仮面ライダーオメガ 第35話
光輝が手にしたスピリットカリバー。その力を受けて、オメガはスピリットフォームへの変化を遂げていた。
「この力・・光輝に何が起こったんだ・・・!?」
光輝の変化に竜也が驚愕を覚える。光輝がスピリットカリバーを構えて、竜也を見据える。
「何であろうと、オレは愚か者を叩き潰すだけ・・邪魔者にも容赦しない!」
戦意をむき出しにして、竜也が光輝に飛びかかる。力を込めて拳を叩き込むが、光輝は少し押されただけで平然としていた。
戦闘力が向上している光輝に、竜也が驚愕する。
「力が増しているのか・・だが、それでも!」
竜也がさらに光輝を攻め立てる。だがその攻撃の全てが、光輝に防御、回避されていた。
光輝が左手でパンチを叩き込む。その一打を受けて、竜也が激痛を覚える。
光輝がさらに竜也に攻め立てる。スピリットフォームとなったオメガのパワーに、竜也は反撃することもままならなくなっていた。
「オレの力が、全然通じないなんて・・・!」
追い込まれていることに毒づく竜也。
「こんなバカな・・こんなバカなことがあってたまるか!」
怒りを膨らませた竜也が、剣を具現化させて飛びかかる。だが光輝が振りかざしたスピリットカリバーの一閃に弾き返される。
さらに憎悪と怒りを膨らませる竜也が、全身からエネルギーを放出する。光輝はスピリットカリバーを地面に突き刺し、大きく飛び上がる。
「スピリットライダーキック!」
精神エネルギーを右足に集束させる光輝。メガスマッシャーを上回る蹴り「スピリットスマッシャー」が、竜也に向けて放たれる。
竜也がエネルギーを集束させて、衝撃波として解き放つ。だが光輝はその衝撃波を突き破り、竜也にスピリットスマッシャーを叩き込む。
「ぐあっ!」
突き飛ばされて横転する竜也。体中を激痛が襲い、彼は立ち上がれずに顔を歪める。
着地した光輝がスピリットカリバーを手にして、竜也を見据える。
「もうやめるんだ、竜也くん・・憎んでばかりじゃ何にもならない・・そればかりか、竜也くん自身を傷つけることになる・・」
「分かったようなことを言うな・・虐げられる気分を味わったことのないお前が・・・!」
深刻さを込めて呼びかける光輝だが、竜也がその言葉を拒絶する。
「憎しみだけで戦ったって満たされない気持ちを、オレは知っている・・くるみちゃんにもそれが分かっている・・・」
「だから分かったような口を叩くな!オレは戦う!愚か者全て、オレが叩き潰してやる!」
切実に語りかける光輝の言葉をはねつけると、竜也は力を振り絞ってエネルギーを放出する。その爆発に紛れて、彼は光輝の前から姿を消した。
「竜也くん・・・オレはもう迷わない・・君を救うために、オレはあえて君と戦う・・・」
竜也に対する戸惑いと同時に、光輝は新たなる戦いへの誓いを立てていた。彼はスピリットカリバーから水晶を外し、オメガへの変身を解除した。
「くるみちゃん・・くるみちゃん、しっかりして!」
光輝がくるみに駆け寄って呼びかける。すると彼女が目を覚まして起き上がる。
「光輝・・・ここにいたの・・・?」
「くるみちゃん・・・よかった・・・」
疑問符を浮かべるくるみに、光輝が安堵の笑みを浮かべる。
そのとき、光輝が突如ふらついて倒れかかる。くるみがとっさに手を伸ばして、彼を支える。
「光輝、どうしたのよ!?光輝!」
「アハハ・・ちょっとムチャしちゃったかな・・アハハハ・・・」
声を荒げるくるみに、光輝が苦笑いを浮かべる。彼の言葉を聞いて、心配していたくるみが呆れる。
「もう・・アンタのそんな顔を見てると、心配するのがバカバカしくなってくるわ・・」
「ゴメン・・・ヒカルちゃんのところに戻ろう・・目を覚ましてるかもしれない・・」
