仮面ライダーオメガ 第17話
光輝との邂逅を果たした翌日、太一は勇気を振り絞って大学に登校した。周囲は彼の雰囲気が一変したと感じていた。
太一は弥生の助力もあって、徐々に生徒や講師たちと解け込んでいった。
だが、変わっていく太一の様相を快く思わない人もいた。
同じ頃、光輝はくるみとともに太一たちの通う大学に向かっていた。太一の様子を見に行くのと同時に、くるみに太一と弥生を紹介しようとしていた。
「その人がクリスだったわけね・・でも最初は家に引きこもるような人だったのよね・・?」
「うん・・でももう大丈夫・・僕よりずっとたくましくなっちゃったから・・」
くるみが訊ねると、光輝が喜びを見せながら答える。
「光輝と比べられるなんて・・ある意味かわいそうかも・・・」
「またそんな言い方を・・・」
くるみにからかわれて、光輝が気落ちする。2人は大学が目前というところに差し掛かった。
「ここだ、ここだ・・すぐ会えるといいんだけど・・・」
光輝が大学の正門前で足を止めて、太一と弥生を探して周囲を見回す。しかし2人の男女を見つけ出すのは、簡単なことではなかった。
「おい!ケンカだぞ!」
「例の生徒が殴られてるぞ!」
そこへ生徒たちの声が飛び込み、騒ぎを聞きつけて別の生徒たちが走り込んできていた。
「まさか、太一くんが・・・!?」
一抹の不安を覚えた光輝も、くるみとともに騒ぎのほうに向かう。そこでは2人の男子が、太一に殴りかかっていた。
「太一くん!?」
「えっ!?」
声を荒げる光輝に、くるみも驚きの声を上げる。
「いけない・・太一くんを助けないと!」
光輝がたまらず飛び出し、男子たちの前に立つ。
「何だ、お前は!?」
「弱いものいじめはやめろ!」
怒鳴りかける男子の前に果敢に立ちはだかる光輝。男子に殴りかかられるが、光輝は怯まない。
「お前たち、何をやってるんだ!?」
そこへ声がかかり、男子たちが気まずさを浮かべて逃げ出す。弥生が連れてきた講師が、光輝と太一の前にやってくる。
「谷山、大丈夫か!?・・君もやられたのか・・・!?」
講師、橘昭平が太一に呼びかけ、続いて光輝に目を向ける。
「止めに入ったんですけど・・見事に殴られてしまいました・・・」
答える光輝が苦笑いを浮かべる。殴られて赤くなった彼の頬が痛々しかった。
「君はここの生徒ではないね?・・誰かの知り合いか・・?」
「はい・・太一くんに会いに来たんです・・そしたらこの騒ぎに出くわしまして・・」
「谷山くんに?・・・そうだったのか・・君には大変な思いをさせてしまったね・・」
「いえ・・あなたは何も悪くないです・・それに、僕が飛び出して、太一くんを守ろうとしただけですから・・・」
謝意を見せる昭平に、光輝が苦笑いを見せる。
「私は橘昭平。谷山くんのゼミを担当している・・」
「僕は吉川光輝です。太一くんとは最近知り合いまして・・」
自己紹介をする招聘と光輝が握手を交わす。
「太一くん!太一くん、大丈夫!?」
弥生が太一に駆け寄って心配の声をかける。しかし太一は弱音を吐こうとせず、口から出ている血を右手で拭う。
「弥生ちゃん、僕は大丈夫・・僕、負けなかったよ・・・」
「・・たくましかったっていいたいけど、怪我したら私やみんなは・・・」
微笑みかける太一に、弥生が安堵と困惑を込めた吐息をつく。
「とにかく怪我の手当てをしないと・・保健室に行こう・・」
「うん・・僕らしくないね・・こんなにムチャするなんて・・・」
弥生に促されて、苦笑いを浮かべる太一が保健室に向かう。
「しっかりしてるじゃない、太一くん・・光輝よりしっかりしてるかも・・」
「くるみちゃん、また・・・」
頷きかけるくるみに、光輝は再び肩を落としていた。
その騒ぎからしばらくして、一矢も太一たちの通う大学に赴いていた。
