-乙HiME –Crystal Energy-

7th stepJustice to Believe

 

 

 2本の短刀を振りかざして攻撃を仕掛ける凛に、ナツキは悪戦苦闘していた。かつてナツキのお部屋係を務めていた凛は、ナツキの思考や戦法を把握していたため、戦況を有利に進めていた。

「抵抗は無意味ですよ、ナツキお姉さま。あなたはイオリの革命も、私も止められませんよ。」

「凛、このままお前の、お前たちの策略を見過ごすわけにはいかない!さらなる被害が出る前に、ここで止めてみせる!」

 ナツキが銃砲で凛の短刀を防ぎ、そこから彼女を突き放す。凛は体勢を立て直して、間髪置かずにナツキに迫る。

 間合いを一気に詰められ、ナツキは反撃に転ずることができないでいた。装飾を伸ばして距離を取ろうとするが、凛は接近している状態から身を翻してこれをかわし、ナツキと背中合わせになる体勢で彼女の腕を自分の腕を絡ませて押さえる。

「伊達にあなたのお部屋係を務めていたわけではありません。あなたに関する知識なら、シズルお姉さまにも負けないと自負してますから。」

 ナツキに悠然と言いかける凛。ナツキが必死に凛の腕を振り払おうとするが、的確に腕を組み込まれて振り払うことができない。

「氷雪の銀水晶を身に付けたあなたは、遠距離攻撃を得意としている。ですから間合いを詰めて攻めれば、あなたの勝機は揺さぶられます。」

 凛は言いかけながら、手にしていた短刀に力を込める。その刀身が紅く染まり、光刃が伸びる。

「あなたの動きを完全に封じさせてもらいます。これで切り刻んでいけば、私に大きな傷がつく危険は少なくなります。」

 凛の言葉にナツキが危機感を覚える、短刀から伸びた光刃の切っ先を向けられた瞬間、ナツキは飛んで体をそらす。

 ナツキと凛の体勢が垂直になり、そして凛が下になる。

(このままだと私が、頭から突っ込むことに!)

 逆に凛が危機感を覚える。彼女はとっさにナツキの腕を放し、身を翻して体勢を立て直す。

 光刃を短刀に引き戻して地面に突き立て、そこから凛はナツキに一蹴を見舞う。背中に強打を受けながらも、ナツキは着地して銃砲を構える。

 だが凛がすぐに詰め寄り、ナツキの砲撃を許さなかった。狙いを外され、ナツキは凛に押される。

(これでは反撃することもままならない・・どうすれば・・・!?

 胸中で焦りを覚えるナツキ。凛の短刀から紅い光刃が伸び、ナツキに向かって伸びる。

 ナツキは銃砲で防ぐが、その拍子で体勢を崩されてしまう。

「ぐっ!」

 倒されてうめくナツキ。そこへ凛が光刃の切っ先を向けてくる。

「これで終わりです。ナツキお姉さま、あなたのお部屋係になれたこと、私は誇りに思います・・・」

 凛は物悲しい笑みをナツキに見せると、光刃を彼女に突き立てようとする。

 そのとき、凛に向けて一条の炎が飛び込んできた。彼女はとっさにナツキから離れ、炎を回避する。

「この炎は・・・!?

 乱入してきた炎に、ナツキと凛が驚愕の言葉を呟く。2人が振り返った先には、1人のマイスターオトメの姿があった。

 かつて恋と夢に引き裂かれ、神籬(ひもろぎ)の森で行方不明となったと伝説化された、ジパングの将軍家の姫君。「炎綬(えんじゅ)の紅玉」、鴇羽舞衣(ときはまい)である。

 舞衣はその神籬の森の奥にある黒い谷で、猫神を名乗る少女、ミコトと成り行き上契約を果たしてしまう。そしてナギの侵攻に2人も立ち向かい、その後はジパングとの連絡を取りながら、ミコトとともに黒い谷で暮らしていた。

「舞衣・・!?

「舞衣、お姉さま・・・!?

