仮面ライダーオメガ 第16話
太一はクリスだった。彼が放った攻撃は、オメガを上回る速さを持つシャークガルヴォルスを捉えた。
これがクリスの特徴だった。速さに特化した性能を備え、速さに対応した感覚も研ぎ澄まされるのである。
「速い・・オメガの力でも捉えられなかったあのガルヴォルスを超えている・・・!」
「これがクリスの力・・この私がかわせないとは・・・!」
光輝が驚き、シャークガルヴォルスが緊迫を覚える。
「もうやめようよ・・そんなことしたって勝てないし・・第一僕が迷惑するんだから・・・」
太一がシャークガルヴォルスに呼びかけるが、これが素直に受け入れられるはずがなかった。
「このまま私が引き下がると思っているのか?実に甘いことだな・・」
シャークガルヴォルスが太一をあざ笑い、両手の爪を不気味に光らせる。
「もうイヤなんだよ!学校の人たちからもいじめられて、お前たちみたいなのからも襲われて、もうたくさん!」
「そんなに嫌気がさしているなら、私に早く始末されることだな・・」
拒絶の言葉を言い放つ太一に、シャークガルヴォルスが不敵に言い返す。
「イヤだよ、そんなの・・僕は痛いのも辛いのも、もうたくさんなんだよ!」
悲痛の叫びを上げる太一が、腰に装備されている柄を手にする。その柄から刀身が伸び、淡い光を発した。
クリスの武器「クリスセイバー」。精神エネルギーを糧にして威力を強化させることのできる剣で、そのエネルギーを駆使して、鞭や銃のような使い方も可能である。
太一がクリスセイバーを振りかざし、シャークガルヴォルスを切りつけていく。クリスの速さに追いつけず、劣勢を強いられるシャークガルヴォルス。
「このままではまずい・・・クリスユニットを手に入れるのは、次の機会にしよう・・・」
シャークガルヴォルスは太一の攻撃をかいくぐると、跳躍してこの場から去っていった。
「しまった・・逃げられた・・・!」」
シャークガルヴォルスを見失ってしまい、光輝が毒づく。太一がクリスへの変身を解除して、そそくさに立ち去ろうとする。
「待って!」
オメガへの変身を解除した光輝が、太一を呼び止める。
「まさか君がクリスだったなんて・・それに全然強いじゃないか・・」
「君が変身したのはオメガなのか?・・話には聞いてたけど・・・」
喜びの声を上げる光輝に、太一が疑問を投げかける。
「うん・・君も戦ってくれるなら、これほど心強いことはないよ・・一緒に戦おう、ガルヴォルスと・・」
「イヤだよ・・・」
呼びかける光輝だが、太一は彼の誘いを拒絶する。
「僕は戦いたくない・・傷ついて痛くて辛くて・・そんな思いなんてしたくない・・・」
「痛くて辛いのは僕だってそうだよ・・だけど・・・」
「分かってるなら放っておいてよ!もう僕に構わないで!」
太一は光輝の呼びかけを跳ね付けて、この場から逃げ出してしまった。
「太一くん・・・」
臆病な姿を目の当たりにして、光輝は困惑して太一を追うことができなくなってしまった。
「光輝さん、大丈夫ですか・・・?」
そこへ弥生とともに戻ってきたヒカルが声をかけてきた。
「ヒカルちゃん・・僕は大丈夫・・だけど、太一くんが・・・」
「太一くん・・太一くんもここに来ていたんですか・・・!?」
微笑みかける光輝の言葉を聞いて、弥生が息を呑む。
「う、うん・・彼のおかげで僕は助かったんです・・でも、どこかに行ってしまって・・・」
「そうですか・・太一くん、すごく臆病な性格なんです・・あの怪物と戦ったのも、あくまで自分の身を守るため・・・」
光輝の答えを聞くと、弥生は太一について語り始めた。
「あの力、クリスを手に入れたのは偶然・・逃げてきた黒ずくめの男に無理矢理渡されて・・・恐る恐る使ってみて、太一は今のようなすごい力を手に入れたんです・・・」
