仮面ライダーオメガ 第36話
ガルヴォルスとの戦いの後、光輝はくるみに連れられてゼミの教室に戻ってきた。ヒカルや隆介たちが待っていた教室には、義男はまだ来ていなかった。
「ホントに行き当たりばったりなんだから、光輝は・・」
「まだ先生が来てなかったからよかったものの・・・」
隆介と草太が光輝に呆れていた。光輝が苦笑いを浮かべるのを見て、ヒカルも微笑みかける。
「いや、すまなかった・・仕事に手間取ってしまって・・・」
そこへ義男が教室に駆け込んできた。
「せ、先生!?」
「どこに行ってたんですか・・!?」
義男の登場にくるみと光輝が驚きの声を上げる。
「どこにもいないんで、先生を探してたんですよ・・・」
「そうだったのか。本当にすまなかった・・だが、私に何か用があったのか・・?」
安堵を浮かべる光輝に、義男が疑問を投げかける。すると光輝がヒカルを紹介する。
「実は、先生に紹介したくて・・ヒカルちゃんっていいます・・」
「ヒカルです・・よろしくお願いします・・・」
ヒカルが義男に向けて挨拶をする。彼女を目の当たりにして、義男が戸惑いを浮かべる。
「先生、どうかしたんですか・・・?」
「い、いや、何でもない・・」
くるみに声をかけられて、義男が我に返る。
「もしかして先生、ヒカルちゃんに惚れたとか・・?」
「そういうわけではない・・ただ、見覚えのある顔かと思ったのだが、気のせいだったようだ・・」
からかってくるくるみに、義男が憮然とした様子で答える。彼の言葉を耳にして、ヒカルが当惑する。
「あの、もしかして、私のことについて何か知りませんか・・・!?」
「何・・!?」
ヒカルが切り出してきた言葉に、義男が眉をひそめる。疑問符を浮かべている彼に、光輝が説明を入れる。
「ヒカルちゃん、記憶喪失なんです・・今の名前も、本当の名前じゃないんです・・・」
「そうだったのか・・・本当にすまない・・力になれなくて・・・」
「いいんです・・私のために、みなさんに迷惑をかけているのは分かっているんです・・・」
互いに謝意を見せる義男とヒカル。だが義男はすぐに気持ちを切り替えて、ヒカルに手を差し伸べてきた。
「だができる限り、私も力を貸したいと思っている・・これからもよろしく、ヒカルくん・・」
「はい・・ありがとうございます・・・」
義男の励ましを受けて、ヒカルが笑顔を見せる。彼女は握手のために、彼の手を取った。
そのとき、ヒカルは奇妙な感覚を覚えた。彼女の脳裏に、暗闇に満たされながらも、他人事でないビジョンがよぎってきた。
(これって・・・!?)
この感覚にさいなまれて、ヒカルがたまらず義男から離れる。突然のことに、義男だけでなく光輝たちも一瞬唖然となる。
「どうしたの、ヒカルちゃん・・・?」
光輝が声をかけるが、ヒカルは困惑したまま答えない。
「力を入れすぎてしまったか?・・これは悪いことをした・・・」
「先生、今日は謝ってばかりですよ・・」
頭を下げる義男に草太が言葉を投げかける。すると教室が笑いに包まれる。
「さ、早く始めるぞ。開始の時間は過ぎてるんだ・・」
義男が光輝たちに呼びかけていく。
「ヒカルくん、君も参加するかい?」
「先生・・・はい・・」
義男の呼びかけを受けて、ヒカルが微笑んで頷いた。彼女は光輝たちとゼミの講義を受けることになった。
そのゼミの時間が終わり、光輝、ヒカル、くるみは岐路に着いていた。
「どうだったかな、ヒカルちゃん?・・ちょっと、難しかったと思うんだけど・・・」
「いえ、大丈夫です・・内容は難しかったですけど、先生が分かりやすく教えてくれましたので・・」
くるみが感想を聞くと、ヒカルが笑顔で答える。
「うぅ・・やっぱりついていけてない、僕・・・」
