舞HIME –another elements- 第12話「姫野二三」

 

 

 対面する堅と、HIMEの力を解放している雪之。しばしの沈黙を打ち破ったのは、彼の物悲しい笑みを浮かべながらの言葉だった。

「まさかアンタがHIMEだったとはな。力を普段から抑えてたから、オレも気付けなかったんだな。」

「堅さん・・・」

「ユッキー・・オレは、HIMEのことが気に食わない。不幸しかもたらさない力だとオレは思ってる・・」

「どうして、そんなふうに思うんですか・・?」

 雪之の沈痛の言葉に、堅は戸惑いを見せる。

「アンタは何のために戦ってるんだ?」

「えっ?・・何の・・・?」

 堅の問いかけの意味を、雪之は一瞬分からなかった。

 彼女は常に遥のことを思っていた。正義感にあふれた遥がいつも助けてくれた。

 そのために雪之は力を行使し、ダイアナを受け入れたのである。

 しばらく黙っていると、堅は雪之に背を向けた。

「もしもあの遥ってヤツのことを思ってるなら、戦う意味を見誤るなと言っておく。」

「えっ・・?」

「誰かに言われたはずだ。HIMEの力を覚醒するなら、1番大切なものを賭けることになるって。もしも遥が、アンタにとって命より大切なものなら、アンタはアイツを戦いに引っ張り出していることになるんだぞ。」

「あっ・・・!」

 堅の言葉に雪之は愕然となる。普段からオドオドしていて不安を隠せなかったのに、今はそれが一気にふくれ上がっていた。

「アイツをホントに大事にしてるなら、もうそのチャイルドを、ダイアナを呼び出すな。あとはオレが何とかする。」

 そこへ彼は続けて決意の言葉をかける。

(HIMEの悲劇を終わらせないと・・・そして、オレの大事なものを守らないと・・・)

 胸中でその決意を繰り返す。そして無言で雪之から離れようとする。

「千草ちゃんは女子寮の近くの広場にいます。玖我さんもそばにいます。」

「なっちゃんが?・・そうか・・分かった・・・ありがとう、ユッキー。」

 千草の居場所を教えた雪之に、堅が振り向き様、気さくな笑みを見せる。

「これからも仲良くしたいもんだな、親友。」

 そう言い残して、堅は駆け出した。その後ろ姿を、友情を大切にする雪之が満面の笑みを浮かべて見送った。

 

