仮面ライダーオメガ 第22話
徹への攻撃の躊躇が、光輝のオメガの力を弱らせた。変身できなくなった彼に迫る徹の前に、一矢と太一が立ちはだかる。
太一が素早い動きで翻弄したところで、一矢が徹に攻め立てる。そのパンチの猛襲が、徹の体に叩き込まれる。
「オレは吉川光輝のように甘くはないぞ。」
一矢は淡々と言いかけて、さらに徹に攻撃を繰り出す。危機感を覚えた徹が、両腕を地面に叩きつけて砂煙を巻き上げる。
視界をさえぎられた一矢と太一。砂煙が治まったときには、既に徹は姿を消していた。
「逃げられたか・・逃げ足だけはさすがというところか・・」
徹の逃亡に毒づく一矢が、太一とともに変身を解除する。困惑したままの光輝に、太一が深刻さを浮かべて駆け寄る。
「光輝くん、大丈夫!?光輝くん!」
「た・・太一くん・・・」
太一に呼びかけられて、光輝が戸惑いを浮かべる。そこへくるみ、ヒカル、弥生も駆けつけてきた。
「光輝さん、大丈夫ですか!?どこか、ケガを・・!?」
「ケガはない・・でも、徹さんと戦えなかったんだ・・・」
ヒカルが心配の声をかけると、太一が深刻さを込めて答える。
「それじゃ、徹さんは・・また、いなくなってしまったのね・・・?」
弥生が訊ねると、太一は小さく頷く。そこへ一矢が声をかけ、光輝の落ち込みように呆れていた。
「実に見下げ果てたものだ。そんなことで戦いに集中できなくなるとは・・これでは張り合いもないな・・」
「ちょっと、そんな言い方・・・!」
「くるみさんには悪いけど、これは否定できない。割り切れなければ、今度は確実に命を落とすぞ・・」
くるみが抗議の声を上げるが、一矢は淡々と言葉を返すだけだった。
「僕はどうしたら・・・どうしたら、徹さんを・・・」
徹のことが気がかりになり、光輝は完全に落ち込んでしまっていた。それを見かねたくるみが、彼に怒鳴りかける。
「しっかりしてよ、光輝!落ち込んでたって、徹さんをどうにかできるわけないじゃない!」
「だけど・・僕は徹さんと戦えない・・徹さんは、まだ・・・」
それでも光輝は落ち込んだままだった。かける言葉が見つからず、ヒカルは困惑していた。
それから光輝はヒカルたちに連れられて、水神家に戻ってきた。心身ともに疲弊していた光輝は、自分の部屋のベットですぐに横たわってしまった。
その彼の部屋に、ヒカルは訪れた。横になっている光輝を見て、ヒカルは悲しみを覚える。
「起きていますね、光輝さん・・・」
ヒカルが声をかけるが、光輝は反応しない。彼女は気持ちを落ち着けてから、光輝の前に立つ。
「徹さんがあんなことになってしまって、私も辛いです・・私も光輝さんの立場だったら、徹さんを攻撃することができなかったでしょう・・でも光輝さんならこう思うはずです・・徹さんが1番納得するようにしてあげるのがいいって・・」
言いかけるヒカルが、光輝に向けて微笑みかける。
「光輝さんは徹さんに、どうしてほしいと思っているのですか?・・あなたがいつも見せている正義とは、何なのですか・・・?」
ヒカルのこの言葉を耳にして、光輝は戸惑いを覚える。彼は自分が今まで掲げてきた正義を、改めて思い知らされていた。
「お願いです、光輝さん・・光輝さんらしさを、もう1度私たちに見せてください・・・」
「ヒカルちゃん・・・」
ヒカルの優しさを感じて、光輝はようやく声を振り絞った。彼は体を起こし、ヒカルに振り返る。
「ゴメン、ヒカルちゃん・・僕、どうかしてたよ・・こういうときこそ、僕が徹さんを止めなくちゃいけないのに・・・」
「光輝さん・・・」
謝る光輝にヒカルが微笑みかける。
「ヒカルちゃん、僕はやるよ・・たとえ誰かを悲しませることになっても、これが最善手であると信じて・・・みんなの自由と平和を守るために、僕はこの罪を背負う・・・」
