-乙HiME –Crystal Energy-

final stepKeep Holding U

 

 

うるわしく立ち舞うけがれなき羽

背負いましょう御子の命のひかり

星になるために生まれてはならぬ

愛するひとに抱かれてねむれ

 

 

 邪なる黒曜石を起動させたニナの攻撃を受けて、アルタイの城内に叩き込まれたアリカ。頭を手で押さえながら、アリカは瓦礫の山から立ち上がる。

 心身ともに追い込まれていたアリカの前に、平穏さを見せるニナが降り立つ。

「ニナちゃん・・どうして・・どうしてこんなことするの!?

 アリカがニナに向けて必死の思いで呼びかける。

「どうして私とニナちゃんが戦わなくちゃいけないの!?どうしてイオリの味方をするの!?

「アリカ、勘違いしないで。私はイオリのためじゃなく、お父様のために動いているのよ。」

 アリカの問いかけに、ニナが感情を押し殺しながら答える。

「セルゲイの、ため・・・!?

 その答えにアリカが戸惑いを覚える。

「あのときあなたに負けた私は、傷ついたままずっと孤独の中にいた。お父様への想いがあったから、私は死の淵にいても何とか生き延びることができた。私はセルゲイがいなかったら、私は死んでいた・・いいえ、ずっと孤児のままだった・・・だから私はお父様の、セルゲイのために全てを捧げる。たとえ世界が滅びることになるとしても、私はセルゲイがほしい!」

「ニナちゃん・・そこまで、セルゲイのことを・・・」

「そうよ。私にとってセルゲイは全てなの。セルゲイのためなら、どんなことだってする。これまでも、これからも・・だからアリカ、もしあなたが私たちの邪魔をするなら、たとえあなたでも・・・!」

 ニナが再びアリカに向かって飛びかかり、一蹴を見舞う。アリカが両手をかざして受け止めるが、その衝撃は強く、彼女は再び吹き飛ばされる。

 壁に激突しそうになったところで、アリカは体勢を立て直して踏みとどまる。だがニナはさらに追撃を繰り出してくる。

「どうしたの?戦いなさい。あなたのオトメとしての決意は、こんなものじゃないでしょう。」

「ダメだよ、ニナちゃん!私、ニナちゃんと戦うことなんてできないよ!」

 言い放つニナに対し、アリカは悲痛さをあらわにして声を返す。

「私、難しいことはよく分かんないけど、ニナちゃんの気持ちは、何となくだけど分かるよ!私もセルゲイのこと、好き、だったから・・・」

 アリカが沈痛の面持ちを浮かべながら言いかけるが、それはニナの感情を逆撫ですることとなる。

「ずっと孤独の中にいて、その中でセルゲイを想い続けていた私の気持ちは、あなたには分からない・・」

「ニナちゃん・・・」

「あなたが現れなければ、あなたがセルゲイに心を傾けなければ、私とセルゲイの気持ちの結びつきは、ずっと変わらないままだったのに・・!」

 激情をあらわにしたニナの右手に、漆黒の刃、ダークスピアが現れる。ニナがアリカに飛びかかり、ダークスピアを突き出す。

「ニナちゃん!」

 アリカもブルースカイスピアを手にして、ニナの一閃を受け止める。2つの激しい力の衝突によって、アリカとニナが吹き飛ばされる。

 壁に叩きつけられながらも、アリカもニナも再び飛びかかる。2人の舞いは力だけでなく、心のぶつかり合いとなっていた。

 

 ヴァルキリーは機械的改良を施したイオリのスレイブだった。その事実を知ったナツキたちが当惑を見せる。

「スレイブ・・まさか、お前が操っているのか・・・!?

 ナツキが問い詰めると、イオリが笑みを強める。

「そうだ。お前たちも知ってるはずだ。オトメとそのマスターと同じように、スレイブとそのスレイブロードは一心同体の関係にある。オレのスレイブであるヴァルキリーは、オレの思った通りに動き、このアルタイに狙いを定めている。」

「な、何をバカなことを!?・・今ここに撃ち込まれたら、私たち全員・・・!?

