舞HIME −elemental destiny- 3rd step「pride」

 

 

「舞衣ちゃんは大講堂の奥の部屋にいます。おそらく、もう一番地は私たちの行動に気付いていると思います。」

 一番地の領土付近にたどり着いたHIMEたち。戦いの火ぶたを切ろうとしていた彼女たちに、雪之がダイアナを通じて状況を伝えていた。

 冬虫夏草を思わせる姿のダイアナは、胞子を散布して、その情報を彼女のエレメントの鏡に映し出す能力を持っている。またその胞子には蜃気楼を引き起こして周囲からの干渉をかく乱させることもできる。

 その姿なき情報網が、舞衣の行方と一番地の動向を捉えていたのだ。

「おもしれぇじゃねぇの。最初から期待しちゃいねぇよ。」

 一番地の領土を見据えて、扇が不敵に笑う。

「とりあえず誰かが囮になって連中の気を引いて、その間に舞衣ちゃんを助けるのがよさそうね。」

 碧がみんなに提案を持ちかける。遥が妙に意気込んでいるのを見て、彼女は笑みを浮かべる。

「張り切ってるようだねぇ、遥ちゃん。それじゃ、囮はアンタとあたしで決まりね。」

「えっ!?」

 碧の言葉に遥が唖然となる。それに構わず、碧はあかねたちに視線を移す。

「あかねちゃんたちは舞衣ちゃんをお願い。雪之ちゃんのサポートも頼りにしてね。」

「うん、碧ちゃん。」

 彼女の言葉に頷くあかね。

「大丈夫です!舞衣さんは私たちが必ず助け出しますので!」

 千尋も前に出て意気込みを見せる。

「それじゃ、頼んだよ。雪之ちゃん、情報よろしくね。」

 碧と遥、そしてあかねたちが行動を開始した。

 武装を整えた一番地の軍に向かって駆け出しながら、碧と遥が各々のエレメントを出現させ、意識を集中する。

「出ませい、愕天王!」

「出なさい、光黙天!」

 そしてチャイルド、愕天王と光黙天が姿を現し、軍人たちに動揺が走る。サイの突進とアンコウの放つ光線で、次々と軍人の前方の地面や建物をなぎ払う。牽制や陽動のための攻撃で、直接人間を狙ってはいなかった。

(後は任せたわよ、あかねちゃん、千尋ちゃん。)

 舞衣の救出を信じながら、碧は戦いに専念する。

 彼女たちの攻撃によって動揺する軍人たちの前に、ハイネが不敵な笑みを浮かべながら現れる。

「初っ端から派手にやってくれるねぇ。それじゃ、オレも本気でかからないと失礼だよな?」

 碧と遥を見据えながら、ハイネは左腕を掲げる。

「エレメンタルスライガー、スタートアップ。」

Elemental Sliger come closer”

 彼が呼びかけると、左手首につけてあるレシーバーが答える。

「ハイネ・ヴェステンフルス、行くぜ。」

 彼が言い放った直後、軍人の背後から黒い機体が浮上してきた。オートパイロットで駆けつけてきたエレメンタルスライガーにハイネが乗り込んだ。

 