 千草が出現させたエレメントの短刀を眼にして、なつきは呆然となっていた。

「私も戦う・・・お兄ちゃんも戦ってきたんだから・・・!」

 鋭い視線を向けて、千草は怪物に飛びかかった。短刀を突きつけ、怪物を怯ませる。その隙を突いて、デュランが体を起こしてその場を逃れる。

「お前も、HIMEだったのか・・・」

 冷静さを取り戻したなつきが声をもらす。

「ここは私がやるから、あなたは下がってて!」

 千草はなつきに言い放ち、意識を集中する。

「出てきて、ペガサス!」

 彼女が叫ぶと、その背後にまばゆい光が放たれる。やがてそれは光をまとった翼となり、1体の巨大な動物となる。

 基本的な姿は白馬。背中には光を宿した翼を生やし、頭部には金色に輝く一角があった。

 千草のチャイルド、ペガサスが大きく翼を羽ばたかせていた。

「行くよ、ペガサス!」

 千草の指示を受けて、ペガサスが駆け出す。突進を併用した角の攻撃で、怪物の1体を撃退する。

 喉元に痛烈な打撃を受けて、怪物が絶叫を上げながら消滅する。千草が視線を移すが、もう1体の怪物は姿を消していた。

 戦いが終わったことを確信して、千草が力を抜く。すると短刀もペガサスも姿を消す。この広場には彼女となつき、そしてこの騒ぎに駆けつけた舞衣と命だけしかいなくなった。

「千草ちゃん・・!?」

 千草がHIMEであることを目の当たりにした舞衣は困惑していた。

「おうっ!千草もHIMEだったのか!私は全然気付かなかったぞ!うんっ!」

 その横で命は満面の笑みを浮かべて、歓喜に湧いていた。しかしその場にただならぬ空気を悟ってか、すぐにきょとんとした面持ちになる。

 長く感じられた間。その沈黙を打ち破って、なつきが沈痛の面持ちを見せている千草に声をかけた。

「お前がHIMEだってことは、堅は知っているのか?」

 その問いかけに、千草は首を横に振った。

「私がペガサスを呼び出したのは、この学園に入学してからそんなにたってません。そのときにはもうお兄ちゃんはどこかに行っちゃってましたから・・」

「そうか・・・」

「お願いです。お兄ちゃんには黙っていてもらえませんか?お兄ちゃん、この力のことを快く思っていないみたいで・・」

 千草がなつき、命、そして舞衣に視線を移しながら頼み込む。もしも兄の堅がそのことを知ったら、今度こそ嫌われてしまう。そう思ってならなかった。

「分かったわ、千草ちゃん。そんでもって、私たちにいっぱい頼ってもいいよ。」

 そんな彼女の願いを、舞衣は笑みを見せて受け入れた。

「ありがとう、舞衣さん・・」

 聞き入れてもらい、千草が小さく微笑んだ。

「それで、他に何か知りませんか?そのHIMEっていうのが何なのか、他にどんなHIMEがいるのか・・」

「千草ちゃん・・・」

「私はもう、通りすがりじゃないから・・」

 困惑を見せる舞衣に、必死に笑みを作る千草。

「もしかしたら理事長さんが・・風花理事長さんなら知ってるかも。」

「あっ!千草ちゃん!」

 思い立った千草は、舞衣の呼び止めも聞かずにその広場から駆け出した。

 

 雪之から千草の居場所を聞いた堅は、彼女のいる広場に急いだ。その途中、彼は楯と対面して足を止める。

「ア、アンタ・・」

「こんなところにいたのか・・まったく、お前のせいで詩帆に駆りだされる羽目になったぞ。」

 会った途端、楯が堅に愚痴をこぼす。しかしムッとした表情を抑えて、真剣な面持ちになる。

「お前とお前の妹のこと、心配してるのはオレと詩帆だけじゃない。鴇羽も・・主将も部屋にいるときのお前の様子に困ってたみたいだぞ。」

 舞衣や武田が心配していることを堅に告げる楯。それを受けて堅も沈痛の面持ちを見せる。

「何があったか知らないが、お前、ムチャしてるんじゃないのか?」

「ムチャ?」

 楯のこの指摘に眉をひそめる堅。

「前に、他のヤツに言ったこと何だけどさ・・“頑張れ”っていうの、言うのも言われるのも無責任なんだよな。」

「無責任か・・そう聞こえなくもないな・・けど・・」

 楯の言葉に渋々納得する堅。楯がこのことを言ったことがあるのは、常日頃バイトや勉学などに力を入れている舞衣に対してであるが。

 しかし堅は思いつめた面持ちを浮かべる。

「それでも頑張らなきゃなんないって思うなら、頑張るしかないだろ。そういうのは、自分が1番分かってる、といいたいところだけど・・他人のほうがよく分かってることもたまにあるんだよな。」

「・・そうかもしれないな・・」

 半ばいい加減な態度を取る堅に、楯は小さく笑みを浮かべて頷く。

「それじゃ、オレは頑張ってくるさ。妹のために。」

 堅はやる気のある笑みを楯に見せて、再び歩き出した。

「ちょっと!」

「ん?」

 そのとき、楯が突然、堅を呼び止める。楯は少し困惑を見せてから、

「鴇羽のこと、見ててあげてくれないか・・」

「えっ?舞衣ちゃんを?」

「アイツ、他にも何かに首突っ込んでいるみたいなんだ。それも、この学園や近辺で起きてるおかしな出来事に。お前も何か関わりがあるんだろ?だから・・」

 頼んではいるものの、戸惑いを隠せないでいる楯。それを見て堅は、

「分かってる。オレに任せといてくれ。」

 小さく頷いて、堅は駆け出した。その中で、楯は困惑と疑念を隠せないでいた。

 