 イオリの言葉にハルカが声を荒げる。

「お前たちオトメは包囲網のど真ん中にいる。ここを撃てば、オレも死ぬが、お前たちも全員死ぬ!有力なオトメの大半がここで息絶えることになり、少なくとも世界は確実に混乱に陥る。」

「そうはいきませんえ。ここで止めさせてもらいますわ。」

 笑みを強めるイオリに、シズルも長刀の切っ先を向けて言い放つ。

「確かにオレを殺せばヴァルキリーからの砲撃も止められる。だがオレはお前たちに殺されるつもりはない。」

 イオリが言い終わったところへ、1体の巨大な影が飛び込んできた。舞衣がセルゲイを、ナツキがマシロをそれぞれ抱えて、シズル、ハルカ、ミコトも飛び上がって回避する。

 現れたのは異形の怪物。イオリのヴァルキリーとは別のスレイブだった。操っているのは、満身創痍の体を引きずっているハイネだった。

「アンタは先に行きな。派手に始めるんだろ?」

「ハイネ・・・感謝するぜ・・派手な花火をここに撃ち込んでやるよ!」

 逃がそうとするハイネに、イオリが不敵な笑みを浮かべて叫ぶ。そしてこの場をハイネに任せ、イオリが城内に入り込む。

「待て、イオリ!」

 マシロがとっさにイオリを追って、続いて城内に飛び込む。

「あっ!待って!」

 舞衣がマシロを呼び止めようとするが、その前にハイネのスレイブが立ちはだかる。

「悪いが、こっから先はオトメは立ち入り禁止だ。」

「うちらの邪魔をせんといてくれやすか?もうアンタに戦う力は残ってまへんやろ。」

 立ちはだかるハイネに対し、シズルが笑みを消して言いかける。

「あくまで立ちはだかるいうんやね・・堪忍な。」

 シズルはハイネに言いかけると長刀を振りかざし、スレイブを両断する。スレイブとシンクロしているハイネも苦悶の表情を浮かべ、その場に倒れ込む。

「こんなんで敵わないことは分かってる・・けど、これで足止めにはなったな・・・」

 不敵な笑みを見せるハイネの体から光の粒子があふれ出す。

「イオリ・・あとは・・任せた・・ぞ・・・」

 イオリに全てを任せたハイネが、スレイブとともに消滅する。いたたまれない気持ちを覚えるシズルだが、舞衣たちは先に向かうことを決意した。

 

 蒼天の青玉をまとうアリカと、邪なる黒曜石を振るうニナ。一途の想いを胸に秘めるニナに対し、アリカは戦うことにためらいを抱き、全力を振るうことができないでいた。

「こんなものが、あなたが抱いていた夢の力なの?・・だったら拍子抜けだわ。」

 ニナが落胆の表情を見せると、満身創痍のアリカに近づく。するとアリカが沈痛の面持ちをニナに見せる。

「やっぱりダメだよ、こんなの・・オトメの力って、オトメ同士で戦うとか、こんなことのためにあるんじゃないよ。」

「それはそのオトメ自身が決めることよ・・私はセルゲイを守るために、セルゲイと契約して、この邪なる黒曜石の力を手に入れた。アリカ、あなたは何のために、何を守るために戦ってるの?」

 ニナが真剣な面持ちでアリカに問いかける。アリカは自分の心と向き合い、その気持ちを思い返す。

(私は、私が大切にしている人たちを守りたい・・マシロちゃん、学園長さん、シズルさん、舞衣さん、そして、ニナちゃん・・・エルスちゃんも、きっとこう思うよね・・・)

 多くの人々に支えられて、今の自分がある。アリカはその優しさを胸に秘めて、前に踏み出すことを心に決める。

 その眼の前で、ニナがダークスピアに意識を傾けていた。力を込められた漆黒の刃が巨大化し、黒い輝きを放つ。

「私のすることが間違いというなら、全力で私を止めてみなさい!」

 ニナが言い放つと、ダークスピアを構えてアリカに飛びかかる。アリカもブルースカイスピアに力を注ぎ、巨大化した刃を構えて迎え撃つ。

 だがまだ完全に迷いを振り切ることができないでいたアリカが、ニナの一閃に突き飛ばされる。アリカが床に叩きつけられ、さらにその勢いのまま地下へと突き落とされていく。

 彼女が落ちたのは巨大なモニター画面のある大部屋。そこには不敵な笑みを浮かべてきたイオリの姿があった。

「ここまで来ちまったのか。その様子だと、ニナと邪なる黒曜石に歯が立たないようだな。」

「これは、いったい・・・!?

