仮面ライダーオメガ 第23話

 

 

 この日、光輝、くるみ、ヒカルはみどりに誘われて、街中の病院に向かっていた。その病院にみどりの親戚に当たる男の子が入院していることを、光輝たちは聞かされた。

 男の子の名は春日井(かすがい)亮太(りょうた)。病で入院して手術を行おうとしていたが、亮太は怖がっている。そこでみどりは光輝たちに相談して、亮太を励まそうと考えたのである。

「手術って怖いよね・・怖がらない人なんてまずいないよ・・」

「そういうときに励ましてあげるのは、すごくいいですよね・・」

 光輝とヒカルが言葉を交わす。2人の言葉にくるみとみどりも微笑みかける。

「でも、誰にだって乗り越えなくちゃならないことがある・・勇気を持つのが何より大切なんだ・・」

「光輝らしいセリフね・・でもその意見にはあたしも賛成よ。」

 光輝が口にした言葉にくるみが頷く。彼らは亮太の入院している病院の門前を目にした。

 そのとき、光輝はその先にいる2人の子供を目にする。子供たちは塀の上で、仮面ライダーのマネをして遊んでいた。

「あの子たち、まさか・・・!?

 たまらず飛び出す光輝。子供たちがライダーキックのマネをして、塀から飛び出す。

 地面に衝突する前に、飛び出した光輝に子供たちは受け止められる。

「危ないじゃないか!ケガをしたらどうするんだ!?

 怒鳴りかける光輝に子供たちが驚く。ヒカルたちも彼に追いついてきた。

「大丈夫、君たち?・・何をしてたの?」

「仮面ライダーごっこだよ。」

「ライダーキックをやってたんだよ・・」

 くるみが訊ねると、子供たちが笑顔を見せて答える。

「仮面ライダーか・・とってもかっこいいから気持ちは分かるよ。でもライダーキックは、仮面ライダーだからできる技なんだ。今は僕たちが来たからよかったけど、マネをするとケガをするかもしれないよ・・」

 真剣な面持ちで子供たちに注意する光輝。

「分かったね、君たち・・」

「分かりました・・」

 光輝の言葉に子供たちは頷くと、元気よく駆け出していった。

「まさか光輝が厳しく注意するなんてね・・」

 くるみが光輝に向けて声をかけてきた。

「仮面ライダーは子供たちのヒーローなんだ。それは昔も今も変わらない・・だけど、ライダーへの憧れを持つ反面、仮面ライダーやライダーキックのマネをしてケガをする子供が多いんだ・・」

「確かに危ないですよね・・憧れる気持ちは私も分かりますが・・・」

 光輝に続いてヒカルも言いかける。

 仮面ライダーは社会現象をも巻き起こしたヒーローの代表格である。だがライダーキックのマネをしてケガをする子供たちも続出し、作中で注意を促すシーンも挿入されることになった。

「そういえば亮太くんも、仮面ライダーの大ファンなんですよ。ライダーは毎回欠かさず見てるとか・・」

「えっ!?そうなの!?こりゃ会うのが楽しみになってきたぞ〜

 みどりが切り出した話に、光輝が上機嫌になる。

「もう、そんな話になるとすぐに目の色変えるんだから・・」

 彼のその姿にくるみは呆れ、ヒカルは苦笑いを見せていた。

 

 街外れの小さな通り。街での買い物を終えて、1人の女性が帰宅しようとしていた。

 だがその途中、彼女の前に1人の男が姿を現した。薄汚れた風貌の、不気味さをかもし出している男である。

「お前・・ママ、なのか・・・?」

「ち、ちょっと、何よ・・・!?

 声をかけてくる男に、女性は恐怖を覚えて後ずさりする。その反応を見て、男が愕然となる。

「そう・・・ママじゃ、ないんだ・・・」

 言いかける男の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿がキノコに似た姿の怪物に変貌する。

「か、怪物!?