「誰かに追われていたのでしょうか、その人は・・・」
弥生の話を聞いて、ヒカルが呟きかける。
「襲い掛かってくる怪物たちと、太一くんは戦ってきました・・でもあくまで、自分の身を守るため・・本当の太一くんは、戦うことさえも怖がっているんです・・・」
「周りを怖がって拒絶して・・辛いことがイヤでイヤで仕方がないんですね・・・でも・・・」
弥生の話を聞いて、光輝は意思を示す。
「何でもかんでも、怖がって逃げてばかりなのはよくないよ・・・」
決意を秘める光輝に、ヒカルは戸惑いを感じていた。
光輝の前から逃げ出した太一は、自宅に戻ってきていた。彼は自分の部屋に閉じこもると、その隅でうずくまって震え出した。
「もうイヤだ・・もうこんな辛いのはイヤだよ・・・!」
体を震わせる太一が、恐怖を込めた言葉を口にする。
「もう僕に構わないで・・僕を陥れるのはやめてよ・・・僕は、大人しく暮らしていたいだけなのに・・・」
泣きながら必死に訴える太一。これからの人生にある苦難、ガルヴォルス、戦い。それらの全てに彼は恐怖し、拒絶し続けていた。
そのとき、部屋のドアがノックされ、太一はさらに塞ぎこむ。
「太一くん、弥生だよ・・戻ってきてるんだよね・・・?」
ドアの外にいる弥生が声をかけてきたが、太一は答えようとしない。
「光輝さんとヒカルさんは、私たちの味方だよ・・太一くんのことを支えてくれる人たちだよ・・・」
「それを決めるのは弥生ちゃんじゃない・・優しく振舞って、僕を陥れようとしているんだよ・・・」
「お願い、太一くん・・現実を見て・・自分がどうしてイヤなのか、自分の目で確かめて・・・」
「うるさい!もう僕を巻き込むのはやめてよ!」
必死に呼びかける弥生だが、太一はひたすら拒絶する。周りからの声を聞き入れまいと、彼は手で耳を塞いでいた。
そうして拒絶し続けていれば、向こうは諦めてくれる。仮に諦めなくても、このまま拒絶の姿勢を見せ付ければいい。太一はそう思っていた。
そのとき、太一の部屋のドアが突如突き飛ばされた。鍵をかけていたはずのそのドアを、光輝が突進して無理矢理突き飛ばしたのである。
「ゴメン、太一くん!でも、こうするしか方法がなかったから!」
「入ってくるな!どうしてそこまで僕を追い詰めていくんだよ!?」
声を上げる光輝に、太一が恐怖を込めた叫びを上げる。
「太一くん・・あんなのに襲われたりしたら、誰だって怖くなるよね・・僕だって怖いよ・・ううん、誰だって怖いと感じるはずだよ・・」
光輝が太一に向けて、真剣な面持ちで言いかける。
「でもだからって、逃げていいわけじゃない・・逃げていれば、何もかも解決するわけじゃない・・人生の中に、逃げるだけじゃ解決しない、勇気を出さないと解決しないことが必ずやってくる・・諦めずに、逃げずに立ち向かうことも必要なんだ・・・!」
「そんなの、強い人だからできることだよ・・僕みたいに弱かったら、そんなことできるはずないじゃないか・・・」
「僕だって強くない・・太一くんのほうが全然強いくらいだよ・・・」
拒絶の声を上げる太一に、光輝が優しく言いかける。
「僕には勇気と正義感しかない・・腕力の強さなんてない・・でも本当の強さは、自分で一歩前に出る勇気なんだ・・・」
「一歩前に出る勇気・・・?」
光輝のこの言葉を耳にして、太一は初めて戸惑いを見せた。
「本当に強いのは、勇気を持っている人なんだ・・そして勇気は、その気になれば誰にでも持てるものなんだ・・・」
「勇気・・・僕に、そんなものがあるっていうの・・・?」
「勇気を出してみよう、太一くん・・僕もヒカルちゃん、弥生さんがしっかり支えるから・・・」
光輝に励まされて、太一は徐々に気持ちを落ち着けていく。ヒカルと弥生も2人を見つめて微笑みかけていた。
