仮面ライダーオメガ 第32話
アントガルヴォルスとの戦いで、ガルヴォルスへの攻撃を躊躇してしまった光輝。心身ともに追い込まれてしまった彼は、ヒカルたちとともに家に戻ることになった。
自分の部屋のベットで横たわる光輝。彼が塞ぎ込む姿を目の当たりにしたのは、くるみもヒカルも初めてのことだった。
「これは相当重症ね・・光輝がここまでネガティブになるなんて・・・」
「太一くんも思いつめるところが多いですけど、今の光輝くんはそれ以上ですよ・・・」
くるみと弥生が光輝の心配をする。ヒカルも光輝の身を案じて、困惑するばかりだった。
「もしかしたら、光輝くんはオメガとして戦えなくなるかもしれない・・・」
太一が光輝に対して不安を口にする。
「そんなことないって・・光輝さんが、正義感の強い光輝さんが、そんな・・・」
その言葉にヒカルが反論する。しかしそれでも、光輝の様子が楽観的でないことは分かりきっていた。
「とにかく、光輝はあたしとヒカルが面倒を見るから、竜也くんと他のガルヴォルスのことはお願い・・」
「うん・・うまくやれるかどうか分かんないけど、やってみるよ・・・」
くるみが切り出した言葉に、太一が小さく頷く。彼と弥生はひとまず水神家を後にするのだった。
社会人を狙って暴挙を働く男。彼は次の標的を求めて、夜の街をさまよっていた。
「消してやる・・・バカなヤツら全員、オレが消して思い知らせてやる・・・」
社会への憎悪をたぎらせていく男。彼の視界に、気分上々の様子の社会人たちの姿が入ってくる。
「オレがこんな思いをしているのに・・アイツらは・・・!」
怒りを膨らませる男がアントガルヴォルスに変身する。
「バケモノ!?」
「キャアッ!」
ガルヴォルスの出現に、周囲にいた人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。アントガルヴォルスは社会人たちを狙って歩を進めていく。
だがそのとき、アントガルヴォルスは突然肩をつかまれて止められる。肩をつかむ腕を振り払いつつ振り返った彼の前に、一矢が立っていた。
「またガルヴォルスがうろついていたか・・」
「また邪魔が出てきたのか・・気分が悪くなるからそういうのはやめてくれよ・・・」
ため息をつく一矢に、アントガルヴォルスが不満を口にする。
「怪物の言うことに耳を貸すつもりはない。ここで大人しく倒される以外にない・・変身。」
呆れ気味に言いかけてから、一矢がベルトに水晶をセットしてギガスに変身する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」
悠然に言い放つ一矢に、アントガルヴォルスが飛びかかる。振り下ろされてきた爪を、一矢は片手で受け止める。
「害虫駆除というのは優雅さがないから、オレとしては腑に落ちないが・・」
一矢は愚痴をこぼすと、右手でアントガルヴォルスに打撃を見舞う。顔面を殴られて、アントガルヴォルスが苦痛を覚える。
「もう、またこんな仕打ち!」
いきり立ったアントガルヴォルスが、口から蟻酸のガスを吐き出す。だが一矢はとっさに爪から手を放してジャンプし、蟻酸を回避する。
「アリだけに蟻酸か・・だがオレには小細工にもならない。」
悠然と言いかける一矢が、ギガシューターを手にする。立て続けの発砲が、アントガルヴォルスに叩き込まれていく。
怯んだアントガルヴォルスを見据えて、一矢がベルトの水晶を右手の甲にセットする。
「ギガスラッシャー。」
一矢がアントガルヴォルスに飛びかかり、手刀を繰り出す。アントガルヴォルスが口から蟻酸を吐くが、そのガスは一矢の手刀で切り裂かれていく。
一矢のギガスラッシャーで体を真っ二つにされて、アントガルヴォルスが昏倒する。事切れた彼の体が石のように固くなり、砂のように霧散していった。
