魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな -stageZERO-

第3話「ライムの重圧」

 

 

全てはあの事故から始まった。

 

たくさんの悲劇の中で渦巻いた、たくさんの気持ち。

時にぶつかり合い、大きな溝を空けた。

様々な葛藤、苦悩、衝突の日々。

 

その答えは、自分を貫き通した先にある・・・

 

魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな、始まります。

 

 

 4年前に発生したロストロギアによって発生した空港火災。多くの悲劇を招き、事故を沈静化した時空管理局の問題点をも浮き彫りにした。

 その中で活躍を見せたなのは、フェイト、はやて。彼女たちは燃え盛る火災を鎮火し、スバルやギンガ、多くの人々を救った。

 だが、活躍を見せたのは彼女たちだけだけではなかった。

 

 炎の広がる空港内の通路。その真っ只中を進む1人の少女がいた。

 彼女は幼い日のナディア。彼女は両親との旅行の途中だったが、火災で起きた爆発で彼女は両親と離れ離れになってしまっていた。

 ナディアは両親を探し求めて、空港内をさまよっていた。悲しみや辛さに挫けそうになりながらも、彼女は諦めずに歩き続けた。

 だが彼女は疲れ果て、通路の真ん中で座り込んでしまった。薄まる空気に息が絶え絶えになり、立つ力さえなくなりかけていた。

「このまま、死んじゃうのかな、あたし・・・?」

 ナディアが呟きかけ、ついに諦めかけたときだった。

 燃え上がる炎をなぎ払い、ひとつの影が飛び込んできた。その姿はまるで天使のようだった。

「大丈夫かい!?すぐに僕が助け出すから!」

 その声を耳にして、ナディアは失いかけていた意識を取り戻す。眼の前で1人の魔導師の少女が微笑みかけてきていた。

「はい・・あたしは何とか・・でも、おじさんとおばさんが・・」

 ナディアは困惑気味に答えると、少女が周囲を見回す。彼女の手にしているデバイスの杖も、反応をつかもうと周囲の気配を探っていた。

The life reaction cannot be obtained within 1 km in surroundings.(周囲1キロ以内に生命反応はキャッチできません。)

「ありがとう、クリスレイサー・・とにかく、すぐにここから出るよ。僕にしっかり捕まって。」

 デバイスの報告を受けた少女がナディアに呼びかける。ナディアはその言葉に従って、少女の体にしっかりとしがみつく。

「よし。絶対に振り落とされないように・・いくよ、クリスレイサー!」

All right.”

 少女は呼びかけると、外に向かって飛翔する。同時に彼女の背中から白い翼が広がる。

 ナディアは少女から生えたその翼にしばらく魅了されていた。まるで少女が本物の天使であるかのようだった。

「こちらハイネ隊所属、小室ライム執務官。緊急警報を受けて、部隊長の許可の下、急行。現在、女の子を1人保護しました。」

“ぎ、銀の烈風の、小室執務官!?・・あなたもこちらにいらしていたのですか・・

 少女、ライムの報告を受けて、救助隊のオペレーターが驚きの声を返す。ライムの救援を予期していなかったための反応であろう。

「救助隊、または救助の総指揮の指揮官への誘導をお願いします!」

“了解しました!救援、感謝します!”

 ライムが語気を強めて呼びかけると、オペレーターも触発されて応答する。その誘導に従って、ライムは移動と降下を行う。

 その魔導師の姿をじっと見つめて、ナディアは密かに決意を募らせていた。この魔導師のような速い、すごい魔導師になりたいと。

 その後ナディアは救助隊に保護。両親も負傷しながらも無事であったことを知り、彼女は安堵の笑みをこぼした。

 

 それから4年後。ナディアは時空管理局の地上部隊に所属しており、機動六課への入隊を経た。自分の決意の発端であるライムが六課に所属していると思い、同じ部隊で活躍したいと考えたからだ。

