仮面ライダーオメガ 第34話
怒りを爆発させて力を放出させた竜也。彼はその驚異の力を振るって、一矢と太一を叩きのめしてしまう。
一矢にとどめを刺そうとする竜也。そこへ病院を飛び出して、光輝が駆けつけてきた。
「君・・・もしかして、竜也くん・・・!?」
「お前か・・お前も性懲りもなく・・・!」
息を呑む光輝に、竜也が鋭く言いかける。
「もうやめるんだ、竜也くん・・壊したって、手に入れられるものなんて何もない・・・!」
「お前もどこまでもふざけて・・・壊さなければ何も取り戻せない・・何度も言わせるな・・・!」
光輝の呼びかけに竜也は耳を貸そうとしない。
「ホントにやめてくれ・・でないと僕は、君を止めなくちゃいけない・・たとえ力ずくでも・・・!」
「ついに本性を表してきたか・・何にしても、オレはお前たちを倒すだけだ!」
自分の決意を告げる光輝に、竜也が怒りのままに迫ろうとした。
そのとき、竜也の体を激痛が襲った。稲妻のようなエネルギーの放出の中で、彼は痛みに顔を歪める。
「ぐっ!・・体が、言うことを・・・!?」
「竜也くん・・・!?」
竜也の異変に光輝が困惑を覚える。
「光輝くん!」
「近寄るな!オレを陥れる敵が、オレに近づくな!」
駆け寄ろうとした光輝に怒鳴りかける竜也。彼は力を振り絞って、光輝の前から走り去っていった。
「竜也くん・・・さらに暴走がひどくなっていた・・このままだと、竜也くんはホントに・・・」
竜也への不安を募らせていく光輝。だが光輝は友を救うことの本当の意味を見出していた。
「一矢さん・・太一くん・・・」
光輝が倒れている一矢と太一に駆け寄る。竜也のこうげきを受けて、2人は意識を失っていた。
ヒカルのいる病室にくるみがやってきた。ヒカルは未だに眠りについたままだった。
「ヒカルちゃん・・今、光輝に活を入れてきたよ・・もう吹っ切れて外に飛び出してるかも・・・」
くるみがヒカルに向けて声をかけ、微笑みかける。
「やっぱり光輝はああでないとね・・ヒーローに憧れていて子供っぽいけど、正義感が強くて真っ直ぐなんだよね・・・たまにつまづくこともあるけど、ずっと悩んでいるのは光輝らしくないよ・・・」
光輝の姿を浮かべて、くるみがさらに笑みをこぼす。
「ヒカルちゃんも、そんな光輝が好きだって・・あたしも分かってる・・・」
くるみがヒカルを見つめて、囁くように言いかける。いつか必ずヒカルが目を覚まして笑顔を見せてくれると、くるみも信じていた。
そのとき、2人のいる病室のドアがノックされた。
「はい・・看護師かな・・・?」
くるみが病室のドアを開ける。その先にいたのは黒ずくめの男だった。
「あなた・・誰なんですか・・・!?」
くるみが男に向けて声をかける。彼女は眠っているヒカルを守ろうとも考えていた。
「吉川光輝くん、オメガユニットの装着者はどこにいるのですか?」
「光輝!?・・光輝に何の用なのよ・・・!?」
男が訊ねてくると、くるみがさらに警戒する。
「私はあるものを渡そうとしていたのだが、病室に彼の姿はなかった・・」
「光輝、やっぱり病室から飛び出していたのね・・・」
男が告げた言葉を聞いて、くるみが呟きかける。
「で、光輝に何を渡したいのよ?おかしなことを考えてるなら教えないわよ。」
くるみが問い詰めると、男は手にしていた袋を彼女に見せる。長く黒い袋で、中に金属質の何かが入っているようだった。
「オメガの助けとなるものが入っている。オメガクリスタルをセットすれば、その力が向上する・・」
男は袋から取り出したのは1本の剣。それを目にしたくるみが緊張を覚える。
「私は追われている。だからもう出なければならない・・」
「ちょっと!これは何なのよ!?」
男は言いかけると、くるみが疑問を投げかけるのを聞かずに病室を後にした。
「何なのよ、この剣・・これとオメガと、どういう関係が・・・!?」
男から手渡された剣に、くるみは困惑するばかりだった。
一矢と太一が目を覚ましたのは、竜也が退いてから少したってからだった。2人が起きた先には光輝がいた。
