仮面ライダーオメガ 第19話
とある休日、光輝たちは街に買い物に繰り出していた。だが光輝はくるみとヒカルの買うものの荷物持ちをさせられていた。
大量の買い物袋を持たされている光輝。それでもくるみとヒカルの買い物は終わらない。
「もう・・まだ買い物する気なのかなぁ?・・こっちの身にもなってほしいものだよ・・・」
落胆の呟きをもらす光輝。さらに荷物が増えることになると、彼が覚悟していたときだった。
街中を必死に疾走していく1人の青年の姿を、光輝は目撃した。彼には慌てふためいている青年を放っておけなかった。
「くるみちゃん、ヒカルちゃん、ゴメン!」
「えっ!?光輝さん!?」
「ちょっと、光輝!?」
くるみとヒカルに荷物を押し付けると、光輝は2人が声を荒げるのも聞かずに青年を追いかけていった。
必死に走り続ける青年。彼は自分を狙う者から逃げてきていた。
だが街外れの通りに差し掛かったところで、青年の前に異形の怪物が回りこんできた。サソリの姿に酷似したスコーピオンガルヴォルスである。
「このまま逃げられると思っていたのか?」
「もうイヤだ・・僕はもう、人を襲いたくない・・・!」
淡々と声をかけてくるスコーピオンガルヴォルスに、青年が恐怖をあらわにする。
「おいおい、ここまで踏み込んでおいて、逃げられるわけがないだろう?大人しく言うことを聞け。それともここで命を取られるか?」
迫り来るスコーピオンガルヴォルスに、いきり立つ青年。彼の姿がクジラの姿に似たホエールガルヴォルスに変わる。
「オレと戦うつもりか?戦闘力ではオレのほうが上だということは、お前も知ってるだろう・・」
強気な態度を崩さないスコーピオンガルヴォルス。打開の策が見つからず、ホエールガルヴォルスが後ずさりする。
そこへ光輝が駆けつけ、2人のガルヴォルスを目撃する。
「ガルヴォルス!?・・こんなところにまで・・・!」
毒づく光輝が水晶を取り出す。
「変身!」
水晶をベルトにはめ込み、光輝がオメガに変身する。
「オメガ!?」
オメガの登場にスコーピオンガルヴォルスが驚愕する。焦りのあまり、スコーピオンガルヴォルスが光輝に飛びかかる。
これを迎え撃つ光輝が、スコーピオンガルヴォルスの攻撃を受け止めて反撃に転ずる。その猛攻にスコーピオンガルヴォルスが追い込まれていく。
「とんだ邪魔が入るとは・・ここは引き下がるしかないか・・・!」
毒づくスコーピオンガルヴォルスが、光輝のパンチを受けた衝撃を利用して撤退をしていく。追いかけようとする光輝だが、既にガルヴォルスは姿を消してしまっていた。
気持ちを切り替えた光輝が、ホエールガルヴォルスに振り返る。するとホエールガルヴォルスが恐怖をあらわにする。
「ま、待ってくれ!僕は誰にも危害を加えるつもりはない!だから見逃してくれ!」
ホエールガルヴォルスの言葉に、光輝が疑問を浮かべる。
「どういうことなんだ?・・お前は、ガルヴォルスなんだろう・・・?」
「確かにガルヴォルスだけど・・人を襲うのはイヤなんだ・・だから頼む!殺さないでくれ・・・!」
ひたすら懇願するホエールガルヴォルスが、青年の姿に戻る。それを見て、光輝は青年に敵意がないと悟る。
その証明の意味を込めて、光輝はオメガへの変身を解除した。
「話を聞かせてくれますか?・・何か事情があってのことでしょう・・・?」
光輝が訊ねると、青年、伊藤徹は事のいきさつを打ち明けた。
徹はある日、突然ガルヴォルスに転化した。その瞬間をスコーピオンガルヴォルスに見られ、人間を襲うよう誘ってきた。徹がこれを拒んだために、スコーピオンガルヴォルスに狙われることになった。
その先で追い詰められたところに、光輝がやってきたのだった。
「そうだったんですか・・・ガルヴォルスの中にも、いい人がということなんですね・・・」
