舞HIME −elemental destiny- 5th step「meteor」

 

 

「あ・・あぁ・・舞衣ちゃん!」

 風華の地に帰還した舞衣に、彼女の親友、瀬能(せのう)あおいが涙ながらに駆け寄ってきた。舞衣はあおいを抱きとめて、再会の喜びを分かち合う。

「あおいも私もみんな、舞衣のことを心配してたんだからね。」

 もう1人の親友、原田千絵(はらだちえ)も舞衣に微笑みかける。風華の人々も彼女を快く迎えてくれた。

「ところで、いったい何が起こってるの?」

 舞衣が唐突に、事態の現状を訊ねてきた。彼女は今の風華、一番地、HIMEの間で起こっている事態を知らない。黎人が驚愕の事実を人々に告げたのは、巧海を失った彼女が自暴自棄のまま一番地に捕まってからのことだった。

「フン。敵の城に捕まってたお姫様には、何も知らないってか。」

 扇が傍らで愚痴をこぼす。舞衣が周囲に視線を巡らせると、みんな困惑を隠せない面持ちを見せていた。

 彼女は祐一となつき、千絵から現状を聞かされた。HIME同士が争い合い、その戦いに普通の人々まで介入してきていることを。そして彼女を助けるため、碧とあかねが想いを犠牲にしたことを。

「碧ちゃんとあかねちゃんが・・私のために・・・でも、どうしてこんなことに・・!」

 舞衣はたまらず声を上げる。彼女もHIMEの運命を知っていた。実際に目の当たりにしていた。

 HIMEの戦いは、その想い人の命を賭ける戦いである。それなのにHIME同時が対立していることに彼女は納得できなかった。

 それに人々は、HIMEは滅ばなければならない存在だと忌み嫌っていた。その理由さえも彼女は分からなかった。

 重い空気と沈黙の中、あおいが沈痛の面持ちを見せながら口を開く。

「舞衣ちゃん・・HIMEが生きてると、世界が滅びるんだって・・・」

 この言葉に舞衣が愕然となる。続けて祐一が声をかける。

「神崎さんが・・黒曜の君が言っていたんだ・・」

「黎人、さんが・・・」

 黎人が人々に告げたこと。それはHIMEの呪われた運命だった。空に赤々と輝く赤色巨星は、HIMEの想いに引かれて世界に接近していた。全てのHIMEの想いを滅ぼさなければ、媛星が衝突し世界は滅びる。

 その最悪の事態を避けるため、人々はHIMEを魔女として忌み嫌い、敵意を見せていたのだった。

「そんな勝手なこと・・世界を守るために、私たちを・・・!」

 理不尽な現状に、舞衣も憤りを隠せなかった。納得していないのは、祐一もなつきもみんな同じだった。

「舞衣さん、私は一番地を倒そうと思ってるんですが。でもみんなの考えを尊重したいとも思ってます。舞衣さんはどうするつもりですか?」

 千尋が舞衣に考えを求めてきた。一番地を沈静化できれば、きっとみんな心を開いてくれると思っているのが彼女の本心だった。

 少し考えてから、舞衣は自分の本心を告げた。

「私もこんな時代がいつまでも続いてほしくない。私もみんなと戦いたい。」

 そういって舞衣は周囲に視線を巡らせた。祐一もなつきも千尋も笑みを見せて頷く。彼女に同意していた。

「私にはたくさんの想いに助けられてここにいる。巧海や碧ちゃん、あかねちゃん・・・それに私、命も助けてあげたい・・・」

 胸に手を当てる彼女の脳裏に、様々な人たちの想いが駆け巡っていた。最後まで彼女を信じてくれた巧海。彼女を助けるために大切な想いを犠牲にした碧とあかね。そして兄である黎人のそばにいる命の真意。