 悲鳴を上げた女性が逃げ出す。怪物、マッシュルームガルヴォルスが口から茶色の粉を吐き出す。

 その毒の胞子を浴びて、息苦しさを覚えた女性が昏倒する。毒の効果で息ができなくなり、女性は動かなくなる。

「ママじゃないのは・・いなくてもいいんだ・・・」

 人間の姿に戻った男が、夢遊病者のように歩き出していった。

 

 病院の中の1室。その病室に亮太は入院していた。

 その病室を光輝たちは訪れた。

「亮太くん、こんにちはー。」

 みどりが声をかけるが、亮太はシーツを被ったまま起き上がらない。

「やっぱり怖いみたいね・・どうしたものか・・・」

 彼の様子にくるみが困り顔を浮かべる。すると光輝が笑みを見せて声をかける。

「こんな様子を見たらきっと、仮面ライダーもがっかりしちゃうだろうなぁ・・」

 光輝が言いかけた言葉に、亮太が素早く体を起こしてきた。

「お兄ちゃん・・仮面ライダーも、そういうかな・・・?」

「仮面ライダーはいつも、世界の平和を守るために戦っている・・でもたとえ遠くにいても、いつも君たちを見守ってくれているんだ・・」

「僕のことも、見てくれているんだね・・・」

「手術が怖いのは誰だって同じだよ・・でもそういうときこそ勇気を出して、仮面ライダーみたいに立ち向かうことが大切だよ・・」

 光輝の励ましの言葉を受けて、亮太は戸惑いを覚えながらも微笑みかける。

「病気や手術なんかに負けるな。早く元気になって、仮面ライダーのように強くなるんだよ・・」

「うん・・僕、頑張るよ・・病気や手術なんかに負けたりしない・・」

 光輝の言葉に亮太が頷く。元気を取り戻した亮太を見て、くるみ、ヒカル、みどりも喜びを感じていた。

 

 それから光輝たちは病院の屋上に来た。

「ありがとう、光輝くん・・亮太くん、怖くなくなったみたい・・」

「同じ仮面ライダーに憧れる人同士、気持ちも分かるものだよ・・」

 感謝の言葉をかけるみどりに、光輝が笑顔を見せる。

「同じ子供の気持ちだもんねぇ。分かって当然だよねぇ。」

 そこへくるみにからかわれて、光輝が気落ちする。

「仮面ライダーは子供たちのヒーローなんですよね・・みんなも、ライダーへの憧れを持っているんですよね・・」

 ヒカルが微笑みながら、光輝の気持ちを代弁する。その言葉を受けて、光輝たちも微笑んだ。

「今日は本当にありがとう、光輝くん、くるみさん、ヒカルさん・・それじゃ、これで・・」

 みどりは光輝たちに挨拶すると、自分の帰路に着いていった。彼女を光輝は手を振って見送った。

「そうだ・・僕も仮面ライダーとして戦っているんだ・・みんなの夢と憧れを、壊したらいけないんだ・・・」

「そうですよ、光輝さん・・光輝さんはその意気込みを忘れないことです・・」

 呟きかける光輝に、ヒカルが相槌を打つ。2人のやり取りを見て、くるみは肩を落とすしかなかった。

 そのとき、病院の近くの通りのほうから爆発音が響いた。その音を耳にして、光輝たちが振り返る。

「どうしたのでしょう、この音・・・!?

「事故でも起こったのかな・・・!?

 ヒカルとくるみが声を荒げる。気がかりになった光輝が、通りに向かって飛び出す。

「ちょっと待ちなさいよ、光輝!」

 くるみが慌てて光輝を追いかけ、ヒカルも2人に続く。通りでは幼稚園バスが1台、電柱にぶつかって止まっていた。

「どうしたんですか!?何があったんですか!?

 バスに駆け寄った光輝が、運転手に声をかける。既に子供たちや保母たちはバスから出てきていた。

「怪物が・・怪物がいきなり襲ってきて・・・」

 運転手が振り絞った言葉。その答えから、光輝はガルヴォルスの出現を予感していた。

「ここにも・・ママはいなかった・・・」

 そこへ声がかかり、光輝が外に目を向ける。不気味な風貌の男が、ゆっくりとバスに近づいてきた。

 男がマッシュルームガルヴォルスへと変身する。子供や保母たちのいるバスを狙った男は、再びバスを襲おうとしていた。

(みんながいる前で変身はできない・・でも、みんなを守らないと・・・!)

