仮面ライダーオメガ 第15話

 

 

 幸介との壮絶な戦いの翌日。光輝は大学にて、一矢からある事を聞かされた。

 オメガとギガスの他に存在するクリスタルユニット。その1機、クリスについて。

 クリスはオメガ、ギガスよりも前に開発されたクリスタルユニットで、2機に比べて俊敏性に特化した性能を備えている。

 そのクリスの持ち主が近くにいるかもしれない。そう思った光輝は、クリスの捜索を開始するのだった。

「そのクリスユニットが、本当に近くにあるのでしょうか・・・?」

 光輝と一緒に来ていたヒカルが、質問を投げかける。

「分からない・・でもわずかな手がかりがあるなら、それにすがりたい・・溺れる者はわらをもつかむってね・・」

「でも、その手がかりさえない状態なんですよね・・・?」

「そうだけど、だからって諦めるわけにはいかない・・諦めたら何も見つけられなくなる・・探し物とはそういうものだよ・・」

 不安を口にするヒカルだが、光輝は捜索意欲を強めていく。彼の姿を目の当たりにして、ヒカルは気持ちを落ち着けて頷く。

「分かりました・・私、光輝さんを信じます。光輝さんなら、どんなことにも負けませんから・・」

「そんな大げさなものじゃないよ、僕は・・でも、ヒカルちゃんの期待には応えてあげないとね・・」

 ヒカルの言葉を受けて、光輝は自信を込めて頷いた。

「何か事件でも起きれば、見つけられる可能性も大きくなるんだけど・・そういうのを期待するのはよくないんだけど・・・」

 そう呟きながらも、光輝はクリスの捜索にさらなる意欲を見せていた。彼はヒカルとともに捜索を続けるのだった。

 

 光輝とヒカルが捜索を行っている場所から数キロはなれた地点。その住宅地の一角の家を訪れる1人の少女がいた。

 (みさき)弥生(やよい)。大学1年生である。弥生は今日、知り合いの家を訪ねてきたのである。

 弥生はその家のインターホンを押した。呼び鈴がなるが、家から人が出る様子がない。

「また閉じこもってるのかな・・・」

 深刻な面持ちを浮かべて、弥生は今度は家の玄関のドアをノックする。

「いるの?また勝手に入るよ?」

 呼びかけてから家の中に入る弥生。その家の2階のある1室に彼女はやってくる。

 その部屋の隅に1人の青年がうずくまっていた。

 谷山(たにやま)太一(たいち)。弥生と同じ大学に通う彼女の幼馴染みである。

 太一は非常に内向的な性格で、何事においても勇気が持てず逃げ場を求めてばかりだった。この日も彼は勉強の成績の不振と周囲からの言動に怖くなり、家に閉じこもってしまっていた。

