舞-乙HiME –Crystal Energy-
4th step「crosswise」
マテリアライズを遂行し、ハイネに立ち向かうナツキ。しかし長距離攻撃を得意とする彼女に対し、ハイネは剣を駆使した接近戦を挑んできた。
間合いを詰められて距離が取れず、ナツキは悪戦苦闘を強いられていた。
(このままでは反撃すらできない!何とか打開しなければ・・!)
銃砲の砲撃を放とうとするナツキだが、ハイネがそれを許さない。
「一気に距離を詰めてしまえば、所詮こんな程度か・・!」
ハイネがナツキに不敵な笑みを浮かべてあざける。彼は彼女にさらなる一閃を繰り出し、彼女を突き飛ばす。
「くそっ!」
「これで終わりだ!」
毒づくナツキに向けて、ハイネが追い討ちの一閃を繰り出す。だがその一閃を、突如飛び込んできた刃が阻んできた。
「何!?」
虚を突かれたハイネがたまらず後退する。踏みとどまったナツキの前に、紫のマイスターローブを身にまとったシズルが飛び込んできた。
「シズル・・・」
「待たせて堪忍な、ナツキ。後はうちが引き受けますわ。」
戸惑いを見せるナツキに、シズルはハイネを見据えたまま言いかける。ナツキは気を落ち着けて、小さく頷く。
「シズルに甘えるのはよくない。援護を頼む。私がそこを撃ち抜く。」
「ナツキ・・分かりましたわ。うちが気を引き付けとくから。」
ナツキの申し出にシズルが頷く。剣を構えるハイネに向かって、シズルはエレメントの長刀を振りかざして飛びかかる。
分割された長刀の刀身が鞭のようにしなり、ハイネに向かっていく。ハイネは刀身の動きを伺いつつ、飛び上がってその一閃をかわす。そこへシズルが飛びかかり、再び長刀の一閃を繰り出す。
「くっ!」
毒づくハイネが剣を掲げ、シズルの一閃を受け止める。2人は互いに力負けせず、踏みとどまっていた。
(コイツは接近戦に強い。長引けばオレが追い詰められる・・!)
不利と思ったハイネがシズルを突き飛ばし、距離を取ろうとした。だがこれはシズルの狙いだった。
突然上に飛翔するシズル。その背後の先には、銃砲を構えているナツキの姿があった。
「しまっ・・!」
ハイネが眼を見開いた瞬間、ナツキが砲撃を開始した。発射された閃光が真っ直ぐハイネに向かって飛び込んでいく。
ハイネが剣を振り下ろして閃光を弾き飛ばそうとするが、閃光は剣の刀身を叩き折り、ハイネを突き飛ばした。地上に叩きつけられて横転するが、ハイネはすぐに立ち上がってナツキとシズルを見据える。
(ちっ!・・シズルに気を取られて、ナツキが狙っていたのに気づかなかったとは・・!)
