仮面ライダーオメガ 第13話
凄まじい力を発揮した幸介に追い込まれた竜也。消耗して人間の姿に戻った竜也は、抱えていた憎悪を膨らませていた。
「くっ・・・あの男も、このままでは済まさないぞ・・・絶対に叩き潰してやる・・・!」
込み上げてくる怒りを抑えきれなくなり、竜也は夜空に向けて絶叫を上げていた。
日曜日の休日。光輝は隆介、草太に誘われてスポーツセンターにやってきていた。その中のバッティングセンターにて、彼らはバッティングを楽しんでいた。
そこそこ打てている隆介、草太と違い、光輝は空振りばかりだった。
「あれ?何で当たんないのかなぁ・・?」
なかなか球を当てられないことに首をかしげる光輝。
「勢い任せに振ってるから、まぐれ当たりしかしないんだよ・・」
「ちゃんとボールをよく見て、狙って振らないと・・」
隆介と草太が光輝に注意を促す。
「よーっく狙ってー・・ボールをよく見て・・・」
集中力を高めてボールを狙う光輝。だが次に飛んできた球も、彼は空振りするのだった。
気落ちする光輝と、ため息をつく隆介と草太。
「気分を変えて、ボウリングにでもしゃれ込みましょうか・・」
「そうだな・・光輝、そろそろ行くぞ・・」
草太の呼びかけに隆介が言いかける。全ての球を空振りしてから、光輝もボウリング場に向かうこととなった。
だがボウリングでも、光輝はうまくピンを倒すことができず、ガーターが多くなっていた。
「ところで光輝、ヒカルちゃんとはどういう関係なんだ?」
そんな中、隆介が唐突に光輝に質問を投げかけてきた。
「関係って・・くるみちゃんが保護しているんだよ・・今じゃ僕たちは家族同然だよ・・」
「いや、そういうことを聞いてんじゃなくて・・もしかして、お前の彼女だったりして・・」
「彼女?僕とヒカルちゃんはそういうのじゃないって・・」
からかってくる隆介だが、光輝は真面目に答えていく。
「あまりおかしなこと聞かないほうがいいって、隆介・・ヒーロー一筋の光輝くんには、恋愛なんて無縁だよ・・」
「それもそうだな・・野暮なこと聞いちゃったな・・」
そこへ草太が声をかけ、隆介が肩を落とす。
「でも光輝くん、そろそろ将来のことも考えたほうがいいかもしれないよ・・」
「僕の将来か・・・やっぱりヒーロー一筋だって♪」
草太が心配の声をかけるが、光輝は前向きに考えるだけだった。考えながら投げた光輝の投球が、ストライクを叩き出していた。
その頃、ヒカルとくるみは買い物に出かけていた。その帰りに2人はレストランに立ち寄り、昼食を取っていた。
「男たちは、それなりに楽しんでるんじゃないかなぁ・・」
「私たちだって、私たちなりに楽しんでいますよ・・」
ため息をつくくるみに、ヒカルが笑顔を見せる。
「まさか光輝が、仮面ライダーになって怪物と戦ってたなんて・・今でも夢じゃないかって思うわよ・・」
「それは嬉しいということでしょうか・・?」
「全然。呆れてものも言えないわよ・・」
微笑んで訊ねるヒカルだが、くるみは呆れたままだった。
「それにしてもヒカルちゃん・・ヒカルちゃんは、光輝の使っているあのベルトのことは分からないのよね・・?」
「・・はい・・なぜ、私が持っていたのか・・全然分からないんです・・・すみません、力になれなくて・・」
質問を投げかけるくるみに、ヒカルが沈痛の面持ちを見せて答える。
「そんなことないって・・もしもヒカルちゃんが、あのベルトを持って現れなかったら、光輝は子供染みたままだったかも・・今でも十分子供だけど・・」
「そういってもらえると嬉しいです・・ありがとうございます・・」
言いかけるくるみにヒカルが感謝の言葉をかける。
「ま、もしまた光輝が悩み出したら、あたしが喝を入れてやらないとね。」
「くるみさん・・・」
頷きかけるくるみに、ヒカルが微笑みかける。
