魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな -stageZERO-

第2話「ロッキーの孤独」

 

 

今まで過ごしてきた中で植えつけられた不信感。

1度芽生えてしまった気持ちは、そう簡単に変えられるものじゃない。

 

そんな中で、何が大切なものなのか。

友情、正義、夢、敬意、愛。

 

様々な思いが、それぞれの過去と一緒に結びついていく・・・

 

魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな、始まります。

 

 

 坂崎(さかざき)えりな。

 時空管理局空戦魔導師として活躍する彼女は、数々の事件の解決や事故の沈静化に貢献している。

 遠距離から近距離まで、砲撃から対人戦闘まで行動範囲が幅広く、どんな逆境も跳ね除けてしまう。その活躍ぶりからなのはと同様に、「エース・オブ・エース」と称えられている。

 そんな大活躍を続けている中、えりなは今後の進路について考えを巡らせていた。迷いを抱いている中、彼女はある人物と面識を持つことになる。

 シャーク・ジョーンズ。時空管理局に所属する教官で、教導官を含む数多くの教官職に精通している。なのはとも面識があり、意見交換を果たしたこともある。

 現在シャークは現場での任務よりも行進の育成に尽力を注いでいる。体力の衰えを感じているからと本人は語っており、体力的な教育や講習は彼の使い魔であるピノに任せることが多くなっている。

 ピノは猫を祖体とした使い魔で、格闘術に長けている。さらに彼女の変身能力は今現在確認されている中で最も精密なものとなっている。大抵の変身は何らかの表面的差異が見られるものだが、彼女のものは対象の人物への精神リンクを果たすことにより、声や姿だけでなく、性格や魔法までも一切の差異なくコピーすることができるのだ。

 現在、えりなは通常の任務をこなしつつ、教官に関する勉学をシャークたちから学んでいた。

 彼女の勉学には、また1人魔導師が付き添っていた。

 辻健一(つじけんいち)。時空管理局魔導師で、えりなの幼馴染みである。

 えりなを守りたいという一心で、時空管理局所属の魔導師を志した健一。実力は彼女に及んでいないものの、負けん気の強さと気迫で事件解決に貢献している。現在も彼女とのコンビは健在である。

 肉体的な勉学はついていけていたが、難しい用語に直面すると、えりなも健一が頭を悩まされていた。その2人の様子を見て、シャークとピノは笑みをこぼしていた。

「そこまで気難しく考える必要はないよ、2人とも。単語は難しいが、内容は肉体労働のように体に、頭の中に覚えさせればいいのだから。」

「それはそうなんですが・・やっぱり難しく思えてきちゃって・・」

 シャークの弁解に対して、えりなは苦笑いを浮かべる。

「ところで、ちょっと気になってたことなんスけど・・」

「ん?どうしたのかね?」

 そこへ健一が質問を投げかけ、シャークが悠然さを浮かべたまま答える。

「教導官って、教官とどう違うんスか?区別されてるってことは、どこか違うってことなんスよね?」

「共通している部分があるとしたら・・部隊別の短期集中訓練。それが教官に最も近いといえるでしょうね。」

 健一の質問に答えたのはピノだった。

「教導官の主な仕事はその短期訓練の他に、魔導師用の新型兵器のテストプレイや魔法技術の開発や研究、戦闘シュミレーションの考案があるのよ。自分の可能性が広がることもあるし、仕事と自分の昇華を両立させることもできるから、実力者に重宝される役職といっても過言ではないわね。」

「なるほど・・いろいろ手を焼きそうな役職ッスね・・」

 ピノの説明を聞いて、健一が苦笑いを浮かべる。この説明でも疑問の全てが解消されたわけではなかった。

「まぁ、そんなに急ぎ足になることはない。君たちはまだまだこれからだ。長く続く未来の中で、自分の将来を確定させていけばいいのだから。」

 シャークの励ましの言葉を聞いて、えりなと健一が微笑んで頷いた。

「そろそろ教習の時間だ・・そうだ。えりなくん、健一くん、君たちも見学に来ないか?」

「えっ?いいんですか?」

 シャークが申し出た案に、えりなが当惑を見せる。

「単語や知識を入れるだけでは本当に学んだとは言い切れないからね。実際に眼で見て、体で実感させるのが最もだと私は思うのだがね。」

「ありがとうございます、シャークさん!よろしくお願いします!」

 微笑んで言いかけるシャークに、えりなは感謝の意を示して頭を下げた。

 