 風花邸に駆けつけた千草。夜の邸宅にやってきた彼女は、その玄関の扉を叩く。

「はい。何のご用でしょうか?」

 その扉を開けて、1人のメイドが顔を見せる。二三である。

「あの・・夜分すいません。理事長さんに、どうしても聞きたいことがありまして・・」

 困惑の面持ちで語りかける千草。すると二三は笑みを見せて、

「どうぞ。」

 彼女の導きに、千草は小さく安堵した。

 案内されて、彼女は真白のいる大部屋に通される。そこには車椅子の少女、真白が窓越しから外を眺めていた。

「あの、理事長さん・・・」

 千草が沈痛の面持ちで声をかける。すると真白はゆっくりと振り返る。

「以前にもお会いしましたね、不知火千草さん。」

 真白が優しく声をかけると、千草は思い切って語りかける。

「真白さん、あなたに見せたいものがあるんです。」

「はい?」

 千草の言葉に眉をひそめる真白。すると千草が突然、制服の上着をめくり上げた。

「まぁっ!」

 突然のことに二三が驚きの声を上げる。

 めくれ上がってさらけ出された千草の右のわき腹には1つの紋章があった。

「それは・・!?」

 その紋章に真白が驚愕する。千草のわき腹にあるこの紋章は、HIMEの証だった。

 HIMEである乙女たちには、体のどこかにその証である紋章が刻まれている。千草の場合は、右のわき腹にその証があった。

「教えてください。この力がいったい何なのか・・」

 沈痛の面持ちで真白に問いつめる。

「HIMEって何なんですか!?理事長さんたちはそんな人たちをこの学園に集めてるらしいですけど・・!」

 問いつめられて、真白も困惑する。少し眼を閉じた後、重く閉ざしていた口を開いた。

「HIMEは、オーファンからこの学園と世界を守る存在です。心の中にある想いでその力を解放する。あなたが擁護した動物も、オーファンに当たるのです。」

「そんな・・本気で・・・!?」

 真白にプリスのことを指摘され、千草は疑念を抱いた。そしてさらにHIMEの宿命の重さに押しつぶされそうになる。

「それ以上のことは、私たちの口からはお話しすることは出来ません。」

 再び沈痛の面持ちを浮かべて、真白は口を閉ざした。千草は何とか迷いを振り切ろうとしながら、彼女に声をかけた。

「私は私のためにこの力を使います。たとえ私と同じHIMEと対立することになっても・・」

「それはちょっと困るんだけどね。」

 決意の言葉をかける千草の背後、部屋の扉の前に凪が姿を現した。

「あなたは・・?」

 千草が振り向いて、無邪気な笑みを浮かべている凪に問いかけた。

「僕は炎凪。君のお兄さんにはいろいろと縁があってね。でも、かなり険悪だけどね。」

「あなたも理事長さんみたいに、HIMEについていろいろ知ってるんですか?」

「まぁね。でも、答えは理事長さんと同じさ。説明できるのはそれだけ。僕の口からはそれ以上出てこないよ。」

 子供染みた態度を見せながら答える凪。それを聞いた千草は沈痛さを噛み締めた。

「もしも何か知っていてあえて教えないつもりでいるのでしたら、私は何も知らないまま、私のためにこの力を使います。それに納得しないんでしたら、知ってることを全部話してくださいね。」

 千草は凪と真白にそう念を押して、思い足取りで部屋を出て行く。二三も見送りのつもりで、彼女に続く。

「やっぱり兄妹だね。ガンコなところも堅くんそっくりだ。」

 凪が半ば呆れた面持ちで呟き、真白に視線を向ける。

「仕方がありません。私たちに、彼らを束縛する権利はありません。」

 それに対し、沈痛の面持ちを見せたままの真白。

「それは彼らへの思いやりかな?それとも手に負えないと思ってるからかな?」

 凪はさらにからかうように呟く。しかし真白はそれには答えなかった。

 

