仮面ライダーオメガ 第26話

 

 

 バッファローガルヴォルスがとどめを刺そうと走り出す。光輝は意識を失っており、立ち上がることができない。

 そのとき、スピードフォームのメガブレイバーが駆けつけ、バッファローガルヴォルスを弾き飛ばした。メガブレイバーは続いて光輝を乗せて、そのままこの場を後にした。

「どいつもこいつも邪魔しやがって・・胸糞ワリィぜ・・・!」

 人間の姿に戻った男が苛立ちを口にする。

「まずは憂さ晴らしからだ・・あの2人は、見つけたときに叩き潰してやる・・・!」

 苛立ちが治まらないまま、男は歩き出していった。

 

 メガブレイバーの援護を受けて、辛くも危機を脱した光輝。

「光輝、大丈夫かい・・?」

「僕なら大丈夫だよ・・ありがとう、メガブレイバー・・君のおかげで助かったよ・・・」

 心配の声をかけるメガブレイバーに答えて、光輝がオメガへの変身を解除する。

「でも竜也くんの姿が見えなかった・・無事に逃げられたんだろうか・・・」

 竜也の心配をする光輝。彼が駆けつけた現場には、竜也の姿は見られなかった。

「戻ってみて探してみるよ・・ケガをしていて、動けなくなってるかもしれない・・」

「でもまだガルヴォルスがいるかもしれない・・戻るのは危険だ・・」

「分かってる・・でもこのままだと竜也くんが・・・」

 メガブレイバーの制止を聞かずに、竜也を探しに光輝は飛び出した。傷ついた体に鞭を入れて、彼は必死に進んでいく。

 再び戦いの場に戻ってきた光輝。そこにはガルヴォルスの姿はなかった。

「本当に逃げられたんだろうか・・それともまだこの近くに・・・」

 さらに周囲を見回して竜也の行方を追う光輝。そのとき、そばの建物から竜也が姿を現した。

「お前か・・こんなところで何をしているのだ・・?」

「竜也くん・・よかった・・君がガルヴォルスに襲われているって聞いて、飛んできたんだよ・・」

 声をかけてくる竜也に、光輝が安堵の笑みをこぼす。

「それにしても、まさかヒカルちゃんと知り合ってたなんて・・」

「まさか、アイツが言っていたのはお前のことだったか・・・」

 光輝が口にした言葉に、竜也が呟くように答える。

「ところでお前はどうした?何しにここに来た?」

「何しにって・・竜也くんが心配で、走りこんできたんだよ・・」

 疑問を投げかけてくる竜也に、光輝が切実に言いかける。

「大切なものを守るという、お前のご自慢の正義感か・・オレはその正義を憎んでいる。何度も言わせるな・・」

「違う・・君が思っているほど、正義は悪くない・・確かに世界の中には、君が憎むような偽善が存在している・・でも、世界の人たちの全員が、そんな偽善者ってわけじゃない・・」

 あざ笑ってくる竜也に、光輝が声を張り上げる。

「ヒカルちゃんやくるみちゃんだって、心の優しい人・・それは竜也くんも分かったはずじゃないか!」

「お前の言うその優しさが偽りでないという保障がどこにある?オレは正義を偽る愚かさを許すつもりはない・・」

「・・・どうして、信じようとしないんだ?・・どうしてそこまで信じようとしないんだ・・・?」

 拒絶の考えを崩さない竜也に、光輝が沈痛の面持ちを浮かべる。

「人1人にはどうしても限界がある・・互いを信じ合うことで、人は強くなれるんだ・・・!」

「だが人間はもはや、信じるに値する存在ではなくなった・・お前の言う強さは、この世界にはない・・」

 光輝の呼びかけを全く受け入れようとしない竜也。

「もうっ!男のくせに、駄々っ子みたいにウジウジ言っちゃって!」

 そこへくるみがヒカルと一緒にやってきた。くるみは竜也の態度に不満をあらわにしていた。

「くるみちゃん、ヒカルちゃん・・・」

「そんな態度を見せても無意味だ・・オレの怒りが増すだけだ・・」

 2人の登場に光輝が戸惑いを見せ、竜也が冷徹な態度を保つ。

「そんなに自分の考えをオレに押し込めたいなら、オレの命を奪うしかない・・」

「そこまで自分を追い込んで、何が残るっていうんだ・・・!?

