仮面ライダーオメガ 第45話
光輝とヒカルの力のぶつかり合い。光となった力の衝突で、周囲は白んでいた。
そのまばゆい光の中で、ヒカルは光輝の明るく優しい笑顔を垣間見ていた。
(光輝さん・・・)
光輝の姿を見て、徐々に安らぎを取り戻していくヒカル。いつしか彼女は、駆け寄ってきた光輝に支えられていた。
「ヒカルちゃん、大丈夫!?ヒカルちゃん!」
光輝の呼び声を耳にして、ヒカルが目を覚ます。
「・・・光輝、さん・・・私・・・」
「ヒカルちゃん・・よかった・・目が覚めたんだね・・・」
当惑を見せるヒカルに、光輝が安堵の笑みをこぼす。彼は既にオメガへの変身を解除していた。
「私・・今まで何を・・・?」
「ヒカルちゃん・・・君はガルヴォルスのクイーンの力に振り回されていたんだ・・・」
光輝がヒカルに事情を説明する。それを聞いたヒカルが困惑を見せる。
「もしかして私、光輝さんやみんなに迷惑をかけてしまったのでは・・・」
「そんなことないよ・・こうしてヒカルちゃんが戻ってきてくれたことが、僕は嬉しい・・・」
不安を口にするヒカルに、光輝が自分の正直な気持ちを告げる。彼の言葉を聞いて、ヒカルは落ち着きを取り戻していった。
「それじゃ戻ろう・・くるみちゃんたちが待ってる・・・」
「はい・・・」
光輝が呼びかけると、ヒカルが微笑んで頷く。立ち上がった彼女が、光輝とともにくるみたちのところに戻ろうとしたときだった。
「危ない!」
そのとき、ヒカルが突然光輝を横に突き飛ばした。直後、衝撃波が飛び込んできた。
「キャアッ!」
「ヒカルちゃん!?」
悲鳴を上げるヒカルに、光輝が目を見開く。衝撃波を受けたヒカルが横転して動かなくなる。
「ヒカルちゃん、しっかりして!」
光輝がヒカルに駆け寄って呼びかける。だがヒカルは意識を失い、目を覚まさない。
「敵は全て滅ぼす・・敵を全て滅ぼし、本当の平和をこの世界にもたらす・・・!」
光輝たちの前に現れたのは竜也だった。疲弊しながらも、竜也は敵意をむき出しにして衝撃波を放ち、ヒカルを攻撃したのである。
「竜也くん・・君が、ヒカルちゃんを・・・!?」
「もはやそこの女は敵でしかない・・今の愚かな世界を守ろうとする愚か者でしか・・・」
声を振り絞る光輝に、竜也が冷淡に告げる。その言葉と態度が、光輝の怒りに火をつけた。
「ヒカルちゃんは、愚か者じゃない・・心優しい、1人の人間だ!」
「愚かな世界を守るお前が何を言う!?」
互いに怒号を放つ光輝と竜也。ドラゴンガルヴォルスとなっている竜也を見据え、光輝がオメガに変身しようとする。
「ダメだ、光輝!今の君に精神力は残っていない!」
そこへメガブレイバーが光輝に呼びかけてきた。ヒカルの力を止めるため、光輝は精神エネルギーを大きく消耗していた。
「だけど、このままじゃ竜也くんが・・・せっかく戻ってきたヒカルちゃんが、こんなことになって・・・!」
「今は彼女を連れて撤退するしかない!これではスピリットフォームも維持できない・・!」
メガブレイバーに諭されて、光輝はやむなく退くことを決めた。
「メガブレイバー、スピードフォームで一気に離れるぞ!」
「分かった!」
光輝の呼びかけにメガブレイバーが答える。
「逃げる気か!?」
竜也が光輝に攻撃を仕掛けるが、スピードフォームに変形したメガブレイバーは、光輝とヒカルを連れて走り去っていった。
「逃げるな!」
去っていく光輝たちに、竜也が怒号をあらわにしていた。
竜也との戦いで疲弊し、さらに幸介に攻撃されて命を落とした義男。崩れた彼の亡骸を目の当たりにして、くるみが悲しみを覚える。
「先生・・・駒場先生・・・!」
大粒の涙をこぼして、悲しみに暮れるくるみ。
その傍らで、一矢と太一が幸介と交戦していた。