(ここか・・あまり大きな問題ではないが、とりあえず1度見ておくのもいい・・)
悠然とした態度を見せる一矢が胸中で呟きかける。正門を抜けて校舎裏に来た彼は、苛立ちの声を耳にして足を止める。
先ほど太一につかみかかっていた男子たちである。光輝に妨害されたことに、2人は苛立ちを抑えられないでいた。
「こうなったら誰もいねぇところでやっちまおうぜ・・」
「そうだな・・そっちのほうが、オレらには好都合だ・・くたばっても分かんねぇって・・」
男子たちが気持ちを落ち着けながら言いかける。直後、2人が一矢に気付いて、睨みつけてきた。
「コイツで憂さ晴らしするとしようか・・」
「おめぇ、運がなかったと思って諦めるんだな・・本気になったオレらからは逃げられねぇよ・・」
不敵な笑みを見せる男子たちに、一矢がため息をつく。
「実に粗暴だな。次は顔を貸せとでも言うのだろう?」
「ん?分かってるじゃねぇかよ・・」
「そういうことだから、大人しく言うことを聞くんだな・・」
一矢に鋭く言いかける男子たちに、一矢はあえてついていくことにした。
傷口を消毒して絆創膏を張ってもらい、太一は安堵を浮かべていた。彼の様子を見て、昭平は肩を落としていた。
「まさか谷山くんがこんなムチャをするとは・・嬉しいような参るような・・・」
「すみません、先生・・迷惑をかけてしまって・・・」
昭平と太一の会話を見て、光輝とくるみが微笑みかける。
「それにしても、あの谷山くんがここまで変わるとは・・吉川くんとの出会いが、谷山くんを変えたのかもしれない・・」
「そうだとしたら嬉しいです・・僕もガムシャラでしたから・・」
昭平に声をかけられて、光輝が照れ笑いを浮かべる。
「谷山くんはひどく臆病で、時々大学に来ないこともあった・・岬さんが励ましてくれていたのだが、あまり効果がなく・・・」
「太一くんの中には勇気が確かにあったんですよ・・僕以上の勇気が・・・」
「これからも谷山くんをよろしく頼む・・君たちの支えがあることで、谷山くんは強くなれる・・・」
「もちろんです・・太一くんは、僕にとってもかけがえのない友達ですから・・・」
昭平が差し伸べた手を、光輝も手を取って握手を交わした。
「谷山くんも岬さんもこの後授業はなかったよな?体を休めるために、早く帰ることだな。」
「分かりました。私が太一くんを送りますから・・・」
昭平の呼びかけに弥生が答える。彼女は太一を連れて保健室を出た。
「それでは僕たちも行きます。橘さん、ありがとうございます。」
「失礼します・・」
光輝とくるみも昭平に挨拶をすると、太一と弥生を追っていった。
大学を後にした光輝たち。大学の外で、くるみが太一と弥生に声をかけた。
かつてひどく臆病だった太一に呆れるも、くるみは太一の勇気を賞賛していた。彼女も太一と弥生と分かち合っていった。
「本当によかったです・・太一くんが、以前より怖がらなくなったことが・・・」
「これからはあたしもしっかりと支えてあげますから・・これでもお子様をしっかりとささえてますからねぇ・・」
弥生と会話する中、くるみが光輝ににやけ顔を見せる。
「光輝はヒーロー好きなの。特に仮面ライダーが大好きでね・・それがひょんなことからライダーになっちゃったんだからねぇ・・・」
「ライダーはすごいんだよ!永遠のヒーローなんだよ!」
からかってくるくるみに、光輝が不満を口にする。が、くるみは相手にしていなかった。
「でも、子供の頃から抱いている夢みたいなものを今でも抱えているのはすごいと思うよ・・」
すると太一が言いかけ、光輝の純粋な心に共感する。
「でももう子供じゃないからたちが悪いのよ・・」
しかしくるみは光輝に呆れた素振りを見せていた。その答えを聞いて、太一と弥生は苦笑いを浮かべていた。
男子たちに連れられて、一矢は人気のない広場に来た。不敵な笑みを見せてくる男子たちだが、一矢は悠然とした態度を崩さない。