 オメガに変身できない焦りを感じながらも、光輝はマッシュルームガルヴォルスの前に立つ。そこへヒカルとくるみが駆けつける。

「くるみちゃん、ヒカルちゃん、子供たちを安全なところに!」

「光輝さん!」

 呼びかけて飛び出す光輝と、声を荒げるヒカル。

「こっちだ!僕が相手になってやる!」

「・・ママを見つけるんだ・・邪魔をしないでよ・・・」

 声を張り上げる光輝に、マッシュルームガルヴォルスが不満を口にする。くるみとヒカル、保母たちの誘導で、子供たちが次々と避難していく。

 だがまだ、バスの中に1人の男の子が取り残されていた。

「まだ中に児童が・・・!」

 保母のこの声を聞いて、光輝が危機感を覚える。そんな彼に向かって、マッシュルームガルヴォルスが突っ込んできた。

 たまらず横に飛び退く光輝。マッシュルームガルヴォルスは壁に激突して昏倒する。

 その間に光輝は再びバスに行く。その中にいた男の子に駆け寄り、声をかける。

「君、大丈夫!?痛いところとかない!?

「うん・・大丈夫・・・」

 光輝の声を聞いて、男の子が泣きながら頷く。

「すぐにここから出るんだ・・一緒に行こう・・」

 光輝は男の子を連れて、バスから出た。そこへマッシュルームガルヴォルスが飛び込み、光輝がその突進を受ける。

「うっ!」

 突き飛ばされた光輝がバスの壁に叩きつけられる。倒れそうになるが、彼は踏みとどまる。

「お兄ちゃん、大丈夫!?

 慌てて駆け込んでくる男の子に、光輝は笑顔を見せる。だがバスにぶつかった際に痛めた左腕が悲鳴をあげ、光輝が顔を歪める。

「お兄ちゃん!」

「僕はホントに大丈夫だから・・早く、みんなのところに・・」

 光輝に呼びかけられて、男の子は涙ながらに駆け出していく。直後、光輝は左腕の痛みにさいなまれて、その場から動けなくなる。

 そんな光輝にマッシュルームガルヴォルスが迫る。

「さ−て・・まずはお前からやっつけてやる・・・」

 不気味な笑みを浮かべるガルヴォルスに、光輝は危機を覚える。

 そのとき、バス事故の知らせを受けた救急車とパトカーのサイレンが響いてきた。するとマッシュルームガルヴォルスは不満を浮かべてから、口から胞子を吐き出す。

 とっさに回避する光輝。だが胞子が霧散したときには、マッシュルームガルヴォルスは姿を消していた。

「逃げられた・・・今は助かったというべきなのかな・・・」

 歯がゆさと安堵を感じた直後、左腕の痛みを覚えて光輝が顔を歪める。その後、彼は医者の介抱を受けることとなった。

 