 だが機動六課には、ナディアの探し求めていたライムの姿はなかった。

「なるほど。そんなことがあったんですか・・」

 ナディアから事情を聞いたエリオが困惑を浮かべる。この会話にはスバル、ティアナ、キャロ、ロッキーも参加していた。

「だけど裏を返せば感動のない話に思えてくるわね。部隊の編成とか局員の所属とか、そういうのは事前に調べられることでしょうが。」

「すみません・・あたし、こういう常識というものが疎くて・・局員として馴染むまで、他の人と比べてかなり時間がかかっちゃいましたよ・・」

 呆れるティアナにナディアが苦笑いを浮かべる。2人とも笑い事やシャレで済まされない話であることを理解していた。

「でも、あたしは信じているんです。いつかライムさんが、この機動六課にやってくるって。」

「ですけどこれは少し難しいんじゃないでしょうか・・直接会いにいったほうが・・」

「難しいことねぇよ!ナディアちゃんが言うんだから間違いねぇ!」

 ナディアの考えに不安を口にするキャロに、ロッキーが反発する。

「信じるのもいいけど、あんまりそれに引っ張られすぎてわがままにならないでよね。向こうの都合だってあるんだから。」

「ティア・・」

 言いとがめてくるティアナに、スバルが戸惑いを見せる。ティアナが席を立ってこの場を離れると、スバルも慌てて追いかけていく。

「ティア、ちょっと待ってって・・」

「外の空気を吸いに行くだけよ。だからアンタはついてこなくていいの。」

 呼び止めるスバルに対して突っ張った態度を見せるティアナ。するとスバルは沈痛の面持ちを浮かべて言いかける。

「もしかして、お兄さんのことで・・」

 スバルが口にしたこの言葉を耳にして、ティアナは足を止める。ティアナの心に困惑が広がっていく。

 ティアナの兄、ティーダ・ランスターは、執務官志望のエリート空士だった。だが今から6年前、ティーダは任務中に交戦し殉職している。彼の死に悲しみが渦巻く中、上層部の1人が任務を遂行できなかった彼を冷徹に非難した。

 だがこれに反発した1人の局員がいた。その人物が、当時執務官になり立てのライムだった。

 ライムは感情的であり、不条理と感じたものにはなりふり構わずに反発することが多々ある。それは執務官になっても変わってはいない。

 上層部との会議の場に居合わせたライムは、その1人の冷徹な言動に憤怒。突っかかってケンカになるところを、同行していた局員たちに取り押さえられ、暴力沙汰にはならなかった。

 大きな問題にはならなかったため、ライムは謹慎以外の処罰を受けることはなかった。これらの件を「銀の反乱」と呼ばれた。

「その話、あたしも少しだけど聞いたことあるよ。みんなは悪く見てるみたいだけど、あたしはすごいなって思うよ。」

「身の程知らずとか、けっこう批判を受けたけどね・・でもあの人、あたしに優しくしてくれた・・・」

 自分の気持ちを口にするスバルに、ティアナは微笑みを見せた。ティアナはライムと、思い入れのある交流があった。

 

 特務艦「ABS」。そこに乗艦していたライムは、現在ハイネ隊の現場指揮を筆頭とした任務をこなしていた。

 だが指揮して部隊をまとめるよりも自分から出て行って任務をこなしてしまうことから、「切り込み隊長」と呼ばれることがある。だが彼女のその行動が、部隊の隊員に不満を植えつける要因となっていた。自分たちを無視して勝手に飛び出していっているなどと。

 その意見はライムの耳にも入っていた。彼女はその意見と、自分の中にある想いとの葛藤に苦しむことになる。

 それは4年前にさかのぼる。様々な波紋を呼んだ空港火災。それは時空管理局の局員たちを新たな奮起を呼び起こし、はやてが新たな部隊の設立を思い立つ発端ともなった。

 だがその中で、この事故で人々を救えなかったことを深く悔やむ人もいた。ライムもその1人だった。

 後悔を感じていたライムは、聞き覚えのある声を耳にして足を止める。そこは休憩室の前だった。

 部屋にいたのははやて、なのは、フェイトだった。彼女たちは新たな夢や決意を語り合っていた。

 だが今のライムは、事故での後悔の念が強かった。2度とこんなことを起こしてはいけない。そのために強くならなくてはならない。自分が立ち上がらなければならない。彼女の心身に、重い重圧がのしかかっていた。