「くっ!・・キングとの戦いで力を消耗しすぎたか・・・!」
力をうまく使えないことに毒づく幸介。
「どうした?前のほうがもっと張り合いがあったぞ?」
一矢が勝気な態度で幸介に言いかける。苛立ちを膨らませる幸介だが、危機的状況を痛感していたため、迂闊に反発できずにいた。
そこへ、光輝とヒカルがメガブレイバーに乗って駆けつけてきた。ヒカルは依然として意識が戻っていなかった。
「おのれ!キングを倒しただけでもよしとするか!」
幸介は捨て台詞を吐くと、一矢たちとの戦いを中断してこの場を離れた。一矢も太一も彼を追おうとはしなかった。
「くるみちゃん・・ヒカルちゃんが・・・」
「光輝・・・先生が・・先生が、あのガルヴォルスに・・・!」
ヒカルを抱えて声をかける光輝に、くるみが悲痛の言葉を口にする。
「先生・・・先生に、何かあったの・・・!?」
声を振り絞って問いかける光輝。するとくるみが義男が消失した場所に目を向ける。
「まさか、先生が・・・そんな・・・!?」
受け入れることができず、光輝が震えながら首を横に振る。
「先生・・・先生!」
光輝の悲痛の叫びを上げる。幸介の手にかかり、義男は命を落としてしまった。
竜也の攻撃で意識を失ってしまったヒカルは、病院に運ばれて診察を受けた。しかし彼女の意識は戻っていない。
目を覚まさない彼女を心配する光輝たち。同時に彼らは義男の死の悲しみを膨らませていた。
「せっかくヒカルちゃんが帰ってくると思ったのに、こんなことに・・・」
「先生が亡くなるなんて・・今でも信じらんないよ・・・」
光輝とくるみが悲しみの言葉を口にする。
「竜也くん・・・もう彼は、人の心を失ってしまったのだろうか・・・どうやっても助けられないんだろうか・・・」
光輝はさらに歯がゆさを膨らませる。彼は何をしても救うことができないのではないかと、不安を感じていた。
「いや、くじけたらいけない・・ここで諦めたら、それこそ竜也くんを救えない・・・」
「でも、あれだけの力と怒りをどうしたら・・・?」
光輝が自分に言い聞かせ、太一が不安を口にする。
「言葉だけで分かり合えるなら、それに越したことはない・・でも時には、気持ちを力と一緒にぶつけることが必要なこともある・・・」
光輝が口にした言葉に、くるみが真剣な面持ちを浮かべて頷く。
「だから僕、竜也くんと戦う・・たとえ、竜也くんを倒すことになっても・・・」
決意を固める光輝が右手を強く握り締める。竜也のために大勢の人が傷つき悲しむようなことになってはならない。彼はそう打ち立てていた。
「くるみちゃん、弥生さん・・ヒカルちゃんをお願い・・・」
「僕も行く・・もう悲しい思いをするのはイヤだから・・・」
光輝が呼びかけると、太一も決意を告げてきた。しかし光輝は首を横に振ってきた。
「竜也くんとは、僕1人で相手をする・・これは、1対1で向き合わないといけないことだから・・・」
「それでも行くよ・・光輝くんが命懸けで戦おうとしているのに、指をくわえてみているわけにいかないよ・・」
「でも・・・」
「それに、僕たちが戦う相手は、あの人だけじゃないでしょう・・・?」
太一の決心は固く、光輝は一瞬心を揺さぶられる。だが彼はすぐに迷いを振り切り、小さく頷いた。
「分かった・・でも竜也くんとは、1対1で相手をさせてほしい・・・」
「うん・・でも危なくなったら助けるからね・・・」
それぞれの決意が渦巻く中、光輝と太一が病院から歩き出していった。
「光輝・・・」
2人の後ろ姿を見つめて、くるみは無事を祈っていた。
義男を倒し、キングの座を手にしたと勝ち誇っていた幸介。クイーンガルヴォルスであるヒカルも傷ついたことを聞いて、彼は喜びをさらに膨らませていた。