徹の話を聞いて、光輝が当惑を浮かべていた。
「それで、あなたは僕をどうするつもりですか?・・このまま僕を・・・」
「僕はそんなつもりはないですよ・・僕が戦うのは、世界の平和と人々の自由を守るためですから・・・」
不安を浮かべる徹に、光輝が自分の決心を口にする。彼の本心はただ敵を倒すことではなく、守ることなのである。
「光輝!どこに行ったのよ、光輝!?」
そこへくるみとヒカルが、光輝を追ってやってきた。彼を発見した途端、くるみがすごい形相で詰め寄ってきた。
「ちょっと、いきなりどういうつもりなのよ、光輝!?いきなりあたしたちに荷物を押し付けて!」
「ゴメン・・でも、この人のことが気になったから・・・」
不満を言い放ってくるくるみに、光輝が事情を説明する。
「でも、ガルヴォルスなんでしょ?・・あんまり信じすぎるのはちょっと・・」
「何を言ってるんだよ、くるみちゃん・・あんなに怖がってる人が、悪い人だなんてありえないよ・・」
不安を浮かべるくるみに、光輝が弁解する。ヒカルに介抱されて、徹は落ち着きを取り戻しつつあった。
徹は光輝の呼びかけで、水神家に赴くこととなった。光輝の部屋のベットを借りて、徹は睡眠を取っていた。
「よく眠ってるわね・・・」
「よほど疲れていたのですね・・・」
徹の寝顔を見て、くるみとヒカルが呟きかける。
「でもまだ完全には信用できないわね・・ガルヴォルスなんだから・・・」
「でも私、徹さんを信じられるんです・・根は優しいと思いますから・・・」
再び不安を口にするくるみに、ヒカルが自身の心境を打ち明ける。腑に落ちないながらも、くるみはその言葉を受け入れることにした。
「光輝さん、1人で大丈夫でしょうか?・・一矢さんと太一さんに連絡したほうが・・・」
「大丈夫よ、光輝だけで・・太一くんはともかく、一矢さんがガルヴォルスを助けるようなことをするはずがないわよ・・」
ヒカルが言いかけた言葉に、くるみが呆れ気味に答える。しかしヒカルの光輝への心配は拭えなかった。
その頃、光輝はバイクで街中を駆け抜けていた。彼は徹を狙うスコーピオンガルヴォルスの行方を追っていた。
だが人間の姿になれるガルヴォルスの行方を追うことは、難解なことだった。
「見得切っちゃったってことなのかな・・・」
小休止する光輝が、滅入ってため息をつく。そのわだかまりを払拭しようと、彼は再びバイクを走らせようとした。
通りを歩いていく竜也の姿を、光輝は目撃した。
「竜也くん・・・!」
光輝が声をかけると、竜也が足を止める。
「またお前か・・・」
「また会えたね、竜也くん・・・」
冷淡に声をかける竜也に、光輝が微笑みかける。
「なぜオレにこだわる?オレはお前を快く思っているわけではないぞ・・」
「放っておけないよ・・だって竜也くん、とても悲しそうな目をしてるから・・・」
疑問を投げかける竜也に、光輝が自分の気持ちを口にする。その言葉に竜也が眉をひそめる。
「悲しい?オレは悲しみなど捨てている・・悲しみを見せたところで、何の意味もないからな・・」
「そんなことないよ・・僕たちは、みんなは悲しみを分かち合うことができる・・その気持ちに、老若男女の差別はないよ・・」
竜也の冷淡な言葉に、光輝が悲痛さを込めて弁解する。
「もし・・もしだよ・・・姿は怪人だけど優しい人と、人間だけど怪人のような性格の人・・竜也くんだったらどっちがいい人だと思う・・?」
「何だ、突然?・・・そんなのは関係ない。いい人であるかどうかは、オレが見定める。それだけだ・・」
「自分で見定める、か・・・そんな器用なことが、僕にもできればいいんだけど・・・」
竜也の返答に、光輝が物悲しい笑みを浮かべる。