そのとき、部屋の窓が突然割れ出した。その外には先ほどの黒ずくめの男が立っていた。
「あなた、さっきの・・!?」
「今度こそいただかせてもらうぞ・・クリスユニットも、オメガユニットも・・・!」
弥生が声を上げる前で、男がシャークガルヴォルスへと変貌を遂げる。
「あのときのガルヴォルスか・・・!」
毒づく光輝がオメガへの変身を試みる。だがシャークガルヴォルスに素早く飛びかかられ、突き倒される。
「しまった・・・!」
「そう簡単に変身できると思っていたのか?甘い、甘い・・」
うめく光輝に、シャークガルヴォルスが言いかける。両腕を押さえつけられて、光輝はシャークガルヴォルスを跳ね除けることができないでいた。
「ヒカルちゃん、弥生さん、太一くん、逃げるんだ!」
「光輝さん!」
呼びかける光輝にヒカルが悲痛の声を上げる。
「残念だが逃げるのは不可能だ。たとえこの狭い部屋や廊下でも、ただの人間2人を素早く始末することは不可能ではないぞ。」
「そんなことさせるか・・2人は僕が守る・・!」
高らかに言い放つシャークガルヴォルスに、光輝が負けじと言い返す。だがシャークガルヴォルスに押さえつけられて、光輝は痛みを覚える。
「いけません、光輝さん!光輝さんを放って逃げるなんて・・!」
「僕に構わないで・・早く逃げるんだ・・・!」
悲痛さをあらわにするヒカルに、光輝は声を振り絞る。
「逃げられないと言っただろう?・・お前もすぐに後を追わせてやるから安心しろ・・」
言いかけるシャークガルヴォルスに体を踏みつけられ、光輝が苦痛を覚えて顔を歪める。
(このままだと弥生ちゃんが・・でも僕に、弥生ちゃんを助けられるのかな・・・)
この非常時の光景を目の当たりにして、太一が困惑を膨らませる。
“本当に強いのは、勇気を持っている人なんだ・・そして勇気は、その気になれば誰にでも持てるものなんだ・・・”
(僕にも勇気が・・弥生ちゃんを守れるだけの力が・・・)
光輝の言葉を思い返して、太一は奮い立とうとしていた。
「おしゃべりはここまでだ。どちらの娘から切り刻んでやろうか・・」
「やめろ!」
笑みをこぼすシャークガルヴォルスに、太一が呼びかける。彼はシャークガルヴォルスを見据えて、水晶を手にする。
「変身・・・!」
太一が水晶をベルトにセットし、クリスに変身する。戦意を見せてきた彼に虚を突かれ、シャークガルヴォルスは驚愕を覚える。
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・」
太一がシャークガルヴォルスに飛びかかり、光輝から引き離す。さらにシャークガルヴォルスをつかんだまま、割れた窓から外に飛び出す。
「光輝さん!・・大丈夫ですか・・・!?」
ヒカルが光輝に心配の声をかける。
「ヒカルちゃん・・僕は大丈夫だよ・・太一くんのおかげで助かったよ・・」
起き上がった光輝が、微笑んで答える。彼の体に外傷はなく無事だった。
「ヒカルちゃん、弥生さんをお願い・・・」
「はい・・・」
光輝の呼びかけにヒカルが頷く。彼は太一を援護するため、外に飛び出した。
通りにてシャークガルヴォルスと交戦する太一。慢心をなくしているシャークガルヴォルスはスピードを全開にしており、速さに長けているクリスとなっている太一をも翻弄していた。
「もう油断はしないぞ。全力でお前を叩きのめし、その首をかき切ってくれる!」
いきり立つシャークガルヴォルスが素早く飛びかかる。太一もクリスセイバーを手にして迎え撃つが、シャークガルヴォルスはその一閃をかいくぐり、爪と角を振りかざす。
クリスの装甲を切り付けられ、太一が怯む。とっさに全力でクリスセイバーを振りかざすが、シャークガルヴォルスは跳躍して回避し、反対側に回り込む。
