舞HIME −elemental destiny- 7th step「elements」

 

 

 カグツチとの同化を果たした舞衣に押される命とミロク。1対2という状況であるにも関わらず、炎の竜が優位に達していた。

「命、お願いだからもうやめて!」

 カグツチの影に、一糸まとわぬ姿の舞衣が現れる。

「舞衣!私は兄上のことが好きなんだ!だから私は舞衣を倒す!」

 しかし命は兄である黒曜の君の意思に駆り立てられて聞こうとしない。

「兄上を傷つけようとする者は、私が許さない!」

 その眼に再び不気味な眼光が宿る。

「たとえ舞衣でも!」

 命もミロクとの同化を果たす。巨大な鬼が高らかと咆哮を上げた。

 

 ウラヌスを振るうハイネと、プルートを構える祐一。軍人との鍛錬を重ねてきたハイネだが、剣道で腕を磨いた祐一に押され始めていた。

「ぐっ!何だよ、お前は!・・冗談じゃないぜ!」

 息を荒げながら愚痴をこぼすハイネ。祐一も息を荒くしていたが、集中力は全く途切れてはいない。

「オレには・・オレたちには、負けられない理由があるんだ!」

 決意をあらわにして叫ぶ祐一。その想いがプルートに伝達し、刀身が光り輝く。

 その剣を振り抜く祐一。光の刃がハイネに向かって飛びかかる。

「ちぃっ!」

 ハイネが舌打ちしながらそれをかわす。その刃が観客席に到達し、破壊をもたらす。

 祐一がさらにプルートで攻撃を仕掛ける。ハイネにかわされたその攻撃が客席に叩き込まれ、観客が逃げ惑い始めた。

「見境なしかよ・・このヤロー、生意気な!」

 激昂したハイネが祐一に飛びかかる。しかし振り下ろされたウラヌスを、祐一のプルートが弾き飛ばす。

「何!?」

 驚愕を見せるハイネも、その衝動で弾き飛ばされる。

「エレメンタルスライガー、スタートアップ!」

Elemental Sliger come closer”

 体勢を立て直しながら、ハイネが腕のスピーカーに呼びかけると、機械音が返ってくる。そこへ祐一が再度飛びかかってくるが、ハイネは身を翻してかわす。

 しかしそれを読まれ、祐一に追撃を許す。回避する際にバランスを崩し、しりもちをつく。

「しまった・・!」

「終わりだ!」

 毒づいたハイネに向けて、祐一がプルートを振り上げる。

 そこへひとつの刃が飛び込み、祐一はとっさにプルートのつばで受け止める。距離を置いて視線を戻すと、左手を剣に変えていた深優の姿があった。

「お前・・・深優・・!」

「アリッサお嬢様の意思により、あなた方を排除いたします。」

 

 Multiple

 Intelligential

 Yggdrasil

 Unit

 

 動揺を見せる祐一を見据える深優に、臨戦態勢のスイッチが入る。破邪の剣、ネプチューンを装備した左手を構えて、祐一に素早く飛びかかる。

 祐一がこれをプルートで受け止める。素早く振り下ろされたネプチューンの刃を、ギリギリのところで受け止めていた。

 そのとき、会場の天井を突き破って、巨大な機体が降下してきた。ハイネの機動マシン、エレメンタルスライガーである。

 察知して後退する深優。虚を突かれた祐一が、その黒い機体に弾き飛ばされる。

「ハイネさん。あなたは鴇羽舞衣さんをお願いします。命さんの援護をお願いします。」

 着地した深優がエレメンタルスライガーに乗り込んだハイネに指示を送る。

「獲物を横取りされるのは癪に障るが、四の五の言ってる場合でもないよな。」

 ハイネは渋々承諾して、命と激闘を繰り広げている舞衣に狙いを定めた。

「待て!」

 祐一がハイネを追いかけるが、深優に行く手をさえぎられた。

 

 エレメンタルスライガーを駆るハイネに、戦いを繰り広げていた舞衣と命が気付く。

「あのとき仕留め損なった借りを返してやる!」

 いきり立ったハイネが、カグツチに向けてミサイルを発射する。黒い機体からミサイルの群れが、炎の竜を狙う。

 カグツチと同化している舞衣が飛翔してかわすが、ミサイルの数発が右の翼をかすめる。

「うぐっ!」

 カグツチが受けた傷と痛みが舞衣にも及ぶ。一糸まとわぬ彼女の右腕に紅い亀裂が生じ、血飛沫が散る。

(これがカグツチの痛み・・・こんなに辛いなんて・・・!)

