仮面ライダーオメガ 第37話
光輝に助けられて、くるみとヒカルは大学の敷地内に逃げ込んでいた。2人は引き続き義男の行方を追っていた。
「もしかしたら先生、帰っちゃったんじゃ・・・」
くるみが口にした言葉に、ヒカルが沈痛の面持ちを浮かべる。
「また来よう、ヒカルちゃん・・そうすれば先生にまた会えるから・・」
「くるみさん・・・そうですね・・焦っても、逆にいいとはいえませんから・・・」
くるみの呼びかけにヒカルが小さく頷く。だが彼女の笑顔は物悲しいものとなっていた。
「おや?水神くんとヒカルくんではないか・・」
そんな2人の前に義男が姿を現した。
「せ、先生!?・・よかった・・ずっと探していたんです・・・」
「私を?私に用があったのか・・」
驚きと安堵を浮かべるくるみに、義男が眉をひそめる。するとヒカルが深刻な面持ちを見せて、声をかけてきた。
「先生・・やっぱり私、先生とどこかで会っているような気がしているんです・・なぜかは分かりませんが、そう思えてならないんです・・・」
「そうはいうが・・本当に勘違いだったのだ・・残念ながら、君の希望に添うことはできない・・」
ヒカルの言葉に答える義男。だが義男は内心では確信を抱いていた。
(記憶というものは侮れないものだ・・キングである私の存在を直感している・・もっとも、詳細や正体には気付いていないのだが・・・)
表情を変えずに思考を巡らせる義男。そこへヒカルとくるみを追って、光輝がやってきた。
「ヒカルちゃん、くるみちゃん、大丈夫!?・・・先生・・・」
心配の声を上げる光輝が、義男がいたことに気付く。
「吉川くん・・君も私を探していたのか・・・?」
「ヒカルちゃんが先生を探していたものですから・・・些細なことでもいいんです・・何か気付いたら、教えていただけないでしょうか・・・?」
義男からの問いかけに答え、光輝が頼み込む。すると義男が光輝の肩に手を添えてきた。
「前にも言ったはずだ・・できる限りのことは力になりたいと・・だから遠慮しないでくれ、吉川くん、みんな・・」
「先生・・本当に、本当にありがとうございます・・・」
励ましの言葉をかける義男に、光輝が感謝する。くるみも喜びを感じていたが、ヒカルは表情を曇らせたままだった。
「ヒカルちゃん、今日はもう帰ろう・・気持ちを整理すれば、きっともっとハッキリしてくるはずだから・・・」
「光輝さん・・・はい・・・」
光輝の呼びかけにヒカルは小さく頷く。だが記憶を取り戻したいと願っていた彼女は、心のどこかで腑に落ちない心境を抱えていた。
下校していく光輝たちを見送る義男。
(時間をかけていく必要がある・・ここまで来れば、思い出すのも時間の問題だろう・・)
ヒカルに狙いを絞っていく義男。キングとしての彼が、光輝たちの前に立ちはだかろうとしていた。
スピリットカリバーを手にした光輝に撃退され、幸介は苦痛と苛立ちにさいなまれていた。
「あれほどの力・・だがこのまま負けているだけではないぞ・・次こそは必ず・・・!」
「その過信が敗北を招いていることに気付いたらどうだ?」
苛立っていたところで声をかけられ、幸介が緊迫を覚える。彼の前に現れたのは義男だった。
「キ、キング・・・!?」
「久しぶりだな、猪木・・いや、ジャック・・」
声を荒げる幸介に、義男が淡々と言いかける。
「まさかキングが出てきているとは・・・!?」
「スピリットカリバーがオメガの手に渡り、驚異の力を発揮したことは、お前も理解しているはずだ。今後どう攻めていけばいいのかも・・」
「これまでは不覚を取っただけ。キングの手を煩わせるまでもない・・」
「キングの座を狙っていることを、私が知らないと思っているのか?」
義男が口にしたこの言葉に、幸介が激昂する。ジャックガルヴォルスになった彼が、義男に向かって飛びかかる。