2人の隣で光輝が落ち込んでいた。その様子を見て、くるみが呆れてため息をつく。
「もう、ちゃんと勉強しないとダメじゃない、光輝・・ヒカルちゃんを見習って、きちんと楽しく勉強しないとね・・」
「そうはいっても・・ついていくのもやっとなくらいなんだから・・・」
くるみに注意されて、光輝がさらに落ち込んだ。彼の反応を見て、ヒカルが苦笑いを浮かべた。
だが、ヒカルの表情が徐々に曇っていく。
「どうしたの、ヒカルちゃん・・?」
光輝が訊ねてくるが、ヒカルは沈痛さを浮かべたまま答えない。
「やっぱり、難しかったかな・・?」
「い、いえ、そんなことはないです・・ただ・・・」
「ただ?」
「先生と握手をしたとき、とても不思議な感じがしたんです・・やっぱり先生と、どこかで会ったような気がしてくるんです・・・」
くるみが問いかけてくると、ヒカルが当惑しながら語りかける。
「でも、先生は気のせいだって・・多分、ヒカルちゃんのも気にせいなんじゃ・・」
「そうかもしれません・・でも確かめないと・・・やっと、失っていた私の記憶の手がかりが見つかったんです・・・」
光輝の言葉を振り切って、ヒカルが意を決す。
「もう1度、先生に会ってみます・・また時間を費やせば、今度こそきっと、何か分かるかもしれません・・・!」
「あっ!ヒカルちゃん!」
義男を追い求めて駆け出すヒカルに、光輝が声を荒げる。
「ヒカルちゃんを追いかけないと!」
光輝がヒカルを追いかけ、くるみも慌てて続いていく。だが生徒と教師であふれている大学の敷地内にて、光輝とくるみはヒカルを見失ってしまう。
「ヒカルちゃん、どこに行っちゃったんだ・・・!?」
「忘れていた記憶を思い出せそうだからね・・必死にならないはずがないよ・・」
不安を浮かべる光輝に、くるみも深刻さを込めて言いかける。
「まずはヒカルちゃんを見つけるのが先。その後で一緒に記憶探しをしていこう・・」
「そうだね・・ヒカルちゃんを守るって決めたんだ・・ヒカルちゃんの心も守ってあげないと・・」
くるみに呼びかけられて、光輝が頷く。2人は改めてヒカルを探しに出た。
義男を追い求めて大学の中を駆け回るヒカル。しかし未だに義男を見つけられずにいた。
「先生・・何かを知っている気がしてならない・・絶対にもう1度会わないと・・・!」
記憶につながる糸口を手繰り寄せようとするヒカル。自分は本当は何者なのか。その答えにつながる道を、彼女は必死に探していた。
ヒカルはいつしか大学前の通りに出ていた。義男を探すあまり、彼女は回りが見えなくなっていた。
「お前はこの前オメガに変身した娘か・・」
そこへ声をかけられ、ヒカルが緊張を覚える。彼女に声をかけてきたのは幸介だった。
「あなた・・・!?」
「今日は吉川光輝はいないようだ。オメガユニットも持っていない・・」
不敵な笑みを浮かべる幸介に、異様な紋様が浮かび上がる。
「この前の借りを返させてもらうとするか・・・!」
ジャックガルヴォルスに変身する幸介。刃を引き抜いた幸介に、ヒカルが恐怖を浮かべる。
「変身できなくても容赦はしない・・逃れられない苦しみを体感させてやる・・・!」
「助けて・・もう少しで、私の記憶にたどり着けるのに・・・光輝さん!」
鋭く言いかける幸介を前にして、ヒカルが悲鳴を上げた。
「やめろ!」
そこへ光輝が飛び出し、横から幸介を突き飛ばした。
「大丈夫、ヒカルちゃん!?」
「光輝さん・・・」
呼びかける光輝に、ヒカルが戸惑いを浮かべる。くるみも遅れて駆けつけ、ヒカルに声をかける。
「ヒカルちゃん・・1人で先生を探しに行かないでよね・・」
「すみません・・でも、やっと本当の私に近づけると思ったら・・・」