光輝はくるみに謝ると、ヒカルの心配をして言葉をかける。
「弥生ちゃんがそばについてるから・・光輝くんが立ち直ったこと、2人に知らせよう・・」
そこへ太一が声をかけ、光輝が微笑んで頷く。
「オレはここで別れさせてもらおう。このまま海道竜也にやられてばかりなのは腑に落ちないからな・・」
一矢は不敵な笑みを見せて言いかけると、光輝たちの前から去っていった。
「行こう・・ヒカルちゃんが待ってる・・・」
くるみたちに呼びかけると、光輝たちは病院へと戻っていった。
光輝が発揮したスピリットフォームのオメガの力に追い込まれ、撤退を余儀なくされた竜也。光輝に手も足も出なかったことに、竜也は苛立っていた。
「オレが、手も足も出ずにやられるとは・・・打ち倒そうとする考えだけを貫いていたというのに・・・!」
憤りを抑えることができず、竜也がそばの壁に拳を叩きつける。
「認めない・・こんなこと、絶対に認めないぞ!」
光輝に対する憎悪をさらに膨らませる竜也。もはや光輝は竜也にとって、敵以外の何者でもなくなっていた。
光輝たちが戻ってきたとき、弥生が足音を聞きつけて病室から出てきた。
「弥生ちゃん・・ヒカルさんは・・・?」
「太一くん、光輝くん・・丁度、ヒカルさんが目を覚ましました・・・」
太一が訊ねると、弥生が微笑んで答える。
「ヒカルちゃんが・・・よかった・・・」
光輝が安堵を覚えると、病室に駆け込む。そのベットに腰を下ろすヒカルがいた。
「ヒカルちゃん・・目が、覚めたんだよね・・・?」
「光輝さん・・・ごめんなさい・・心配かけてしまって・・・」
喜びを見せる光輝に、ヒカルが頭を下げる。すると光輝がヒカルに近づいて抱きしめる。
「よかった・・ヒカルちゃんが元気になって・・・」
「光輝さん・・私も、光輝さんが無事でよかった・・・」
互いの無事を確かめ合って、喜びを膨らませる光輝とヒカル。
「光輝、やっとオメガに変身できたよ・・迷いが消えたみたい・・・」
くるみがかけた言葉に、ヒカルが喜びを浮かべる。
「よかった・・本当によかったです・・光輝さん・・・」
光輝が勇気と元気を取り戻したことに、ヒカルは笑顔を見せた。
「さて、あなたたち2人は入院している身なんだから、体を休めなさい・・」
「分かりました・・」
「大人しくしています・・・」
くるみが注意を促すと、ヒカルと光輝が微笑んで頷く。2人はそれぞれの病室のベットに戻ることになった。
その翌日、光輝とヒカルは退院を果たした。その後、光輝とくるみはヒカルを大学に案内した。
大学の校舎とその中で行き交う生徒と教師たちを見て、ヒカルは喜びの笑みを浮かべていた。
「すごい・・本当にすごいです、光輝さん・・・」
「そんな・・校舎を見たぐらいで喜んでも・・・」
歓喜の声を上げるヒカルに、くるみが苦笑いを浮かべる。
「でも、大学は勉強がメインなんだから。部活動や研究会もあるけど、遊びに行くところじゃないんだから・・」
「それでも、楽しいところであることは間違いないですよね?」
注意を促すくるみだが、ヒカルは喜びを絶やさない。心から喜んでいるヒカルを見て、光輝も安らぎを覚えていた。
「そろそろゼミの時間だ・・ヒカルちゃん、先生に会ってみるかい?」
「先生・・光輝さんとくるみさんがよく話してくれる、駒場先生ですね・・?」
光輝が呼びかけると、ヒカルが答えて微笑みかける。
「挨拶に行こう。ヒカルちゃんにも、きっと優しくしてくれるよ・・」
光輝のこの言葉にヒカルは頷く。3人は義男のいる準備室に向かった。
準備室に来た3人。くるみがドアをノックするが、返事がない。
「あれ?いないのかな・・?」
