仮面ライダーオメガ 第31話
竜也の暴走を止めるべく、光輝は彼だけでなく、一矢と太一と戦うことを決意した。
「どういうことなの、光輝くん!?どうしてこんな!?」
「そこまで堕落してしまうとは、見下げ果てたものだよ、君には・・・」
声を荒げる太一と、ため息をつく一矢。
「敵対するというなら、たとえ君でも容赦しない・・分かっているだろう?」
「そんなの関係ない・・竜也くんに、憎しみのままに戦ってほしくないんだ・・・!」
戦意を見せる一矢だが、光輝は決意を告げるだけだった。
「どいつもこいつも勝手なことを・・・ふざけるな・・・!」
光輝と一矢のやり取りに、竜也が苛立ちをあらわにする。
「ふざけるな!」
怒号を上げる竜也が飛びかかり、光輝に襲いかかる。踏みとどまった光輝が、とっさに竜也を投げつける。
そこへ一矢がギガシューターを発砲させてきた。その射撃を受けて、光輝が怯む。
「邪魔をしないでもらおうか。ヤツの相手はオレがするのだから・・」
「だから戦わないでくれって・・・!」
声をかけてくる一矢に、光輝が不満を口にする。3人の混戦に、太一はどう対処したらいいのか分からず困惑していた。
同じく不安を覚えるばかりの弥生。そこへヒカルとくるみが駆けつけてきた。
「光輝・・これって、どうなってるの・・・!?」
目の前で繰り広げられている状況に、くるみは困惑する。光輝、竜也、一矢と太一が入り乱れての乱戦を行っていた。
「やめなさい・・・みんな、やめなさいって!」
たまらずくるみが光輝たちに向けて叫んだときだった。突如光輝たちの周囲に爆発が巻き起こる。
「騒々しく争っているようだな。高みの見物にはもってこいか・・」
そこへジャックガルヴォルスとなった幸介が現れる。光輝たちの抗争に乗じて、彼らを一網打尽にしようと企んでいたのである。
「またお前か!いい加減にしつこいぞ!」
幸介の乱入に光輝が不満の声を上げる。
「しつこいと思うなら、早く私の手にかかって倒されることだな・・・!」
幸介は言葉を返すと、衝撃波を光輝たちに向けて解き放つ。周囲が爆発に巻き込まれていく中、光輝たちが回避行動を取る。
「お前までオレを陥れようとしているのか・・こんなことで、オレが朽ち果てると思っているのか!?」
怒りを膨らませた竜也が、幸介に向かって飛びかかる。
「お前から始末されたいか!?」
哄笑を上げる幸介が、竜也に衝撃波を放つ。その直撃に怯むも、竜也は勢いを止めずに幸介に迫る。
「始末されるのはお前だ!その愚かさとともに、この世界から消え失せろ!」
怒号を上げる竜也が全身からエネルギーを放出する。そのエネルギーが光線となって、幸介に向けて解き放たれる。
「ぐあっ!」
その衝撃に押されて、幸介が突き飛ばされる。その強いダメージにさいなまれて、幸介が人間の姿に戻る。
「ぐっ!・・ヤツ、力が上がっている・・・!?」
竜也の発揮した力に脅威を覚える幸介。疲弊した彼の前に、敵意をむき出しにする竜也が立ちはだかる。
「2度と現れないように、ここで叩き潰してやる・・・!」
「おのれ!」
毒づく幸介がたまらず後退する。彼にとどめをさせなかった竜也が、光輝たちに振り返る。
「愚か者は全て倒す・・それが世界の在るべき形を取り戻す唯一の手段だ!」
「もうやめてください、みなさん!」
竜也が光輝たちに向けて、たまりかねたヒカルが声を上げてきた。その声を耳にして、光輝たちと竜也が攻撃の手を止める。
「いけないですよ、こんなの・・どうして心のある人同士で争うんですか・・・!?」
「ヒカルちゃん・・・」
悲痛の声を上げるヒカルに、光輝が戸惑いを覚える。だが不信に陥っている竜也は、彼女の言葉を聞きいれようとしない。
「心ある人間が、愚かさを働くわけがないだろう!」