 舞衣に眼を向けるナツキと凛が言葉をもらす。舞衣はナツキに近寄り、彼女を支える。

「大丈夫、ナツキ?危ないとこだったね。」

「ここから挽回しようと思っていたのに水を差してきて・・」

 舞衣の微笑みかけての心配に、ナツキが不満をぶつけてみせる。

「強がらなくなっていいじゃない。ここはあのときみたいに、こだわってる場合じゃないでしょ。」

 舞衣に言いかけられると、ナツキも安堵の笑みをこぼして、動揺の色を隠せないでいる凛に振り返る。

「ミコトが教えてくれたの。また危ないものが動き出してるって。」

「ナギの弟と名乗っているイオリ・パルス・アルタイが、レーザー衛星を使って世界に攻撃を仕掛けようとしている。レムスもヤツによって消滅した・・」

 言いかける舞衣に、ナツキは状況を説明する。それを把握した舞衣は、未だに困惑している凛に声をかける。

「凛ちゃん、これ以上イオリを放っておいたら、また世界が大変なことになるの。だからそこを通して。戦いをやめて。」

「舞衣お姉さま・・・それはできません。これはイオリの平和への革命のための戦い。舞衣お姉さまが立ちはだかっても、私は立ち止まるわけにはいきません!」

 舞衣の呼びかけを一蹴して、凛が舞衣とナツキに飛びかかる。舞衣はエレメントのリングを具現化し、炎の障壁を展開して凛の短刀での攻撃を弾き返す。

 後退して着地する凛が、焦りを募らせていく。ナツキの遠距離攻撃を封じるために接近戦を挑んできていたのだが、舞衣の介入によってそれが困難になっていた。

「舞衣、今は一刻を争うときだ。一気に決めるぞ。」

「分かってる。でも凛ちゃんを倒すことに気が進まないっていうのが正直なとこなんだけどね。」

 指示を送るナツキに苦言を呟きながらも、舞衣も改めて身構える。

「凛ちゃん、ゴメンね・・あっついのいくわよ!」

 舞衣は肥大化したリングを回転させ。その輪の中に飛び込む。その瞬間、彼女は炎のオーラを身にまとい、閃光のような速さで凛に突っ込む。

(速い!)

 凛は脅威を覚えながら、飛び上がって舞衣の突進をかわす。そして凛は改めてナツキへの接近を図る。

 だが凛が眼を向けたナツキは、既に銃砲の狙いを定めていた。

「ロードシルバーカートリッジ!」

 銀色の弾丸を銃砲に装てんするナツキ。すぐに間合いを詰めようと、凛が飛びかかる。

「ってぇ!」

 凛が接近する前に、ナツキが砲撃を放つ。銀色の閃光が解き放たれ、飛び込んできていた凛を包み込んだ。

 閃光の直撃を受けて、凛が城壁に叩きつけられる。体力を使い果たした彼女は半壊した壁にもたれかかったまま、意識を失った。

「ゴメンね、凛ちゃん・・後でじっくり話し合おう・・・」

 凛に沈痛の面持ちを見せる舞衣の肩に、ナツキが手を添える。

「過ちを犯したなら、やり直してまた始めればいい。お前やアリカの受け売りだけどな。」

「そうだね、ナツキ・・またやり直していけばいいよね・・」

 ナツキの励ましの言葉に、舞衣は笑顔を取り戻して頷く。

「やったな、舞衣!ナツキもよくやったな!うんっ!」

 そこへ古風の装束を身につけた三つ編みの黒髪の少女、ミコトが気さくに声をかけてきた。

「取ってつけたような言い方をしてくれるな、お前のマスターは。」

「あっちゃぁ・・ミコトは素直でいい子なんだけどねぇ・・」

 ミコトに言葉にナツキが不満を口にすると、舞衣が苦笑いを浮かべる。だが3人は気を取り直して、アルタイの城に眼を向ける。

「行くぞ。あの空にあるものを壊さないと、世界が危ない。」

 ミコトの呼びかけにナツキと舞衣が頷いた。

 

 ハルカの参戦によって、シズルはハイネに対して優勢を見せていた。速さのシズルと力のハルカ。タイプの違う2人のオトメの連携に、ハイネは追い詰められていた。

「くそっ!冗談じゃないぜ!」

 思わず毒づいて、ハイネがシズルとハルカとの距離を取る。剣のエネルギーの出力を上げて、前方目がけて振りかざす。

 その放たれた光刃を、シズルとハルカが回避する。そしてハイネに向かって飛びかかったハルカがモーニングスターを構えて鉄球を振りかざす。

「くらいなさい!ダイナマイトクラッシャー!」

「なめるな!」

 ハルカが振り下ろした鉄球を、ハイネが後退してかわす。だが彼の動きを捉えていたシズルが長刀を振りかざす。

 分割された刀身が、ハイネの体を縛り付ける。

「何ぃっ!?

