仮面ライダーオメガ 第41話
オメガに変身した光輝は、ガルヴォルスのクイーンであるヒカルに味方しようとしていた。彼は竜也と対峙していた一矢に敵意を向けていた。
「どういうつもりだ?ガルヴォルスの味方をするのか?」
一矢が光輝の行動に不快を覚える。
「今までガルヴォルスを悪者と見ていたお前が・・ここまで見下げ果てたものとは、オレも思わなかった・・・」
「今のこの行為がふざけているとは思っていない・・オレはヒカルちゃんを守る・・それがオレの決めたことだ!」
呆れる一矢に光輝が言い放つ。光輝は自分の意思で、ヒカルがガルヴォルスであると実感しながら、彼女を守る道を選んでいた。
「いずれにしろ、お前には理解させておく必要があるな。自分自身の愚かさというものを・・」
一矢も戦意を見せて、ギガシューターの銃口を光輝に向ける。すると光輝が手を出してギガシューターを払い、一矢の発砲をそらす。
「その真っ直ぐな戦い方だけは褒めておこうか・・・!」
一矢が打撃を繰り出し、光輝に接近戦を仕掛ける。その猛攻に押されて、光輝が横転する。
「くっ!・・メガブレイバー!」
光輝の呼びかけを受けて、メガブレイバーがスピリットカリバーを背負って走り込んできた。立ち上がった光輝がスピリットカリバーを手にして、ベルトの水晶をセットする。
スピリットフォームに変化するオメガ。脅威の力を発揮する光輝に、一矢が緊張を覚える。
「その力は確かに強力だ・・だが何であろうと、オレに勝つことはできない・・・!」
一矢が退かずに光輝に飛びかかる。だが光輝のスピリットフォームのオメガの力の前に、攻撃が跳ね返される。
そこへくるみ、太一、弥生が駆けつけてきた。くるみたちは一矢との攻防を繰り広げて、ガルヴォルスを守ろうとする光輝に目を疑った。
「光輝!?・・・何をやって・・・!?」
くるみが声を荒げるが、一矢を攻める光輝の耳には入っていない。劣勢を強いられた一矢に対し、光輝が攻撃の手を止めて声をかける。
「もうやめてくれ、一矢さん・・あなたもライダーの1人だ・・できることなら、あなたを倒したくない・・・」
「倒したくない?・・甘いことを口にするところは変わっていないようだな・・・!」
光輝に反発すると、一矢はベルトの水晶を右足の脚部にセットして飛び上がる。
「ギガスマッシャー!」
エネルギーを集束させた両足によるキックを放つ一矢。すると光輝が右手に精神エネルギーを集中させる。
「スピリットライダーパンチ!」
光輝が繰り出した「スピリットブレイカー」が、一矢のギガスマッシャーと衝突する。光輝の強大なパワーで、一矢が弾き飛ばされる。
「ぐっ!・・ぐあぁ・・・!」
激痛にさいなまれてうめく一矢から、ギガスへの変身が解かれる。力を抜いた光輝が、一矢をじっと見据える。
「やめなさい、光輝!」
くるみが声を張り上げてきた。その声がついに光輝にも届いた。
「くるむちゃん・・・」
「アンタ、何をやってるの!?・・そこにいるのはガルヴォルスじゃない!ずっとガルヴォルスからみんなを守ってきた光輝が、ガルヴォルスを守ろうとするなんて・・・!」
当惑する光輝に、くるみが声を張り上げる。
「だって、ここにいるのは、ヒカルちゃんなんだ・・・」
光輝が切り出した言葉に、くるみだけでなく太一と弥生も耳を疑う。
「何言ってんのよ・・ヒカルちゃんがガルヴォルスであるはずが・・・!」
「いえ、本当です、くるみさん・・・」
さらに声を荒げるくるみに、クイーンガルヴォルスになっているヒカルが声をかける。彼女が人間の姿に戻る。
「これって・・・!?」
「ヒカルさんが、ガルヴォルス・・・!?」
太一と弥生がヒカルの正体を目の当たりにして驚愕する。ヒカルは沈痛の面持ちを浮かべて、くるみたちを見つめる。