 3人の輪に加わる気になれず、ライムは部屋の前を去ろうとする。そのとき、部屋のドアが開いて、はやてが顔を見せてきた。

「ライムちゃん・・やっぱライムちゃんやったんやね・・」

「はやてちゃん・・僕は・・・」

 微笑みかけるはやてに、ライムは困惑の色を隠せないでいた。

「丁度よかった。ライムちゃんにも話しておかなあかんと思うてな。実はな・・」

「悪いけど、僕にはやらなくちゃなんないことがあるから・・」

 なのはとフェイトにしていた話をしようとしたはやての言葉を、ライムがさえぎる。

「今回の事故、いろいろなことが浮き彫りになった。管理局の対応が遅いとか、体勢をしっかりしろとか・・それは、僕にも当てはまることなんだ・・」

「そんなことないって・・ライムちゃんも駆けつけてきたやないか。あの時点でかなりの距離があったABSから短時間で駆けつけてきたんやから、すごいことやて。」

「それでも僕は、みんなを助けられなかったと思うと、辛くなってくるんだ・・・!」

 励ましの言葉をかけるはやてだが、ライムは自分を責め続けようとする。

「僕にもっと力があれば・・僕が弱かったせいで、みんなが悲しい思いをしてるんだ・・!」

「そんなことない!ライムちゃんは何も悪くない!」

 そんなライムを、はやてが後ろから抱きしめて悲痛の言葉を上げる。突然の抱擁にライムが一瞬戸惑いを見せる。

「ライムちゃんは遠いとこにいたはずなのに、すぐに駆けつけてくれた!そんなあなたを、誰も責めてへんって!」

「たとえみんなが許してくれたとしても、僕は自分を許せないんだ・・・」

 はやての励ましを頑なに受け入れようとしないライム。ライムははやてたちに背を向けたまま歩き出す。

「ライム・・・」

 悲しみに満ちたライムの背中を見つめて、フェイトも困惑を隠せないでいた。

 

 それからライムの苦悩の日々が始まった。

 誰も傷ついてほしくないという強い意思から、ライムは率先して任務を請け負うことが多くなった。だがそれは、仲間たちの信頼を揺さぶることにつながっていた。

 自分は何のために頑張ればいいのか。その答えが分からなくなり、勝負や任務に身が入らなくなっていた。

 そして時空管理局本局に帰還しようとしていたABSの艦内の個室で、ライムは眠っていた。彼女は心身ともに疲れ果て、回復の日差しも見えてこない状態にあった。

 その個室にて束の間の休息を取っていたライムだったが、突如個室のドアが開いた。

 

 ABSの帰還に局員だけでなく民間人も祝福の声を上げていた。特務隊であるハイネ隊が手がけた数々の功績の賜物だった。

 だが、その中であまりに異様な光景に見えて、周囲の人々は唖然となった。ライムが縄でぐるぐる巻きにされて、ハイネに引きずられていた。

「ちょっと!これはどういうことなんだよ、ハイネ!?こんなの罰ゲームじゃないか!」

「お前がいつまでも割り切れないでいるから悪いんだよ。オレだってホントはこんなマネしたくないって。」

 反論の声を上げるライムに、ハイネが憮然とした態度で答える。

「どこへ連れて行く気だよ!?・・って、まさか!?

「そのまさかだよ。お前のことは、オレたちよりもアイツらのほうがうまく解決してくれそうだからな。」

「今はダメだ!こんな弱い僕を、みんなに見せるわけには・・!」

「そのお前を弱くしてるのは、お前自身なんだよ。」

 ハイネに言いとがめられて、ライムは言葉を失う。

「お前は余計なことを考えすぎてんだよ。そんなんでまともに動けるはずもないだろ。それにお前は頭使うよりも体使ったほうが効率いいんだよ。」

 ハイネに諭されて、ライムは戸惑いを覚える。

「せっかくの機会だ。アイツらと面と向かって、抱えてるもんを全部吐き出しちまえ。そうすればすっきりするだろ。」

 ライムに気さくな笑みを見せるハイネ。彼は周囲の視線を気に留めず、目的の場所へと向かっていった。

 

「えっ!?ライムちゃん!?