 イオリが言いかけると、アリカが疑問を投げかける。するとイオリが高らかに右手を上げて上を指し示す。

「ここはモニタールームだ。ヴァルキリーのサーチカメラが捉えた映像が、このモニターに映し出されるわけだ。そしてヴァルキリーは今、このアルタイを狙っている。」

「アルタイ!?・・何考えてるの!?そんなことしたら、みんな・・!」

 イオリの言葉にアリカがたまらず声を荒げる。

「それがどうした?表向きは平和に見えるこの世界も、オトメとそのマスターが実質的に掌握している。こんな歪んだ世界なら、いっそオレも巻き込んで消滅したほうがいい。オレは己の愚かさを痛感させつつ、この世界を1度無に還す!」

「そんなの・・そんなの絶対間違ってる!確かに悪いことを考える人がいたり、間違ったりすることもあるけど、みんな正しいことのために頑張ってるんだよ!」

 哄笑を上げるイオリに、アリカが反論する。

「私がこのオトメの力で、みんなを守りたい!誰かが傷つけあうことも、戦争もさせない!」

「だったら止めてみせろ、この危機を!オレを殺すか、ヴァルキリーを直接破壊するか。どっちにしろオレの命を奪わなくちゃ、お前たちは終わりだ!」

 決意と夢を告げるアリカに対し、イオリがついに感情をむき出しにする。

 アリカはこの瞬間、迷いを抱いた。世界を守るにはイオリの命を絶たなくてはならない。だがヴァルキリーを破壊すれば、イオリを死なすことになる。

 迷いを抱えているアリカの前に、ニナがこのモニタールームに降り立った。

「立ちなさい、アリカ。この世界を守りたいというなら、この私にその強さを見せなさい!」

 ニナが言い放つ前で、アリカが満身創痍の体を起こす。

「アリカ!」

 そこへイオリを追ってきたマシロがモニタールームにたどり着いた。彼女の声にアリカが視線を彼女に向ける。

「アリカ、こんなところで何をふらついておるのじゃ!お前の夢とは、そんなもろいものじゃったのか!?

「マシロちゃん・・・」

「お前はお前の夢に向かって進んでいくのじゃろ!?なら何が立ちはだかっても前に進むのじゃ!」

 声を振り絞って呼びかけてくるマシロに励まされて、アリカは迷いを振り切った。

「そう・・私の夢はここに、この世界にある。だからどんなことが起きても、私は諦めたくない・・相手がニナちゃんでも、私は前に進んでいく!」

 アリカの決意に呼応するように、彼女の持つブルースカイスピア、彼女の耳のピアスとマシロの指輪にはめ込まれている蒼い石が淡く光りだす。

「私は私の夢を、みんなの夢を守りたい!」

 アリカが叫ぶと、彼女のまとうマイスターローブが蒼く輝く。その光の中、結わかれていた彼女の髪がほどける。

 そしてアリカのまとうマイスターローブが形を変え、メインカラーの蒼がさらに色濃くなっている。エレメントのブルースカースピアも変化し、その蒼い輝きを強めていた。

 それこそ蒼天の青玉の真の力と姿だった。

「アリカ・・・!?

 蒼い光をまとっているアリカの姿に、マシロは驚きを隠せなかった。同じくイオリもその姿に驚愕していた。

「バカな・・ここで蒼天の青玉を完全に覚醒させたっていうのかよ・・・!?

 突然の驚異にイオリは歯がゆさを見せる。動揺を覚えながらも、ニナは落ち着きを払ってアリカと対峙する。

 先にニナが飛び出し、ダークスピアをアリカに向けて突き出す。アリカもブルースカイスピアを振りかざして、ニナの一閃を迎え撃つ。

 まばゆい閃光が解き放たれた直後、ニナがアリカの力に押されて突き飛ばされる。その瞬間にイオリは再び驚愕を覚える。

「まさか・・蒼天の青玉が、邪なる黒曜石を上回るなど・・・!?

