仮面ライダーオメガ 第29話

 

 

 アルバイトを終えた帰り、光輝は1人買い物に寄り道していた。その店での買い物を終えたところで、彼は近くで笑顔を見せる子供たちを目にする。

 話題にしていたのは仮面ライダーの話。ライダーに対する憧れや夢を、子供たちは語り合っていた。

(やっぱり仮面ライダーは、子供たちのヒーローなんだね・・・)

 子供たちの姿を見て、光輝も喜びを感じていた。彼は仮面ライダーの人気を改めて実感していた。

「やっぱり正義の味方はいいものということだね・・」

「正義の味方だと?くだらない・・」

 光輝がもらした呟きに鋭い声が返ってきた。彼に歩み寄ってきたのは竜也だった。

「竜也くん・・・」

「正義など所詮は偽善。自分を都合よくするための幻想に過ぎない・・」

 戸惑いを見せる光輝に、竜也が冷淡に告げる。

「こうしている間にも、愚か者は自惚れを正義と偽って世界を腐らせている。そのことも知らずに、子供は偽善さえも受け入れてしまう・・」

「そんなことはない!ヒーローにそんな騙しなんてない!ヒーローは子供たちの夢と憧れの象徴なんだから!」

 竜也の言葉に光輝が反発する。

「あんなにヒーローについて楽しく話して、その世界にのめりこんでいる・・その気持ちが、偽者であるわけがない・・」

「お前も信じているんだな・・だが信じたところで、偽善者からは必ず裏切られる・・あの子供たちも、非常の現実に直面することになる・・・」

 必死に呼びかける光輝だが、竜也は冷徹に告げるだけだった。

「どうして君は正義を、みんなを信じないんだ・・・?」

「信じられない。そこまで追い込まれるに足りる悪さが、愚か者たちには十分にある・・」

 困惑を浮かべる光輝に、竜也はさらに続ける。

「もはや話し合おうとしたところで、連中はあざ笑うだけだ・・頭と体に叩き込む以外に方法はない・・」

「そんな・・話し合えば、みんな分かってもらえるって・・・」

「ではお前の信じている正義も、話し合いばかりのぬるいものなのか?」

 竜也が切り出した問いかけに、光輝が言葉を詰まらせる。

「話し合いで全てが解決するなら、世界はここまで腐ったりなどしない・・だが愚か者は自分の愚かさを理解しようともせず、暴走するばかり・・・仮にお前の正義が正しいとして、そんな愚か者を正すのも、お前のいう正義ではないのか?」

「それは・・・相手は人間だ・・倒すなんて・・・」

「できないのか?やはりお前の口にする正義も、見苦しいだけのものでしかないか・・」

 気落ちしていく光輝をあざ笑う竜也。その言葉に光輝が不快を覚える。

「そんなことはない!誰かが悲しんだり辛くなったりしているのをよく思わない!それは君だって同じじゃないのか!?