「愚かな・・・」
低く告げる義男がキングガルヴォルスに変貌する。幸介が引き抜いた刃を、キングガルヴォルスになった義男は軽々と受け入れる。
「身の程知らずの小僧が王に刃向かうなど、実に愚かなことだ・・・!」
義男が衝撃波を放って、幸介を突き飛ばす。痛烈な衝撃を受けて倒れた幸介が、人間の姿に戻る。
「今は始末しない。お前もこれからに欠かせない存在であることに変わりはないからな・・」
同じく人間の姿に戻った義男が、苦痛に顔を歪める幸介に言いかける。
「だが次に反旗を翻すようなことをするなら、そのときは容赦はないと思え・・」
義男は幸介に忠告すると、平穏を保ったまま背を向ける。
「クイーンを発見した・・」
「クイーンを・・!?」
義男が口にした言葉に、幸介が再び驚愕の声を上げる。
「だが力を使えなくなっているようだ・・だがすぐに取り戻すことだろう・・」
「そこで力を引き出せるように仕向けるつもりか・・・?」
「そうだ。クイーンが戻ることで、ガルヴォルスの規律は安泰になる。いずれ世界がガルヴォルスによって制圧されるときのために・・」
「その割りにはあなたは、人間としての生活を続けている・・矛盾というものだ・・」
「そうかもしれない・・だがそれも、人間を脅かすための布石だ。敵を知ることが勝利の鍵、ということだ・・」
「本当にそうであればいいが・・」
あざ笑ってくる幸介だが、義男はそれに反応することなく歩き出していった。
「力はキングのほうが上・・今は従うしかない・・今は・・・」
幸介も呟きかけてから、この場を後にした。だが彼のキングの座に対する野心は消えていなかった。
ひとまず家に帰ってきた光輝たち。だがヒカルは思いつめた様子のままだった。
「やっぱり、もう少し粘ったほうがよかったかな・・・?」
「でも、あまりいきすぎると先生に迷惑がかかっちゃうから・・」
光輝とくるみがヒカルを見て声を掛け合う。
「頼りなのは、ヒカルちゃん自身の感覚と、先生か・・・」
「ここは様子見しかないよ・・焦っても困らせるだけだし・・・」
言葉を交わして頷き合う光輝とくるみ。
「ヒカルちゃん、夜ご飯にするから・・でもヒカルちゃんは休んでて・・」
「くるみさん・・でも・・・」
呼びかけてくるくるみに、ヒカルが当惑を見せる。
「今日は色々あって疲れてるんだから・・支度はあたしに任せてちょうだいね。」
「くるみさん・・・分かりました・・ありがとうございます・・・」
意気込みを見せるくるみに、ヒカルが微笑んで感謝の言葉をかける。2人のやり取りに笑みをこぼす光輝だが、ヒカルの心情を察して、すぐに表情を曇らせた。
その翌日、光輝たちは改めてヒカルを連れて大学に来ていた。だが彼らは受ける授業の時間より少し早めに来てしまった。
落ち着ける場所で一息つこうと考えた光輝。そんな彼らの前に一矢が現れた。
「久しぶりだね、くるみさん・・おや?君も来ていたのか・・」
くるみに声をかけたところで、一矢がヒカルに視線を移す。
「はい・・私の記憶が見つかりそうなんです・・・」
「記憶?そういえば君は記憶喪失だったな・・」
ヒカルが事情を説明すると、一矢が小さく頷く。
「でも、もうすぐ手がかりがつかめるかもしれません・・」
「そうか・・オレはその成功を祈らせてもらうことにする。オレにはそのようなことに時間を割くつもりは・・」
ヒカルの心境を気に留めずに一矢が立ち去ろうとした。そこへくるみがやってきて、一矢の顔面を殴りつけてきた。
「ぐおっ!・・く、くるみさん!?」
「少しはヒカルちゃんに協力したらどうなのよ!やっとのことでヒカルちゃんが、忘れていた記憶を取り戻せそうっていうのに・・!」
顔を押さえる一矢に、くるみが怒鳴りかける。
「そうはいうが、記憶という曖昧なものを手に入れたり取り戻したりするのは、本当に不安定なものだ。自分の首を絞めることになる・・」
