抱いている。母から教わった「シューティングアーツ」と類まれなる爆発力で、部隊の活路を切り開く。

 ティアナ・ランスター。「スターズ分隊」センターガード。強気で突っ張った性格をしており、新人メンバー内においてリーダーシップを取ることが多い。スバルとは陸士訓練校からの知り合いで、今では息の合った名コンビとなっている。銃型のインテリジェントデバイス「クロスミラージュ」を使っての射撃を戦闘スタイルとしている。

 エリオ・モンディアル。「ライトニング分隊」ガードウィング。生真面目な性格をしており、騎士を目指して励んでいる。槍型のアームドデバイス「ストラーダ」を使用した近接戦闘を主流としている。

 キャロ・ル・ルシエ。「ライトニング分隊」フルバック。希少な竜召喚士の1人で、白竜、フリードリヒとともに苦難を乗り越えている。ブーストデバイス「ケリュケイオン」を併用しての強化系魔法に長けているため、他のメンバーのサポートに回ることが多い。

 ナディア・ワタナベ。「ブリザード分隊」ガードウィング。活発で天真爛漫な性格をしているが、年下や後輩にも敬語を使うなど、礼儀も持ち合わせている。ナカジマ家のものとは別種の「シューティングアーツ」を習得しており、ジェットブーツ型デバイス「シティランナー」を併用した足癖のある攻撃方法を取る。

 ロッキー・トランザム。「シャイニィ分隊」フロントアタッカー。非常に感情的で、当初は時空管理局の対応に怒りを感じていたが、ジャンヌに保護されたのを機に管理局の中で自分を貫く決意をする。飛行能力は会得していないが、身体能力が高く、特に跳躍力が優れており、上空にいる相手へも十分に狙いを付けられる。新型アームドデバイス「ブレスセイバー」を使用した多種多様の攻撃方法を取る。

 スバルたちが自主練習や模擬戦を行っているところへ、なのはが声をかけてきた。

「はーい!みんな集合!」

 なのはの呼びかけを受けて、スバルたちが集まってきた。なのはの横にはヴィータ、シグナム、ライムの姿があった。

「さて、新しく2人のストライカーが加わって、強みを増したフォワードメンバー。そこでフォワード陣と隊長メンバーでチーム戦を行ってみようと思うの。」

「こっちはフェイトがはやてと一緒に会議に出てるが、代わりにライムが入る。スピード重視の布陣だから、ボーっとしてる暇はないと思えよ。」

 なのはに続いてヴィータが呼びかける。

「僕としては僕も含めたみんなの力を改めて理解したいという考えもある。お互い、できる限り出し惜しみはナシで行くよ。」

「はいっ!よろしくお願いします!」

 ライムの意気込みを聞いて、スバルたちが答える。

「よし。それじゃ5分後に開始。それまでは作戦会議だよ。」

 なのはの呼びかけを受けて、全員がそれぞれの決起を見せた。

 

 時空管理局本局次元航行部隊のXV級艦船「クラウディア」。時空管理局提督、クロノ・ハラオウンが艦長を務めるこの船は、ABSのSOS信号を受けてランドルに向かった。

 クラウディアもランドルから発生していた異質の魔力を感知していた。クロノたちはそれらを警戒しながら、ハイネ隊の捜索や魔力の正体を探っていた。

(これまで数々の功績を挙げているハイネ隊がSOSとは、ただ事ではない。細心の注意を払わなければ。)

 警戒心を強めたクロノ。クラウディアは魔力反応の強いランドルの地上に着陸する。

 そのとき、クラウディア艦内に警報が響き渡る。クルーたちの緊張が一気に高まる。

「何があった!?

「侵入者です!信じられない・・この船のセキュリティに引っかからずに忍び込むなんて・・!?

 クロノの呼びかけにオペレーターが答える。

「艦長、ハイネ隊、ABSを発見しました!」

「何っ!?

 突如飛び込んできた報告を聞いたクロノが、モニターに映し出された光景に眼を向ける。それは異様とも思えるハイネたちの姿だった。

 彼らは白に近い灰色に染め上げられ、微動だにしないでいた。

「これは・・・!?