「ここなら思う存分オレに襲いかかれるか?自分が有利な条件下で打ちのめされれば、イヤでも力の差を理解するからな・・」
「こんな状況でそんなでかい態度を見せ付けてくるとは大したもんだ・・」
「だがそんな大口がいつまで続くか・・・」
淡々と言いかける一矢に言い返す男子たち。2人の頬に異様な紋様が浮かび、一矢が眉をひそめる。
「お前たち、ガルヴォルスか・・また面倒なヤツらに絡まれたものだな・・」
嘆息をつく一矢の前で、男子たちがそれぞれ、メカジキに似た姿のソードフィッシュガルヴォルスとトビウオに似た姿のフライングフィッシュガルヴォルスに変貌する。
「こうなったらオレらからは逃げられねぇ・・」
「オレらの気が済むまでズタズタになってもらうぜぇ・・・!」
不気味な哄笑を上げて、2人のガルヴォルスが迫る。しかし一矢は全く動じない。
「お前たちがそんな姿になっても、オレの勝利は揺るがない・・・変身。」
水晶をベルトにセットした一矢が、ギガスに変身する。その姿に男子たちが驚く。
「まさかお前、ギガス・・・!?」
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」
高らかに言い放つ一矢が、驚愕する男子たちに飛びかかる。ギガスのパワーが、ガルヴォルスたちを猛追する。
「ぐっ!やっぱギガスはとんでもねぇ強さだ・・!」
「も、もうヤダ!・・こんなの真っ平だ!」
一矢の力に毒づく中、男子の1人、フライングフィッシュガルヴォルスが恐れをなして逃げ出す。
「おいっ!1人で逃げんな!」
怒鳴りかけるソードフィッシュガルヴォルスだが、一矢の攻撃で突き飛ばされてそれどころでなくなる。
「ここまでけしかけてきたのだ。2人仲良く逃げられると都合のいいことはできないと考えるのだな・・」
「く、くそぉっ!」
立ちはだかる一矢に、ソードフィッシュガルヴォルスは苛立ちを浮かべていた。
一矢の発揮したギガスの力に恐怖し、フライングフィッシュは逃げ出した。だが彼は通りの真ん中で、光輝たちと鉢合わせになった。
「ガルヴォルス!?」
「こんなところに・・・!」
驚愕するくるみと、毒づく光輝。太一と弥生も困惑を浮かべていた。
「ここで谷山太一と出くわすとは・・こうなったら、お前ら全員始末してやる!」
いきり立ったフライングフィッシュガルヴォルスが、光輝に襲い掛かることを思い立つ。
「くるみちゃんたちに手出しはさせない・・太一くん、行くよ!」
「う、うん・・」
呼びかける光輝に太一が頷く。2人がフライングフィッシュガルヴォルスの前に立ちはだかり、水晶を手にする。
「変身!」
「変身・・・!」
光輝と太一がオメガとクリスに変身する。2人の戦士の登場に、フライングフィッシュガルヴォルスが緊迫を覚える。
「仮面ライダーオメガ!」
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」
光輝と太一が鋭く言い放つ。
「ガルヴォルス、お前たちの勝手にはさせないぞ!」
光輝が攻撃を開始し、フライングフィッシュガルヴォルスを攻め立てる。
「弥生ちゃん、ここから逃げて!」
太一も弥生に呼びかけてから、フライングフィッシュガルヴォルスに挑みかかる。跳躍しオメガの攻撃をかいくぐっていたフライングフィッシュガルヴォルスだが、クリスの奇襲に不意を突かれる。
「コイツ!・・腰抜けの谷山のくせに刃向かうのか!?」
「弥生ちゃんに手は出させない・・・!」
苛立ちをあらわにするフライングフィッシュガルヴォルスと、勇気を振り絞る太一。果敢に攻め立てる太一に、フライングガルヴォルスは脅威を感じていた。
「これがあの谷山太一かよ!?いくらクリスになってるからって、ここまで強くなるなんて・・!?」