「すみません、二三さん。何か、いろいろ迷惑をかけてしまったみたいで・・」

「いいえ。お気になさらずに。」

 邸宅の外の花畑に来た千草。彼女の謝罪の言葉に、見送りにきた二三は満面の笑顔を見せる。

「ところで、二三さんは料理とかうまいんですよね?よかったら何か教えてくれませんか?」

「お時間があれば構いませんけど・・どんなのがよろしいでしょうか?」

「そうですねぇ・・二三さんの好きな食べ物とか。」

「私のですか?・・ではキドニーパイはいかがでしょうか?真白様はあまりお好きではないのですが、私は好きなのでときどきこっそり作ったりしてます。」

「では、今度その作り方を教えてください。」

「ええ。いいですよ。」

 二三の返答に喜びを見せる千草。一礼してから彼女は邸宅から離れていった。

 彼女は決意を固め始めていた。HIMEの力を持つ者として、1人の少女として。

 そんな彼女が女子寮に戻ろうとしたその帰り道。

 横の林から、逃亡していたトカゲの怪物が飛び出してきた。

「さっきのオーファン!」

 千草が毒づきながら止まり、跳躍して怪物の牙を回避する。

(私は戦う。今まで苦しんで辛い思いをしてきたお兄ちゃんに代わって、私は戦う!)

「ペガサス!」

 エレメントの短刀を握り締め、決意を新たにする千草がペガサスを呼び出す。輝く翼を広げた天馬が、彼女の背後から姿を現す。

 ペガサスは跳躍し、角を活かした突進を繰り出す。しかし怪物は身を屈めてその攻撃をかわす。

「えっ!?」

 驚愕する千草の前で、怪物の振りかざした尾に叩きつけられるペガサス。昏倒し傷つき、思うように動かなくなる。

「ペガサス!」

 千草がたまらず叫び、2本の短刀の柄を合わせる。短刀は組み合わさり、両端に刃のある剣となる。そしてペガサスに追い打ちをかけようとする怪物に、その刃を投げる。

 刃はブーメランのように回転し怪物に向かって飛んでいく。そして振り下ろされようとしていた怪物の尾を切り落とした。

 千草はようやく起き上がったペガサスに駆け寄った。しかしそのとき、怪物が再生した尾を再び彼女たちに向けて叩きつけてきた。

「キャッ!」

 その衝動で千草が吹き飛ばされ、ペガサスも木々に叩きつけられる。

 起き上がった千草。受けた衝撃のために、短刀もペガサスも姿を消していた。

 彼女の眼前に、怪物が唸り声を上げて爪を振り上げる。危機を感じた千草は眼を伏せて身構える。

「カグツチ!」

 そのとき、舞衣の叫びとともに炎の球が放たれ、怪物の頭部に命中する。怪物は怯み、横倒しになる。

 舞衣のチャイルド、カグツチが千草の危機を救ったのだった。

「ま、舞衣さん・・!?」

 千草は驚愕を隠せなかった。舞衣がHIMEであったことと、あのような強大なチャイルドを宿していることに。

 そしてさらに剣を振りかざした命が飛び上がり、起き上がった怪物に向けて剣を振り下ろした。しかしその一閃は空を切る。

「危ない、命!」

 叫ぶ舞衣の視線の先で、怪物が命に向けて尾を振りかざす。しかしその尾が切り落とされていた。

 宙に漂っていた命を抱えて着地したのは、波動の刀を持った堅だった。

「堅くん・・!」

「お、お兄ちゃん・・・」

 怪物を見据える堅に、戸惑いを見せる舞衣と千草。

「堅、ありがとう・・」

 堅に礼を言う命。堅は彼女を下ろし、刀を構える。

「コイツの相手はオレがする。」

 じっと怪物を見据え、堅は胸中で決意を固める。

(オレが戦わなくても、戦うことに迷っていても、オーファンは誰かを傷つけている。だから、オレは迷わない。何をしなくちゃいけないのか、分かった気がするからだ。)

 堅は飛び上がり、尾を再生した怪物の頭部に刀を叩きつける。

(オレが戦うことで誰かが傷ついたり辛くなったりしたなら・・オレがその罪を背負う!)