 シャークとピノに連れられて、えりなと健一は訓練場に赴いた。訓練場には航空部隊の局員が準備体操をしていたり、シュミレーションやフォーメーションの打ち合わせをしていた。

「ん?」

 局員たちに声をかけようとしたとき、シャークがあるものを眼にして眉をひそめた。彼が見つめる先にえりな、健一、ピノも眼を向ける。

 そこでは何やら騒動が起きていた。1人の少年が数人の局員に対して突っかかって喧嘩になっていた。

「おやまぁ。これは感心しかねますね。」

 ピノが肩を落として、呆れた素振りを見せる。シャークはこの事態を見かねて、少年と局員たちに歩み寄る。

「何をやっている!?いったい何の騒ぎだ!?

 シャークの声がかかり、局員たちを突き倒していた少年が手を止める。

「ジ、ジョーンズ教官・・その子供がいきなり・・・!」

 負傷している局員の1人がシャークに事情を説明する。少年は憮然とした態度を取って、シャークに眼を向けていた。

「なぜこのような暴挙に出たのだ?場合によっては厳しい罰を与えなくてはならないぞ。」

 シャークが平穏さを保ったまま、少年に声をかける。だがその心のうちは激情が揺らいでいることをピノは察していた。

「時空管理局なんて信じられるか・・大切なことを忘れているのに、いつまでも英雄気取り・・我慢がならねぇんだよ・・!」

「貴様、我々が危険の中、どれほど人々の救出を行ってきているか、分かってるのか!?

 少年の言い分に局員の1人が反論する。その言葉に少年が逆に憤怒し、その局員に殴りかかる。

「分かってねぇのはお前らのほうだろうが!助けずに見殺しにした人がいるのに、みんな助けてるみたいなこと言ってんじゃねぇよ!」

「お、お前!」

「よさないか、君たち!管理局の魔導師が、軽々しく手を上げてどうする!」

 いきり立つ少年と局員たちを、シャークが呼びかけてなだめる。だが少年の怒りは治まらない。

「オレはお前ら管理局はもう信じない!オレは身勝手なお前らに頼らずに強くなって、お前らの代わりにみんなを守っていくんだ!」

 少年が言い放ったこの言葉に、えりなは胸を締め付けられるような不快感を覚えた。何かに突き動かされるかのように、彼女は少年の前に立つ。

「それ、本気で言ってるの・・本気でそう思ってるの・・・!?

「な、何だってんだよ・・・!?

 いきなりえりなに口を挟まれて、少年が一瞬動揺を見せる。

「そうだよ・・オレは1人でやっていく!甘えたら後悔することになる!だから何も頼らず、オレだけでやっていくんだよ!」

「・・・そういうのって、すごく悲しくないかな・・・」

 少年の言い分に対し、えりなが言いかける。その声は普段の天真爛漫さが微塵も感じられないほどの鋭さが込められていた。

「自分1人だけって、すごく辛いことなんだよ。優しくされることも励ましてもらうこともない。そんな状態で1度辛くなったら、どんどん辛くなる一方になっちゃう・・それを望むなんて、絶対に考えちゃダメだよ・・・」

「知った風な口を叩くな!お前だって管理局の局員じゃねぇかよ!お前らなんかには負けねぇ!オレだけでも十分やれるんだよ!」

 えりなの言葉にあくまで反発しようとする少年。するとえりなは少年に向けて、ゆっくりと右手を掲げる。

「なら、どんな相手でも負けない、ということでいいんだね・・・?」

 えりなが低く告げた瞬間、少年は光の輪、バインドに体を縛られる。そして彼の周囲を無数の光の弾が取り囲んでいた。

「なっ・・・!?

