仮面ライダーオメガ 第40話

 

 

 ヒカルはガルヴォルスだった。義男によって記憶を呼び起こされた彼女は、その異質の力と姿をも取り戻したのだった。

「そんな・・ヒカルちゃんが、ガルヴォルス・・・!?

 ヒカルの変化に光輝は目を疑う。ヒカルの体は神々しさを備えた装飾を身に付けたような容姿となっていた。

「まさか、お前もガルヴォルスだったとは・・だがオレの行く手を阻むなら、誰だろうと容赦はしない!」

 いきり立つ竜也がヒカルに飛びかかる。するとヒカルが右手をかざし、竜也の動きを封じる。

「バカな・・・体が、動かない・・・!?

「もう大人しくして・・でないと、私はあなたを傷つけてしまう・・・」

 うめく竜也に、ヒカルが沈痛さを込めて告げる。しかし竜也は聞き入れようとせず、強引に彼女の力を打ち破ろうとする。

「オレは許さない・・思い上がり手段を選ばず、自分の思うように振り回そうとするヤツらを、オレは絶対に許さない!」

「許さない・・その気持ちが、さらなる憎しみを生み出すことになる・・・」

 憎悪をむき出しにする竜也を、ヒカルが優しく抱きしめる。その突然の抱擁に、竜也は戸惑いを覚える。

「どうなっている・・・力が、抜けていく・・・!?

 困惑する竜也が人間の姿に戻っていく。彼は意識を失い、その場に倒れ込む。

「これでいい・・これで戦いが終わって、傷つけあうこともない・・・」

 竜也を受け止めて、ヒカルが安堵を浮かべる。彼女も人間の姿へと戻っていった。

 一方で、ヒカルがガルヴォルスになったことに愕然となっていた光輝。オメガへの変身を解いた彼は、困惑を膨らませて震えていた。

「どういうことなんだ・・・ヒカルちゃんが、ガルヴォルスになるなんて・・・!?

「彼女がガルヴォルスのクイーンなのだ・・」

 そこへ義男が光輝に声をかけてきた。義男は人間の姿に戻っていた。

「ガルヴォルスのクイーン・・・何を言って・・・!?

「ヒカルくんが、本当の名前すら忘れていた記憶喪失だったことは君も知っていたはずだ。彼女の忘れていた記憶が、ガルヴォルスの力と姿とともに蘇ったのだ・・」

「ウソだ!ヒカルちゃんが、ガルヴォルスであるはずがない!あんな優しく、みんなに親切にしてきたヒカルちゃんが・・・!」

 義男が口にした言葉を光輝が否定する。しかし義男は顔色を変えない。

「どんなに否定しようとしてもムダだ。目の前で起きた出来事全てが現実だ・・」

「そんなことはない・・ヒカルちゃんがガルヴォルスだなんて・・・!」

 冷淡に告げる義男だが、光輝は必死に拒絶しようとしていた。

「ヒカルちゃんがガルヴォルスであるはずがない・・まだヒカルちゃんは、そこにいる・・・!」

 光輝はヒカルに駆け寄っていく。今の彼は、彼女を信じる気持ちでいっぱいになっていた。

「ヒカルちゃん・・僕のこと、分かるよね・・・?」

「・・光輝、さん・・・?」

 微笑みかける光輝を、ヒカルが呆然と見つめる。

「ヒカルちゃん、大丈夫?・・どこか、ケガとかしていない・・・?」

「は、はい・・ケガは、ないです・・・」

 光輝の心配に、ヒカルは当惑しながら答える。

「ヒカルちゃん・・本当に、ヒカルちゃんだよね?・・ガルヴォルスであるはずがないよね・・・?」

 光輝が思い切って、ヒカルに疑問を投げかける。彼女がガルヴォルスでないことを、光輝はどうしても信じたかった。

「・・・ゴメンなさい、光輝さん・・・私、本当に・・ガルヴォルスなんです・・・」

「えっ・・・!?

 ヒカルが口にした言葉に、光輝が耳を疑う。

「私、忘れていた記憶をようやく思い出すことができたんです・・・私はガルヴォルスの女王で、王とともにガルヴォルスを統率していたんです・・・」

「ウソだ・・・そんなことウソだ!・・ヒカルちゃんがガルヴォルス・・しかも女王だなんて!?

