仮面ライダーオメガ 第30話
両手を掲げてエネルギーを集束させて、衝撃波にして解き放つ。だが力を使い果たした光輝と竜也には、回避する余力は残っていなかった。
そこへスピードフォームのメガブレイバーが走り込んできた。メガブレイバーは光輝と竜也を乗せて、幸介の衝撃波から逃れた。
爆発が巻き起こる中、幸介は2人の逃走を見逃していなかった。
「まだ逃げるだけの手段があったか・・もう少しのところで・・・!」
苛立ちを覚える幸介が人間の姿に戻る。彼はひとまずこの場から撤退するのだった。
メガブレイバーの救援で、光輝と竜也は窮地を脱した。だが互いの正体を目の当たりにして、2人の心は揺れ動いていた。
「まさか、竜也くんがあのガルヴォルスだったなんて・・・!?」
困惑を浮かべて、光輝が竜也に目を向ける。竜也は光輝に鋭い視線を向けてきていた。
「まさかお前がオメガだったとはな・・偽善の象徴であるオメガが、お前だったとは!」
「違う、竜也くん・・・オメガは、仮面ライダーは絶対に偽善なんかじゃない・・・!」
「黙れ!やはりお前も、オレを欺いて陥れようとしていた偽善者だったのだな!」
光輝の抗議の声を竜也が激怒で突き放す。竜也の心は今、光輝への憎悪で満ちていた。
「もうお前にも気を許さない・・愚か者全てを葬らない限り、世界は腐ったままだ!」
「ダメだ!そんなことをしたら、逆に世界を壊すことになる!壊すことでは、世界を救うことなんてできない!」
「お前の戯言は聞き入れない!どうしてもオレを陥れようとするなら・・・!」
光輝の呼びかけを拒絶する竜也の頬に、異様な紋様が浮かび上がってくる。だが力を消耗していたため、彼はドラゴンガルヴォルスに変身することができなかった。
「オレは・・オレはお前を、許さない・・・偽善を絶対に許さない!」
声を振り絞る竜也がこの場から立ち去っていく。
「竜也くん、待って・・・ぐっ・・・!」
彼を追いかけようとした光輝だが、同じく疲れ切っていたためにふらついて倒れかける。
「大丈夫、光輝・・・!?」
「僕は大丈夫・・・でも、竜也くんが・・・!」
心配の声をかけるメガブレイバーに、光輝が声を振り絞る。だが光輝に竜也に追いつくだけの体力は残っていなかった。
光輝の帰りが遅く、くるみは不満を膨らませ、ヒカルは心配の色を隠せなくなっていた。
「光輝ったら、いつまで寄り道してるのよ!?買い物も満足にできないなんて!」
「もしかして、何か事件に巻き込まれているのではないでしょうか・・・?」
愚痴をこぼすくるみに、ヒカルがおもむろに呟きかける。
「うっ・・・十分ありえるのが怖い・・・」
その言葉を聞いて、くるみが肩を落とす。
「私、やっぱり探しに行ってきます・・くるみさんは家で光輝さんを待っていてください・・」
「ちょっと、ヒカルちゃん・・!?」
光輝を探しに飛び出そうとするヒカルを、くるみが呼び止める。だがヒカルはその呼び声を聞かずに玄関のドアを開けた。
そのとき、丁度家に戻ってきた光輝が、疲弊のあまりに倒れこんできた。
「こ、光輝さん!?」
「えっ!?」
ヒカルが上げた声に、くるみもたまらず驚く。疲れ果てていた光輝は、玄関で倒れて動けなくなっていた。
「光輝さん!しっかりしてください、光輝さん!」
「とびかくベットまで運ぶわよ!ヒカルちゃん、手伝って!」
光輝に呼びかけるヒカルに、くるみが指示を出す。2人は光輝を、彼の部屋のベットまで運んでいった。
光輝が目を覚ましたのは、家についてからおよそ3時間後。既に日が沈んだ後のことだった。
「竜也くん!」
悪夢にうなされて、声を上げて飛び起きた光輝。彼の目に、心配の面持ちを浮かべているヒカルの姿が映る。
「気が付きましたか・・ずっとうなされていたので心配していたんですよ・・・」
「ヒカルちゃん!?・・ここは・・・!?」
