魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな -stageZERO-

第1話「ジャンヌの旅立ち」

 

 

私たちの間で起きた様々な出来事。

出会い、別れ、決意、葛藤、衝突、正義、そして勇気。

多くの人々の、様々な心と力が交錯していった。

 

その中でそれぞれ得ていったもの。

それは未来へと受け継がれ、新たな扉を開く鍵となる。

 

物語は、まだ始まったばかり・・・

 

魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな、始まります。

 

 

 各次元世界での事件や災害に対しての対処と取り締まりを行っている「時空管理局」。そこに新たに設立された部隊、古代遺物管理部「機動六課」。

 遺失指定物「ロストロギア」のひとつとされていた「夜天の書」の現在の主、八神(やがみ)はやてが新設した部隊で、「クラウディア」艦長、クロノ・ハラオウン、その母であり本局総務統括官を務めているリンディ・ハラオウン、「聖王教会」の騎士、カリム・グラシアの3人が後見人として支援している。

 部隊は前線、後方支援、指揮に分けられ、前者は各フォワード分隊が、後二者は部隊長を務めるはやてが取りまとめる「ロングアーチ」が請け負っている。メンバーは新人、あるいは出向局員で占められているが、能力や将来性に優れた実力者揃いである。

 その中には、局内で有力視されている魔導師の存在があった。高町(たかまち)なのは。管理局では戦技教導官を務めており、はやての誘いを受けて、フォワード分隊「スターズ」の隊長として出向している。

 その実力は右に出るものがいないほどレベルが高く、その高評価から「エース・オブ・エース」と称されることがある。

 六課では新人メンバーの育成も務めている。それは基礎訓練ではなく実践向けの応用訓練であり、「何があっても壊れないように」新人を鍛えている。

 さらになのはの友人で管理局執務官を務めているフェイト・T・ハラオウン、夜天の守護騎士「ヴォルケンリッター」、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラが六課のメンバーとして名を連ねている。

 彼らに縁のある人物の来訪にて、この物語は始まる。

 

 時空管理局が壊滅的な打撃を被ることとなった「レリック事件」。最悪の事態を繰り返さない意味合いも込めて、機動六課の活動と訓練は続いていた。

 その訓練場に来訪した1人の女性、はねっ毛のある赤茶色の長髪をした長身の女性である。

 アンナ・マリオンハイト。管理局本局第一技術部において主任を務めている。なのはたちとは10年の縁があり、彼女の仕事の一環の中で協力してもらうこともある。

 訓練の合間の休憩に入ったなのはたちを見つけ、アンナが声をかけた。

「あ、いたいた・・なのはちゃーん、フェイトちゃーん、みんなー!」

 アンナの呼びかけを耳にして、なのは、そして同じく隊員の教育に当たっていたフェイト、ヴィータが振り返る。

「あ、アンナさん、久しぶりです。」

 なのはがアンナに向けて笑顔を返す。アンナは駆け寄ってなのはとフェイトを抱きしめて、再会を喜ぶ。

「フェイトちゃんはホントに久しぶりだねぇ。執務官になったのは聞いてたけど、実際にその姿を見たのは初めてかも♪」

 アンナの言葉に、なのはもフェイトも喜びの笑みをこぼす。

 なのはは教導官の仕事の一環で、アンナの開発した新兵器、デバイスのテストを何度か行っている。そのため、アンナはなのはの活躍や逸話などを直に聞いていたが、フェイトとは交流の時間があまり取れず、間接的でしかその活躍を聞いていなかった。

「あなたたちと出会ってから確か10年だっけ?あのときはホントにかわいかったけど、成長した2人もなかなか侮れないかな。」

 なのはとフェイトに対して感嘆の言葉を言いかけるアンナ。そこへアンナはふと、鉄槌のアームドデバイス「グラーフアイゼン」を肩に乗せているヴィータに眼を向ける。

「でも、10年たっても変わらないものもあったりするものだねぇ。」

 アンナは不気味な笑みを浮かべると、眼にも留まらぬ速さで一気にヴィーナに抱きついてきた。

「あ〜、この永久不変のかわいさはやっぱり捨てられないなぁ〜♪」

「相変わらずだな、その悪い癖・・いや、前より過激になってねぇか・・!?

