舞-乙HiME -Wings of Dreams-
5th step「エルスティン・ホー」
二ナやアカネたちに励まされ、センの心は大きく揺さぶられていた。そこへナツキもセンの前に姿を見せた。
「セン・フォース・ハワード、君がもしヴィントブルームや我々ガルデローべのために、君自身の夢を見つけるために戦うというなら、クサナギを君に預けてもいいと思っている。」
彼女の言葉に、この場にいたセルゲイが眼を見開く。
「ナツキさん、彼にクサナギを、破邪の剣を託すつもりですか!?」
「まぁ、彼が使うところをあそこまで見せ付けられたら、機密も何もないわけだからな。」
声を荒げるセルゲイに、ナツキが照れくさそうに答える。
「破邪の剣は使う人間の精神に大きく左右される!国家レベルの管理下に置かなければ、世界を崩壊させる危機を招くことになりかねませんよ!」
切羽詰った様子を見せるセルゲイに、ナツキは小さく微笑んだ。
「私とシズル、そしてユキノ閣下、ハルカ准将もセンくんを高く評価している。能力面においても、人間性においても。彼は信頼しているチヒロの兄。無意味な破壊のためにクサナギを使うことはないだろう。そう思いますよね、大公殿下殿?」
ナツキが視線を移すと、セルゲイもその方へ振り向く。そこには微笑んでいる白髪の少年が立っていた。
「殿下、いつから・・!?」
驚くセルゲイに笑顔を見せると、少年、ナギがナツキに眼を向ける。
「センくんとシズルさんの舞闘の話を持ちかけたのは僕だからね。ガルデローべにもヴィントブルームにも、アルタイにも被害は出てないわけだし。僕は賛成してもいいかな。」
「アルタイやエアリーズが賛成しても、わらわは反対じゃ!」
ナギの賛同を耳にしても、マシロは考えを変えない。ふくれっ面の彼女に眼を向けると、ナギは何かを思い立ったように振舞う。
「やっぱ僕は反対。だってあの破邪の剣でしょ?王家の人間やガルデローべのマイスターオトメならともかく、それらの国々に属していない人間に持たせるのはどうかと思うよ。」
突然意見を変えてきたナギ。するとマシロが彼を一瞥してから答える。
「よ、よく考えたら、あやつをわらわの護衛にするのも悪くないかもしれぬぞ。あやつの力をそばに置いておけば、まさに百人力じゃぞ。」
「あれ?彼をヴィントブルームに置くのは反対してたんじゃなかったっけ?」
ナギがきょとんとした面持ちで問い返す。するとマシロは突き放すような態度で答える。
「よ、よいのじゃ、よいのじゃ!我が城に1人くらい、あのような尖ったヤツがいたほうがわらわの気が紛れるというものじゃ!」
「そう?どうなっても知らないよ。彼が突然暴れだしてもさ。」
マシロが高らかと笑いを浮かべ、ナギが残念そうに振り返る。しかし彼女の見えないところで、彼はしてやったりとばかりに舌を出して笑みをこぼす。
これは彼の思惑通りのことだった。マシロはナギとは反対の言動を見せようとする。それを知っていた彼は逆手に取り、彼女を自分の本来の意見に同意させる結果をもたらしたのだった。
その振る舞いに気付いていたナツキが胸中で当惑していた。
「フン。そんなくだらねぇ手はオレには通用しねぇが、とりあえずあの小娘のボディーガードを引き受けてやる。今は特に目的もないんでな。」
笑みをこぼしているナギの横に近寄り、センが低い声音で言いつける。彼の言葉にナギが疑問符を浮かべてみせる。
「オレはこれでも、人を考えが分かっちまうんでな。猿芝居や悪知恵はオレには通じねぇ・・・」
センはそういってナギのそばを離れた。ナギはそれでも笑みを崩さず、センの動向をうかがうことを心に決めていた。
結果的にセンとクサナギの処分が確定することとなった。落ち着きを取り戻すこととなった状況に、チヒロを初めとした面々は安堵を感じていた。
しかし、そんな彼女たちを冷ややかな眼光が見つめていたことに、誰も気付いてはいなかった。
事態が落ち着きの方向に向かい、チヒロは寮の自室に戻ってきた。彼女とセンの再会を祝しているのか、アリカ、二ナ、エルスティン、イリーナなど、数人の生徒たちがついてきていた。
