仮面ライダーオメガ 最終話

 

 

 竜也は姿を消した。光輝とともに病院にいた彼だが、突然病室からいなくなった。

「竜也くんが・・・どうしてそんな・・・!?

「分かりません・・私が様子を見に行ったらいなくなっていて・・・」

 愕然となる光輝に、弥生が沈痛の面持ちを浮かべる。

「もしかして、また復讐に・・・!?

 くるみが口にしたこの言葉に、光輝がさらなる不安を覚える。だが彼はすぐに真剣な面持ちを浮かべた。

「竜也くんはもう、暴走することはないと思う・・ただ、それでも竜也くんは、自分の信念を曲げたりしない・・・」

「光輝くん・・・」

 光輝が口にした言葉に、ヒカルが戸惑いを浮かべる。

「竜也くんも本当の平和を求めて戦っているんだ・・でもだからって、人を傷つけていいことにはならない・・・」

 光輝は自分の考えを口にすると、ベットから起き上がって頭に巻かれている包帯を外す。

「その間違いを止めるために、僕はこれからも戦っていく・・僕自身の正義で、仮面ライダーオメガとして・・・!」

 決意と意気込みを見せる光輝。だが体が悲鳴を上げて、光輝がベットに座り込んでしまった。

「ほら、だから言ったじゃないの、ムチャしちゃダメだって・・・」

 倒れ込んだ光輝を見下ろして、くるみが呆れてため息をつく。

「気持ちは分かるけど、まだ休んでいないとダメよ、光輝・・・」

「竜也さんは私たちが探します・・太一くんも探しに行っているから・・・」

 くるみに続いて弥生も光輝に声をかけてくる。

「光輝さんは私がついていますから、くるみさんと弥生さんは行ってください・・」

 ヒカルの呼びかけを受けて、くるみと弥生が頷いて病室を出た。竜也を探しに行けないことに落ち込んで、光輝が肩を落とす。

「まずケガを治してからです・・どうしても探しに行きたいというなら、せめてその後でも・・・」

「ヒカルちゃん・・・危険なことにならなきゃいいんだけど・・・」

 ヒカルに言われて大人しくするも、光輝は納得のいかない心境を消せずにいた。

 

 竜也は光輝と同じ頃に目を覚ましていた。彼はすぐに病院を飛び出し、自分の戦いを再開しようとしていた。

「オレは絶対に止まらない・・オレの体が粉々にならない限り・・いや、たとえ粉々になっても、オレが止まることはない・・・」

 再び敵意と憎悪を膨らませていく竜也。

「だが吉川光輝、ヤツの口にする正義というものは本物かもしれない・・少なくとも、ヤツもオレと同じく、止まることはないのだろう・・」

 一方で竜也は、光輝の正義をある程度認めていた。

「だが、だからこそ、オレはヤツを倒さなければならない・・オレとヤツの考えは、絶対に分かり合えるものではないからだ・・・」

 竜也は改めて、光輝の打倒を心に誓った。正義の象徴となっている光輝を倒してこそ、本当の平和が訪れる。竜也のこの考えは変わっていなかった。

「このまま戦えば、いつかまたヤツと出会い、戦うことになる・・それまでに、本当の平和を見出していればいいのだが・・・」

 竜也はいつしか、光輝に一途の願いを抱くようになっていた。それは無意識に思っていたことで、彼自身に自覚はなかった。

「もはや戦うことでしか、本当の平和は訪れない・・愚か者は自分が愚かであることも自覚せず、自分が正しいと思い込み、思い上がっている・・滅ぼす以外にもはや術はない・・・」

 改めて自分の怒りと憎しみを口にする竜也。今の彼を止めることができるのは、自分を上回る純粋な思いでしかなかった。

 光輝が貫いてきた真っ直ぐな正義の心のような。

 

 竜也がいなくなったことを知って、探しに出た太一。そんな彼の前に一矢が姿を現した。

「あの男を探しているのか?」

「一矢さん・・・」

 不敵な笑みを見せてきた一矢に、太一が当惑を見せる。

「ヤツの頑固さは、このオレでも捻じ曲げるのに骨の折れることだ。お前が見つけたところで、どうにもならない・・」

「そうはいうけど・・・でも・・・」

 淡々と声をかけてくる一矢に、太一が口ごもる。

「ああいうのは最後まで分からない。分かろうとすらしない・・ヤツのいう愚か者に自分もなってしまった、ということか・・・」

「そういう言い方をされると・・人間って難しいって思ってしまうよ・・・」

 苦言を呈する一矢に、太一が深刻な面持ちを浮かべる。

 人間は自分のことを分かっているようで、全部分かっているわけではない。それがその人に強さと弱さを与えている。大切なのはその弱さを自覚し、乗り越えて強さに変えていくこと。光輝がそう考えていると太一は思っていた。

