舞HIME –another elements- 第20話「藤乃静留」

 

 

 生徒会室のパソコンに収められている生徒たちのデータ。それには身長や生年月日、様々な履歴まで細大もらさず明記されている。

 なつきはその中から、不知火堅のデータを呼び出した。

(不知火堅・・この風華学園に転入してきたとき以前の詳細がない・・アイツが通っていた中学は卒業とは明記されていない。約2年の空白がある。停学でも休学でもない。やはり、一番地とHIMEの影響か。)

 まじまじと履歴に眼を通していくなつき。

(この2年間で、HIMEや一番地の連中のことを探っていたのだろう。)

 脳裏で次々と推測を立てていくなつき。

 貴典と結衣を失い、一番地からの処置に陥った堅は、その施設を破壊、その研究員全員を殺害、様々な情報収集のために行方をくらましていた。

 そんな情報の汲み取りに気を向けていく彼女に、静留が興味本位で顔をのぞかせてきた。

「それにしても、不知火はんのことを調べて、どへんするつもりです?」

 唐突に問いかけられて、なつきが少し驚いた顔を見せる。

「まさかなつき、不知火堅くんが好みなんどすか?」

「なっ!?」

 静留のからかうような問いかけに、なつきが思わず顔を赤らめる。

「ち、違う!そんなんじゃない!・・むしろ、アイツが好きなのは千草のほうだ。」

「千草はん?」

 赤面から沈痛の面持ちに変わるなつきに、静留が疑問符を浮かべる。

「千草は兄であるアイツを心の底から想っている。そんな彼女に、アイツが心配をかけてるところを見ると・・・」

 言いかけて言葉に詰まるなつき。しばらくムッとしていると、静留が微笑んで声をかけてきた。

「やっぱり、なつきは堅はんのことが好きやさかい。」

「だ、だから違うと・・!」

「兄さんを想う妹のためにすることは、その兄さんのためにすることと同じなのよ。そやさかいに、なつきは堅はんのことを心配してる。」

 静留に言いくるめられて、なつきは反論できずムッとするしかなかった。

 情報収集をひと通り終えたなつきは立ち上がり、生徒会室を出ようとする。

「いつもすまないな、静留。」

「わいはいつかてなつきの味方やさかい。気にへんといて。」

 背を向けたまま声をかけるなつきに、静留は微笑んだ。彼女の気持ちを諭したのか、なつきは無言でドアを開けて出て行った。

 

 堅を追って学園から外に飛び出した千草。しかし人ごみのある街中では、1人の男を探し出すのはあまりにも困難なことだった。

 また、ダイアナの捜索範囲も学園から街までは行き届かず、雪之も途方に暮れるしかなかった。

「ダメです。堅さんを特定することができません。」

 ダイアナの胞子を通じて、学園に戻ってきた千草に雪之が呼びかける。

「もう少し捜索してみます。近くにいるかもしれないから。」

「いいえ。今日は日が落ちますから。雪之さんは戻っていいです。執行部の仕事もありますし。」

 雪之の協力を、千草はここで拒んだ。彼女を気遣ってのことだった。

「雪之さんは、遥さんをお願いします。あの人、お兄ちゃんに負けないくらいにムチャしますから。」

 思わず苦笑を浮かべる千草は、雪之も笑みをこぼしているのが見えた。

 堅の安否を思いながら、2人はこの日の捜索を中断した。

 

 翌日の昼休み。高等部校舎裏で、迫水となつきが話し合っていた。

 彼女は堅の履歴を迫水に話した。何らかの手がかりがつかめることを気に留めながら。

「なるほど。彼にそんなことがあったのですか。」

 彼女の話を聞いた迫水が淡々と頷く。彼女は木陰からさらに話を続ける。

「アイツは2年間で、私たちHIMEや一番地の連中について調べていたんだろう。その間、千草にも連絡をいれずに。」

「そうですねぇ。迂闊に連絡を取れば、連中に気付かれる危険がありますし、何より千草さんを巻き込みたくなかったのでしょう。それにしても、あなたが他の人を気にかけるとは。」