「光輝さん・・それでこそ光輝さんですよ・・・」
決意を告げる光輝に、ヒカルは喜びを見せる。彼が元気を取り戻したことに、彼女は何よりも嬉しかった。
「僕は行くよ、ヒカルちゃん・・僕はもう、戦うことに迷ったりしない・・・」
「私も連れて行ってください・・光輝さんの気持ち、近くで見ていたいんです・・・」
「ヒカルちゃん・・・分かったよ・・一緒に行こう・・・」
光輝とヒカルは頷き合うと、気持ちを引き締めて部屋を出た。その廊下にはくるみと弥生の姿があった。
「くるみちゃん・・・」
「弥生さん・・・」
2人がいたことに戸惑いを見せる光輝とヒカル。
「2人だけで行こうなんて水臭いじゃない・・元気になったなら、ちゃんとあたしに言わないとダメじゃない・・」
「私たちも行きますよ・・今、太一くんが徹さんを探しているところですから・・・」
光輝に言いかけるくるみと弥生。その言葉を受けて、光輝が苦笑いを浮かべる。
「みんな・・・ありがとう・・本当にありがとう・・・」
感謝の言葉を口にする光輝の背中を、くるみが突然叩く。いきなり叩かれたことに、光輝が思わずふらつく。
「その調子が頑張んなさいよ、光輝・・光輝はこうでないと、あたしも調子が狂っちゃうのよね・・」
「もう、くるみちゃんったら・・・」
強気に振舞うくるみに困り顔を見せる光輝。だがこれが変わらぬ日常であると感じて、光輝は微笑んだ。
街中の群集の中、徹は湧き上がる狂気を抑え込んでいた。人の心とガルヴォルスの本能が彼の中で衝突していたが、次第に本能が心を蝕み出してきていた。
「もう追い回されるのはイヤだ・・僕は生き延びたいだけなのに・・・」
押し寄せる恐怖が、徹の狂気をさらに増大させていく。
「僕の敵になるものは、全てこの手で・・この手で叩き潰す!」
その狂気を爆発させた徹がホエールガルヴォルスに変身。その異形の姿を見て、周囲にいた人々が悲鳴を上げて逃げ出す。
暴走していた徹は、見境なしに人々に襲い掛かる。その力によって命を奪われた人々が、次々と肉体を崩壊させていく。
混乱に陥った街。その真ん中で咆哮を上げる徹の前に、一矢が姿を現した。
「いい加減見飽きているんだ、お前の顔には・・・変身。」
一矢はため息をつくと、水晶をベルトにセットしてギガスに変身する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」
悠然と言いかける一矢が、ギガシューターを構えて徹に近づく。いきり立って飛びかかる徹に、一矢が射撃を行う。
数発をその弾丸を受けるも、徹は素早く動いて残りの弾丸を回避する。
「ちっ!」
舌打ちする一矢がさらに射撃する。その全てをかわして、徹が一矢につかみかかる。
「おのれっ!」
「お前も倒してやる・・僕の敵は、全部やっつけてやる!」
苛立ちを見せる一矢と徹。そこへ太一も駆けつけ、すぐさま水晶を手にする。
「変身!」
太一がクリスに変身して、徹に向かっていく。彼に突き飛ばされて、徹が一矢から離される。
「余計なことはやめてもらいたい・・オレは助けを求めてなどいない・・」
「助けたわけではないです・・もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・」
立ち上がる一矢に言いかけて、太一が徹を鋭く見据える。徹は構えを取る2人にさらなる敵意を向ける。
「倒す・・僕の敵は、全部倒す!」
絶叫を上げる徹の姿に変化が起こる。クジラを思わせる姿に刺々しさが加わったものへと変貌する。
「徹さんの姿が変わった・・・これって・・・!?」
「ガルヴォルスの凶暴性が、ヤツの強さを増したというのか・・・!?」