「これだけは明白だ。オレが無敵であることを・・」

「もうそれはいいよ・・何度聞かされたことか・・・」

 勝気に告げてくる一矢に、太一が気まずくなって肩を落とす。

「不満は聞かないぞ。少なくとも、これから起こる戦いではな・・」

 一矢が笑みを消して言いかけたとき、2人の前に数体のガルヴォルスが姿を現した。

「オレを倒しに来たのか?だがこれは明らかに無謀な挑戦だぞ・・」

 一矢が肩を落としてため息をつく。しかしガルヴォルスたちは引き下がらない。

「言うことを聞かないか・・忠告はきちんと聞かないと・・・変身。」

「変身・・・!」

 一矢と太一がギガスとクリスに変身する。

「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」

「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・」

 2人がガルヴォルスに向けて言葉をかける。その言葉を引き金にして、ガルヴォルスたちが襲い掛かってきた。

「お前たちも最後まで分かろうとしないか・・・ギガスマッシャー!」

「クリスストラッシュ!」

 一矢が飛び上がってギガスマッシャーを放ち、太一がクリスセイバーを手にして、クリスストラッシュを解き放つ。2人の攻撃を受けて、ガルヴォルスたちが一掃された。

 戦いを終えた一矢と太一が、ギガスとクリスへの変身を解除する。

「だから無謀だと言ったのに・・分からないヤツらだ・・・」

「やっぱりいい気がしないよ、こんなしつこいの・・・」

 呆れ果てる一矢と、困り果てる太一。

「仮にあの男が現れたとしても、もう問題ない。オレが全て終わらせてやるとしよう・・」

「僕はゆっくりと休みたいよ・・・」

 不敵な笑みを見せる一矢と、気落ちする太一。2人は戦いの終わったこの場から立ち去っていくのだった。

 

 一矢と別れて竜也の捜索を続ける太一。その途中、彼はくるみと弥生と合流した。

「太一くん、竜也さんは見つかった・・・?」

「見つからない・・他のガルヴォルスが襲ってきただけだよ・・・」

 弥生が問いかけると、太一が困り顔で答える。

「もうどこかに行っちゃったってことなのかな・・・光輝も探そうって気にはなってたのに・・・」

 くるみが肩を落としてため息をつく。

「もうちょっとだけ探してみよう・・それでダメなら今日はみんなのところに戻ろう・・・」

「そうだね・・竜也くん、本当にどこに行ってしまったのかな・・・?」

 くるみの呼びかけに太一が小さく頷く。3人は改めて竜也の行方を追ったが、その消息をつかむことはできなかった。

 

 その頃、光輝はヒカルに付き添われて、療養を取っていた。だが光輝は竜也が心配で、気が気でなかった。

「竜也くん・・危険なことをしていなければいいんだけど・・・」

「私も心配です・・でもそれ以上に、光輝さんがまた危険に飛び込もうとしていることが心配です・・・」

 光輝が呟きかけると、ヒカルが心配の言葉を投げかけてきた。

「ゴメン・・・今はみんなを信じてあげないと・・・ただ、竜也くんを止められるのは、僕しかいないと思うんだ・・・」

 光輝が真剣な面持ちで語り出す。

「竜也くんはひたすら敵を倒そうとしている・・その先に平和があるって信じて・・でもそんな形で取り戻した平和は、本当の平和じゃない・・誰もが幸せでなければ、平和とはいえない・・・」

