仮面ライダーオメガ 第38話
光輝はオメガ。義男がキングガルヴォルスだった。この教師と生徒の非情の巡り合わせに、光輝も義男も愕然となっていた。
「キングが、先生!?・・・どうして先生が、ガルヴォルスに・・・!?」
「まさか吉川くんがオメガだったとは・・このような現実が待ち受けていようとは・・・」
困惑の色を隠せなくなる光輝と、物悲しい笑みを浮かべる義男。
「教師としては、生徒を手にかけるようなことはしたくはない・・だがガルヴォルスの王として、まだ引き下がるわけにはいかない・・・!」
「駒場先生・・・!」
声と力を振り絞る義男に、光輝がうめく。
「今頃ジャックが、水神くんとヒカルくんと接触しているだろう・・私は君たちの注意を引いていたに過ぎない・・」
「くるみさんが!?・・・ふざけたマネをしてくれたものだ・・・!」
義男の言葉に一矢が緊迫を膨らませる。
「急げ、ギガブレイバー!くるみさんに手を出させるな!」
「いいだろう。一気に速度を上げるぞ。」
呼びかける一矢に淡々と答えると、ギガブレイバーが走り出し、加速していった。太一もクリスレイダーに乗って、一矢の後を追った。
通りには光輝と義男だけとなった。深刻さを隠せなくなっている光輝に、義男が言葉を投げかける。
「君は行かなくていいのか?2人が危ないのだろう?」
「先生こそ、どうしてこんなこと!?・・どうしてガルヴォルスになって、ヒカルちゃんたちを襲わせているんですか!?」
声を張り上げる光輝に、義男は落ち着きを払う。
「近いうちに知ることになる・・わざわざ今私が話すより、直に見たほうが分かりやすいだろう、君の場合・・」
「先生・・・」
「早く行ったほうがいい・・取り返すがつかなくなる前に・・・」
義男に促されるまま、光輝はヒカルとくるみを助けるべく駆け出していった。
「これからどのように運命が繰り広げられていくか・・それもまた見物ではあるな・・」
傍観を決め込んだ義男は、光輝たちを追わずに別の方向に歩いていった。
光輝たちが義男と戦っていた頃、幸介がヒカルとくるみの前に現れた。
「コイツか、クイーンは・・・」
「またアンタなの!?しつこいわよ、ホントに!」
言いかけてジャックガルヴォルスに変身する幸介に、くるみが声を荒げる。
「力を取り戻していてもいなくても、ここで始末すれば上に上がれることは確かだ・・・!」
「逃げるわよ、ヒカルちゃん!」
迫る幸介から、くるみはヒカルを連れて逃げ出す。だが幸介が投げつけた刃が横をすり抜けて地面に刺さり、2人は足を止められる。
「逃げるな。そうすればすぐに終わるのだから・・」
幸介が低い声音で言いかけて、刃を手にしてヒカルとくるみを狙う。だがそこへギガブレイバーを駆る一矢が駆けつけてきた。
「大丈夫かい、くるみさん!?」
「一矢・・・!」
呼びかける一矢に、くるみが小さく頷く。一瞬安堵を覚えてから、一矢が幸介に振り返る。
「くるみさんに手を上げようとした大罪、すぐに償ってもらうぞ・・・!」
「邪魔が入ったか・・キング、しくじったのか・・・!?」
鋭く言いかける一矢の言葉を聞いて、幸介が苛立ちを浮かべる。刃を構える幸介に、一矢はギガシューターの銃口を向ける。
そこへ太一が駆けつけ、光輝も遅れてやってきた。
「谷山太一・・吉川光輝・・・!」
「ガルヴォルス・・ヒカルちゃんとくるみちゃんには手を出させないぞ・・・!」
低く呟く幸介に、光輝が怒りの言葉を言い放つ。
「変身!」
水晶をベルトにセットして、光輝がオメガに変身する。
「仮面ライダーオメガ!」
高らかに名乗りを上げると、光輝が幸介に向かって駆け出す。一矢と太一も幸介に攻撃を仕掛ける。
「バカのひとつ覚えのように、真っ向ばかり攻めてくるか・・・!」
幸介が真上に飛び上がり、光輝たちをけん制する。上空に飛んだ彼が、手にした刃を光輝たちに投げつけた。