「太一くん・・また学校を休んだんだね・・・」

 弥生が声をかけるが、太一はうずくまったまま何も答えない。

「どんなことにだって、怖いことがたくさんある・・私だって、怖いことばかりだよ・・でも、だからっていつまでも怖がってたら、何も変わらないじゃない・・・」

「だからどうしろっていうの・・・僕が何とかしたって、何も変わんないじゃないか・・・」

 優しく言いかける弥生に、太一は口を開いた。しかし彼の言葉と態度はひどく後ろ向きなものだった。

「誰も僕のことを頼りにしてはいないんだ・・僕はこの世に必要のない人間なんだ・・・」

「そんなことないって・・太一くんも、代わりのいない大切な人だって・・・!」

「誰が僕を大切にしてくれるんだ?・・誰が僕を必要としてくれているんだ・・・?」

 弥生が呼びかけても、太一は自分に自信が持てず、自分をも否定していた。

「僕はイヤなんだよ・・周りから見放されることが・・・僕はみんなと仲良くしたいだけなのに、みんなが僕を嫌ってくる・・・」

「違う!誰もあなたを悪く思ってなんかない!少なくても、私はあなたを嫌いになってないじゃない!」

「口先だけなら何とでもいえる・・好きなふうに振舞って騙して、僕を追い込んで・・・!」

 あくまで自分を弱く見て、そのために周りを拒絶しようとする太一。その内向的な態度に、弥生は困惑するしかなかった。

「僕に近づかないで・・僕を追い込むのはもうやめてくれ!」

 太一は悲痛の叫びを上げると、立ち上がって弥生を押しのけて部屋を飛び出してしまう。

「太一くん!」

 弥生も慌てて太一を追いかけていく。

 弥生は引きこもり気味な太一を放っておくことができなかった。彼女は太一が勇気を持ってほしいと願い続けていた。だがその願いとは裏腹に太一は塞ぎこみ、交流を拒絶するほどになっていた。

(逃げるばかりじゃ何も解決しない・・立ち向かうことも大切なのよ、太一くん・・・!)

 太一に自分で立ち上がってほしいと思いながら、弥生は走り続けた。

 

 クリスを求めて捜索を行っていた光輝とヒカル。しかし捜索に没頭するあまり、2人は疲れを覚えていた。

「少し休憩にしませんか、光輝さん・・・?」

「そうだね・・・でもこの辺り、レストランもファーストフードも見当たらない・・・」

 呼びかけるヒカルに答えて、光輝が周囲を見回す。周辺には休憩できる場所がなかった。

「大通りに出てみよう・・そこに行けば何かあるかもしれない・・」

「そうですね・・・」

 光輝の言葉にヒカルが頷く。光輝が先行して歩き出し、その先の十字路を曲がったときだった。

 突如走りこんできた青年とぶつかってしまう光輝。2人は倒れてしりもちをつくが、青年はすぐに立ち上がって再び走り出してしまった。

「ち、ちょっと君・・・!?

 光輝が呼びかけるが、青年は立ち止まることはなかった。

 その直後、1人の少女が走り込み、光輝の背中にぶつかってしまう。

「うわっ!」

「キャッ!」

 前のめりに倒れそうになる光輝と、しりもちをつく少女、弥生。

「だ、大丈夫ですか!?

「はい・・私は大丈夫です・・それより今、男の人が来ませんでした・・・!?

 心配の声をかける光輝に、弥生が訊ねてくる。

「う、うん・・今ここを走っていったけど・・・」

「大変、追いかけないと・・・いたっ!」

 光輝の答えを聞いて慌てて立ち上がろうとする弥生。だが光輝とぶつかったときに足を挫いてしまい、彼女は立ち上がることができなくなってしまった。

「大丈夫!?どこか、ケガを・・!?

「私は大丈夫です・・それより、あの人を止めてください・・・!」

 光輝が言いかけると、弥生が呼びかける。光輝は走り去っていった青年、太一が行ったほうに振り返る。

「ヒカルちゃん・・この人をお願い・・・!」

 光輝はヒカルの呼びかけると、太一を追って駆け出していった。

 

 弥生を避けて家を飛び出した太一。疲れを覚えて立ち止まった彼は、後ろに振り返る。

「いない・・・逃げ切れた・・・」

 太一が安堵の笑みを浮かべた。彼は再び移動しようと振り返り歩き出す。

「太一さん!」

 そこへ再び声をかけられる太一。彼を追って光輝が駆け込んできた。

「あなたが太一さんですね・・・よかった・・・」

「誰なんだ、君は・・・僕をどうしようと・・・!?

 安堵を浮かべる光輝だが、太一は見知らぬ人に声をかけられて、不安を感じていた。

「あなたを探している人がいるんだ・・その人のところに行ってあげないと・・」

「近づかないで・・そんなこと言って・・僕を追い込んでいくんだろ・・・!?

 呼びかける光輝だが、太一は恐怖を感じて彼を拒絶する。

「何を言っているんだい・・僕があなたを追い詰めて、何になるっていうんだい・・・?」

「僕のことを鬱陶しいと思ってる人はたくさんいる!僕を厄介払いしたいんだろ!?