「誰もがそうというわけではない。この愚かさを思い知らせ、ともに消し去ることが最善手になっている・・それはお前でも否定することはできない・・」

 頑なに正義への嫌悪を示す竜也に、光輝は歯がゆさを感じていた。どうすれば竜也に優しさを取り戻させることができるのか、光輝は苦悩していた。

 そのとき、光輝と竜也の耳に子供たちの騒がしい声が入ってきた。2人が目を向けると、1人の男の子を数人の子供たちがいじめていた。

「いじめ!?・・大変だ、助けないと!」

 光輝が子供たちに駆け寄り、いじめを止める。いじめられていた子供が、怖さのあまりに泣き崩れていた。

「ダメじゃないか、いじめたりして!しかも1人相手に大勢だなんて卑怯じゃないか!」

「だってコイツ、生意気なんだもん!」

 注意をする光輝に、子供たちが不満を口にする。

「そういう理由でいじめられたら、君たちだってイヤだよね?いいと思うのは悪者の考えだよ・・」

 光輝に言いかけられて、いじめていた子供たちが落ち込む。

「もうケンカはダメだよ。分かったら仲直りだ・・」

「うん、分かったよ・・・」

 微笑みかける光輝に頷くと、子供たちは互いに謝り、元気を取り戻して走り出していった。彼らの後ろ姿を見て、光輝が安堵を覚える。

「のん気なものだ、世界で起きている愚かさを見ていないのだから・・」

 そこへ竜也が無邪気な子供たちを嘲ってきた。その言葉に光輝が不満を覚える。

「あの純粋なところが、人のいいところなんだ・・世界が大きく揺れていても、その気持ちだけは絶対に変わらない・・」

「どうかな?むしろその純粋なところが、愚かさの根源なのかもしれないぞ・・・」

 切実に言いかける光輝に、竜也が不敵な笑みを見せる。

「お前は世界を知らなさ過ぎる・・愚かとしかいえない現実を、お前は信じようともしていない・・・」

 竜也は光輝に言葉をかけると、ゆっくりと歩き出す。これ以上かける言葉が見つからず、光輝は黙り込むしかなかった。

 

 竜也のことが気がかりになってしまい、光輝は気落ちしたまま岐路に着いていた。そんな彼を見つけて、太一と弥生が声をかけてきた。

「光輝くん、どうしたんですか・・?」

 太一に声をかけられて、我に返った光輝が足を止める。

「太一くん・・弥生さん・・・」

「光輝さん、何だか元気がないみたいですけど・・・もしかして、くるみさんと・・・?」

 元気のない声を出す光輝に、弥生が心配の声をかける。

「う、ううん、違うって・・これは、僕だけの問題で・・・」

「そ、そうなの・・・本当に大丈夫なの、光輝くん・・・?」

 苦笑いを浮かべて弁解する光輝に、太一が戸惑いを見せる。

「は、早く家に帰らないと、ホントにくるみちゃんに怒られちゃう・・・」

「そう・・・でも本当に何かあったら、僕に相談してきて・・僕じゃなくても、弥生ちゃんでも誰でもいいから・・・」

「ありがとう、太一くん・・弥生さんも・・・ホントにありがとうね・・・」

 太一に励まされて、光輝が頷いて歩き出していった。去っていった彼の後ろ姿を見送って、太一と弥生が深刻な面持ちを浮かべる。

「本当に大丈夫かな、光輝くん・・・?」

「光輝さんはいつも笑顔を絶やさない優しい人・・周りを心配させたくないあまりに、悩みも全部自分で抱え込んでしまうのかもしれない・・」

「僕とは本当に対照的・・あの明るさと笑顔、見習わないといけないかな・・・」

 光輝の心配を口にする太一と弥生。2人は光輝自身が話を切り出すのを待つことにした。

 

 光輝の呼びかけを頑なに拒絶している竜也。地下道に足を踏み入れた彼の前に、幸介が姿を現した。

「また会ったな、海道竜也・・」

「お前・・お前には協力するつもりはない。早く消え失せろ・・」

 不敵な笑みを見せる幸介に、竜也が冷淡に言いかける。だが幸介は退こうとしない。

「そこまで周りを邪険にするとは・・そこまでして敵を作って、何の意味があるというのだ?」

「自分を終わらせないためだ・・騙されて利用されたなら、オレの全てが崩壊する・・・」

 幸介が投げかけた疑問に、竜也が答える。それを聞いて幸介がため息をつく。

「本当に私に協力するつもりはないか・・・ならば本当に崩壊させておこうか・・・!」

 目つきを鋭くする幸介の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿がジャックガルヴォルスへの変身を遂げる。

「やはりオレを始末しようという魂胆か・・・今度こそお前の愚かさを叩き潰してやる・・・!」

 怒りをあらわにした竜也も、ドラゴンガルヴォルスに変身する。

「どちらが愚か者か、私の力を受けて理解するがいい・・・!」

 幸介が言い放つと、左手から光線を放って竜也を狙う。竜也は跳躍してかわし、幸介に殴りかかる。

 竜也の繰り出す拳が幸介に叩き込まれる。だが続けて繰り出した竜也の両腕が、幸介に受け止められる。

「これだけの至近距離ならよけるのは困難だろう!」

 言い放つ幸介が全身からエネルギーを放出する。その閃光に当てられて、竜也が苦痛を覚える。

「すぐに葬ってしまうと理解できないからな。じっくりと体に刻み付けてやる・・・!」

 幸介は言いかけると、体の角に手をかけて引き抜く。その角が刃となって、彼の手に握られる。

 幸介が振りかざしてきた刃に切りつけられて、竜也が追い込まれていった。

 

