仮面ライダーオメガ 第42話

 

 

 一矢に続いて太一も光輝に敵対の意思を示してきた。2人の戦士に敵意を向けられて、光輝が困惑する。

「太一くんまで・・・こんなことって・・・」

 完全に窮地に追い込まれた光輝。一矢もギガシューターを手にして、光輝に銃口を向ける。

「もはやここまでだ・・精神面でもお前は弱くなっている・・これではあの力を出すこともできないだろう・・」

 一矢が言いかけると、ギガシューターを発砲する。放たれた弾丸を受けて、光輝が突き倒される。

 心身ともに追い込まれていた光輝。そこへ太一が立ちはだかり、クリスセイバーを光輝の眼前に突きつける。

「せめてオメガのベルトを渡してくれると嬉しい・・そうすれば君をこれ以上傷つけずに済む・・・」

「太一くんの頼みでも、それは聞けない・・」

 太一の呼びかけを受け入れない。その返答に太一が不快を浮かべる。

「どうしてそこまで頑固なの・・・聞いてくれたら、すぐに終わるのに!」

「やめて、太一くん!」

 太一がクリスセイバーを振り上げたとき、弥生が呼びかけてきた。彼女とともにくるみも駆けつけてきていた。

「光輝さんを傷つけたらいけない!こんなの、太一くんらしくない!」

「弥生ちゃん・・・」

 弥生の呼びかけに太一が困惑する。ここで彼もどうしたらいいのか分からなくなり、困惑する。

「光輝もやめて・・そんなの、いつもの光輝じゃないよ・・・」

 くるみも続いて光輝に呼びかけてくる。

「ヒカルちゃんも、帰ってきていいんだよ・・あたし、ヒカルちゃんのこと、嫌ってるわけじゃないから・・・」

「くるみさん・・・でも・・・」

 くるみの言葉にヒカルが戸惑いを覚える。

「たとえ人間じゃなくたって、ガルヴォルスであっても、ヒカルちゃんであることには変わりはないんだから・・・」

「でも・・・私はガルヴォルスの・・」

「あなたはヒカルちゃん!あたしたちと出会ってから、ずっとそう過ごしてきたじゃない!それだけは間違いないんだから!」

 動揺するヒカルにくるみがひたすら呼びかける。信頼を寄せる彼女に、ヒカルが導かれようとしていた。

「だが、もう今までのように平穏に過ごすことはできない・・」

 そこへ声をかけてきたのは義男だった。彼の登場にくるみが当惑を見せる。

「ヒカルくんがガルヴォルスのクイーンであることは、他のガルヴォルスたちに知れ渡っている。今までどおりの生活を送ろうとしても、ヤツらがそれを許さない・・」

「そんな・・そんなムチャクチャな・・・」

 義男の言葉にくるみが不満を覚える。

「ヒカルくんがヒカルくんであることが事実であると同時に、彼女がガルヴォルスのクイーンであることもまた事実・・常にガルヴォルスの猛威の真っ只中にいることになる・・」

「そんなの認めない!ガルヴォルスなんかに、ヒカルちゃんを襲わせてたまるもんですか!」

「ならば君たちはこれからもガルヴォルスと戦っていく・・終わらない、安らぎのない戦いを続けていく・・君たちに、その覚悟があるというのか・・・!?