 新たに秘めた思いを込めて、さらに攻撃を加えていく堅。痛烈な打撃にあえぐ怪物。

 危機を感じた怪物は、堅に背を向け、荒々しい咆哮を上げながら尾を振りかざした。しかしそれも堅の刀に切り落とされる。

 しかしその尾が、困惑したままの千草に向かって飛んでいく。

「しまった!」

「キャッ!」

 愕然となる堅。尾の断片が落下し、その衝撃に千草が巻き込まれる。

「千草!」

「千草ちゃん!」

 命と舞衣も叫ぶ。そこへ駆けつけたなつきとデュランだが、

「くっ!あのままじゃ危ない!しかし、追いつけない!」

 吹き飛ばされて落下する千草を目の当たりにして、なつきがうめく。デュランの位置からでは、最高速で飛ばしても追いつくことができない。

「くそっ!」

 毒づいた堅が刀を捨て、右手に波動を収束させる。そしてその渦を右足に移し、両足の脚力を増強させる。

 10秒間、脚力を一気に増大させる波動の技を使用する堅。

「GO!」

 千草に向かって飛び出した堅。眼にも留まらぬ速さで、落下する千草を受け止める。

 しかしあまりに速い動きをしたため、勢いあまって林を抜けて崖の上まで飛び出してしまった。

「ぐっ!」

 堅はうめきながら、千草を抱えたまま反転する。そして空中を力強く蹴りだし、その反動で崖からの落下を免れる。

 その勢いのまま飛び込み、怪物に高速の蹴りを見舞う。持てる力の全てを使って、頭部に集中攻撃を叩き込む。

「これで終わりだ!」

 タイムリミットまでわずかとなり、堅の両足を渦巻く波動が紅く染まる。堅は叫び、渾身の一撃を叩き込む。

 頭部を地面に強くめり込まれ、怪物は強烈な激痛を受けて消滅する。その前に着地した堅の足の紅い渦が霧散し、波動の力も消滅する。

 一息ついた堅が、抱えられたままの千草に視線を向ける。

「お、お兄ちゃん・・・」

 堅の腕から下ろされた彼女は、未だに困惑の面持ちだった。彼女が言葉を切り出せずにいると、堅のほうから声をかけてきた。

「千草、オレは分かった気がするんだ。いや、思い出したというべきかな。オレが戦うのが何のためなのか。オレはそのために戦いたい。それが間違いだと思うなら・・」

 堅は自分の右の頬に右拳を押し当てる。

「オレを殴れ。」

 その言動は堅の決意と覚悟の表れだった。それに対し千草はうつむいたままだった。

「ゴメンね、お兄ちゃん・・・私もできたよ・・私がどうしたらいいのか、が・・」

「千草・・・」

 困惑の面持ちを見せる堅に、千草は小さく微笑んだ。

「わたし、お兄ちゃんを信じる。できることなら、お兄ちゃんの辛さや苦しみと、分かち合いたいとも思ってる・・」

 兄を信じることを心に決めて、笑みを向ける千草。そして軽い足取りで舞衣に駆け寄る。

 すると舞衣は心からの笑みを見せて、

「“お兄ちゃん”にはナイショだね。」

「そうですね。」

 小声で秘密の約束を交わす舞衣と千草。

「堅、実は千草は・・!」

 そこで命が歓喜の表情で呼びかけると、なつきがムッとした表情で彼女の口を塞ぐ。

「アイツはHIMEが嫌いなんだ。自分の妹がHIMEだと知ったら、アイツは・・」

 語りかけていくにつれて、なつきが沈痛の表情になる。その前で、彼女に口を押さえられている命が、息苦しさを覚えて暴れだしていた。

 

 私は決めました。逃げずに、眼をそらさずに立ち向かうことを。

 今まで眼をそむけてきたのは、自分が通りすがりだったから。

 普通に考えても謎だらけなのに、それをさらに謎に押し込めていたから。

 だから分からなかった。

 でも、私もその謎に深く関わる力を持ってるなら、私もその当事者。

 もう知らん振りなんてできない。

 だから戦う。あの人のために。みんなのために。

 

 

次回

第13話「宗像詩帆」

 

「今日はお兄ちゃんと遊園地でデートなんだよー。」

「お姉ちゃんには、本当に感謝してるよ・・」

「あなたが、シアーズ財団に雇われた方ですか?」

「たまには私を頼りにしてよね、お兄ちゃん。」

「舞衣ちゃんやなっちゃんなら、信じてもいいのかもしれない・・」

 

 

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