 チャイルドの受けた痛みに毒づく舞衣。そんな彼女に向けて、命とハイネが容赦なく襲い掛かってきた。

 

 静留の手と清姫の牙にかかり、消滅した遥と雪之。光の粒が舞い上がったその場所を、なつきはじっと見つめていた。

 遥と雪之は友情の絆で結ばれていた。それは、なつきと静留の友情と同じだろうか。

「静留・・お前が私を好きでいるように、私もお前のことを好きでありたい。」

 なつきが静留に向けて語りかける。その顔には笑みがなく、真剣な面持ちだった。

「私とお前の“好き”に食い違いがあることも覚悟している。だから、私は自分の気持ちを大事にしたいと思う。たとえそれがお前を裏切ることになっても。」

「それがうちを好きになることなら、うちはそれを心に留めておきます。」

 なつきの気持ちに静留が微笑んで小さく頷く。

「私は、独りになっていた私に接してくれたお前を大事にしたい。だから、私はこの想いを守る。」

 静留に言い放って、なつきは近くにあったバイクに駆け寄る。乗り捨てられたもののようで、キーも刺さったままだった。

「静留、お前を傷つけることになっても・・私自身を死に追いやることになっても!」

 そのバイクのエンジンをかけながら、エレメントの銃を出現させる。その銃口を静留に向けながらバイクを走らせて突っ込んでいく。

 静留が物悲しい笑みを浮かべながら、長刀を構える。自分となつきの互いを想う心にすれ違いがあることを悟って、彼女は戸惑いを感じていた。

 バイクによる突進を静留が身を翻してかわすと、なつきは転回して発砲する。弾丸が地面を叩き、静留の動きを鈍らせる。

 そこへなつきが発砲を続けながら再度突進する。そこへ静留が長刀を振り下ろす。

 機体を切り裂かれたバイクが爆発し、弾き飛ばされるなつき。

「くっ!デュラン!」

 うまく体勢を立て直しながら、なつきが自らのチャイルドを呼び出す。銀の体をした狼が静留と清姫の前に立ちはだかる。その大きさは通常のものではなく、清姫に勝るとも劣らないほどだった。

 飛び上がったなつきが、そのままデュランとの同化を果たす。銀の狼の眼光が鮮やかに光りだす。

「チャイルド・・大切な人への心が生み出す異形の子・・想いが強まるほど、その想いは力となる!」

 デュランの影に現れた一糸まとわぬなつきが、静留に言い放つ。

「デュラン、GO!」

 そしてデュランに号令を送る。そのやり取りは、まるで自分に言い聞かせるようにも感じ取れた。

 なつきの駆るデュランが、清姫に向けて突っ込む。その突進を受けて、大蛇が突き飛ばされてアリーナ会場の入り口に倒れ込む。

「覚悟はできてはるようね・・なら!」

 静留も覚悟を決めて、長刀を構え、清姫を駆る。咆哮を上げながら、大蛇の頭がデュランに向けて飛びかかる。

 それをデュランは素早い身のこなしでかわしていく。そして背の銃身の銃口を、清姫に向ける。

「デュラン!ロードフラッシュカートリッジ!」

 なつきの指示で銃身に弾丸が装てんされる。

「ってぇ!」

 放たれた弾丸が、清姫の上空で破裂し、まばゆいばかりの閃光を放つ。敵の視界をさえぎる閃光弾が、静留の行く手を阻む。

「ロードクロードカートリッジ!」

 そして今度こそ、動きの鈍った清姫に狙いを定め、銃身に弾丸を装てんする。

「ってぇ!」

 放たれた弾丸が清姫に命中し、爆発を引き起こす。

(やったのか・・・)

 燃え盛る炎を見つめて、なつきが息をのむ。静留に想われている彼女だが、まだHIMEの想いの消滅による死の痛みは来ない。

 そのとき、炎と煙に紛れて巨大な頭が飛び出し、デュランの銃身のひとつを捕らえる。

「何っ!?」

 虚を突かれたなつき。振り払おうとするが、頭を見せてきた清姫の力が、先程よりも格段に上がっている。

(バカなっ!?今の攻撃なら、静留のチャイルドを倒すことができたはずなのに・・!?)