 眼を見開くハイネに向けて、ハルカが再び飛びかかってきた。

「今度こそ終わりよ!」

 ハルカが振り下ろしてきた鉄球。その強烈な攻撃を受けて、ハイネは突き飛ばされて壁に叩き込まれる。彼が手にしていた剣も、その衝撃で刀身が折れる。

 巻き起こる煙が治まり、壁には倒れて傷ついたハイネの姿があった。

「よっしゃー!これぞ正義の勝利よー!」

 ハルカが勝ち誇り、自信に満ちた笑みを見せる。

「今回は助かりましたわ。うちも気張らなあかんようやね。」

「どんなときも精進あるのみ。アンタも怠けてる場合じゃないわよ。」

 微笑みかけるシズルに、ハルカが言いかける。

 そこへ舞衣、ナツキ、ミコトが駆けつけ、シズルとハルカが振り返る。

「おや?アンタも来てたのね。」

 舞衣に眼を向けたハルカが笑みを崩さずに声をかける。一瞬苦笑いを浮かべる舞衣だが、すぐに真剣な面持ちに戻る。

「ここも決着はついたようだな。」

 ナツキが言いかけると、シズルは小さく頷いた。

「ナツキ、アリカさんは・・?」

「おそらく、トモエと戦っているだろう・・」

 シズルの問いかけに答えたナツキが、城内に振り返る。舞衣たちも振り返り、城内を見据える。

「アリカちゃんならきっと大丈夫。だからあたしたちは、あたしたちのやるべきことをやろう。」

「そうね。私が見込んでるんだもの。そう簡単に負けたりしないわ。」

 舞衣が言いかけると、ハルカが再び自身ありげに頷く。5人はイオリの策略を止めるため、城内に向かった。

 

 アリカに敵意を向けて、憎悪をあらわにするトモエ。だがアリカの力の前に劣勢を強いられ、トモエはさらに怒りを募らせていた。

「どうして・・漆黒の金剛石の力を手に入れた私が、こんなアマちゃんに・・・!?

 憤慨をあらわにするも、この優劣を覆すのは困難であると、トモエは考えるしかなかった。だがそのときトモエの視線が、アリカを信じているマシロに向いた。

 その瞬間、彼女の顔に妖しい笑みが戻る。

「そうよ。わざわざ正々堂々と相手してやることもないのよ。そこの女王を仕留めてしまえば、アンタもおしまいになるんだからね!」

 トモエが言い放つと、思い立ったアリカとマシロが眼を見開く。その直後、トモエが2本の短剣を合わせて巨大な剣を形成し、マシロに向かって飛びかかる。

「2人仲良く消えなさい!」

「マシロちゃん!」

 向かってくるトモエから、アリカはマシロを抱えて回避しようとする。だがトモエの一閃の余波はアリカの背に衝撃を与える。

「ぐっ!」

 その衝撃にアリカだけでなく、マシロも苦悶の表情を浮かべる。オトメとマスターの命のつながりにより、2人は痛みを共感していた。

 横転しながらもすぐに体勢を立て直すアリカ。そこへトモエが再度飛びかかってくる。

「私たちは、ここで立ち止まるわけにはいかない!」

 アリカはエレメントをつかんでいる手に力を込める。ブルースカイスピアが巨大化し、力を増していく。

「この、アリンコがぁぁぁーーー!!!