 突然のことに少年が驚愕を覚える。えりなは冷淡な面持ちのまま、再び少年に向けて右手を掲げる。

「バインドを外す素振りを少しでも見せたら、ナチュラルシューターで一斉攻撃する。でも私たちに負けないって言うなら、あなた1人で十分やれるなら、これを切り抜けるなんて簡単だよね?」

 えりなが少年に告げると、右手に力を集中させる。バインドでの拘束状態に魔法の弾の包囲網、さらに別の砲撃が向けられている。この状況を単独で打破するのは至難の業である。

「こんな・・こんなことで、立ち止まってるわけにはいかねぇんだよ!」

 いきり立った少年がバインドに拘束されたままえりなに飛びかかり、右手にある腕輪状のデバイスに意識を傾ける。

「どうして、独りよがりでいようとするの・・・?」

 えりなは低く告げると、向かってきた少年に対して一斉攻撃を繰り出した。強烈な爆発に襲われ、少年はその場に昏倒した。

 この光景に周囲は騒然となった。冷静沈着なシャークとピノ、そしてえりなの心境を理解していた健一は動揺の色を見せていなかった。

「ロッキー!」

 そのとき、この訓練場に向けて声がかかってきた。その声にえりなたちが振り返る。

 そこへ駆け込んできたのは明日香だった。明日香は意識を失った少年、ロッキーに向けて駆け寄り、安否を確かめた。

「えりな・・・」

 明日香はえりなに振り返り、沈痛の面持ちを浮かべる。えりなも怒りと悲しみを込めた悲痛の面持ちを見せていた。

 

 その後、ロッキーは明日香と、後から駆けつけたジャンヌとラックスに運ばれて医務室に運ばれた。えりなが魔力ダメージのみに絞っていたため、彼の体に外傷はなかった。

 彼が医務室のベットで眠っている間、えりな、健一、明日香は久方の再会を喜んでいた。だが先ほどの出来事のため、彼らは素直に喜ぶことができないでいた。

「あのとき、ちょっとやりすぎちゃったかな・・いくら体に傷をつけないようにしたといっても・・・」

「ううん。えりなは悪くないよ・・でも、やっぱりロッキーが心配だというのも正直なところで・・・」

 互いに困り顔を浮かべるえりなと明日香。健一もこの事態に深刻さを感じていた。

「ところで明日香ちゃん、あの子は誰なの?どうして、管理局の局員に突っかかったりしたの・・?」

 えりなが思い切って問いかけると、明日香は深刻な面持ちを浮かべて語り始める。

「ロッキー・トランザム。私とジャンヌさんが保護した子・・身体能力がすごいから、ジャンヌさんが連れて行くことを決めたの・・」

「その子がどうしてあんなことを・・・」

「それであの子についてジャンヌさんがいろいろ調べてくれたの。ロッキー、ロストロギア事件で保護者夫婦を亡くしているの。それをあの子は、時空管理局の対応の遅さのせいにしてるの。」

 明日香の口にする事情に、えりなは沈痛さを噛み締める。

「ロッキーの気持ち、分からなくはないよ。確かに管理局の部隊は、事件、事故に対応しきれないところも否定できないところもあったから・・」

 明日香が続けて沈痛さを込めた言葉をかける。

 時空管理局には、問題視されている点が少なくない。事件、事故への対応、襲撃者に対する防衛などに対して、後手に回るケースが多い。その迅速さ、万全さの欠落が、様々な悲劇を生む要因につながっているのだ。

「それでロッキーってヤツ、管理局に頼らずに自分の力だけで何とかしようと考えてるのか・・ホントなら勇ましいって拍手を送りたいとこだけどよ、ありゃ勇気っていうより無謀だな。」

 健一が半ば呆れた素振りを見せながら言いかける。だがえりなは深刻さを隠せない。

「やっぱり、ひとりぼっちはダメだよ・・1度辛くなったら、どんどん辛くなっちゃうから・・・」

「えりな・・・」

 えりなが口にした言葉に明日香も困惑を隠せなかった。なぜここまで孤独を嫌悪するのか。その理由を明日香も健一も分かっていた。

 そのとき、緊急を知らせる警報が響き渡り、えりなたちが緊迫を覚える。

「明日香ちゃんはあの子についていてあげて。私と健一が行くから。」

「でも、それだとえりなたちが・・」

 えりなが言いかけると、明日香が不安を口にする。

「心配すんなって。オレとえりなのコンビがどれくらいすごいのか、明日香だって分かってるはずだぜ。」

 健一にも自信のある声をかけられ、戸惑いを募らせる明日香。そこへえりなが再び微笑みかけてきた。

「あの子をお願い・・それと、ゴメンって言っておいてくれないかな・・・」

「えりな・・・分かった。後は私に任せておいて・・・」

 えりなの気持ちを聞き入れて、明日香は微笑んで頷く。廊下をかけるえりなと健一を、明日香はじっと見送っていた。

 