「いけない!・・メガブレイバー!」
ヒカルに襲い掛かろうとする竜也と、たまらずメガブレイバーを呼ぶ光輝。スピードフォームとなったメガブレイバーが、ヒカル、くるみ、弥生を乗せて走り去っていった。
光輝もすぐさまこの場から撤退する。困惑を抱えたままの太一も、光輝たちを追って離れていく。
「気分がそがれた・・お前を倒すのは次に会うときだ・・」
一矢も吐息をひとつつくと、竜也の前から立ち去っていく。
「待て!逃げるな!」
竜也が飛び出すが、一矢は呼び出していたギガブレイバーで走り去ってしまっていた。
「ぐっ!・・不利になればすぐに逃げ出す・・これも愚か者のやり方か・・・!」
苛立ちを膨らませていく竜也が人間の姿に戻る。彼の偽善への憎悪は、純粋な正義を貫こうとしている光輝にも向けられていた。
竜也と幸介の攻撃から辛くも脱した光輝とヒカルたち。遅れて太一も彼らに追いついてきた。
「大丈夫、ヒカルちゃん、くるみちゃん・・?」
「光輝さん・・・はい・・私は大丈夫です・・・」
光輝の呼びかけにヒカルが困惑気味に答える。深刻さを抱えたまま、光輝と太一が変身を解除する。
「それにしても竜也くん、かなり怒ってたわよ・・ヒカルちゃんの声も聞こうとせず、襲いかかろうとしたなんて・・・」
「もう何もかもが信じられなくなっている・・周りみんなが敵に見えているんだ・・・」
くるみの言葉を受けて、光輝が弱々しく言いかける。竜也は全てが愚かさの持ち主であると思い込んでしまい、見境なしに敵として襲い掛かってきていた。
「もう、竜也くんに僕たちの声は届かない・・誰の声も聞きいれようとしないんだ・・・」
「光輝、何言ってるのよ!?そんな弱気なこと、光輝らしくないじゃない!」
落ち込む光輝にくるみが声を張り上げてくる。しかし光輝は気落ちしたまま、笑顔を見せない。
「でも、もうこれ以上、竜也くんに何て言ってやればいいのか、分かんないよ・・・」
「光輝・・・」
ひどく落ち込む光輝に、くるみも困惑を覚える。
「光輝さん・・・」
2人の様子を見て、ヒカルも動揺の色を隠せなくなっていた。
「・・みなさん、もう休みませんか?・・あまり深刻になるのは体に毒ですよ・・」
そこへ弥生が言葉を切り出してきた。その呼びかけに光輝たちが戸惑いを見せる。
「そうですね・・とりあえず家に戻りましょう・・少し休めば、気持ちが落ち着くでしょうから・・」
ヒカルも続けて呼びかけると、光輝は小さく頷く。
「そうだね・・・ここは出直したほうがいいかも・・・」
光輝は呟きかけると、ゆっくりと歩き出していく。彼に元気がないのは、誰の目からも明らかだった。
夕暮れ時、スーツに身を包んだ社会人が、その日の仕事を終えて帰路につく。中には仕事の成功を祝って、仕事仲間と食事に向かう人もいた。
だが、その一団の前に、薄汚れた風貌の男が立ちはだかった。
「ん?何だ、コイツ?」
「僕たちに何か用か?」
疑問符を浮かべてくる社会人たちに、男が鋭い視線を向けてくる。
「オレに仕事をさせろ・・仕事をさせてくれれば、何もかも穏便に済んだのに・・・!」
言いかける男の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿がアリに似た怪物に変化する。
「なっ!?」
「バケモノ!?」
出現したアントガルヴォルスに、社会人が驚愕する。逃げ出そうとする彼らに向けて、アントガルヴォルスが口から蟻酸のガスを吐き出す。
「う、うわあっ!」
そのガスを浴びた社会人たちが次々と倒れ、蒸発するように消滅していった。アントガルヴォルスの強力な蟻酸で、肉体も骨も一瞬にして溶解してしまったのである。
「公平にやってくれれば、オレも納得はしたっていうのに・・・」
人間の姿に戻った男が、夢遊病者のように歩いていった。