 抱擁に高揚感を膨らませるアンナに呆れ、さらに文句を言い放つヴィータ。そしてアンナの視線はついに、休憩中の新人メンバーたちを捉えた。

 スバル・ナカジマ。「スターズ分隊」フロントアタッカー。前向きさと気の弱さを兼ね備えた性格をしており、1度決めたことは貫き通す信念も抱いている。母から教わった「シューティングアーツ」と類まれなる爆発力で、部隊の活路を切り開く。

 ティアナ・ランスター。「スターズ分隊」センターガード。強気で突っ張った性格をしており、新人メンバー内においてリーダーシップを取ることが多い。スバルとは陸士訓練校からの知り合いで、今では息の合った名コンビとなっている。銃型のインテリジェントデバイス「クロスミラージュ」を使っての射撃を戦闘スタイルとしている。

 エリオ・モンディアル。「ライトニング分隊」ガードウィング。生真面目な性格をしており、騎士を目指して励んでいる。槍型のアームドデバイス「ストラーダ」を使用した近接戦闘を主流としている。

 キャロ・ル・ルシエ。「ライトニング分隊」フルバック。希少な竜召喚士の1人で、白竜、フリードリヒとともに苦難を乗り越えている。ブーストデバイス「ケリュケイオン」を併用しての強化系魔法に長けているため、他のメンバーのサポートに回ることが多い。

 4人はそれぞれの夢や目標を目指して、なのはの課す訓練の中で精進を続けている。そんな彼らに眼を向けたアンナが、満面の笑みを浮かべてきた。

「やっぱり新人っていうだけあって、初々しくていいなぁ♪」

 アンナは狂喜乱舞を振舞うと、スバルに抱きついて頬ずりをしてくる。その接触にスバルが動揺を浮かべるばかりだった。

「あ、あの、ちょっと・・・!?

 そこへティアナが困惑気味に声をかけると、アンナはすかさず彼女に抱きついてきた。

 どう言葉を切り出せばいいのか分からないでいるティアナとの抱擁を堪能すると、アンナは次にエリオに飛びついてきた。

「あ、あの、こ、困りますよ!そ、その・・!」

 アンナの抱擁に動揺をあらわにするエリオ。

「アンナさん、そのくらいにしたほうが・・あまりやりすぎると・・エリオ、困ってるし・・」

 フェイトがあんなに向けて心配の声をかける。するとアンナは次の標的をキャロに切り替える。

 歓喜を浮かべながら迫るアンナに、キャロが不安を浮かべる。するとフリードリヒが割って入り、アンナに向けて火球を放つ。

 その火球を顔面に向けて、アンナが昏倒する。

「あっ!アンナさん!」

 なのはが声を荒げる前で、アンナは顔を焦がして倒れていた。

 

 アンナが意識を取り戻したのはその数分後のことだった。

「いやぁ、ゴメンゴメン。私、かわいいものを見ちゃうとつい飛びついちゃう癖があって・・」

 アンナが照れ笑いを浮かべて、スバルたちに謝罪する。だが逆にアンナに火傷させてしまったことに、キャロが頭を下げてきた。

「あの、ゴメンなさい・・私、そんなつもりじゃ・・」

「いや、いいよいいよ。罰当たりなことをした私が悪いんだから。」

 弁解を入れたアンナが立ち上がり、自己紹介をする。

「そういえばまだ紹介がまだだったわね。時空管理局第一技術部主任、アンナ・マリオンハイト。みんな、よろしくね。」

「マ、マリオンハイトって!?・・あの、数々のデバイスや魔法技術を生み出してきた魔法研究者の第一人者の・・!」

 スバルがたまらず声を荒げる。アンナはスバルと縁のある精密技術官、マリエル・アテンザとも面識がある。そのため、スバルはマリエルからアンナについていろいろと聞かされていたのだ。

「まぁ、そんな大したもんじゃないけどね。君やギンガのことは、マリーから聞いてるよ。」

「それじゃ、あたしたちのことも・・」

 アンナの言葉を受けて、スバルが深刻な面持ちを浮かべる。

 スバルと姉、ギンガ・ナカジマは、人の肉体と機械を融合させた人型兵器「戦闘機人」であり、そのオリジナルといえる「タイプ・ゼロ」である。人工的な骨格や臓器が施されており、2人の身体検査はマリエルが行ってきている。