 それから、明日香はジャンヌのいる医務室にやってきた。そこではようやくロッキーが眼を覚まし、ベットから体を起こしていた。

「ロッキー・・眼が覚めたのね・・・」

 明日香が微笑みかけるが、ロッキーは憮然とした態度を見せるばかりだった。

「外傷はないし、ダメージもそんなにないよ。えりなちゃん、うまくコントロールしてたみたいだね。」

 ロッキーの安否を確かめて、ジャンヌが安堵の笑みを浮かべる。しかしロッキーは歯がゆさを消さない。

「アイツ・・オレは全然歯が立たなかった・・赤子同然だった・・・だけど!」

 ロッキーは憤りを抑えきれず、ベットの布団に拳を叩きつける。

「それだけすごい力があるなら、やっぱりすぐに事故を処理することができた!オレの父さんも母さんも死なずに済んだ!それなのに、それなのに・・・!」

「ロッキー・・・」

 憤りをあらわにするロッキーにジャンヌが困惑する。そこへ明日香が真剣な面持ちで、ロッキーに声をかける。

「ロッキー、あなたの気持ち、分からなくないよ。私もえりなも、あなたの大切な人たちやたくさんの人を守れなかったことを、すごく辛いと感じているよ。」

「ウソだ・・ウソだ!また自分の都合のいいことを!」

「そうじゃないよ!・・特にえりなは、ひとりぼっちになることをすごく怖がってる・・・!」

 ロッキーの反論をさえぎって、明日香が切実に言いかける。それから彼女は、物悲しい笑みを浮かべてきた。

「いろいろ私たち管理局を悪く言っているみたいだけど・・結局、ロッキーは管理局に甘えていたんだね・・」

「なっ!?何をバカな・・!」

「あなたは心のどこかで、管理局に助けてほしいと思って、自分では何もしようとしていなかったんだね・・でも、それではいけないんだよ。独りよがりになるのも、甘えすぎるのも・・」

「・・分かった風なこと言うなよ・・オレが今、どんな気持ちでいたのか・・」

「分かるよ。特にえりなは、1人になったときの怖さをよく知ってる・・・」

 動揺を浮かべるロッキーに真剣さを崩さずに語り続ける明日香。彼女は管理局に身を置いたえりなに起きた出来事を話し始めた。

「えりなは魔導師になってから、一生懸命だった。それは管理局に所属しても変わらなかった。“エース・オブ・エース”と呼ばれても慢心することなく・・でも2年前・・」

 えりなと健一に起きた悲劇を思い返して、明日香は沈痛の面持ちを浮かべる。

「その日、えりなは体調が悪かった。任務の連続で蓄積されていた疲労が、体調不良の形で表れたの。そんな状態のえりなを気遣って、健一はえりなの分も頑張ると言ってきた。体も心も参ってたえりなはそれに甘えて、戦列から外れることにした。でも・・」

「でも・・?」

「現場に向かった局員たちは、全員瀕死の重傷を負った。健一も頭から血を流して、とても危険な状態だった・・えりなは自分を責めてた。健一の言葉に甘えた自分を。もしも自分がムチャしてでも現場に向かってたら、健一を傷つけることもなかったかもしれないって・・」

 語りかけていくうちに、明日香の眼から涙があふれてきていた。満身創痍の健一の見舞いに立ち会っていた彼女は、その悲惨な光景を思い返していた。

「えりなは責任だけじゃなく、孤独も感じてた。大切な人があんなことになって、自暴自棄に陥ってた。管理局の任務に身が入らなくなるほどに・・健一が励ましに来るまでは・・」