「ふぅ・・気分が晴れないが、これで害虫駆除は終わりだ・・」
ため息をつく一矢がギガスへの変身を解除する。
「ガルヴォルスは所詮、凶暴性と欲望に突き動かされた獣と同じ。それに同情を抱くなど、吉川光輝も地に堕ちたものだな・・」
光輝の体たらくに一矢は呆れ果てていた。
「何にしても、もしまた海道竜也が現れたなら、今度は確実に倒してやるとしよう。ヤツも結局はガルヴォルスだからな・・・」
一矢は呟きかけると、悠然としたまま歩き出していく。迷いを抱く光輝と違い、彼は竜也と戦うことにためらいはなかった。
一夜が明けても、光輝は落ち込んだままだった。くるみはそんな光輝を無理矢理引っ張って、大学へ連れて行った。
その後ヒカルは、1人で廃工場に向かった。そこではメガブレイバーが待機していた。
「光輝さん・・大丈夫でしょうか・・・?」
「私としても、装着者の精神状態を直接把握できるわけじゃない・・こればかりは光輝自身で解決しないと・・・」
心配の声をかけるヒカルに、メガブレイバーが落ち着きを払ったまま答える。
「どんな形であっても、クリスタルユニットの力を最大限に引き出すには迷いを振り切らないといけない・・ただ、どんな気持ちであっても、私は光輝を信じている。それだけは確かだ・・・」
「メガブレイバー・・・私も信じています・・光輝さんのことを・・・」
語りかけるメガブレイバーに、ヒカルが微笑んで頷く。
「あの・・ひとつ、聞いていいですか・・・?」
ヒカルがメガブレイバーに質問を投げかける。
「クリスタルユニットは、誰でも使えるものなのですか?私でもオメガになれるのですか・・・?」
「クリスタルユニットは、装着者の精神エネルギーを消費して力を発揮する。だから強い精神力を持っているなら、誰でも使うことはできる・・ただ、下手をしたら精神エネルギーの消耗で命を落としてしまうこともあるんだ・・」
「では、私が使える可能性はゼロではないと・・・」
メガブレイバーの説明にヒカルは小さく頷く。もしもこのまま光輝が戦えなくなってしまったら、自分が戦わないといけない。彼女はそう考えていた。
(光輝さんは今まで、私やみんなを守るために戦ってきた・・今度は私が、光輝さんのために何かしてあげないと・・・)
一途の思いと決意を胸に秘めるヒカルだった。
ヒカルとくるみから竜也のことを託された太一。だが太一は弥生とともに、未だに迷いを抱いていた。
「弥生ちゃん・・僕に、あの竜也くんを止めることができるんだろうか?・・・もしかしたら、僕が竜也くんを倒すことになってしまうかも・・・」
「太一くん・・私もどうしたらいいのか分からないよ・・・」
太一が言いかけると、弥生も不安を浮かべる。
「とにかく止めないと・・竜也くんに暴れられたら、僕だって参っちゃうよ・・・」
太一が肩を落としながら言いかける。彼は不安を抱えながらも、竜也を止めることを心に留めていた。
「う、うわあっ!」
そのとき、近くで男の悲鳴が響いてきた。その声のしたほうに、太一と弥生が駆け込む。
2人がやってきた通りに、ドラゴンガルヴォルスとなっている竜也がいた。彼は1人のスーツの男をボディガードもろとも手にかけていた。
「あの人、不正疑惑をかけられている議員・・・」
「自己中心的な人だから、竜也くんが・・・」
太一と弥生が言いかけると、竜也がつかんでいた男を放して振り向く。倒れた男は事切れて動かなくなった。
「お前・・光輝と一緒にいた・・・」
「竜也くん・・・なんだね・・・?」
低く言葉をかける竜也に、太一が不安の声をかける。
「詳しいことは僕には分かんない・・でも、光輝くんやみんなが心配しているってことは確かだよ・・・だから・・・」
「だから大人しく言うことを聞けと?・・オレがそんな言葉に踊らされると思っているのか・・・!?」
呼びかける太一に、竜也が敵意を見せる。