 その光景を目の当たりにして驚愕するクロノ。ハイネたちは石化しており、その場に留まっていたのだ。

 緊迫を募らせるクロノ。その背後に仮面の人物が現れ、クロノが振り返った。

 

 その頃、はやては時空管理局本局の緊急会議に参加していた。ライトニング分隊隊長、フェイト・T・ハラオウンも同席していた。

 会議の内容は、ここ最近発生している機械兵士「ファントム」についてだった。ファントムは赤、青、黄と色分けされており、それぞれ攻撃と防御、魔法と特殊効果、速さに特化している。

 そのファントムの動きが何を指し示しているのか。それへと追求の中で、ある組織の暗躍が浮かび上がっていた。

 「シャブロス」。メンバーが仮面を身につけているため、その素性をうかがうことはできない。彼らの行動が、再び時空管理局や世界を脅かしかねないと睨み、時空管理局は組織の追及を図ることとなった。

 その会議を終えて、帰路に着こうとしていたフェイトとはやて。フェイトが運転する車の中で、2人の憶測が交錯する。

「シャブロス・・全員が仮面を被っていること以外、明確な特徴がつかめていない・・」

「彼らはファントムを使って、何かやらかしてるんは確かや。ガジェットのように何かを探してるのか。それとも・・」

 渦巻く謎に対して深刻さを浮かべるフェイトとはやて。そのとき、フェイトは歩道で手を上げる2人の少女の姿を発見する。

 町井明日香(まちいあすか)。なのはやはやてたちと同じ地球出身の魔導師である。4年前に起きたカオスコア事件、パンドラ事件にてなのはたちと邂逅する中、事件解決に貢献。今ではジャンヌを師として魔法に磨きをかけ、現在は起動六課に出向。シャイニィ分隊副隊長、センターガードとして活躍している。

 ラックス。狼を祖体とした明日香の使い魔であり相棒。明日香の魔力消費を抑えるため、最近は少女の姿を取ることが多くなった。

 明日香とラックスの前で、フェイトは車を止めた。

「明日香とラックスやないの。あなたたちも帰り?」

「はい。ジャンヌさんはアンナさんに呼ばれて、少し遅れて戻るそうです。」

 声をかけるはやてに、明日香が説明を入れる。

 ジャンヌ・F・マリオンハイト。なのはたちの幼馴染みにして、起動六課シャイニィ分隊隊長。彼女は後見人となったアンナ・マリオンハイトと再会し、デバイスに関する談義を行っていた。

「丁度フェイトたちの姿が見えたんで、一緒に乗せてってもらえないかなぁって思って・・」

 ラックスが気さくな笑みを浮かべて言いかける。

「いいよ。2人とも後ろに乗って。」

 するとフェイトが微笑んで、その頼みを了承する。断られると思っていたため、ラックスは半ば唖然となる。

「おやおや。仲がよろしいですね、起動六課のみなさん。」

 そこへ突然声をかけられ、フェイトたちがそのほうへ眼を向ける。そこには仮面を被った1人の人物が立っていた。

「お初にお目にかかります、フェイト・テスタロッサ。いえ、今はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンとお呼びするのがよろしいでしょうか。」

 仮面の人物の言葉に、フェイトが表情を険しくする。

 テスタロッサはフェイトの旧姓である。彼女の母、プレシア・テスタロッサが自ら引き起こした事件の中で生死不明となってしまったため、クロノの母であり、現在は時空管理局本局の総務統括官を務めているリンディ・ハラオウンに養子となったのを機に現在の名前となった。

「紹介が遅れましたね。私の名はメトロ。フェイトさん、あなたのことはいろいろと噂を耳にしていますよ。いろいろとね。」

「メトロ・・魔法科学に精通している人物の中に、その名前が・・そのメトロだというの?」

「はい。私は数々の魔法科学に精通しています。たとえば・・」

 フェイトの言葉に答えながら、メトロが仮面を外す。

「あなたを生み出したクローン技術、プロジェクトFとか。」

 メトロが口にしたこの言葉に、フェイトと明日香が緊迫を覚える。

 「プロジェクトF」。生命操作、クローン技術のひとつで、身体能力だけでなく記憶までをコピーすることが可能。「レリック事件」の主犯、ジェイル・スカリエッティが立案、構築し、プレシアが実現させたが、元となった人物の完全再現までには至っていない。

 現在この技術によって誕生した人間で確認されているのが、プレシアの実子、アリシア・テスタロッサのクローンであるフェイト、モンディアル家の息子のクローンであるエリオ、トランザム家のクローン実験で生まれたロッキーである。

「これを立案したのが、レリック事件を引き起こしたジェイル・スカリエッティ。クローン技術だけでなく、戦闘機人技術にも精通している。」

 メトロがフェイトたちに向けて淡々と語りかける。

 「戦闘機人」。人体に機械が植えつけられている機械人間のことを指す。人体実験と同様、倫理的、技術的に問題視されているが、常人を超えた身体能力を発揮することができる。ジェイルが開発した「ナンバーズ」と呼ばれる12人、ナディア、スバルとその姉のギンガ・ナカジマがこれに該当する。