 アリカに押されているニナを目の当たりにして、イオリが愕然となった。彼の見つめる先で、ニナが懸命に反撃に転ずるが、解放されたアリカの力に跳ね返されるばかりだった。

(そんな・・私の力が、アリカに及ばないなんて・・・)

「ダメよ!私がここで諦めたら、お父様を傷つけることになる!それだけは・・それだけは絶対に認めない!」

 一瞬迷いを覚えるも、ニナはその迷いを振り切って、力を全開する。力を注がれたダークスピアが巨大化し、彼女の持てる力の全てを収束させていた。

「ニナちゃん!」

 アリカもニナに呼びかけながら、ブルースカイスピアに力を注ぎ、ニナを迎え撃つ。蒼と黒の光刃が衝突し、膨大な閃光をきらめかせる。

 そんなモニタールームに、舞衣たちも到着した。同行していたセルゲイが、アリカと衝突するニナの姿を眼にする。

「ニナ!もうやめろ!」

(お父様!?

 セルゲイの呼びかけにニナが動揺する。それが彼女に一瞬の迷いを植え付けた。

 アリカの力がニナを押し込み、無数の刃がほとばしる。閃光に包まれたニナが壁に叩きつけられた後、息を荒げているセルゲイに眼を向ける。

「やめるんだ、ニナ!オレはお前とアリンコが戦うことも、イオリの思惑も望んではいない!」

「ですが、お父様・・・!?

「全てはイオリの企みだ。オレを操り、ニナまでも手駒にするための・・!」

 セルゲイの言葉を耳にして、ニナが愕然となってイオリに眼を向ける。イオリは不敵な笑みを周囲に向けていた。

「そうだよ。全てはセルゲイの言うとおり、革命のために利用していたんだよ。だがいまさら気付いても遅い。もうヴァルキリーはエネルギーの充填を終えている!」

 イオリが言い放つと、ミコトが膨大なエネルギーを察知して上を見上げる。

「まずいぞ!アレが撃ってくるぞ!」

 ミコトの声にアリカたちが緊迫を覚える。舞衣とナツキがそれぞれ炎と砲撃を繰り出し、天井を撃ち抜いて空への活路を開く。

「行くんだ、アリカ、ニナ!今のお前たちの力なら、ヴァルキリーを迎え撃つことができる!」

「急いで、2人とも!イオリはあたしたちが押さえるから!」

 ナツキと舞衣がアリカとニナに呼びかける。アリカとニナは互いに眼を向けあい、無言で頷いた。

 ヴァルキリーは今にもアルタイへの砲撃を開始しようとしていた。

「行こう、ニナちゃん・・・!」

「えぇ、アリカ・・・!」

 アリカとニナが飛び上がり、ヴァルキリーに向かって飛翔する。2人が収束されている閃光を目の当たりにした瞬間、ヴァルキリーが砲撃を放った。

「えっ!?撃ってきた!」

「落とさせるわけにはいかないわ!ここを通したら、全て終わりよ!」

 声を荒げるアリカにニナが呼びかける。2人は各々のエレメントを構えて、向かってくる閃光を迎え撃つ。

 2つの勢力の衝突で、周囲が完全に白む。その中でアリカとニナが全力で閃光を受け止めていた。

 だがヴァルキリーの砲撃は強力で、アリカとニナは押されだしていた。

「こんなところで負けられない・・私の夢は、みんなの夢はここにあるから!」

 アリカが負けじと閃光を押し返そうとする。一方、ニナは先ほどのアリカとの戦いで、力を消耗していた。

「私も負けられない・・セルゲイのいるこの世界を壊させるわけには・・・!」

 必死に踏みとどまろうとするニナ。そこへアリカがニナに向けて微笑みかけてきた。

「アリカ・・?」

「私、ニナちゃんやエルスちゃん、みんなと出会えたから、ここまで頑張れたんだよ・・・」

 眉をひそめるニナにアリカが言いかける。

「私、バカだし、いっつも失敗ばかりだし・・・だから誰かが傷つくくらいなら、私が傷ついたほうがいいかなって思っちゃうんだよね・・・」

「アリカ・・あなた・・・!?