「ゴメンゴメン、気まずい話をしちゃったね・・それじゃ私ははやてに会ってくるよ。ホントにゴメンね。頑張ってるとこに水差すようなことして・・」

「いいえ、大丈夫ですから。あたしもギンねぇも、しっかりと受け入れてますから。」

 謝るアンナにスバルが弁解を入れる。なのはとフェイトに視線を向けると、アンナははやてのところに向かった。

 

 機動六課本部を訪れたアンナを、はやては快く迎えた。アンナと面識のある六課通信主任、シャリオ・フィニーノも、彼女の来訪に喜びを見せた。

 シャリオはメカニックデザイナーを自称するほどの機械好きで、「デバイスマイスター」の資格を持っている。デバイスマイスターの先輩に当たるアンナを尊敬しており、交流が深まっている。

「アンナさん、ホントに久しぶりやなぁ。調子はどうですか?」

「まぁ、順調ってとこかな、アハハ・・はやてちゃんもずい分大きくなっちゃって。しかも1部隊の隊長なんて、まさに“すばらしい”の一語だよ。」

 再会と感嘆の言葉を交わすはやてとアンナ。

「お久しぶりです、アンナさん。ここでみなさんをしっかりサポートしてますよ。」

「頑張ってるみたいだね、シャーリー。でもたまにはデバイスメンテナンスの仕事、こっちに任せてくれないかな?」

 シャリオのかけた言葉に気さくに答えるアンナ。そこへ管理局の制服を身にまとった小人がやってきた。

 リインフォース・ツヴァイ。夜天の書の主人格であるリインフォースが残した欠片から生まれた。かつてはやてと共同使用していた「蒼天の書」とはやて、及びヴォルケンリッターとの融合能力を備えている。部下からは「ちっちゃな上司」として慕われている。

「お久しぶりです、アンナさん♪」

「お、リインじゃないかー!これだけミニサイズというのもいい感じだなぁ♪」

 笑顔で挨拶してきたリインフォースに、アンナが笑顔を浮かべて飛びついてきた。頬ずりしてくるアンナに、困惑気味のリインフォース。

「ち、ちょっと苦しいです、アンナさん・・・」

「あ、ゴメンゴメン。つい・・」

 アンナがとっさにリインフォースを解放する。苦笑いを浮かべると、アンナははやてに視線を向けて真剣な面持ちを浮かべる。

「いろいろと談話を楽しみたいところだけど、その前に真面目な話としゃれ込みましょうか、部隊長殿。」

「そうやね。ちょっと行くとしましょうか。」

 アンナに相槌を打って、はやてが頷く。2人はひとまず部隊長室に向かうこととなった。

「へぇ。結構整ってるねぇ。伊達に4年かけて立ち上げてないね。」

 再び冗談混じりなことを言ってのけるアンナだが、はやての真剣さを察して、気持ちを切り替える。

「さて、前にも連絡した通りなんだけど・・」

「うん・・機動六課の、人員の増加の件やね・・」

 アンナが切り出した言葉にはやてが頷く。

「うちらが担当してきたレリック事件で、フォワード陣の人員不足が浮き彫りになってきてしもうて・・」

「この六課の面々は、初々しいけど実力は相当なもの。それは私も認めてる。でもやっぱり人手が足りないという問題も否めない事実・・ジェイル・スカリエッティ一味の襲撃があった公開意見陳述会の日。管制システムと施設機能の無力化によって地上本部は壊滅的な打撃を受けた・・」

 アンナの説明に対し、はやてが深刻な面持ちを浮かべる。

 最高位の科学力を持ちながら、違法研究に手を染めた次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。彼は「ナンバーズ」と呼ばれる戦闘機人と機械兵器「ガジェットドローン」を使い、時空管理局地上本部の機能を完全に麻痺させた。

 だがナンバーズがこのときもたらした被害はそれだけではなかった。フォワード部隊が地上本部に出向いていたところを突かれ、六課本部も襲撃を受けた。本部も壊滅的な打撃を受け、ロングアーチの面々も負傷を被った。