 声を張り上げるくるみに、義男が鋭く問い詰めてくる。すぐに答えが出ず、くるみが口ごもる。

「かつての光輝くんならば、何の迷いもなく答えることができたはずだが・・・」

 光輝に目を向けて、義男が落胆の言葉を投げかける。そこへ竜也が義男のそばに歩み寄ってきた。

「彼女はオレの歯止めとなるかもしれない・・彼女の力が、オレにはどうしても必要なんだ・・・」

「それは彼女の意思が含まれているのか?彼女は賛同しているのか・・・?」

「そうしなければ世界は愚かなまま変わらない!力を貸すか、敵に回るかのどちらかしかない!」

「それで本当に世界が変わるという確信があるのか?結局はお前が憎んでいる相手と同じことをしようとしているのでは・・」

「そんなことはない!オレと連中を一緒にするな!」

 義男の言葉に激昂して、竜也がドラゴンガルヴォルスに変身する。竜也は素早く動き、ヒカルを捕まえる。

「ヒカルちゃん!」

「本当の平和は絶対に切り開かれなければならないんだ!」

 声を荒げる光輝と、鋭く言い放つ竜也。竜也はヒカルを連れてこの場から離れていった。

「ヒカルちゃん・・・竜也くん・・・」

 さらに困惑する光輝。2人を追おうとしない彼に、くるみが詰め寄ってきた。

「追いかけなくていいの、光輝!?このままだとヒカルちゃんが・・!」

「でも、僕にはみんなを守れるだけの力が・・・」

「力がなくたって、悪いことには全力で立ち向かう!辛くなっている人がいたら助ける!それが光輝の口にしていた正義じゃなかったの!?

 くるみのこの呼びかけに、光輝が戸惑いを浮かべる。彼はここで、自分がいつも貫いてきた正義を思い知らされていた。

「そうだ・・僕はみんなを守るために、世界の平和と人々の自由を守るために、今まで戦ってきたじゃないか・・たとえオメガに、仮面ライダーにならなかったとしても、その気持ちは変わらなかったはずだ・・・」

 自分の在り方を思い返して、光輝は自分を責めた。ヒカルと竜也を救うため、彼は決心を固めるのだった。

「僕が今動き出さないと、2人を助けることなんてありえないんだ・・・」

「光輝・・・」

「くるみちゃん・・・僕を叩いて・・・僕に勇気を叩き込んで・・・」

 光輝が真剣な面持ちを見せて、くるみに呼びかける。

「くるみちゃんの気持ちも、ヒカルちゃんと竜也くんに伝える・・だから・・・」

「そう・・それだったら思い切りいくよ・・・歯を食いしばって・・・!」

 光輝の決意に応えるくるみ。彼女が彼の頬を強く叩いた。

「いったた・・痛いけど、これで気持ちがスッキリした・・・」

「ホントに、毎度毎度しょうがないんだから、光輝は・・・」

 苦笑いを浮かべる光輝に、くるみが呆れてため息をつく。

「それで、先生はどうするんですか・・・?」

 光輝が義男に振り向いて声をかける。光輝の決意を目にして、義男は微笑んでいた。

「私はクイーンである彼女を救うことを目的としている・・今のところは味方ということになる・・今のところは・・・」

 義男の考えを聞いて、光輝が小さく頷く。

「行ってきます、先生・・・メガブレイバー!」

 光輝の呼びかけを受けて、メガブレイバーが駆けつけてきた。

「ヒカルちゃんと竜也くんを追いかけるんだ、メガブレイバー・・」

「任せてくれ、光輝。私に乗ってくれ・・」

 答えるメガブレイバーに乗って、光輝はヒカルと竜也を追って走り出していった。

(ホントにお願いよ、光輝・・・!)

 心からの信頼を寄せて、くるみは光輝の後ろ姿を見送っていた。

 

 ヒカルを連れて移動してきた竜也。彼らが来たのはビル街の真ん中の大通りだった。

「国や世界を動かせる立場にいる人間・・だがその多くが自分たちだけのために行動するようになってしまっている・・他の人の言葉など耳を貸さず、周りが苦しみ悲しむことに何の感情も抱かない・・」

