仮面ライダーオメガ 第39話
保健室に駆け込んできたくるみと弥生。だがそこには一矢や太一だけでなく、ヒカルの姿もなくなっていた。
「みんな、いない・・・ヒカルちゃんまで・・・!」
「どこに行ってしまったのでしょうか・・・早く見つけないと・・・!」
くるみと弥生が声を荒げる。周囲を見回す2人だが、ヒカルたちの姿はない。
「あたしがみんなを探してみるよ・・弥生さんはここでみんなからの連絡を待って。もしかしたらここに戻ってくるかもしれないから・・」
「分かりました・・気をつけてください、くるみさん・・」
よびかけてくるくるみに、弥生が頷きかける。ヒカルたちを追って、くるみは保健室を飛び出していった。
(ヒカルちゃん、どこに行っちゃったのよ!?・・みんな、早まったことしないでよね・・・!)
一抹の不安を抱えながら、くるみはヒカルたちの行方を必死になって追いかけるのだった。
驚異の力を発揮したヒカルを仕留めようとする一矢と、ヒカルを守ろうとする太一。太一を追い詰める一矢の前に、スピリットフォームのオメガとなった光輝が立ちはだかってきた。
「手は出させない・・太一くんにも、ヒカルちゃんにも!」
「どこまでも邪魔をするのだな、吉川光輝・・・!」
言い放つ光輝に、一矢が苛立ちを募らせる。追い込まれていた太一がゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫、太一くん・・・!?」
「光輝くん・・・うん・・僕は大丈夫・・・」
光輝の呼びかけに太一が答える。
「太一くんはヒカルちゃんのところに行ってあげて・・一矢さんはオレが止めるから・・・」
「分かったよ・・でも、光輝くんもすぐに戻ってきて・・・」
光輝と言葉を交わすと、太一はヒカルのところに向かっていった。オメガとギガス。光輝と一矢が対峙していた。
「たとえその姿となったとしても、君はオレには勝てない。無敵のオレが敗北することはないのだから・・」
「たとえ一矢さんでも、ヒカルちゃんを傷つけようとするなら、オレは許さない・・・」
「君は馬鹿馬鹿しいくらいに正義に入れ込んでいる。その君が、ガルヴォルスであるかもしれない彼女を庇い立てしようとは・・」
「ヒカルちゃんは人間だ!勝手なことを言うな!」
不敵に言い放つ一矢と、ヒカルを守ろうと必死になる光輝。
「君は谷山太一以上に頑固だからな。言葉より力のほうが理解できるだろう・・」
「僕はヒカルちゃんを守る・・ヒカルちゃんを失いたくないから!」
呆れる一矢を前に、光輝が決意を口にする。攻撃を仕掛ける一矢だが、スピリットフォームとなっているオメガの力には歯が立たなかった。
「くっ!力が格段に上がっている・・一筋縄ではいかないということか・・・!」
光輝の力に一矢が毒づく。
「だが、それがオレより上ということにはならない・・・!」
一矢は言い放つと、ギガシューターで光輝に向けて発砲する。この射撃を受けても怯まない光輝だが、一矢は水晶を右足の脚部にセットして飛び上がっていた。
「もらった!ギガスマッシャー!」
一矢が光輝に向けてギガスマッシャーを放つ。だが光輝は既に意識を集中していた。
「スピリットフラッシャー!」
光輝がまとうオメガの装甲からまばゆい閃光が放たれる。その光とエネルギーに押されて、一矢が突き飛ばされる。
「何っ!?ぐあっ!」
精神エネルギーを跳ね返されて、一矢が一気に力を消耗してしまう。立つこともままならなくなった彼から、ギガスへの変身が解除されてしまう。
光輝も戦意を抑えて、オメガへの変身を解除する。彼は一矢に向けて沈痛の面持ちを浮かべる。