 弱々しく語るヒカルの言葉を、光輝が拒絶する。しかしヒカルは首を横に振る。

「ウソではないんです・・私はガルヴォルスとして、人間を襲っていたんです・・他のガルヴォルスたちを引き連れて・・・ガルヴォルスたちの反逆に遭って、記憶を失うまでは・・・」

「私が駆けつけたときには、クイーンの行方は分からなくなっていた・・反逆したガルヴォルスたちは全員始末したが、クイーンを発見することはできなかった・・・」

 ヒカルに続いて、義男もいきさつを話してきた。

「たとえ私がこうして接触しなくても、時間が彼女をクイーンへと戻すことになる・・そのときに混乱してしまわないように、迅速に彼女を探す必要があった・・・こうして今、彼女はクイーンとしての自分を取り戻し、ここにいる・・・」

「そんなことって・・・ヒカルちゃんが、ヒカルちゃんでなくなったりはしない・・・!」

 義男の言葉を拒絶して、光輝がヒカルに手を差し伸べる。

「行こう、ヒカルちゃん・・くるみちゃんやみんなが待ってる・・・」

 光輝が呼びかけるが、ヒカルは沈痛の面持ちを浮かべて首を横に振る。

「私は確かにヒカルです・・でも同時に、ガルヴォルスのクイーンでもあるんです・・・」

「何を言ってるんだ、ヒカルちゃん!?・・・ヒカルちゃんは、僕たちと同じ人間だって!」

「違うんです!・・・普通の人間に、巨大なエネルギーや衝撃波は使えないですよね・・・?」

 ヒカルが口にした言葉に、光輝は反論できなくなり口ごもる。

「私はこれ以上、光輝さんとは一緒にいられません・・・私はガルヴォルス・・光輝さんは、ガルヴォルスと戦う仮面ライダーですから・・・」

 光輝に弱々しく告げると、ヒカルは歩き出していく。愕然となっていた光輝は、ヒカルを追うことができなかった。

 光輝が呆然と立ち尽くしていると、目を覚ました竜也が起き上がってきた。

「どういうことなんだ・・あれだけ抱えていた憎しみが、アイツの力で弱まってしまった・・・」

 ヒカルが発揮した力に困惑する。そこで彼は光輝に気付き、目つきを鋭くする。

「だが、オレが受けた絶望と、そこから生まれた怒りはこんなことでは消えはしない・・・!」

 再び敵意をむき出しにする竜也。だが光輝は呆然としており、竜也の声が耳に入っていなかった。

「光輝・・・お前、聞いているのか!?

「えっ・・・?」

 竜也が怒鳴ったところで、光輝がようやく我に変える。

「竜也くん・・・目が覚めていたんだ・・・」

「お前・・どうしたというんだ?・・お前がここまで呆けているとは・・・」

 弱々しく声をかける光輝に竜也が呆れる。

「ヒカルちゃんが・・ガルヴォルスだったことが・・・僕には信じられなくて・・・」

「アイツのことか・・・オレにとっては大した問題ではない。オレにとって、人間もガルヴォルスも関係ないことだからな・・・」

 自分の心境を打ち明ける光輝に、竜也が冷淡に答える。

「オレにとっては、愚か者は叩き潰さなければならない・・ただそれだけだ・・・」

「そのためだったら、ヒカルちゃんも傷つけてもいいっていうの・・・!?

「無論・・といいたいところだが・・」

 竜也の答えに光輝が疑問を覚える。

「彼女からは、心が安らぐような何かを持っている・・彼女は憎むべき敵ではないのかもしれない・・・」

「ヒカルちゃんは心優しい人だよ・・ガルヴォルスだったなんて・・・」

「彼女なら、オレの願う平和を導けるかもしれない・・・もう1度、会う必要がある・・・」

 困惑を膨らませている光輝のそばで、竜也がヒカルを追い求めて歩き出す。すると光輝がたまらず竜也を呼び止める。

「ダメだ!ヒカルちゃんをこれ以上、悲劇に巻き込むのはやめてくれ!」

「邪魔をするな。ようやく世界を塗り替える最大のきっかけが見つかったのだ・・」

 呼びかける光輝だが、竜也は聞き入れようとしない。

「それにお前はオレの敵でしかない・・もっとも、今の腑抜けたお前では、オレを止めることもできないが・・」

 竜也は光輝の差し出している手を払いのけると、改めて歩き出していった。

「待つんだ、竜也くん!・・君にも、ヒカルちゃんに手出しはさせない・・・!」

 竜也を放っておくこともできず、光輝も続いて走り出していった。

 

 光輝とヒカルを探して、くるみ、太一、弥生は大学の校舎内を駆け回っていた。しかし2人を見つけられず、3人は隆介、草太、みどりと合流した。

「隆介、光輝とヒカルちゃんを見かけなかった・・・!?