変化した徹の姿に、太一と一矢が声を荒げる。突っ込んできた徹のトゲがかすり、2人がまとっている装甲から火花が散る。
「速くなっている・・それにパワーも・・・!」
徹の強化に太一が毒づく。高らかと咆哮を上げる徹が、再び太一と一矢を突き飛ばす。
「これ以上好き勝手にさせるものか・・・ギガブレイバー!」
苛立つ一矢の呼び声を受けて、ギガブレイバーが駆けつけてきた。一矢はギガブレイバーに乗り、徹に向かって走り出す。
前輪の持ち上がったギガブレイバーを、徹は横に飛んでかわす。一矢は反転して、さらに徹への突進を仕掛ける。
だが徹は跳躍して、一矢に右腕を振りかざす。その反撃を受けて、一矢がギガブレイバーから投げ出される。
「くっ!・・この手も効かないというのか・・・!?」
倒れた一矢が毒づき、迂闊に攻撃することができなくなる太一。徹は2人を見据えながら、さらに攻撃を加えようとしていた。
「待て!」
そこへ声がかかり、徹が立ち止まり、一矢と太一が振り返る。駆けつけた光輝が、息を荒げながら立っていた。
「光輝くん・・・!」
光輝の登場に太一が息を呑む。呼吸を整えてから、光輝が徹に声をかける。
「もうやめてくれ、徹さん・・今、徹さんがしているのは、人として許されないことだ・・・」
「そうやって、僕を追い込もうとしてもムダだ・・僕は敵を全て倒す・・僕が生き延びるために・・・!」
光輝の呼びかけに耳を貸さない徹。
「そんなことしなくても、徹さんを狙う人はもういない・・あのガルヴォルスも、太一くんがやっつけてくれたから・・・」
「うるさい!お前も僕の敵!全てが僕の敵なんだよ!」
光輝の言葉を一蹴して、徹が飛びかかる。全てを敵視する彼の姿に、光輝は沈痛さを込めて見つめていた。
「変身・・・!」
低く告げる光輝を、水晶がセットされているベルトを介して装甲が包み込む。彼は両手を突き出して、飛び込んできた徹を跳ね返した。
横転する徹を、光輝は鋭く見据えていた。
「オレは仮面ライダーだ・・世界の平和と、人々の自由を守るために、どんなことがあっても戦わないといけないんだ・・・たとえ、元々は人間だった人でも・・・!」
躊躇を招いていた迷いを振り切り、光輝が構えを取る。彼は徹を倒す覚悟を決めていた。
狂気に駆り立てられた徹が、光輝に向かって飛びかかる。振りかざしてきた彼の腕を、光輝は手を突き出して受け止める。
重みのある徹の突進に光輝が押されていく。腕にかかる負担を感じるも、光輝は力を込めて踏みとどまる。
「このくらいの痛み・・今まで感じてきた心の痛みに比べれば・・・!」
光輝は強力な腕を押し返すと、跳躍して蹴りを見舞う。その一蹴を受けて徹が怯んで後ずさりする。
光輝はさらに攻め立てて、徹にパンチを叩き込んでいく。その猛攻に徹は劣勢を強いられる。
「このままやられたくない・・死にたくないんだよ!」
いきり立った徹が光輝をつかみ上げる。さらに力を増した彼の力が、光輝の体を締め付ける。
「す・・すごい力だ・・・だけど、諦めるわけにはいかない・・・!」
その拘束に耐え抜く光輝が意識を集中する。
「メガフラッシャー!」
光輝が叫び、ベルトの水晶から閃光がほとばしる。その光に目をくらまされて、徹が光輝から手を放して目を押さえる。
「・・・許してくれ、徹さん・・本当は今でも、あなたを倒したくはなかった・・・」
光輝は言いかけると、ベルトの水晶を右足の脚部にはめ込む。視力が戻った徹が、光輝を鋭く見据える。
「ライダーキック!」
高らかに言い放つ光輝が飛び上がり、エネルギーを集束させた飛び蹴りを繰り出す。悲しみと怒りを込めたメガスマッシャーが、徹の体に叩き込まれる。