 光輝が竜也に対して、ついに涙を見せる。

「僕だって許せないものはある・・正義を信じているから、悪を許せない・・でもそれは復讐って意味じゃない・・悪がみんなを傷つけたり悲しませたりしているから、僕は悪に立ち向かうんだ・・」

 自分の決意を口にする光輝。彼の気持ちは、今までの中でより真剣なものとなっていた。

「口先だけなら何とでもなる・・その程度ではオレの憎悪を揺るがすことなど到底・・」

「そんなことはありません・・光輝さんは口だけの人では絶対にありません・・」

 そこへヒカルが竜也に向けて呼びかけてきた。

「光輝さんはガルヴォルスから人々を守るために戦っているんです・・傷ついたり辛い思いをしたりしたこともありますけど、必死になって戦っているんです・・」

 ヒカルが竜也に切実に語りかけていた。

 そのとき、遠くのほうで突如轟音が鳴り響いた。その音を耳にして、光輝たちが振り返る。

「何、今の音・・・!?

「もしかして、さっきのガルヴォルスが暴れているんじゃ・・・!?

 くるみと光輝が声を荒げる。爆発の轟音がさらに巻き起こる。

「僕、行ってくるよ・・くるみちゃんとヒカルちゃんは竜也くんをお願い・・」

「分かりました、光輝さん・・気をつけてください・・」

 呼びかける光輝に、ヒカルも言葉をかける。光輝は頷くと、轟音のしたほうに走り出していった。

(正気なのか・・光輝、お前は本当に、正義のために戦っているというのか・・・?)

 光輝の後ろ姿を見つめて、竜也が困惑を感じていた。

 