「僕たちに襲い掛からないでよ・・僕だって、こんな戦いしたくないんだよ・・・」
気弱な態度を見せる太一だが、竜也は憎悪をむき出しにしたままである。
「しょうがないんだから・・・変身・・・!」
太一が水晶をベルトにセットして、クリスに変身する。
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」
太一は言いかけると、ゆっくりと迫ってくる竜也を見据える。
「オレを陥れようとする・・お前の本性もそれか!」
いきり立った竜也が太一に飛びかかる。速さに長けた太一は、その動きで竜也が繰り出した拳を回避する。
「逃げるな!」
「イヤだよ・・当たったら痛いじゃないか・・・」
怒鳴りかける竜也に、太一が不満を口にする。竜也が剣を具現化すると、太一もクリスセイバーを手にする。
「やめてったら・・これ以上戦ったら、僕も光輝くんも困るんだよ・・・」
「お前たち愚か者の都合に合わせるつもりはない!ここで叩き潰してやる!」
言葉を掛け合うと、太一と竜也が剣を交える。拮抗した2人の攻防を見かねて、弥生が携帯電話でくるみたちや一矢に連絡を入れた。
竜也のことで悩み続けて、自分の部屋に閉じこもっていた光輝。彼の部屋に、弥生から連絡を受けたくるみが入ってきた。
「光輝、大変よ!竜也くんが!」
「えっ・・・!?」
くるみの呼びかけに、ベットで横たわっていた光輝が飛び起きる。彼は彼女とともに家を飛び出し、バイクで現場に向かった。
同じく弥生から連絡を受けた一矢。彼はギガブレイバーに乗って、太一と竜也の戦いの場に赴いた。
「まだこの辺りをうろついていたとは・・・変身。」
一矢はひとつ吐息をつくと、水晶をベルトにセットしてギガスに変身する。ギガブレイバーから降りた彼は、太一と竜也の攻防に乱入した。
「ここから先は、ヤツの相手はオレがする。」
「次から次へとオレを・・・このままオレが倒れると思っているのか!?」
悠然と声をかける一矢に、竜也がさらに怒りを爆発させる。
「そんな無理矢理なのはイヤだよ・・ここまで来て最後までやらないなんて気分が悪いよ・・」
太一が不満を口にして、竜也への応戦を続ける。2人の攻防に対し、竜也は追い詰められつつあった。
一矢が繰り出した蹴りを受けて、突き飛ばされた竜也が壁に叩きつけられる。その瞬間、一矢と太一がベルトの水晶を右足の脚部にセットする。
「ギガスマッシャー!」
「クリススマッシャー!」
一矢が大きく飛び上がり、太一が竜也に向かって駆け出す。2人が精神エネルギーを込めたキックを放ち、竜也の体に同時に叩き込まれる。
強力な同時攻撃の直撃に、竜也は激痛を覚えてその場にひざを付く。だが彼は苦悶を募らせるも、戦意を消失してはいなかった。
「こんなことで、オレが倒れるわけにはいかない・・・!」
「しぶといものだな。そのしぶとさには、オレもさすがに頭が下がるな・・」
声と力を振り絞る竜也に、一矢が苦笑する。
「だがそれも足掻きにしかならない。そしてそれも、オレが終わらせてやる・・・」
一矢が言い放って、満身創痍の竜也に歩み寄ろうとする。
そのとき、彼らの周囲に爆発が起こる。直後、3人も体に衝撃を叩き込められる。
「ぐっ!」
一矢がうめき、突き飛ばされた竜也が木陰に姿を消した。怯む一矢と太一の前に、ジャックガルヴォルスとなった幸介が現れた。
「またお前か・・お前もヤツと同様にしつこいぞ・・」
「力の消耗と私の攻撃を受けても、まだそんな大口を叩けるとは・・だが口ほどにお前たちの力は残っていないはずだ!」
一矢が不敵に言いかけると、幸介が再び衝撃波を放つ。その攻撃をかわせずに突き飛ばされた一矢と太一が、ギガスとクリスへの変身が解除される。
「張り切りすぎたのが仇になったな。苦しむのはやはり辛いだろう?すぐに楽にしてやるぞ・・」
