仮面ライダーオメガ 第33話
光輝に代わってオメガに変身したヒカル。オメガになれたことに戸惑いを感じながら、彼女は幸介に目を向ける。
「まさかオメガに変身してくるとは・・だが慣れない力で私と戦うことができるのか?」
ヒカルがオメガになったことに一瞬驚くも、すぐに不敵に言いかける幸介。そんな彼に向かって、ヒカルが駆け出す。
彼女の動きは光輝以上にガムシャラだった。ただ彼女は、ひたすら自分の攻撃を幸介に当てようとしていた。
「これでは話にならないな。吉川光輝のほうがまだいい勝負だったぞ。」
ヒカルの未熟な戦いをあざ笑う幸介。彼は反撃に転じて、ヒカルに拳を繰り出す。
幸介の一撃はヒカルに命中した。だがヒカルは怯むことなく、なおも果敢に攻め立ててくる。
「ぐっ!」
その勢いに押されて、幸介がうめく。ついにヒカルの猛攻に突き飛ばされて、幸介がしりもちをつく。
ヒカルがベルトの水晶を右足の脚部にセットする。
(やってみせます・・光輝さんのように、私も大切な人を守りたい・・・!)
精神エネルギーを右足に集束させて、ヒカルが走り出す。距離を詰めたところで、彼女は幸介に向けてキックを繰り出す。
「ぐおっ!」
一蹴を体に叩き込まれて、幸介がうめく。ヒカルの発揮した力に、彼は予期せぬ劣勢を強いられた。
「この私が、こんな小娘の精神力に押されるなど・・・!」
力の消耗に耐えられなくなり、幸介が人間の姿に戻る。
「光輝さんを、これ以上傷つけさせない・・あなたは、ここで・・・!」
ヒカルが幸介をさらに攻め立てようとした。
そのとき、ヒカルが突然動きを止め、ふらつき出した。その一瞬の隙に乗じて、幸介がこの場から離れていく。
その直後、ヒカルの体からオメガの装甲が消失する。そして彼女は力なく倒れ込んだ。
「ヒカルちゃん!?」
慌てて駆け込むくるみと弥生が、ヒカルの体を支える。
「ヒカルちゃん、しっかりして!ヒカルちゃん!」
くるみが呼びかけるが、ヒカルは意識を取り戻さない。
「もしかして、精神エネルギーを使いすぎたんじゃ・・・!?」
そこへ立ち上がった太一が声をかけてきた。
「クリスタルユニットは、精神エネルギーを消費して力を発揮する・・でも力を使いすぎると、命にも関わってしまうんだ・・」
「それじゃ、ヒカルちゃんは・・・!?」
太一の説明を聞いて、くるみが愕然となる。彼女はヒカルがもう目を覚まさないのではないかと思ってしまったのである。
困惑を拭えない彼らのそばで、光輝は傷ついて意識を失っていた。
幸介との戦いの後、光輝とヒカルは病院に運ばれた。光輝は軽い外傷で済んだが、ヒカルは脳波の弱まりが見られ、深刻な状態にあった。
光輝とヒカルは別々の病室で療養されていた。意識を取り戻した光輝のそばには、太一がいた。
「よかった・・目が覚めたんだね、光輝くん・・・」
「・・・僕は・・・ヒカルちゃんは・・・!?」
安堵の笑みを浮かべる太一に、思い返した光輝が声を荒げる。すると太一が表情を曇らせる。
「・・ヒカルさんはオメガに変身して、力を使いすぎて・・・」
太一が事情を説明すると、光輝は言葉を失った。光輝は自分やオメガユニットに対して辛さを感じていた。
「僕のせいだ・・僕がオメガになっていれば、ヒカルちゃんがあんなことにならずに済んだんだ・・・」
自分のためにヒカルが傷ついたことに、光輝が嘆く。
「どうして・・どうして僕は、オメガに変身できなくなったんだ・・・こんなこと、今までなかったのに・・・」
「光輝くん・・・」
「僕は今まで、みんなを守るために戦ってきた・・人々の幸せと世界の平和のために、ガルヴォルスと戦ってきた・・ヒカルちゃんやくるみちゃん、竜也くんも・・・」