2人のマイスターオトメの連携を前に、ハイネは毒づいていた。その戦況を見つめていたイオリも笑みを消していた。
アリカに代わってトモエと交戦するシスカ。しかし漆黒の金剛石の力は強力で、シスカは次第に追い込まれていた。
「どうしたの?世界を渡り歩いている賞金稼ぎのお姉さまの力はこんなものなの?」
妖しく声をかけてくるトモエに、シスカは歯がゆさを浮かべていた。トモエの振るう漆黒の金剛石の力は、マイスターオトメの中でも群を抜いていた。
「確かに強いわね・・ここまでの相手、オトメでもスレイブでもいなかった・・・でも、私にだって、負けられない理由があるのよ・・・!」
満身創痍の体に鞭を入れて立ち上がり、シスカはエレメントの杖を振りかざす。その杖に稲妻が収束し、膨大なエネルギーを形成する。
「まだこれだけの力が出せるの?さすが霹靂の金水晶ね。でも今の私には敵わない。」
トモエは妖しく言いかけると、剣を握る手に力を込める。膨大なエネルギーを帯びて、剣が肥大化していく。
「これは・・・!?」
「もう遊びはここまでよ。これでとどめを刺してあげる!」
トモエは眼を見開いてシスカに向かって飛びかかる。シスカもエネルギーを凝縮させた杖を振りかざし、全力でトモエへの迎撃に踏み切った。
ガルデローベへの攻撃を仕掛けていたワルキューレたちだったが、奮起したマイスターオトメたちの活躍によって、次第に不利に陥っていた。その戦況を見据えて、イオリは眼つきを鋭くした。
(さすがガルデローベ。マイスターオトメを始めとしたオトメたち。特に五柱に選ばれたマイスターは力も経験も豊富だ。攻め込むのは少し早すぎたか・・)
毒づくイオリが、ナツキとシズルと相手に悪戦苦闘しているハイネに再び眼を向ける。
「ハイネ、撤退するぞ!ワルキューレ部隊、引き上げだ!」
イオリがハイネとワルキューレたちに呼びかける。ガルデローベを攻め入っていた少女たちが攻撃の手を止めて振り返る。
そこへ1人のオトメが地上に叩きつけられてきた。ナツキとシズルが落下してきたオトメ、シスカを目の当たりにして眼を見開く。
「シスカ!」
声を荒げるナツキの前で、シスカが傷ついた体に鞭を入れて立ち上がる。その眼前にトモエが降り立ち、妖しい笑みをこぼす。
「あなたもいらしてましたか、シズルお姉さま。私のこの力、マイスターオトメでさえ凌駕するほどですよ。」
「アンタもイオリさんに尽くしてるんどすか?ずい分大胆になりましたね、トモエさん。」
悠然としているトモエに対し、シズルは憤りを押し殺して笑みを見せていた。すると満身創痍のシスカが立ち上がり、シズルを手で制する。
「このままやらせてください、シズルお姉さま・・トモエさんを止めるのは、まだ私の役目です・・」
「それはなりません。その体でこれ以上戦ったら、あなただけではない。ドギーさんにも危険が及びますわ。」
「これは私の舞闘!そして彼の戦いなんです!」
シズルがシスカに言いとがめようとするが、シスカは聞き入れようとしない。
「わがままを言ってすみません、お姉さま。ですが私は、私とドギーには、絶対に負けられない相手がいるんです!」
「シスカ・・・」
シスカの言葉にナツキも戸惑いを覚える。シスカはトモエを鋭く見据えて言い放つ。
「たとえあなたがガルデローベのオトメにふさわしい人であったとしても、あなたがどれほどシズルお姉さまを求めていても、このような身勝手な行動を許すつもりはない!」
「言ってくれますわね、シスカお姉さま。今のあなたに何ができるというのです!」
エレメントの杖を構えるシスカに対し、トモエがいきり立って飛びかかる。巨大となり突き出された剣が、シスカの体を貫いた。
「シスカさん!」
「シスカ!」
穿たれたシスカを目の当たりにして、シズルとナツキが叫ぶ。だがシスカは笑みを崩していなかった。
「ナツキお姉さま・・シズルお姉さま・・・アリカさんを、どうか・・・」
シスカはアリカへの思いを託すと、杖を握る手に力を込める。杖から帯びていた電撃が一気にほとばしり、爆発的な衝撃をもたらす。
その放電に巻き込まれたトモエが眼を見開き、苦悶の表情を浮かべていた。断末魔の叫びを上げながらも、彼女はエレメントの剣を消失させてこの場を退く。