太一の発揮する力に脅威を覚えるフライングフィッシュガルヴォルス。危機感を覚えた彼は、太一との距離を取る。
そこへソードフィッシュガルヴォルスが突き飛ばされてきた。一矢の力に彼は手も足も出なくなっていた。
「最初の威勢はどこに消えた?身の程知らずとは所詮はこういうものか・・」
男子たちの体たらくに呆れる一矢。
「一矢さん・・一矢さんも来ていたんですね・・」
彼の登場に光輝が当惑を浮かべる。そのとき、一矢がクリスとなっている太一に目を向ける。
「そこにいるのがクリスか・・速さはそこそこあるようだが、オレには敵わない・・」
「あれがギガス・・ギガスも近くにいたんだ・・・」
強気な態度を見せる一矢と、ギガスの登場に困惑を覚える太一。逃げることしか頭になくなっていた男子たちは、その対面に乗じて逃走していった。
「逃げたか・・もはやあの2人を追う気も失せている・・・」
一矢は淡々と言いかけると、太一に向けて歩を進める。
「クリスであるお前の力、どれほどのものなのか確かめさせてもらうぞ・・」
「僕の力を?・・何をしようというの・・・?」
一矢の言葉に太一が疑問を浮かべる。
「ちょっと一矢さん、何を言って・・・!?」
光輝が驚愕するが、一矢はその声に耳を傾けない。
「オレが勝つのは分かりきっているが、一応対戦してみるのもいい・・」
一矢はそういうと、太一に向かって攻撃を仕掛けてきた。突然のことに太一はパンチを受けて怯む。
「何をするんだ、いきなり!?」
抗議の声を上げる太一だが、一矢は攻撃をやめない。
「太一くんになんてことを・・やめてください、一矢さん!」
「邪魔をしないでくれ。これはオレとクリスの手合わせだ。」
光輝がたまらず止めに入るが、一矢に返り討ちにされる。
「どうした?あまり一方的過ぎるのも、張り合いがなくてよくない。」
一矢は言いかけると、再び攻撃を仕掛ける。徐々に危機感を募らせていく太一も、たまらず反撃出る。
だがパワーで勝る一矢の前に、太一は劣勢を強いられる。
「こんなのはイヤだ・・このまま負けてしまうのは、絶対にイヤだ・・・!」
太一の臆病な性格が彼自身を追い詰め、その切迫からの戦意を奮い立たせる。その反撃が一矢の優勢を揺さぶっていく。
攻撃一辺倒だった一矢が手数を減らされる。必死の猛攻を行っていく太一が、ベルトの水晶を脚部にはめ込む。
「いけない!太一くん、全力で攻撃を仕掛ける気だ!」
「その気になってきたか・・だがさすがのオレも、お前の攻撃を食らってやるつもりはない・・」
危機感を覚える光輝と、悠然とした態度を見せ続ける一矢。
「クリススマッシャー・・・!」
鋭く言いかける太一が飛び上がり、一矢に向けて飛び蹴りを繰り出す。一矢も迎え撃つべく、ベルトの水晶を右手の甲にはめ込む。
「ギガスマッシャー!」
高らかに言い放つ一矢が、エネルギーを集束させたパンチを繰り出す。
「やめろ、2人とも!」
光輝が悲痛の声を上げる前で、2人の攻撃が衝突する。だが精神的に追い詰められていた太一は、一矢の力に押されて跳ね返されてしまう。
「ぐっ!・・ぅぅ・・・!」
痛烈なダメージを受けて、うめく太一。気持ちを落ち着けて、一矢が太一を見下ろす。
「この程度か・・どこか臆病なところが見られるが、それが弱さを生み出しているのか・・」
淡々と言いかける一矢が、戦意を落として振り返ったときだった。
「3機のクリスタルユニットが勢ぞろいしているようだな・・」
そこへ声がかかり、光輝たちが視線を移す。彼らの前に幸介が現れ、不敵な笑みを浮かべてきていた。
「アイツ・・・!」
幸介の登場に光輝が身構える。戦意をむき出しにした幸介が、ジャックガルヴォルスに変身する。
「クリスタルユニット3機、全て私がいただかせてもらう・・・!」
混沌とした光輝たちの隙を突いて、幸介が牙を向けてきた。