「ぐあっ!」
その刃を叩きつけられて、オメガ、ギガス、クリスの装甲に火花が散り、光輝たちがうめく。
「くっ!・・体力を消耗しすぎたか・・・!」
「キングの力はやはり脅威だったようだ。これでお前たちにはもう、万にひとつの勝ち目もない。」
毒づく一矢と、悠然に勝ち誇る幸介。光輝も太一も危機感を膨らませていた。
「完膚なきまでに叩きのめした後、ユニット全てを手に入れてやる!そうすればキングにも十分対抗できる!」
勝ち誇る幸介が刃を再び手にして、光輝に切っ先を向ける。
「まずはお前だ・・お前には散々手ひどい思いをさせられたからな・・・!」
「やめてください!」
光輝に迫ろうとした幸介の前に、ヒカルが飛び出してきた。彼女は光輝の前に立ち庇おうとしていた。
「ダメだ、ヒカルちゃん!逃げないと・・!」
「逃げません!このまま光輝さんを置いて逃げるなんて、私には耐えられません!」
呼びかける光輝だが、ヒカルは退こうとしない。彼女の姿を見て、幸介が哄笑を上げる。
「面白い・・そんなに先に手にかかりたいなら、望みどおりにしてやるぞ!」
「光輝さんを守るためだったら・・私・・・!」
幸介がヒカルに刃を振りかざしたときだった。突如、ヒカルの体からまばゆい光が放出された。
「何っ!?」
「えっ!?」
驚愕の声を上げる幸介と、驚きを見せる光輝。ヒカルの体から閃光がほとばしり、その衝撃で幸介が突き飛ばされる。
「ぐっ!・・この力・・まさか・・・!?」
ヒカルが発揮した力に、幸介が驚愕を覚える。
「光輝さんは傷つけさせない・・光輝さんは、私が守る・・・!」
「こ・・これではヤツらを倒すこともできないか・・・!」
鋭く言いかけるヒカルに、幸介が毒づきながら後退し、姿を消した。彼が見えなくなると、ヒカルを包んでいた光が消えていった。
「ヒカルちゃん・・・」
困惑を抱えたまま、光輝がオメガへの変身を解除する。一矢も太一も変身を解く。
「あ・・あれ?・・・光輝さん・・私・・・?」
光輝に振り向いたヒカルが困惑を見せる。直後、彼女が意識を失い、その場に倒れ込む。
「ヒカルちゃん!」
たまらずヒカルに駆け寄る光輝とくるみ。太一も倒れたヒカルを見て不安を浮かべる。
その一方で、一矢はヒカルが発揮した力に対して、疑念を抱いていた。
ヒカルが目を覚ましたのは、大学内の保健室。彼女が起きたことに、光輝、くるみ、太一が安堵の笑みをこぼした。
「光輝さん・・みなさん・・・私・・・」
「気が付いたみたいだね、ヒカルちゃん・・・よかった・・・」
体を起こすヒカルに、光輝が微笑みかける。
「ビックリしたよ・・よく分かんないけど、すごい力を出してアイツを追い払ったんだから・・・」
「すごい力・・私が・・・!?」
事情を説明をする光輝だが、ヒカルは不安を覚えて体を震わせる。
「あの力・・どういうことなんですか!?・・・私、もしかしたら人間じゃ・・・!?」
「ち、ちょっと落ち着いて、ヒカルちゃん・・」
不安を膨らませていくヒカルに、光輝が心配の声をかける。するとくるみが光輝の肩に手を添えてきた。
「ちょっと休ませたほうがいいよ、光輝・・ヒカルちゃん、すごく怖がってる・・・」
「くるみちゃん・・・うん・・そうだね・・・」
くるみが告げた言葉に、光輝は渋々頷く。
「ヒカルちゃん、あたしたち廊下に出てるから・・何かあったら声をかけて・・あたしも光輝もすぐに来るから・・・」
「くるみさん・・・ありがとうございます・・・」
くるみがかけた言葉にヒカルが小さく頷く。くるみは光輝を連れて1度保健室を出た。
その前の廊下では、太一と弥生が待っていた。
「ヒカルさん、大丈夫ですか・・・?」
弥生が光輝とくるみに声をかけてきた。
「怯えているみたい・・少し、休ませたほうがいいかも・・・」