 ハイネに連れられたライムの姿を目の当たりにして、なのはが驚く。

「よう。悪いな、こんな格好で来ちまって。」

「いえ・・でも、これはどういうことかと思っちゃって・・」

 気さくな笑みを見せるハイネに、なのはは苦笑いを浮かべる。ライムは気恥ずかしさを紛らわせようと、ただただ苦笑するばかりだった。

「えっ!?これはいったい・・!?

 そこへスバルたちが現れ、ライムの姿に唖然となる。ハイネはそこでようやく縄をほどき、ライムを自由にする。

 その中でティアナは、ライムと対面して戸惑いを覚えていた。ティアナはライムに対して恩義を感じていたのだ。

「小室、執務官・・」

「アハハハ・・何か、かっこ悪いところを見せちゃったね・・」

 ティアナが声をもらすと、ライムが苦笑いを浮かべて立ち上がる。だがすぐにライムの顔から笑みが消える。

「なのは、悪いけど僕はまだ、この機動六課で仕事をするわけにはいかない。今の僕じゃ、君たちの足を引っ張ることになるからね。」

「ライム、お前なぁ・・」

 なのはに向けて言いかけたライムに、ハイネがため息をつく。

「ライムちゃんの任務の映像、いくつか見させてもらってるよ・・ライムちゃん、ずっとムチャしてるみたいで・・」

「・・そんな僕が許せないとでも言うのかい?・・なのはちゃんも分かってるはずだよ。僕はそういう性分だってね。」

「それでも、いつものライムちゃんよりも・・・」

「そうやって、詭弁を押し付けるのはやめてよ。」

 ライムが口にしたこの言葉になのはが困惑する。

「僕たちがしている仕事は、常に危険と隣り合わせだ。だから誰も傷ついてほしくないと思ったら、自分がその傷を受けるしかないんだよ。」

「だからって、ライムちゃんがムチャして、傷ついていくことは、私には悲しいことだよ・・」

「君だって同じことを考えてるじゃないか!ムチャをして傷ついて、みんなに迷惑をかけたと責任を感じてることを僕は知ってる!体も心も傷だらけになっていた君を見て、僕は思ったんだ・・もう2度と、なのはちゃんをあんなふうに傷つけちゃいけないって・・」