「トモエちゃん!」

 叫ぶトモエに向かっていくアリカ。力を解き放つ黒と蒼の刃が、激しくぶつかり合った。

 周囲に衝撃を巻き起こす中、2人の力は互角に見えた。

 だがそのとき、漆黒の剣の刀身に亀裂が入り、トモエが眼を見開く。その直後、彼女が徐々に押され始めた。

 そしてついにアリカの力が、トモエと漆黒の刃を打ち破った。刃の刀身が粉砕され、トモエも庭園の壁に叩きつけられた。

 その衝撃で、トモエの耳のピアスについていた漆黒の金剛石が弾け飛んだ。その効力を失い、トモエがまとっていたマイスターローブが消失する。

 沈痛の面持ちを浮かべながら、元の大きさに戻ったブルースカイスピアを手にしたまま、アリカがトモエに歩み寄った。

「どういうことなの・・急に力が入らなくなった・・・」

 トモエは自身の異変に困惑しきっていた。漆黒の金剛石がひび割れた瞬間、突如力が抜けていったのだ。

 力が入らず動けなくなっているトモエに、アリカが沈痛の面持ちを見せる。

「もうやめようよ、トモエちゃん。こんなことしたって、誰も喜ばないよ・・」

「う、うるさい・・お前に情けをかけられるぐらいなら、私は・・・!」

 呼びかけるアリカの言葉を一蹴するトモエ。

「やっぱり限界が来ちまったか。一種のドーピングまがいだったからな。」

 そこへ声がかかり、トモエが眼を見開き、アリカが声のしたほうに視線を向ける。その先には不敵な笑みを浮かべたイオリの姿があった。

「ど、どういうことよ・・・まさかお前、こうなることを・・・!?

 トモエが声を振り絞ってイオリに言いかける。するとイオリがトモエに眼を向けて答える。

「オレたちが改良を加えたGEMは、実在のマスターを必要としない、従来のGEMの力を上回るなど、確かに改良はされている。だが結局は早すぎた改良だったんだよ。」

「早すぎた・・・!?

「急速な進化は破滅を呼び込む。GEMだけでなく、GEMを使ったオトメもな。トモエ、もうお前は漆黒の金剛石を使うどころか、オトメになることもできなくなったんだよ。」

 イオリが口にした言葉に、トモエが絶望感にさいなまれる。彼の言葉にアリカが憤りを覚える。

「どうして・・オトメや人の命をこんな・・・!」

「どうして?国や世界の運命を握ってるといっても過言じゃないオトメが、こんなちっぽけな存在であることを知らしめるためだ。それに、オレは目的のためなら手段は選ばない。正々堂々や、正義や夢なんてきれいごとはオレには通用しねぇんだよ!」

 悲痛の声を上げるアリカに対し、イオリが狂気に満ちた笑みを見せる。

「それに、これはオレ1人の勝手な考えというわけじゃねぇ。」

 イオリが言い放った直後、彼の背後から1人のオトメが姿を見せた。その姿にアリカは眼を疑った。

「ニナ、ちゃん・・・!?

「アリカ、お父様のためにも、私はあなたを倒さなくてはならない・・・」

 驚愕するアリカの前に現れたニナが、落ち着きを繕いながら言いかける。そしてニナの横にセルゲイが並び立つ。

「セルゲイ・・・いったい、どういうことなの!?

 アリカが呼びかけるが、セルゲイは何も答えない。その呼びかけを気に留めず、イオリがセルゲイに呼びかける。

「セルゲイ・ウォン、ニナ・ウォン、邪なる黒曜石の力を今こそ解き放つときだ。」

「・・ニナ・ウォン、邪なる黒曜石よ、我が名において汝の力を解放する。」

 イオリに促されて、セルゲイがニナのピアスに付けられている漆黒の貴石に口付けをする。貴石が不気味な輝きを宿し、ニナのオトメとしての力を発動させる。

 認証を得たニナがアリカを見下ろす。

「マテリアライズ!」

 ニナの呼びかけを受けて、漆黒のGEMが起動する。彼女の体を漆黒のマイスターローブが包み込む。その形状は、アリカの使用している蒼天の青玉のマイスターローブと同じだった。

「どうなっておるのじゃ・・アリカのローブと・・・!?