「光輝とヒカルちゃん?・・いやぁ、見なかったぞ・・・」

 必死になっているくるみの質問に、隆介が当惑を見せながら答える。

「もしかして、2人して愛の逃避行でもしちゃってるのか?」

「ふざけてる場合じゃないわよ!」

 からかってにやける隆介にくるみが怒鳴る。鬼気迫る彼女に、隆介だけでなく、草太たちも太一たちも唖然となっていた。

「どういう事情か分からないけど、まずは2人を探してみましょう・・よほど緊急のことのようだから・・・」

 みどりが声をかけると、くるみが真剣な面持ちで頷く。

「詳しいことはいえないんだけど・・協力して、お願い・・・!」

「これは聞いてやらないといけないな。くるみちゃんの頼みだったら、断るわけにはいかない!」

 くるみの頼みを聞いて、隆介が意気込みを見せる。

「あらら、調子に乗っちゃって・・」

 彼の姿を見て、草太が呆れていた。くるみたちは手分けして、光輝とヒカルの捜索を再開するのだった。

 

 クイーンガルヴォルスとしての記憶を取り戻し、ヒカルは街中をさまよっていた。ガルヴォルスとしての過去の自分と、光輝たちと平穏に過ごしてきた現在の自分に、彼女は葛藤していた。

 しかし2度と光輝たちのところには戻れないと痛感し、ヒカルはそれで割り切ろうとしていた。

「クイーンとしての道を進むつもりなのか・・・?」

 ヒカルとともに歩いていた義男が声をかけてきた。足を止めるも、ヒカルは黙ったままだった。

「もはやガルヴォルスは、クイーンの強大な力だけを恐れるに留まっている。クイーンという名だけでは脅威と思わない者がほとんどだ・・」

「それでも、私は今、クイーンとしての記憶を取り戻しています・・脅威は言葉や理屈ではない・・感覚で体や心に刻まれて、初めて理解されるのです・・・」

 言葉を掛け合う義男とヒカル。完全にクイーンの自覚があると分かり、義男は小さく頷く。

「そこまで意識しているなら、ガルヴォルスがクイーンの存在と脅威を思い出すのも遠くはないかもしれない・・だが君には今、もうひとつの道を選ぶこともできる・・」

「もうひとつの、道・・・?」

 義男が投げかけた言葉に、ヒカルが疑問を覚える。

「君がクイーンであるのは間違いないが、君が光輝くんたちとともに平和に過ごしてきたことも確かだ・・だから、君にはその平和を過ごすことも・・・」

「いいえ・・もう私には、光輝さんたちのところには戻れません・・私もガルヴォルス・・光輝さんが戦っている敵なんですから・・・」

「・・確かに光輝くんは、ガルヴォルスを人々を脅かす敵として今まで戦ってきた。だがそれは、ガルヴォルスの多くが、自分の本能や野望で行動してきたのが原因だ・・君は違うのだろう・・?」