「光輝さん・・・」

「その平和を守るために、竜也くんにも平和を与えるために、僕は戦っていく・・オメガとして、仮面ライダーとして・・・」

 戸惑いを見せるヒカルに、光輝が決心を告げる。竜也を救うことも、仮面ライダーの使命であると彼は考えていた。

「体を休めるのも、仮面ライダーの使命・・私はそう思いますよ・・・」

「ヒカルちゃん・・・くるみちゃんくらいに厳しくなったよ・・・」

 笑顔を見せて言いかけるヒカルに、光輝が肩を落とす。屈託のない会話をして、光輝とヒカルは安らぎを感じていた。

 そこへくるみ、太一、弥生がやってきた。

「くるみちゃん・・・竜也くんは・・・?」

「見つからなかった・・・病院の周りや街の中を探したんだけど・・・」

「見つかったのは他のガルヴォルスだけだった・・・」

 光輝が問いかけると、くるみと太一が沈痛さを浮かべて答える。

「いつかまた会うことになる・・そのときには、僕と竜也くんの対決を終わらせないと・・・」

「光輝くん・・竜也くん、今度こそ救ってあげないと・・・」

 光輝が呟きかけると、ヒカルが小さく頷く。

(待っていて、竜也くん・・今度こそ、君を止めてみせる・・・!)

 決心を胸に秘めたまま、光輝は体を休めるのだった。

 

 光輝が退院したのはそれから数日後のことだった。その間に竜也に関する情報は、彼らには届いてきていなかった。

 水神家にはヒカルとくるみがいた。そこへ一矢、太一、弥生が訪ねてきた。

「お久しぶりですね、くるみさん・・・今日は吉川光輝の姿がないな・・」

 一矢がくるみに挨拶をすると、光輝がいないことに疑問を浮かべる。

「今、メガブレイバーのところに行っています・・竜也くんのことで話をしているのでしょうね・・」

「またか・・相変わらず仕方のないことだ・・・」

 ヒカルの説明を聞いて、一矢が呆れる。

「竜也くんはどこにいるのか分かんないし、ガルヴォルスの事件もまだ続いているし・・・」

「それでも、簡単には諦めないよね・・光輝さんも、太一くんも・・・」

 太一と弥生が言葉を交わし、くるみが笑みを見せて頷く。

「ホントに相変わらずよ、光輝は・・仮面ライダーが始まるといつもTVに釘付け。毎度毎度熱く語って・・・」

 呆れながら語りかけるくるみ。だが彼女はすぐに微笑みかける。

「でも、その気持ちと正義感が、みんなを守り、みんなを救ってきたのも確かなのよね・・・」

「うん・・光輝くんと会わなかったら、僕は弱いままだった・・・」

 くるみに続いて太一が言葉をかける。

「このオレを散々手こずらせてきた・・それだけは褒めておくとしよう・・」

 一矢も勝気な態度を見せながら、光輝を称賛する。

「竜也さんも、いつか光輝さんの強さと優しさに救われる時が来るはずです・・・」

「どんな形になっても、光輝さんと竜也さんのような辛い戦いは終わってほしいです・・・」

 弥生とヒカルが悲劇の終わりを願う。

(光輝さん、頑張ってください・・みんなの幸せを、守ってください・・・)

 光輝への一途の想いを膨らませるヒカルだった。

 

