緑の抱擁

 

 

 そよ風たなびく森の中に私はいた。

 何も身に付けていない姿で、緑に包まれたこの場所で動けないでいた。

 なんでこんなことになってしまったんだろう。

 その私の問いかけに、答えてくれるものはいなかった。

 

 わたし、会川ますみ。

 花も恥らう17歳の高校2年生。

 私は今、都会から少し外れた小さな町に住んでるの。だから都会では見られないような道を通って、学校に通ってるの。

 いつもは朝早く起きれる私なんだけど、この日はたまたま寝坊してしまった。

 普通に道を通っていたら、間違いなく遅刻してしまう。そう直感した私は、心の片隅に記憶していた抜け道のことを思い出し、そっちに向かった。

 その抜け道は林を突っ切る険しさのある道だったけど、行き慣れてる私なら通り抜けるなんて簡単。そう思っていた私は、大して注意を払わずに進んでいった。

 ところが、道の中央辺りまで進んだそのとき、

「キャッ!」

 足首に何かが巻きつき、私はそこから崖を落ちてしまった。衝撃に備えて身構え、私は気絶した。

 

「・・ん・・・ここ・・は・・・?」

 崖から落ちた私。眼を覚ますと、そこは密林地帯のようだった。

 緑の広がるその場所で、私は体を枝のようなもので縛られていた。

 多分、この枝が絡まったことで、地面の激突を避けられたみたいだった。

「ちょ、ちょっと・・・」

 私はその枝を振り切ろうと体を動かすが、枝は私の体をしっかりと縛り上げて、振りほどくことができない。

「んもう・・何なのよ、コレ・・!?

 枝は私の両手両足を縛りつけ、全く身動きが取れなかった。

 しばらく暴れていると、後ろの大樹からモソモソと音がしてきた。

 気になって視線を後ろに向けると、そこから枝が伸びてきた。私を縛っているものより少し太めの枝だった。

「え、な、なに!?

 怖くなってきた私は、枝を振り払おうとさらに暴れた。それでも枝は振りほどけず、そして枝がさらに私を取り巻いていく。

「いや・・放して・・!」

 私は思わず声を上げた。さらに体を縛り上げられ、力が抜けていくのを感じた。

「あ・・ぁぁぁ・・・!」

 あまりの苦しさに声をもらす私。

 太い枝が私の体を締め上げていく。

 そのとき、私は奇妙な感触に思わず身震いした。視線を向けると、太い枝から何かネバネバしたものがあふれ出てきていた。

「イヤッ!気持ち悪いよぉ!」

 不気味な液体がたまらなく気分が悪く感じる。でも、驚くのはこれからだった。

 液体を浴びた私の制服が、ドロドロになって溶け出した。ぬれた紙が擦られていくみたいに、制服が液状になって私の体を流れ落ちていた。

「イヤアッ!やめて!」

 必死に枝を振りほどこうとしても、枝は離れず、私の着ているものを溶かしていく。肌がさらけ出されて、私は恥ずかしくなる。

 不快感を感じながら、私は制服をはじめ、着ているものを全部溶かされて、すっかり裸にされてしまった。締め付ける枝が私の肌に食い込む。

 すっかり恥ずかしくなって、呼吸が荒くなった。

 遅刻するから近道しようとあの道に入っただけなのに、足を踏み外して落ちて、さらに縛られてヘンな大樹に体を縛られて制服を解かされて裸にされなくちゃいけないんだろう。

 そんな疑問でさえ、私の恥じらいでゴチャゴチャになってしまった。

 枝は私を持ち上げ、私の胸を巻き取ろうとする。体の奥から湧き上がる気分に、私は硬直するしかなかった。

 さらに枝は伸びてきて、今度は私の股に入り込んできた。

「っ!」

 私は一瞬頭の中が真っ白になった。枝が私の股をいじくり出したのだ。

「いやあぁぁぁーーーー!!!