「キングだけでなく、クイーンも倒れてくれるとは・・これでますます、私に運が向いてきたということだな!」
喜びを抑えきれず、哄笑を上げる幸介。落ち着きを取り戻したところで、彼は次の行動を模索する。
「さて、次はクリスタルユニットだ。奪取、あるいは破壊をしておけば、もう私に刃向かえる存在はどこにもいなくなる・・・」
「残念だが、お前が1番になれるのは叶わぬ夢だ・・」
そこへ声がかかり、幸介が笑みを消す。彼が振り返った先には、不敵な笑みを見せる一矢の姿があった。
「本当はオレ1人で全て終わるはずだったが、他が割り込んできたものだから・・」
「1人だろうと束になろうと、私に勝てない。そのことをいい加減分からせてやろう・・・」
淡々と言いかける一矢に、幸介が敵意を見せる。
「もう逃がしはしない・・確実に始末してやるぞ・・・!」
いきり立った幸介がジャックガルヴォルスに変身する。
「それはオレのセリフだ。今度こそ終わらせてやる・・変身。」
一矢も水晶をベルトにセットして、ギガスに変身する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」
一矢は高らかに言い放つと、幸介に向かって歩き出す。幸介も体から刃を引き抜いて、一矢を迎え撃つ。
繰り出される刃をかいくぐって、一矢がパンチを放つ。この攻撃を受けて、幸介が押される。
「なかなかやるな・・だが私の力はこんなものではない!」
言い放つ幸介が反撃に転ずる。刃を突き立てられて、一矢のまとうギガスの装甲から火花が散る。
一矢がギガシューターを手にして、幸介に向けて発砲する。だが幸介は刃でその弾丸をなぎ払う。
「私はキングを倒し、新たなキングとなった!お前程度の攻撃など、通じるはずもない!」
幸介が刃を振りかざし、ギガスの装甲を斬りつける。一矢が追い込まれ、ギガシューターが手元から離れる。
「くっ!」
毒づく一矢が幸介との距離を取る。彼はベルトの水晶を右手の甲にセットする。
「ギガブレイカー!」
一矢が幸介に飛びかかり、ギガブレイカーを繰り出す。だが幸介が交差させた刃で一矢のパンチを受け止める。
「往生際の悪いことだな!」
攻撃が弱まったところで、幸介が一矢を押して、そのまま刃を振りかざす。装甲を斬りつけられて横転する一矢から、ギガスへの変身が解除される。
「このオレの攻撃が、破られるとは・・・!」
「オレは新しいキングだ!もうどんなヤツにも負けることはない!」
うめく一矢に向けて、幸介が高らかに言い放つ。
「ではお前の持っているギガスユニットからいただくぞ・・」
幸介がギガスのベルトを奪おうと、一矢に近づく。傷ついた一矢は立ち上がるだけで精一杯だった。
だが突然、幸介の前から一矢の姿が消えた。フライヤーフォームのクリスレイダーに乗って駆けつけた太一が、一矢を救出していた。
「また邪魔者が来たか・・もう少しというところで・・・!」
ギガスユニット奪取を妨害されて、幸介が苛立つ。
「お前の相手は僕だ・・お前のせいで悲しいのが増えるのはダメだ!」
太一が幸介に向けて言い放つ。その言葉に幸介が苛立ちを膨らませる。
「調子に乗って・・そんなに私に倒されたいのか!?」
「倒されるのはお前のほうだ、ガルヴォルス!」
そこへ光輝も駆けつけ、幸介に向けて呼びかける。
「お前まで・・次から次へと湧いて出てくる・・・!」
「お前・・よくも先生を・・駒場先生を!」
苛立つ幸介に、光輝も怒りをあらわにする。義男を殺された怒りと悲しみが、彼の心の中で渦巻いていた。
「あのキングのことか・・ヤツが死んだおかげで、私はキングの座をつかむことができた・・これから他のガルヴォルスが・・いや、世界の全てが私に従うことになる!」