「オレの力が全く及ばないだと・・こんなバカなことがあるものか・・・!」
声を振り絞る一矢だが、今の彼に力は残っていなかった。
「ヒカルちゃんを傷つけさせない・・傷つけようとする人は、僕が許さない・・・!」
光輝は一矢に言いかけると、きびすを返して立ち去っていった。
「クイーン・・・どういうことなんですか・・・!?」
義男が告げてきた言葉に、ヒカルが困惑を覚える。
「君はガルヴォルスのクイーン・・私と肩を並べるガルヴォルスの長なのだ・・」
「何を言っているんですか!?・・私が、ガルヴォルス・・・!?」
「お前は反旗を翻したガルヴォルスたちの襲撃を受けて逃亡。だがその際に受けた攻撃により、君はガルヴォルス、クイーンに関する記憶を失ってしまった。吉川くんが偶発的にオメガユニットを使用することがなければ、君を見つけ出すのはもっと困難になっていただろう・・・」
義男がヒカルに向けて淡々と語りかけていく。
「記憶を失い、ガルヴォルスとしての力を使えなくなった君は、普通の人間と大差がなくなった。だが時が流れるに連れて、無意識に力の使い方を取り戻しつつある・・」
「ウソです!そんなこと、ありえません!・・私が、ガルヴォルスだなんて・・・!」
「だが事実だ。現にお前が発した力こそが、ガルヴォルスの、クイーンの力そのものだ・・」
必死に否定するヒカルだが、義男は態度を変えずに語り続ける。
「記憶を失っていたお前に、言葉は決め手にはならないか・・ならば君の中で眠っている力に問いかけるとしよう・・」
「な・・何をするつもりなんですか・・・!?」
近づいてくる義男に、ヒカルが不安を募らせる。
「来ないで・・近寄らないで・・・光輝さん・・・!」
「悪いが、光輝くんが妨害する前に、私は君に手をかける。君が生き延びる手段は、たったひとつしかない・・・」
声を張り上げるヒカルに、義男がさらに歩を進める。
「やめて・・助けて・・・やめて!」
恐怖のあまりに悲鳴を上げるヒカル。彼女の体からまばゆい光が解き放たれる。
膨らんでいく光を目の当たりにして、義男が目を見開く。彼はキングガルヴォルスに変身して、押し寄せてくる光を右手をかざして防ぐ。
だが簡単に防ぎきるとはいえず、義男は痛みを覚える。
「くっ!・・まだ記憶を取り戻すに至っていないが、ここまで力を取り戻しているとは・・・!」
光が消失したところで、義男は右手を振りかざして痛みを拭う。ヒカルは恐怖を膨らませて、体を震わせていた。
「これで自覚できただろう?少なくとも、自分に常人を超えた力を持っていることは・・」
「今の・・私がやったの・・・!?」
義男が声をかけ、ヒカルが自分が発現した力に驚愕する。
「これはガルヴォルスの力・・クイーンとしての力だ・・拒絶しようとしても、その力からは逃れることはできない・・・」
「そんなことは・・そんなことは・・・!」
「自覚しろ・・時期に力だけでなく、失われた記憶をも取り戻すことになるだろう・・・」
義男に詰め寄られて、ヒカルは冷静さを失っていた。
そのとき、ヒカルの脳裏にある光景がよぎる。それはガルヴォルスたちの群れと、それを束ねる自分自身だった。
(この光景・・・私・・・!?)
ヒカルは思い知らされていた。今浮かび上がっているビジョンが、失われていた自分の記憶の一端であることを。
(そんなはずない・・私が、私がガルヴォルスだなんて・・クイーンだなんて・・・!?)
必死に浮かび上がるビジョンを拒絶するヒカル。だが拒めば拒むほど、自分がガルヴォルスであるという光景が鮮明になっていく。
(イヤ・・信じたくない・・・光輝さんの敵であるガルヴォルスだなんて、私、信じたくない・・・!)