 碧と遥の奇襲に気を取られている兵士たちの中、あかね、和也、扇、千尋は一番地のビル内に侵入していた。

 雪之の案内でその奥底に進んでいく彼女たち。そしてついに、舞衣が捕まっている黒曜の君の私室へとたどり着いた。

「舞衣ちゃんはその部屋の中にいます。前にいる兵士2人以外、近くに人はいません。」

 雪之が彼女たちに状況を伝える。

「フン、2人ならオレがすぐに片付けてやる。」

「待って。ここは私に任せて。」

 プルートを構える扇を制して、千尋がエレメントの槍を出現させて意識を集中する。

「出てきて、レオナ。」

 彼女の呼びかけで、狐のチャイルド、レオナが姿を現す。レオナはすぐさま千尋の意識と疎通し、さらに姿を変える。

 変身能力を使った狐が、捕らわれのHIME、舞衣に姿を変える。

「私とレオナが引きつけます。その間に舞衣さんを。」

「うん、分かった。」

 兵士の様子を伺う千尋に、和也が頷く。

「お兄ちゃん、後は任せたからね。」

「誰に向かって指図してんだ。」

 反抗的な態度を見せながらも、扇も千尋に頷いた。そして舞衣に化けたレオナが先に駆け出す。

「おっ!?」

 走り去るその後ろ姿に気付いた兵士たちが、血相を変えて追いかけていく。走りすぎていくのを見計らって、千尋もレオナと兵士たちの後についていった。

 それから、扇、あかね、和也が部屋の前に向かう。扉を開けようとするが、鍵がっかっているのか、開かない。

「ダメ、開かない!」

「どいて、あかねちゃん。」

 和也が扇とともにその扉に体当たりする。部屋の中に扉が倒れ、彼らは入ることに成功する。

「あっ・・・!?」

「何だ、これは・・!?」

「ま、舞衣ちゃん・・・!?」

 そこで彼らは、溶液の入ったカプセルの中で一糸まとわぬ姿で漂っている舞衣の姿に驚愕を覚える。舞衣は虚ろな表情を浮かべたままだった。

「とにかくコイツを壊すぞ。どいてろ!」

 あかねと和也を退け、扇がプルートを振り下ろし、その刀身を叩きつける。カプセルのガラスに亀裂が入り、割れて溶液を噴き出す。

 あかねがたまらず床に倒れる舞衣に駆け寄り、体を支える。

「舞衣ちゃん!舞衣ちゃん、しっかりして!」

 彼女が呼びかけるが、舞衣はちいさく吐息を漏らすだけで眼を覚ます様子はない。

「とにかく運び出そう。いつ兵士が来るか分からないし。」

 上着を舞衣にかけて、和也があかねに力を貸す。扇が先行し、和也とあかねが舞衣を持ち上げる。

 彼らはついに舞衣の救出に成功したのだった。

 

 警備の兵士2人をひきつけていた千尋とレオナ。屋上に出た彼女たちは立ち止まり、やってきた兵士たちを待ち受ける。

「舞衣HIMEは渡さん!観念することだな!」

 兵士の1人が銃を構えながら千尋に言い放つ。しかし彼女は満面の笑みを見せていた。

「残念だけど、これは舞衣さんじゃないよ。」

「何?」

 眉をひそめる兵士たちの前で、舞衣に化けていたレオナが元の狐に戻る。

「なっ!?それでは、本物の舞衣HIMEは・・!?」

「今頃はお兄ちゃんたちが助けてる頃かな?・・レオナ、行くよ!」

 千尋の号令で、レオナが驚愕している兵士たちに向けて突進する。兵士たちは身構える前に、狐によって叩き伏せられる。

 気絶した兵士たちを見下ろしてから、千尋は外へと振り返る。

「行こう、レオナ。お兄ちゃんたちと合流しなくちゃ。」

 レオナは千尋を乗せて、扇たちのところに向けて駆け出した。

 

