水の戦士vs運命の魔法使い

 

 

 街中に佇んでいたひとつの影。その姿を追って、1人の戦士が立ち上がった。

 水と水星をつかさどる美少女戦士、セーラーマーキュリーである。

 怪しい事件を追っていた彼女の前に、1人の白髪の少年が姿を現した。

 フェイト・アーウェルンクス。イスタンブールの魔法教会から派遣された魔法使いである。

 フェイトはマーキュリーに対して、落ち着いた態度を崩さないでいる。

「やっと見つけたわ!」

 マーキュリーがフェイトに言い放つが、それでも彼は冷静な態度を崩さない。

「知性と正義のセーラー服美少女戦士、セーラーマーキュリー!水でも被って、反省しなさい!」

 マーキュリーが名乗ると、フェイトがごく小さな微笑を浮かべる。

「君は水の力をつかさどるようだね。だけど僕に君の力は通用しない。」

 挑発とも取れるフェイトの言葉だが、マーキュリーもまた冷静さを保っていた。

「あなたの正体、暴かせてもらうわ。」

 マーキュリーは力の発動のため、意識を集中する。

「シャイン・アクア・イリュージョン!」

 彼女の周囲で水の塊を凝縮し、水流となって解き放たれる。水流はフェイトに向かって真っ直ぐに流れていく。

 その流れに巻き込まれるフェイト。しかしその水流から彼の姿が出てこない。

「い、いない!?・・・いったいどこに・・・!?

 マーキュリーは驚きながら周囲をうかがう。水流は治まっているが、依然としてフェイトの姿は見られない。

「魔法には属さない不思議な力だ。でも、残念だよ。」

 そのとき、彼女の背後からフェイトの声がかかる。彼女が振り返ると、彼は落ち着いた様子で立っていた。

「僕も水の魔法を扱うことができる。君の水の力を利用して、移動させてもらったよ。」

 フェイトの言葉にマーキュリーが驚く。彼は彼女の放った水流の水を利用してゲートを開き、別の場所に移動してきたのだ。

「やりますね。でも、私の技はこれだけではないわ!」

 マーキュリーは再び意識を集中し。それを右手に解き放つ。

「マーキュリー・アクアラプソディー!」

 その右手から出現した水の竪琴をかき鳴らすマーキュリー。きらびやかな音色が水の波動となり、フェイトに向かって伸びていく。

「威力は先ほどの技を上回っていますが、これも水の技。その力、利用させて・・・」

 フェイトが技の活用に意識を傾ける。その瞬間、彼は両足に違和感を覚える。

 彼が視線を足元に向けると、両足が白く凍てつき始めていた。

「氷・・・?」

「水は温度を下げれば固体に、氷に変わる。これであなたの動きを封じるわ。」

 眉をひそめるフェイトに向けて、マーキュリーがさらに力を注ぐ。水が冷気を帯びて氷へと変わり、徐々に少年の体を包み込んでいく。

 しかしフェイトは全く動じた様子を見せず、彼はこのまま完全に氷の中に閉じ込められた。

 マーキュリーは体の力を抜き、つかの間の休息を取る。相手の動向に注意を払いながら。

 フェイトは氷の中に閉じ込められていた。恐怖や動揺を全く見せない落ち着いた表情を浮かべていた。

 そのとき、フェイトを閉じ込めていた氷に突如亀裂が入った。亀裂はさらに広がり、やがて粉々に砕け散った。

「えっ・・!?

 マーキュリーはこの瞬間に驚愕を浮かべる。彼女の目の前で粉砕した氷塊の中にフェイトは出てこず、無数の氷の欠片の1つ1つに、彼の姿があった。

「確かに水は固体にも気体にもなる。でもそれは僕も承知のこと・・」

 フェイトの声が何重にもなって、マーキュリーの耳に届く。そして氷の欠片たちの中にあった彼の姿が消えていった。

 彼女が振り返ると、またしてもその背後にフェイトの姿があった。先ほどから受けている彼女の攻撃が無意味と言わんばかりに、無傷さを見せ付けていた。

「僕は自分の体に気体の見えない壁を作り出し、氷漬けを免れたのです。あなたの力では僕を倒すことはできない。」

 淡々と告げるフェイトに、マーキュリーは動揺を覚えていた。

「ではそろそろ僕も攻撃させてもらいますよ。僕の力は水に限ったことではありません。」

 フェイトは右手をマーキュリーに向けて伸ばし、瞳を閉じて意識を集中する。

「ヴィシュタル・リシュタル・ヴァンゲイト・バーシリスケ・ガレオーテ・メタ・コークトー・ポドーン・カイ・カコイン・オンマトイン・プノエーン・トゥー・イゥー・トン・クロノン・パライルーサン・プノエー・ぺトラス!」

 呪文を唱えたフェイトの右手から、灰色の煙が噴き出される。警戒したマーキュリーが後ろに飛びのき、煙から逃れる。

「甘いですよ。ト・フォース・エメーイ・ケイリ・カティアース・トーイカコーイ・デルグマティ・トクセウサトー・カコンオンマ・ペトローセオース!」

 フェイトの右手から虹色の光が放たれる。その光が、着地したマーキュリーの両足に命中する。

「しまった・・!」

 驚愕を見せるマーキュリー。フェイトの放った光に照らされた彼女の両足が色を失くし、灰色になる。

「僕は水の属性の他に、魔法でも上級のものとされている石化の魔法を扱うことができる。これで君の動きは完全に封じたよ。」

 フェイトが淡々と自分の力を語る。マーキュリーにかけられた変色が、徐々に両足から上ってきていた。

「何とかしないと・・・このままだと石化に包まれて動けなくなってしまう・・・!」

 焦りを覚えたマーキュリーは、残された力を振り絞り、フェイトに狙いを定めた。額のティアラの宝石がまばゆいばかりに輝き、荒々しい水流を巻き起こす。

「ムダだと言っているのに・・」

 その全力の水流に巻き込まれながらも、フェイトはそれを利用して魔力を放ち、水流の中で停滞していた。

 その間にも、マーキュリーにかけられた石化は彼女の上半身に及び始めていた。

「もうどうにもならないよ。対象を変質させる効果は、上級の魔法である分、その効力も高い。君は僕の魔法から逃れることはできないし、君の力の属性では僕を倒すこともできない。」

 淡々と告げるフェイトの眼の前で、マーキュリーが灰色に包まれていく。

「攻撃が、全然通じないなんて・・・!?

 その変化を目の当たりにして、また次第に脅かしていく束縛に、彼女は動揺を隠せなくなっていた。

「君はよくやった。ここまで力を発揮した相手は指折りだと思うよ。でも、君は僕の魔法にかかり、自由を失くした石像となるのです。」

 フェイトが語りながら、マーキュリーの変わりゆく姿を見守っていた。彼女の両腕が石化し、首元にまで石化が進行しつつあった。

「こんな・・・こんなことって・・・」

 頬にまで石化が及び、マーキュリーが次第に意識を失っていく。動揺の表情を留めたまま、彼女は完全に灰色に変わり果てた。

「これが君の運命・・僕に全力の戦いを挑んだ君のね・・・」

 フェイトは石像と化したマーキュリーを見つめた後、ゆっくりと振り返ってこの場を立ち去った。

 彼女の眼はその瞳の鮮明さを残し、生の輝きを失っていた。動揺の表情のまま、彼女はこの場に立ち尽くすだけだった。

 

 水をつかさどる美少女戦士と運命の力を宿す魔法使いの戦い。

 運命の魔法をかけられた戦士は、永遠にその時を止められる運命を背負わされることとなった。

 

 

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