 命は何を考え、何を思っているのか。舞衣はその真実を確かめたかった。

「舞衣、オレも一緒に行って戦いたいと思ってる。何ができるかは分からないけど・・」

「お兄ちゃん・・・」

 祐一が決意の言葉を舞衣にかけると、詩帆が彼に不安の面持ちを見せる。自分のそばにいてほしいと彼女は心から思っていた。

 その気持ちを察して、舞衣は祐一に笑みを見せる。

「大丈夫。祐一は詩帆ちゃんのそばにいてあげて。心配かけちゃうのも悪いし、ここの人たちも守ってほしいから。」

「そうか・・・」

 苦笑いを見せる舞衣の言葉を、祐一は渋々受け入れた。しかし彼の本心は舞衣を守ってあげたいことだったが、詩帆の前で口にすることはできなかった。

 結局、決戦を挑むのは明日以降となり、今晩は休息を取ることに決まった。

 

 夜の日の夜。風華の人々は舞衣の帰還を祝っての祝賀会を兼ねて、つかの間の休息を楽しんでいた。並べられた料理をたしなめている人、互いの想いを語り合っている人たちなど、様々な人たちがこの場に見られた。

「自分が出したゴミは、自分たちで片付けましょう。」

「燃えるゴミと燃えないゴミの分別も忘れずに。」

 雪之と千尋がにぎわう人々に呼びかけを行っている。

 そんな夜の祭りが行われている傍ら、小さな林の中で、舞衣と祐一が語り合っていた。彼は考え事がしたいと言って、詩帆とひとまず別れていた。

「不思議ね・・何もかも変わってしまったはずなのに、こんな光景を見てると、前と何ひとつ変わっていないように見える・・」

 舞衣がにぎわいを見せている人々を眼にして微笑む。

「みんな、お前が帰ってきたことを喜んでるんだよ。」

 祐一もこのささやかなひと時に笑みをこぼしていた。

「でも、ここには私の大切なものが欠けてる・・・」

 しかし舞衣の笑みが消えて沈痛の面持ちを見せる。彼女の脳裏に巧海の笑顔が蘇る。

 この暖かな場所に彼の姿はない。この世界から完全に、彼の存在は消えてしまったのである。

 彼のことを想うあまり、舞衣の眼から涙があふれてくる。その辛さを少しでも和らげてやろうと、祐一が彼女を後ろから抱く。

「祐一・・・?」

「お前、巧海のためにいろいろ頑張って、いろいろ辛いことを乗り越えてきたんだよな・・・だったら、アイツのお前への願い、ちゃんと聞き入れてやらねぇとな。」

 その言葉に舞衣は心を打たれたような感覚を覚えた。

“お姉ちゃんの、本当にほしいものは、何?”

 巧海の言葉が再び脳裏をよぎる。彼が願っているのは、姉である彼女が幸せになってほしいことなのである。

 彼の切実な願いを聞き入れようと、彼女は心から思った。

 

 祐一といったんは別れたものの、やはり寂しくなってしまった詩帆。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん、どこー!」

 必死の思いで祐一を探して回る詩帆。にぎわっていた人々が、逆に彼女が祐一を見つける妨げになってしまっていた。

 人ごみから抜け出て、彼女は林の中に来ていた。

(あ、お兄ちゃん!)