 事件は終幕を迎えたものの、管理局に課せられた問題は軽視できるものではなかった。事件解決の立役者となった機動六課も例外ではない。

「フォワード全員を向かわせたのが痛かったな・・やはり、人手不足は、機動六課の問題のひとつやな・・」

「それではやてたちは、フォワード部隊の増加を提案してきたわけだね。」

 はやてが口にした苦言にアンナが言いかける。

「その分隊長に名乗り出たい子がいるんだけど・・」

「この前聞いたな・・ほんまに久しぶりに会うなぁ・・」

 アンナとはやてが気を落ち着けて微笑みかける。

「1年の研修がもうすぐ終わるんやろ?なのはちゃんたちもビックリするやろなぁ。」

「明日いったん聖王教会に立ち寄ってから、ここに来るって。弟子も一緒に六課に加わることになるから、2人をよろしくね。」

 アンナがかけた言葉に、はやては笑顔で頷いた。

 

 1年に渡る研修遠征を終えて、ミッドチルダへの帰路に着こうとしていた1人の少女がいた。

 ジャンヌ・F・マリオンハイト。時空管理局所属魔導師であり、なのはたちの幼馴染みである。アンナが主任を務める第一技術部を中心に活動していたが、ロストロギア探索、召喚術の鍛錬を目的とした1年間の研修遠征に出ていた。

 ミッドチルダ北部ベルカ領内の小さな村に立ち寄っていたジャンヌ。彼女の隣には、もう1人の少女がいた。

 町井明日香(まちいあすか)。なのはやはやてたちと同じ地球出身の魔導師である。4年前に起きたカオスコア事件、パンドラ事件にてなのはたちと邂逅する中、事件解決に貢献。今ではジャンヌを師として魔法に磨きをかけ、使い魔であるラックスとともに魔法関連の事件に挑んでいる。

 使い魔は主の魔力を糧にして主に使役する存在とされている。当初は狼、あるいは大人の女性の姿を取ることが多かったラックスだが、現在は明日香の魔力消費の抑制を考慮して、戦闘時以外は子犬、あるいは少女の姿を取るようにしている。

「いろいろと研修の成果はありましたね、ジャンヌさん。」

「そうね。いろいろと発見があったから、帰るのを忘れてしまいそうだったよ。」

 明日香が声をかけると、ジャンヌは笑顔で答える。

「冗談はさておいて・・本当は、研修を放り出して、なのはたちとすぐに合流すべきだったと思うときがあるの・・機動六課でいろいろあったから、ミッドチルダに戻って事件解決に全力を出す必要があったんじゃないかって・・」

「私もそう思うときがあります・・でも私は、みなさんを信じています。これまでたくさんの苦難を潜り抜けてきたなのはさんたちの力を・・ジャンヌさんもそうなんでしょう?」

 不安を口にしてきたジャンヌに、明日香が微笑んで答える。

「レアスキルを持ってるのがけっこういるみたいだし、他にも実力者揃いだって聞いてるよ。それを追い込んだから大したもんだよ。えっとえっと・・」

 ジャンヌと明日香の会話に口を挟んできた使い魔の少女、ラックス。だが挙げようとしている人物の名前が思い出せず口ごもる。

「ジェイル・スカリエッティとナンバーズ。違法研究を行っていた次元犯罪者と、戦闘機人の姉妹たち。」

「う、うん・・いろいろ単語が出てきて混乱してくるなぁ〜・・」

 ジャンヌが笑顔で補足するが、ラックスは困り顔を浮かべるばかりだった。

 そのとき、近くで何かが壊れる音が響き、ジャンヌたちが音のしたほうに振り向く。その先の八百屋の店主が、1人の少年を追いかけていた。

 少し逆立った黒髪の少年。その手には果実が1個あり、おそらく八百屋から盗み出したものだろう。

「ったく。困ったのがいるもんだね。あたし、ちょっと捕まえてくるよ。」

「ううん。私が行く。」

 いきり立ったラックスを制して、ジャンヌが言いかける。店主をまいて逃走を図る少年に向けて、彼女は意識を傾ける。

 そして彼女が指をかざした瞬間、突如光の輪が出現し、少年を縛り上げた。体を拘束された少年が前のめりに倒れ込む。

「イタッ!く、くそっ!バインド!?