 ハイネの駆るエレメンタルスライガーの乱入で、碧と遥は悪戦苦闘していた。愕天王の突進も光黙天のレーザーも、その機体を退けるには至らなかった。

「愕天王、吶喊!」

「天誅ビーム!」

 彼女たちがさらなる攻撃を繰り出すが、逆にエレメンタルスライガーの機敏な動きと突進にはね返される。

「オーファンとは違うんだよ、オーファンとは!」

 強気に言い放つハイネに、碧も遥もうめく。

 そのとき、光黙天の横にあるビルの壁が突然爆発し、そこから人影が飛び込んできた。虚を突かれた遥が振り向くと、命がエレメントの剣を振り下ろしてきた。

 その打撃で遥と光黙天が反対のビルに叩きつけられる。命が間髪置かずに彼女を追いかける。

「遥ちゃん!」

 叫ぶ碧が援護しようとするが、その眼前に1人の少女が立ちふさがった。深優が無表情で碧と愕天王を見据えている。

「おいおい、割り込みはよくないな、深優さんよ。」

 ハイネがからかうように愚痴をこぼすが、深優は顔色を変えない。

「鴇羽舞衣さんがワルキューレたちに奪還されました。至急追跡してください。」

「あのなぁ。何でオレが?オレはそのHIMEの相手をしてるんだ。」

 淡々と告げる深優に、ハイネが呆れた面持ちを見せる。

「私より、エレメンタルスライガーのほうが、舞衣さんを追い詰める可能性が高いです。」

「ハァ・・分かったよ。オレはとにかく走るだけだ。お前もバッチリ行こうぜ。」

 深優の提案を渋々受け入れ、ハイネがエレメンタルスライガーを発進させる。深優を見据えていた碧の愕天王に突進を与えてから、あかねたちに向かって加速する。

「うぐっ!・・いけない!このままじゃ舞衣ちゃんやあかねちゃんたちが・・!」

 うめく碧が体勢を整えて、ハイネを追おうとする。しかしそこへ深優が飛び込んでくる。

 深優は左手を剣に変形させ切りかかる。碧は斧を構えてそれを受け止める。

 しかし深優の剣の攻撃は、眼にも留まらないものだった。その速い連続攻撃に碧は吹き飛ばされる。

 たまらず愕天王が深優に向かって突進してくる。しかしその動きに気付いていた彼女が、愕天王に剣を振りかざす。

 その速い剣の攻撃に巻き込まれたチャイルドの体が切り裂かれる。胴体を引き裂かれ、青白い炎に包まれる。チャイルドの、HIMEの想いの死を表していた。

「そんな・・どうして、こんな速さを・・・!?」

 愕然となる碧に、深優が剣を収納しながら振り向く。

「この剣は破邪の剣の1種、“ネプチューン”です。あなたの動きでは、この速さについていくことは不可能です。」

 淡々と説明する深優に、碧は動揺を隠せなかった。

 破邪の剣、「ネプチューン」は海と風、速さを備えた剣である。振り下ろされたその剣は眼にも留まらぬ速さで、またいくつもの刃を解き放つこともできる。しかし該当しない使い手が手にすると、光の粒子になって消滅してしまう。チャイルドを倒されたHIMEの想い人のように。

 その剣が今、深優の左手に内蔵されていたのである。

「き、教授・・・」

 佐々木教授のことを想いながら、碧がその場で倒れ込む。愕天王の消滅で、彼女の想い人である彼もその姿を完全に消滅させていた。

 

