舞HIME −elemental destiny- 6th step「impulse」

 

 

 舞衣の帰還の決意を秘めた夜が明けた。空は朝日が眩しく輝き、乙女たちの挑戦を神々しく照らしていた。

 その砂浜に舞衣たちHIMEが集まっていた。そこへ祐一が慌しい面持ちで駆けつけてきた。

「いない!詩帆の姿がどこにも!」

 彼は詩帆の姿が見えないことを知り、心当たりのある場所を徹底的に探して回った。しかし彼女の姿はどこにも見当たらなかった。

「詩帆ちゃん、いったいどこに行っちゃったのかな・・・?」

 舞衣も心配そうに周囲を見回す。ダイアナの力を駆使して詩帆の行方を追っていた雪之も、困った顔をして首を横に振る。

「この風華の地にはいないようです。もしかしたら・・・」

 雪之がさらに捜索範囲を広げようとすると、遥がそれを制する。

「あんまり背負い込まないほうがいいわよ。ここにいないとしたら、後は・・」

「おそらくな。一番地の連中に拉致された可能性が高い。」

 遥の言葉になつきが続ける。その言葉に舞衣と祐一が息をのむ。

「いずれにしろ、私たちは連中との戦いに決着をつけなくてはならない。それぞれの想いの決着も含めて。私たちを想ってくれる人たちのためにも、想いとともに命を散らした者たちのためにも・・・」

 戒めと決意を込めたなつきの言葉に舞衣たちも頷いた。

「命のことも気になるし。詩帆ちゃんがもし捕まってるなら、助けてあげたい・・・」

「私は静留の考えを知りたい。なぜ一番地に組しているのか・・・」

 舞衣となつきが命と静留のことを考える。すると遥がムッとした面持ちを見せる。

「気に留める必要はないわ。あのぶぶづけ女も美袋命も、私たち風華を裏切って一番地に寝返ったのだから。」

「でも、せめてどうして一番地に従っているのか、確かめたい・・・」

 遥が突き放す言い方をすると、雪之も呟くように告げる。

「みんなに幸せになってほしいって・・千尋ちゃんも、きっとそう思うから・・・」

 千尋の笑顔を思い返しながら、彼女は決意を秘める。

「そうだな・・扇もそう思っていたはずだ。だからオレにこれを・・・」

 祐一も扇のことを思い返し、プルートの柄を握り締める。消えていく前に、扇は彼にこの剣を託したのだった。

「舞衣、オレも戦う・・みんなのために、オレ自身の心のために・・・」

 舞衣に笑みを見せた後、彼は水平線を見据えた。その先には一番地との決戦が待ち構えていた。

「それじゃ、行きましょう、みんな。」

 舞衣はみんなに指示を告げて、赤のスカーフを身に付けた。なつきたち他のHIMEたちも同じスカーフを身に付けた。これが風華のHIMEとしての証を表していた。

 

