仮面ライダーオメガ 第44話

 

 

 光輝にヒカルを託し、竜也と対峙する義男。だが怒りと憎しみで力を増していく竜也に、義男は優位に立つことができなくなっていた。

「信じられない・・私の力をここまで弾き返してくるとは・・・!」

「邪魔をするなと言っている・・オレは彼女の力を使い、世界を正しい道へと引き戻す・・・!」

 毒づく義男と、さらに怒りの声を上げる竜也。2人の攻防は互角で、体力を消耗するばかりだった。

「これでは埒が明かない・・引き返すしかないのか・・・!」

 打開の糸口を探っていたときだった。竜也が繰り出した右手が、義男の体に叩き込まれた。

「ぐっ!」

 痛烈な一撃に耐えられず、義男が怯んでひざを付く。立ち上がれないでいる彼の前に、竜也が立ちはだかる。

「これで終わりだ・・敵は全てこの手で倒す・・・!」

 竜也が義男に向けてさらなる攻撃を加えようとした。だがそこへ銃声が飛び込み、竜也と義男が振り向く。

「オレを差し置いて勝手に話を進めるとは・・・」

 そこへ現れたのは、ギガスに変身している一矢だった。彼のそばにはクリスに変身している太一の姿もあった。

「ここからはオレが相手になろう。これ以上お前たちの好きにはさせない・・」

「お前も、オレの邪魔をする敵か・・・!?

 淡々と言いかける一矢に、竜也が憤りを膨らませる。

「敵?オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」

「思い上がるな!世界を腐らせる愚か者が!」

 悠然と言いかける一矢に怒号を放つと、竜也がエネルギーを強めて襲い掛かる。ギガシューターを発砲する一矢だが、竜也は射撃されてもものともせず、一矢につかみかかる。

「いつもいつも飛び込んでばかり・・これでは獣と同じだな・・」

「どこまでも思い上がったことを!」

 一矢の言葉に憤慨する竜也。だが一矢に突進の勢いを利用されて、竜也が投げ飛ばされる。

「いつもやれると思わないことだな。最後にはオレの1番が証明されることになるのだから・・」

「オレは負けない・・お前たちのような愚か者たちには、絶対に負けない!」

 勝気を見せる一矢にさらなる憎悪を宿して、竜也がエネルギーを放出する。2人の攻防の前で、太一が義男に駆け寄る。

「大丈夫ですか、駒場先生・・・!?

「太一くん・・・大丈夫、とはいえないな、正直・・・」

 太一の呼びかけに義男が答える。

「すみません・・やっぱり黙っていることはできませんでした・・もしかしたら、先生に何か起きてしまうんじゃないかって思えて・・・」

「いや、謝らなくていい・・結果として光輝くんや君たちに救われた・・・」

 謝る太一に義男が弁解する。

「ここは僕が何とかします・・だから先生は離れてください・・くるみさんと弥生ちゃんが待っていますから・・」

「しかし、今の彼は怒りと憎しみをさらに増して、私をも脅かすほどに力を上げている・・君たちだけでは・・・!」

「分かっています・・・でも、もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・」

 義男の心配を受け止めつつ、太一が戦う意思を見せる。満身創痍だった義男は、太一の意志を曲げることができなかった。

「本当にすまない・・危険と思ったら、すぐに逃げるように・・・!」

 義男の呼びかけに太一が頷く。彼が竜也に向かっていくのを見てから、義男はこの場を離れた。

 

 自身の見せ付けて戦いを失くそうとするヒカルの前に、光輝が姿を現した。ヒカルを救うため、光輝はあえて彼女と戦おうとしていた。

「私と戦う?お前がなぜ、私と戦おうとする・・・!?

 ヒカルが光輝の行動に疑念を抱き、目つきを鋭くする。

「お前も平和を望んでいる・・それなのに、なぜ私と戦おうとするのだ・・・!?