「そういえば光輝、一矢さんも仮面ライダーだって言ってたんだけど・・」
「はい・・オメガとは別のベルト、ギガスを使っているんです・・でも一矢さんは光輝さんと違って、仮面ライダーのつもりはないみたいですけど・・」
「それはさすがにライダーとは名乗れないでしょうに・・」
ヒカルの答えにくるみが再び呆れる。
「あの人が何か知っているのではないでしょうか・・?」
「知ってても何も言わないと思うわよ。あの人は自己中心的なオレ様キャラの塊みたいな人だから・・」
ヒカルの提案に、くるみは乗り気になれず、紅茶を口に入れていた。
「残念だけど、オレはギガスの存在しか知らないぞ。」
翌日に光輝とともに訊ねたくるみの問いかけに答える一矢。友好的に答えてきた一矢が意外に思えて、くるみは唖然となっていた。
もっとも、これは一矢を訪ねたのがくるみだったことが要因だった。
「オレもギガブレイバーから聞いた限りのことしか知らない。だがギガス、オメガ以外のベルトが存在しているなら、オレも拝見したいものだ。」
「一矢さんでも知らないこともあるのか・・ちょっと優越感・・」
憮然とした態度を見せる一矢に、くるみは笑みをこぼしていた。
「そのくらいのことでオレを見くびるのは滑稽だぞ。オレにできないことは何もない。ギガスのベルトを手に入れてからその意味はより強まった・・」
「そのギガスのベルト、どこで手に入れたんですか・・?」
悠然と言いかける一矢に、くるみが質問を投げかける。
「それは偶然さ。前に使っていた男の手から離れて、オレが手にしたというわけだ。その男はガルヴォルスに殺されたがな・・」
「そんなことが、あったなんて・・・」
一矢がギガスユニットを手に入れた経緯を知って、光輝が困惑する。
「オレの周りで何が起ころうとオレには関係ない。オレの行く手をさえぎることは誰にもできないのだから・・」
「あくまで自分のため、というんですか・・・!?」
悠然と言いかける一矢に、光輝が眼つきを鋭くする。光輝は一矢の態度を許してはいなかった。
「君はあくまで、オレの強さを理解しようとしないというのか・・」
一矢も光輝に対して敵対の意思を示す。2人の青年が意思の衝突により対峙していた。
「ちょっとアンタたち、やめなさいって!どうしてベルトの持ち主同士で戦わないといけないのよ!?」
「ゴメン、くるみちゃん・・でもこれだけは、このまま引き下がるわけにはいかないんだ・・ライダーとして、本当の正義のためにも・・・」
くるみが止めに入るが、光輝の意思は固かった。
「君の正義が夢物語の産物であることを、まだ理解できていないようだな・・」
「正義は世界の人々、ヒーローに憧れる人たちの夢なんだ・・その夢を壊すようなことを、僕は許すつもりはない・・・!」
鋭く言いかける一矢に、光輝が真剣な面持ちで言葉を返す。
「やはり、もっとお仕置きをしなくてはいけないということかな・・・」
一矢が言いかけると、光輝が人目を避けるために移動を始める。一矢も光輝を追いかけていく。
2人は人気のない小さな通りで再び向かい合った。2人はそれぞれ水晶を取り出し、構える。
「変身!」
「変身。」
光輝と一矢が言い放ち、ベルトに水晶をセットする。2人はオメガ、ギガスに変身して再び対峙する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・吉川光輝、君もオレには勝てない。」
一矢は高らかに言い放つと、悠然とした素振りを見せる。
「せめてもの慈悲だ。君に先手を譲ろう。」
「後悔することになりますよ?」
「しないさ。それでもオレに敗北などありえない。」
あくまで余裕を見せる一矢。だが光輝は冷静だった。
「では行きますよ、一矢さん・・・!」