 家に帰った光輝は、帰りが遅かったことでくるみに怒られた。さらに買い忘れが見つかり、彼はまた買い物に出かけさせられる羽目になった。

「くるみちゃん、あんなに怒らなくなって〜・・・」

 完全に気落ちしながら、光輝はバイクを走らせる。

 そのとき、遠くから轟音が響くのを耳にして、光輝がバイクを止める。

「この音・・もしかしてガルヴォルスが・・・!」

 思い立った光輝が、音のしたほうへとバイクを走らせる。彼が駆けつけた広場にて、ジャックガルヴォルスである幸介、竜也が変身しているドラゴンガルヴォルスが戦っていた。

「ガルヴォルス・・こんなところに・・・!」

 ガルヴォルスを目の当たりにして、光輝は正義をたぎらせる。バイクを降りて駆けていく彼が、水晶を手にする。

「変身!」

 水晶をベルトにセットして、光輝がオメガに変身する。

「オメガ!?

「何っ!?

 オメガの接近に気付いて、幸介と竜也が声を荒げる。光輝が2人の間に割って入る。

「ガルヴォルス・・・お前たちの勝手にはさせないぞ!」

「まさかオメガまで現れるとは・・ややこしくなったものだ!」

 言い放つ光輝に幸介が飛びかかる。振り下ろされる刃をかわして、光輝が反撃に転ずる。

 繰り出されるパンチに押される幸介。竜也との戦いで、彼は体力を消耗していた。

「少し力を出しすぎたか・・・!」

 毒づいた幸介が光輝に向けて刃を投げつける。それすらかわした光輝から、幸介が跳躍して撤退していく。

「逃がさん!」

 幸介を追おうと駆け出そうとする光輝。だが彼の前に、ドラゴンガルヴォルス、竜也が立ちはだかる。

「今度こそお前を倒す・・お前こそが偽善の象徴!」

「お前・・これ以上みんなを傷つけさせはしないぞ!」

 互いに言い放つ竜也と光輝が飛びかかり、攻撃を繰り出す。命中、防御を繰り返して、2人の戦いは一進一退の攻防となった。

 だが幸介に追い込まれていた竜也も、体力を消耗させていた。

「こんなことで倒れてたまるか・・オレが倒れれば、世界は確実に崩壊する・・・!」

 いきり立った竜也が、力を振り絞って反撃に転ずる。彼が繰り出したパンチが、光輝のまとうオメガの装甲に叩き込まれる。

「ぐっ!」

 痛烈な一撃を受けて突き飛ばされ、光輝がうめく。竜也のパンチの重みに押され、光輝は劣勢を強いられる。

「パワーが上がっている・・これでは防ぐのも危ない・・・!」

 飛び掛ってくる竜也に対し、光輝はジャンプして回避する。

「スピードで何とか反撃するしかないか・・・メガブレイバー!」

 打開の糸口を見出そうとする光輝が、メガブレイバーを呼ぶ。彼と迫る竜也の間を、メガブレイバーが駆け抜ける。

 光輝はジャンプしてメガブレイバーに乗り込み、走り出す。パワー重視のパワードフォームのメガブレイバーを迎え撃つ竜也だが、その前輪に突き飛ばされて横転する。

 転回して停車した光輝が、立ち上がる竜也を見据える。

「メガブレイバー、スピードフォームだ!」

「分かった!」

 光輝の呼びかけに答えて、メガブレイバーがスピード重視のスピードフォームに形状を変える。光輝がメガブレイバーを走らせて、竜也に向かっていく。

 迎撃に出る竜也だが、加速するメガブレイバーに翻弄されていく。

「速さを上げてきている・・だが、それだけでは!」

 加速して向かってくる光輝とメガブレイバーに対し、竜也も飛びかかる。彼が繰り出した右腕が、光輝をメガブレイバーから突き飛ばす。

「ぐあっ!」