安堵の笑みを浮かべるヒカルと、まだ意識がはっきりせずに記憶が混乱している光輝。彼は周囲を見回して、ここが自分の部屋であることを確かめる。
「ここは、僕の部屋・・・竜也くんは!?」
「竜也さん?今日は会いませんでしたけど・・・竜也さんに何か・・・?」
訊ねてくる光輝に、ヒカルが当惑しながら答える。
「いけない・・このままでは竜也くんが・・・!」
たまらずベットから起き上がろうとする光輝だが、まだ体力が回復しきっておらず、ふらついてしまう。
「ダメですよ、光輝さん!まだ疲れているんですから!」
光輝を支えてヒカルが呼びかける。しかし光輝は竜也を探そうとするのを諦めていない。
「話してもらえますか?・・光輝さんに、竜也さんに何があったのか・・・」
ヒカルが言いかけると、何とか落ち着きを取り戻した光輝は、今日のことを打ち明けた。竜也がガルヴォルスだったことを。オメガであることを彼に知られたことを。
「竜也さんがガルヴォルス・・・そんな・・・!?」
この話を聞いて、ヒカルは困惑を感じていた。
「僕も信じられない・・普段も正義に対して不満を感じていたみたいだけど・・・」
「光輝さんがオメガだと知って、もう誰の言葉にも耳を貸さなくなったりしなければいいのですが・・・」
「問題はそこなんだ・・あのときの竜也くんは、僕のことも敵だと認識してる・・・何とかして落ち着けたいところなんだけど・・・」
「竜也くん、どこにいるのでしょうか・・・?」
竜也を見つけ出すことも困難であると痛感し、光輝とヒカルが沈痛の面持ちを浮かべる。そこへくるみが部屋に入ってきた。
「もう、暗い顔しないでよ・・気持ちがそんなんじゃ、体も元気にならないわよ・・」
「くるみちゃん・・ゴメン・・そうだよね・・ありがとう・・・」
くるみの言葉を受けて、光輝が笑顔を見せる。だが彼の笑みが物悲しいものであることに、くるみもヒカルも感付いていた。
「今は休みなさい。一矢さんや太一くんにも連絡しておくから・・・」
「それはやめてくれ・・まだ、竜也くんを刺激したくないから・・・」
くるみが口にした言葉に、光輝がたまらず呼び止める。くるみも光輝から事情を聞くことにした。
光輝が再び眠りについた後、くるみは一矢と太一に連絡を入れた。光輝の心境を察して、彼女には黙っていることができなかった。
その翌朝、一矢が水神家を訪れた。光輝はヒカルとくるみの制止を聞かずに、竜也を探しに飛び出してしまった。
「くるみさんの話は分かった。だがそれだけは聞き入れることはできないな・・」
「どうしてよ?・・ガルヴォルスだから・・・!?」
賛同しない一矢に、くるみが不満を浮かべる。
「当然だ。あんなのがオレの周りにいるのはいい気がしない・・」
「でも、光輝があんなに心配しているくらいなんだから・・・さすがにあたしもただ事じゃないって・・」
「だったらしっかり彼に注意を促さないといけないな。あんな怪物の類と交流を深めようとは・・」
「でも、光輝はそんな冷たい子じゃない・・何かあるんじゃないかなって・・・」
光輝を心配するくるみに、一矢は呆れてため息をつく。
「彼はよくヒーローに憧れているからな。怪物でも助けようという気持ちが芽生えているのではないかな?」
淡々と告げる一矢に、くるみは反論することができなかった。悪を憎んで人を救う。そのことを光輝が重んじているのを、彼女も理解していた。
「とにかくオレはヤツを見つけたら倒させてもらう。ガルヴォルスにうろつかれるのは気分が悪くなるからな・・」
一矢はくるみに言いかけると、家を後にした。彼女はこれから何かとんでもないことが起こりそうな予感を感じていた。
くるみから連絡を受けた太一と弥生は、光輝と竜也に対して不安を覚えていた。光輝の知り合いに対してどう対応したらいいのか分からなかったのだ。
「光輝くんの友達が、ガルヴォルスだったなんて・・・」
「しかも正義や法律を憎んでいるみたいって・・でも、その憎しみには理由があって・・・」