「・・・今のヒカルちゃんのやっていることが、ヒカルちゃんのためにならないから・・・」

 ヒカルが投げかける疑問に、光輝が切実に答える。

「こんな形で、ヒカルちゃんに傷ついてほしくない・・だからヒカルちゃんのその力を消して、元通りにする・・・」

「元通り?今の私が本当の私・・ガルヴォルスのクイーンなのよ・・・」

「違う・・オレやくるみちゃんの知っているヒカルちゃんは、心優しい人だ・・目の前にいるのは、そんなヒカルちゃんとは全然違う・・・!」

「それは幻だ・・お前の目の前にいるのが、本当の私だ・・・」

 光輝の言葉を跳ね返すと、ヒカルが全身から光を発する。敵意を見せる彼女だが、光輝は構えを解かない。

「これが最後だ・・私と戦うな・・そうすれば私はお前に何もしない・・・」

 ヒカルが警告を送るが、光輝は引き下がらない。

「やはり引き下がらないか・・・1度決めたら逃げずに立ち向かう・・お前らしい・・・」

「ここで逃げたら、ヒカルちゃんは2度と戻ってこない・・そう思うから・・・」

 苦笑いを浮かべるヒカルに、光輝が自分の決意を真剣に告げる。

「皮肉なものだ・・お前のその気持ちが、私に向けられているとは・・・」

 低い声音で呟くと、ヒカルが両手を突き出して衝撃波を放つ。突き飛ばされる光輝だが、すぐに体勢を整える。

「さすがガルヴォルスのクイーン・・スピリットフォームでも耐えられるかどうか・・・!」

 ヒカルの力に毒づく光輝。彼は意識を集中して、精神エネルギーを強めていく。

「長引かせるのはお互いによくない・・一気に決めないと・・・!」

 光輝がエネルギーを集中させて、ヒカルに向かっていく。彼女が再び衝撃波を放って、光輝の攻撃を阻む。

「私も、まだ負けるわけにはいかない・・・!」

「もうやめろんだ、ヒカルちゃん!君が戦う必要はない!」

 声を振り絞るヒカルと、必死に呼びかける光輝。

(負けるものか・・諦めるものか・・ヒカルちゃんを助けるためなら、こんなことでくじけるわけにいかない・・・!)

 光輝が心の中で決意を募らせる。

(またヒカルちゃんと一緒に、楽しい時間を過ごすんだ・・それがオレやくるみちゃんだけでじゃなく、ヒカルちゃんの自由と平和だから・・・!)

「スピリットライダーパンチ!」

 ヒカルの発する光の障壁を、光輝のスピリットブレイカーが突き破った。押されたヒカルが目を見開き、とっさに後ずさりをする。

「こんなものでは私は止まらないぞ!」

 言い放つヒカルがクイーンガルヴォルスへと変身する。さらに力を強化させた彼女が光を放出する。

「ぐっ!」

 オメガの装甲から火花が散り、光輝が怯む。ヒカルから放たれる閃光は、さらに光輝を追い詰めていく。

「スピリットフラッシャー!」

 光輝もエネルギーを放出して、ヒカルの閃光を跳ね返す。力を跳ね返されたことに、ヒカルが毒づく。

「まだだ・・まだ私は負けていない!」

 言い放つヒカルが両手を突き出し、念力を発動する。

「ぐおっ!」

 念力で体の自由を奪われ、光輝がうめく。彼はそのまま宙に持ち上げられ、重力と相まって体力を消耗させていく。

「お前とオメガユニットを出会わせてしまったのはいけなかった!もしも出会わなければ、お前は苦しい思いをすることはなかった!」

「そんなことはない!オレは君と出会えて本当に嬉しかった!」

 悲痛の声を上げるヒカルに、光輝が言い返す。彼は力を振り絞って、念力を破ろうとする。

「そしてオメガになれたから、オレはこうして、仮面ライダーとして戦うことができた!オメガの力が、オレに敵と戦う勇気を与えてくれた!」

 光輝の意思に呼応するかのように、彼のまとうオメガの装甲から閃光がほとばしる。その光が、ヒカルがかけていた念力を弾き飛ばした。

「何っ!?