あまり騒々しいのが好きではないチヒロだが、アリカたちからの祝福を正直に喜ぶことにした。しかし同室のチグサがからかうような表情を見せると、チヒロも思わずムッとなっていた。
「いろいろあったけど、お兄ちゃんと会えてよかったね、チヒロちゃん。」
「そんなに大げさに考えてはいないんだけどね・・ただ、あまりに突然だったから少し驚いたくらいなだけ。」
笑顔を見せるアリカに、チヒロは微笑んで答える。
「でもやっぱり、お兄さんに会えたのは正直嬉しいかな。お兄さんにまた会えても恥じないようにという理由でも、オトメとして頑張っていたのも事実だから。」
そういってチヒロは、胸元からひとつのペンダントを取り出した。ふたを開けると、そこには幼い頃の彼女とセンを写した写真が収められていた。笑顔を見せるチヒロに対し、センはムッとした面持ちを見せていた。
「へぇ。これが子供の頃のチヒロとセンね。」
「ちょっと、そんなに物珍しそうに見ないでよ。」
笑顔でのぞいてくるチグサに、チヒロが不機嫌そうに言いかける。
「私とお兄さんの写真はこれだけ。だからこの写真とペンダントは、とっても大事にしてるものなの。」
「これだけ?他の写真はどうしたの?家の火事で焼けてしまったの?」
二ナが問いかけると、チヒロは瞳を閉じて首を横に振った。
「私とお兄さんが一緒に撮った写真はこれだけ・・それ以外は、お兄さんはお父様の指導に引っ張られて、火事が起きる直前からずっとお兄さんと会えなかったし・・」
「そうだったの・・・でもこうして再会できたんだし、また写真を撮れば・・・」
「ダメだよ、エルスちゃん。写真は撮れても、思い出はこれしかないんだから・・・」
微笑んで声をかけるエルスティンにも、チヒロは首を横に振ってみせる。
「だったら、余計に思い出とそのペンダントを大事にしなくちゃね。」
そこへガルデローべの女生徒、ミーヤがチヒロに励ましの言葉をかける。するとコーラルNo.2、トモエ・マルグリットも同意して頷く。
「そうね。思い出は大切にしないと。夢の原点にもなっているのだから。」
「ミーヤちゃん、トモエさん・・・ありがとう、みんな・・・」
周囲の仲間たちに支えられて、チヒロは涙を浮かべていた。するとチグサが満面の笑みを浮かべて、
「そうよ。感謝するのよ。この私にね。」
「別にには感謝はしていないからお気になさらず。」
上品な言動を見せるチヒロに、チグサは一変して不機嫌そうな顔を見せる。そのやり取りに、アリカたちが笑みをこぼしていた。
時刻は夜になり、寮は淡い光だけが灯っていた。ガルデローべの生徒たちは、一部を除いてベットに横たわっていた。
チヒロとチグサもこの日の騒動での疲れを癒すように、眠りについていた。その彼女たちの部屋に、闇に紛れて忍び込む影があった。
その翌朝、事件が起きた。突如チヒロの悲鳴が上がり、その声でチグサが眼を覚ます。
「もう、どうしたっていうのよ〜・・・」
チグサが眼をこすりながら、慌てふためいているチヒロに声をかける。するとチヒロは切羽詰った面持ちをチグサに見せる。
「ないの!私のペンダントがない!」
「えっ・・・?」
チヒロのこの様子に、チグサは意識をはっきりさせた。
それからチヒロとチグサは、必死にペンダントを探した。しかし部屋中を探しても、ペンダントは見つからなかった。
チヒロは必死にペンダントと自分の昨日の行動を思い返していた。
(昨日はみんながやってきていて、それからみんなが帰って、ルナお姉さまの入浴の手伝いをして・・そこから戻ってきたときにはまだペンダントがあった・・食事して部屋に戻って、それから部屋のドアの鍵をかけて、寝る前にペンダントをいつものように机の引き出しに入れたはずなのに・・・)
記憶と自分の言動を思い返しながらも、なかなかペンダントの行方にたどり着けないチヒロ。その頃、チグサは唐突に部屋のドアのところにいた。
「あれ?おかしいなぁ。昨日は鍵かけたはずなのに・・・」
「えっ?」
チグサの声に眉をひそめ、チヒロもドアのほうへ駆け寄る。チグサが就寝前にドアの鍵をかけたのは、チヒロは確認していた。
(ホントにおかしいわ・・もしかして、誰かがこの部屋に入って、私のペンダントを・・・!?)