深刻な面持ちを浮かべる太一と弥生。
「それで、太一くんはどうするの?・・探すなら、光輝くんと合流したほうが・・・」
「うん・・でも竜也くんが何を仕掛けてくるか・・・」
光輝に力を貸したいと思いながらも、竜也の出方が分からず、太一も弥生もそこまで踏み切ることができないでいた。
迷いを抱えながらも、2人はまず光輝と合流することを心に決めた。
竜也を追い求めて、光輝は街を駆け回っていた。だが街中から人1人を見つけ出すのは、非常に困難なことだった。
「竜也くん、どこにいるんだ・・憎しみのままに戦っても、何の解決にもならない・・・」
竜也の激情と暴走を不安に感じていく光輝。同時に彼は、竜也と戦うことにも不安を感じていた。
途方に暮れる光輝に、ヒカルが駆け込んできた。
「光輝さん・・闇雲に探しても、竜也さんは見つけられないですよ・・・」
「ヒカルちゃん・・・でも、じっとしていたら、いつ竜也くんが誰かを襲うか分かんないし・・・」
呼びかけるヒカルだが、光輝の竜也を心配する気持ちは変わらない。
「怒りをぶつけても、竜也くんを憎む人たちが出てくる・・そうなったらもう、竜也くんに安息はない・・・!」
「光輝さん・・・」
深刻さを募らせる光輝に、ヒカルは沈痛の面持ちを浮かべる。
「とにかく探さないわけにはいかない・・もう少しこの辺りを調べてみるよ・・・」
「待ってください・・私も一緒に探します・・・」
飛び出そうとした光輝を、ヒカルが呼び止める。彼女も竜也捜索に乗り出そうとしていた。
「1人より、2人で探したほうがいいと思いますよ・・・」
「ヒカルちゃん・・・ありがとう、ヒカルちゃん・・・行こう!」
ヒカルの優しさを受け止めて、光輝が笑顔で頷く。2人は竜也の捜索を続けるのだった。
怒りと憎しみの赴くままに行動し、竜也は街外れの小道を歩いていた。オメガが光輝であることを知って、竜也は誰もが偽善者、敵に見えていた。
(もう気を許さない・・愚か者たちは、オレをさらに陥れようと企んでいる・・だが、そんな戯言に耳を傾けることはもうない・・・)
偽善者への憎悪をたぎらせていく竜也。彼は小道を抜けて、広い通りに足を踏み入れた。
「まさかこんなところで君と出くわすとは・・」
そこへ声をかけられて、竜也が振り返る。その先には悠然とした態度を見せる一矢の姿があった。
「またお前か・・オレを倒そうというのか・・・?」
「そういうところか・・お前のようなヤツに、オレの周りをウロウロされるのはいい気がしないからな・・・」
目つきを鋭くする竜也に、一矢が悠然とした態度を見せる。その言動が竜也の憎悪を逆撫でする。
「そんなふざけた考えが、世界を腐らせていくのが分からないのか・・・!?」
激昂した竜也の頬に紋様が走る。彼の姿がドラゴンガルヴォルスに変化する。
「分かっていないのはお前のほうだ。オレと戦うことが、どれほど浅はかなことなのか・・」
一矢は淡々と言葉をかけると、水晶を手にする。
「変身。」
その水晶をベルトにセットして、一矢がギガスに変身する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから。」
「その思い上がりがある限り、世界は崩れていくばかりなんだ!」
悠然と名乗る一矢に、竜也が怒りをあらわにする。敵意をむき出しにして飛びかかる竜也を、一矢は軽いステップで回避していく。
「逃げるな!愚か者は逃げることしか能がないのか!?」
「言ってくれるな。だったらそろそろ攻撃に移させてもらうぞ・・」
怒鳴りかける竜也に、一矢は前に出て反撃を仕掛ける。一矢の攻撃は確実に命中していたが、竜也にダメージを与えるには至らない。
「力が上がっているのか・・オレの攻撃を受けて平然としているとは・・」
強化されている竜也の力に、一矢が毒づく。直後、竜也が繰り出した拳を叩きつけられ、ギガスの装甲から火花が散る。