「それはばっちゃが、みんなが言ってたことだから・・・ホントにありがとうね・・ニナちゃん・・・」

 アリカが言いかけると、疲れ切っているニナを閃光から引き離す。そしてアリカは手にしているエレメントに力を注ぐ。

 ブルースカイスピアがさらに形を変え、アリカの身長を上回るほどの長剣をなす。蒼天の青玉の真の力がもたらした「蒼天の剣」である。

 アリカはその大剣を振りかざし、閃光を一気になぎ払う。そしてアリカは間髪置かずに剣を構え、大気圏の外に点在しているヴァルキリーを見据える。

 蒼天の剣を大きく振りかぶり、アリカがヴァルキリーに向かって飛びかかる。想いと夢と、持てる力の全てを振り絞って、彼女は突っ込む。

 その夢の刃がヴァルキリーを貫いた。膨大なエネルギーを突き崩された衛星型のスレイブが崩壊し、エネルギーの暴発を引き起こした。アリカを巻き込んで。

「アリカ・・アリカ!」

 閃光に消えるアリカを目の当たりにして、ニナが叫ぶ。力を使い果たした彼女はその光に手が届くことなく、地上へと落下していった。

 落下の衝撃によるマイスターローブの崩壊を伴って。

 

 アルタイの空が閃光に包まれ、城内は白んでいた。ヴァルキリーの破壊によって、イオリが苦痛を覚えて自分の胸を押さえる。

「ぐっ!・・ヴァルキリーが破壊されたか・・・オトメたち、この戦いはオレの負けだ。だがオトメがいる限り、世界はオトメという力に振り回される・・破滅の一途を辿るだけだ・・・アハハハハ・・・!」

 体から光の粒子があふれるイオリが、眼を見開いて哄笑を上げる。やるせなさを浮かべているナツキたちの中、マシロが真剣な眼差しをイオリに向ける。

「オトメそなたが思っておるように愚かにできてはおらん。オトメは人じゃ。心がある。そなたのいう力に振り回されたりはせん・・」

「どうだかな・・そんな心、オトメにあればいいがな・・・」

 マシロの言葉をあざ笑いながら、イオリは光となって消滅した。ヴィントブルームの女王としての責務と決意を胸に秘めて、マシロは虚空を見上げていた。

 その眼に、落下してくる人の姿が留まる。

「おい・・誰かが落ちてくるぞ・・」

「えっ・・?」

 マシロの声にナツキが眼を凝らす。彼女の眼に、落下するニナの姿が映る。

「ニナ!?

 声を荒げるナツキが飛び上がり、舞衣も彼女に続く。一糸まとわぬ姿で落下するニナを、ナツキがしっかりと受け止める。

「ニナ!しっかりしろ、ニナ!」

 ナツキが呼びかけると、ニナがゆっくりと眼を開ける。彼女の無事にナツキと舞衣が安堵を見せる。

「アリカ・・・アリカは!?