「どうかしたの、チヒロちゃん、チグサちゃん?」
考えていたチヒロに声をかけてきたのは、彼女たちの部屋の前の廊下を通りがかったエルスティンだった。彼女のそばにはイリーナがいた。
「あ、エルスちゃん、イリーナちゃん、チヒロのヤツがペンダントを失くしちゃって・・」
「ペンダント?お兄さんと一緒に写ってる写真の入った、あのペンダント?」
チグサの言葉にイリーナが聞き返すと、チヒロが鎮痛の面持ちで頷く。
「一緒に探そう、チヒロちゃん!」
そこへアリカと二ナが現れ、アリカが深刻な面持ちでチヒロに呼びかけてきた。
「あれはチヒロちゃんとセンさんのたったひとつの大切な思い出なんでしょ!?だったら何が何でも見つけないと!」
「アリカちゃん・・・そうよね・・諦めるのは、全部やりきってからでも遅くないわよね。」
アリカに励まされ、二ナたちの協力を受けて、チヒロは涙ながらに頷いた。
(私もチヒロちゃんを励ましてあげられるくらいに・・アリカちゃんみたいに勇気が持てたら・・)
その傍らで、エルスティンが自分に自信が持てず、笑みを出せずにいた。
ガルデローべからの処分を言い渡され、センはヴィントブルーム城のマシロの自室の前にいた、そんな彼にも、チヒロがペンダントを失くしたことが伝えられた。
「これはまた面白いことになってきたぞー!」
部屋の中からマシロの喚起の声が響き渡り、センの耳にも届く。自分の妹のことであるにも関わらず、彼はさほど動揺してはいなかった。
「よろしいんですか?チヒロちゃん、きっと一生懸命に探しているのではいあんでしょうか?」
そこへマシロの様子を伺いに来たアオイが、部屋の前にいるセンに声をかけてきた。しかしセンは憮然とした態度を崩さない。
「アイツは強い。オレがいなくても何とかするだろ。他のオトメたちもついてるんだからよ。」
「いいえ。チヒロさんのことだけじゃなく、あなた自身がどうしたいのかを聞いているんです。」
微笑むアオイの言葉に、センは眉をひそめる。
「あなたは夢を探して旅をしているのでしょう?ああいった些細なことからも、夢を見つけられるきっかけがあるかもしれませんよ。」
「勝手なこと言うな。オレは周りに流されるのがイヤなんだよ。」
センがついに不快そうな言動を見せる。そこへ部屋の扉が大きく開け放たれ、センが突き飛ばされて前のめりに倒れそうになる。
「セン、すぐにガルデローべに行くぞ!きっとアリカのヤツも必死になっていることじゃろう!」
「マシロ様!まだお目通しの書類が残っているんですよ!やり終えるまではダメですよ!」
歓喜に沸いたところをアオイにとがめられ、マシロはふくれっ面を見せる。
「ならばセン、お前が行くのじゃ・・・」
「あ?なんでオレが行かなくちゃならねぇんだ?」
センがマシロの言葉に反論を口にする。
「言っとくが、オレはテメェのボディーガードになっただけで、傭兵にも手下にもなったつもりはねぇ。」
「分かっておる。じゃが、お前の妹はガルデローべにいるのだろう。ちょっと見に行ってくればよいのじゃ・・!」
マシロが不機嫌そうに言い放つと、センはついに憤慨を見せる。
「どこまで勝手に言えば気が済むんだ、テメェは。テメェらやオトメの連中に振り回されて気分がワリィ。おかげでオレはここから出られねぇ始末だ。オレはテメェらオトメの夢の被害者だ。」
そういってセンはマシロとアオイの前からそそくさに立ち去っていった。
「な、何じゃ、あの態度は!」
憤慨したマシロが苛立ちを満面に表していた。
チヒロのペンダントの行方を求めて、アリカたちも奮闘していた。思い当たるところを徹底的に探し回り、他の生徒たちからの聞き込みを行ってみたものの、依然としてその行方は分からなかった。
「もう、全然見つかんないよー・・・」
ひとまず集まった寮の前で、アリカが肩を落とす。記憶を巡らせているチヒロに、二ナが唐突に訊ねてきた。
「チヒロ、昨晩は部屋の鍵はかけたのよね?」
「えっ?・・うん。チグサがかけたところを私も見ているわ。」
「でも今朝はかかっていなかった。誰かが部屋に忍び込んで、持ち去った可能性が高いわね。」
二ナのこの言葉にチヒロは一抹の不安を覚える。
(誰かに、誰かに盗まれた・・・!?)