 驚愕を覚えるヒカルの前に、光輝が着地する。

「今のこの力はオメガの力だけじゃない・・僕自身の勇気でもある・・・やっと分かった気がする・・・」

 決意を確かめて微笑む光輝。彼の右足にエネルギーが集束されていく。

「君を助けるため、ヒカルちゃん、僕の気持ちを込めたこの一撃を、君に叩き込む・・・スピリットライダーキック!」

 光輝が大きく飛び上がり、ヒカルに向けてスピリットスマッシャーを繰り出す。

「私は、まだ負けるわけにはいかない・・本当の平和を作るために!」

 ヒカルも負けじと両手をかざし、閃光を放出する。2人の攻撃は拮抗し、互いに引かない。

「心配しなくていい・・・世界の平和は、僕が守るから・・・」

 そのとき、ヒカルが見据える光輝の姿が、普段の気さくなものに見えた。彼の明るい笑顔に、彼女は心を揺さぶられていた。

(光輝さん・・・本当に、光輝さんはみんなを・・・)

 そしてヒカルは、いつしか光輝への想いを膨らませていった。冷徹になっていた彼女が、徐々に穏やかさを取り戻していく。

 ヒカルの力が弱まっていく。それを感知した光輝も、自分の攻撃を弱めた。

 意識を失ってこの場の倒れ込むヒカル。着地した光輝が彼女に駆け寄っていく。

 その場には2人の放った光が広がっており、周囲は視界をさえぎるように完全に白んでいた。

 

 怒りを爆発させる竜也に、一矢に続いて太一も加勢してきた。2対1の戦況と精神面の強弱で、竜也は劣勢に立たされていた。

「ふざけるな・・オレが・・オレがこんなことで・・・!」

「往生際が悪いのは感心しないな・・オレが強い。それだけのことだ・・」

 うめく竜也に、一矢が淡々と言いかける。太一も竜也と戦うことに迷いを感じていなかった。

「許せるものか・・お前のように、思い上がったヤツにやられるなど・・許せない!認めない!」

 激昂した竜也が全身から紅い閃光を放出する。

「いけない!よけないと!」

 慌てた太一が一矢とともに回避する。紅い閃光は周囲を焼き尽くし、その間に竜也は姿を消していた。

「逃がしたか・・ここまで来て無意味なことを・・・」

 逃亡した竜也に一矢が毒づく。

「駒場先生が心配だ・・うまく弥生ちゃんたちと合流できていればいいんだけど・・・」

 太一が義男のことを気にして、移動していった。一矢もため息混じりに太一の後を追っていった。

 