「えっ・・・?」

「健一に励まされて、えりなはやっと元気を取り戻した。そのとき、えりなは心に決めたの。たとえ自分が傷だらけになることになっても、大切な人を守る。周りの人たちを頼りに、それでいて甘えすぎず、みんなと一緒に強くなっていくことを・・」

 微笑んできた明日香の言葉に、ロッキーが戸惑いを覚える。

「それ以来、えりなはみんなの意見を尊重しつつ、率先して現場急行を申し出ることが多くなった。健一や私、みんなを守りたいから・・」

 明日香は言いかけて、モニターのスイッチを入れる。画面には以前村を襲撃してきた兵士たちに向かっていくえりなと健一の姿があった。

 兵士たちに果敢に挑むえりなの姿を見て、ロッキーは戸惑いを膨らませていく。誰かを、何かを守ろうと一生懸命になっている彼女の姿に、ロッキーは心を揺さぶられていた。

「大切なものを守るのは、口で言えるほど簡単なことじゃない。でも、1人よりも、みんなと一緒なら・・・」

 明日香は励ましの言葉をかけると、ロッキーの肩に優しく手を乗せる。

「一緒に頑張っていこう。あなたにできないことを、私やみんなが支えるから、あなたにしかできないことをしてあげて・・あなたの持てる全力で・・」

「明日香・・・オレ・・」

 管理局への怒りを抑え、ロッキーは大切なことを見出していた。

「私たちは今、新しい仕事場で新しい活躍をしようとしてる。あなたが大切なもののために何かしたいっていうなら、一緒に頑張ろう。」

 ジャンヌがロッキーに笑顔を見せて呼びかけるが、ロッキーはためらいがあった。今まで恨んできた管理局に身を置くことは、この上ない屈辱になるかもしれない。そう思っていた。

「管理局局員になるのがイヤなら、別にそのつもりでなくてもいい。あなた自身のために頑張っていけばいいんだから・・・」

 ジャンヌの言葉を受けて、ロッキーはようやく迷いを振り切った。

「そうだ・・オレが変えていくんだ・・管理局が、オレがイヤだったときと変わってねぇっていうなら、オレが変えちまえばいいんだ・・・」

 決意と自信を取り戻したロッキーに、ジャンヌが手を差し伸べてきた。ロッキーはその手を取り、握手を交わした。

 新たな決意を胸に秘めた少年の姿を見て、明日香は喜びを感じていた。

 

 兵士たちの侵攻を撃退し、えりなと健一は肩の力を抜いていた。一息ついていたえりなに、健一が駆け込んできた。

「えりな、大丈夫か!?どっか、ケガとかしてねぇか?」

「健一・・うん。私は大丈夫だよ。健一は?」

「オレはこの通りピンピンしてるぜ。オレもけっこう頑丈なほうなんだぜ。」

 互いの安否を確かめ合い、笑みをこぼすえりなと健一。だがえりなの表情が徐々に曇っていく。

「健一・・健一のことは、絶対私が守るからね・・」

「えりな・・・」

 えりなが口にした言葉に健一が戸惑う。

「もう、1人だけっていうのはイヤなの・・だから、どんなことがあっても守りたい・・たとえわがままだと言われても・・」

 えりなの胸に宿る強い決意と想い。それをずっとそばにいた健一は理解しているつもりだった。

「ありがとうな、けどオレは、いつもお前に守られてばっかじゃねぇぞ。オレも心に決めてるんだ。どんあことになっても、お前を守るって・・」

「健一・・・何だか、いつも健一に助けられてばかりだね、アハハ・・・」

 健一の言葉を受けて、えりなが照れ笑いを浮かべた。そして健一とえりなは手を取り合い、握手を交わす。

「これからもよろしくな、相棒。」

「お互い、頑張っていこうね♪」

 改めて決意を秘めた健一とえりな。兵士たちの残骸を回収班に任せ、2人は明日香たちのところへ帰還することにした。

 