 舞衣を救い出し、一番地から風華に戻ろうとしていた扇たち。その中であかねが、碧や千尋たちを気にかけていた。

「千尋ちゃん、碧ちゃん、大丈夫かな・・・?」

 不安の面持ちを見せる彼女に、和也が優しく語りかける。

「信じよう、あかねちゃん。今、僕たちは舞衣さんを安全な場所に連れて行かなくちゃいけないんだ。」

「カズくん・・・」

 彼に励まされて微笑むあかね。そんな2人を横目で見て、扇が胸中で喜んでいた。

 この2人はどんな困難も乗り越えられる。彼はそう信じていた。

「ん!?」

 そのとき、扇はただならぬ気配を感じ取って身構える。それに気付いたあかねがハリーを止める。

「どうしたの、扇くん?」

「・・何か、こっちにきやがる・・・!」

 彼女の問いかけに扇が低い声音で答える。すると雪之がダイアナを通じて彼らに声をかけてきた。

「黒い機体がそっちに向かってきてます!」

「何っ!?」

 この報告に扇が驚愕した直後、ハリーの背後に黒い機体がモーター音とエンジン音を轟かせながら飛び込んできた。ハイネとエレメンタルスライガーだ。

 機体の突進でハリーが吹き飛ばされ、その拍子であかねたちが振り落とされる。反転しながらも、扇がプルートを、あかねがエレメントのトンファーを構える。

 ハリーも体勢を整えて、相手の出方を伺っている。

「深優に半ば無理強いされたからな。その分、やらせてもらうぜ!」

 言い放つハイネがエレメンタルスライガーを突進させる。プルートもトンファーもはね返し、飛びかかるハリーをも弾き返す。

「ハリー!」

 あかねが持てる力を振り絞って、ハリーに呼びかける。するとハリーが胸部のミキサーを回転させ、ハイネを引き込もうとする。

「チッ!このぉ!」

 ハイネがうめきながらエンジンを全開にする。機体をさらに加速させ、ハリーの起こす風圧から逃れ、その勢いのままあかねに向かって突き進んでいく。

「あかね!」

 扇が立ち上がり様、眼を見開いて叫ぶ。全力で駆け出すが、あかねとハイネには間に合わない。

「あかねちゃん!」

 そんな彼女の前に和也が飛び込み、さらにその前にハリーが立ちふさがる。機体の突進を虎の巨体が受け止める。

 しかし機体に強烈な衝撃を与えられて、ハリーが怯む。そこへ機体が装備していたミサイルを発射する。

 爆撃を受けた虎にまとわりつく炎が赤から青白いものに変わる。

「い、いやぁっ!」

 あかねが絶望に満ちた悲鳴を上げる。ハリーの死は、彼女の想い人である和也の死を意味していた。

「カズ!お前・・・!」

 扇が苦悶の表情を見せ始めている和也にうめくように言いかける。

「扇、あかねちゃんと舞衣ちゃんを連れて、早く逃げるんだ・・・!」

「でも、カズくんが・・・!」

「早く行くんだ!」

 悲痛の声を上げるあかねにも、和也が叫ぶ。彼の願いを受け入れて、扇は歯がゆい気分を抱えながら、あかねの腕をつかむ。

「扇くん!カズくんが・・!」

「カズのことを想うなら、アイツの想いをムダにすんじゃねぇ!」

 消えていこうとする和也に駆け寄ろうとするあかねに、扇が叫ぶ。

(扇、あかねちゃんのこと、頼んだよ・・・)

(カズ・・・)

「このぉぉーーー!!」

 怒りの叫びを上げながら、扇が振り返らずにあかねと舞衣を連れて駆け出す。

「ありがとう・・扇・・あかねちゃん・・・」

 その背後で微笑みながら、和也が光の粒子となって消滅した。

 

 HIMEたちの戦況不利を聞かされた祐一は、詩帆の制止を振り切って戦いの場に向かおうとしていた。

「お兄ちゃん、待って!」

 詩帆がさらに祐一を止めに入るが、彼は引こうとしない。

「ダメだ、詩帆。早くしないと、みんなが・・・!」

「お兄ちゃん、言ってくれたよね!?詩帆のそばにいてくれるって!ずっと詩帆を守ってくれるって!」

 うめくように言う祐一に、詩帆がすがるように言いかける。

「確かに約束はした。けど、オレはそのためにみんなを見捨てるようなことはしたくない。それって贅沢と思うか・・・?」

 彼は彼女に物悲しい笑みを見せる。

 自分のことを兄のように想ってくれる詩帆を、祐一は守ろうと決意していた。しかし彼は他の人たちが傷ついているのを見捨てていいとは思っていなかった。

 贅沢でわがままだと思いながらも、彼は苦渋の決断をしたのだった。

 そこへ1台のバイクが走りこんできた。祐一たちの横で止まり、なつきが横目を向けてきた。

「乗るんだ、祐一!」

「玖我・・・」

 なつきの登場に祐一が笑みをこぼす。

「今の私には、デュランを呼び出すどころか、HIMEとしての力全てが使えない。しかし、それでも私は何かを守りたいと思っている。お前と同じように。」

「玖我・・・すまない。」

 なつきに感謝の言葉をかけて、祐一がバイクの後ろに乗る。彼女も胸中で安堵していた。

「心配するな、詩帆。オレは必ず帰ってくる。お前のところに。」

 自信のある笑みを見せる祐一に詩帆は戸惑う。

「分かったよ、お兄ちゃん・・あと、ゴメンね。詩帆にもチャイルドが呼び出せたら・・・」

 自分の無力さを悔やみ、沈痛の面持ちを見せる。

 彼女もHIMEではあったが、まだその力を使うことができず、エレメントもチャイルドも呼び出せないでいた。祐一に対する想いは何より強かったが、それでもなかなか力が解放されるに至らなかった。