 アリカのことを思い出し、ニナが周りを見回す。しかしこの場にはナツキと舞衣しかいなかった。

 愕然となっているニナを連れて、ゆっくりと降下するナツキと舞衣。そこには既に城の外に出ていたマシロたちの姿があった。

「無事だったんやね、ニナさん・・・」

「はい・・ですが、アリカが・・・」

 シズルの安堵を込めた声に、ニナが悲痛の面持ちを浮かべる。だがマシロは気落ちした様子を見せていなかった。

「心配することはない。アリカなら無事じゃ。」

 マシロの言葉にニナだけでなく、この場にいる全員が振り向く。

「わらわとアリカは契約をしておる。わらわが生きているなら、アリカも生きておるはずじゃ。」

「それならあの子、いったいどこに・・・」

 マシロの言葉を受けて、ハルカが上空を見渡す。しかしアリカの姿の影も形も見当たらなかった。

「どこにいても関係ない。アリカは、私たちの夢を守ってくれたアリカは、必ず見つけ出す・・・この世界のどこにいても・・・」

 ナツキに抱えられているニナが、決意を秘めて言いかける。その言葉にマシロもナツキも舞衣も、真剣な面持ちで頷いた。

「せやけど、焦りは禁物やね。少し落ち着いてから探すとしましょか。」

 そこへシズルが微笑んで言いかけ、ニナたちをいさめる。

「そうだな・・アルタイの騒動の鎮静化が先決だな・・・」

 セルゲイも同意し、ニナも困惑を見せながらも渋々頷いた。

「救護と事態の収拾と平行して、アリカの捜索を行う。ニナ、お前は少し休むんだ。」

「私も行きます・・・」

 指示を出すナツキにニナが言いかける。だがナツキは首を横に振って拒む。

「ニナ、今は体を休めることが先決だ。この状態では捜索もままならないだろう・・」

「・・・分かりました・・・」

 ナツキの言葉を受け入れるニナだが、アリカのことが気がかりで、ニナは悲痛さを抑えられないでいた。

 

 ヴァルキリー消滅から数時間後、事態は沈静化した。

 イオリの命令で動いていたワルキューレ部隊は、呪詛の黒曜石の力を抑制され、拘束された。同様にイオリに従っていた凛も。

 一路ヴィントブルームに帰還したマシロとナツキは、これまでのイオリの引き起こした策略の全容とその鎮圧を告げた。人々は安堵や不安など、いろいろな反応を見せていたが、マシロはこの事態に断固たる態度で臨むことを付け加えた。

 そして一夜が明け、束の間の休息を取って万全を整えたニナは、マシロとともにアリカの捜索に身を乗り出した。しかしアリカの行方不明は人々を考慮して伏せていたため、捜索は難航していた。

 それでもニナもマシロも諦めなかった。アリカはこの世界のどこかに必ずいる。みんなの夢があふれているこの世界に。

 そして本格的な捜索を開始してからまた一夜が明けようとしていたときだった。

「マシロ様、そろそろお休みになられたほうが・・ここからは私だけで・・」

 ニナが言葉を切り出すが、マシロは聞き入れる様子を見せなかった。

「わらわはアリカのマスターじゃ。こんなことでへこたれておっては、あやつに合わせる顔がないというものじゃ。」

「そうですか・・・でも、ムリはなさらないでください。あなたはヴィントブルームの女王、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームなのですから・・」

 強気に言ってみせるマシロに、ニナは微笑んで答える。

「分かっておる・・でもなぜか・・この近くにアリカがいるような気がしておるのじゃ・・」

 マシロはニナに言葉をかけると、手の指につけている指輪にある蒼い貴石を見つめる。

「まるでこの石が、わらわをアリカのいる場所に導いてくれているようじゃ・・・」

 マシロが物悲しい笑みを浮かべて言いかけて、おもむろに視線を移した。

 そのとき、マシロは眼を見開いて、呆然とその先を見つめていた。

「マシロ様・・・?」

 その様子に疑問を覚えて、ニナもマシロの見つめる先に振り向く。そこにいた姿に彼女も当惑する。

 見覚えのある顔。追い求めていた人。夢に向かって一途だった少女、アリカ・ユメミヤに間違いなかった。

「アリカ・・・」

 安堵と喜びを感じたニナとマシロの眼に涙が浮かび上がる。アリカが2人に向かって歩き、笑顔を見せる。

「ただいま・・ニナちゃん・・マシロちゃん・・・」

「おかえり・・アリカ・・・」

 互いに声を掛け合うアリカとニナ。

「この馬鹿者が。わらわやみながどれほど心配してたことか・・」

 マシロが涙ながらにアリカに文句を言う。

「ゴメンね、マシロちゃん・・心配かけちゃって・・・」

 アリカも苦笑いを見せて、マシロに謝罪する。マシロはそんなアリカを微笑んで迎え入れた。

 そしてアリカはニナに眼を向ける。しばらく見つめ合うと、アリカとニナが飛び出して、互いを抱擁しあう。

「やっと見つけた・・アリカ・・・」

「私もだよ・・ニナちゃん・・・」

 再会と友情を確かめて、アリカとニナだ抱きしめあう。

「みんなの夢がここにある・・あなたも、私も・・・」

「うん・・・ニナちゃん、マシロちゃん、進もう、夢に向かって・・・」

 ニナの言葉にアリカが頷く。彼女たち乙女の夢は、どんなことがあっても揺るぎはしない。

(見守っていて・・シスカさん、ドギーさん・・エルスちゃん・・・)

 

 

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