「・・ムリもないかも・・誰だって、やっと答えが見つかると思ったら、いてもたってもいられなくなるものね・・」
謝るヒカルに、くるみが安堵を浮かべる。
「ここは僕に任せて!くるみちゃんはヒカルちゃんをお願い!」
「分かったわ!ヒカルちゃん、こっち・・!」
光輝の呼びかけを受けて、くるみがヒカルを連れて逃げ出す。
「姿を現したか、吉川光輝・・・!」
「お前・・僕だけじゃなく、ヒカルちゃんまで・・・!」
うめく幸介に、光輝が怒りをあらわにする。
「変身!」
水晶をベルトにセットして、光輝がオメガに変身する。
「仮面ライダーオメガ!」
高らかに名乗る光輝に、幸介がいきり立って飛びかかる。光輝はジャンプして幸介の突進をかわす。
「自分の目的のために、罪のない人々を襲うガルヴォルス・・絶対に許さない!」
「ふざけるな!お前の運もここで終わりだ!」
怒りを見せる光輝と幸介。2人が同時に飛び出し、パンチを繰り出す。
光輝打倒に燃える幸介が猛襲を仕掛ける。そのパワーに光輝が押されていく。
「負けてなるものか・・これ以上苦汁を舐めてなるものか!」
言い放つ幸介が両手を突き出す。この打撃を受けて、オメガの装甲から火花を散らす。
「負けられない・・お前のように卑劣なヤツに、負けるわけにはいかないんだ・・・!」
だが光輝は怯まず、迫り来る幸介を見据える。
「メガフラッシャー!」
光輝が精神エネルギーを放出して、幸介を怯ませる。
「メガブレイバー!」
光輝の呼びかけを受けて、メガブレイバーが駆けつけてきた。メガブレイバーはスピリットカリバーを乗せてきていた。
光輝は手にしたスピリットカリバーに、ベルトの水晶をセットする。スピリットカリバーから光が放たれ、オメガがスピリットフォームに変化する。
「その姿・・その剣・・・!?」
幸介はスピリットカリバーとスピリットフォームのことを知っていた。実際にそれが自分の前に現れたことに、彼は驚きを感じていた。
「だが、私の勝利が揺らぐことはない!」
強気に言いかける幸介が光輝に飛びかかる。だが光輝が振りかざしたスピリットカリバーに切りつけられる。
「ぐっ!」
威力のある光輝の攻撃に、幸介がうめく。スピリットフォームとなったオメガに、彼は太刀打ちできなくなっていた。
「まさか、これほどの力を備えているとは・・・!」
幸介が光輝の力に毒づく。幸介はとっさに飛び上がり、光輝との距離を取って刃を引き抜く。
「これだけの距離と建物の並ぶこの地帯では、お前に攻撃手段はないだろう!」
勝ち誇る幸介が光輝に向けて刃を投げつける。光輝がスピリットカリバーを振りかざして、刃をなぎ払う。
精神エネルギーを光の刃に放っても、大振りでかわされやすく、周囲へ被害を及ぼす危険がある。だがこのまま攻めないわけにはいかない。
「メガブレイバー、一気に攻めるぞ・・・!」
光輝は呼びかけると、メガブレイバーのハンドルを握る。するとメガブレイバーが光に包まれる。
新たな姿に変化していたメガブレイバー。ボディに金色のラインが加わっていた。
スピリットカリバーの力と連動した姿、「スピリットブレイバー」。メガブレイバーのパワードフォーム以上のパワーと、スピードフォーム以上のスピードを兼ね備えている。
光輝はスピリットブレイバーに乗り、幸介に向かって走り出す。幸介が投げつけてくる刃をかいくぐり、スピリットブレイバーは一気に距離を詰めていく。
光輝の精神エネルギーが、スピリットブレイバーに注がれていく。膨大なエネルギーと閃光を伴って、スピリットブレイバーが幸介に突進した。
「ぐおっ!」
この強烈な突進に跳ね飛ばされて、幸介が横転する。ブレーキをかけた光輝とスピリットブレイバーが止まり、幸介に振り向く。