「それは私がいけなかったことだよ!私がムチャばかりしたから・・だから・・・!」

 口論を繰り返すうち、先になのはが言葉を詰まらせる。だがライムもうまく言葉を切り出すことができないでいた。

 スバルたちも困惑してしまい、声をかけることができないでいた。しばらく沈黙が続いてから、ライムがなのはに背を向けた。

「とにかく、僕は機動六課のメンバーにはなれない・・僕はまだ、答えを見つけていないから・・」

「待ってください!」

 この場を去ろうとしたライムを呼び止めたのはナディアだった。その少女の姿を覚えていたライムは、一瞬当惑を覚えた。

「あたし、時空管理局で働いています、ナディア・ワタナベです!あたし、あなたみたいな魔導師になりたくて、管理局に入って、今を頑張っています!」

「君・・・君も管理局に入ったのか・・・」

「あたし、まだ空も飛べず、まだまだあなたには全然敵いません。それでもあなたみたいになりたくて・・あなたと同じ部隊に入りたくて・・・」

 戸惑いを見せるライムに、ナディアが切実に言いかける。彼女はライムのようになりたくて、時空管理局、そして機動六課の入隊を志願したのである。

「お願いです、ライムさん!機動六課に来てください!ここはなのはさんやフェイトさん、ライムさんの友達がいます!だから・・!」

「・・君の気持ちは分かる・・でも、これは僕自身の問題なんだ・・それに・・」

 ナディアの思いを聞きながらも、頑なにそれを拒むライム。

「今の僕は、君が思っているように強くはない・・こんな僕を追いかけるよりも、他の人を目標にしたほうがいいよ。たとえば、そこのエースさんとか・・」

 ライムはなのはに眼を向けてから、本部を後にした。なのはたちはそんなライムを追いかけることができなかった。

 気落ちしているライムに対し、ナディアとティアナは強い困惑を抱えていた。

「いきなりだったのも悪かったけど、これで何とか話はできたわけだ・・後は、アイツ次第だな。」

「そうですね・・・」

 ハイネが言いかけた言葉に、なのはは深刻な面持ちのまま頷いた。

 

 第97管理外世界に指定されている地球。その中に位置する日本、海鳴市にライムは訪れていた。

 目的は久方ぶりの母と妹の面会だった。だが実際のところ、彼女は目的を見失っている状態といっても過言ではなかった。

 母、小室アイミが経営している海岸沿いの店。舗装されていたものの、ほとんど変わっていなかった。ライムが時空管理局の魔導師として本格的に働き始めた4年前と。

「いらっしゃいませ・・あら?ライム?」

「えっ!?ライム!?

 挨拶をしてきたところで戸惑いを見せるアイミ。その声を聞いて、1人の少女が歓喜の声を上げて駆け込んできた。

 小室ひばり。ライムの魔力から生まれた「使い魔」に属する存在で、鳥を祖体として生まれている。血のつながった姉妹というわけではないが、その絆はそれに勝るとも劣らない。

 現在、ひばりはアイミの経営する店の手伝いをしている。姿も年齢の増加に合わせて変えており、今は笑顔の似合うウェイトレスとして常連の注目の的となっていた。

「ライム、仕事の帰り?久しぶりに会えて、ひばり、とってもうれしいよー。」

「僕も、母さんやひばりに会えて嬉しいよ・・」

 笑顔で迎えてくるひばりに、ライムが微笑んで答える。だが心の中は悩みや悲しみなどで満ちていることをひばりは気付いていた。

 使い魔は主からの思考が流れてくる。ライムが抱えている重圧が、ひばりにも伝わってきていたのだ。

「ライム、せっかく戻ってきたんだから、何か作ってあげるね。」

「ううん、いいよ。仕事の合間に来ただけだから・・ちょっと気晴らしをしたらまた戻るよ。」

 アイミが言いかけると、ライムが苦笑いを浮かべて答える。

「ひばり、久しぶりに海が見たいな。一緒に行かないか?」

「ライム・・うんっ♪」

 ライムが呼びかけると、ひばりは笑顔で頷いた。

 

 2人が訪れたのは店の近くの浜辺だった。親子たちで賑わいを見せているこの場所は、ライムとひばりの思い出の場所だった。

「懐かしいな・・10年前、母さんとよくここで遊んだんだ・・ひばりとも・・」

「そして、全ての始まりでもあったよね・・」

 この浜辺での思い出を語り合うライムとひばり。

 ここは魔導師としてのライムの原点だった。なのはとの邂逅。フェイトとの対立。シグナムとの激闘。その全ての始まりがこの浜辺なのである。

「ライム、お母さんやみんなの前では笑顔でいたけど、ホントは辛いことを抱えてるみたいだね・・・」

「ひばりには何でもお見通しか・・多分、お母さんも分かってると思うんだよな・・」

 深刻な面持ちで言いかけるひばりに、ライムが苦笑いを浮かべる。

「ライム、詳しいことまでは分かんないけど、いろいろ思い悩まないほうがいいと思うよ・・だって、ライムは自分に正直でいるほうが元気なんだもん・・」

「自分に正直・・・」

「うん。フェイトお姉ちゃんとぶつかったときも、なのはお姉ちゃんやはやてお姉ちゃんのために戦ったときも、自分の気持ちに素直になってたよ・・だからライム、これからも素直なライムでいて・・」