激しく横転する徹と、着地する光輝。徹が力を振り絞って、ゆっくりと立ち上がる。
「あ・・・ありがとう・・光輝・・さん・・・」
「徹さん・・・!?」
弱々しく口にした徹の言葉に、光輝は一瞬動揺する。次の瞬間、徹の体が崩壊を起こし、霧散して消滅した。
徹の最後を目の当たりにして、光輝は困惑を覚えていた。その意思に応えるかのように、彼の体からオメガの装甲が消失する。
「徹さんにはまだ・・人の心が残っていたんだね・・・」
徹の心を痛感して、光輝がおもむろに呟きかける。彼は徹の亡骸をじっと見つめていた。
「徹さんはもう、人の心を失ってしまうと分かっていたんだ・・だから、心を失わないうちに、僕たちに倒されようとしていた・・ただ、ガルヴォルスの凶暴性が強くなってしまって、混乱して、それを伝えられなくなってしまった・・」
言葉を振り絞る光輝の目に涙があふれてくる。
「本当にゴメン、徹さん・・もう少し僕がしっかりしていれば、助けることができたはずなのに・・・」
「そんなに自分を責めないでください、光輝さん・・」
歯がゆさを浮かべる光輝に、ヒカルが声をかけてきた。
「光輝さんは、迷いを振り切って自分で決意したんです・・そんな光輝さんを、誰も責めるなんてできません・・・」
「ヒカルちゃん・・・ありがとう、ヒカルちゃん・・・」
呼びかけるヒカルに、光輝が振り向いて微笑みかける。くるみ、太一、弥生も光輝の姿を見て頷いていた。
「やれやれ・・これで少しはまともになったようだな・・」
一矢がため息をつきながら、光輝に近づいてくる。2人が面と向かって、互いをじっと見つめていた。
「次にオレと戦うときには、2度とスランプにならないようにしてもらいたい・・」
「僕はみんなの気持ちを第一に考える・・自分の勝手な解釈で、戦いに迷いを持ち込むことはしない・・」
「その心意気、失わないことを切に願うよ・・」
光輝の決意を聞いて、一矢は不敵な笑みを見せる。
「今日はこのくらいにしておこう・・次に会うときは覚悟しておくことだ・・」
一矢は言いかけると、きびすを返して光輝たちの前から去っていった。
「・・・みんな、帰ろう・・本当に疲れたよ・・」
「何言ってるのよ・・アンタが勝手に落ち込んでたんじゃない・・」
光輝が呼びかけると、くるみが呆れてきた。いつもと同じやり取りであると感じて、ヒカルは笑みをこぼしていた。
徹との激闘から数日が経過していた。その最後の戦いの場に、光輝は訪れていた。
そのとき自分が掲げた決心が本物であることを確かめるべく、光輝は改めてここに来ていたのだ。
「徹さん・・・本当に悪かったよ・・・」
改めて徹に謝罪の言葉をかける光輝。
「これからも僕のことを見届けていてほしい・・あなたのような悲しい人がこれ以上増えないためにも、僕はこれからも戦い続けていく・・それがヒーロー・・それが、仮面ライダーだから・・・」
「ここに来ていたんですね、光輝さんも・・・」
呟いていた光輝に、やってきたヒカルが声をかけてきた。
「ヒカルちゃん・・・」
「私も信じています・・徹さんが、光輝さんをあたたかく見守ってくれていると・・」
戸惑いを見せる光輝に、ヒカルが優しく言いかける。彼女から徹への信頼を込めた言葉を聞いて、光輝は微笑んで頷いた。
「そうだね・・僕たちが信じてあげないと、こういうのは何も始まらないよね・・・?」
「自分を信じてください、光輝さん・・私も、あなたを信じますから・・・」
ヒカルが言いかけると、光輝は彼女の肩に優しく手を添える。
「ありがとう、ヒカルちゃん・・この気持ちに応えるためにも、僕は頑張っていかないと・・」
ヒカルに改めて励まされて、光輝は決意を口にする。彼は自由と平和を守る使命感を、さらに強めるのだった。