愕然となる光輝に、太一は困惑するばかりだった。内向的な性格の彼には、光輝を勇気付ける言葉が見つからなかった。
「弥生ちゃんのところに行くよ・・・」
太一は光輝に告げると、この病室から出て行った。押し寄せてくる不安にさいなまれて、光輝はベットに塞ぎ込んでしまった。
ヒカルはベットで眠ったままだった。横たわっている彼女を、くるみと弥生が深刻な面持ちで見守っていた。
「ヒカルちゃん・・どうしてあんなムチャを・・・よりによってオメガに変身して戦うなんて・・・」
この事態に歯がゆさを募らせるくるみ。ヒカルに何もしてやれないことに、彼女は悔しさを滲ませていた。
そんな2人のところに太一がやってきた。
「太一くん・・・光輝さんは・・・?」
「全然元気がない・・僕でも相当落ち込んでるって分かるよ・・・」
弥生が声をかけると、太一が沈痛の面持ちで答える。
「どうして光輝くんは、オメガに変身することができなくなったのかな?・・・僕だって、こんな経験ないんだ・・・」
「もしかして、光輝の正義が揺らいでいるんじゃ・・・」
太一の説明を聞いて、くるみが呟きかける。その言葉に太一と弥生が目を見開く。
「光輝は正義感が強かった・・オメガになっても、正義と平和のために戦い続けてきた・・でも、今の光輝は正義の気持ちが揺らいでる・・竜也くんを助けるにはどうしたらいいのか、分かんなくなってる・・・」
「あの、光輝くんが・・・」
「最悪、自分のせいで、オメガのせいで、ヒカルちゃんを傷つけてしまったんじゃないかって思ってるんじゃ・・・」
くるみが口にした言葉に、太一も弥生も不安を隠せなくなる。
「そうだとしたら、光輝がオメガになれなかったことの説明がつく・・光輝は無意識に、オメガの力を拒絶してるってことじゃ・・・」
「じゃ、どうしたら光輝さんはオメガに変身できるようになるのですか・・・?」
弥生が疑問を投げかけるが、くるみは答えが出ずに考え込んでしまう。
「とにかく、光輝はあたしに任せて。ヒカルちゃんは病院の人に任せたほうがよさそう・・」
くるみが気持ちを切り替えて、太一たちに呼びかける。
「それはいいけど、僕はどうしたら・・・」
「今ガルヴォルスと戦えるのは、一矢さんと太一くんだけ・・だから、光輝やヒカルちゃんの代わりに、ガルヴォルスからみんなを守って・・そして竜也くんを止めてあげて・・・」
不安を浮かべる太一に、くるみが真剣な面持ちで呼びかける。
「僕にできるかな・・光輝くんの代わりなんて・・・」
「太一くんだって、クリスとして戦ってきたじゃない・・自信を出せば何でもできるって・・・」
くるみの励ましと弥生の微笑みを浮かべて、太一は不安の面持ちを浮かべながらも小さく頷いた。
「さて、あたしはあのヒーローバカに発破をかけてあげないと・・」
自分に活を入れると、くるみは光輝のいる病室に向かう。太一も気持ちを落ち着けてから、竜也を求めて外に出た。
竜也を探しに街中を歩いていた太一。だが彼は1人考え事をしていた。
自分の力で竜也と幸介を相手にできるのか、太一は不安視していた。光輝が戦えないことが、彼の緊張と不安を膨らませていた。
1人暗く歩いている太一の前に、一矢が姿を現した。
「吉川光輝はもう戦えない。君も分かっているだろう?」
悠然と声をかけてくる一矢に、太一が深刻な面持ちを浮かべる。
「吉川光輝はオメガの力を引き出すことができなくなった。海道竜也を守ろうとした結果、中途半端になった彼の正義感が、オメガの力を拒絶してしまっているのだ。」
「分かっていたの・・光輝くんのこと・・・?」
「薄々気付いていた・・こうでも考えなければつじつまが合わない・・」
当惑を見せる太一に、一矢は顔色を変えずに話を続ける。