「罪状と生命への希薄さを除けば、これ以上ないほどの科学者とされています。ですが・・」

 話を続ける中、メトロが突然笑みを消す。

「私からすれば、あんな三流マッドサイエンティスト崩れなど、まだまだひよっこ。私の足元にも及びませんよ。」

「かなりの自信があるようですね。でも、そろそろ本題に入っていただけませんでしょうか?」

 そこへ明日香が口を挟んでくる。一瞬眉をひそめるメトロだが、すぐに落ち着きを取り戻して話を続ける。

「そうですね。あまり長話をしていてもよくありません。本題に行きましょうか。」

 メトロは言いかけて、フェイトに視線を戻す。

「私の目的はフェイト、あなたを倒し、あなたを超えることです。」

「フェイトさんを・・・!?

 メトロの言葉に明日香が眼を見開く。

「あなた方の多くは知っているはずでしょう。彼女がプロジェクトFで生まれた最初の命であることを。彼女の母、プレシア・テスタロッサは実子、アリシアの完全再現に至らなかったことを危惧していたようですが、ジェイルはあなたを傑作の部類に加えていたようです。現にプロジェクトに精通した人間の多くは、彼女の完成度を高く評価しています。」

「なぜ私にそこまで執着するのですか?ジェイルと同じく、プロジェクトFの遺産だからですか?」

「いいえ、その逆です。私はジェイルがあなたを高く評価していることを滑稽に感じています。」

 フェイトに言いかけるメトロの表情に狂気が浮かび上がってくる。

「ヤツは私の一歩前の位置に居座る・・技術も学力も全て私のほうが上なのに・・だから周囲の人間とともに分からせてやるのです・・本当の最高の科学者が誰であるかを・・・!」

 激情にさいなまれそうになるメトロ。だがすぐに気持ちを落ち着けて、話を続ける。

「戦闘機人の基礎理論を構築したのはこの私です。それを現在の完成度まで発展させたのがジェイルです。しかしその時点で満足しきっているヤツとは違い、私はさらなる高みを見出したのです・・そう。身体的に問題視されていた生身の人間から戦闘機人への改造手術を、私は実現させたのですよ。」

「戦闘機人への改造手術・・・そんな馬鹿げたことを・・・!」

 メトロの発言に明日香が困惑する。人造魔導師などに散見される人体の改造は倫理的に危惧されており、彼女もその点から憤りを感じていたのだ。

「フェイト、私が今あなたに会いに来たのは単なる挨拶です。あなた方と私たちの戦いにおいてね。」

「そんな回りくどいことする必要はないね!ここでとっ捕まえてやる!」

 笑みを浮かべるメトロに向かって、いきり立ったラックスが飛びかかる。だが彼女の突進は彼の体をすり抜けた。

「えっ!?

 この現象に踏みとどまったラックスが驚く。

「これは・・」

「ホログラム・・・」

 明日香とフェイトはこの現象に気付いていた。彼女たちの前にいるメトロは立体映像であり、それを裏付けるかのようにその姿がぶれていた。

「起動六課のみなさん、あなた方は私たちに勝てません。なぜなら、あなた方の行動は全て筒抜けなのですから。」

「どういうこと・・・!?

「間もなく私たちシャブロスの進撃が開始されます。既にハイネ・ヴェステンフルス、クロノ・ハラオウンは葬られましたよ。」

 メトロが口にしたこの言葉に、フェイトたちが驚愕を覚える。

「ではみなさん、またお会いしましょう。」

 そしてメトロがフェイトたちの前から姿を消した。彼のこの行為は、起動六課への、世界の全てに対する挑戦に他ならなかった。

 

 ランドルに静寂が戻っていた。ハイネ隊の捜索のために着陸していたクラウディアの艦内も静まり返っていた。

 クルーたちの全員が何者かによって石化していた。クロノも物言わぬ石像と化して、微動だにしなくなっていた。

 相次いでの有力な艦長に降りかかった異変。それは時空管理局に留まらず、世界をも震撼させていた。

 

 ABS、クラウディアのSOS信号は、特別捜査部隊「デルタ」にも届いていた。クラウン・アイシスを筆頭に、エリィ・スズキ、カレン・ホンダ、ルーシィ・マツダらオペレーター陣が、その詳細を分析していた。