 一番地の中心地に通ずるビル街。その正面の道に舞衣たちは踏み込んできていた。

 相手の裏をかく策略は一番地には通用しない。ここまできたら正面突破するしかない。彼女たちの気持ちに迷いはなかった。

「大胆不敵な攻めに、向こうは落ち着きがなくなってるようね。」

「まさかこちらが真正面から来るとは思っていなかったようだな。」

 勝気な笑みを見せる遥と、不敵な笑みを見せるなつき。彼女たちの言葉どおり、軍人たちは虚を突かれて動揺を見せていた。

「詩帆ちゃんはこのビル街のどこかにいます!」

「ホントか!?」

 詩帆の行方をついにつかんだ雪之に、祐一が驚きの声を上げる。

「はい!あの建物の地下の部屋にいます!」

 雪之はビル街の中心、巨大なアリーナ会場を指し示した。エレメントの鏡には、うつむいたまま部屋に閉じこもっている詩帆の姿が映っていた。

「舞衣、祐一、お前たちは詩帆のところへ行け!私はこいつらを倒してから行く!」

 なつきが言い放ち、エレメントの銃を出現させて、軍人たちに銃口を向ける。

「でも、なつきは・・!」

「待ちなさい!あなたに勝手な行動をされては困るわ!」

 舞衣が戸惑いを見せると、遥も勇んで前に出る。

「それに、これだけの大人数、あなたよりも私のほうが適任よ。舞衣さん、祐一さん、ここは私に任せなさい!」

 遥は歓喜の笑みを見せて、エレメントのハンマーを呼び出す。

「雪之、サポート頼むわよ!」

「はいっ!」

 遥の指示に雪之も頷き、エレメントの鏡を出現させる。

「デュラン!」

「光黙天!」

「ダイアナ!」

 そして各々のチャイルドを呼び出し、軍人に対して臨戦態勢を取る。

「行ってください、舞衣さん、祐一さん!命ちゃんと詩帆ちゃんのこと、頼みましたよ・・!」

「雪之ちゃん・・・」

 雪之も援護に回り、舞衣は困惑を隠せなくなる。

「行こう、舞衣。命と詩帆を助けに。」

「・・・うん!」

 差し出された祐一の手を、舞衣は頷きながら取る。そして2人は道の脇をすり抜けていく。

「行くわよ!光黙天、天誅ビーム!」

 遥の号令で、光黙天が口から光線を発射する。軍人がなぎ払われ、血路が開かれる。

「今よ!」

 彼女のこの声に、舞衣と祐一は一気に駆け出した。

(なつき、遥さん、雪之ちゃん・・・ありがとう・・・!)

 援護に回った3人に感謝の気持ちを込めて、舞衣は振り返らずに駆け出した。

 