「オレは彼のことは賞賛していたのだが。どうやら過大評価していたようだ・・これで吉川光輝は、もう立ち上がることはできない・・」
「そんなことはない!光輝くんは必ず復活する!必ず・・!」
「信頼だけでは確証は得られない。あんな姿を見せられては、復活するとはオレには思えない・・」
たまらず怒鳴る太一だが、一矢は自分の考えを変えようとしない。反論の言葉が見つからず、太一が歯がゆさを浮かべるしかなかった。
そのとき、発せられた足音を耳にして、一矢と太一が振り返る。2人に向かって歩いてきたのは、竜也だった。
「お前のほうから姿を現してくれるとはな、怪物が・・」
一矢が竜也に不敵な笑みを見せる。すると竜也が目つきを鋭くする。
「怪物なのは、お前たち愚か者の頭の中だ・・その愚かさ、今度こそ叩き潰してやる・・・!」
いきり立つ竜也の頬に紋様が走る。彼の姿がドラゴンガルヴォルスに変化する。
「叩き潰されるのはお前のほうだ。今度こそ終わらせてやる・・変身。」
一矢は言いかけると、ベルトに水晶をセットしてギガスに変身する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから。」
「その思い上がり、ここで消し去ってやる・・・!」
一矢に飛びかかる竜也。繰り出された拳を、一矢が両手でなぎ払っていく。
「お前の直線的な動きはいい加減見慣れた。力任せの攻撃は、もうオレには通用しない。」
一矢は強気に言いかけると、反撃に転じる。力を込めたパンチを、竜也の体に叩き込んでいく。
「こんなことで、オレは倒れるわけにはいかない・・・!」
必死に踏みとどまる竜也だが、一矢の猛攻に押されていくばかりだった。
ヒカルを危険にさらしたこと、オメガに変身できなくなったことにひどく落ち込んでしまっていた光輝。彼のいる病室に、くるみがやってきた。
「太一くんと弥生さん、竜也くんを探しに出たよ・・・」
くるみが声をかけるが、光輝は塞ぎこんだまま反応しない。
「オメガに変身できなくて、ヒカルちゃんがあんなことになって辛いのはあたしも分かるよ・・でもこうして落ち込んでいても何の解決にもならないのは、光輝が1番よく分かってるじゃない・・」
「くるみちゃん・・でも、僕は・・・」
「しっかりしなさい!正義のために戦うのが光輝のポリシーじゃない!それを取ったら、光輝には何も残らなくなるわよ!」
「そうだね・・もう僕には、何も残っていない・・・」
呼びかけるくるみだが、光輝は物悲しい笑みを浮かべるばかりだった。
「今の光輝は竜也くんを助けようとしていない・・竜也くんに甘えてるだけ・・・」
くるみのこの言葉に、光輝が戸惑いを覚える。
「もしも自分の友達が間違ってることをしてるなら、力ずくにでも止めるべき・・たとえその友達を傷つけることになっても・・それが本当の正義だと思う・・・」
「くるみちゃん・・・」
「だから光輝、竜也くんが間違いをしていると思っているなら、全力で止めて・・その気持ちはオメガやライダーの力じゃなく、光輝自身の力だよ・・・!」
くるみの言葉に、光輝は心を揺さぶられていく。彼は自分が正義を見失っていたことを思い知らされた。
「いつもアンタのことを子供染みてるって思ってるけど、真っ直ぐに自分の気持ちを曲げないとも思ってるんだから・・」
くるみは言いかけると、光輝に背を向ける。
「またヒカルちゃんの様子を見に行って来るからね・・光輝はちょっとやそっとなことでへこたれちゃダメなんだから・・」
くるみは光輝に向けて笑顔を見せると、病室を出て行った。
「間違ってることをしてるなら、力ずくにでも止めるべき、か・・・」
くるみの言葉を思い返して、光輝が微笑みかける。
「そうだ・・僕は竜也くんの間違いを正すべきだったんだ・・これ以上、竜也くんを暴走させたらいけない・・・」