 説明を聞いた後、迫水が安堵の笑みを浮かべる。

「あぁ。昨日、他の人にも言われた。」

 それを受けてなつきが照れ笑いを浮かべる。

「とにかく、まずはアイツの行方を見つけるのが先決だ。全てはその後だ。」

「そうですね。でも用心しておいたほうがいいと思いますよ。彼が一番地の施設を滅ぼしたなら、その矛先がHIMEに向けられることも考えられますから。」

 立ち去ろうとしたなつきに迫水が意味深な言葉をかけ、彼女は足を止める。

「どういうことだ?」

「昨晩、街中の裏路地の広場で、HIMEの戦闘の痕跡が確認されています。尋常ではない破壊で、連中は後始末に手間取ったようで。」

 眉をひそめるなつきに、迫水が苦笑をもらす。彼の言葉に、彼女の胸に一抹の不安がよぎっていた。

 

 不審者に対する執行部の調査は激化しようとしていた。部が直接動くようになったのだ。

「それじゃ、全執行部員、出動!」

 遥の指示を受けて、執行部員たちが行動を開始する。

「それじゃ私も動くから、雪之は部室で連絡を待つのよ。」

 雪之に告げて、遥も不審者を追う。彼女を見送って、雪之も校舎に向かう。

 その途中の道で、雪之は足を止める。彼女の眼前に、堅が姿を現したのだ。

「か、堅さん・・・」

 堅を確認して、雪之が歓喜の呟きをもらす。しかし様子がおかしいことに気付いて、駆け寄ることをやめる。

 普段の気さくな言動を見せる彼ではない。命を直接突いてくるような殺気を放っていた。

「HIMEはオレが倒す。千草のために!」

 ひとつの呟きをもらした直後、堅から凄まじい波動が放たれる。しかしその波動は殺気が混ざり合って、紅く染まっていた。

 その殺気を織り交ぜて具現化した波動の刀を握り締め、それを振り抜く。強烈な刃が雪之に向かって飛んでいく。

「あっ!ダイアナ!」

 危機感を覚えた雪之が、即座にダイアナを呼び出す。しかし彼女もダイアナも、その殺気に満ちた波動に巻き込まれてしまった。

 その直後、狂気に駆られているはずの堅の眼に、動揺の色が一瞬浮かんでいた。

 

 突然轟いた激しい爆音を耳にして、遥が足を止めて振り返った。

「これは、何なのよ・・・まさか、あの不審者が・・!」

 いきり立った遥が、数人の部員を引き連れてその場所に向かう。すぐに轟音はやんだが、彼女はその場所を的確に捉えていた。

 そしてその場所にたどり着いたとき、遥は驚愕した。木々の数本がかすかに焼けただれているこの場所の中心に、校舎に向かったはずの雪之の姿があった。

「雪之!」

 遥がたまらず雪之に駆け寄る。雪之はかすり傷を受けているだけで、重傷はなく意識を失っているだけだった。

「早く救急車を!それから先生かシスターに連絡を!」

 遥が大声を張り上げて、部員たちに呼びかける。部員たちがそそくさに散らばった後、遥は雪之を見つめた。

「雪之・・・いったい、誰がこんなことを・・・!」

 雪之を傷つけられ、遥は憤りを感じていた。その間にも呼びかけていると、雪之が小さく呟いてきた。

「か・・堅さん・・・」

 その呟きに遥が眉をひそめた。同時に堅に対して怒りの矛先が向けられた。

(不知火堅・・あなたがそこまで極悪だとは思わなかった・・・雪之を傷つけるなんて、許せない!)