 苛立ちを押さえきれなくなったバッファローガルヴォルスが、街中で猛威を振るっていた。

「もう我慢しねぇ!どいつもこいつも叩き潰してやる!」

 いきり立って暴れるバッファローガルヴォルスから、人々が逃げ惑う。そんな彼の前に、一矢と太一が姿を現す。

「君もここに来るとは・・その心意気は褒めておこう・・」

「僕しかいないんだ・・僕がやらないといけないんだ・・・」

「だけど、くれぐれもオレの邪魔はしないようにな・・」

「僕がやるしかないんだ・・邪魔をする気にならないんだ・・」

 声を掛け合う一矢と太一。2人がそれぞれ水晶を手にする。

「変身。」

「変身・・・!」

 それぞれギガスとクリスに変身する一矢と太一。

「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」

「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・」

 言葉をかける2人に、バッファローガルヴォルスが笑みをこぼす。

「そんなにオレに遊ばれたいっていうなら、オレの憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ!」

 いきり立ったバッファローガルヴォルスが突進を仕掛ける。一矢と太一は横に飛んで、その突進をかわす。

 一矢が飛び出し、バッファローガルヴォルスに攻撃を仕掛ける。そのパワーの猛攻は、バッファローガルヴォルスを追い詰めていく。

「パワーがある・・だが、こんなもんでオレがやられるか!」

 いきり立ったバッファローガルヴォルスが、一矢につかみかかって突き上げる。投げ飛ばされた一矢が地面に叩きつけられる。

 太一もとっさにバッファローガルヴォルスに飛びかかる。だが速さで翻弄する戦法が通じず、太一がバッファローガルヴォルスの突進に押されてしまう。

「す、すごい力だ・・クリスの速さもあまり効果がない・・・!」

 ガルヴォルスの力に毒づく太一。バッファローガルヴォルスは一矢との力比べを繰り広げていた。

「一気に力を込めるしかない・・!」

 太一はクリスセイバーを手にして、ベルトの水晶をセットする。クリスセイバーの刀身に精神エネルギーの光が宿る。

「クリスストラッシュ!」

 太一がクリスセイバーを振りかざして、光の刃を解き放つ。だが一矢を突き飛ばしたバッファローガルヴォルスが、その一閃をかわす。

「なめたマネしてくれるじゃねぇかよ・・先にやられてぇなら、望みどおりにしてやる!」

 苛立ちをあらわにしたバッファローガルヴォルスが太一に向かって突っ込んでくる。太一が危機感を感じながら身構える。

 だが、そこへメガブレイバーを駆る光輝が駆け込み、バッファローガルヴォルスを横から突き飛ばした。

「大丈夫、一矢さん、太一くん!?

「光輝くん・・!」

 既にオメガに変身していた光輝が呼びかけ、太一が声を上げる。

「後はオレに任せろ・・あのガルヴォルスはオレが倒す・・・!」

 メガブレイバーから降りた光輝が右手を握り締め、バッファローガルヴォルスを見据える。

「またテメェか・・今度こそ叩き潰してやるぞ!」

 怒号をあらわにするバッファローガルヴォルスが、光輝に向かって飛びかかる。光輝がベルトの水晶を右手の甲にはめ込む。

「ライダーパンチで、お前の突進を受け止めてやる!」

 光輝がメガブレイカーを繰り出し、突っ込んできたバッファローガルヴォルスを受け止める。2人の力がぶつかり合い、周囲に衝撃を巻き起こす。

 バッファローガルヴォルスの突進に、光輝は踏みとどまった。

「オレの後ろには、たくさんの人々がいる・・みんなの自由と平和のため、お前の勝手にはさせないぞ!」

「いい気になってんじゃねぇぞ、オメガが!」

 決意を言い放つ光輝と、苛立ちを膨らませるバッファローガルヴォルス。同時に追撃を図るが、光輝がバッファローガルヴォルスを攻め立てていた。

 そこへ一矢が割り込み、バッファローガルヴォルスに打撃を繰り出す。さらに追い詰められて、バッファローガルヴォルスがうめく。

「一矢さん・・」

「ヤツはオレの相手だ。勝手に手を出さないでもらいたいな。」

 当惑を浮かべる光輝に、一矢が淡々と言いかける。

「悪いけど、相手は人々を脅かす敵だ・・そんなこだわりを持っている場合じゃない・・!」

「言ってくれるな・・せいぜいオレの邪魔にならないようにな・・」

 自分の気持ちを告げる光輝に、一矢は悠然さを見せる。

「僕も戦う・・逃げてもどうにもならないから・・・」

 太一も光輝と一矢に言いかけて、バッファローガルヴォルスを見据える。

「敵は手強い・・だけど、それでも、オレたちは負けるわけにはいかないんだ!」

 言い放つ光輝が、ベルトの水晶を右足の脚部にセットする。一矢と太一も同じ動作をする。

「ライダーキック!」

「ギガスマッシャー!」

「クリススマッシャー!」

 飛び上がった3人が、精神エネルギーを集束させたキックを放つ。突進力だけで3人のキックを跳ね返すことができず、バッファローガルヴォルスがキックを受けて突き飛ばされる。

「オレは負けねぇ・・こんなんで、オレがやられるわけねぇだろ・・・ぐああぁぁ!」

 絶叫を上げるバッファローガルヴォルスが肉体を崩壊させて消滅する。強力なガルヴォルスを撃破して、光輝が安堵を覚える。

「やった・・・ありがとう、一矢さん、太一くん・・・」

「勘違いしないでもらいたい。オレは君を助けたつもりなど全くない・・」

 感謝の言葉をかける光輝に、一矢が高飛車に言葉を返す。3人は各々の変身を解除する。

「僕はこれからも戦い続ける・・正義のために、みんなのために・・・」

(そして必ず、竜也くんの傷ついた心を救ってみせる・・・)

 呟いた後、竜也のことを思う光輝。竜也の頑なな心に安らぎを取り戻させるため、光輝はこれからも戦うことを誓うのだった。

 