 やっとのことで祐一の姿を見つめた詩帆。駆け寄り呼びかけようとした彼女だが、足を止め笑みを消す。

 そこには祐一だけでなく、舞衣の姿もあった。舞衣は祐一に後ろから抱かれ、その抱擁に笑みをこぼしていた。

「そ、そんな・・ウソだよね、お兄ちゃん・・・!?」

 詩帆は愕然となり、後ずさりする。無意識に口からもれる呟きは小さく、祐一たちには届いてはいなかった。

「悪いけど、これはウソじゃないんだな。」

 そこへ突然声がかかり、詩帆が後ろに振り返る。眼にあふれてきていた涙を拭うと、その先にはオレンジの髪の青年、ハイネが立っていた。

「あ、あなたは・・・!?」

 詩帆が驚愕してさらに後ずさりをする。この青年が晶やあかねのチャイルドを倒し、巧海と和也を死に至らしめた張本人であることは彼女も知っていた。

「そう怖い顔をしないでくれよ。オレはお前を傷つけるために来たんじゃないんだ。」

「えっ・・・?」

「今、HIMEは魔女っていうレッテルを貼られているのは、お前も分かっているだろ?けど、あの舞衣ってHIMEは、正真正銘の魔女だな。」

「どういう、ことなの・・・!?」

 不敵に笑うハイネの言葉に、詩帆が息をのみながら問いかける。

「アイツはあの男が自分を気にかけているのを知って、彼の心につけこんだ。彼の心を手に入れると同時に、彼を兄と慕っているお前の心を傷つけるために。」

「そんな!そんなことは・・!」

 詩帆が声を荒げて抗議するが、ハイネは気にせずに続ける。

「それだけではない。彼もお前の想いを利用していたんだ。」

「お兄ちゃんが・・・!」

「彼はお前よりも舞衣に心を寄せていたんだ。それだけならまだしも、彼はお前の心を弄んでいたんだ。」

「どうしてそんな・・!」

「仮にそのことを告げても、お前は彼を諦め切れなかったんだろう?そんな状態で愛し合おうとしても、お前に水を差されるだけだからな。だからあの2人は影でコソコソと想い合っていたわけだ。」

「そんな・・・!」

 詩帆の中に次第に憤りがわきあがってくる。自分の想いを利用していた祐一、そして彼の心を奪った舞衣に対する憎しみで、詩帆が顔を歪める。

「お前もとりあえずはHIMEなんだろう?だったらいい加減解放したらどうだ?お前の中にもあるんだろう?強い強いチャイルドがさ。」

 揶揄するように告げるハイネ。彼の言葉に触発されるかのように、詩帆が再び舞衣と祐一に視線を移す。

 彼女の眼の前で、2人が互いの顔を見つめあい、そして口付けを交わす。その瞬間、彼女は心の中にある何かが粉々に砕けるような不快感を覚えた。

 そんな彼女を、ハイネが強く抱擁する。突然のことに、詩帆がただただ当惑するだけだった。

「これからは彼や舞衣ではない。オレがお前を守ってやる。」

 ハイネの心強く思える言葉に、詩帆は安心感を感じていく。彼女の想いの矛先は今、祐一からハイネへと移った。

 そんな彼女の影が一瞬、黒く不気味に光る人でないものへと姿を変えた。

 

 その頃、パーティー内での呼びかけを続けてきた雪之と千尋。ひと段落して、別の場所で呼びかけを行っていた遥と合流する。

「全く!少しはゴミの分別を心がけてほしいものね!」

「お疲れ様です、遥さん。」

 愚痴をこぼす遥を、千尋が笑顔でねぎらう。雪之も遥に笑みを向けていた。

「みんな嬉しいんですよ。舞衣さんが無事に帰ってきたことが。」

 未だににぎわいを見せている人々を見て、千尋が安堵の微笑みを見せ、雪之もそれを快く思う。ムッとした面持ちを見せるも、遥も胸中では喜びを感じていた。

「そういえば、HIMEの呼び出すチャイルドって、そのHIMEの想いが形となったものなんですよね?」

「えっ?うん、そうだけど・・」

 千尋の突然の問いかけに雪之がきょとんとしながらも答える。

「遥さんと雪之さんは、誰か大切な人とかいるんですか?」

「えっ!?」

 その問いかけに遥と雪之が驚き顔を赤らめる。

「な、何言ってんのよ、千尋さん!?わ、私にはこの風華の秩序と治効を守る務めが・・!」

「ち、治安だよ、遥ちゃん・・!」

 遥が赤面しながら、何とか弁解しようとする。彼女の間違いを指摘する雪之も落ち着きがない。

「私は、お兄ちゃんが好きなんです・・・」

 千尋が頬を赤らめながら、2人にその想いを告げる。

 彼女は兄、扇のことが好きだった。口が悪く命令が嫌いな人だが、彼女や和也たちの危機に体を張ってくれた優しい人でもある。決して結ばれない恋心だとしても、この想いを留めることができないと彼女は思っていた。

「分かったわ、千尋さん。今夜はパーティーだからね。あんな規律に反した人を私は認めたくはないのですが、行ってあげなさい。」

 遥が笑みを見せて頷くと、千尋は満面の笑みを見せた。

「ありがとう、遥さん、雪之さん。」

 2人に感謝の言葉をかけて、千尋は林のほうに駆けていった。

 あまり騒がしい場所にいるのは扇は苦手だと思い、彼女は人気の少ない林に向かったのである。

 その途中、彼女はただならぬ気配を感じてふと足を止める。

(何・・・!?)