 切実に語りかけるひばりに、ライムは戸惑いを覚える。自分のしてきたことを思い返し、彼女は自分の手のひらをじっと見つめた。

「そうだ・・僕はいつだって、自分に正直でいた。どんなときだって、みんなのためを思って動いてきた・・たとえ受け入れてもらえなくても、僕はみんなを守ろうと頑張ってきた・・」

「それが、いつものライムだよね・・それで、ライムがホントの気持ちは?・・分かってることなんだけど、ライムの口から聞きたい・・・」

 ひばりに問いかけられて、ライムが戸惑いを見せる。自分の正直な気持ちを、彼女は改めて確かめていた。

 そんな彼女に向けて通信が入ってきた。彼女の眼の前に現れたビジョンには、スバルの姿が映っていた。

「君は・・・」

“ライム執務官、戻ってきてください!なのはさんたちと、みなさんと一緒に頑張りましょう!”

 当惑を見せるライムに、スバルが切実に呼びかけてくる。

“あなたのことは、お父さんやギンねぇから聞いています!真っ直ぐに空を駆け抜けていく魔導師がいるって!あたし、ティアやナディアが尊敬している人だってことを知っています!あなたがホントに真っ直ぐな人だって・・!”

“ちょっとスバル、余計なことは言わなくていいのよ!”

 必死に呼びかけてくるスバルを、ティアナが気恥ずかしさをあらわにしながらどかそうとする。だがナディアが続いてライムに向けて呼びかけてくる。

“ライムさん、あたし、ライムさんと一緒に仕事をしたいと、ずっと思っていたんです!お願いです!たくさんの仲間のいる、この機動六課に!”

 涙ながらに訴えてくるナディアに、ライムの心は大きく揺さぶられていた。彼女は自分の本当の居場所に気付くことができた。

「もう。けっこうわがままじゃないか、最近のルーキーたちは。」

 笑みを見せたライムがわざと皮肉を言ってみせる。だがひばりには分かっていた。ライムの心に迷いはなくなったと。

「ひばり、悪いけどもう戻るよ。母さんにもよろしく。」

「うん、分かったよ。でも今度ここに来るときは、ゆっくりしていってね。」

 呼びかけてくるライムを、ひばりは笑顔で見送った。

 

 ライムとの通信を終えた直後、機動六課本部に警報が鳴り響いた。

「クラナガンCD地区のデパートにて立てこもり事件発生!犯人は例の機械兵集団です!」

「人質は約30人!ともに6階にいます!」

 オペレーターのアルト・クラエッタとルキノ・リリエが現状を報告する。

「犯人からの要求は?」

 この司令室にグリフィス・ロウランがはやてとともに駆けつける。グリフィスはかつての本局提督、レティ・ロウランの息子であり、六課でははやての補佐に回っている。

「今のところ何も・・罠という可能性も・・」

 アルトの答えを聞いて、グリフィスが考え込む。眼前のモニターが切り替わり、現場に向かうフォワード陣を映し出す。

 空からはなのは、フェイト、ヴィータ、シグナム、地上からはスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ナディア、ロッキーが現場に向かい、ジャンヌ、明日香は彼女たちの後方支援に回ることとなった。

「犯人グループは6階に人質を集め、各階に分散して防衛線を張ってる。壁を突き破ったら人質に危害を加えてしまう。」

“うん。だから突入といっても、忍び込む形を取るわけだね。”

 はやての言葉になのはが答える。

“それじゃあたしらは上から、ティアナたちは下から行って挟み撃ちにする。そうすりゃ慎重かつ迅速に片付けられる。”

 ヴィータが続けて言いかけ、なのはたちもそれに同意する。

「それじゃ、みんな慎重にな。ジャンヌちゃんも明日香ちゃんも、バックアップお願い。」

“了解。みんなも十分気をつけてね。”

 はやての指示にジャンヌも答える。人質救出と兵士たちの鎮圧のため、機動六課が行動を開始した。

 

 同じ頃、クラナガンでの事件の発生をライムも耳にしていた。

「ハイネ、僕にも出動の許可を!」

“ライム、お前、もう大丈夫なのか?”