「まさか、ハイネ艦長とクロノ艦長がこんなことに・・」

「それだけの力を持った相手よ。このまま放っておいたら、今度は何を仕掛けてくるか分かんないって。」

「ミッドチルダの周辺を十分に注意したほうがいいと思います。」

 エリィ、カレン、ルーシィが情報の収集と分析を行いながら言葉を交わす。

「コラコラ、あなたたち!ムダ話をしてる場合じゃないですよ!」

 そこへクラウンの檄が飛ぶ。エリィたちは作業に集中する。

「サブコマンダー・アレン、あと約3分で帰還します!」

 ルーシィの言葉を受けて、クラウンは真剣な面持ちで頷いた。事態は深刻な方向へと向かいつつあった。

 

 その頃、起動六課本部では、はやて、フェイト、明日香、ラックスが帰還してきた。そこへ丁度、スバルたちとのチーム戦を終えて戻ってきたなのはとライムがやってきた。

「あ、フェイトちゃん、はやてちゃん、今戻ってきたんだね。」

「ただいま、なのは、ライム。その様子だと、今チーム戦が終わったみたいだね。」

 なのはとフェイトが微笑んで声を掛け合う。そこへライムも気さくな笑みを浮かべて、話に加わる。

「僅差でこっちの勝ち。だけどみんな、どんどん強くなっていってるよ。個々の力だけじゃなく、チームワークも。」

「ライムの場合、ライバルが増えて喜んでるんじゃないかな。」

 フェイトの言葉にライムが苦笑いを浮かべる。だが先ほどの出来事を思い返して、フェイトが笑みを消す。

「なのは、ライム、少し真面目な話をしたいんだけど・・」

「何かあったの、フェイトちゃん?・・はやてちゃん・・・」

 フェイトに疑問を投げかけたなのはが、はやても深刻さを浮かべているのに気付く。これが本当に忌々しき事態であるものだと、なのはも悟った。

 そこへ1台の車がやってきた。ユウキがえりな、健一、リーザを連れて戻ってきたのだ。

「おっ。みんな、こんなとこで何してるんだ?」

 ユウキがなのはたちに向けて気さくな態度を見せてきた。だが彼女たちの様子を見て、彼は深刻な問題を取り上げていることを察する。

「立て込んでいるみたいだけど、ちょっとだけいいかい・・・?」

 ユウキの言葉を聞いて、なのはたちが振り向く。その後に話を続けてきたのはえりなだった。

「みなさんに会いたいと言ってきた子がいるんです・・」

 えりなは言いかけると、隣の少年、タケルに眼を向けた。

「できるだけみなさんを集めてもらえませんでしょうか?きちんとお話がしたいので・・」

 タケルの申し出に神妙な面持ちを浮かべるなのは。はやては彼の申し出を受け入れつつ、あることをシャリオに念話で伝えていた。

 

 漆黒に彩られた大広間。仮面の人物たちが待機するその場所へ、仮面を被ったメトロが姿を現した。

「あらあら、どこへお出かけになってたのかしら?」

 仮面の人物の1人、ミウラが妖しく微笑みかける。

「ただの挨拶ですよ。これからの進撃の前のね。」

「そう?ま、いろいろ話してたみたいだったけど、特に問題にすることもなさそうね。」

 メトロの答えを聞いても、ミウラは態度を変えなかった。そこへ別の人物、オロチが話を切り出してきた。

「オレたちは着実に、進撃の準備を進めつつある。ハイネとクロノは手中に落ちた。次の標的は・・」

 オロチは言いかけて、モニターに映し出された地図のある地点を指し示す。

「時空管理局、無限書庫だ。」

「無限書庫。時空管理局が管理するあらゆるデータが収められている、まさに管理局の情報源ですね。」

 オロチの言葉にメトロが笑みを浮かべて答える。

「そんな回りくどいやり口は性に合わねぇ。オレはオレで、勝手にやらせてもらうぜ。」

 そこへ仮面の男、オメガが不敵な笑みを浮かべてきた。それに仮面の男、ノアが答える。

「好きにするがいい。我々シャブロスはそれぞれが独立独歩の集まりだ。だがオメガ、何をするつもりだ?」

「オレは強いヤツと戦いたい。それ以外にはオレには関係ねぇ。」

「相変わらず戦い好きだな、お前は。」

 笑みを強めるオメガにノアも不敵な笑みを浮かべる。

「ところで、ガゼルはどうした?姿が見えないが?」

「彼ならやることがあるとか言って出て行ったわよ。」

 オロチの問いかけに、ミウラが淡々と答えた。

 

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system