 竜也がビルを見回しながら、ヒカルに自分の心境を語っていく。

「そんな愚か者、愚かな世界を守ることが、本当に正義だといえるのか?正しいことだといえるのか?」

「それは言い切れません・・でも、何もかもが愚かとも言い切れないですよ・・・」

 問い詰めてくる竜也に、ヒカルが沈痛の面持ちを浮かべて答えてきた。

「誰だって間違えることがある。誰かを傷つけてしまうこともある・・でも間違えたらやり直せばいいんです・・間違い全部が愚かだなんて・・・」

「それが愚かさの元凶なんだ!間違いを間違いと思わず、間違いを繰り返す!それが愚か者だ!」

 ヒカルの言葉に竜也が激昂する。

「もはや力ずくにでも分からせなければ、まず分かろうとしない!だからオレは戦っている!愚か者を滅ぼし、世界を正しい形に塗り替えるために!」

「そんなことしたって、何も救われない!あなたが手にかけた人の知り合いが、あなたを恨むようになってしまう!」

「愚か者のためにオレを恨むことなど、それこそ愚かだ。ヤツらもオレの敵でしかない・・!」

「それで本当に平和が来るんですか!?そうやって敵と見た人を手にかけたら、最後には誰もいなくなってしまう!」

「・・・愚か者ばかりとなるくらいなら、誰もいないほうがいい・・・」

 頑なな竜也にヒカルが困惑する。彼女は敵意を膨らませる彼に恐怖を感じていた。

「力を貸してもらうぞ・・お前のその力は、世界を救う鍵になる・・・」

「ダメです・・私はもう、誰かを傷つけるために力を使いたくない・・・!」

 手を伸ばす竜也に、ヒカルが震えて後ずさりする。

「力を貸せ・・愚か者たちを倒すために、力を貸すんだ!」

 怒号を放つ竜也がドラゴンガルヴォルスに変身する。怒りを膨らませる彼の体は、刺々しいものとなっていた。

「お前も敵に回ろうというのか・・・お前も!」

 激昂する竜也がヒカルに迫る。

「ヒカルちゃん!竜也くん!」

 そのとき、1台のバイクが走り込んできた。メガブレイバーを駆る光輝だった。

「光輝さん!」

「やめるんだ、竜也くん!ヒカルちゃんから離れるんだ!」

 ヒカルが声をあげ、光輝が呼びかける。しかし竜也は聞き入れようとしなかったため、光輝はメガブレイバーで突進を仕掛けた。

 横から突き飛ばされた竜也が横転するが、すぐに立ち上がって後期を見据える。

「光輝・・・お前はまだオレを・・・!」

「もうやめるんだ、竜也くん・・ヒカルちゃんを傷つけてまで、自分の平和を求めるのか・・・!?