「心配をかけた・・でももう、僕は迷わない!」

“・・いいぜ。行ってきな。ハッチを開けろ。切り込み隊長の出撃だ。”

「ハイネ・・・」

 ハイネの言葉を聞いて、ライムが笑みをこぼす。彼女は常用しているAI搭載バイク「ゲイルチェイサー」に乗り、ハッチの開かれた虚空を見据える。

「行くよ、ゲイルチェイサー!一気に突っ走るよ!」

OK, Boss.”

 ライムの呼びかけにゲイルチェイサーが答える。車輪が激しく回転し、彼女を乗せたマシンが超高速で飛び出していった。

 サイレンを鳴らしながら現場に向かっていくゲイルチェイサー。ライムは左手に握り締めていた待機状態のデバイス「クリスレイサー・ソリッド」に意識を傾ける。

「いくよ、クリスレイサー!」

stand by ready.set up.”

 ライムの呼びかけにクリスレイサーが答える。銀の宝玉が杖へと変わり、同時に彼女の体を純白の衣服が包み込む。魔導師の防護服「バリアジャケット」である。

「ゲイルチェイサー、お前は地上にいる局員を助けろ。僕は空から突入する。」

Consent.”

 ライムの呼びかけにゲイルチェイサーが答える。ライムが飛翔して空を駆け抜け、ゲイルチェイサーが自走を行う。彼女の背中から生えている白い翼は、彼女の飛ぶイメージが具現化しているだけであり、飛行自体に大きな意味を持っていない。

 人々を守るため、ライムは現場へと向かった。

 

 立てこもりが行われているデパートに侵入した機動六課のフォワード陣。だが機械兵士たちに侵入を察知されており、彼らは戦闘を余儀なくされた。

「あたしはいつでも全力疾走!」

 ナディアが機械兵士に向かって飛びかかる。彼女の足にはブーツ型アームドデバイス「シティランナー」が身に付けられていた。

 シティランナーは足の裏とかかと部分にジェットブースターが取り付けられており、その加速によって速い移動や攻撃を可能としている。

「一蹴突破!シャトルストライカー!」

 シティランナーによる加速と足に込められた自身の魔力を併用した蹴りを繰り出すナディア。その攻撃を受けて、兵士たちが次々となぎ払われる。

「オレを止められるのは、オレだけだ!」

 ロッキーも負けじと兵士に果敢に向かっていく。

「くらえ!スラッシュセイバー!」

 飛びかかったロッキーが、ブレスセイバーから発している光刃を振りかざす。その一閃を受けて、兵士たちが突き飛ばされる。

“みんな、大丈夫!?”

(はい。ですが兵士の数が多くて、なかなか奥に進めません。)

 そこへなのはの念話が飛び込み、ティアナが答える。

“いちいち相手する必要はねぇぞ。進めるようなら迷わずに突っ走れ!”

(ヴィータ副隊長・・分かりました。)

 続けて呼びかけてきたヴィータの言葉にティアナが頷く。

「活路を開くわよ!こんなところでグズグズしてられないわ!」

「了解!」

 ティアナの指示にスバルたちが答える。エリオ、ナディアが兵士たちを退け、スバル、ロッキーが活路を開こうとするが、兵士たちは次々と行く手をさえぎる。

「これじゃ数が多すぎる・・!」

 障害の多さに毒づくスバル。兵士たちが防御から攻撃に転じ、彼女たちに迫る。

 そのとき、一条の疾風がスバルの横をすり抜け、兵士たちに向かって飛んできた。その直後、兵士たちの機体が断裂され、爆発を引き起こす。

 その光景にスバルたちが唖然となる。爆発によって発せられ消えていく炎の中に、きらめく翼が広がっていた。

「やっぱり、僕がこっちに回って正解だったみたいだね。」

 スバルたちに向けて気さくな声がかかってきた。ブレイドモードのクリスレイサーを手にして、ライムが振り返ってきた。

「ライムさん!」

 ナディアがライムの姿を見て歓喜の声を上げる。

「みんな、僕がこの兵士を何とかする!その間にみんなを外に連れ出すんだ!」

「ライム執務官・・分かりました!」

 ライムの呼びかけにティアナが答える。立ちはだかる兵士たちを見据えて、ライムがクリスレイサーを構える。

「それじゃ、突っ走っていくよ!邪魔するなら痛い目見るぞ!」

Lightning slash.”