幸介は言い放つと、かざした右手の上にエネルギーを集束させる。
「太一くん!」
一矢と太一の危機に、弥生が声を上げる。疲弊した2人は立ち上がるのもままならない。
「待て!」
そこへ光輝がくるみとともに駆けつけてきた。バイクから降りてメットを外した光輝が、幸介を見据える。
「お前か・・ずい分と不様を見せているようだが?」
幸介が光輝に目を向けて不敵に言いかける。
「どうして・・どうしてみんなを傷つけるんだ、お前は・・・!?」
声を振り絞って問いかけてくる光輝に、幸介が眉をひそめる。
「どうして?心地よいからだ。より強い力を手に入れて、それを存分に味わう・・クリスタルユニットという強い力を手にすれば、思い通りにならないことはほとんどないからな・・」
「そのために・・お前は竜也くんとは違う・・・!」
あざ笑ってくる幸介に、光輝が怒りを覚える。
「同じガルヴォルスであっても、お前は本当の怪人だ!竜也くんと違って、お前には心がない!」
「フン。私とあのような粗暴な男と一緒にするな。」
「お前のようなヤツに、世界の平和を壊されてたまるか!」
哄笑を上げる幸介に対し、光輝が水晶を手にする。
「変身!」
その水晶をベルトにセットする光輝。
だがベルトに水晶がセットされたにもかかわらず、光輝がオメガに変身していない。
「えっ・・・!?」
光輝だけでなく、くるみもこの状況に目を疑った。光輝はベルトに収まった水晶を1度外す。
「変身!」
そして再び水晶をベルトにセットする。だが光輝オメガに変身していない。
「どういうことなの・・・オメガに、変身できない・・・!?」
オメガに変身できない光輝に、くるみが声を荒げる。オメガになれない理由が分からず、光輝は愕然となっていた。
「どうなってるんだ!?・・・今まで、こんなこと・・・!?」
「ハッハッハ!これは傑作だ!オメガに変身できないとはな!」
動揺を隠せなくなる光輝に、幸介が哄笑を上げる。
「張り合いがなくて拍子抜けだが、簡単にオメガユニットを奪える・・」
光輝に歩み寄る幸介が、足を突き出してきた。その一蹴で光輝が突き飛ばされ、身に付けていたベルトが外れて地面に落ちる。
「光輝!」
窮地に追い込まれた光輝に、くるみは悲鳴を上げる。起き上がろうとする光輝を、幸介が近づいて踏みつけてきた。
「オメガユニットを手にするまでもない・・ここでお前にとどめを刺してやるぞ・・・!」
幸介は言いかけると、刃を1本手にして、その切っ先を光輝の眼前に向けた。
「やめて!」
そこへ声がかかり、光輝と幸介が視線を移す。ヒカルが遅れて通りに駆けつけてきた。
「何だ、小娘?私に葬られたいのか?」
「光輝さんを放してください・・光輝さんを傷つけないで・・・!」
低く告げる幸介に、ヒカルが悲痛さを込めて呼びかける。
「ダメだ・・ヒカルちゃん・・・くるみちゃんと弥生さんと、逃げ・・・ぐあっ!」
声を振り絞ってヒカルに呼びかける光輝だが、幸介に踏みつけられてうめく。
「光輝さん!」
悲鳴を上げるヒカル。そのとき、彼女の目にオメガユニットが入ってきた。
(オメガのベルト・・・!)
“クリスタルユニットは、装着者の精神エネルギーを消費して力を発揮する。だから強い精神力を持っているなら、誰でも使うことはできる・・ただ、下手をしたら精神エネルギーの消耗で命を落としてしまうこともあるんだ・・”
ヒカルの脳裏にメガブレイバーの言葉が浮かぶ。彼女はとっさにオメガユニットを手にして身につける。
「ヒカルちゃん、何を・・・!?」
ヒカルの行動にくるみが当惑を見せる。
「光輝さん・・・今度は私が、光輝さんを守ってみせます・・・!」
決意と想いを告げると、ヒカルが1度外した水晶を再びベルトにセットする。すると彼女の体をオメガの装甲が包み込んだ。
心身ともに追い詰められた光輝に代わって、ヒカルがオメガとなって戦いに身を投じようとしていた。