 機動六課本部。突如暗躍を開始した謎の機械兵士の解析に、六課のスタッフは躍起になっていた。

 その傍らで、新たなメンバーの獲得による六課の戦力増強も行われていた。そんな六課の本部に、ジャンヌと明日香はロッキーを連れてやってきた。

「やぁ、ジャンヌちゃん、明日香。」

 部隊長室を訪れたジャンヌたちに、振り向いたなのはが笑顔で声をかける。なのは、フェイト、はやては今回の事件に関して話し合っていたところだった。

「はやてちゃん、大事な話をしているところで悪いんだけど・・フォワードとして推薦したい子がいるんだけど。」

「えっ?」

 ジャンヌが告げた言葉になのはたちが一瞬きょとんとなる。明日香はロッキーを示して、なのはたちに語りかける。

「ロッキー・トランザム。この前保護した子なんだけど・・すごい身体能力で。あの兵士には押し返されていたけど、鍛えていけば十分戦力になる。」

 ジャンヌの説明を聞いて、なのはがロッキーに真剣な眼差しを向ける。だがロッキーはなのは、フェイト、はやてへの不信感を拭えずにいた。

「見たところ突っ張った性格みたいだね。まぁ、こういう子を教えてきたことも何度かあるんだけどね。」

 なのはの分析を聞いて、ロッキーが当惑を見せる。

「デバイスの詳細とバトルスタイルを確認してある。それらからポジションはフロントアタッカーが最適だね。」

 ひと通りの分析を終えると、なのははロッキーに笑顔を見せてきた。

「機動六課スターズ1、高町なのはよ。この六課の任務をこなす中で、実践向きの訓練を行うことになるから。」

「えっ?訓練?」

 自己紹介をしてきたなのはに、ロッキーが疑問符を返す。そこへフェイトが補足を入れる。

「なのはは時空管理局の戦技教導官。この機動六課でも、フォワード陣の訓練を行ってるの。」

「私の見るところ、あなたはポテンシャルは高いけど、バトルスタイルは独特で荒削り。これをしっかりとしたものにすれば、すぐに前線で戦えるようになる。」

 なのはの言葉を受けて、ロッキーは真剣な面持ちで言いかける。

「オレは強くなりたい。イヤな気分を2度としたくないから・・アンタの訓練が強くなる近道だっていうなら、オレはどんなことだってやってやるさ!」

 ロッキーが言い放った決意に、ジャンヌと明日香だけでなく、なのはたちも笑みを浮かべて頷いていた。

「そういえば、もう1人新人が入ってくるって聞いてるんやけど?」

 そこへはやてが言いかけると、なのはが振り向いて頷く。

「うん。もうそろそろ来るはずなんだけど・・」

 なのはが言いかけたときだった。この部隊長室に、シャリオからの通信が入ってきた。

“例の新人さんが到着しましたよ。”

「分かったよ。こっちに呼んでもらえる?」

 はやてがシャリオに向けて呼びかけ、通信を終える。

「ん?オレ以外にも誰か来るのか?」

「そういえばそんな連絡を聞いてた。いろいろあったから忘れてたよ。」

 ロッキーの疑問に、ジャンヌが照れ笑いを浮かべて答える。しばらくして部隊長室のドアがノックされる。

「どうぞ。」

 はやてが声をかけると、ドアがゆっくりと開かれる。そしてオレンジのショートヘアの少女が部隊長室に入ってきた。

「はじめまして。あたし、地上部隊陸士112部隊に所属していましたナディア・ワタナベ二等陸士です。よろしくお願いします。」

 少女、ナディアが自己紹介をして、はやてたちに敬礼を送る。そんな彼女を、ロッキーはただただじっと見つめていた。

「か、かわいい・・・」

 ナディアの姿にロッキーは心を打たれていた。周りを一切気に留めず、彼はナディアに歩み寄った。

「おおおお、お願いします!ぼぼぼぼ、僕のガールフレンドになってくれますか!?

「えっ?えっ!?