 ライムが振りかざした光刃が放たれ、兵士たちをなぎ払っていく。ライムが続けざまに飛び出し、兵士たちに攻撃を仕掛けていく。

 この特攻に続いて、スバルたちも前進していった。

 

 ライムの救援により、なのはたちは人質を無事救出することができた。スバルたちはライムの速さの凄まじさを認識することとなった。

 だが機械兵士が何のためにこのような立てこもりを行ったのか。事件の謎は深まるばかりだった。

「まさかライムが駆けつけてくるなんて、驚いたよ。」

 フェイトが微笑みかけると、ライムが照れ笑いを浮かべる。

「君たちやみんなのために、僕のできることをやった。それだけだよ。」

「けどあたしらよりもアイツらの援護に回るとはな。おめぇも空なんだぞ、ライム。」

「君たちなら、僕の助けがなくても平気だと思ったんでね。」

 ヴィータが言いかけると、ライムも落ち着いた面持ちで答える。

「そういえばアイツらはどうしたんだ?」

「スバルたち?現場の処理を行っているよ。」

 ライムの問いかけになのはが答える。

「分かった。ちょっと顔を見せてくるよ。いろいろ落ち着いて顔見せできなかったからさ。」

 ライムはなのはたちに言いかけると、スバルたちのところに向かっていった。

 

 現場での処理を回収班に任せ、スバルたちはデパートの前で体を休めていた。ライムの救援に対して、ナディアは喜びを隠せないでいた。

「アハハ♪やっぱりライムさんが来てくれましたよー♪」

 上機嫌のナディアに、スバル、エリオ、キャロが苦笑いを浮かべ、ティアナが呆れた素振りを見せていた。

「お前たち、後は他に任せて戻っても構わないぞ。今回は数が多かったからな。」

 スバルたちのそばにいたシグナムが彼女たちに呼びかける。

「お気遣いありがとうございます、シグナム副隊長。でも僕たちはまだ大丈夫ですよ。」

 エリオが弁解をすると、シグナムが微笑みかける。そんな彼女たちのところにライムが現れた。

「あっ!ライムさん!」

 ナディアがライムの前に駆け込み、スバルたちも続いて歩み寄る。

「ライムさん、先ほどはありがとうございました!あたし、信じてました!ライムさんは必ずやってくるって・・」

「エヘへ。僕なんかをここまで期待してくれるとはな・・」

 笑顔で言いかけるナディアに、ライムが気さくな笑みをこぼす。だがシグナムに眼を向けた途端、ライムの顔から笑みが消える。

「久しぶりだな、小室ライム。直接は眼にしていないが、お前も腕を上げていたようだな。」

 歩み寄ってくるライムに向けて、シグナムが声をかける。だがライムは突然シグナムに殴りかかった。

 殴られたシグナムが数歩下がって一瞬よろめく。突然のことにスバルたちが驚きを隠せなくなる。

「ライム、お前・・・!?

 殴られた頬に手の甲を当てて、シグナムが声を上げる。ライムは彼女に対して憤りを見せていた。

「どうしてなんだよ・・・どうしてティアナを殴ったんだよ!?

 ライムが言い放ったこの言葉に、シグナムだけでなく、ティアナも驚愕を覚えて眼を見開いた。

 

 

次回予告

 

生まれて深まる溝。

正しいと思ってしたことが、間違いを引き起こしていく。

その間違いを正しくすること。

分かり合うこと。

それは、互いの思いをぶつけ合うこと・・・

 

次回・「スバルとエリオ」

 

もっと強く、もっと速く・・・

 

 

作品集

 

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