「ぐっ!」
うめく一矢につかみかかり、竜也が膝蹴りを叩き込む。その一打一打に、ギガスの装甲から火花が発せられる。
「まだだ!この程度ではお前たちは思い知らない!」
竜也が一矢を持ち上げ、そのまま投げつける。横転した一矢に迫り、竜也が踏みつけて追い討ちを仕掛ける。
その戦いの場に、太一が弥生とともに現れた。
「一矢さん・・・!」
一矢の危機に太一が慌てて駆け出す。
「変身・・・!」
太一が手にした水晶をベルトにセットして、クリスに変身する。太一は一矢を攻め立てている竜也を、横から突き飛ばす。
「くっ!・・また邪魔が・・・!」
太一の乱入に竜也がうめく。太一に助けられて、一矢がゆっくりと起き上がる。
「助けてくれとは頼んでいないぞ。ヤツはオレがいれば十分だ。」
「そんな気持ちなんてないよ・・・もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」
不満を口にする一矢に対し、太一が弱々しく言いかける。立ち上がった竜也が太一に目を向ける。
「誰だろうと容赦はしない・・敵は全て叩き潰すだけだ!」
飛びかかる竜也の両腕に、一矢と太一が突き飛ばされる。危機的状況を見かねて、弥生はすぐさま光輝たちに連絡を入れた。
弥生からの連絡を受けて、光輝はメガブレイバーを駆って竜也たちのところに向かっていた。だが光輝は竜也の暴走を気がかりにしていた。
(竜也くん、早まったことはしないで・・・!)
一途の願いを胸に秘めて、光輝がさらに走行していく。彼の視界に、一矢と太一と交戦する竜也の姿が飛び込んできた。
「竜也くん・・・変身!」
光輝が水晶をベルトにセットして、オメガに変身する。彼はメガブレイバーを加速させて、竜也と一矢たちの間に割って入る。
「やめるんだ、竜也くん!一矢さんも太一くんも!」
「光輝くん・・・!?」
呼びかける光輝に太一が当惑する。だが一矢は呆れて肩を落としていた。
「血迷ったか?君はガルヴォルスを庇うのか?」
「違う!竜也くんは人間だ!心優しい1人の人間なんだ!」
一矢の言葉に光輝が呼びかける。
「笑わせるな。心優しい人間が、見境なしに襲い掛かってくるものなのか?」
一矢のこの言葉に、光輝は反論できなかった。気まずさを抱えたまま、光輝は竜也に振り返る。
「竜也くんもやめるんだ・・このままでは、君は確実に人間の心を失ってしまう・・・!」
「人間の心を失っているのは、お前たち愚か者だ・・その愚かさを叩き潰さない限り、お前が大切にしている心は消えたままだ・・・!」
続けて呼びかける光輝だが、竜也も聞き入れようとしない。
「オレはこの愚かな世界を壊す・・世界の愚かさを根絶やしにすることこそが、安息への道だ!」
いきり立った竜也が飛びかかり、光輝を突き飛ばす。倒された光輝を背に、竜也が一矢と太一に向かっていく。
「あまりしつこくされるのは好ましくないのだが・・・」
一矢は呟くと、竜也を迎え撃つ。太一も竜也を敵と見なして身構える。
再び繰り広げられる3人の激闘。この攻防を光輝は危惧していた。
「やめるんだ・・戦ったらいけない・・・!」
声を振り絞る光輝だが、その声はか細く、3人には届かない。
「やめろ・・・みんな、やめるんだ!」
いきり立った光輝が飛び出していく。3人の攻防の真っ只中に入り込み、意識を集中する。
「メガフラッシャー!」
光輝が放った精神エネルギーの閃光で目をくらまされ、竜也たちが怯む。攻撃が止まったこの場で、光輝が言い放つ。
「みんながこんな形で戦ったらダメだ!これ以上戦うというなら、オレはもう黙ってはいられない!」
光輝が3人を見据えて構えを取る。彼はあえて、竜也とも一矢、太一とも戦うことを覚悟していた。
「戦わせないために、オレは戦う!」
言い放つ光輝が、竜也、一矢、太一、3人全員と戦う決意を固めるのだった。