「ゼミの時間の10分前には来てるはずなのに・・」
疑問符を浮かべる光輝とくるみ。
「急用でもできたんじゃないかな?・・先に教室に行こう。事情は先生が来たときにでも・・」
「そうね・・大丈夫だとは思うけど・・・」
光輝の言葉にくるみが肩を落としながら頷く。当惑を見せながら、ヒカルは2人に連れられて教室に来た。
「おっ!ヒカルちゃんじゃなーい♪」
ヒカルを見て、隆介が歓喜の声を上げる。飛びつこうとしてきた彼だが、ヒカルとくるみに避けられて、廊下に飛び出して倒れ込む。
「相変わらずなんだから、隆介くんは・・」
「でも、ヒカルさんが大学に来るなんて・・」
隆介に呆れる草太と、ヒカルの来訪に戸惑いを見せるみどり。
「いきなりでゴメンね、みんな・・ヒカルちゃんに、大学のことを案内したくて・・」
「いやいやいや、オレは全然だいじょーブイ!ヒカルちゃんだったら、オレはどこへでも案内するからねー♪」
事情を説明する光輝に、隆介が狂喜乱舞する。
「もう、ヘンなところに案内しないでよね・・・」
隆介の姿に呆れて、くるみがため息混じりに言いかける。
「ところで先生はどこかな?準備室にいないんだけど・・」
光輝が隆介たちに向けて質問を投げかける。
「先生?今日はまだ見かけていないぞ・・」
「僕も見ていないですね・・」
「欠席でしたら事前に連絡してくるはずですよ、先生でしたら・・」
隆介、草太、みどりが首をかしげる。
「やっぱり急用でもできたのかな・・・?」
「僕、ちょっと近くを探してみるよ・・何だか心配になってきた・・」
くるみが深刻さを浮かべると、光輝が慌てて教室を飛び出していく。
「ちょっと、光輝!もうすぐ授業が始まるわよ!」
くるみが呼びかけるが、光輝は止まらずに廊下を進んでいってしまった。
義男を追い求めて、光輝は校舎の中を駆け回っていた。光輝はヒカルを義男に会わせたいと願っていた。
「先生、ホントにどこに行っちゃったんだろう・・・?」
次第に不安を募らせていく光輝。だが周囲は生徒と教師でにぎわっており、義男を見つけ出すことは難しかった。
そのとき、どこからか賑わいとは違うざわめきが光輝の耳に入ってきた。
「これって・・まさかガルヴォルス・・・!?」
光輝が血相を変えて大学内を走り出す。駆けつけた校舎裏では、クワガタとカブトムシに似た姿の怪物が1体ずつ、生徒に襲い掛かっていた。
「ガルヴォルス・・・変身!」
光輝が即座にオメガに変身して、ビートルガルヴォルスとスタッグガルヴォルスに飛びかかる。襲われそうになっていた生徒が、光輝の乱入によってガルヴォルスたちから離れることができた。
「逃げろ!早く逃げるんだ!」
光輝の呼びかけを受けて、生徒が逃げ出す。ビートルガルヴォルスの突進を、光輝は後退してかわす。
「仮面ライダーオメガ!」
光輝が高らかに名乗って、2体のガルヴォルスを見据える。
「オメガ・・・!」
「まさかオメガがこんなところにいるとは・・・!」
ビートルガルヴォルスとスタッグガルヴォルスが、光輝の登場に驚きを見せる。
「他に邪魔が入ると厄介だ!」
「急いでオメガを始末するぞ!」
いきり立ったガルヴォルスたちが、光輝に向かって飛びかかる。ビートルガルヴォルスが振りかざす腕を、光輝が軽い身のこなしでかわしていく。
そこへスタッグガルヴォルスが後ろから光輝に襲い掛かる。頭部の角に体を挟み込まれ、光輝が持ち上げられて、そのまま地面に叩きつけられる。
「ぐっ!」
力押しをされて光輝がうめく。倒れた彼に向けて、ガルヴォルスたちが足で踏みつけてくる。
「このままバラバラにしてやるぞ!」
「このままではやられてしまうぞ・・・メガブレイバー!」