そのとき、寮の前方で爆発が起こり、チヒロたちがそのほうへ振り返る。そこには豪腕を振るう巨大な怪物が立ちはだかっていた。
「何っ!?いきなり何なの!?」
「スレイブ・・・!?」
チグサが驚き、チヒロが眼を見開く。怪物の太い右腕には、チヒロのペンダントが引っかかっていた。
「あれは!?」
それを眼にしたチヒロがたまらず怪物に向かって駆け出そうとした。しかしアリカと二ナに止められる。
「放して、アリカちゃん、二ナちゃん!」
「ダメだよ、チヒロちゃん!ローブも身に着けてないのに、行ったら危ないよ!」
それでもペンダントを取り戻そうとするチヒロを必死に呼び止めるアリカ。しかしチヒロは彼女たちの腕を振り切って、なりふり構わずに怪物に飛び込んでいく。
怪物が左の豪腕を振るい、地面に叩きつける。その衝撃でチヒロが吹き飛ばされる。
「キャッ!」
「チヒロちゃん!」
横転するチヒロ。今度はアリカ、チグサが怪物に向かって飛び出す。しかし怪物の力の前に、ローブをまとわない彼女たちはなす術がなかった。
「イリーナ、先生を呼んできて!」
「わ、分かった!」
二ナの指示を受けて、イリーナは慌てて駆け出した。
(私が何とかしなくちゃ・・誰にだって、夢に向かう勇気を持っているんだよ・・)
エルスティンが決意を秘めて、怪物を見据えていた。そして覚悟を決めて彼女も怪物に向かって駆け出す。
「あっ!ダメ!エルスちゃん!」
アリカが呼び止めるが、エルスティンは足を止めない。しかし咆哮を上げる怪物の力に飛び込みをはね返される。
「エルスちゃん!」
アリカが再び呼びかけるが、立ち上がろうとしているエルスティンに向けて、怪物が拳を振り下ろしてくる。エルスティンはまだ立ち上がれないでいる。
そのとき、振り下ろされた怪物の左腕が、一条の光の刃が両断した。怪物が絶叫を上げ、斬られた左腕が轟音を上げながら地上に落下する。
エルスティンが背後を振り返ると、アリカたちの後ろに、クサナギを手にしているセンの姿があった。
「お、お兄さん・・・!?」
「全く、振り回されて胸くそワリィ・・・!」
当惑するチヒロをよそに、センが怪物を見据えながら愚痴をこぼす。
怪物は腕を斬られた痛みと怒りに猛り狂い、センに向かって突進してくる。高らかと振り上げた右拳を、力任せに振り下ろす。
それをセンはクサナギの光の刃で軽々と受け止める。光刃の衝撃に弾かれて、怪物がしりもちをつく。
センがクサナギの出力を上げる。あふれんばかりの光刃を構え、立ち上がってきた怪物を見据える。
「ストリウム・ランスエッジ!」
センがクサナギの出力を最大限に引き上げ、その加速力を利用して突進を仕掛ける。きらめいた光刃が、巨大な怪物の体を真っ二つにする。
すり抜けるように、センが怪物の背後に姿を現す。同時に両断された怪物が爆発を起こす。
クサナギの光刃を消したセンの眼に、怪物から離れたペンダントが眼に留まる。センはそのペンダントを手に取り、ふたを開ける。
その中に収められていた写真に、センは戸惑いを覚えた。幼い日の懐かしさと同時に、過去の忌まわしさが彼の心を駆け巡っていた。
「お兄さん・・・」
チヒロの戸惑いの声にセンは振り返り、持っていたペンダントを彼女に向けて放り投げる。チヒロはとっさにそれを受け止める。