 あくまで拒絶の姿勢を見せる太一に、光輝はかける言葉が見つからなくなり困惑を膨らませていた。

 

 その頃、ヒカルは弥生を介抱していた。近くの公園のベンチで腰を下ろし、休んでいた。

「足、大丈夫ですか・・・?」

「はい・・もう少し休めば歩けます・・・」

 心配の声をかけるヒカルに、弥生が微笑みかける。

「何があったのか、話してもらえますか・・・?」

 ヒカルが不安の面持ちを浮かべたまま、弥生に訊ねる。弥生は深刻な面持ちを浮かべてから、ヒカルに話を切り出した。

「彼は・・太一くんはとても臆病な人なんです・・どんなことからも逃げ出そうとして、私にも逃げ出すことが多くなって・・・」

「太一さん・・・さっきのあの人ですね・・・」

 ヒカルの言葉に弥生が小さく頷く。彼女はヒカルに、太一について語った。

「私が励ましても全然効果がなく、日に日に怯えてしまって・・・」

「・・・太一さんの気持ち、私も分かるような気がします・・・」

 弥生の話を聞いて、ヒカルが微笑みかける。

「私、記憶がないんです・・本当の名前も分からなくて、光輝さんたちに名前をもらったんです・・・」

「そんなことが・・・大変でしょう・・・」

「はい・・でも大丈夫です・・光輝さんたちが、みなさんが味方になってくれていますから・・・」

 弥生に心配されるが、ヒカルは笑顔を絶やさなかった。

「あなたたちとも友達になりたい・・光輝さんも、きっとそう思うでしょうね・・・」

「あなたたちは?・・・私は岬弥生。彼は谷山太一くん・・」

「私はヒカル・・あの人は吉川光輝さん・・よろしくお願いします・・・」

 互いに名乗り、弥生とヒカルが握手を交わす。新しい絆が生まれて、ヒカルは喜びを感じていた。

「ずい分と仲のいいことだな、お二人さん・・」

 そこへ突然声をかけられて、ヒカルと弥生が振り向く。その先には黒サングラス、黒スーツといった黒ずくめの1人の男が立っていた。

「君たちのことはある程度調べさせてもらったよ・・岬弥生・・・」

「あの・・誰ですか、あなた・・・?」

 言いかけてくる男に、弥生が疑問を投げかける。

「谷山太一はどこにいる?・・私は彼に用があるのだ・・」

「知りません・・あなた、太一くんとどういう関係なんですか・・?」

「お前たちには関係のないことだ・・知らないというならば、彼の見せしめになってもらおう・・・!」

 言いかける男の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。直後、彼の姿が鮫に似た怪物へと変化する。

「えっ!?

「ガルヴォルス!?

 シャークガルヴォルスの出現に、弥生とヒカルが驚愕する。

「この爪で、お前たちをズタズタにしてやるぞ・・・!」

 迫り来るシャークガルヴォルスから、ヒカルと弥生が逃げ出そうと走り出した。

 

 ヒカルと弥生の悲鳴は、光輝と太一の耳にも届いていた。

「ヒカルちゃんと弥生さんの声だ・・何かあったんじゃ・・・!?

 光輝が慌てて2人のところに向かおうとした。不安を浮かべる太一を気にしていたが、光輝はヒカルと弥生の心配を優先した。

 しばらく駆けたところで、光輝は逃げてくるヒカルと弥生、2人を追いかけるシャークガルヴォルスを目撃する。

「ガルヴォルス!」

 光輝は走りながら水晶を取り出す。

「変身!」

 水晶をベルトにセットして、光輝はオメガに変身する。その疾走のままジャンプした光輝は、ヒカルと弥生を追うシャークガルヴォルスに飛び蹴りを見舞う。

 奇襲を受けたシャークガルヴォルスが蹴り飛ばされ、倒れてしりもちをつく。立ち上がった彼の前に、着地した光輝が立ちはだかる。

「お前は・・・!」

「仮面ライダーオメガ!」

 声を荒げるシャークガルヴォルスに、光輝が高らかと名乗る。

(あの姿・・アレに似てる・・・もしかして・・・!?