 薄暗い林の中に響く唸り声。千尋が恐る恐る背後に振り返る。

 そこには巨大な黒い影があった。影は敵意を見せて白い吐息をもらしてきた。

(これは・・チャイルド!?)

 千尋が驚愕を覚えた直後、黒いチャイルドが咆哮を上げながら彼女に飛び込んできた。

「レオナ!」

 彼女はたまらずレオナを呼び出す。狐のチャイルドが黒い影の前に立ちはだかる。そして林に火柱が立ち上った。

 

「けじめはついたのか、お前ら?」

 舞衣と祐一が互いの唇を離したところで、扇が憮然とした面持ちを浮かべて姿を現した。

「おわっ!な、なんでこんなところにいるんだよ!?」

 口付けを見られたと思い、祐一が慌しい反応を見せ、舞衣も赤面する。

「オレはうるせぇのが苦手なんだよ。あとよ、そこに玖我なつきもいるぜ。」

「えっ!?」

 扇の言葉に舞衣が驚き、彼が親指で指し示したほうを見る。すると木陰に隠れていたなつきがムッとした面持ちで出てきた。

「まさか、なつきまで・・・!?」

「か、勘違いするな!私はたまたまここを通りがかっただけだ!」

 驚く舞衣。赤面しながらも弁解するなつき。彼女と扇が舞衣と祐一の想いのひと時を見ていたのかいないのか。それを追求せず、舞衣は小さく微笑んだ。

「そうだね。なつきも扇くんも、騒がしいのが苦手だもんね。」

 その言葉になつきが苦笑いを見せる。扇は視線を照れ笑いを見せている祐一に向けていた。

「いい加減素直になれたか?自分(テメェ)の気持ちにウソはつけねぇってことだ。」

「あぁ・・そうだな・・」

 扇の言葉に祐一が真面目に答える。すると扇がプルートを掲げ、祐一に見せる。舞衣となつきが緊迫するが、扇は気に留めない。

「はっきり聞かせてもらおうか。テメェの想いがどうなのか・・・場所を変えてもかまわねぇが・・・」

 張り詰めた緊張感が一気に高まった林の中。身構えている扇に視線を戻し、祐一が口を開く。

「オレの答えは決まってる・・・オレは一生懸命で素直なアイツが好きでたまらない・・・」

「そうか・・・」

 祐一の答えに扇が不敵な笑みを浮かべた。祐一が想いを寄せている相手が舞衣であることを扇は悟った。それが勘違いだったとしても、本当の答えを知ることができたのが、扇は胸中で喜んだ。

 そして扇は持っていたプルートを祐一に放った。

「おい、これは・・・!?」

「そいつはテメェが使え。オレは拳や他の武器で十分だ。」

 困惑の中プルートに眼をやる祐一に、扇が拳を見せる。

「テメェは女なんかにいつまでも守ってもらってるような弱ぇヤツじゃねぇだろ?」

 扇は改めて、祐一の覚悟を確かめようとしていた。もしも決意と覚悟を決めているなら、この破邪の剣を受け取ることを拒んだりしないはずだと扇は思っていた。

 そんな彼の思いとともに、祐一はプルートを受け取った。

 そのとき、林と広場の中間に位置する辺りから、轟音が轟き火柱が立ち上った。

「何だ!?」

 その騒動に祐一が声を荒げ、舞衣たちも振り返る。

「これは・・・!?」

「ぐっ!」

 なつきが声をもらした直後、痛烈な胸の痛みを覚えて扇がうずくまった。

 