センは周囲に視線を巡らせてから、センはチヒロに視線を向ける。
「大事なもんなんだろ?・・だったら、絶対失くすんじゃねぇぞ・・」
センの言葉にチヒロはただただ頷くだけだった。アリカたちの当惑を気に留めず、センはそのまま立ち去っていった。
「よ、よかったね、アリカちゃん・・」
アリカがチヒロに唐突に声をかける。チヒロも戸惑いながら頷き、エルスティンに振り向く。
「すごかったね、エルスちゃん。いつもそんな大胆不敵なところ見せないのに、いきなり向かっていって・・」
「私も勇気を出していこうって思って・・無我夢中だったかな・・・?」
感心するチヒロに、エルスティンが照れ笑いを浮かべる。
「というより、ビックリ。まさかチグサみたいになっちゃんじゃないかって。」
「それってどういう意味よ〜・・・」
チヒロの言葉にチグサがふくれっ面になる。アリカたちが笑顔を見せ、エルスティンも彼女たちの喜びと自分の勇気に笑みをこぼしていた。
ガルデローべ教室棟の廊下。人気のないその真ん中で、ミーヤは思いつめた様子を見せながら、その壁にもたれかかっていた。
「ワリィが、鬼ごっこは好きじゃねぇんだ。」
その声にミーヤの顔が怯えで強張る。恐る恐る振り向くと、その先にセンの姿があった。センは鋭い視線をミーヤに向け、彼女はそれに威圧感を感じて後ずさりする。
「テメェが何をしたのか、何を考えてるのかオレには関係ねぇ。けどな、あんまりナメたマネはすんじゃねぇぞ。」
センはミーヤの真意を追求することなく、振り返りそのまま立ち去っていった。予期していなかった彼の言動に、ミーヤは完全に言葉を失くしていた。
立ち去っていく校舎の廊下の途中、センは前方から歩いてくる女生徒を眼にする。トモエである。
トモエがセンに向けて一礼すると、センは彼女とすれ違ったところで立ち止まり、振り返らずに声をかける。
「テメェもナメたマネすんじゃねぇぞ。オレは姑息なやり方をするヤツは気に食わねぇんだよ。」
「何の、ことですか?」
センの言葉に、トモエは疑問符を投げかける。しかしセンは全てを見透かしていた。
「あんとき、テメェはオレやチヒロを影から見ていただろ。生憎、オレはよく周りを気にしちまうんでな。テメェが何をしようとしてたのか、だいたい分かっちまうんだよ。」
センの言葉にトモエの顔が強張る。
「安心しろ。テメェらのことは言わねぇ。そんなことをしても、オレには何の得にもならねぇからな。」
そう告げてセンはこの場を立ち去った。トモエは自分の思惑を見抜かれ、普段の冷静な面持ちから一変、憤りをあらわにしていた。
トモエはシズルを慕う人間の1人だった。しかしその感情が人一倍強く、アリカやチヒロに対して妬みを抱くようになっていた。
今回の事件は、彼女のそんな感情が発端となっていた。ミーヤを使ってチヒロのペンダントを持ち出し、外に捨てたのだった。それが偶然にも、スレイブを操る秘密結社「シュバルツ」の一員の手に渡っていたのである。
トモエの目論見を見抜いていたセン。しかしスレイブの正体とシュバルツについては知らなかった。
次回
「さぁて、どんなことになることやら。」
「何ひとつ、わらわの思い通りにならぬ・・・!」
「テメェはテメェだろ?」
「アリカを侮辱することは許しません。」
「あの2人、けっこう面白い出会いをしそうだね。」