 なつきも清姫の強化を疑った。

(まさか!?)

「静留!」

 思い立ったなつきが驚愕の面持ちを見せ、思わず叫ぶ。

「なつき・・なつきを必ず、うちのもんにしてみせます・・・」

 清姫の影から一糸まとわぬ姿の静留が現れる。同化を果たすことで、デュランの攻撃に対する戦闘力を向上させ、凌いだのである。

 なつきへの一途な想いを秘めて、静留が妖しい笑みを浮かべた。

 

 プルートを振るう祐一とネプチューンを装備した深優。素早く繰り出される深優の攻撃を、祐一はプルートの力を最大限に生かし迎撃する。

 右手首からワイヤーを射出して、機敏に攻撃を繰り出す深優。しかしエネルギーを刀身にまとったプルートにことごとくはね返される。

「やああぁぁっ!」

 声を張り上げる祐一の振りかざしたプルートの光の刃が、深優のネプチューンの刀身を叩き折る。そして光刃が彼女を観客席に叩き込んだ。

 大きく息をつきながら、その客席のほうへと見やる祐一。その場から深優の動きが見られなかった。

 

 ハイネの乱入で、命に優位に立っていた舞衣が互角の戦いに持ち越されていた。ミロクとエレメンタルスライガーの挟み撃ちにあいながら、彼女は打開の糸口を必死に探していた。

「もらったぁっ!」

 ハイネがカグツチに向けて、ミサイルをいっせいに発射する。同時にいきり立った命の駆るミロクが、巨大な棍棒を振り上げてきた。

(どうしよう・・このままじゃやられる・・・!)

 当惑する舞衣が、この危機の打破を探る。そして思い立った彼女は、とっさにカグツチを消す。

 元の衣服とエレメントの炎の腕輪をまとった姿で現れた彼女が、高く飛翔する。

「何ぃっ!?」

 虚を突かれたハイネのエレメンタルスライガーに、振り下ろされたミロクの棍棒が叩き込まれる。黒い機体が鬼の強烈な打撃に大破し爆発し、ハイネは会場の床に弾き飛ばされる。

 同時にミサイルの群れがミロクに直撃する。強烈な爆撃を受けた鬼が、会場の壁に叩きつけられる。

 気転を利かせて危機を回避し、さらに同士討ちに誘い込んだ舞衣。炎の巻き起こるその場を見下ろして、命の安否を確かめる。

「命・・無事なの、命・・・!?」

 探りを入れながら命に呼びかける舞衣。しかし命の姿は見当たらず反応もない。

 そのとき、アリーナ会場の正面の入り口が突然爆発を起こし、そこから2つの巨大な何かが飛び出してきた。振り返った舞衣と祐一が眼を凝らすと、それはデュランと清姫だった。