トモエを道連れにする策略は失敗したシスカが、前のめりに倒れた。
「シスカ!」
ナツキがシスカに駆け寄り、トモエに向けて銃砲を構える。
「撤退だ、トモエ・マルグリッド!それともここで息絶えるつもりか!?」
そこへイオリが呼びかけ、トモエが毒づく。次の攻撃を制され、彼女は渋々この場を離れた。
傷つき倒れたシスカをナツキが支える。一方、ワルキューレとの交戦を終えてシスカの元へ向かったドギーも、彼女の重症の同調により、激痛を覚えていた。
「シスカ、お前・・・!?」
ドギーが声を振り絞り、シスカに向かって歩いていく。彼の姿に気づいて、シスカが小さな笑みをこぼす。
「ドギー・・ゴメンね・・・ちょっと、ドジっちゃった・・・」
「おいおい・・いくらドジ踏んでも、弱音を吐くなんてお前らしくないな・・・」
弱々しく声をかけるシスカに近づくドギーも、苦悶の表情を浮かべて前のめりに倒れ込む。
「ドギーさん・・・!」
そこへ生徒たちの避難を終えて戻ってきたアリカとマシロが、傷ついたシスカとドギーを目の当たりにして愕然となる。
「シスカさん・・ドギーさん・・・」
アリカが2人に対して悲痛さを覚えるが、2人を思い、これを表に出さないようこらえた。
「ドギー、あなたにはホントに感謝してる・・こんな私のマスターになってくれて、一緒に戦ってくれて・・・」
「何を言っている・・感謝しているのはオレのほうだ・・・お前のようなかわいく頼もしいオトメが相棒で、オレはよかった・・・」
互いに微笑みかけて、シスカとドギーが手を伸ばす。力を振り絞って、2人はようやく手を握り合う。
2人の死を象徴するかのように、2人の体から光の粒子があふれ出していた。
これがオトメの死である。オトメと主は一心同体の関係にある。一方が倒れれば、もう一方も死を迎えることとなる。
「ドギー・・これからも、私の相棒でいてよね・・・」
「もちろんだ・・シスカ・・・」
互いの絆を噛み締め、これまでの2人での思い出を思い返すシスカとドギーの体が、光の粒子となって消滅した。
「シスカさん・・ドギーさん・・・!」
2人の死を目の当たりにして、アリカが悲しみを噛み締める。必死にこらえようとしていた涙が、彼女の意思に反してついに眼からあふれ出した。
ワルキューレ部隊の奇襲によって混乱を喫したガルデローベ。しかしオトメたちの協力によって、徐々に混乱は治まりつつあった。
その戦いの中で、シスカとドギーはオトメの宿命の中で命を落とした。2人の死に対する悲しみをアリカたちは抱え込んでいた。
沈痛の面持ちを浮かべているアリカに歩み寄ってきたのは、彼女の親友、エルスティンだった。
「そんなに落ち込まないで、アリカちゃん・・」
「エルスちゃん・・・」
エルスティンの励ましの言葉に、アリカが困惑の面持ちを見せる。その表情を眼にして、エルスティンも沈痛さを見せる。
「私に、もっと力があったら、シスカさんとドギーさんを助けられたかもしれなかったのに・・・」
「そんなに自分を責めたらダメだよ、アリカちゃん。シスカお姉さまもドギーさんも、アリカちゃんがマイスターオトメとして未来に向かって歩いてほしいと思ってるから・・」
エルスティンがアリカの肩に優しく手をかける。
「だからアリカちゃん、顔を上げよう。そしてオトメとしての自分に磨きをかけよう。」
「エルスちゃん・・・」
切実に言いかけてくるエルスティンに、アリカは自分の沈んでいた心のわだかまりが和らいだような気がした。いつまでも悲しみにふさぎこんでいてはいけない。シスカとドギーのためにも、前を向いて歩いていかなくてはならない。
「そうだよね・・ゴメンね、エルスちゃん。そして、ありがとう・・・」
「ううん。アリカちゃんがいたから、私は今まで頑張ってこれたんだよ・・・」
感謝するアリカにエルスティンが囁く。その言葉にアリカが戸惑いを見せる。
「私、気が小さくて、成績もなかなかよくならなくて、オトメになる自信を失くしてた・・でもアリカちゃんの、夢に向かって真っ直ぐ突き進んでいく姿を見て、私も勇気を取り戻すことができたんだよ・・」
「えっ?そんな・・私、とりあえずはマイスターオトメにはなったけど、まだまだ学ばなきゃならないことがたくさんあって・・」