 光輝が負傷した左腕は、骨に異常はなかった。だがしばらくは運動はできないと言われた。

「大事がなくてよかったです、光輝さん・・・」

 ヒカルが光輝の無事に笑みをこぼす。

「でも僕の腕はこんなだし、ガルヴォルスには逃げられたし・・」

 その言葉に笑みをこぼすも、光輝はすぐに深刻な面持ちを浮かべる。

「あのガルヴォルスが、どこかでまた誰かを襲ってるかもしれない・・すぐに探し出さないと・・」

「ムチャ言わないで!そんな状態で戦えるわけないでしょ!たとえオメガになったって!」

 言いかける光輝にくるみが怒鳴りかける。今の光輝は、オメガになってもとても戦える状態ではない。

「分かってる・・でも、こうしている間にも、ガルヴォルスのために誰かが悲しい思いをしているかもしれない・・」

「光輝さん・・・」

「たとえこの体が砕け散っても、正義と平和のために戦い続ける・・それが、仮面ライダーだから・・・」

 光輝が口にする決意に、ヒカルが戸惑いを浮かべる。その彼の姿を勇敢と思いながらも、満身創痍の状態で戦うことを、ヒカルは快く思っていなかった。

「僕は戦う・・僕も、仮面ライダーなんだから・・・」

 光輝は低く告げると、廊下から立ち去っていった。

「とても心配です・・・信じていないわけではないのですが・・・」

「もう、光輝ったら・・正義となると頑固になるんだから・・・」

 不安を口にするヒカルと、肩を落とすくるみ。

「太一さんと弥生さんに連絡します・・」

 ヒカルは言いかけると、太一への連絡を入れた。

 

 ガルヴォルスの行方を追って、病院近くの通りを歩いていた光輝。しかし歩くたびに、痛めている左腕が悲鳴を上げていた。

「イタタ・・やっぱりムチャだったかな・・・」

 自分の姿に半ば呆れていた光輝。彼は気を取り直して、さらに捜索を続けていく。

「キャアッ!」

 そのとき、どこからか悲鳴が響き渡り、光輝が緊迫を覚える。彼は腕の痛みに耐えながら、悲鳴のしたほうに駆けていく。

 小さな通りにたどり着いた光輝。そこではマッシュルームガルヴォルスの胞子を浴びて、1人の女性が昏倒していた。

「・・ママじゃないのは、いなくなってしまえばいいんだ・・・」

「ガルヴォルス・・・絶対に許さない!」

 不気味な笑みを浮かべるマッシュルームガルヴォルスに、光輝が怒りをあらわにする。左腕を巻いている包帯を外して水晶を取り出す光輝だが、左腕の痛みに襲われて一瞬よろめく。

「くっ・・・変身!」

 その痛みに耐えながら、光輝は水晶をベルトにセットしてオメガに変身する。いきり立って突進を仕掛けてくるマッシュルームガルヴォルスを、光輝は迎え撃つ。

 ジャンプしてマッシュルームガルヴォルスの突進をかわす光輝。だが着地した弾みで再び左腕の痛みが走り、光輝が怯む。

「ぐっ!・・オメガになっても腕が・・・がっ!」

 うめいたところでマッシュルームガルヴォルスに突き飛ばされ、光輝が横転する。敵と激痛の挟み撃ちにあい、光輝は立ち上がることもままならなくなっていた。

「腕がこんなんじゃなければ、まともに戦えるのに・・・!」

 この危機的状況に毒づく光輝。不気味な笑みを浮かべるマッシュルームガルヴォルスが、容赦なく光輝に突進を仕掛ける。

 この突進のとき、マッシュルームガルヴォルスの頭が光輝の左肩にぶつかり、左腕に激痛が走った。

「があっ!」

 その腕を押さえて光輝が昏倒する。苦しむ彼の姿を見て、マッシュルームガルヴォルスが哄笑を上げる。

「いい気味だ・・このまま痛めつけてやるのも面白いかもしれない・・」

 マッシュルームガルヴォルスが光輝に詰め寄り、押さえている左腕を踏みつける。さらなる激痛を受けて、光輝が声にならない絶叫を上げる。

 もはや痛みを振り払うこともできなくなり、光輝が動けなくなる。

「このままではやられてしまう・・・メガブレイバー!」

 光輝が力と声を振り絞る。その呼び声を受けて、メガブレイバーが駆けつける。

 メガブレイバーの突進を受けて、マッシュルームガルヴォルスが突き飛ばされる。メガブレイバーはすぐさまスピードフォームに変形して加速し、光輝を乗せてこの場を走り去った。

 絶体絶命のピンチを脱した光輝。安全な場所でメガブレイバーが止まると、光輝はオメガへの変身を解除する。

「光輝、大丈夫かい!?

「うん・・・ありがとう・・メガブレイバー・・・」

 メガブレイバーの心配の声に、光輝が微笑んで答える。だが直後、疲弊していた光輝がそのままうなだれる。

「光輝!?・・光輝!」

 呼びかけるメガブレイバーだが、意識を失った光輝はその声に答えることができなかった。

 

 

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