 堅への怒りをたぎらせる遥。雪之のため、彼女も戦うことを選んだ。

 

「雪之ちゃんが!?」

 碧を通じて、雪之が襲われたことを聞いた舞衣が驚きの声を上げる。命も千草も困惑の面持ちを見せていた。

「あれだけの力での破壊は、オーファンでもHIMEでもそうはいないわ。多分、彼かあのデルタってヤツか。」

 碧の推測。それはなつきが考えているものと同じだった。

「でもどうしてなのか・・彼の復讐の相手は、デルタのはずなのに・・」

「いや、アイツの憎しみは一番地にも向いている。その殺意が暴走しているのではないのか?」

 碧の困惑になつきが割り込む。しかしこの場で考え込んでも、答えには結びつかなかった。

「とにかく、ここで考えても仕方がない。アイツを探せば全て分かることだ、多分。」

「そうね。堅くんを探しましょ。」

 なつきの言葉に舞衣が頷き、碧も命も同意する。HIMEたちは真実を求めて駆け出した。

 

 教会にはシスター紫子と、1人の青年がいた。石上亘(いしがみわたる)。美術を担当している大学生である。

 紫子を気にかけていた彼は、この日も彼女に声をかけていた。

「紫子さん、どうでしょう、今夜は食事にでも行きましょうか?もちろん、僕が代金をお支払いしますよ。」

「石上先生・・・」

 微笑みながらの石上の誘いを、紫子は快く受け入れた。

 そのとき、教会の扉がゆっくりと開かれ、石上と紫子が振り返る。その先には堅が立っていた。

「あ、あなたは不知火堅さん・・どうかしましたか?」

 紫子が堅に声をかける。そこへ石上が彼女の腕をつかんで止める。

「石上先生?」

「紫子さん、彼は、どこか普通じゃない!」

「えっ?」

 石上の指摘に、紫子が眼を凝らす。堅は殺気を放ちながら、彼女を見据えていた。

「アンタもHIMEか・・・HIMEはオレが倒す!」

 堅は眼を見開いて、波動の力を解放する。彼の眼は紅く染まっていた。

「下がってください、石上先生!」

 紫子は石上に言い放って、意識を集中する。首筋にあるHIMEの紋章が輝き、エレメントの弓矢が出現する。

 彼女が弓を構えた瞬間、堅が波動の刀を振り上げて飛びかかってきた。放たれた矢を、彼は寸でのところでかわす。

「そんな!」

「紫子さん!」

 攻撃をかわされて驚きの声を上げる紫子。刀を振り下ろそうとする堅を、石上が突き飛ばして彼女を守る。

 突き飛ばされた堅が椅子の上に叩き落される。

「さあ、今のうちに!」

 それを見計らって、石上が紫子を連れて教会から出る。立ち上がった堅が、2人の後を追う。

 彼が教会から出たときには、2人は林の近くの道に差しかかっていた。しかし彼には問題の距離ではなかった。

 波動の刀を振りかざし、かまいたちを繰り出す。刃は一気に駆け抜け、逃げる石上と紫子の横をなぎ払う。

 直撃は回避されたものの、その衝撃で吹き飛ばされる2人。転倒し、体の悲鳴を感じて動きが鈍る。

 紫子が体を起こすと、地面が切り裂かれているのを目の当たりにし、愕然となる。

 堅はそんな彼女に追い打ちをかけようと、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「お兄ちゃん!」

 そのとき、千草の声がかかり、堅が足を止める。困惑を感じ、顔を歪める。

 駆けつけた千草が、大きく息をついている石上と紫子に近づく。2人の安否を確認した後、再び堅に視線を向ける。

「お兄ちゃん、これはどういうことなの・・・なんでシスターや石上先生を・・・!?」