「さっき、自分の記憶を取り戻したんです・・・私はガルヴォルス・・それもそのクイーンだったんです・・・」
「ちょっと・・悪い冗談じゃない!ヒカルちゃんが、ガルヴォルスだなんて・・・!」
「信じられない気持ちは分かります・・光輝さんも、さっきまで信じられなかったですから・・・ですが、このことは紛れもなく・・」
「じゃ、今のアンタは誰!?ヒカルちゃんじゃなくなったの!?」
ヒカルの言葉をひたすら拒絶するくるみ。彼女もヒカルの正体がどうしても信じられなかった。
「私はガルヴォルスのクイーン・・でも“ヒカル”であることに変わりはありません・・・」
「ワケ分かんないよ!・・結局、あなたはガルヴォルスなの!?それともヒカルちゃん!?」
ヒカルの言葉が理解できず、くるみが彼女に問い詰める。
「もうやめて、くるみちゃん・・・」
そこへ光輝が声をかけてきた。彼はここでオメガへの変身を解除する。
「もう認めるしかないと思う・・ヒカルちゃんはヒカルちゃんであり、ガルヴォルスであることを・・」
「そんなこと言われたって全然分かんないよ!光輝も光輝だよ!世界の平和とみんなの自由を守ることが、光輝の戦う理由じゃなかったの!?」
光輝の言葉にも納得しないくるみ。彼女に詰め寄られて、光輝が当惑する。
「人間とガルヴォルス、ヒカルちゃんはどっちなの!?光輝はどっちの味方なの!?」
「・・そういう分け隔てや差別で戦ってるわけじゃないよ・・・」
くるみに言い寄られても、光輝は考えを変えようとしない。
「光輝・・もしかして、あたしたちを裏切ろうとしているんじゃ・・・!?」
「・・僕はみんなを裏切りたくないし、裏切られたくもない・・でも、もしヒカルちゃんを敵と見て、攻撃してこようとするなら・・・」
「・・・見損なった・・ヒーローバカだとは思ってたけど、ここまでだとは思ってなかった・・・」
光輝の考えにくるみが絶望感を覚える。ヒカルを守るために世界さえも敵に回そうとしている光輝の正義感に、くるみは疑惑を抱いていた。
「もはや吉川光輝は、オレたちの敵ということか・・」
そこへ立ち上がった一矢が声をかけてきた。一矢は悠然さを見せておらず、光輝に鋭い視線を向けていた。
「元から君のことは信用していなかったが、これで今度こそ心置きなく、君に攻撃を加えることができる・・」
「言ったはずだよ・・もしもヒカルちゃんを攻撃してくるなら、僕は容赦しない・・・」
「・・・とても正義のヒーローが口にするような言葉ではないな・・・」
光輝の考えを一矢が嘲笑する。
「行こう、ヒカルちゃん・・このままじゃ、みんなが・・・」
「いけないです、光輝さん・・・光輝さんは、みんなの味方なんですから・・・」
呼びかける光輝に、ヒカルが首を横に振る。しかしそれでも光輝の気持ちは変わらない。
「みんなのためであっても、ヒカルちゃんを見捨てるようなことはできない・・・」
「光輝さん・・・」
真剣に言いかける光輝に、ヒカルも返す言葉が出なくなってしまった。困惑するくるみたちの前から、光輝とヒカルは立ち去ってしまった。
「光輝・・・ヒカルちゃん・・・」
2人を呼び止めることができず、くるみはその場に立ち尽くすばかりだった。そんな中、竜也だけが2人を追っていった。
クイーンガルヴォルスであるヒカルを倒そうとする幸介だが、立ちはだかった義男に歯が立たなかった。打ちのめされて地に伏した幸介を、キングガルヴォルスから人間の姿に戻った義男が見下ろしていた。
「やはりここで下克上は起きなかったようだな・・」
「ぐっ!・・オレにはまだ、頂点を取ることができないのか・・・!」
淡々と言いかける義男の前で、幸介がうめく。
「あまりしつこくされると、私の生活にも支障が出る・・不本意ながらとどめを刺させてもらう・・・」