「ふざけるな!自分の目的のために手段を選ばないお前を、僕は絶対に許さない!」
高らかに言い放つ幸介に、光輝が怒りの言葉を放つ。彼は太一とともに水晶を手にする。
「変身!」
「変身・・・!」
オメガとクリスに変身する光輝と太一。幸介を見据えたまま、太一がクリスレイダーから降りて一矢に声をかける。
「目的や考えは違うけど、今は戦う相手は同じだ・・だから僕は、あなたや光輝くんと力を合わせていく・・・」
「フン。本当はオレ1人で何とかなったというのに・・それに、1番はオレだ。何度も言わせるな・・」
太一が投げかけた言葉に、一矢が不敵な笑みを見せて言い返す。
「だったら早く何とかしてよ・・こういうの、早く終わらせたほうがいいって・・・」
「その意見には同意しておこうか・・あまりヤツにうろつかれるのは我慢がならない・・・!」
太一が口にした不満に一矢が答える。
「おしゃべりを聞くつもりはない・・まずはくたばり損ないのお前から息の根を止めてやる!」
幸介が一矢を狙って飛びかかる。だが間に太一が割って入り、幸介の刃をクリスセイバーがぶつかり合う。
「言ったはずだよ・・お前の相手は僕だって・・・!」
「そんなに葬られたいなら、望みどおりにしてやる!」
低く告げる太一に言い返し、幸介が足を突き出して太一を攻め立てる。さらに振り下ろされた刃が、太一のまとうクリスの装甲をきりつけ火花を散らす。
「太一くん!」
光輝も幸介に立ち向かい、パンチを繰り出す。その接近に気付いて、幸介がパンチをかわして刃を振るう。
光輝も幸介の刃を回避し、その隙を狙って太一が反撃に出る。2人との攻防に、幸介は攻めきれずにいた。
「たとえユニットの使い手2人が相手だろうと、私の勝利は揺るがない!」
言い放つ幸介が2本の刃を突き出す。装甲から火花を散らし、光輝と太一が突き飛ばされる。
「たとえ誰だろうと、私には敵わない!なぜそれが分からない!?」
「分かりたくもないな、そんなこと・・・」
怒号を放つ幸介に向けて、一矢が淡々と声をかけてきた。
「1番強いのは私だ。たとえどのような手段を使われようとも、最後に勝つのはこのオレだ。」
「まだそんな減らず口を・・私にやられたヤツが、大きな口を叩くな!」
勝気に振舞う一矢に幸介が怒鳴る。しかし一矢は不敵な笑みを消さない。
「やはりお前のようなヤツには、口で言っても分からないということか・・ならば力でなら、イヤでも分かってくるだろう?」
一矢は言いかけて、幸介に見せるように水晶を掲げる。
「お前は、まだオレの力の全てを見せてはいない・・・変身。」
水晶をベルトにセットして、一矢が再びギガスに変身する。光輝と太一が彼に駆け寄り、幸介を見据える。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」
「仮面ライダーオメガ!」
一矢、太一、光輝が高らかに言い放つ。3人の戦士が、ジャックガルヴォルスである幸介に立ちはだかった。
病院のベットにて、くるみと弥生に見守られながら、ヒカルは眠り続けていた。長く眠っていた彼女だが、光輝のことを考えていた。
(光輝さん・・無事でいるでしょうか・・・何もなければいいんですけど・・・)
心の中で光輝の心配をするヒカル。
(もしも光輝さんが戻ってきたら、くるみさんとも一緒に、また楽しい時間を過ごしたいです・・ガルヴォルスのクイーンではなく、普通の人間として・・・)
一途の願いを秘めていくヒカル。意識は戻っていないが、彼女は無意識に笑みを浮かべていた。
(無事に帰ってきてください、光輝さん・・・私、待っていますから・・・)
光輝がいつもの明るい笑顔を見せて帰ってくると信じるヒカルだった。