心の中で悲鳴を上げるヒカル。錯乱に陥った彼女は、糸が切れたように意識を失った。
「思い出す記憶が多すぎて、意識を保つことができなかったか・・だがもはや、クイーンとしての自覚を取り戻すのは目前だ・・・」
倒れたヒカルを見下ろして、義男が呟く。彼は自然に任せることにして、彼女の前から立ち去った。
一矢の襲撃を退けた光輝は、ヒカルの行方を追って大学を探し回っていた。しばらく捜索を続けた彼は、校舎裏で気絶しているヒカルを発見する。
「ヒカルちゃん!」
光輝がヒカルに駆け寄って呼びかける。するとヒカルが目を覚まして、ゆっくりと目を開ける。
「ヒカルちゃん・・・よかった・・無事だったんだね・・・」
「光輝さん・・・私・・・」
安堵を浮かべる光輝に、ヒカルが沈痛の面持ちを浮かべる。
「ヒカルちゃん、まだ保健室で休んでないとダメだよ・・みんな心配してるし、戻ったほうがいいよ・・」
自分の胸のうちを告げようとしたヒカルだが、光輝に呼びかけられて言葉をさえぎられてしまう。
「やはりここにいたか、光輝・・・」
そこへ声がかかり、光輝が振り返る。彼の前に現れたのは竜也だった。
「竜也くん・・・!?」
「もうやられはしない・・オレはお前を倒さなければならない・・それこそが、朽ち果てた世界を変える一歩となるから・・・」
緊迫を覚える光輝に、竜也が鋭く言いかける。
「光輝・・お前だけは許さない・・許してはおかない・・・!」
いきり立った竜也がドラゴンガルヴォルスへと変身する。
「やめるんだ、竜也くん!憎しみだけで戦っても、悲しみは終わらない!」
「お前も勝手なことを・・オレが終わらせなければ、終わることはないんだ!」
呼びかける光輝だが、竜也は聞く耳を持たない。
「僕と君は、戦うしかないのか・・・!?」
毒づく光輝が、ヒカルを連れて竜也から離れる。近くの木にヒカルを横たわらせると、光輝は竜也に振り返り、水晶を手にする。
「変身!」
水晶をベルトにセットして、光輝がオメガに変身する。スピリットフォームでないオメガを目の当たりにして、竜也がさらに怒りを覚える。
「その姿でもオレに勝てると思っているのか!?・・・お前も思い上がっているのか!?」
怒号を放って、竜也が光輝に飛びかかる。繰り出された両腕を、光輝も両手で受け止める。
「お前も倒されるべきだ・・この朽ち果てた世界とともに塗り替えてやる!」
叫ぶ竜也の姿が刺々しいものへと変化する。強化された彼の力に押されて、光輝が突き飛ばされる。
「くっ!・・また力が増した・・・!」
毒づく光輝に竜也が迫る。繰り出される豪腕を叩きつけられて、オメガの装甲から火花が散る。
「やはりスピリットフォームでないと太刀打ちできないか・・・メガブレイバー!」
劣勢を感じた光輝がメガブレイバーを呼ぶ。竜也の攻撃をジャンプでかわすと、光輝は駆けつけたメガブレイバーに乗り込む。
メガブレイバーが乗せていたスピリットカリバーを手にして、水晶をセットしようとする光輝。
「逃がすか!」
だが飛び込んできた竜也の突進を受けて、光輝はメガブレイバーからふるい落とされる。同時にスピリットカリバーを手から離してしまう。
「お前がいなければ、愚か者がいなければ、オレも世界も平和でいられた!」
「まずい・・スピリットフォームへの変身を阻まれるとは・・・!」
叫び声を上げる竜也と、追い詰められて毒づく光輝。そんな2人の前に太一が駆けつけてきた。
「光輝くん!・・・変身!」
水晶をベルトにセットして、太一がクリスに変身する。光輝に迫る竜也の前に、太一は立ちはだかった。
「僕が食い止めるから、その間にあの姿に!」
「邪魔をしてくるのか!?」
光輝に呼びかける太一と、憤りを募らせる竜也。竜也が繰り出した右足を叩き込まれて、太一が激しく吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「太一くん!・・くっ!」