 光輝が変身しているオメガの姿を目の当たりにして、弥生がさらなる驚きを感じていた。

「ヒカルちゃん、この人をお願い・・・!」

「はい・・・!」

 光輝の呼びかけに頷いて、ヒカルが弥生を連れて駆け出していった。だが弥生は光輝の姿を気にしていた。

「まさかここでオメガと会うとは・・だがたとえお前でも、私がクリスユニットを手に入れる邪魔はさせないぞ・・・!」

「クリスユニット・・お前もクリスを狙っているのか!?

 不敵に言いかけるシャークガルヴォルスに、光輝も鋭く言い返す。彼が攻撃を仕掛けるが、シャークガルヴォルスは素早い動きでかわしていく。

「何て速いんだ・・オメガの力でも追いつけない・・・!」

「どうした!?オメガの力はその程度なのか!?

 毒づく光輝をシャークガルヴォルスがあざ笑う。鮫の爪がオメガの装甲を切りつけ、火花を散らす。

「くっ!・・切り裂くのなら、オレも負けないぞ!」

 光輝はベルトの水晶を右手の甲にはめ込み、シャークガルヴォルスに飛びかかる。

「ライダーチョップ!」

 光輝が力を込めた手刀を繰り出すが、シャークガルヴォルスはそれさえも回避してみせる。

「まだ遅い!」

 いきり立ったシャークガルヴォルスがさらに爪を突き立てる。その猛攻に光輝は劣勢を強いられる。

「ライダーチョップもかわされる・・これでは大振りのライダーキックも当てられるわけがない・・・!」

 攻め手を失い、危機感を募らせる光輝。彼を追い詰めて、シャークガルヴォルスが哄笑をもらす。

「お前にあまり邪魔されても面倒だ。クリスユニットを手に入れる前に、お前を始末させてもらうぞ、オメガ・・」

 シャークガルヴォルスが光輝にとどめを刺そうと、歩を進めてくる。光輝はまだ打開の糸口を見出せていない。

 そのとき、誰かがやってきた足音を耳にして、シャークガルヴォルスが足を止める。やってきたのは太一だった。

「あなたは・・・!?

「まさかお前からやってくるとはな・・谷山太一・・」

 驚愕を覚える光輝と、歓喜を浮かべるシャークガルヴォルス。太一は息を絶え絶えにしながら、2人を見据えていた。

「丁度いい・・お前の持っているクリスユニット、私に渡してもらおう・・・」

「えっ・・・!?

 太一に呼びかけるシャークガルヴォルスの言葉に、光輝が耳を疑う。

「渡さない・・どうせ渡したって、お前は僕を追い込むんだ・・・そんなことになるくらいなら・・・!」

 込み上げてくる恐怖を押し殺しながら、太一が水晶を取り出す。

「変身・・・!」

 その水晶をベルトにはめ込むと、太一の体を装甲が包み込んだ。形状はオメガ、ギガスと酷似していたが、大きな違いは装甲の基調が緑色であることだった。

「まさか、太一さんが、クリス・・・!?

「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・」

 驚きを隠せなくなる光輝と、低い声音で言いかける太一。今の太一の言葉には、強迫観念、強迫行為の意味合いが込められていた。

「私と戦うつもりか?・・私の速さはオメガをも凌駕する。恐怖を感じているお前に、私の速さを上回ることなど・・」

 シャークガルヴォルスが悠然と言いかけたときだった。太一が素早く動き、シャークガルヴォルスの懐に飛び込んできた。

「何っ!?

 虚を突かれたシャークガルヴォルスに向けて、太一が拳を繰り出す。速さのある太一の攻撃を、シャークガルヴォルスは回避できず突き飛ばされる。

「速い・・オメガの力でも捉えられなかったあのガルヴォルスを超えている・・・!」

 太一が見せたクリスの力に、光輝は驚くばかりだった。

 

 

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