勝気に言い放つスタッグガルヴォルスの足元で、光輝が叫ぶ。彼の呼び声を受けて、メガブレイバーが駆けつけてきた。
メガブレイバーの前輪に突き飛ばされて、ビートルガルヴォルスが跳ね飛ばされる。その隙に光輝が横転して、スタッグガルヴォルスから逃れる。
立ち上がった光輝がメガブレイバーに乗り、ガルヴォルスたちに向かって走り出す。メガブレイバーの突進で、ガルヴォルスたちは跳ね飛ばされていく。
光輝がベルトの水晶を右足の脚部にセットする。彼はメガブレイバーから飛び上がり、スタッグガルヴォルスに向かって降下する。
「ライダーキック!」
光輝の繰り出したメガスマッシャーが、スタッグガルヴォルスに叩き込まれる。校舎の壁に叩きつけられたスタッグガルヴォルスが、体を崩壊させて消滅していった。
「オメガの力が強い・・・くそっ!」
危機感を覚えたビートルガルヴォルスがたまらず逃げ出す。振り返る光輝だが、ビートルガルヴォルスを追おうとはしなかった。
「大学にまたガルヴォルスが現れるなんて・・・」
オメガへの変身を解除した光輝が、深刻な面持ちを浮かべる。
「これからもガルヴォルスがみんなに襲い掛かってきても、僕がみんなを守る・・そして竜也くん、君の間違いを必ず止めてみせる・・・」
改めて決意を口にする光輝。これからの戦いに備えて、彼は気を引き締めるのだった。
「光輝!」
そこへくるみが駆けつけ、光輝が振り返る。
「もう、早く戻るわよ、光輝!探してる間に、入れ違いで先生が来たらどうするのよ!?」
「でも、やっぱり先生が心配だったから・・・」
怒鳴ってくるくるみに、光輝が沈痛の面持ちを浮かべる。
「ところでこの騒ぎ・・もしかしてガルヴォルスが・・・」
「うん・・1人はやっつけたけど、もう1人は逃げられた・・・」
くるみが投げかけた言葉に光輝が答える。周囲を見回してから、くるみは肩を落とす。
「とにかく戻るわよ。ヒカルちゃんやみんなが心配してるから・・」
「ヒカルちゃん・・そうだね・・ヒカルちゃんも、守ってあげないと・・・」
くるみの呼びかけを受けて、光輝がヒカルへの思いを募らせる。彼女に負担をかけてしまったことへの罪の意識から、彼は物悲しい笑みを浮かべる。
くるみに促される形で、光輝はゼミの教室に戻っていった。
スタッグガルヴォルスを倒されるも、光輝から辛くも逃れることができたビートルガルヴォルス。
「オメガ・・次はそうはいかないぞ・・この借りは必ず返して・・・!」
光輝への逆襲を心に誓うビートルガルヴォルス。その機会を狙って、彼は光輝の動きを伺おうとした。
そのとき、ビートルガルヴォルスが突然、自分に向けられてきた気配を感じて緊迫を覚える。恐る恐る振り返った彼の前には、異形の姿の人物が立っていた。
「あ、あなたは・・キング・・・!?」
眼前に現れた異形の存在、キングにビートルガルヴォルスが畏怖する。
「ち、違うんだ!・・オメガを倒すために、あえて撤退してきただけで・・・!」
ビートルガルヴォルスがキングに言葉をかける。恐怖のあまり、ビートルガルヴォルスは震え上がっていた。
「今度は絶対にしくじらない・・だからもう1度チャンスをくれ・・・!」
ビートルガルヴォルスがキングに向けて必死に弁解する。だがキングがビートルガルヴォルスに向けて右手をかざす。
「ま、待ってくれ!命だけは、命だけは・・・!」
声を荒げるビートルガルヴォルスに向けて、キングが衝撃波を放つ。その衝撃波に吹き飛ばされて、ビートルガルヴォルスが激しく横転する。
凄まじい攻撃でのダメージにさいなまれて、ビートルガルヴォルスが絶命して崩壊する。その断末魔を見送った後、キングは振り返って歩き出していった。