 雪之の導きを受けながら、舞衣と祐一は目的の場所のアリーナ会場に到着した。足を止めずに中に入り、薄暗い道を駆け抜ける。

 そして明かりの灯っている場所に出ると、そこでは大歓声が湧き上がっていた。

「な、何だ・・!?」

 祐一も舞衣も唖然となりながら、その広場の周りを見回す。周囲の観客席には大勢の人々が歓声を上げて、この場を盛り上げていた。

 この雰囲気は、まるで2人をステージの主役にしているようだった。

「待っていたよ、舞衣さん、祐一くん。」

 そこへ、広場の中央からゆっくりと歩み寄ってくる青年が声をかけてきた。黒髪に黒い制服。黒曜の君、神崎黎人である。

「黎人さん・・・」

 困惑の面持ちを見せる舞衣たちの眼前に、黎人が足を止めて不敵な笑みを見せる。

「君たちがここに来ることは分かっていたよ。君たちが真正面から堂々とやってきたならなおさらのことさ。」

「黎人さん・・いや、黒曜の君!これはどういうことなんだ!?何の騒ぎなんだ!?」

 祐一が黎人に問いつめる。すると黎人は笑みを消さずに答える。

「これはHIMEを破滅させる様を見届ける祭りだよ。HIMEの全滅とともに、世界の平和を人々が祝福するのだよ。」

「ふざけるな!HIMEがやられたら、そいつの想ってるヤツが消えちまうんだぞ!それを平和だとか、見せ物にしやがって・・・!」

 語る黎人に憤慨する祐一。持っていたプルートを構え、切っ先を黎人に向ける。

「君たちの想いが、この世界を救うことになる。光栄に思うべきだと思うがね?」

「人の想いを生贄にしやがって・・・!」

 祐一がいきり立って、プルートを振り上げて黎人に飛びかかった。そこへウラヌスを振りかざしたハイネが割って入ってきた。

「ぐっ!」

「祐一!」

 祐一がハイネに突き飛ばされ、舞衣が叫ぶ。体勢を立て直した彼の前に、ハイネが不敵な笑みを浮かべて立ちはだかる。

「悪いがそいつはオレの相手だ。お前はお前らしく、高みの見物でもしてるんだな。」

「フッ・・そうさせてもらうとするか。」

 ハイネが言い放つと、黎人は振り返ってこの場を離れる。

「ハイネ・ヴェステンフルス、行くぜ!」

 ハイネがウラヌスを振り上げ、祐一に攻撃を仕掛ける。

「祐一!」

 舞衣がたまらず叫び、意識を集中してエレメントの炎の腕輪を出現させる。

「舞衣!」

 そこへ幼い少女の声がかかり、舞衣が振り返る。その先には、エレメントの剣を下ろしている、黒のおさげの少女、命の姿があった。

「命・・・!?」

 舞衣の心に動揺が走る。彼女に命が剣を構えていたのだ。

「命、どうしてこんなことするの?・・・それが正しいことだって思ってるの・・・?」

「・・・兄上の、ご命令だ・・・」

 舞衣の問いかけに、命は彼女に普段見せるような無邪気な態度ではなく、低い声音で答えた。

「確かに舞衣も好きだ・・だが、私は兄上のことが好きなんだ・・・」

「私、よりも・・・」

 舞衣のその答えに、命が一瞬動揺を見せる。しかし剣を構えなおして、

「も、もちろんだ!私は兄上のためにいる!そして・・舞衣を倒すために・・・!」

 その剣を床に突き立てると、その刀身と同じ黒い刃が突き上げてきた。

「ミロク!」

 そしてその床から、巨大な怪物が姿を現した。黒と赤茶に彩られた体に3本の腕。うち1本が棍棒を握り締めていた。正面には鬼の顔。

 兄である黒曜の君から受け取った命のチャイルド、巳六(ミロク)である。

 ミロクが振り上げた棍棒を舞衣に向けて振り下ろした。舞衣はこれを腕輪の浮力を利用してこれを回避する。

 強烈な一撃によって床が爆発を起こす。体勢を立て直す舞衣に、命が飛び込んで剣を振り下ろす。これを舞衣が腕輪による炎の壁で防ぎ、衝突の反動で2人が弾かれる。

「カグツチ!」

 舞衣はとっさにカグツチを呼び出す。彼女の影から炎の竜が姿を現し、咆哮を上げる。

 そして自らのチャイルドと同化し、一体となる舞衣。命とミロクの挟み撃ちを受けるリスクが伴うが、カグツチを強化することはできた。

「命、私も命のことが好き・・だから、私も戦う。この気持ちを大事にしたいから・・!」

 命に対する想いを胸に秘めて、舞衣はあえて彼女と戦うことを選ぶ。彼女の首から下がった宝玉が不気味に光りだす。狂気に駆り立てられて不気味な眼光を放つ彼女が飛び上がり、カグツチに向けて剣を振り下ろした。

 