「僕がここに残るから・・だから太一くんと弥生さんは・・・」
くるみが説明し、光輝が呼びかける。しかし太一も弥生も首を横に振る。
「ヒカルさんが大変なことになっているのに、のんびりなんてできませんよ・・」
「僕もやるしかない・・でないとヒカルちゃんに、笑顔が戻らない気がするから・・・」
弥生と太一の気持ちを目の当たりにして、光輝が戸惑いを覚える。だが彼はすぐに安らぎを覚えて微笑みかける。
「ありがとう、2人とも・・ヒカルちゃんも、きっと喜ぶよ・・・」
「それじゃ太一くんと弥生さんはヒカルちゃんをお願い。あたしは光輝と一緒に駒場先生を呼んでくるから・・」
光輝が感謝の言葉を返し、くるみが義男を呼びに行こうとした。そのとき、光輝は義男がキングガルヴォルスであることを思い出し、不安を浮かべる。
「くるみちゃん・・実は、先生は・・・」
「早く行くわよ、光輝・・こういうのはちゃんと先生と相談してからでないと・・」
話を切り出そうとする光輝だが、くるみは義男を探しに飛び出していってしまった。
「光輝くん、どうかしたの・・・?」
すると太一が光輝に言葉を投げかけてきた。
「ううん・・・後で話す・・ヒカルちゃんをお願い・・・」
太一に言いかけると、光輝はくるみを追いかけていった。深刻さを募らせる太一と弥生は、ヒカルの身を案じようとしていた。
義男のいる準備室に向かうくるみ。だがその途中の廊下で、彼女は追いかけてきた光輝に腕をつかまれて止められる。
「待って、くるみちゃん!先生について話があるんだ!」
「光輝、今は先生を呼ぶほうが先なんだって!」
「ダメなんだ!今話しておかないとダメなんだ!」
振り切ろうとするくるみに語気を強める光輝。そこでくるみはようやく思いとどまった。
「ホントにどうしたのよ、光輝?・・先生がどうかしたの・・・?」
「うん・・実は先生、ガルヴォルスだったんだ・・・」
光輝が切り出した言葉に、くるみは耳を疑った。
「ウソでしょ!?・・・先生が、ガルヴォルスだなんて・・・!?」
「僕だって今でも信じられないよ・・でもあのキングと呼ばれていたガルヴォルスが、先生に戻るところを見たんだ・・・」
声を張り上げるくるみに、光輝が歯がゆさを浮かべて言いかける。
「だからもしかしたら、先生とヒカルちゃんを会わせたらいけないかもしれない・・・」
「そんな・・あんなにいい先生が、あたしたちやヒカルちゃんに何かするなんてこと・・・!」
光輝の告げたことが信じられず、くるみが悲痛さをあらわにする。
「とにかく、軽率なことをしたらヒカルちゃんに危害が及ぶことになる・・だから・・」
「光輝は、先生が信じられないっていうの・・!?」
呼びかける光輝に、くるみが憤りをあらわにする。
「光輝だって、先生によくお世話になってたじゃない・・それなのに、ガルヴォルスだからって・・・」
「ガルヴォルスだからってだけじゃない・・さっきのあのガルヴォルスが、ヒカルちゃんを狙ってきたのも気になる・・・」
「いい加減にして!光輝はいったい誰を守りたいっていうの!?ヒカルちゃんを守るためだったら、先生であっても倒すっていうの!?」
「そんなことはない!僕はみんなを守りたい!誰にも傷ついてほしくないんだ!竜也くんだって・・・!」
くるみに反発して、光輝はふと竜也のことを思い出す。彼はかつて竜也に対してどうすることが救いになるのか迷っていたことを思い出す。
「僕は・・本当にみんなを守りたいだけなんだって・・・!」
声と体を震わせる光輝。くるみも歯がゆさを募らせるも、これ以上の言葉をかけることができずにいた。
「光輝さん、くるみさん、大変です!」
そこへ弥生が光輝たちに慌しく駆け込んできた。
「どうしたの、弥生さん・・・?」
「一矢さんがヒカルさんに手をかけようとして・・それを止めようと太一くんが・・・!」
「な、何だって!?」
