仮面ライダーオメガ 第48話
病院で療養中のヒカル。くるみと弥生のいる病室にて、ヒカルは光輝のことを気にかけていた。
「光輝なら心配しなくていいって・・また元気な姿を見せてくるって・・・」
くるみがヒカルに声をかけて微笑みかける。
「分かっています・・でもどうしても気になってしまって・・・」
「そうね・・あたしも正直のところ、気になってしょうがないんだよね・・・」
ヒカルの答えを聞いて、くるみが頷きかける。
「いつも真っ直ぐで正義感が強くて、優しくて・・・」
「でも悪く言うと子供っぽいのよね・・ホント、困っちゃうくらいに・・・」
「でも、その真っ直ぐな気持ちが、太一くんに勇気を与えてくれたんですよね・・」
ヒカル、くるみに続いて弥生も言葉をかける。
「怖さに負けず、勇気を出して一歩を踏み出すこと・・それが大事だって、太一くんは言っていました・・・」
「いつの間にか、他の人を励ますことのできる人になってたのね、光輝は・・・」
弥生の言葉を受けて、くるみは笑みをこぼしていた。
人一倍正義感が強く、オメガになってからはヒーローとしてのイメージが強くなっていった。今の光輝は、紛れもなく仮面ライダーの1人となっていた。
(無事に帰ってきてください、光輝さん・・光輝さんの元気な姿を、私たちに見せてください・・・)
光輝への願いを胸に秘めるヒカル。彼女もベットにて休養を続けることにした。
スピリットフォーム・オメガへと変身した光輝が、スピリットカリバーの切っ先を竜也に向ける。
「オレはお前を止める・・自由と平和を守るために・・・!」
「2度と偽善を口にできないよう、今度こそ倒す・・・光輝!」
決意を口にする光輝と、憎悪をむき出しにする竜也。2人が同時に飛び出し、パンチを繰り出していく。
力を込めた2人の攻撃が、周囲を大きく揺るがしていく。だが2人の全力は互角となっていた。
光輝と竜也が同時に後ろに下がって距離を取る。2人が果敢に攻め立て、一進一退の攻防を繰り広げる。
(怒りと憎しみが本当に強くなって、それが力に変わっている・・スピリットフォームでも、下手をしたら押し切られてしまうかもしれない・・・!)
竜也の力に光輝が毒づく。今の彼でも竜也を止めることは簡単ではなくなっていた。
(だが、それでも負けるわけにはいかない・・このまま竜也くんを放っておけば、たくさんの人が悲しむことになる・・竜也くん自身も、きっと後悔する・・・!)
心の中で決意を固める光輝が、竜也に向かっていく。
「スピリットライダーパンチ!」
精神エネルギーを集めたスピリットブレイカーが放たれる。この一撃を体に叩き込まれて、竜也が怯んで後ずさりする。
「こんなもので、オレが倒れるものか!」
さらに激昂する竜也が光輝につかみかかる。両腕をつかまれた光輝に、竜也の強烈な膝蹴りが叩き込まれる。
「ぐあっ!」
攻撃を受けてうめく光輝。膝蹴りを受けたオメガの装甲から火花を散らす。
「このままでは・・・スピリットフラッシャー!」
立て続けに膝蹴りを繰り出してくる竜也に対し、光輝が精神エネルギーを放出する。その閃光に当てられて、竜也が一瞬目がくらみ光輝から離れる。
「この程度のことで!」
怒号を上げる竜也が、光輝がさらに放つスピリットフラッシャーに対抗してエネルギーを放出する。2つの巨大な力がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
激化した衝突に弾かれて、光輝と竜也が吹き飛ばされる。横転する2人だが、すぐに立ち上がって体勢を立て直す。
「たとえ何があろうと、どんなに巨大な力が相手でも、決して諦めず、命を賭けて立ち向かっていく・・それがヒーロー・・それが、仮面ライダー・・・」
息を絶え絶えにしながら、光輝が竜也に言いかける。