うめき声を上げる太一と、スピリットカリバーを拾おうとする。だがその眼前に義男が現れる。
「せ、先生!?」
「強力な相手と戦っているようだ・・しかも、君たちは意味深な関係にあるようだ・・」
さらなる緊迫を覚える光輝に、義男が慄然とした態度を見せる。
「何だ、お前は!?オレの邪魔をするのか!?」
竜也が義男に向けて敵意をむき出しにする。しかし義男は冷静さを崩さない。
「君からは強い怒りと憎しみが感じられる。だがそのような感情による暴走は、自身の破滅にしかならない・・」
「お前に何が分かる・・何が分かるというんだ!?」
「私はこれでも教師だ。怒りに身を任せた者の末路を何度も見ている。多くは取り返しが付かなくなる前に説得させてきたが、手遅れだった者もいる・・」
「分かったようなことをいうな!オレを陥れようとしてもムダだ!」
義男の言葉にも耳を貸さない竜也。いきり立った彼が義男に飛びかかる。
「力ずくというのは好ましくないが・・・!」
憤った義男がキングガルヴォルスに変身する。エネルギーを集束させた右手を、竜也が義男に向けて繰り出す。
義男も右手をかざして衝撃波を放ち、竜也の攻撃を受け止める。だが2人の力は拮抗し、義男は攻撃を押し切れずにいた。
「強い力だ・・私ですら、簡単に跳ね返すことが困難だとは・・・!」
毒づきながらも、義男は力を振り絞り、衝撃波で竜也を弾き飛ばす。彼がただ者でないと直感し、竜也が警戒を覚える。
「侮れない力を持っているようだが・・それでもオレは止まるわけにはいかない!」
いきり立った竜也が義男に敵意をむき出しにする。
「私も全力を出さなければ倒されることになるか・・・!」
義男も力を振り絞って、竜也を迎え撃つ。2人が放つ打撃が、爆発のような衝撃を巻き起こす。
一進一退の攻防を繰り広げる竜也と義男に、光輝は危機感を募らせていた。
「いけない・・このままでは竜也くんと先生が・・・!」
たまりかねた光輝が、スピリットカリバーを手にして構える。
「2人を引き離す・・メガブレイバー、援護を頼む・・!」
「任せておいて。これは止めるべき戦いだ。」
呼びかける光輝にメガブレイバーが答える。水晶をスピリットカリバーにセットして、光輝のまとうオメガがスピリットフォームへと変化する。同時にメガブレイバーもスピリットブレイバーに変化する。
スピリットブレイバーに乗った光輝が、スピリットカリバーを手にしたまま、竜也と義男に向かって走り出す。スピリットカリバーを振り上げつつ、彼は2人の間に割って入る。
「やめるんだ、竜也くん!先生も・・!」
「光輝・・そこまでオレの前に立ちはだかるのか!?」
呼びかける光輝に、竜也が憎悪をむき出しにする。
そのとき、義男はただならぬ気配を感じ取り、緊迫を覚える。彼が振り返った先には、ヒカルがいた。
「ヒカルちゃん・・・!」
ヒカルの登場に光輝も緊迫を覚える。竜也と義男が対立しているこの場に、彼女がいるのは極めて危険だ。
「逃げるんだ、ヒカルちゃん!ここにいたら危ない!」
光輝がとっさに呼びかけるが、ヒカルは動きを見せない。彼女は無表情で3人を見つめていた。
「もうやめなさい・・ガルヴォルス同士で戦うことに、何もいいことはない・・・」
「ヒカルちゃん・・何を言っているんだ・・・!?」
ヒカルの様子に光輝が当惑する。
「それでも戦いをやめないなら、私も力を使うしかなくなる・・・」
続けて言いかけるヒカルの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
「ヒカルちゃん・・まさか・・・!?」
この変貌に光輝は目を疑った。彼の前で、ヒカルが異形の姿へと変わっていった。
ヒカルはガルヴォルスだった。義男によって記憶を呼び起こされた彼女は、その異質の力と姿をも取り戻したのだった。