義男が再びキングガルヴォルスになろうとした。そこへ光輝とヒカルが駆けつけ、義男の意識が一瞬2人に向く。
「このままで・・このままで済むと思うな!」
その一瞬を見逃さず、幸介が力を振り絞って立ち上がり、義男に向けて刃を投げつける。衝撃波で刃を弾く義男だが、その瞬間に幸介は姿を消していた。
「逃がしたか・・・」
呟きかける義男が、光輝とヒカルに振り向く。
「先生・・・僕、決心がつきました・・・」
「決心?」
光輝が切り出した言葉に、義男が眉をひそめる。
「ヒカルちゃんを守るために戦う・・もしも誰かがヒカルちゃんを狙おうとするなら、僕は戦います・・・」
「それは彼女がガルヴォルスのクイーンであると自覚しての決断か?これまでガルヴォルスに敵対していた君が、ガルヴォルスを守ろうというのか?」
「人間もガルヴォルスも関係ありません。僕はヒカルちゃんを守りたいんです・・」
「それが君にとって最善手なのか?ヒカルくんやくるみくん、君の周囲の人たちの気持ちはどうなのだ?」
義男に問い詰められて、光輝が困惑を覚える。様々な問いを求められて、彼はその答えを出すことができなくなっていた。
「中途半端だ。正義感が強いと思っていたが、今の君はその正義感までもが揺らいでいる・・」
「そんなことはないです!・・そんなことは・・・」
「それはただの自己満足だ・・そこに、君が貫いている正義があるとは、私には思えない・・・」
義男に言いとがめられて、光輝の心は大きく揺れていた。しっかり出したはずの自分の決断が簡単に打ち砕かれたことに、光輝は冷静さを保てなくなっていた。
「あまり光輝さんを責めないであげてください・・・」
そこへヒカルが沈痛の面持ちで声をかけてきた。
「光輝さんは真っ直ぐに私と向き合おうとしているんです・・その決断が間違っているとは・・」
「言い切れるのか?」
ヒカルの言葉に義男が冷淡に聞き返してきた。
「君はそれで納得できるのか?強引に言い聞かされているのではないのか?」
「それは・・・」
義男の問いかけにヒカルも口ごもってしまう。義男が光輝に視線を戻す。
「君のこの正義は独りよがりだ。独りよがりではもはや正義などではない・・・!」
「先生・・・」
「もう少し考え直せ・・ヒカルくんは心優しい・・間違いを正すなら、彼女は受け入れてくれるだろう・・・」
義男は光輝に言いかけると、この場から去っていった。愕然となっている光輝を追って、竜也がやってきていた。
義男に敗れた幸介は、激しい怒りを抱えていた。
「おのれ!オレはこんなことで朽ち果てたりはしない!必ずキングとクイーンを倒し、オレがガルヴォルスの頂点に立ってやる!」
野心をむき出しにして叫ぶ幸介。
「キングとクイーンは必ずオメガたちと交戦になり、体力を消耗することになる・・それがオレの最大のチャンスとなる・・・!」
新たなる策略を打ち立てて、幸介が笑みを取り戻す。
「待っていろ・・最後に笑うのは私だ!」
哄笑を上げながら、幸介は出方を伺うことにした。
決心を完全に揺さぶられた光輝に、竜也が目つきを鋭くして声をかけてきた。
「お前は本当に、何のために戦っているんだ・・・?」
「何のためって・・世界の平和のために・・ヒカルちゃんやみんなを守るために・・・」
「本当にそうなのか?今のお前には、もはや憎しみに達していない。相手にする気が全く起きない・・」
答えようとする光輝に、竜也は呆れ果てていた。
「もはやお前にオレを止めることはできない・・オレはこの愚かな世界を塗り替えて、本当の平和を取り戻す・・・」
「そんなことはさせない・・そんなことは・・・!」
世界への敵意を示す竜也に光輝が反発する。だが竜也に腕をつかまれ、光輝はそのまま倒される。
「光輝さん!」
ヒカルが光輝に駆け寄ろうとするが、竜也に睨まれて立ち止まる。