こうした人間の消失事件が多発しており、周辺の人間を恐怖に陥れていた。
ヒカルと弥生がもてなした夜ご飯だが、光輝はなかなか喉を通らなかった。その後も彼は寝床につくも、なかなか寝付くことができず睡眠不足となってしまった。
翌朝になっても元気にならない彼の姿に、ヒカルは心配の眼差しを送り、くるみは不満を浮かべていた。
「もう、光輝ったら・・いつまでも落ち込んでいてどうするのよ・・・」
「くるみちゃん・・そうはいうけど・・・」
声をかけてくるくるみに、光輝は沈痛さを浮かべる。
「男だったらガッツを見せる!最近の男の子は大人しい子ばっかりで・・誠実なのはいいけど度胸がないのは・・・」
「そうは言われても、僕は僕なんだから・・・」
激励するくるみだが、光輝は空元気を見せるばかりだった。
「す、少し外の空気を吸いに行きましょう、光輝さん・・そうしたほうが、気分転換になるかもしれませんし・・」
そこへヒカルが光輝に声をかけてきた。するとくるみが肩を落としてきた。
「しょうがないんだから・・こうなったらあたしも行くからね。」
「くるみさん・・・そうですね・・一緒に行きましょう・・」
乗り気を見せるくるみに、ヒカルが笑顔を見せる。3人は朝ごはんを済ませた後、気晴らしに散歩に出た。
「そういえば、光輝さんとくるみさんが通っている大学はどういうところなんですか?」
ヒカルが光輝とくるみに話を切り出した。
「どういうところって・・そんな有名なところじゃないんだけどね・・」
「そういう言い方したら、先生やみんなに悪いって・・・」
苦笑いを浮かべて答えるくるみに、光輝が気まずさを見せる。
「1度、行ってみたいです・・光輝さんたちの大学に行って、隆介さんたちからもお話を聞きたいです・・・」
「ヒカルちゃん・・・そうだね・・2学期まで時間があるけど、顔を出すぐらいなら・・・」
ヒカルの申し出に、光輝がようやく笑みを見せた。
「だったらあたしが案内するわ。光輝だとちょっと頼りないからね・・」
「ちょっと、くるみちゃん・・そんな言い方って・・・」
ヒカルに言いかけるくるみに、光輝が気落ちする。2人の雰囲気がいつものものに戻ったように感じて、ヒカルは微笑みかけた。
そのとき、ヒカルは街中を逃げ込んできた1人のスーツの男を目撃する。
「どうしたの、ヒカルちゃん?」
「くるみさん、光輝さん、あの人・・・」
くるみが声をかけると、ヒカルが男を指差す。彼の後を、薄汚れた男がゆっくりと追ってきていた。
「逃げるな・・自分が有利なときは追い立てて、不利になると逃げたり誤魔化したりする・・そんな卑怯にはうんざりしてるんだよ・・・」
低く告げる男がアントガルヴォルスに変身する。
「ガルヴォルス!?」
ガルヴォルスの出現に、ヒカルとくるみが驚く。
「おかしなことをせずに素直に不合格にしてたほうが、よっぽどマシだったのに・・・!」
アントガルヴォルスが社会人に向かって迫る。
「光輝、ボーっとしてないでよ!こういうときこそ正義の味方の出番じゃない!」
「えっ!?あ、うん!」
くるみに呼びかけられて、光輝が我に返る。彼はアントガルヴォルスを見据えて、水晶を手にする。
「変身!」
水晶をベルトにセットして、光輝がオメガに変身する。
「やめろ、ガルヴォルス!これ以上の暴挙は許さないぞ!」
「邪魔するなよ・・オレは真面目に仕事がしたかっただけなんだから・・・」
言い放つ光輝に、アントガルヴォルスが不満を口にする。社会人はアントガルヴォルスが足を止めている間に、全速力で逃げ出していった。
光輝がアントガルヴォルスに飛びかかる。ジャンプして背後に回ると、光輝がパンチを繰り出してアントガルヴォルスを押していく。