エルスティンの言葉に困惑するアリカ。彼女の慌てぶりを見て、エルスティンが笑顔を見せる。
「アリカちゃんとの出会いと、一緒に過ごしてきた時間を、私は大切に思ってるよ・・・ありがとうね、アリカちゃん・・・」
エルスティンの素直な気持ちと言葉に、アリカは笑顔を取り戻す。エルスティンの両手を取って、彼女を見つめる。
「私もいつかオトメになる。だからアリカちゃんも、もっと立派なオトメになれるように頑張って・・」
「エルスちゃん・・・こっちこそありがとう、エルスちゃん。私もエルスちゃんがいてくれたから、また元気と勇気を取り戻すことができたんだよ。これからもよろしくね、エルスちゃん♪」
エルスティンの言葉を受けて、アリカが笑顔を取り戻す。改めて友情を感じあって、2人は互いの両手を握り締めた。
「ここにいらしはったんやね、アリカさん。」
そこへシズルがやってきて、アリカとエルスティンが振り向く。
「シズルさん・・」
「シスカさんとドギーさんのことで落ち込んでる思いはったんやけど、その様子なら気張れそうやね。」
当惑しつつも微笑みかけるアリカを見て、シズルが笑顔を見せた。しかしすぐに真剣な面持ちになる。
「アリカさん、ちょっと学園長室に来てもらえますか?マシロさんももうそっちに行きましたえ。」
「はい。分かりました・・でも、何かあったんですか?」
アリカが質問すると、シズルは少し間を置いてから答える。
「見つかったんどす・・ニナさんが・・」
「えっ!?ニナちゃんが!?」
シズルが口にした言葉にアリカは驚愕する。エルスティンもニナの無事を聞いて、動揺の色を隠せなかった。
ワルキューレ部隊を撤退させたイオリは、大型艦の司令室のコンピューターを操作していた。それは世界の革命のためのもう1つの秘策だった。
その操作を行っているところへ、ハイネがやってきた。
「ここで1人で何やってるんだ?」
ハイネが気さくに声をかけると、イオリはコンピューターを操作していた手を止める。
「これは世界の革命のための秘策さ。たとえオトメだろうと、コイツの前では無力に等しい。」
「そんなにすごい代物なのか?」
「このことはオレと一部の連中しか知らないことだが、お前にも教えといてやる。それはな・・」
イオリは席から立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて上に向けて指を刺した。
「衛星だ。」
「衛星?・・監視か何かか?」
「そんなおもちゃみたいなもんじゃねぇ。攻撃衛星“ヴァルキリー”。高出力、攻撃力絶大の破壊兵器だ。」
イオリは説明すると、背後の画面に電源を入れる。そこには大気圏圏外に停滞している1機の衛星が浮遊していた。
「コイツはこのエアルの周囲を取り付くように動いている。ここのコントロールパネルで動かし、標準を合わせる。そしてそのエネルギー砲は、国1つを完膚なきまでに吹き飛ばす。」
「ほう?それは怖いことだな。」
「連射が利かず、1回の砲撃におけるエネルギーチャージにかなりの時間を費やすのが欠点だが、それでも革命を起こすための力としては十分だ。」
イオリはコントロールパネルを操作し、ヴァルキリーを動かす。ヴァルキリーは標準を定め、エネルギーを充填させる。
その標的は、ルーテシア連合王国の1国、レムス。
「見るがいい、世界の王とオトメたち。これが、真の革命の幕開けだ。」
いきり立つイオリがヴァルキリーの発射スイッチを押す。すると衛星の発射口から膨大な閃光が解き放たれる。
その光は王城に直撃し、さらに周囲の町や土地を包み込んだ。この場にいた人々も、この瞬間何が起こったのか分からないまま、まばゆい光に包まれた。
次の瞬間、レムスは一瞬にして焦土と化していた。人々も気づかないうちに、消滅し息絶えた。
「この猛威のヴァルキリーを持つオレたちに、もはや不可能はない!」
「だがこれで世界は慌てるぜ。もしかしたら、もうこっちをかなり警戒してるかもよ。」
歓喜の哄笑を上げるイオリに、ハイネが不敵な笑みを崩さずに言いかける。するとイオリは笑みを見せながら答える。
「望むところさ。これを期に敵対する連中をまとめて始末してやるのもいいからな。」
再び哄笑を上げるイオリに、ハイネは思わず苦笑をもらす。今、革命は本格化に向けて加速しようとしていた。