 沈痛の面持ちで問いかける千草。しかし堅は動揺を見せるばかりで、その問いかけに答えない。

「シスター!千草ちゃん!」

 そこへ堅を探していた舞衣、なつき、命、碧も駆けつける。状況を把握しようとしながら、碧は視線をシスターから堅に移す。

 堅の眼は殺気の紅に満ちていて、自分の持てる力に歯止めがかけられなくなっていた。そんな中で、彼は何かに対して動揺をあらわにしていた。

「オレはHIMEを倒さなくちゃならない・・・でないと、オレの命は・・・!」

 うめく堅が刀を強く握り締める。紅く染まった波動が彼を取り巻く。

「やめて、お兄ちゃん!」

 そこへ千草がさらに叫ぶ。すると堅が再びうめきだす。

 彼は葛藤していた。HIMEを滅ぼそうとする殺意と、妹を想う心がぶつかり合い、彼は精神的な激痛にさいなまれていた。

 その痛みから逃れようと、堅は千草から離れていく。

「お兄ちゃん!・・お兄ちゃん・・・」

 呼びかけても足を止めない兄に、千草は愕然となってその場に座り込んでしまう。

「追いかけよう!碧ちゃん、シスターをお願い!」

 舞衣は堅を追いかけて駆け出した。なつきと命も彼女に続く。

 碧は困惑を浮かべている紫子と石上、動揺している千草を見つめていた。

 

 堅は林の中で立ち止まり、追ってきた舞衣たちに振り返った。

「堅くん、これはどういうことなの!?シスターを襲いかかるなんて・・・もしかして、雪之ちゃんを襲ったのも・・!?」

 驚愕を感じていく舞衣。堅は落ち着きを取り戻し、彼女たちを見据えていた。

「オレはHIMEを倒さなくちゃいけない。オレが生きるには、これ以外の方法がないんだ。」

 鋭く言い放つ堅が、波動の刀を握り締めて飛びかかる。虚を突かれた舞衣たちだが、振り下ろされた刃をかわして駆け出す。

 体勢を立て直した彼女たちを、堅が再び身構えて刀の切っ先を向ける。

「どうやら、本気で私たちを狙ってきているようだ・・・戦うしかないぞ!」

 覚悟を決めたなつきが呼びかける。命は剣を構えて既に臨戦態勢だったが、舞衣は未だに困惑を浮かべるばかりだった。

「待って、なつき!堅くんは・・!」

「アイツは今、自分の中の殺意に囚われている。こっちも本気にならないと、すぐにやられてしまうぞ!」

 動揺する舞衣を、なつきが噛み締めるように言いとがめる。迷いを浮かべながらも、舞衣も覚悟を決めた。

「やるしかないんだね・・・」

 呟くように告げる舞衣に、堅も小さく頷く。すると彼女となつきが、チャイルドを呼び出すべく意識を集中する。

「カグツチ!」

「デュラン!」

 炎の龍と白銀の狼が、殺意に満ちている堅を迎え撃つべく姿を現した。

 いきり立って飛びかかる堅。戦いの火ぶたが切られ、林に炎が立ち上った。

 

(あれは、舞衣さんの・・!)

 突然上がった火柱を、千草も碧も目撃していた。

「いけない。このままじゃ、お兄ちゃんと舞衣さんたちが・・!」

 たまりかねた千草が立ち上がり、堅たちのいる林へ向かっていった。

「千草ちゃん!」

 碧が駆けていく千草に声をかけるが、彼女は立ち止まろうとしない。困惑の面持ちを見せた直後、紫子と石上に眼を向ける。

「紫子さんは僕が見ています。杉浦先生は彼女を追ってください。」

「・・分かりました。それじゃ、お願いします!」

 石上の言葉を受けて、碧は千草を追って駆け抜けた。2人の視界から外れたところを見計らって、彼女は意識を集中する。

「愕天王、吶喊!」

 愕天王を呼び出し、碧は一気に千草に迫った。

 