「光輝くん!?・・もう、大丈夫なの・・・!?」
「気がついたんだね・・よかった・・・」
驚きの声を上げる太一に、光輝が安堵の笑みを浮かべる。駆けつけた彼に一矢が眉をひそめていた。
「何をしに来た?オメガになれなくなった君に、できることは何もないというのに・・」
「確かにまだ、あれからオメガにはなっていない・・もしかしたら、このままオメガになれないのかもしれない・・それでも、僕はみんなを助けるために戦いたい・・無理矢理にでも、竜也くんを助けたい・・・!」
言葉を投げかけてきた一矢に、光輝が自分の決意を口にする。
「甘いことだな・・そんなことではとても戦えない・・」
「甘くたっていい・・竜也くんを助けられないんじゃ、この先誰も助けられない・・・」
呆れる一矢に光輝がさらに言いかける。光輝の決意に揺らぎはなくなっていた。
「そこまで言い張るとは・・せめて、オレの邪魔をしないようにしてくれ。あの男は、今度こそオレが倒す・・・!」
一矢は光輝に低く告げると、光輝と太一の前から立ち去っていった。
「絶対に竜也くんを助ける・・間違いを止めることこそが正義なんだ・・・」
「僕はどうしたらいいのか分からない・・でも、傷つかずに解決できるなら、そのほうがいいよね・・・?」
真剣な面持ちで言いかける光輝に、太一が微笑みかける。
「とりあえず病院に戻りましょう・・くるみさんとヒカルさんが待っていますから・・」
弥生が声をかけると、光輝と太一が頷く。3人はくるみとヒカルのいる病院に向かった。
くるみに剣を渡して、急いで病院を飛び出した黒ずくめの男。病院から少し離れた小道で、男は異形の影に行く手を阻まれた。
「悪いが、アレをオメガに渡すわけにはいかないのだ・・」
「や・・やっぱり追いかけてきた・・キング・・・!」
低く告げる異形の人物、キングに男が緊迫を覚える。
「お前、アレをどこにやった・・・!?」
キングが男が剣を持っていないことに気付き、目を見開く。キングが放った衝撃波が男に直撃する。
「ぐあっ!」
激しく突き飛ばされた男が昏倒する。その後もキングの攻撃にさいなまれて、男は剣のことを話すことなく命を落とした。
光輝、太一、弥生が病院に戻ってきたとき、ヒカルの病室にくるみの姿がなかった。
「くるみちゃん、どこに行っちゃったんだ・・・?」
「買い物に出かけてるのかな・・・?」
疑問符を浮かべる光輝と太一。病室にてヒカルはベットで眠り続けていた。
「ヒカルちゃん・・・もう大丈夫・・ヒカルちゃんやみんなは僕が守るから・・竜也くんは、僕が助けるから・・・」
ヒカルの顔を見つめて、光輝が囁く。太一も弥生もヒカルを見つけて決心を抱いていた。
「弥生さん、ヒカルちゃんを見ていてくれませんか?・・僕は太一くんと探しに出てきます・・」
光輝が弥生に向けて声をかけてきた。
「くるみさんを探しに行くのですね・・・?」
「うん・・それと、竜也くんを・・・」
弥生が投げかけた言葉に光輝が答える。彼は太一とともに、再び病室を飛び出していった。
光輝を追って病院を飛び出していたくるみ。彼女は光輝たちと入れ違いになっていたことに気付いていなかった。
「光輝・・どこまで行っちゃったのよ・・・コレ、ホントに何なのよ・・・!?」
わけの分からないまま、光輝を探して途方に暮れるくるみ。
「あの人も黒ずくめで誰だか分かんないし、何がどうなってるのかもさっぱりだし・・もうっ!きっちり話してもらうからね、光輝!」
混乱しそうになるあまり、光輝への不満を口にするくるみ。
そのとき、小道をゆっくりと歩く竜也の姿を発見するくるみ。
「竜也くん・・・」
やるせない気持ちを抱えたまま、くるみが走り出す。彼女が近づいてくるのに気づいて、竜也が足を止める。
「またオレを陥れようとするヤツが現れたのか・・・」
「待って、竜也くん!光輝たちが探してる!」
低く呟きかける竜也に、くるみが声を上げる。