 少年が毒づいたところへ、店主が追いついてきた。

「やっと追いついたぞ・・坊主!泥棒とはいい根性してるじゃねぇかよ!」

 店主は動けないでいる少年の髪を引っつかむと、怒鳴り声を張り上げる。そこへジャンヌ、明日香、ラックスが近づいてきた。

「いやぁ、すいません。泥棒相手にここまでしてもらって・・」

 店主がジャンヌたちに頭を下げてくる。するとジャンヌは少年に眼を向けて、

「いいんですよ。それより、この子は私が保護します。どうかその辺で許してもらえませんでしょうか?」

 ジャンヌが言いかけた言葉に、店主も少年も眉をひそめた。

 

 それから少年を連れて村外れに来たジャンヌたち。そこでジャンヌが足を止めると、少年はいぶかしげな面持ちを浮かべて彼女に声をかけてきた。

「どうしてオレを助けたんだよ?別に助けてほしいなんて頼んだ覚えはねぇよ。」

 憮然とした態度を見せる少年に振り返り、ジャンヌは微笑んで声をかける。

「とりあえず自己紹介しておこうか。私はジャンヌ。あなたの名前は?」

「な、何だよ、いきなり・・・!?

 突然のジャンヌの自己紹介に戸惑いを見せる少年。だが彼は照れながら自己紹介をする。

「オレはロッキー・トランザム。周りの連中は“ロック”って呼んでる。」

「ロックかぁ・・すごいね、ロック。あそこでの動き、見させてもらったよ。すごい動きだったよ。」

 ジャンヌが先ほどの少年、ロッキーの動きを賞賛する。

 ロッキーは腕輪型のアームドデバイス「ブレスセイバー」を身につけている。一切の飛行能力を身につけていないにもかかわらず、彼は飛翔しているかのような跳躍を披露した

 そのずば抜けた動きを、ジャンヌは素直に賞賛したのだった。

「そういえばアンタ、どっかで聞いたことがあると思ったら・・時空管理局の人間だな・・・!?

「うん。そうだけど・・」

 低く問い詰めてくるロッキーに、ジャンヌが当惑を見せながら頷く。するとロッキーが憤りを覚えて身構えてくる。

「てことは今回のことも、管理局の身勝手さのひとつだってことかよ・・!」

「ちょ、ちょ、ちょっと。いきなり何言って・・」

 怒りをあらわにするロッキーに、ラックスが慌てて弁解を入れる。だがロッキーは構わずに言い放つ。

「アンタたちのずさんな対応が、守れたはずのものを見捨てていってるんだよ!今もその悪態は改善されていないのに、まるで世界の英雄気取り!そんな自惚れ根性の塊連中なんか、信用できるわけねぇだろうが!」

 ロッキーが言い放った言葉に、ジャンヌと明日香が驚愕して息を呑む。

「アンタたちの平和ボケした態度が、どれだけの人間を不幸にしてるのか本気で分かってるのかよ!」

「ロック・・・」

「何にも分かってないくせに、分かった風なこと言わないでほしいね!」

 困惑を浮かべるジャンヌに怒りをぶつけるロッキー。彼はきびすを返してこの場から立ち去ろうとする。

 そのとき、村のほうで轟音が鳴り響き、ジャンヌたちが振り返る。いきり立ったロッキーが村に向かおうとする。

「待って、ロック!村は危険よ!」

「管理局の言うことは聞かねぇよ!」

 明日香の呼びかけをロッキーが怒鳴って一蹴する。

「管理局なんかに頼らねぇ!オレの力だけでカタをつけてやる!」

 ロッキーは言い放つと、改めて村に向かって駆け出していった。

「もう、しょうがない子だねぇ・・明日香、ジャンヌ、あたしらも急がないと!」

 ロッキーの態度に呆れながらも、真剣な面持ちになって呼びかけるラックス。ジャンヌと明日香は頷いて、村へと急いだ。

 

 村を襲っていた謎の集団。それは全身を装甲で覆われた兵士たちだった。

 機械的に容姿のその集団は、眼光、胸と腹部の装飾に輝きを宿していた。それぞれ赤、青、黄の3種に別れ、何らかの違いを匂わせていた。

 兵士たちは村の建物を破壊していっていた。人々が恐怖して、次々と逃げ惑う。

 破壊行為を繰り返す兵士たちの前に、ロッキーが飛び込んできた。1人の兵士がロッキーの一蹴を受けて倒れ込む。

「好き放題暴れやがって!オレがこらしめてやるぞ!」

 ロッキーが兵士たちに向けて言い放つ。兵士たちの注意が彼に向けられる。

(管理局なんかに頼らなくても、オレがコイツらを叩きのめしてやる・・・!)