 戦いを終えて、光輝はくるみ、ヒカル、竜也の待つ場所に戻ってきた。

「光輝さん・・ガルヴォルスは・・・?」

「何とかやっつけることができたよ・・みんなのおかげで・・・」

 ヒカルが声をかけると、光輝が微笑んで答える。そして彼は、憮然としている竜也に目を向ける。

「僕は戦って・・こうしてみんなの前に戻ってきたよ・・・」

「それでオレが変わると思っているのか?・・オレが復讐をやめると思っているのか・・?」

 声をかける光輝だが、竜也は冷淡な態度を崩さない。

「思っている・・そのためにも、僕は戦っているんだ・・・」

「そこまで言い切るか、お前は・・・」

「いつか必ず、君の心に安らぎを取り戻してみせる・・これが、正義の味方の戦いだから・・・」

 肩を落とす竜也に、光輝が自分の決心を告げる。光輝の心に迷いや揺らぎはなくなっていた。

「お前がどう考えようと、オレの考えは変わらない・・どうしてもオレを止めたいというなら、オレをお前のいう悪と見て倒すしかない・・」

「竜也くん・・・!」

 竜也の言葉に光輝が歯がゆさを浮かべる。

「もっとも、オレは立ちはだかるものを、偽善を振りまく敵として倒すだけだが・・」

 竜也は鋭く言いかけると、光輝たちの前から歩き出し、去っていった。

「竜也さん・・・」

 竜也が去っていくのを見て、ヒカルが沈痛の面持ちを浮かべる。正義に対して強く嫌悪する彼に、彼女の心はいたたまれない気持ちでいっぱいになっていた。

 そんな彼女の肩に、光輝が優しく手を添えてきた。

「大丈夫だよ・・竜也くんは必ず止めて、救ってみせるから・・・」

「光輝さん・・・」

 光輝に声をかけられて、ヒカルが戸惑いを覚える。

「だから諦めてはいけない・・諦めたら何もかもが終わるし、何も変わらない・・・たとえ戦うことになっても、僕は竜也くんを助ける・・・」

「それが仮面ライダーだから・・でしょ?」

 呟きかける光輝に声をかけてきたのはくるみだった。

「光輝らしいというか何というか・・あたしが何言っても聞かないんでしょ・・」

「くるみちゃん・・・ゴメン、迷惑かけて・・・でもこうして、仮面ライダーとなって戦っていることを後悔していない・・」

「後悔していないなら謝んないでほしいわよ・・しっかりしてるのかだらしがないのか、ホントに分かんないわね、まったく・・」

 不満げに言いかけるくるみに、光輝は頭が上がらなくなる。2人のやり取りを見て、ヒカルが笑みをこぼす。

(そうだ・・他の仮面ライダーだって、自分たちのことで苦しみながらも、世界や人々を守るために戦ってきたんだ・・僕も仮面ライダーとして戦っている以上、ライダーたちの強さや子供たちの夢を壊してはいけない使命があるんだ・・・)

 いつしか仮面ライダーに向けて思いを馳せていた光輝。自分の雄姿がライダーの目にも留まっていることを信じて、気持ちを引き締めていかなければならない。

 その気構えを大切にして、光輝は人々を守る決意を強めていくのだった。

「帰りましょう、光輝さん・・・」

「あ・・う、うん・・・」

 ヒカルに呼びかけられて、光輝は歩き出す。彼らは家に戻り、束の間の休息を楽しむのだった。

 

 ここ最近、世界は近づいてきている皆既日食の話題で持ちきりだった。

 地球から見た太陽が月によって完全に隠れてしまう皆既日食は、昼間でありながら夜のような暗闇に包まれるのである。

 人々はその暗闇の神秘性を感じながら、皆既日食が予測される日を待ちわびていた。

 だがその皆既日食が、世界を震撼させる危機の前兆であることを、世界の誰もが、光輝すらも知る由もなかった。

 

 

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