「竜也くん、見境なしに敵を倒して回ってるんでしょ・・そうやって憎しみだけに囚われて戦ったって、絶対に満足しない・・・」
くるみが竜也に向けて切実に語りかける。彼女の脳裏に、幼い頃の彼女自身と光輝の姿が蘇る。
正義の味方を気取っていることから、光輝は周囲の子供たちからのいじめにあった。それに怒りを覚えたくるみが、その子供たちをやっつけた。
友達を守るために戦った。でもくるみの心は満たされなかった。そこで彼女は、憎んで戦っても何にもならないことを思い知らされた。光輝に励まされたこともあって、彼女はそのことを強く胸に秘めることにした。
「竜也くんに、あたしが受けた辛さを味わってほしくない・・だから・・・!」
「そんな言葉で、オレをさらなる地獄に突き落とすつもりか・・・!?」
くるみの呼びかけに、竜也が冷徹な態度を見せる。
「オレはもう、誰の言葉にも耳を貸さない・・愚か者全てを倒す・・それ以外に、世界を取り戻す手段はない・・・!」
鋭く言いかける竜也の頬に紋様が走る。彼の姿がドラゴンガルヴォルスに変化する。
「どうして・・どうして分かってくれないのよ・・この駄々っ子!」
怒鳴りかけるくるみに向かって、竜也が飛びかかる。彼女はとっさに、手にしていた剣を前にかざす。
そのとき、剣から強烈な衝撃がほとばしった。その圧力に竜也が押され、その反動にくるみが襲われる。
横転する竜也と、倒れて気絶するくるみ。剣の衝撃波は一時的なもので、その力は弱まってしまった。
「何だ、今の衝撃波・・・!?」
剣の衝撃に驚かされる竜也。彼は剣を手放して意識を失っているくるみに目を向ける。
「何にしても、オレの敵は全て叩き潰すだけだ・・・!」
竜也がくるみを仕留めようと、ゆっくりと歩を進める。
「くるみさんに手を出すことは許さないぞ。」
そこへ一矢が現れ、竜也の前に立ちはだかる。
「またお前か・・どこまでもオレの行く手をさえぎるのだな・・」
「好き勝手にさせておけば、くるみさんに手を上げるとは・・・変身。」
目つきを鋭くする竜也の前で、一矢がギガスに変身する。
「お前はここでオレに倒される。これはもう決まったことだ・・」
「オレをそこまで陥れたいのか、お前は・・・!」
低く告げる一矢に苛立ちを覚え、竜也が力を放出する。彼の姿が刺々しいものへと変貌していく。
「またその姿か・・同じ手を食うオレではないぞ・・・!」
鋭く言いかける一矢が先に飛び出す。竜也が解き放った衝撃波を回避して、一矢は懐に飛び込んだ。
「ギガブレイカー!」
同時にベルトの水晶をはめ込んだ右手でのパンチを叩き込む一矢。その一打が竜也の体に直撃する。
渾身の力を込めて放った一撃だった。だが力を解放した竜也には通用していなかった。
「誰もオレを止められない・・オレは止まるわけにはいかない・・・!」
低く告げる竜也が一矢に膝蹴りを繰り出す。衝撃度の強い一蹴を受けて、一矢が大きく跳ね飛ばされる。
痛烈なダメージを負って昏倒する一矢。ギガスへの変身が解除された彼が、意識を失って動かなくなる。
「とどめを刺してやる・・粉々に打ち砕いてやる・・・!」
「竜也くん!」
一矢にとどめを刺そうとしたところで、竜也は呼び声を耳にする。光輝と太一が駆けつけてきた。
「竜也くん・・・」
「またお前たちか・・お前たちの顔も見苦しいんだよ・・・!」
当惑を浮かべる光輝に、竜也が鋭く言いかける。
「変身・・・!」
太一がベルトに水晶をセットして、クリスに変身する。だが迫り来る竜也の力に押されて、太一はすぐに突き飛ばされる。
「太一くん!」
声を荒げる光輝。一気に体力を消耗して、太一は立ち上がるので精一杯になっていた。
「竜也くん・・・もうこれ以上、間違いを犯させるわけにはいかない・・僕が全力で君を止めてやる!」
「オレは止まらない・・それに、間違っているのは愚か者そのものだ!」
決意を言い放つ光輝に、竜也が怒号を返す。
(オメガ・・僕はもう迷わない・・竜也くんと戦うことを迷わない・・だからもう1度、僕に力を貸してくれ・・・!)