「こ・・このままやられてたまるものか・・・!」
声と力を振り絞り、幸介が刃で地面を切りつける。砂煙をまき散らされた光輝は、逃げる幸介を見失った。
「本当にすごい力だ・・スピリットカリバーは、メガブレイバーも強くしている・・・」
「光輝の心が、スピリットカリバーの力を伴って、私にも伝わってきた・・これは私とスピリットカリバーだけではない。君の力も重なっている・・」
光輝とともに飛躍するオメガの力に感嘆するスピリットカリバー。
「スピリットカリバー・・オメガの手に渡っていたか・・」
そこへ声がかかり、スピリットブレイバーから降りた光輝が振り向く。その先には巨体の怪人が立っていた。
「ガルヴォルス・・・!?」
「厄介なことになってしまった・・これでオメガの力は格段に上がってしまった・・」
警戒の眼差しを送る光輝に、怪人が低い声音で言いかける。
「もはや真っ向勝負しかないか・・スピリットカリバーを返してもらうぞ・・」
「お前もオメガの力が狙いなのか・・だがこの力、ガルヴォルスの思い通りにはさせないぞ!」
迫る怪人に向かって光輝が駆け出し、その勢いのままにジャンプする。飛び蹴りを繰り出してきた光輝を、怪人が右腕を振りかざして跳ね返す。
「ぐっ!」
倒された光輝がうめく。立ち上がった彼の眼前に、怪人が迫ってきていた。
「スピリットカリバーを手にしたオメガ・・この私、キングと比べてどれほどのものなのか、確かめるのもいいだろう・・」
「キング・・・!?」
怪人、キングガルヴォルスの言葉に光輝が息を呑む。キングガルヴォルスが突き出してきた両手を、光輝も両手で受け止める。
「すごい力だ・・あのガルヴォルスも強かったのに、キングはそれ以上だ・・・!」
うめく光輝がキングガルヴォルスの腕を払いのけて、その脇を前転ですり抜ける。彼は落ちているスピリットカリバーを拾い、意識を集中する。
「スピリットカリバーの力、お前に叩き込む・・・!」
光輝が言いかけると、スピリットカリバーの刀身が輝き出す。
「スピリットスラッシャー!」
光輝がスピリットカリバーを振りかざし、キングガルヴォルスに向けて光の刃を放つ。キングガルヴォルスも両手をかざして衝撃波を放つ。
だが光の刃に押されて、キングガルヴォルスはとっさに跳躍して回避する。
「驚いた・・さすがの私でも、一筋縄ではいかないか・・」
スピリットカリバーの力を痛感して、キングガルヴォルスが毒づく。
「今日はここまでにしておく。だが次は容赦しない。必ずスピリットカリバーを奪い返す・・・!」
キングガルヴォルスは光輝に言いかけると、音もなく姿を消した。力を消耗した光輝が、その場にひざを付く。
「大丈夫か、光輝・・!?」
「メガブレイバー、大丈夫だ・・少し力を使いすぎただけだから・・・」
心配の声をかけるスピリットブレイバーに答えると、光輝がスピリットカリバーから水晶を外してオメガへの変身を解除する。
「今はヒカルちゃんとくるみちゃんを追いかけないと・・先生のところに行っているはずだから・・」
疲弊した体に鞭を入れて、光輝が大学の校舎に向けて歩き出した。
光輝に追い返されたキングガルヴォルスは、大学の校舎裏に来ていた。
「スピリットカリバーを手にしたオメガ・・ここまでとは思わなかった・・・」
光輝の発揮したオメガの力を、キングガルヴォルスが改めて毒づいていた。
「それにしても・・やはり確かめる必要があるかもしれないな・・・」
キングガルヴォルスは言いかけると、人間の姿に戻る。その姿は光輝たちの大学の教師、義男だった。
「そろそろ仕事に戻らないと・・教師の仕事を怠ってはいけない・・・」
義男は呟くと、教師の仕事に戻っていった。彼も光輝もまだ、互いの正体に気付いていなかった。