 その頃、光輝はメガブレイバーと会っていた。自分が抱えている正義に揺らぎがないか、彼は確かめようとしていた。

「メガブレイバー、僕はこれからも、オメガとして戦っていくつもりだ・・竜也くんが間違いを続けるかもしれないし、他のガルヴォルスも悪さをするかもしれない・・・」

「どのような戦いをするにしても、私は君についていく。正しいことのためか、悪いことをするのか、全ては君次第だ・・」

 決意を口にする光輝に、メガブレイバーが答える。

「ありがとう、メガブレイバー・・これからも一緒に戦ってほしい・・世界の平和と、人々の自由、仮面ライダーを信じているみんなのために・・・」

 笑顔を見せて感謝の言葉をかける光輝。彼はメガブレイバーに乗り、走り出していった。

 街に差し掛かろうとしたとき、光輝は街の騒然さを目にした。注意して見ていくと、彼の見つめる先には、人々を襲って猛威を振るうガルヴォルスを目撃する。

「ガルヴォルス・・これ以上の攻撃は許さないぞ・・・!」

 ガルヴォルスへの怒りと正義を膨らませて、光輝が水晶を手にする。

「変身!」

 光輝が水晶をベルトにセットして、オメガに変身する。彼はメガブレイバーを加速させて、ガルヴォルスを突き飛ばした。

 横転するガルヴォルスの前でメガブレイバーが止まり、光輝が降り立つ。

「仮面ライダーオメガ!」

 高らかに名乗りを上げる光輝。咆哮を上げるガルヴォルスが光輝に飛びかかる。

 果敢に攻める光輝だが、ガルヴォルスのパワーと爪の攻撃に押され出していく。

「強いガルヴォルスだ・・だが、負けるわけにはいかない・・・!」

 鋭く言い放つ光輝が、ベルトの水晶を右手の甲にセットして、ガルヴォルスに飛びかかる。

「ライダーパンチ!」

 光輝がガルヴォルスの体に、メガブレイカーを叩き込む。だがガルヴォルスはパワーを発揮して、光輝を弾き飛ばしてしまった。

「うわっ!」

 ダメージを負って横転する光輝。不気味な笑みを浮かべて、ガルヴォルスが光輝に迫る。

 そこへメガブレイバーが駆け寄ってきた。

「オメガ、スピリットフォームだ!」

「分かった!」

 メガブレイバーに呼びかけられて、光輝がスピリットカリバーを手にする。彼はその柄に水晶をセットして、スピリットフォーム・オメガへと変身する。

「オレたちには、世界のみんなの正義と魂が宿っている・・だから負けるわけにはいかないんだ!」

 光輝は言い放つと、ガルヴォルスに向けてスピリットカリバーを振りかざす。次々に叩き込まれる斬撃を受けて、ガルヴォルスが怯む。

 たまらず反撃に出るガルヴォルスだが、パワーで押し切ることができず、爪による攻撃に弾き返される。

「この世に悪がある限り、仮面ライダーは戦い続ける・・仮面ライダーオメガも、戦い続けるんだ!」

 言い放つ光輝が大きく飛び上がる。

「スピリットライダーキック!」

 光輝が放ったスピリットスマッシャーが、ガルヴォルスに直撃した。渾身の一撃を受けたガルヴォルスが絶命し、倒れながら体が崩壊した。

「やった・・ありがとう、メガブレイバー・・」

「いや、これは君の力だ、オメガ・・・」

 感謝の言葉をかける光輝に、メガブレイバがー答える。光輝の正義は揺るぎないものへと進化していた。

「行こう、メガブレイバー・・まだ暴れているガルヴォルスがいるかもしれない・・・」

 光輝は言いかけると、メガブレイバーのハンドルをつかむ。その瞬間、メガブレイバーがスピリットブレイバーに変身する。

 光輝はスピリットブレイバーに乗って、走り出していった。世界を脅かすガルヴォルスの暴走を止めるため、竜也との決着を付けるため、彼はこれからも戦いを続けていくことを心に誓っていた。

 

 街中の通りを走る1台の白い車。その後部座席には、とある企業の社長が乗っていた。

 社内では有名なタカ派の人間で、強引な手法で企業を成長させてきた。その手法に賛否両論だったが、社長は自分を批判する人間を許さなかった。

 自分の思うように事を進める社長は、自信満々に振舞っていた。

 だが、彼の乗る車の前にひとつの影が飛び込んできた。その正体は竜也だった。

「おいっ!危ないじゃないか!」

「自分が1番、自分が正しいと思い込んでいる愚か者・・・」

 怒鳴りかける社長を見据えて、竜也が鋭く言いかける。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「滅ぼした先に、本当の平和がある・・・!」

 ドラゴンガルヴォルスに変身した竜也。異形の怪物へと変貌した彼に、社長が恐怖を覚える。

「バ、バケモノ!?・・か、構わん!突き飛ばしてしまえ!」

 社長が悲鳴を上げ、車が竜也に向かって走り出す。だが竜也は突っ込んできた車を受け止め、そのまま投げ飛ばしてしまった。

 壁に叩きつけられた車が爆発、炎上する。燃え上がる炎を、竜也は鋭く見据えていた。

「愚か者は滅ぼすしかない・・そして吉川光輝、いずれお前もオレが・・・!」

 打倒光輝を胸に秘める竜也。世界の平和を求める竜也は、破滅の道を1人進んでいくのだった。

 

 吉川光輝、仮面ライダーオメガは行く。世界の平和と人々の自由を守るため、ガルヴォルスと戦っていく。

 いつか必ず、竜也との戦いと決着が訪れることになる。

 しかしどんな戦いにも、光輝はこれからも立ち向かっていくだろう。

 人々に優しい心がある限り、仮面ライダーは世界を守る戦いを続けていく。

 自由と平和を守るため、仮面ライダーオメガは戦い続けるのだ。

 

 

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