「なつき!静留さん!」

 舞衣が声を上げる。清姫の頭部の2つが、デュランの背の2つの銃身に噛み付いて、動きを封じていた。

「なつき・・もう放しまへん・・アンタはうちのもんや・・・」

 清姫の影に現れた静留が冷淡な笑みを見せる。必死に振り払おうとするなつきだが、静留と同化した清姫の力は強く、逃れることができない。

 密着状態の続くこの状況の中、なつきはふと小さく笑みを浮かべた。

「・・一緒にいこうか・・静留・・・」

 呟くようなその一言に、静留が眉をひそめる。覚悟を決めたなつきが、デュランに叫ぶ。

「デュラン!ロードシルバーカートリッジ!」

「なっ・・・!?」

「シルバーカートリッジ、ゼロ距離起爆!」

 静留が眼を見開いた瞬間、デュランの銃身に装てんされた弾丸が、放たれないまま爆発を起こす。弾け飛んだ弾丸から水晶の刃が拡散し、デュランごと清姫の体を貫いた。

 青白い炎に包まれて消滅する2体のチャイルド。その中から裸のなつきと静留が現れる。

 同様の青白い炎と光の粒子に包まれる2人。なつきが呆然と見つめる先で、静留が彼女に微笑を向ける。

「なつ・・き・・・うち・・は・・・」

 なつきへの想いを口ずさみながら、静留は光となって消滅した。

「なつき!」

 脱力して倒れるなつきに、舞衣と祐一が駆け寄る。舞衣が力を失くしていくなつきの体を支える。

「なつき・・・!」

「玖我・・・お前・・・!」

 舞衣が悲痛の声を上げ、祐一も沈痛の面持ちを見せる。

「舞衣・・祐一・・・私は・・自分の気持ちを守れた気がしている・・・この気持ちを貫き通すことができたのは・・お前たちのおかげだ・・・」

 もうろうとしている意識の中で、なつきが小さく微笑む。

「お前たちなら・・この淀んだ世界の光になれる・・・私は・・そう信じてる・・・」

 そう告げて、なつきは瞳を閉じた。

(・・・静留・・私も、お前のことが好きだ・・・)

 静留への想いに浸りながら、なつきは光となって消滅した。舞衣の手の中から、彼女の姿が消える。

 その手を握り締めて、舞衣がうなだれるように涙を流す。祐一も悔やみきれない面持ちで、拳を強く握り締めていた。

 

 アリーナ会場内で繰り広げられていたHIMEと一番地の戦い。その戦況を、アリッサは別室からうかがっていた。

「やはり私が行かなくてはいけないようですね。私が、この世界に黄金の時代をもたらしましょう。」

 呟くように告げて、アリッサは部屋を後にした。

 混沌に満ちた世界の中で人々が求めている希望。それはアリッサの言う「黄金の時代」と同一のものなのだろうか。

 