胸に秘めていた決意を思い返して、光輝が水晶を手にする。
「変身!」
水晶をベルトにセットする光輝。彼の体を紅い装甲が包み込んでいった。
これまでできなくなっていたオメガへの変身を、光輝はついに果たした。彼はこの成功をすぐに喜ぼうとせず、怒りを膨らませている竜也を見据える。
「止める・・君の憎しみを受け止められないで、世界の平和なんて守れないんだ・・・!」
光輝が竜也に向かって果敢に挑んでいく。迷いを振り切った光輝の発揮するオメガの力は、上昇しつつあった。
光輝がオメガへの変身を果たした頃だった。
オメガへの変身で消耗して眠り続けていたヒカル。彼女はついに意識を取り戻し、ゆっくりと目を開く。
体を起こして周囲を見回すヒカル。
「私・・何をしていて・・・?」
まだ意識がもうろうとしており、半ば混乱するヒカル。
「私・・光輝さんの代わりにオメガに変身して・・・光輝さんは・・・?」
ヒカルはそばに光輝たちがいないことに気づく。ベットから起きようとしたが、逆にこれ以上光輝たちを心配してはならないと思い、ヒカルは留まった。
(光輝さん・・私は大丈夫ですから・・・光輝さんも負けないで・・・私は、光輝さんを信じていますから・・・)
光輝たちへの信頼を胸に秘めて、ヒカルは再びベットに横になった。
オメガへの変身を果たした光輝。だが怒りによって強化した竜也は、彼の精神力を大きく上回っていた。
「ぐっ!・・今の竜也くんは、オメガの力を受けても平然としている・・・!」
「いい加減に倒れろ・・どんなことをしても、オレはオレの怒りを貫くだけだ・・・!」
毒づく光輝に竜也が迫る。飛び込んできた竜也の突進を受けて、光輝が大きく突き飛ばされる。
「ぐあっ!」
激しく横転してうめく光輝。絶体絶命のピンチに陥った光輝に、竜也がゆっくりと歩み寄る。
「お前が口にしている正義には気が滅入る・・ここで何もかも終わらせてやる・・・!」
「負けるものか・・オレが負ければ、竜也くんを助けることができない・・・!」
鋭く言いかける竜也に対し、光輝が力を振り絞って立ち上がる。
そのとき、光輝はくるみのそばに落ちている剣を目にする。
「あれは・・・!」
その剣に光輝は見覚えがあった。彼はくるみに近づき、そばにある剣を拾う。
(これなら何とかできるかもしれない・・今の竜也くんを止めるには、これを使うしかない・・・!)
思い立った光輝がベルトから水晶を外し、剣の柄のくぼみにセットする。
すると、光輝が手にする剣と水晶、彼がまとっているオメガの装甲が光り輝く。通常の赤い装甲の一部分に、金のラインが入っていく。
やがて剣と装甲を包んでいた光が消えていく。消失したのではなく、オメガの装甲に収まっていったのが正しい。
光輝は自分の身に起きた変化を実感していた。彼が手にした剣は、魂の剣「スピリットカリバー」。その力を受けたオメガは、「スピリットフォーム」へと変化を遂げていた。