「不安定・・私自身が・・・」
一矢が口にした言葉に、ヒカルが不安を膨らませる。
「リスクの高いことに賭けるのは、オレの主義ではない。たとえくるみさんの頼みでも、聞けることではない・・」
一矢は肩を落として言いかけると、改めて光輝たちの前から去っていった。
「一矢さん・・・ヒカルちゃん、気にしないで・・やっとヒカルちゃんの記憶に手が届いているのは確かなんでしょ・・?」
光輝が落ち込むヒカルに励ましの言葉をかける。
「光輝さん・・・そうですね・・やっとここまで来たんですから・・・」
ヒカルが微笑んで頷く。くるみも苦笑いを浮かべて、吐息をひとつついた。
「それじゃ、改めて先生のところに行こう。一矢さんみたいな人はほっといて・・」
光輝とヒカルに呼びかけて、くるみが歩き出していく。微笑んで頷き合うと、光輝とヒカルも駆け出していった。
「キャアッ!」
そのとき、光輝たちの耳に悲鳴が飛び込んできた。
「もしかして、またガルヴォルスが・・・!?」
ガルヴォルスの襲撃を予感して、くるみが声を荒げる。
「ヒカルちゃん、くるみちゃん、ここにいて!僕が行くから!」
光輝がヒカルとくるみに呼びかけて、悲鳴のしたほうに向かって走り出した。だがその姿を、幸介が物陰から見据えていた。
大学から少し離れた通りにて、ヒグマの姿に似たグリズリーガルヴォルスが人々に襲い掛かっていた。
「やめて!誰か助けて!」
グリズリーガルヴォルスに迫られて、倒れている1人の女性が恐怖を見せる。その光景を目の当たりにした光輝が、水晶を手にする。
「変身!」
水晶をベルトにセットして、光輝がオメガに変身する。彼はグリズリーガルヴォルスに飛びかかり、その接近を阻む。
「逃げろ!早く逃げろ!」
光輝が呼びかけ、女性がすぐに立ち上がって逃げ出していった。グリズリーガルヴォルスに投げられるも、光輝は体勢を整えて着地する。
「仮面ライダーオメガ!」
高らかに名乗る光輝が、グリズリーガルヴォルスに向かっていく。果敢に攻めていく光輝だが、グリズリーガルヴォルスの爪がオメガの装甲を切りつけて火花を散らす。
攻めあぐねている光輝の戦いに、一矢が姿を現した。
「仕方のないことだ・・変身。」
一矢もベルトに水晶をセットしてギガスに変身する。光輝を突き飛ばしたグリズリーガルヴォルスが、一矢に視線を向ける。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから。」
言いかける一矢に、グリズリーガルヴォルスが飛びかかる。力に重点が置かれているギガスは、グリズリーガルヴォルスに力負けしていなかった。
「時間を割いてやるつもりはない・・ギガブレイバー!」
一矢の呼びかけを受けて、ギガブレイバーが駆けつけてきた。同時に一矢がグリズリーガルヴォルスを投げ飛ばす。
ギガブレイバーに乗った一矢が、グリズリーガルヴォルスに向かう。この突進を真正面から受けて、グリズリーガルヴォルスが突き飛ばされる。
一矢が右足の脚部に水晶をセットする。同時に光輝も右手の甲に水晶をセットする。
「ギガスマッシャー!」
「ライダーパンチ!」
一矢が飛び上がり、光輝が駆け出してメガブレイカーを放つ。光輝の打撃を受けてグリズリーガルヴォルスが突き飛ばされ、さらに一矢の両足の蹴りを叩き込まれ、空中で爆発、消滅した。
「やった・・オレたちの勝利だ・・」
「こんな相手、オレ1人で十分だったのだが、余計なことを・・」
喜びを覚える光輝と、彼に横槍を入れられて不満を覚える。
「ギガスまでここにいたか・・」
そこへ声がかかり、光輝と一矢が振り返る。キングガルヴォルスが姿を現し、2人を見据えていた。
「キング・・またスピリットカリバーを狙ってきたのか・・・!?」