 壮絶なHIMEの戦いと、悲痛さにさいなまれている舞衣と祐一を目の当たりにして、会場の客席は静まり返っていた。そんな重い空気の舞台に、黎人が再度、姿を現した。

「すばらしい戦いだったよ。結果、HIMEが4人倒れた。HIME同士が想い合っているのは、実に皮肉なものだよ。想いの死が相殺へと導くことになるのだから。」

 黎人がこの現状をあざ笑う。その言動が祐一の感情を逆撫でする。

「黎人さん・・いや、黒曜の君!お前のくだらない考えは、オレたちには通じない!」

 祐一がプルートの切っ先を黎人に向ける。しかし黎人はさらに笑みをこぼす。

「ずい分な戯言だな。ではどうする?僕を倒すのか?僕を倒せば全てが終わると思っているのかい?」

「さぁな。先のことなんて分かんねぇけどさ、やらなくちゃいけないことぐらいは分かってるつもりだ。」

 祐一が不敵な笑みを見せる。彼の言葉に舞衣が戸惑いを見せる。

「そうか・・自分のすべきことのために僕と戦うか。それもいいだろう。だが、君たちが僕たちに勝つことは皆無だよ。」

「何だと・・!?」

「凪。」

 苛立つ祐一を横目にして、黎人が指示を出す。すると突如姿を現した凪が、持っていた1本の剣を黎人に手渡した。

「我が君の仰せのままに。」

 そう告げて凪が離れる。黎人はその剣の鞘を抜いた。不気味な輝きを宿した刀身が、舞衣たちや観客たちにさらけ出される。

「そ、それは・・・!?」

 祐一がその剣を見て驚きをあらわにする。黎人はその剣を見せ付けるようにして、彼らに語りかける。

「これも破邪の剣さ。ただし鞘に収めていなければ、僕以外は触れることもできなくなるが。」

「破邪の剣だって!?・・バカな・・破邪の剣は、世界で3本だって・・!」

 黎人の言葉に祐一が驚愕する。

「実在したんだよ、4本目が。だがこれは、他の3本の破邪の剣の原点となっているものだ。」

「原点・・・!?」

「死をつかさどる破邪の剣、サターン。3本の破邪の剣の長所を兼ね備えている。だがその強大な力なため、僕以外に扱うことはできない。」

 不敵な笑みを見せる黎人に、舞衣は困惑を見せ、祐一が焦りを込めた笑みを浮かべる。

「参ったな・・そんなすげぇのを相手にするのか・・・けどよ、ここで退くわけにはいかねぇな。」

 追い詰められているような口ぶりを見せながらも、祐一はプルートを構える。単純に考えても、ウラヌスとネプチューンの力を兼ね備えている点で劣勢を強いられていたが、祐一はあくまで立ち向かうことを選んだのだった。

「ならば、このサターンの力の前に消えるがいい。」

 黎人もサターンの切っ先を祐一に向ける。そして視線を舞衣に向ける。

「舞衣さん、あなたの相手は私ではない。彼女が君の相手をしてくれる。」

「彼女?」

 舞衣が聞き返すと、黎人が視線を会場の入り口に移す。そこから庵に連れられて、1人の少女が登場してきた。

 黒いドレスに黒い帽子。黒ずくめの衣装を身にまとっていた。ただ、帽子から下がっている髪の色は鮮やかな桃色だった。

「舞衣HIME、アンタの相手はこの黒いHIMEがする。気は抜かないほうがいいぜ。あっけなく終わっちまったら、いろいろつまんなくなっちまうからな。」

 庵が不敵な笑みを浮かべて言い放ち、黒いHIMEの帽子を外す。その姿に舞衣と祐一が驚愕する。

 黒いHIMEは詩帆だった。4つのテールは解かれ、帽子が外された髪が鮮明に舞って下がる。

「詩帆・・・!?」

「詩帆ちゃん・・・!?」

 突然の詩帆の登場に、舞衣も祐一も動揺を隠せなかった。彼女に詩帆が射殺すような鋭い視線を向ける。

 そして間一髪のところで一命を取りとめ、満身創痍のまま立ち尽くしているハイネを眼にして、詩帆の視線が緩む。

(ハイネさん・・ハイネさんは、詩帆が守ってあげるからね・・)

 彼に一途な想いを胸に秘めて、詩帆が再び舞衣を見据える。彼女の想いが庵の策略の上で成り立っていて、ハイネが何の感情も向けていないことに、彼女は気付いてはいなかった。

 両手を掲げ、意識を傾けると、彼女の両手両足に腕輪が出現する。舞衣のエレメントと同じ形、黒い色をした炎の腕輪をまとった詩帆に、舞衣と祐一がさらに驚愕する。

「そのエレメント・・・!?」

 当惑の中で問いかける舞衣。詩帆はそれを聞かず、さらに意識を集中する。

「ヒエイ。」

 呟くような彼女の呼びかけで、黒い炎が舞台に舞い上がった。その炎から巨大な影が姿を現す。

 その姿はまさにカグツチだった。しかし白い体と紅い炎のカグツチとは対称的に、詩帆のチャイルドは黒い体、黒い炎、金色の眼光を持っていた。

 舞衣と祐一への憎悪、ハイネへの想いが形となった詩帆のチャイルド、ヒエイである。

「詩帆ちゃん・・どうして・・・!?」

 舞衣が敵対の意思を見せる詩帆に問いかけると、詩帆は鋭い視線を向けながら口を開いた。

「やっと分かったの・・・舞衣さんもお兄ちゃんも、私のことを騙していただけだって・・・」

「騙したって・・・!?」

 詩帆の言葉の意味が分からず、舞衣はさらに当惑する。

「私を傷つける舞衣さんもお兄ちゃんももういらない・・詩帆はハイネさんと一緒に、幸せな世界を作るのよ・・・!」

 静かな憎悪を秘めて、舞衣に敵意を見せる詩帆。その感情に促されてか、黒い竜、ヒエイが咆哮を上げながらカグツチに飛びかかる。

「カグツチ!」

 突き飛ばされたカグツチに舞衣が声を荒げる。そこへ黒い炎の腕輪を駆使して、詩帆が彼女に飛びかかってきた。

 

 

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