 殺意に駆られた堅と、3人のHIMEの攻防。堅の力は強大で、舞衣たち3人が力を結集しなければ、一気に押されてしまう状況下だった。

 そんな一瞬の油断も許されない中で、舞衣は動揺を隠せなかった。

「堅くん、どうして・・どうしてあなたと私たちが戦うの!?」

 彼女は悲痛の思いで堅に問いかける。堅はうめきながらこれに答える。

「・・HIMEを全員倒さなくちゃ、オレは消えちまうんだ。貴典のように、光になって消滅しちまうんだ・・・」

 今の堅を突き動かしていたのは、HIMEやオーファンに対する憎悪と、死の恐怖だった。その感情に歯止めが利かなくなり、舞衣たちにその矛先を向けていた。

「HIMEは呪われた存在・・・倒さないと、千草は・・・!」

「千草・・・?」

 堅のうめきになつきが眉をひそめる。

「お前、千草のためにHIMEを倒そうというのか・・・」

「あぁ・・千草をこれ以上悲しませたくない・・そのためには、他のHIMEを倒さなくちゃいけないんだ・・・!」

 呟くように問いかけるなつきに、堅はうめくように答える。

「どうしてHIMEを倒そうとするの!?そんなことしたって、千草ちゃんが喜ぶはずは・・・!」

 そこに舞衣が悲痛の声を上げる。しかし堅は真実を語ろうとはしなかった。

 もしも言ってしまえば、舞衣たちに辛い思いをさせることになると思ったからである。

「とにかく、オレはHIMEを、アンタたちを倒す。やられたくないなら、オレを倒すしかないぞ!」

 感情をあらわにして叫ぶ堅。なつきはその言葉から、彼が挑発しているように思えた。

 殺意にさいなまれた堅が顔を歪め、波動の刀を振り上げて飛びかかる。標的は命。

 命はとっさに身構えて、振り下ろされた刀を剣で受け止める。しかし堅の力は強く、彼女をそのまま弾き飛ばしてしまう。

「ぐわっ!」

「命!」

 地面に叩きつけられる命がうめき、舞衣が叫ぶ。カグツチとデュランが援護しようと駆けつけるが、とどめを刺そうとする堅には間に合わない。

「お兄ちゃん!」

 そのとき、ペガサスに乗って駆けつけた千草の声がかかる。その瞬間、振り下ろされた堅の刀が命の眼前で止まる。

 愕然の表情を浮かべながら、堅が立ち上がって振り向く。その先には、必死の思いで息を荒げている千草の姿があった。

「お兄ちゃん、やめて!なんで舞衣さんたちを襲うの!?・・雪之さんや、シスターにまで・・・!」

 悲痛の思いで堅に呼びかける千草。その想いを目の当たりにして、堅が手から刀を落として、胸を押さえてうめきだす。

 さらなる葛藤に襲われて、その精神的な苦痛が胸を締め付けるほどになっていた。HIMEを倒そうとする殺意が、立ちはだかる妹を前にしてかき乱されていた。

 たまらず堅はその場から逃げ出した。

「お兄ちゃん!」

 千草が呼び止めるが、堅の耳には届いていなかった。

「私が!」

 舞衣が彼女に代わって、カグツチを消して、エレメントの腕輪を駆使して堅を追いかける。

 全てから逃避するように林を歩く堅を、舞衣は必死の思いで追いかける。その中で、彼女は様々な疑問や苦悩を抱えていた。

 デルタを倒そうとしている堅が、なぜHIMEを倒そうとするのか。彼を突き動かしている殺意は、HIMEにもその矛先が向けられているのだろうか。

 そして千草が現れると、なぜ彼は逃避してしまうのか。なぜ妹を避けるのか。

 考えを巡らせても、結局結論にはたどり着かなかった。そうしている間に、堅と舞衣は林を抜けて、人のいない広場にやってきていた。

 そこで2人は止まり、堅が舞衣に振り返る。彼女は胸を締め付けられる思いを感じながら、彼に声をかける。

「堅くん、いったいどういうことなの!?何があったの!?」

 彼女の問いかけに答えようとしない堅。苦痛を感じてうめくだけだった。

「堅くん!」

 さらに叫ぶ舞衣。堅は覚悟を決めて、重く閉ざしていた口を開く。

「舞衣ちゃん・・・」

 呟くような弱々しい声をかけ、堅は自分の胸に右手の親指を突きつける。

「オレを、殺してくれ・・・」

「えっ・・!?」

 突然の堅の言葉に、舞衣は驚愕をあらわにした。

 

 

次回

第21話「珠洲城遥」

 

「アンタ、死にたいんだって?」

「アンタのしたことは、絶対に許されないことよ!」

「私は舞衣のように甘くはない。」

「私は、アンタには負けないのよ!」

「望みどおりにしてやる!」

 

 

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