 戦いの場となった林の中。その痕跡ともいえる炎が木々に残るこの場所に、千尋が仰向けに倒れていた。

 紅と青白の炎が、絶命したレオナを焼き尽くしていた。

「レオナ・・・お兄ちゃん・・・」

 自分の想いが消えていく光景を目の当たりにして、千尋が弱々しく呟く。その騒ぎに緊迫を覚えた遥と雪之が駆けつけた。

「これは戦いの後だわ・・・ここで何が・・・!?」

 無残なこの姿に遥が低くうめく。既にダイアナの胞子が展開されたため、2人は真っ先にここに駆けつけることができたのだ。

「あっ!遥ちゃん、アレ!」

 雪之が声を荒げて、遥が彼女が示したほうに振り返る。そこには傷つき倒れている千尋の姿があった。

「千尋ちゃん!」

 雪之が駆け出し、遥も続く。2人の必死の呼びかけに、千尋がゆっくりと眼を開く。

「あぁ・・遥さん・・雪之さん・・・」

 千尋が体を支えてくれている雪之に手を伸ばす。

「千尋ちゃん!しっかりして、千尋ちゃん!」

「ゴメンなさい・・・レオナ、やられちゃった・・・お兄ちゃんが・・・」

 うっすらと笑みを見せる千尋の眼には、兄を失うことへの悲しみを宿した涙があふれてきていた。

「遥さん・・雪之さん・・・2人にはどうか・・幸せになってほしいです・・・もちろん、みんなも・・・」

「千尋ちゃん・・・!」

「ありがとう・・・みんな・・・」

(お兄ちゃん・・・私は・・・お兄ちゃんが・・・大好きだよ・・・)

 一途な想いを胸に秘めて、千尋が瞳を閉じる。雪之に伸ばしていた手が草の上に下がる。

「千尋ちゃん・・・千尋ちゃん・・・!」

 雪之は千尋の体を強く抱きしめた。想いとともに命を散らした少女を見下ろして、遥も沈痛な面持ちを浮かべていた。

 

 胸の激痛を覚えてうずくまる扇。彼の体から光の粒子があふれ出ていた。チャイルドの破壊による想い人の消滅の表れだった。

「扇、お前・・・!」

「来るな!」

 手を差し伸べようとした祐一と舞衣を、扇は振り払った。

「レオナが・・千尋がやられたんだ・・・!」

「えっ・・!?」

 なつきの言葉に舞衣が驚きの声を上げる。レオナが何者かに倒され、千尋が想っている扇が消えていこうとしていた。

「ケッ・・これが・・HIMEの想いが消えるってヤツかよ・・・笑わせてくれるぜ・・・」

 消えていく自分の姿、光の粒子をあふれさせている自分の両手を見つめて、扇が不敵な笑みを浮かべる。

(和也・・テメェもこんな気分だったのかよ・・・)

「楯祐一、鴇羽舞衣・・・テメェらは・・絶対に負けんじゃねぇぞ・・・」

 消えていった和也、想いを失ったあかね、自分の思いを託した相手、祐一、舞衣、なつき、そして自分の妹、千尋のことを思いながら、扇は後ろに倒れる。その体が草地につく前に、扇は光の粒子となって消えていった。

「扇・・・!」

 その姿を見つめたまま、祐一はプルートの柄を強く握り締めた。一途な兄妹の思いを、彼とHIMEたちは引き継いだのだった。

 

 風華の地の海岸に現れたハイネ。そこには白髪の少年、凪が不敵な笑みを浮かべて待っていた。

「詩帆ちゃんをこっちに引き込むとは、やるね、ハイネ・・いや、庵。」

 凪が見透かすような視線を向けると、ハイネも笑みを見せる。すると彼の姿が歪み、別の姿に変わった。

 凪と似たような逆立った髪だが、色は正反対の黒だった。京野庵である。

「それにしても、何でハイネの姿で会ったの?」

 凪がきょとんとした面持ちで問いかけると、庵は鼻で笑った。

「庵(オレ)がアイツの想い人になるわけにはいかねぇからさ。」

「ふぅん。なるほどね。」

「アイツはとんでもない爆弾を抱えてる。舞衣HIMEとカグツチに負けず劣らずの力の持ち主だ。」

 庵が林のほうに視線を向けて不敵に笑う。詩帆に隠されたHIMEの力が、運命にさらなる拍車をかけていた。

 

 

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