 舞衣と祐一を先に行かせたなつきたち。彼女たちのチャイルドとエレメントの攻防の前に、一番地の軍人たちはなす術がなかった。

「いい加減分かったでしょ?あなた方では私たちには勝てないと。」

「死にたくなかったらそこをどけ!できるならムダに命を奪いたくはない!」

 遥が勝ち誇り、なつきが銃口を向ける。彼女たちHIMEの脅威に圧倒され、軍人たちが道を開ける。警戒を解かないまま、なつきたちはその道を突き進んだ。

「雪之、舞衣たちは今どこだ!?」

「あの建物の中にいます!戦ってるのは・・・命ちゃん!?」

 なつきの言葉を受けて舞衣たちの行方を探っていた雪之だが、敵対している命に驚く。

「やはりあの子、私たちを・・・!」

 遥が命の言動にうめく。

「大丈夫だ!舞衣なら、命を連れ戻してくれる!」

 なつきが信頼を込めた言葉をかける。家族以外で命が心を許したのが舞衣であることを彼女は知っていた。

 やがてアリーナ会場にたどり着いたなつきたち。その入り口の前に立つ人物を見つけ、足を止める。

 薄紅藤の着物を身にまとい、顔には般若の面を被っていた。しかしその長い髪から、なつきはその人が誰かすぐに分かった。

「ちょっとあなた、邪魔をするなら容赦はしませんよ。そこをどきなさい。」

 遥が前に出て言い放つが、その人物は退こうとしない。

「しず・・る・・・!?」

「えっ!?」

 なつきの呟くような声に、遥と雪之が驚きを見せて、その人物に視線を戻す。

「やっぱり、なつきには分かってたようね。」

 その女性が落ち着きのある声をもらし、般若の面を外す。その素顔は静留だった。

「静留、これはいったいどういうことなんだ・・・なぜ一番地に・・・!?」

 なつきが沈痛の面持ちで静留に問いかける。すると静留は物悲しい笑みを浮かべる。

「なつきには辛い思いをさせとうなかったんよ。せやさかい、うちは一番地についたんよ。」

「バカな・・一番地にいいように利用されて・・お前はそれで満足なのか!?」

 憤りをあらわにするなつき。しかし静留は顔色を変えない。

「それがなつきのためになるなら・・・うちは、なつきを愛してます・・・」

 なつきに対する静留の想いは純粋で一途だった。なつきも静留を想っていた。しかし互いの想いは受け入れ合うものではなかった。

 2人の想いはすれ違い、今、戦いへと発展しようとしていた。

「静留・・・」

 なつきはそんな不条理が悲しかった。初めて友として接してくれた相手との対立が辛かった。

「お話は終わりましたか、お二人さん?」

 そんな2人に、見かねた遥が憮然とした面持ちで割り込んできた。

「これで分かったでしょう、なつきさん。この女は風華の生徒会長でも、あなたのお友達でもない。私たちに敵対する、一番地の手下よ!」

 言い放ち、静留に向けて指差す遥。静留の笑みが冷淡なものに変わる。

「下がりおし。アンタの出る幕やあらへん。うちはなつきを・・」

「愛してるって言うんでしょ!そんなの、耳にコブができるくらい聞かされたわよ!」

「耳にタコだよ、遥ちゃん。」

 雪之に間違いを指摘され、遥は赤面しそうなところを何とかこらえる。

「と、とにかく、あなたの身勝手な想いに比べたら・・!」

 言い続けながら、遥が静留に見せ付けるように雪之を抱き寄せる。突然のことに雪之が頬を赤らめる。

「私と雪之の信頼には遠く及ばないわ!」

「遥ちゃん・・・」

 言い切った遥に雪之が当惑する。幼なじみである2人は、強い友情の絆で結ばれていた。

 しかしそれをあざけるように、静留が微笑をもらす。

「ンッフフフ・・惨めやねぇ。そんなもんでうちに勝った気でいるなんて・・・」

 手に持っていた般若の面を捨て、エレメントの長刀を呼び出してその柄を握る。

「清姫。」

 静留が呼びかけると、背後の床から巨大な影が現れた。彼女のチャイルド、清姫が遥たちを睨んで咆哮を上げる。

「うちとなつきの邪魔をするものは、全てうちが倒したるさかい。」

「静留!やめろ!」

 なつきが呼び止めようとするが、静留は聞こうとはしない。

「なつき、待っとってな。すぐに終わらせるさかいに。」

 静留が困惑するなつきに笑みを向けてから、遥に長刀の切っ先を向ける。

「もはや問答無用というわけね。いいわ!この珠洲城遥が、制裁を下してやるわ、このぶぶづけ女!」

 遥が言い切って意識を集中する。HIMEの証である紋章が額に浮かび上がり、彼女の右手にエレメントのハンマーが出現する。

「雪之、サポート頼むわよ!」

「は、はいっ!」

 遥に指示をされ、雪之が返事をする。遥がハンマーを構え、静留に向けて飛びかかる。

 振り下ろされたハンマーを、静留の長刀が受け止める。強い衝撃と激しい火花が巻き起こる。

「なかなかのもんやけど・・」

 微笑をもらす静留。いきり立っている遥。

 静留の長刀の刀身が分割され、鞭のような動きで遥のハンマーの鉄球をからめ取る。そして遥をそのまま振り払う。

「うわっ!」

「遥ちゃん!」

 前のめりに倒れる遥に思わず叫ぶ雪之。静留が立ち上がる遥を見つめて笑みをこぼす。

「今度は清姫と勝負してみる?」

 安い挑発をする静留に、遥は不敵な笑みを見せる。

「上等じゃないの・・受けてやるわよ!雪之!」

 遥が叫ぶと、雪之が真剣な面持ちで頷き、意識を集中する。

「光黙天!」

「ダイアナ!」

 2人がそれぞれチャイルドを呼び出す。光黙天が清姫を見据え、ダイアナが胞子を散布して包囲網を展開する。

「光黙天の天誅ビームは強力よ。でも雪之のダイアナの援護を受けて、さらに威力を増すのよ!」

 遥が静留にハンマーを向けて言い放つ。

「必殺!粛清フラッシャー!」

 彼女の号令を受けて、光黙天が清姫に向けて光線を放つ。それを清姫は首を動かしてかわす。

「甘い・・ん?」

 低く告げる静留だが、背後から突然光線が飛んできた。彼女は長刀で受け止めつつ、紙一重で回避する。

 着地した静留が、不敵に笑う遥に振り向く。

「ただの天誅ビームと思ったら命取りになるわよ!」

 言い放つ遥に、静留が背後を振り返る。光線が飛んできた方向には、ダイアナの胞子が浮遊していた。

 光黙天が放った光線を、ダイアナの胞子が作った空間の層によってはね返された。このコンビネーションによって、命中するまで攻撃が半永久的に持続することが可能なのである。