 横転してうめく光輝。着地した竜也が光輝に向けて右手を振り下ろす。

 光輝は即座に横転して、竜也の追撃をかわす。同時に彼はベルトの水晶を手にして、右手の甲にセットする。

「ライダーパンチ!」

 竜也が振り下ろしてきた右手と、光輝が繰り出したパンチがぶつかり合う。その反動で竜也が大きく突き飛ばされる。

 竜也が怯んだところで、光輝が立ち上がり、意識を集中する。

「負けられない・・お前たちガルヴォルスのために、世界の平和を壊させるわけにはいかないんだ・・・!」

 言い放つ光輝が、水晶を右足の脚部にセットする。起き上がる竜也を見据えて、彼は大きく飛び上がる。

「ライダーキック!」

 光輝が繰り出したメガスマッシャーが、竜也の体に叩き込まれた。この一蹴を受けて、竜也が吹き飛ばされる。

 体に激痛を覚えてうめく竜也。だが正義への憎悪を膨らませる竜也は、光輝の攻撃のダメージを跳ね除けて立ち上がる。

「こんなことで・・オレが倒されてたまるか・・・!」

「なんてヤツだ・・ライダーキックをまともに受けて、立ち上がるなんて・・・!」

 なおも戦意をむき出しにする竜也に、光輝が緊迫を覚える。体力の消耗を感じて、光輝は焦りをも感じていた。

「だが、オレは負けるわけにはいかないんだ・・世界の平和と人々の自由を守るため、オレは戦う!」

「ふざけるな!もはや愚か者を叩き潰す以外に、世界を正す術はない!」

 決意を言い放つ光輝に、竜也が怒号を放つ。

 そのとき、2人のいる場所に突如爆発が巻き起こった。突然のことに光輝も竜也も緊迫を膨らませる。

「浅はかなものだ!こうもうまく潰し合ってくれるとは!」

 高らかに言い放ってきたのは、撤退したはずの幸介だった。

「お前、まだうろついていたのか・・・!?

「私が簡単に尻尾を巻くとでも思っていたのか!?お前たちがうまく潰し合ってくれれば、私にとっては好都合というものだ!」

 毒づく竜也と、高らかに言い放つ幸介。幸介の2度目の攻撃に、光輝も危機感を覚えていた。

「もはやお前たちに、まともに戦えるだけの力は残っていない!私の手で、2人まとめて始末してくれる!」

 言い放つ幸介が両手で刃を持って飛びかかる。回避することも危うくなっていた光輝と竜也は、幸介の繰り出す刃に切りつけられて追い込まれていく。

「くっ!このままではやられてしまう!」

 光輝がとっさに水晶を右手の甲にセットする。だが精神エネルギーを費やしていたため、彼は攻撃力を高めることができない。

 劣性を強いられる光輝と竜也に向けて、幸介が刃を投げつける。刃をぶつけられて、2人が突き飛ばされる。

 力を果たしてしまい、光輝のオメガへの変身が解除され、竜也もドラゴンガルヴォルスから人間の姿に戻る。

 互いの正体を目の当たりにして、光輝と竜也が驚愕を覚える。

「お前・・・!?

「竜也、くん・・・!?

 目を見開く竜也と、動揺をあらわにする光輝。良好的でないとはいえ、交流を持っていた相手の対面に、2人は驚愕するばかりだった。

「もはや変身する力も残っていないようだな・・では、そろそろとどめを刺してやるぞ・・・!」

 幸介が哄笑を上げると、両手を掲げてエネルギーを集束させる。

「まずい・・・このままでは・・・!」

「終わりだ!」

 幸介がそのエネルギーを衝撃波にして解き放つ。力を使い果たした光輝と竜也は、絶体絶命のピンチに陥った。

 

 

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