人の善悪は複雑で、誰が考えても区別のつきにくい。正義感の強い光輝にも、その区別を完璧に付けられる自信があるわけではなかった。
「いいか悪いかは人それぞれだが、今では悪いことを正しいことと思い込んで勝手を振りまいているヤツがいる・・オレはそんなヤツらが許せないのだ・・」
「でも、どんな理由があったって、傷つけていいことにはならないよ・・傷つけあうだけじゃ、解決しないことだってある・・・」
「甘い考えだ・・もはや叩き潰さなければ、何も変わらなくなってしまった・・・」
「そんなことはない・・叩き潰しても、新しい悲しみや苦しみを生み出すだけ・・絶対に怒りや憎しみが晴れるなんてことはない・・・」
互いに考えを譲らない竜也と光輝。2人の強固な決意は、簡単に塗り変わるものではなかった。
「お前はもうオレに関わるな・・気持ちだけで解決できるほど、オレの心の傷は浅くはない・・」
「そうかもしれない・・・でも、人1人の力には限界がある・・人は助け合うことで、何倍もの力を出せるんだ・・・」
「今のオレに、助けを求める相手などいない・・・」
光輝の呼びかけを聞き入れることなく、竜也は立ち去っていった。彼の悲しみを拭うことができず、光輝は困惑するばかりだった。
そのとき、光輝は携帯電話が鳴っていることに気付いた。相手はくるみだった。
「もしもし、くるみちゃん・・?」
“光輝、大変よ!あの人がいなくなった!”
電話に出た光輝に、慌てるくるみの声が飛び込んできた。
スコーピオンガルヴォルスへの恐怖に耐え切れなくなり、徹は水神家を飛び出してしまった。自分に迫るものから逃げるように、彼は必死に駆け抜けていた。
だがその彼の前に、1人の男が立ちはだかった。
「やっと見つけたぞ・・今度こそ邪魔されることなく、お前を始末できる・・・」
不敵な笑みを浮かべる男が、スコーピオンガルヴォルスへと変貌する。危機感を覚えた徹も、ホエールガルヴォルスに変身する。
「僕はイヤだ!人殺しをするくらいなら、どこまでも逃げてやる!」
「お前は逃げられない・・ガルヴォルスである以上、逃げることはできないんだよ・・」
声を振り絞る徹に、スコーピオンガルヴォルスが迫る。逃走を図る徹に向けて、スコーピオンガルヴォルスが尻尾の針を飛ばす。
徹を外れて地面に刺さった針は、爆弾のように激しい爆発を引き起こした。
「うわっ!」
その衝撃で転倒する徹。立ち上がろうとする彼に、スコーピオンガルヴォルスが哄笑を上げる。
「諦めろ・・オレに従うかここで倒れるか、すぐにここで決めろ!」
高らかに言い放つスコーピオンガルヴォルス。
そのとき、ひとつのバイク音が轟いてきた。光輝がバイクを走らせて、徹とス湖^ぴおんガルヴォルスの前に駆けつけてきた。
「ガルヴォルス・・これ以上はお前の勝手にはさせないぞ!」
鋭く言い放つ光輝が、水晶を取り出す。
「変身!」
ベルトに水晶をセットして、光輝がオメガに変身する。
「仮面ライダーオメガ!」
高らかに名乗る光輝が、スコーピオンガルヴォルスに向かっていく。スコーピオンガルヴォルスの放つ尻尾の針を、光輝は跳躍して回避していく。
「徹さん、今のうちに逃げてください!ここはオレが押さえますから!」
スコーピオンガルヴォルスと交戦する光輝が、徹に呼びかける。その言葉に後押しされて、徹が飛び出していく。
「オメガ、性懲りもなく邪魔を!」
「徹さんを傷つけさせはしない!」
「アイツもガルヴォルスだぞ!そのガルヴォルスを庇うとは、どういう風の吹き回しだ!?」
「あの人はガルヴォルスだけど、人の心はしっかりと残ってる!守らないわけにはいかない!」
言いかけてくるスコーピオンガルヴォルスに反論する光輝。徹を守るため、光輝はガルヴォルスに果敢に挑んでいくのだった。
光輝に助けられて、徹は再び逃走を行う。体力を消耗して、彼は足を止めて呼吸を整える。