 私はたまらず叫んだ。1本の枝の先端が私の中で動き、私を揺さぶってくる。

 声にならない叫びを私は上げていた。今まで味わったことのない、激しい感じ。もみくちゃにされた私の股から、液がもれ出していく。

「イヤッ!やめて!やめてよ!」

 嫌な気分を感じていた私は、実らない抵抗をしてさらに叫んだ。それをさえぎるように、枝が私の口に入り込んできた。

 口を塞がれて、私は叫ぶことさえできなくなった。動く枝の感触に吐き気を感じていた。

 弄ばれている私は、さらに不気味な感触が広がってきていた。枝が私の中に何か液体を流し込んできたの。

 私の不快感がさらに強まった。まるで体の中を水洗いされているみたいに。

 股から私の液と一緒に、枝が出してきたと思われる緑色の液があふれ出てきた。

 そして私は、さらに体が動けなくなる感覚に襲われた。枝に縛られているよりも体の中を弄ばれているよりも、ホントに体が固くなった感覚だった。

 薄れていく意識の中で、私の耳に固い、石のようなものの音が伝わってきた。

 もう1度抵抗してみようと体に力を入れるが、思うように動かない。もう私のものじゃないみたいに全く。

 ふと視線を向けると、私は驚きを隠せなかった。

 私のお腹が枝から出した液と同じ緑色に変わっていた。

「か・・・体が・・石に・・・!?

 私の体が、お腹と胸の辺りから、緑色の石に変わっていた。多分、枝が流し込んできた液体の効果なのね。

 石化はさらに私の体に広がっていた。そして私の体の中に入り込んでいた枝が、その先端を私から外した。

 私の液が石化の液と交じり合って、枝の先端にこびりついている。その光景が私の眼に飛び込んできて、私は冷静でいられなくなってしまった。

 まるで体が凍りつくような肌寒さを感じていた。これが、体が石になるってことなんだね。

 吹雪のふく雪山に放り出されて凍えているような気分の中で、私はあるものを見た。

 密林の下にある草原に立っているそれは、裸の女性をかたどった緑色の石像だったの。

 意識がはっきりしてなかったから分からないけど、みんな無表情な、力の抜けたような顔をしていた。まるであの大樹に力を吸い取られたみたいに。

(ぁぁ・・・私もあんなふうになっちゃうんだ・・・森の中にたたずむ、緑の石像に・・・)

 心の中でそんなことを呟いていた。私の体を包み込んでいるこの変化から、もう逃げることはできない。さらに体の自由を奪われて、あの人たちと同じ緑の石像になるんだから。

 縛り付けていた枝が全部、私の体から離れていく。そして数本が、石になった私の体を撫で回していく。

 私はその嫌な肌触りも、感覚が鈍ってきてあまり感じなくなった。私はただ、石になるのを待っていることしか考えられなくなっていた。

 裸のまま私はそこに立って石像になる。石化が手足に届きそうになっていると感じたときから、そう思うしかなかった。

 凍りつく冷たい感覚が首を駆け上がり、私の顔を包み込んできた。

(なんで・・・こんな・・・こと・・・に・・・)

 おもむろにそんなことを思う。でも、私のその問いかけに誰も答えてくれることなく、私は完全に石になった。

 まだ何とか意識は残ってたけど、ホントに体が動かせなかった。これが石になったということだと分かった。

 枝は再び私の体に巻きついてきた。そして私を、石像の並んでいる場所へと運んでいった。

 こうして私は、この大樹の被害者、裸の緑の石像の仲間入りとなった。

 他のみんなも、今の私と同じ気分だったのかな?体を弄ばれて、どうにもならない不快感を感じてたのかな?

 そんな問いかけなんかつまらないことでしかないまま、私はこの森の中でたたずんでいた。

 

 私は石像。

 この深い森の緑に包まれて、裸でそこに立ち尽くしていた。

 全く身動きができなくなった私を、緑に抱かれた私たちを、助けてくれる人はいなかった。誰ひとり・・・

 

 

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