「完全に納得していないのに賛同するな。そんなことをしても操り人形にされるだけ。何の意味もない・・」
「そんなことは・・・」
竜也の言葉にヒカルが困惑する。
「オレは何者にも縛られない・・自分たちの都合だけで他の者を平気で犠牲にするこの愚かな世界を、オレは絶対に許すつもりはない・・そんな絶望していたオレを救ってくれるかもしれないのが、お前だ・・・」
「私・・・!?」
「さっきのお前の力は、オレの憎しみを和らげた・・オレが暴走するのを止める、唯一の歯止めになるかもしれない・・・」
「でも、私は世界を壊そうとは・・・」
「ならばオレは壊すだけとなる・・このまま世界を野放しにすれば、滅びることになる・・お前もその犠牲になってしまう・・・お前はそれでいいのか・・・?」
「でも、誰かを傷つけて得る平和は、本当の平和ではないです・・光輝さんがそう言っていました・・・」
「それはもはや甘いたわ言でしかない・・そんな考えなど、世界の前では簡単に跳ね返される・・・」
「それじゃ、何をやったって・・・」
竜也の言葉に困惑するヒカル。彼女も光輝も、竜也の強固な意思を揺さぶることができなかった。
そこへ一矢が姿を現した。彼に伴って、太一もやってきていた。
「一矢さん・・太一くん・・・」
「ガルヴォルスたちと組んで、人間の敵になった腑抜け・・・」
困惑を膨らませる光輝を、一矢が嘲笑してくる。
「中途半端なヤツにウロウロされるのはいい気分ではない・・残念だが、ここで倒れてもらう・・・」
一矢は言いかけると、水晶を手にする。
「変身。」
水晶をベルトにセットして、一矢がギガスに変身する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから。」
一矢が光輝に向けて高らかに言い放つ。
「せめて変身したらどうだ?でなければオレとしても拍子抜けになる・・」
「僕はこんな形で、みんなと戦いたくない・・・」
「ふざけたことを・・この形を選んだのは君ではないか・・・」
光輝の呼びかけに一矢が呆れる。
「もはや言葉に意味はない・・そこまで自分を貫きたければ、力を見せて来い!」
鋭く言い放つ一矢が、光輝に向けて駆け出す。彼が繰り出してきたパンチを、光輝が紙一重でかわす。
「くっ!・・・変身!」
光輝がとっさに水晶をベルトにセットして、オメガに変身し、一矢を迎え撃つ。しかし光輝は一矢の猛攻に劣勢を強いられる。
クリスタルユニットは、装着者の精神力に大きく左右される。動揺や苦悩が生じれば、クリスタルユニットの力を十分に発揮することができなくなってしまう。
「どうした?さっきの勢いはどこに行った!?」
一矢がさらに光輝を攻め立てる。反撃もままならず、光輝が体力と精神力を消耗させていく。
「負けられない・・オレが負けたら、ヒカルちゃんに危険が・・・だから、負けられない!」
光輝が決意を強めて、ついに一矢に反撃に打って出る。光輝のパンチの連続に、一矢が怯む。
「本気を見せてきたか・・だがそれでも、オレを負かすことはできない・・・!」
踏みとどまる一矢と、さらなる攻防に臨む光輝。そこへ太一が歩み寄り、水晶を取り出す。
「太一くん・・・」
太一の登場に光輝が当惑する。深刻さを募らせながら、太一が水晶を掲げる。
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・変身・・」
呟いてから、太一がベルトに水晶をセットする。クリスに変身した彼は、クリスセイバーを手にする。
そして太一がクリスセイバーの切っ先を、光輝へと向けた。
「た、太一くん・・・!?」
「もうこんなもやもやしたのはイヤだ・・だから光輝くん、僕に倒されて・・・」
驚愕を覚える光輝に、太一が低い声音で告げる。彼もまた、光輝とヒカルに敵対しようとしていた。