 マシロもニナの姿を見て驚愕する。

「蒼天の青玉と邪なる黒曜石は、同一であり相対的なGEM。ローブの形状が同じであっても不思議じゃない。だが邪なる黒曜石は、全てのマイスターGEMの力を凌駕する。」

 イオリが不敵な笑みを浮かべて言い放つと、ニナはトモエに歩み寄った。そして動けないでいるトモエの首をつかんで持ち上げ、その手に力を込める。

 まさに息の根を止められたトモエ。首の骨が折れた彼女は、ニナの手から解放され、地面に落ちる。

「お、お前・・・」

「あなたは自分のために、私の友を傷つけ、私の心を踏みにじった。このまま眠りなさい・・・」

 冷淡に言いかけるニナが見下ろす中で、力尽きたトモエの体から淡く輝く。オトメの宿命に堕ちていくように、トモエは光の粒子となって消滅した。

「ニナちゃん・・いくら何でも、トモエちゃんにこんなことをしなくても・・・!」

 アリカが呼びかけると、ニナが表情を買えずに振り向く。

「アリカ、私はお父様のためなら、どんなことでもやってみせるわ。たとえアリカ、あなたを倒すことでも!」

 言い放ったニナがアリカに向かって飛びかかる。その打撃を受けて、アリカが城壁に叩きつけられる。

「ぐっ!・・アリカ!」

 共感した痛みに一瞬顔を歪めながらも、マシロがアリカに向かって叫ぶ。ニナがその城壁に向かい、城内へと入り込む。

「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、諦めろ。そしてアリカ・ユメミヤとともに朽ち果てろ。」

「ふざけるな!誰がお前のようなヤツに屈するものか!」

 笑みを崩さないイオリに、マシロは声を荒げる。

「オレはナギのようなみみっちいヤツとは違う。力と文化の再利用などでは世界は変わらない。オレは力を使って、全てを破壊して全てをやり直す!それこそオレが思い描く平和への革命だ!」

「何が革命じゃ!ナギもお前も、世界をどうにかしようとしてることに変わりないではないか・・・そなた、いったいどうしたというのじゃ!なぜイオリのようなヤツに・・!?

 高らかと言い放つイオリに反論しつつ、マシロがセルゲイに呼びかける。だがセルゲイは無表情のまま何も答えない。

「ムダだ。セルゲイは今、特殊な思念を放つピアスをつけている。それは契約したニナを使い、アリカをはじめとしたオトメを打ち倒すこと。」

「なっ・・・!?

「ニナはセルゲイを心から愛している。瀕死の重傷を受けて一人ぼっちになってたならなおさら。父親を溺愛し、何が何でも従うのは当然だ。だから父親をうまく操れれば、娘も操れるというわけだ。」

 驚愕するマシロに、イオリが高らかと哄笑を上げる。

「ずい分と卑怯なマネをしてくれたな。」

 そこへイオリに向けて、ナツキの声がかかってきた。マシロに接近するように、舞衣、ナツキ、ミコト、シズル、ハルカが降り立った。

「ハイネも凛もやられたというのか・・だがもう何もかも手遅れだ。」

「往生際が悪いわよ!マイスター4人が相手じゃ、アンタは逃げることもできないわよ!」

 笑みを崩さないイオリに指を指して、ハルカが言い放つ。

「逃げる?逃げられないのはテメェらのほうだよ!」

 イオリは言い放つと、空に向けて指差した。舞衣たちも指し示したほうを見上げる。

 視力のいいミコトは、空高く点在していたレーザー衛星、ヴァルキリーに気づいて眼を見開く。

「ヴァルキリーは今、このアルタイの真上にいる。そしてヴァルキリーの狙いは、このアルタイ城に定めているんだよ。」

「血迷ったか、貴様!?ここを砲撃すれば、貴様も死ぬことになるんだぞ!」

 イオリの言葉にナツキが声を荒げる。だがイオリはそれでも笑みを消さない。

「オレはこの革命に命を張ってる。このくらいのバクチは覚悟してるんだよ!」

 イオリが叫んでいる間に、舞衣がセルゲイの耳にあるピアスを外す。これによってセルゲイが我に返る。

「オ、オレは・・・これは、まさか・・!?

 困惑していたところで、自分の指にはめられている指輪を眼にして、セルゲイが思い立つ。イオリに操られるまま、自分がニナと契約を交わしてしまったことに、彼は気づいたのだ。

 そんな彼に向けて、イオリが不敵な笑みを見せる。

「やっと気づいたか、セルゲイ。だが何もかも手遅れだ。ヴァルキリーはオレの意思を受けて、このアルタイを狙っている。」

 イオリの言葉を受けて、ナツキたちが思い立つ。イオリが笑みを強めて、上空を見上げた。

「そうだ。ヴァルキリーは、機械的に改良を加えたオレのスレイブだ!」

 イオリが告げた真実。ヴァルキリーは、彼の操るスレイブだった。

 

 

final step

 

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