 怒りを見せる竜也に、光輝が真剣な面持ちで問い詰める。

「敵を倒すことがいけないのか・・敵を倒さなければ、平和は戻らない!」

「そんなのは平和でも正義でもない!ただの独りよがりだ!」

 竜也の怒号に光輝も反発する。

「周りの全てを敵に回して、次々に手にかけていく・・そんなのは自分だけの平和・・そんなのは絶対に正義じゃない!」

「黙れ!何が正義だ!偽善を語るな!」

 光輝の呼びかけを竜也は一蹴する。敵意をむき出しにする竜也に、光輝は歯がゆさを浮かべる。

「これだけ言ってもダメなのか・・・変身!」

 光輝がベルトに水晶をセットして、オメガに変身する。

「ヒカルちゃんに手出しはさせない!オレが君を止める!」

「オレは止まらない!ここで止まるわけにはいかない!」

 光輝と竜也が言い放ち、同時に飛びかかる。竜也の振りかざした右腕が、光輝をメガブレイバーから叩き落とす。

 だがこのとき既に光輝は、スピリットカリバーを手にしていた。

「君を止めなければ、誰も助けられない・・ヒカルちゃんも、君も!」

 決意を言い放つ光輝が、スピリットカリバーの柄にベルトの水晶を移す。オメガがスピリットフォームに変化し、力を強化させる。

「たとえその姿になろうとも、オレは!」

 憎悪をむき出しにして、竜也が光輝に飛びかかる。だが光輝の力に攻撃をことごとく跳ね返される。

「こんなことで・・オレが倒れるものか!」

 目を見開く竜也から、紅いオーラが発せられる。怒りと憎しみに駆り立てられて、彼はさらなる暴走を巻き起こそうとしていた。

 再び突進を仕掛け、光輝に組み付く竜也。暴走する力が増し、光輝は徐々に押され始める。

「すごい力だ・・オメガの新しい力でも、簡単に止めることができなくなるなんて・・・!」

 竜也の力に毒づく光輝。彼の意識は震えながら立ち尽くしているヒカルに向けられた。

「このまま戦い続けたら、ヒカルちゃんが危険だ・・何とかしないと・・・!」

 窮地を脱するべく、光輝は力を振り絞って竜也を引き離そうとする。

「スピリットフラッシャー!」

 光輝が放出した精神エネルギーで、竜也が突き飛ばされる。その隙に光輝がヒカルに駆け寄る。

「ヒカルちゃん、今のうちにメガブレイバーに乗って、くるみちゃんたちのところへ・・・!」

 光輝がヒカルに呼びかけていたときだった。飛びかかった竜也が光輝のベルトをつかんで外してしまった。

「しまった!」

 声を荒げる光輝からオメガの装甲が消失する。直後に竜也が放ったエネルギーを受けて、光輝は激しく吹き飛ばされる。

「ぐあっ!」

「光輝さん!」

 横転してうめく光輝に、ヒカルが悲鳴を上げる。竜也がさらに怒りを見せて、光輝に迫る。

「お前を倒すことで、オレは平和を取り戻せる・・・!」

「光輝くん!」

 そこへ太一が駆けつけてきた。その後ろから一矢も姿を見せてきた。

「やはり来て正解だったな。オレがやらなければ終わらない・・変身。」

 一矢が悠然と語ると、ベルトに水晶をセットしてギガスに変身する。

「変身・・・!」

 太一もクリスに変身して、竜也を見据える。

「邪魔をするな・・オレの邪魔をするな!」

 いきり立つ竜也が一矢と太一に飛びかかる。暴走するパワーに押されて、2人が突き飛ばされる。

「うわっ!」

「ぐっ!・・力を出すことに歯止めがかからない・・その力がここまでとは・・・!」

 太一がうめき、一矢が毒づく。竜也の暴走にヒカルが不安を膨らませていく。

「やめて・・・もう、暴れないで・・・」

 必死に声を振り絞るヒカル。しかしそのか細い声は、周囲には届いていない。

「どうして・・みんな傷つけあうの?・・・どうして、戦いあうの・・・!?

 徐々に体を震わせるヒカル。疲弊した光輝はなかなか立ち上がれずにいる。

「やめて・・・お願いだからやめて・・・!」

 さらに呼びかけるヒカルの目に、淡い光が宿る。その光に気付き、光輝が息を呑む。

「ヒカルちゃん・・・まさか、これは・・・!?

 力を振り絞って光輝が立ち上がる。ヒカルの体からも淡い光があふれてくる。

「みんな、もうやめて!」

 感情が高まったヒカルから出ていた光が一気に放出される。その衝撃に一矢と太一、竜也が振り返る。

 強まっていく光を身にまとい、ヒカルが竜也に目を向ける。彼女からは穏和な雰囲気が完全に消え去り、冷徹な目つきをしていた。

「やめろ・・これ以上の暴走は、私が許さない・・・」

 竜也に向けて声をかけるヒカル。彼女の今の声も、低く鋭いものとなっていた。

「オレの敵に回るのか・・やはりお前もそんな考えだったのか!?

 怒号を放つ竜也がヒカルに飛びかかる。だが彼が繰り出した右手の打撃は、ヒカルの光をまとった右手に軽々と受け止められる。

「何っ!?

 驚愕する竜也が、ヒカルに向けてさらに力を込める。それでもヒカルは全く動じない。

「オレは世界を愚かにする敵を倒す!絶対に許してはおかない!」

「やめろというのか分からないのか・・・!?

 叫ぶ竜也に対してさらに目つきを鋭くするヒカル。彼女の右手から衝撃波が放たれ、竜也が突き飛ばされる。

「ぐあっ!」

 痛烈な衝撃に襲われて、竜也が絶叫を上げる。しかし彼は何とか踏みとどまり、ガルヴォルスの姿を維持していた。

「こんなもので、オレは倒れるわけにはいかない・・・!」

「まだ倒れないのか?・・ならば木っ端微塵になるのもやむを得ないか・・・」

 声と力を振り絞る竜也に向けて、ヒカルが右手を掲げてエネルギーを集束させる。

「ダメだ・・・ヒカルちゃん・・・!」

 この状況に危機感を覚える光輝。しかしヒカルは攻撃をやめようとしない。

「やめるんだ、ヒカルちゃん!」

 必死に叫ぶ光輝。だがヒカルは集中させたエネルギーを竜也に向けて放射した。

 

 

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