「なるほどね。せやけど清姫には及ばへんよ。」

 それでも余裕を見せる静留。

「あくまで強気ね。だったら一気に決めるわよ!雪之!」

 雪之に指示を送ると、遥と光黙天が彼女に接近する。

「ダイアナの力で光黙天のエネルギー放出を制御。最大出力のための充填を実行します。」

 雪之も静留に言い放つ。ダイアナの胞子による空間制御で、光黙天のエネルギー充填が実行される。

「覚悟はできてるわね・・・行くわよ、雪之!」

 遥の指示で、雪之がダイアナによる制御を解く。

「光黙天!黙示録(ジェノサイド)サンシャイン!」

 制御を解かれた光黙天の光線は膨大な閃光となって、清姫に向かって伸びていく。絶大な速さと威力を兼ね備えた光が、静留とそのチャイルドの大蛇をのみ込んでいく。

 ジェノサイド・サンシャイン。ダイアナの制御を受けての光黙天の最強の技である。制御によって濃縮された閃光は、東京ドーム10個分の範囲を焦土と化すほどの威力を備えている。この攻撃の前に、清姫もなす術がない。

 はずだった。

 閃光の放たれたその場所には清姫も静留もいなかった。

「いない・・・蒸発したの・・・?」

 遥が周囲を見回すが、静留の姿が見当たらない。そんな中、雪之がえぐれた床を目の当たりにして眼を見開く。

「まさか・・!」

 気付いた直後、雪之の背後の床が吹き上がった。彼女と遥、なつきが振り返ったその先には、清姫と静留の姿があった。

「危ういとこやったけど、これで仕舞いや。」

 冷淡な笑みを見せる静留。清姫の頭部の中の2つがくわえていたものを見て雪之が愕然となる。

「ダイアナ・・!?」

 清姫が地中に潜り、光黙天の放った閃光を回避。展開していたダイアナをそのまま捕縛していた。その姿になつきも遥も驚愕する。

 その油断を突いて、清姫の別の頭部が、浮遊していた光黙天を捉える。

「しまっ・・!」

 虚を突かれた遥。その場に座り込む雪之の眼の前で、清姫の顎がダイアナと光黙天の体を噛み砕く。粉砕された2体のチャイルドが、青白い炎をまき散らして霧散する。

「そんな・・・!」

 雪之だけでなく遥も愕然となる。

 その直後、2人は胸に激痛を感じてうめく。

 互いを想っていた2人の体から光の粒子があふれ出す。HIMEの想いの死の表れだった。

「遥!雪之!」

 なつきが倒れる2人に叫ぶ。

「静留!お前・・・!」

 彼女が視線を移すが、静留は冷淡な笑みを浮かべたままだった。

「雪之・・・」

「遥ちゃん・・・」

 遥と雪之が必死に互いに手を伸ばす。消えていこうとしている中で、それでも2人の想いは純粋で真っ直ぐだった。

 その2人の伸ばした手が握り締められる。遥と雪之が小さく笑みを浮かべる。

 2人の脳裏に幼い日の思い出が蘇る。いじめられていた雪之を遥がかばい、追い返したことに対して勝ち誇ったような笑みを見せていた。

(雪之・・どんなことがあっても・・アンタは私が守るから・・・)

(ありがとう、遥ちゃん・・・私も遥ちゃんを守っていきたい・・・)

 互いに小さく笑みを見せ合いながら、遥と雪之は霧散して消えていった。

「遥・・・雪之・・・」

 消滅した2人を目の当たりにして、なつきが愕然となる。手にかけた相手が静留ということが、彼女にさらなるショックを与えていた。

 

 

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