「その意思を心に秘めて、自由と平和のために戦っていく・・それがオレ!仮面ライダーオメガ!」
再び高らかに名乗る光輝。彼は仮面ライダーであるという自覚と、その重みを実感していた。
「どこまできれいごとを口にすれば気が済むんだ、お前は!」
憤慨した竜也が光輝に飛びかかる。竜也が繰り出した右手で突き飛ばされるも、光輝は踏みとどまる。
光輝は地面に刺していたスピリットカリバーを手にして引き抜く。
「きれいごとではない・・この正義は、たとえこの身が砕けても貫いていく!」
「それでもオレは止めることはできない!」
竜也と言葉を交わすと、光輝がスピリットカリバーを構えて走り出す。振り下ろされる刃を、竜也がかわしていく。
そして光輝が振りかざしてきたスピリットカリバーを、竜也が右手で受け止める。だがつかんでいる刀身からエネルギーが放出され、竜也は火傷のような痛みを覚えて手を離す。
「スピリットカリバーには今、オレの心が宿っている・・敵意を持って触れれば、反発されることになる・・・」
「何だとっ!?」
「今のオレの気持ちは、君を全力で止めること・・だから、簡単に跳ね返されるわけにはいかないんだ!」
言い放つ光輝の持つスピリットカリバーの刀身に宿る光が、徐々に輝きを強くしていく。
「スピリットスラッシャー!」
エネルギーを集中させて、光輝がスピリットカリバーを振りかざす。エネルギーは光の刃となって、竜也に向かって飛んでいく。
「だから、オレは止まらないと言っている!」
竜也が両手に力を込めて、光の刃を迎え撃つ。竜也の放った力は、光輝が全力で放ったスピリットスラッシャーを打ち砕いた。
だが竜也も力を大きく消耗することになってしまった。光輝もスピリットフォームの使用で力を大きく使い、余裕をなくしていた。
「まずい・・スピリットフォームは、エネルギーの消耗が激しい・・そろそろ限界か・・・!」
疲弊を痛感しながらも、光輝は最後の勝負を仕掛けようとしていた。
「次で決めるしかない・・・!」
思い立った光輝が足に力を込める。残された精神エネルギーを、竜也に全て叩き込もうとしていた。
「その攻撃も、オレが跳ね返してやる!」
大きく飛び上がった光輝に対し、竜也も持てる力の全てを使って迎え撃とうとしていた。
「2度とオレの前に現れないように、粉々にしてやる!」
「スピリットライダーキック!」
光輝が繰り出したスピリットスマッシャーと、竜也の繰り出した両腕がぶつかり合う。2人の強大な力の衝突が爆発と轟音を巻き起こした。
その閃光に包まれていく光輝と竜也。攻撃の衝突から逃れることができず、2人はただただ力を費やしていくのだった。
光輝と竜也の激突による爆発は、ヒカルたちも気付いた。轟音とともに病室が揺れ、くるみが窓から外を見る。
「すごい爆発・・きっと光輝が・・・!」
「街外れですよね、あの場所は・・・!」
くるみに続いて弥生も声を上げる。ヒカルもベットから外を見つめていた。
「光輝さん・・・竜也さん・・・」
激闘を繰り広げる光輝と竜也への思いを、ヒカルは胸の中で膨らませていた。
最後の力を振り絞っての激突と、その爆発。閃光は弱まり、荒野には砂煙が舞い上がっていた。
その中央に光輝と竜也が倒れていた。光輝はオメガの変身が解けており、竜也の人間の姿に戻っていた。
満身創痍に陥った2人の青年。だが2人は力を振り絞って立ち上がってきた。それぞれの信念が、彼らを奮い立たせていたのだ。
「まだだ・・僕は負けるわけにはいかないんだ・・・!」
「オレは倒れない・・ここで倒れれば、世界は朽ち果てる・・・!」
声を振り絞る光輝と竜也。もうろうとなりかけている意識をハッキリとさせようとしながら、2人は互いを鋭く見据えていた。
(オメガになるには、もう体力と精神力が残っていない・・だけど、竜也くんから逃げるわけにはいかない・・・!)