「なかなかの速さだということは認める。私でなければその速さで翻弄できただろう・・だが、相手が悪かったな・・」
不敵に言いかけるシャークガルヴォルスが、徐々に太一へと迫っていく。クリスセイバーを構えるも、打開の戦法を見出せず、太一は焦りを覚えて後ずさりをする。
「僕はここまでなのか・・やっぱり僕は、これしか力が出ないのだろうか・・・」
「諦めたらダメだ、太一くん!」
諦めかけた太一に向けて声がかかる。駆けつけた光輝が太一に呼びかけてきた。
「諦めたらそこで何もかも終わってしまう!だから諦めたらダメなんだ!」
「光輝くん・・・」
光輝の励ましの言葉に、太一が戸惑いを浮かべる。太一は失いかけていた勇気を再び奮い立たせる。
「変身!」
光輝が手にした水晶をベルトにセットする。オメガに変身した彼は、シャークガルヴォルスに向けて飛び蹴りを繰り出す。
シャークガルヴォルスは跳躍してその蹴りをかわし、後退して距離を取る。
「仮面ライダーオメガ!」
高らかと名乗る光輝がシャークガルヴォルスを見据える。だがシャークガルヴォルスは余裕を見せてきた。
「お前など、クリスに比べればのろまだ。恐れることはない。」
「速さで敵わなくても、オレは負けない!太一くんや、みんなの勇気に応えるために、オレはお前を倒す!」
言い放つ光輝がシャークガルヴォルスに向かっていく。だが素早く動くシャークガルヴォルスに爪で切りつけられ、オメガの装甲から火花が散る。
「ぐあっ!」
「光輝くん!」
うめく光輝に太一が声を荒げる。太一もとっさに駆け出し、クリスセイバーを構える。
(僕は傷つきたくない・・だけどそれ以上に、弥生ちゃんや光輝くんを傷つけられたくない!)
勇気を強める太一が、ベルトの水晶をクリスセイバーの柄にはめ込む。クリスクリスタルの力を得て、クリスセイバーの刀身に宿る光が強まっていく。
「クリスストラッシュ!」
太一が振りかざしたクリスセイバーから光の刃が解き放たれる。その刃がシャークガルヴォルスの体を真っ二つに切り裂いた。
シャークガルヴォルスが絶命、崩壊したことで、光輝は窮地を脱することができた。戦いを乗り切った太一が脱力し、その場にひざを付く。
「やった・・僕だって、やれたんだ・・・」
安堵の言葉を口にする太一が、クリスへの変身を解除する。同じくオメガへの変身を解除した光輝が、太一に歩み寄ってきた。
「すごかったよ、太一くん・・逆に僕のほうが足手まといになっちゃったよ・・」
太一に褒め言葉をかける光輝が苦笑いを浮かべる。
「ありがとう、太一くん・・君の勇気で僕は助けられたし、ヒカルちゃんと弥生さんも助かった・・そしてその勇気は、みんなを守る力にもなる・・」
「みんなを守る力・・・」
戸惑いを浮かべる太一に、光輝が手を差し伸べる。
「これからよろしくね、太一くん・・・」
「光輝くん・・うん・・・」
光輝の声に頷いて、太一がその手を取って握手を交わす。
そこへヒカルと弥生が遅れて駆けつけてきた。
「光輝さん、太一さん、大丈夫ですか・・・?」
ヒカルの呼びかけに光輝が頷く。太一と弥生が目を合わせて、互いに戸惑いを浮かべる。
「太一くん・・・すごかったよ、太一くん・・・」
「弥生ちゃん・・ゴメン・・弥生ちゃんの声を聞かずに・・・」
声を掛け合う弥生と太一が笑顔を見せる。2人のやり取り、そして太一に勇気が芽生えたことに、光輝とヒカルは喜びを感じていた。
「クリス・・先にオメガに接触されたか・・・」
クリスの行方を追っていた幸介が、おもむろに呟きかける。
「だが完全に一騎協力、というわけではないようだ・・出方を伺って、チャンスを狙っていくか・・・」
幸介は妙案を練り上げると、止めていた足を前に進めていく。彼はオメガ、ギガス、クリス、3機のクリスタルユニットの強奪を企んでいた。