反撃がままならずに突き倒されるアントガルヴォルス。光輝がベルトの水晶を右手の甲にセットする。
「ライダーパンチ!」
光輝が起き上がれずにいるアントガルヴォルスに向けて、メガブレイカーを放とうとする。
だが、攻撃を叩き込もうとした光輝の手が突然止まる。彼は攻撃することにためらいを見せていた。
「光輝さん・・・!?」
この異変にヒカルが当惑を覚える。くるみもどういうことなのか分からず、言葉が出なくなっていた。
光輝の脳裏には竜也の姿が浮かび上がっていた。ガルヴォルスでありながら心のある彼に感情移入するあまり、光輝はガルヴォルスへの攻撃を躊躇していた。
「竜也くん・・・どうして・・・!?」
完全に困惑してしまう光輝。アントガルヴォルスに対して、彼はこれ以上攻撃のために踏み込むことができない。
そこへアントガルヴォルスが口から蟻酸を吐き出してきた。このガスに煽られて、光輝が突き飛ばされる。
蟻酸を浴びたオメガの装甲の一部分に腐食が起こる。だが強度のある装甲は大きな損傷には至っていなかった。
だが動揺を膨らませる光輝は、精神面でそれ以上に追い込まれていた。そんな彼に対してアントガルヴォルスが反撃に転ずる。
アントガルヴォルスの振りかざす爪が、オメガの装甲を切りつけて火花を散らす。
「光輝さん!」
「光輝!」
ピンチに陥る光輝に、ヒカルとくるみが声を上げる。深い苦悩に陥った光輝は、アントガルヴォルスの攻撃を受けて倒れ、オメガへの変身が解除されてしまう。
「くっ!・・・いけない・・変身が・・・!」
「穏便に話を進めていれば、こんなことにならなかったのに・・・」
危機感を覚える光輝に、アントガルヴォルスが低く告げてくる。心身ともに追い込まれた光輝は、立ち上がるだけで精一杯だった。
そのとき、クリスレイダーを駆る太一が飛び込んできた。クリスレイダーの突進が、光輝に迫るアントガルヴォルスを突き飛ばした。
「大丈夫、光輝くん!?」
「太一くん・・・」
呼びかける太一に、光輝が当惑しながら声を発する。
「光輝くん・・・変身・・・!」
光輝に対して戸惑いを浮かべるも、太一は気持ちを切り替えてクリスに変身する。
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」
アントガルヴォルスに視線を向けて、太一が言いかける。
「邪魔してくるなんて・・・どうして穏便に話を進ませてくれないんだ・・・!?」
いきり立ったアントガルヴォルスが太一に襲い掛かる。振りかざしてきた爪を、太一がクリスセイバーを手にして防ぐ。
「気をつけて!蟻酸を吐いてくる!」
光輝の呼びかけを受けて、太一が警戒を強める。彼が後退したところで、アントガルヴォルスが口から蟻酸のガスを吐き出してきた。
「これじゃ近づくのは危険だ・・・だったら!」
思い立った太一が、ベルトの水晶をクリスカリバーの柄にセットする。
「クリスストラッシュ!」
太一が放つ一閃。その光の刃に対し、アントガルヴォルスがとっさにかわす。
だが一閃の衝撃波までは回避しきれずに吹き飛ばされるアントガルヴォルス。だが彼はその勢いに乗って、太一の前から逃亡していった。
「逃げられた・・でも、今は追ってるときじゃない・・・」
アントガルヴォルスの追跡をせず、太一は変身を解除して光輝に駆け寄る。
「光輝くん、大丈夫!?光輝くん!」
太一が呼びかけるが、光輝は困惑したままである。彼はガルヴォルスに対する攻撃の躊躇に、どうしようもない気持ちを感じていた。
そこへヒカルとくるみ、さらに遅れて弥生が駆け寄ってきた。
「光輝さん、太一くん・・大丈夫・・・?」
「弥生ちゃん・・・僕は大丈夫だけど、光輝くんが・・・」
心配する弥生に答える太一。ヒカルもくるみも、ひどく落ち込む光輝に困惑を隠せなくなっていた。