(もう力が残っていない・・さすがにそう思うしかなくなるとは・・・だが、それでもオレは止まるわけにはいかない・・・!)
光輝と竜也が心の中で呟きかける。
(竜也くんを放っておけば、みんなが傷つく・・竜也くん自身も・・・だから、僕は立ち向かっていくんだ・・・!)
(このまま世界を愚か者のいいようにされてたまるか・・・世界に本当の平和を取り戻すため、オレは戦っていく・・・!)
改めて決意を胸に秘める光輝と竜也。2人がゆっくりと互いとの距離を詰めていく。
「たとえ変身できなくても、僕はこの戦いから逃げない・・・!」
「そんなにまでして愚か者でいたいのか・・・そんなヤツに、オレは絶対に負けるわけにはいかない・・・!」
声を掛け合うと、竜也が光輝に向けて右手を突き出してきた。かわすことがままならず、光輝が殴られてふらつく。
だが光輝は踏みとどまり、竜也に向けて右手を突き出す。反撃された竜也も後ずさりするが、すぐに踏みとどまる。
それから2人の乱打が続いた。2人にオメガやガルヴォルスになる力は残っていない。たっているのもやっとの程だった。今の彼らを突き動かしているのは、揺るぎない信念だった。
2人の攻防は続く。本当ならばすぐに倒れてもおかしくない状態だった。それでも2人は相手を止めようと、相手を倒そうと必死になっていた。
だが光輝も竜也も退こうとせず、体力が消耗されていくばかりだった。
(ここまで自分を貫こうとする考えは褒めたいところだ・・だが愚か者であろうとするのは、許せないことだ・・・)
(そうまでして、平和を求めて戦い続けている竜也くん・・・こんな間違った形にならなければ、本当にすばらしかったのに・・・)
互いを褒めながらも悔いを覚える竜也と光輝。
(愚か者として挑んでくるから、倒すしかない・・・!)
(平和を求めて頑張ってほしい・・そう思うから、僕は君の間違いを止める・・・!)
最後の力を振り絞って、竜也と光輝が同時に飛び出す。2人が繰り出した右手が、互いの体を殴りつけた。
決定打を受けてその場に倒れる光輝と竜也。全ての力を出し切った2人はついに力尽き、動かなくなってしまった。
薄れていく意識の中、光輝はこれまでの自分を思い返していた。オメガとして戦ってきた自分を。
僕は子供の頃から仮面ライダーに憧れていた。
悪の怪人との戦いに、素顔を隠して挑んでいく姿は、僕や子供たちに夢を与えていた。
いつか仮面ライダーになりたい。そんな夢と憧れを、僕は今も持ち続けてきた。
そして、ヒカルちゃんとオメガのベルトとの出会いで、僕はライダーになれた。仮面ライダーオメガに。
でも、オメガになってから、僕は仮面ライダーとして戦うことがどういうことなのか、思い知らされた。
単純に悪い怪人を倒して、世界の平和を守ることだけが使命ではない。
怪人の中にも人間以上の優しさの持ち主はいるし、人間の中にも悪さを持っている人はいる。本当の正義は何か。その答えを知るにはそのことも分かっていなくちゃいけないのに。
竜也くんは全く悪いわけじゃない。間違った正義で人生をムチャクチャにされた被害者だった。
ただその問題の解決を復讐で行おうとしたのが間違いだった。怒りや憎しみだけで戦っても、誰も幸せになれない。自分も満足できない。
僕自身も、怒りや憎しみで戦って、辛い思いをしたことがある。だからその気分は痛いほど分かる。
竜也くんのような人に、後戻りができなくなるところまで憎しみに囚われてほしくない。
たとえ周りから悪だと言われることになっても、全力でその間違いを止めたい。
世界の平和を守り、人々に幸せを与えることが、本当の正義。