「それは・・・」

 義男の言葉に答えることができず、ヒカルが口ごもる。彼女は無意識に、光輝たちへの思い出に囚われていた。

「1度記憶をなくしたことで、ずい分と腑抜けたものだな・・」

 そこへ幸介が姿を現して、ヒカルと義男に声をかけてきた。

「こういうのは下克上ということになるか・・キングだけでなく、クイーンにまで出てこられたら、オレの立場が危うくなるからな・・・」

「身の程知らずな行動に出るとはな・・お前も結局は、野心で行動する者だったということか、ジャック・・・」

 笑みを強める幸介に対し、義男が目つきを鋭くする。

「やめてください、2人とも・・ガルヴォルスが・・しかもよりによって、キングとジャックが戦うことがいいこととは・・・」

「キングだからこそ、仕留めなければならない・・オレの壁となっているから!」

 ヒカルが止めようとするが、幸介は聞き入れようとしない。

「そんなに望むならクイーン、お前から先に始末してやるぞ!」

 いきり立った幸介がジャックガルヴォルスに変身する。義男も続けざまにキングガルヴォルスに変身する。

「ようやく発見することができたクイーンだ・・たとえジャックであるお前であっても、彼女を手にかけようとするならば容赦はしない・・・!」

 鋭く言い放つ義男に、目を見開いた幸介が飛びかかる。衝撃波を放つ義男だが、幸介は体から引き抜いた刃でなぎ払う。

「いつまでもお前の力に負けるオレだと思うな!」

「おのれっ!」

 言い放つ幸介に義男が毒づく。

「離れるのだ!君の手を煩わせるわけにはいかない!」

 義男の呼びかけに困惑しながら、ヒカルはこの場から離れていった。彼女を追おうとする幸介の前に、義男が立ちはだかる。

「お前の相手は私だ。キングに刃向かうことがどういうことか、死をもって理解するといい・・・!」

 鋭く言い放つ義男に苛立ちを覚え、幸介が飛びかかって刃を振り下ろしてきた。

 

 義男に助けられて逃げてきたヒカル。困惑を抱えたまま、彼女は足を止める。

「やっぱり、あの場に残って戦いを止めるべきじゃ・・・」

 思い立ったヒカルが義男を助けるために戻ろうとした。そこへ一矢が現れ、ヒカルが飛び出そうとして再び立ち止まる。

「話は聞いているよ。まさか君がガルヴォルスだったとは・・」

 ヒカルに向けて淡々と声をかける一矢。

「ガルヴォルスにそばにいられたとは、何という不覚だ・・だがそれもこれまでだ・・・」

 一矢はヒカルを見据えたまま水晶を取り出す。

「変身。」

 その水晶をベルトにセットして、一矢がギガスに変身する。

「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・・」

 一矢は言いかけると、ヒカルに向けてギガシューターを構える。

「やめてください・・そういう戦いをしても、何も・・」

「オレはオレの考えで行動させてもらう。少なくとも、ガルヴォルスの言葉に耳を貸すつもりはない・・」

 呼びかけるヒカルだが、一矢は敵意を消さない。彼の放ったギガシューターの弾丸を、ヒカルはとっさにクイーンガルヴォルスに変身してよける。

「とうとう正体を見せたか・・だがお前はオレに倒されることに変わりはない。」

 一矢がヒカルに向かって飛びかかる。倒されるわけにいかないと思い、ヒカルは光の壁を展開して一矢の攻撃をさえぎる。

 そこへヒカルを追いかけてきた光輝と竜也が現れた。ヒカルを狙う一矢に対し、竜也が怒りを覚える。

「ヤツが・・まだ好き勝手なことを・・・!」

 ドラゴンガルヴォルスに変身した竜也が、ヒカルに銃口を向けている一矢に飛びかかる。

「くっ!お前、性懲りもなく・・・!」

 竜也の乱入に毒づく一矢。攻め立ててくる竜也を、一矢も力で応戦していく。

 交戦する竜也と一矢に困惑する光輝。同じく困惑しているヒカルを見て、光輝の心はさらに揺れ動いていた。

「ヒカルちゃん・・・僕は・・・」

 光輝が体を震わせながら、必死に声を振り絞る。

「みんなを守りたい・・人の自由と平和を守ることが、僕の正義・・・!」

 意を決した光輝が水晶を取り出す。

「変身・・・!」

 水晶をベルトにセットして、光輝がオメガに変身する。彼の姿を目にした竜也が、敵が増えたと思って敵意を募らせる。

 ゆっくりと竜也と一矢に近づいていく光輝。それに気付いて2人が攻撃の手を止めた。

 その直後、光輝が一矢に攻撃を仕掛けた。突然のパンチの連打に、一矢が怯んで後退する。

「何っ!?・・どういうつもりだ、お前・・・!?

 声を荒げる一矢。彼を見据えて、光輝が低く告げる。

「オレはヒカルちゃんを守る・・ヒカルちゃんを傷つけようとするならば、誰だろうと許さない・・・!」

 一矢に敵意を向けつつ、光輝がヒカルに歩み寄る。彼はガルヴォルスのクイーンであるヒカルに味方しようとしていた。

 

 

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