「気にすんな。お前はムリする必要はないんだからさ。」

「お兄ちゃん・・・」

 祐一に励まされる形になり、詩帆は安堵の笑みを見せた。彼女に見送られながら、なつきはバイクを走らせた。

 

 茫然自失となっているあかねと舞衣を連れて逃げようとする扇。しかしハイネの操るエレメンタルスライガーにすぐに回り込まれてしまう。

「くそ・・ここまでなのかよ・・・!」

「悪いけど逃がさないぜ。これでチェックメイトだ。」

 うめく扇にハイネが不敵に笑い、ミサイルを発射するボタンに指をかける。扇は舞衣とあかねから離れ、プルートの力を解放する。

 凄まじい旋風が巻き起こり、あかねの髪を結わいていた輪ゴムが切れ、彼女の髪がふわりと揺れる。

「ムダだ。いくらプルートの力でも、この攻撃を全て防ぎきって無事でいることなど不可能だ。」

 ハイネが言い切って、扇が焦りの表情を見せる。

「扇!」

 そこへ声がかかり、扇が視線を移す。その方向から1台のバイクが走りこんでくる。

 なつきと祐一である。

「扇!あかね!無事か!」

 なつきが叫びながら扇たちに向かって飛び込んでくる。

「ちっ!このぉ!」

 舌打ちを見せて、ハイネがミサイルを発射する。その先でなつきと祐一が扇たちの腕を取る。

 だが扇に抱えられていた舞衣が、その腕からすり抜ける。

「あっ!」

「舞衣!」

 驚きの声を上げる扇。祐一がたまらずバイクから飛び降り、舞衣に向かって手を伸ばす。

 地面に転げ落ちながらも、何とか舞衣を受け止める祐一。しかしそこへエレメンタルスライガーのミサイルが飛び込んでくる。

「お、おい・・!」

 扇が眼を疑いながら、その先の光景を見つめる。

「祐一!舞衣!」

 なつきが叫ぶ先で、彼女たちと祐一たちを分かつようにミサイルが飛び込み、爆発を引き起こす。

「ぐわあぁっ!」

 荒々しく揺れる地面と巻き起こる炎と砂煙の中、祐一の絶叫が響く。彼は舞衣とともに崖から転落してしまう。

「舞衣!祐一!」

 叫ぶなつきが、扇とともにこの場から逃れる。ハイネも地面の揺れる場所に飛び込むのは得策ではないと思い、あえてこの場から離れた。

 

 その頃、命の襲撃を受けた遥は防戦一方となっていた。必殺の光線も、命の素早い動きにことごとくかわされていた。

 追い詰められ、歯がゆくなる遥に、命が剣を振り上げて容赦なく飛び込んでくる。覚悟を決めながらも、遥が身構える。

 しかし振り下ろされた命の剣が遥から外れる。驚きを見せる遥の前で、命が闇雲に剣を振り回している。狙いが定まっていないようだった。

 おもむろに遥が振り返ると、その先のビルの上に巨大なチェスのナイトの駒のようなものが存在していた。

 それは紫子のチャイルド、聖ヴラスだった。ヴラスは対象に幻覚を見せる力を持っている。その効果を受けた命は幻覚に惑わされ、遥を見失ってしまっていた。

(何だか分からないけど・・・!)

 遥がその隙を突いて、光黙天に乗ってその場から離れる。

 我に返り、大きく息をつく命。そんな彼女の姿を、紫子は沈痛の面持ちで見下ろしながら、ヴラスの姿を消した。

(皆さん・・私は・・・神よ、私をお許しください・・・)

 神に祈りを捧げながら、紫子は振り返って姿を消した。

 

 

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