「いくぞ、ブレスセイバー!」

Zieh!”

 ロッキーの呼びかけに、右腕についている腕輪、アームドデバイス「ブレスレイバー」が答える。腕輪の形状が変化し、籠手を思わせる形となる。

 ブレスセイバーの先端から光の刃が出現する。ロッキーはその光刃を構えて、兵士たちに飛びかかっていく。

 だが赤い光の兵士が、ロッキーが振り下ろしてきた刃を軽々と受け止めてしまう。ロッキーがさらに剣を突き出して力押しに持ち込もうとするが、兵士はビクともしない。

 そしてブレスセイバーから発せられていた光刃が突如消滅する。

(魔力の無力化!?

 驚愕したロッキーが赤い兵士に突き飛ばされる。ロッキーは壁に叩きつけられて、うめき声を上げる。

 ブレスセイバーの光刃の消失は、青い兵士が発したAMF(アンチマギリンクフィールド)によるものだった。攻撃や移動などの魔法の効果を無力化するが、その効果を受けて加速化したものも含めた物理攻撃は防げない。

「こんな手を使ってくるとは・・!」

 傷ついた体に鞭を入れて前に進もうとするロッキー。彼の前に兵士たちが続々と集まってくる。

 そのとき、兵士たちの数体が強烈な衝撃を受けて跳ね飛ばされる。その事態にロッキーが眼を見開く。

「やっと追いついたね・・」

 そんな彼に声をかけて降下してきたのは、インテリジェントデバイス「シャイニングソウル」を手にしたジャンヌだった。黒のバリアジャケットを身にまとっていたジャンヌは、眼に見えない衝撃波を凝縮した弾で兵士たちを攻撃したのだった。

「大丈夫?どこかケガはしていない?」

「な・・何だよ、いきなり!?別に助けてくれって頼んだ覚えはねぇよ!」

 心配の声をかけるジャンヌに、ロッキーが突き放す言い方をする。

「何だよ、せっかく助けてあげたってのに。」

 ラックスがロッキーの態度に不満を口にする。

「いいよ、ラックス・・それよりも、今は村を守ることのほうが先決だよ・・・!」

 ジャンヌはラックスに呼びかけると、真剣な面持ちを浮かべて身構える。兵士たちがジャンヌたちを見据えて、攻撃態勢を取る。

「行くよ、ウンディーネ。」

All right my master.”

 明日香の呼びかけにグラン式オールラウンドデバイス「ウンディーネ」が答える。

Drop Sphere.”

 明日香が掲げたウンディーネから、水の弾丸が放たれる。だが青い兵士に命中する前に、弾丸が消失する。

「消えた!?

「AMFを備えたタイプが混じってる・・迂闊に魔法を使っても、威力を殺されてしまう・・・!」

 ラックスが声を荒げ、明日香が毒づく。

「ここは私が彼らを引きつける。明日香たちは村の人たちの避難と保護を!」

 ジャンヌは明日香たちに呼びかけると、兵士たちに向かって飛ぶ。旋回する彼女に注意を向けて、兵士たちが追跡する。

(この兵士たち・・ガジェットドローンと同じ完全な機械タイプ・・だったら!)

 思い立ったジャンヌが兵士たちを岩場におびき寄せる。そして兵士たちが密集してきた。

「今!」

Impulse shooter.”

 そこを狙ったジャンヌが、重力の弾丸「インパルスシューター」を放つ。見えない弾丸は兵士に直接向かわず、その両側の岩場を崩した。

 崩落した岩石に兵士たちが押しつぶされていく。AMFによる妨害を受けることなく、ジャンヌの攻撃は兵士たちの行動を止めた。

 だが兵士たちが全滅したわけではなかった。生き残った兵士たちが飛び上がり、ジャンヌを狙ってきた。

 ジャンヌがシャイニングソウルを構えて、迎撃しようとした。そこへ炎が飛び込み、兵士たちの突進を阻んだ。

 その瞬間にジャンヌは眼を見開く。振り返った空には、巨大な白い竜を駆る少女の姿があった。キャロと、竜召喚を果たしたフリードリヒである。

「大丈夫ですか、マリオンハイト捜査官!?

 キャロがジャンヌに向けて呼びかけてくる。

「私は大丈夫・・それよりも村の人たちは!?