 一矢と太一に助けられて、義男はくるみと弥生のところに向かっていた。竜也との戦いで疲弊していて人間の姿に戻っていた彼は、前に進むのも大変なことだった。

「情けないことだ・・私が助けられるとは・・・」

 自分が置かれている状況に、義男が苦言を呈する。

「だが、こうして若者が強くたくましくなっていくのは喜ばしいことだ・・こうして世代交代をして、未来に向かっていくということか・・・」

「ならば私たちも、世代交代しないといけませんね・・」

 苦笑いを浮かべたところで、義男が声をかけられる。彼の前に現れたのは、不敵な笑みを見せている幸介だった。

「ジャック・・お前・・・!」

「このときを待っていた・・キング、お前が傷ついて疲れたときを・・・!」

 目を見開く義男に、幸介が哄笑を上げる。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がっていた。

「お前を倒し・・オレが次のキングとなる!」

 言い放つ幸介がジャックガルヴォルスに変身する。彼は体から刃を引き抜いて、義男に敵意を向ける。

「普通にやってはお前にはまず勝てない・・だから弱ったところを狙ったわけだ・・・」

「そこまでキングの座にこだわるのか・・・」

 野心をむき出しにする幸介に対し、義男が肩を落とす。

「だが、もはやガルヴォルスの王の座など、もはやすばらしく思えるものではなくなっている・・時代は若者の手によって作り出され、未来を切り開こうとしている・・・」

「落ちぶれたか・・次の王も、未来も私の手中になる・・・私は全てを手に入れるのだ!」

 義男が告げた言葉に耳を貸さず、幸介が飛びかかり、刃を振りかざす。義男はとっさに後退して、幸介の刃を回避する。

「もはやキングに未練はない・・だが、お前のような者に明け渡すつもりはない!」

 戦意を見せる義男が、力を振り絞ってキングガルヴォルスに変身する。

「まだそんな力が残っているとは・・さすがはキング・・・」

 義男の力に賞賛の言葉をかける幸介。だが彼はすぐに冷徹な態度を見せる。

「だが弱りきった状態では、もう私を止めることはできない!」

 幸介が義男に向けて再び刃を振りかざす。これも回避した義男が、幸介に向けて衝撃波を放つ。

 だが幸介がかざした刃によって、衝撃波がかき消された。

「くっ!やはり体力が消耗している・・・!」

「どうした!?キングの力はそんなものか!」

 毒づく義男と高らかに言い放つ幸介。向かってくる幸介を迎撃しようと、義男が右手をかざしてエネルギーを放出しようとする。

「なっ!?

 だが右手からエネルギーが放たれず、義男が驚愕する。幸介が繰り出した刃が義男を切りつけていく。

「ぐあっ!」

「最高の気分だ!今まで手も足も出なかったキングを、こうして思い切り追い詰めているのだから!」

 うめく義男に向けて、幸介が歓喜の叫びを上げる。刃を突き立てられて、義男が突き飛ばされて横転する。

「不様だ・・キングと呼ばれ続けたお前が、実に不様だ・・・」

 あざ笑う幸介の前で、義男が起き上がろうとする。だがもはや彼は立ち上がるのも精一杯になっていた。

「さぁ、命乞いしろ!・・命乞いして、キングの座を明け渡すなら許してやるぞ・・・!」

 幸介が言い放ち、義男に刃の切っ先を向ける。しかし義男は幸介に従わない。

「お前などに許してもらおうとは、全く思わない・・むしろ、私はお前を許そうとも思っていない!」

「・・・そうまでして・・私に刃向かおうというのか!?

 声を振り絞る義男に苛立ちを見せ、幸介が刃を突き出す。刃が義男の体に突き刺さった。

「がはっ・・・!」

 刃が引き抜かれると同時に、義男がその場に倒れ込む。立ち上がることもできなくなった彼に、幸介が迫る。

「最後まで私に刃向かって・・・実に不愉快だ・・・!」

 憤慨する幸介が、義男に向けて刃を振り下ろした。

 

 義男を追い求めて、町の中を駆け回っていたくるみと弥生。しばらく探していた2人は、幸介に追い詰められる義男を発見する。

「先生・・・!」

 目を見開くくるみたちの前で、幸介が倒れている義男に刃を突き立てた。

「先生!」

 とどめを刺された義男に、くるみが悲鳴を上げる。そこへ一矢と太一も駆けつけてきた。

「駒場先生・・・!?

 太一も昏倒した義男の姿に目を疑う。

「お前も性懲りもなく・・だが何度やってもオレには勝てない・・」

 勝気に振舞う一矢が幸介に向かっていく。彼に気付いた幸介が、義男から刃を引き抜いて迎え撃つ。

 2人が離れたところで、くるみが義男に駆け寄る。

「先生!しっかりしてください、先生!」

「くるみくん・・・君たちの力になれなくて・・すまなかった・・・」

 呼びかけるくるみに、義男が弱々しく答える。

「すぐに病院に行きましょう・・すぐに手当てしてもらわないと・・・!」

「ダメだ・・・ガルヴォルスの身体能力でも治癒しきれないダメージだ・・手術で治せるものでは・・・」

「諦めないでください!光輝もみんな頑張っているんですから!」

「・・そうだ・・・君たちは頑張っている・・これからに向かって・・・」

 必死に呼びかけるくるみに言葉を返すと、義男が手を差し伸べてくる。

「私は信じているぞ・・・未来を作る・・君たちの力と、心を・・・」

 くるみに向けて声を振り絞る義男。だが次の瞬間、彼の体が砂になって崩壊していった。

「先生・・・先生!」

 命を落として消滅した義男に、くるみが悲痛の叫びを上げた。ガルヴォルスのキングとして君臨していた義男は、光輝たちに全てを託して命を閉ざした。

 

 

45

 

小説

 

TOP

inserted by FC2 system