その正義のために戦うことこそが、仮面ライダーの使命である。
オメガとして戦ってきて、僕はそのことを学んだ。
竜也くんの間違いを止めることができなければ、誰も守れないし、どんな間違いも止めることはできない。
竜也くんを止めることが、僕が憧れてきた正義の第一歩となる。
世界の平和と人々の自由を守るために悪と戦っていく。
それがどういうことを意味しているのかをしっかりと熟知している。
それが仮面ライダー。
僕はライダーの一員として、夢や憧れを胸に秘めて戦っていく。
それが僕、仮面ライダーオメガ。
光輝が目を覚ましたとき、病院の病室のベットにいた。彼は体や頭に包帯を巻かれて、ベットで眠っていた。
「僕は・・・いったい・・・?」
「目が覚めたみたいですね、光輝さん・・・」
呟きかけたところで、光輝は声をかけられる。彼のそばにはヒカルがいた。
「ヒカルちゃん・・・僕は・・・?」
「丸1日寝ていたんですよ・・先生から命に別状はないって言われていたんですけど、不安で・・・」
光輝が弱々しく訊ねると、ヒカルが微笑んで答える。
「あっ!やっと起きたわね、光輝・・・」
そこへくるみがやってきて、光輝に安堵の笑みを見せてきた。
「くるみちゃん・・くるみちゃんもいたんだ・・・」
「いたんだって、ひどい言い方じゃない・・・」
光輝が再び笑みを見せると、くるみがやや不満げに返事をしてくる。
「でも、僕は本当にどうしたんだ?・・・僕は竜也くんと戦っていたはずなのに・・・」
光輝がヒカルたちに疑問を投げかけた。戦いの最中、光輝と竜也は意識を失ってしまっていた。
「メガブレイバーが運んできてくれたのよ・・・2人とも、病院の前まで・・・」
「メガブレイバーが・・・!?」
くるみの答えを聞いて、光輝が驚きを覚える。
「2人とも意識がなかったから、先生に知らせて診てもらったんです・・今まで目を覚まさなかったから心配していたんです・・・」
「そうだったのか・・・やっぱり僕は気絶していたんだ・・・」
ヒカルの説明を聞いて、光輝が沈痛の面持ちを浮かべる。
「それで、一矢さんと太一くんは・・・?」
「2人とも元気になったよ・・一矢さん、勝手に退院していっちゃったよ・・・」
光輝が続けて訊ねると、くるみが呆れながら答える。
「一矢さんらしいですね・・・太一くんはまだ病院にいるんだよね・・・?」
「はい・・弥生さんがそばについています・・・」
「一矢さんも太一くんもひと安心だね・・・竜也くんもまだ病院だよね?まだ目を覚ましていないの・・?」
「はい・・まだ別の病室に・・光輝さんが先に目を覚ましたんです・・・」
ヒカルの答えを聞いて、光輝がさらに深刻さを膨らませる。彼は竜也の無事を心配していた。体だけでなく心も。
「すぐに竜也くんのところに行かないと・・姿を確かめないと納得がいかない・・・」
「ダメだって、光輝・・意識が戻るかどうか分かんなかったんだから・・・!」
ベットから起き上がろうとした光輝だが、くるみに止められる。光輝は渋々ベットに横になる。
「今はゆっくり休んでください、光輝さん・・私たちは大丈夫ですから・・・」
「ヒカルちゃん・・・」
ヒカルにも言われて、光輝は小さく頷くのだった。
「くるみさん、ヒカルさん、大変です!」
そこへ弥生が慌しく病室に駆け込んできた。
「どうしたの、弥生さん!?」
「竜也さんが、病室からいなくなったんです!」
くるみが訊ねると、弥生が声を荒げて答える。
「病院の中と周りを探したんですが、どこにも・・・」
「竜也くんが・・・!?」
光輝も緊張を膨らませていた。彼と同じく休養していた竜也が、病院から姿を消していた。