「だがお前たちは今、スピリットカリバーを持っていないようだ・・ならばオメガユニットとギガスユニットを奪っておくのもいいだろう・・」
警戒を強める光輝に、キングガルヴォルス、義男が淡々と言いかける。すると一矢が義男の前に立ちはだかる。
「どこの誰かは知らないが、オレに勝てはしない。今のうちに引き下がることを勧めるよ。」
「同じ言葉を返しておく。身の程知らずは寿命を縮めるぞ。」
互いに淡々と言いかける一矢と義男。
「そこまで言い切るなら、もう後悔はないということかな?」
「気をつけて!アイツはこれまでのガルヴォルスとは違う!」
ギガシューターを構える一矢に光輝が呼びかける。
「それがどうした?誰だろうとオレに勝てない相手はいないことに変わりはない。」
一矢が義男に向けてギガシューターを発砲する。だが義男はこの直撃を受けても平然としていた。
義男が歩を進めて一矢との距離を詰める。彼はギガシューターを持つ一矢の右手を払いのけると、体に向けて打撃を叩き込む。
「ぐっ!」
重みのある攻撃を受けて、一矢が怯む。義男がさらに打撃を加えて、彼を追い詰める。
たまりかねた光輝も義男に向かって飛びかかる。だが義男の振るうキングの力に跳ね返される。
「スピリットカリバーを手にしていなければ、オメガも敵ではない。」
義男が淡々と言いかけて、立ち上がる光輝に迫る。
「確かに今はスピリットカリバーがそばにない・・だが、それでも人々を恐怖に陥れる敵が目の前にいるなら、全身全霊を賭けて戦わなくてはいけないんだ・・・!」
「殊勝な心がけだ。だがそれが簡単に通用するほど、私は甘くはないぞ・・」
声を振り絞る光輝に、義男が言葉を返す。そこへくるみからの連絡を受けて駆けつけた太一が到着した。
「光輝くん・・・変身・・・!」
太一が水晶をベルトにセットして、クリスに変身する。ゆっくりと歩いてくる彼に気付いて、義男が振り返る。
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」
「クリスまで現れたか・・3人まとめてとなると、少し手を焼くかもしれないぞ・・・」
声を振り絞る太一に、義男が呟きかける。義男の周囲を光輝、一矢、太一が取り囲む。
「気をつけて、太一くん・・このガルヴォルス、かなり手強いよ・・・!」
「そうみたい・・でもやるしかない・・・!」
「本当ならオレだけで十分なのだがな・・」
呼びかける光輝に太一が答え、一矢が口を挟む。義男がエネルギーを放出して衝撃波を繰り出す。
「うっ!」
その衝撃に煽られるも、光輝たちは踏みとどまる。太一がクリスセイバーを手にして飛びかかるが、義男に振りかざす一閃を簡単にかわされる。
そこへ光輝と一矢が迫り、同時に蹴りを見舞う。同時に蹴りを叩き込まれて義男がふらつき、その一瞬の隙を突いて太一がクリスセイバーを突き立てる。
刃に突かれて義男が怯む。それを見据えて、光輝、一矢、太一が脚部に水晶をセットする。
「ライダーキック!」
「ギガスマッシャー!」
「クリススマッシャー!」
飛び上がって精神エネルギーを込めたキックを放つ3人。この同時攻撃が義男の体に叩き込まれた。
「ぐおっ!」
ダメージを負った義男がその場にひざを付く。
「やった・・何とか追い詰めたみたいだ・・・」
追い込んだことに安堵を覚える光輝。直後、キングガルヴォルスから義男が人間の姿に戻った。
その変化に光輝は目を疑った。ガルヴォルスの王として立ちはだかった敵が恩師であったことに、彼は驚愕を隠せなくなっていた。
「ウソ・・・!?」
たまらずオメガへの変身が解けてしまった光輝。その姿を見て、義男も驚きを覚える。
「吉川くん!?・・・まさか君が、オメガ・・・!?」
教師と生徒の非情の巡り合わせに、光輝も義男も愕然となっていた。