迷いを振り切った彼は、ベットから飛び起きた。
「ヒカルちゃんも、きっとそう思ってるよね・・・」
ヒカルのことを思い返し、光輝が小さく頷く。彼は気を引き締めてから、病室を後にした。
その頃、賑わいを見せる街の中を1人の男。黒ずくめの服装をしたその男は、街中で異彩を放っていることを気に留めることなく、真っ直ぐに進んでいた。
彼が足を止めたのは病院の前。改めて歩き出した男が、病院の中に入っていった。
光輝が竜也を止めるべく、病院を飛び出したのはその直後だった。
激闘を繰り広げる一矢と竜也。だが的確な攻防を見せる一矢に、竜也は攻めあぐねていた。
「どうした?憎しみの勢いまで消えてきているようだが?」
「どこまでも思い上がる・・その愚かさが世界を壊していることにも気付けないのか!?」
悠然と言いかける一矢に、竜也が怒鳴りかける。
「愚か、愚かと言い続けているが、お前のほうがよほど愚かではないのか?」
「何だとっ!?」
「敵と見なした相手に見境なく襲いかかる。これでは獣や怪物と思われても文句は言えないぞ。」
「ふざけるな!お前たちの思い上がりが、全てを壊しているのではないか!」
「思い上がっているのもお前だ。お前は思い上がりを叩き潰して、世界を取り戻すようなことを言っているが、結局は自分が正義なんだと言い張っているようにしか見えない。それこそ思い上がりだろう?」
逆に愚か者だと一矢に指摘される竜也。その言葉が、彼の怒りを一気に煽ることとなった。
「自分の愚かさを棚に上げて、逆にオレを愚か者と罵る・・・どこまで腐っているのだ、お前たちは!」
怒りを爆発させた竜也からエネルギーの奔流があふれ出してくる。その衝撃に一矢と太一が緊迫を覚える。
「倒すだけでは我慢がならない・・ここで完全に消し去ってやる!」
咆哮に似た叫びを上げた瞬間、竜也の姿に変貌が起こる。竜を思わせる姿が刺々しいものへと変化していた。
「な・・何だ、これ・・・!?」
竜也の新たなる姿に、太一が恐怖を覚える。
「ガルヴォルスとしての力を進化させたというのか・・」
一矢も竜也の姿を目の当たりにして、余裕を消していた。力を発揮した竜也が、一矢を鋭く見据える。
「消してやる・・2度とオレの前に現れないように・・・!」
竜也は低く告げると、一矢に向かって飛びかかる。彼の速さは格段に上がっており、一矢は回避できずにつかみかかられる。
竜也はそのまま右腕を振りかざし、一矢を地面に叩きつけられる。激しいダメージを負って、一矢のギガスへの変身が解除される。
「一矢さん!・・・変身・・・!」
太一がとっさにクリスに変身して、竜也の攻撃に備える。だが竜也が放ってきた衝撃波で、太一は激しく吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
壁に叩きつけられて、太一がうめく。怒りと力を爆発させた竜也に、太一も窮地に追い込まれていた。
「お前も消してやる・・何もかも消し去ってやる・・・!」
完全に暴走してしまっている竜也が、太一に向けて右腕を振りかざす。
「クリスザンバー!」
太一はとっさにベルトの水晶をセットしたクリスセイバーを振りかざす。だがエネルギーを集束させた一閃が、竜也の腕に弾かれてしまう。
竜也が振るう驚異の力に圧倒されて、太一が打ちのめされる。彼もクリスへの変身が解けてしまう。
「もう終わりだ・・お前たちの愚かさも・・・」
竜也が一矢に向けて右手をかざし、エネルギーを集束させていく。一矢も太一も気絶してしまい、目を覚まさない。
「やめろ!」
そこへ声がかかり、竜也が視線を移す。その先にいたのは、全速力で駆けつけてきた光輝だった。