くるみの質問に弥生が答え、光輝が驚きの声を上げる。
「一矢さん・・どうしてヒカルちゃんを・・・!?」
焦りを浮かべながら、光輝が保健室に戻っていく。
「あっ!光輝!」
くるみも慌てながら、弥生とともに光輝を追いかけていった。
ヒカルを手にかけようとした一矢だが、太一がとっさに止めに入った。しかし一矢は退こうとせず、2人は外に出て交戦することとなった。
「素直に道を開けてくれればいいのに・・」
「あなたの好きにさせたら、ヒカルちゃんが傷つく・・そうしたら、光輝くんが悲しむから・・・」
不満を口にする一矢に、太一が声を振り絞る。その言葉を聞いて、一矢がため息をつく。
「お前も見たはずだ。あの子が出した力を・・もしあれがガルヴォルスの力だったらどうする・・・!?」
「それは・・・でも、やっぱりヒカルちゃんはヒカルちゃんだよ・・ガルヴォルスだったとしても、傷つけることなんてできないよ!」
「甘いことを・・その甘さが後悔を招くというのに・・・」
決意を告げる太一に一矢が呆れ果てる。
「最後の警告だ。邪魔をするな。でなければお前も倒す・・・!」
一矢が鋭く言いかけるが、太一は退こうとしない。
「本当に愚かなことだ・・・変身。」
一矢がベルトに水晶をセットして、ギガスに変身する。
「・・変身・・・!」
太一もクリスに変身して、改めて一矢を見据える。
「たとえクリスになっても、お前はオレには勝てない。そのことを自覚させておかないといけないか・・」
「そうかもしれない・・・でももう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」
落胆を見せる一矢に、太一が声を振り絞る。
「そこまで言い張るなら、すぐに終わらせてやる・・・!」
戦意を膨らませた一矢が太一に迫る。太一はジャンプして一矢を飛び越える。
だが一矢はギガシューターを手にして、着地した太一を狙い撃ちする。
「くっ・・・!」
「素早く動いても、予測できれば簡単に攻撃を当てられる・・・」
怯む太一に一矢が言いかける。続けて発砲する一矢だが、太一はクリスセイバーを手にして、刀身でその弾丸を防ぐ。
「ヒカルちゃんには手を出させない・・いい加減に帰ってよ・・・!」
「オレは彼女を倒そうとしている。聞けるはずもないだろう・・」
必死に言い放つ太一に、一矢がため息をつく。
「あまり時間を長引かせるのは好きではない。早く終わらせるぞ・・・!」
一矢は鋭く言いかけると、水晶を右手の甲にセットする。
「ギガブレイカー!」
一矢が太一に迫り、ギガブレイカーを繰り出す。だがそこへスピリットフォームのオメガに変身した光輝が飛び込み、スピリットカリバーでギガブレイカーを受け止めた。
毒づく一矢が光輝から離れる。敵意を見せる一矢を、光輝も鋭く見据える。
「手は出させない・・太一くんにも、ヒカルちゃんにも!」
「どこまでも邪魔をするのだな、吉川光輝・・・!」
言い放つ光輝に、一矢が苛立ちを募らせていた。オメガとギガスがヒカルの命運を賭けて対峙しようとしていた。
保健室のベットで震えていたヒカルは、いつしか光輝のことが気がかりになり、外に出ていた。
「光輝さん・・帰ってしまったのでしょうか・・・?」
不安を抱えながら、大学の中を歩き回るヒカル。彼女はいつしか校舎裏にやってきていた。
「誰を探しているんだ、ヒカルくん?」
声をかけられたヒカルが足を止める。振り返った先には義男がいた。
「先生・・・」
「徐々に力を取り戻しつつあるようだな・・」
当惑を見せるヒカルに、義男が低く告げる。その言葉に彼女が緊迫を覚える。
「先生・・・何を・・・!?」
「記憶のほうも取り戻すのは時間の問題か・・クイーン・・・」
義男がヒカルに向けて告げた真実。記憶を失っていた彼女は、クイーンと呼ばれる存在だった。