「少しムリをしてしまったか・・人間の姿に戻らないと・・」
徹が呟きかけたときだった。彼の前に一矢が現れた。
「こんなところにまでガルヴォルスがいたか・・だがお前、運がなかったな。オレと会ってしまったのだから・・・」
悠然と言いかけると、一矢が水晶を取り出す。
「変身。」
ベルトに水晶をセットして、一矢がギガスに変身する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」
高らかに言い放つ一矢が徹に飛びかかる。突然のことに、徹が慌てて動き出す。
「オレと出会ってしまった以上、お前は逃げることはできない・・」
一矢は悠然と言いかけると、一気に徹の前に回り込む。徹は焦りながら、反転して再び逃げ出す。
「無駄なことを・・・ギガブレイバー!」
一矢が呆れながら呼びかけると、徹の前にギガブレイバーが走り込んできた。行く手を阻まれて、徹が恐怖を膨らませていく。
「オレは鬼ごっこをするつもりはない・・早く終わらせてもらおう・・」
冷徹な口調で言いかけると、一矢が徹に攻撃を仕掛ける。その打撃を受けて、徹が押されていく。
「せめて抵抗はしてもらいたいな。一方的というのは、オレとしてもいただけない・・」
「やめてくれ!僕は死にたくない!誰も殺したくない!」
落胆を浮かべる一矢に、徹が必死に呼びかける。しかし一矢はそれを聞こうとしない。
一矢の猛攻を受けて、徹が突き飛ばされる。疲弊した彼に、一矢は呆れ果てていた。
「呆れてものもいえない気分だ・・お前もイヤなら、次をとどめにしようか・・」
一矢は徹に言いかけると、ベルトの水晶を右手の甲にはめ込んだ。
スコーピオンガルヴォルスを猛追する光輝。劣勢を痛感したスコーピオンガルヴォルスが、光輝から距離を取っていく。
「このままお前の相手をしているつもりはない・・オレはヤツにウロウロされると面倒なのでな・・」
「徹さんを襲うつもりなんだろう!?そんなことはさせないぞ!」
うめくスコーピオンガルヴォルスに、光輝が鋭く言い放つ。毒づくスコーピオンガルヴォルスが、尻尾から針を飛ばす。
眼前の地面に刺さった針が爆発し、光輝は足を止められる。その間にスコーピオンガルヴォルスは姿を消してしまった。
「逃げられた・・・今は徹さんのところに行かないと・・・!」
光輝は気持ちを切り替えて、徹を追いかけていく。徹が逃げたほうに向かって、彼は駆け抜けていく。
そこで彼は目を疑った。ギガスに変身した一矢が、徹を追い詰めつつあった。
「一矢さん!?・・もしかして、徹がガルヴォルスだから・・・!」
不安を覚える光輝。彼は考えるより先に、体が動いていた。
「やめろ!」
とっさに飛び出して呼びかける光輝。彼は徹にとどめを刺そうとしていた一矢に飛びかかった。
「んっ!?」
光輝の乱入に一瞬驚愕を覚える一矢。
「逃げろ!早く逃げるんだ!」
徹に呼びかける光輝。だが直後、一矢が繰り出した殴打を受けて、横に突き飛ばされる。
「どういうつもりだ、君は?いつからガルヴォルスの味方になったんだ?」
低い声音で言いかける一矢と、ゆっくりと立ち上がる光輝。
「その人は悪いガルヴォルスじゃない・・まだ人間の心が残っているんです・・・」
「世迷言を口にするほどになったとは・・ガルヴォルスにいいも悪いもないだろう・・?」
「違う!その人はガルヴォルスになってしまったけど、人間として生きようとしているんだ!だから倒してはいけない!」
「分からないヤツだ・・それは相変わらずだったが・・・」
徹を守ろうとする光輝に、一矢は呆れ果てていた。
「とにかく邪魔をするなら、先に君から倒すことになる・・・」
ついに敵意を傾ける一矢。徹を守ろうと、光輝は一矢の前に立ちはだかろうとしていた。