「心配要りません!今、スターズのみなさんが救助と避難を行っています!」

 ジャンヌの呼びかけに答えたのはキャロではなく、赤髪の少年、エリオだった。槍型アームドデバイス「ストラーダ」を構え、エリオは兵士たちに向かって飛びかかる。

 その頃、村ではなのはがスバル、ティアナとともに人々の避難を行っていた。

「それじゃ、あなたたちは・・・!?

「そう。機動六課のフォワード陣だよ。」

 ジャンヌの声に答えたのは、白と黒を基調とした防護服「バリアジャケット」を身にまとったフェイトだった。フェイトはインテリジェントデバイス「バルディッシュ・アサルト」を手にして、兵士たちの動向を伺っていた。

「フェイト・・どうして、ここへ・・・!?

「待ちきれなくなったら、みんなで迎えに来たの・・なんてね。」

 当惑するジャンヌにフェイトがからかいの言葉を入れる。茶化されてると思い、ジャンヌは苦笑いを浮かべる。

「中にAMFを使うのがいるよ。気をつけて。」

「ありがとう。AMFの対処法は、十分に心得てるから。」

 ジャンヌの忠告にフェイトが感謝する。2人は仕切りなおして、エリオとキャロと交戦している兵士たちに向かう。

「プラズマランサー、ファイア!」

「インパルスシューター、ショット!」

 フェイトとジャンヌが兵士に向けて、それぞれ金色と衝撃の弾を放つ。3種類の兵士たちの特徴を捉えつつ、彼女たちは村の危機を救うことに成功した。

 

 ジャンヌ、明日香たち、そして機動六課フォワード陣の活躍により、謎の兵士たちの襲撃は阻止され、村や人々は安息を取り戻していった。なのはやフェイトたち機動六課の面々に助けられたジャンヌは、安堵を浮かべていた。

「まさかみんながここにやってくるなんてね。正直驚いちゃったよ。」

「偶然だよ。事件の場所とジャンヌちゃんたちのいた場所が同じだっただけ。」

 ジャンヌが口にした言葉になのはが微笑んで答える。するとジャンヌが再び安堵の笑みをこぼしてみせた。

「そういうことにしておきますか。てっきりアンナさんが仕切ったのかと思ったよ。」

 ジャンヌのこの指摘にフェイトが苦笑いを浮かべる。そこへエリオとキャロが彼女たちのところに駆け寄ってきた。

「機械兵士の残骸の処理、ほぼ完了しました。」

「現在、シャーリーさんを筆頭に回収班が収集と分析を行っています。」

 エリオとキャロがなのはとフェイトに現状を報告する。

「分かった。後はシャーリーたちに任せて、少し休んでいて。」

 するとフェイトは2人に優しく呼びかける。頷いたところで、キャロがジャンヌが身につけている手袋状のデバイスを眼にする。

「あの、もしかしてそれ・・もしかしてあなたも召喚士なんですか?」

 キャロに突然言葉をかけられて、ジャンヌは一瞬きょとんとなる。だがすぐに笑みを見せて答える。

「確かにこれはブーストデバイスだけど、魔力の一点集中の補助のために使うことが多いんだよ。召喚術も学んではいるけど、あなたには全然敵わないよ。」

「そうなんですか・・・でも、私自体は、あなたやみなさんには全然敵わないですよ・・」

 ジャンヌの言葉を受けて、キャロが弁解を入れる。するとジャンヌがキャロに向けて手を差し伸べてきた。

「とにかく、これから私たちは一緒に仕事をこなしていく仲間だよ。よろしくね。」

「はい。よろしくお願いします。」

 キャロはジャンヌの手を取り、挨拶を交わす。そこへ明日香が駆け寄り、気付いたジャンヌが明日香とともに、なのはとフェイトに向けて敬礼を送る。

「町井明日香三等空尉・・」

「ジャンヌ・フォルシア・マリオンハイト一等空尉・・本日付で、古代遺物管理部機動六課に加入いたします。」

 明日香とジャンヌの声に、なのはとフェイトも敬礼を返して頷いた。

 この日を期に、機動六課の新たな日々が幕を開けるのだった。

 

 

次回予告

 

裏切られた願い。

そこはオレの居場所ではなくなっていた。

だから超えたかった。

今までの「甘え」に・・・

 

次回・「ロッキーの孤独」

 

明日の向かって、イグニッションキー・オン!

 

 

作品集

 

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