 ロッキーのいきなりの発言に、ナディアだけでなく、周囲にいた全員が呆然となった。

 

 その後、ロッキーとナディアは六課スタッフの前で改めて自己紹介をすることになった。スバルたちフォワード陣は、2人の新入隊員にいろいろな思惑を巡らせていた。

「うちら機動六課は、これから起こりうる厳しく険しい任務に向けて、様々な不安要素を解決していかなあきまへん。人員の増強もそのひとつです。」

 はやてがスタッフ一同に向けて呼びかける。そんな中、ナディアはその面々に視線をめぐらせていく。

 ナディアがこの機動六課への入隊を希望したのは、ある人物とともに活躍したいからだった。しかしこの面々の中に、彼女の探し求めている人物の姿はなかった。

「あ、あの・・・?」

 はやてが挨拶を終えたところへ、ナディアが思い切って訊ねる。

「あの、ライムさんの姿が見えないんですけど・・」

「ライム?」

「はい。ライムさんです。時空管理局執務官、小室(こむろ)ライムです。」

 ナディアが口にした名前を聞いて、はやてが驚きを見せる。そばにいたなのは、フェイト、ジャンヌも戸惑いを見せていた。

 

 時空管理局所属特務艦「ABS」。かつて多くの大敵を撃破してきた特務艦「ミーティア」の後続艦である。

 その艦長と特務隊の隊長を受け持っているのが、ハイネ・ヴェステンフルスである。ハイネは気さくな言動を織り交ぜながら、隊員たちの信頼を勝ち得ている。

 管理局本局に向けて次元トンネルを航行中のABSの艦内で、ハイネは戦艦「クラウディア」艦長、クロノ・ハラオウンと連絡を取っていた。

「よう。ずい分と昇格したが、相変わらずのようだな、クロノ。」

“あなたも表面的な部分はあまり変わっていないようですけど、ハイネ。”

 屈託のない内容から話を始めるハイネとクロノ。だがすぐに内容は真面目なものとなる。

“そちらはこれから帰還ですね。僕たちとは入れ違いになってしまいますが。”

「そうだな。あと約30時間ってところだ。それで、機動六課のほうには話は行ってるか?」

“話?”

「アイツを六課に向かわせる話だよ。アイツ、ここ最近ウジウジしてるみたいでさ。仲のいい連中が発破かけてやったほうが何とかなると思うんだがな。」

“僕としては構わないところですが・・なのはたちはどう思っているのか・・第一、彼女はこのことに納得してるのですか?”

「アイツがやる気になってるなら、こんな手間を取ることはないんだって。まぁ、こっちとはやてのとこでうまくやるから、お前は気にせずにお前らの航行をしてくれよな。」

“分かりました。ですが責任は取りかねますよ。”

「それと、話がうまくいったら、リミッター解除の権限、お前とはやて、カリムに移すからな。」

“了解。2人にもそう伝えておきます。”

 連絡を取り合い、ハイネはクロノとの通信を終えた。

「ハァ・・ま、何とかなるか。何とかしないと、アイツはずっとひよっこのままだからな。」

 ハイネはため息混じりに独り言を呟き、椅子に背を預ける。

「ハイネ、あなた宛てに通信が入っています。」

 そこへオペレーターがハイネに向けて声をかけてきた。

「ん?誰からだ?」

「機動六課部隊長、八神はやて二等陸佐です。」

「はやて?・・分かった。こっちに回してくれ。」

 オペレーターから通信を受け取り、ハイネが回線を開く。

“お久しぶりです、ハイネ。相変わらずの様子ですね。”

「お前もな。そのセリフ、クロノにも言われたぜ。」

 笑顔で声をかけてきたはやてに、ハイネが憮然さを浮かべて答える。

「丁度よかった。お前んとこに預けたいヤツがいるんだ。お前たちの馴染みのあるヤツだ。」

“もしかして、ライムちゃんですか?”

「そうだ。お前たち、人員不足で悩んでたみたいだったから・・こっちのことは気にすんな。オレたちも大分しっかりしてきたからな。アイツ抜きでも十分やれる。」

“そのこととちょっと関わりのある話なんですけど・・ライムちゃんに会いたいって子がいてな。”

「ん?」

 はやてが言いかけた言葉に、ハイネが眉をひそめた。

 

 

次回予告

 

全てはあの事故から始まった。

どうしていいか分からず、思い悩む日々。

そんな自分にできることは、ただひたすら突き進むことだけ・・・

 

次回・「ライムの重圧」

 

明日に向かって、テイク・オフ!

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system