光輝が一矢に向かって飛びかかる。一矢は光輝にも負ける気がしていなかった。
だが光輝が繰り出した拳が速く、一矢は回避が間に合わず直撃を受ける。
「くっ!」
虚を突かれてうめく一矢に、光輝が果敢に攻める。その猛攻を受けて突き飛ばされ、一矢が横転する。
「やるようになったか・・だがオレの勝利に変わりはない。」
勝気な態度を崩さず、一矢が立ち上がる。反撃に転じた一矢に、今度は光輝が劣勢に陥る。
「負けられない・・このくらいのことで、弱音を吐くわけにはいかない・・・!」
光輝も負けじと攻撃を繰り出す。2人が一進一退の攻防を繰り広げていく。
「この私が、手を煩わされるとは・・・!」
光輝に攻めきれないでいることに、一矢は苛立ちを覚えていた。自分が1番強いと豪語している彼を、光輝が追い込んでいたのである。
「世界の平和のため、負けるわけにはいかない・・たとえ、同じライダーであっても!」
光輝の放ったキックが、一矢を突き飛ばした。直後、光輝が水晶を右手の甲にはめ込む。
「行くぞ・・ライダーパンチ!」
光輝が一矢に飛びかかり、メガブレイカーを繰り出す。だが一矢はこれをかわし、ギガシューターを手にして射撃する。
「うわっ!」
一矢の連射を受けて、オメガの装甲から火花を散らしながら、光輝が突き飛ばされる。
「君はどうあってもオレには勝てない。君がどれほど甘さを消したところで、それが覆ることは絶対にない。」
「そんなことはない・・逃げずに立ち向かう勇気があれば、どんな逆境も跳ね返せる・・正義が負けることはないんだ・・・!」
あくまで勝気に振舞う一矢に、光輝が決意を言い放つ。その意思に呼応するかのように、オメガクリスタルから光が発せられる。
「そこまで浅はかさを口にするなら、その身をもって理解しろ。お前の言う正義が、全く意味を成さないものであることを・・」
一矢は冷淡に告げると、水晶を右手の甲にはめ込む。
「ギガブレイカー・・・!」
一矢が光輝に向けて、精神エネルギーを込めた拳を振るう。だが光輝の周囲から発せられる光が障壁となり、一矢の攻撃を防ぐ。
「何っ!?」
攻撃を阻まれたことに驚愕する一矢。弾かれた彼は驚愕に囚われることなく、すぐに水晶を脚部に移す。
「これで終わりだ・・ギガスマッシャー!」
一矢は飛び上がり、光輝に向けて両足を突き出す。光輝も水晶を脚部にセットして飛び上がる。
「ライダーキック!」
メガスマッシャーとギガスマッシャー。精神エネルギーを込めた2人のキックがぶつかり、凄まじい衝撃が轟く。
その反動は光輝と一矢にも押し寄せた。弾き飛ばされるも、2人はすぐに立ち上がり身構える。
だが先に怯んだのは一矢だった。
「な、何っ・・!?」
自分が倒れ掛かったことに驚愕する一矢。なぜこの事態に陥ったのか、彼は理解できなかった。
「バカな・・このオレが、敵わずにひざまずくなど・・・!?」
「メガブレイバーの話だと、クリスタルユニットは使う人の精神力を力の源としている・・勉強も力も一矢さんには勝てないかもしれないけど、僕の中にある正義感がやわでないと自負できる・・・!」
愕然となる一矢に、光輝が真剣に言いかける。だが自分に絶対の自信を持つ一矢はこれを受け入れようとしない。
「ふざけるな!オレが負けることなど絶対にない!その程度のことが理由になるなどなおのこと!」
「自分は絶対に負けない。オレがあなたを倒すことなど絶対にない。それが逆に、あなたの心を弱くしてしまったんだ・・」
「オレが弱くなった!?バカな!オレはできないことは何ひとつない!君を完膚なきまでに叩きのめすことも!」
あくまで負けを認めようとしない一矢。困惑を覚える光輝は、これ以上一矢にかける言葉がなかった。
「なかなかの見せ物だったぞ。オメガとギガスの力、確かめさせてもらった。」
そこへ声をかけられ、光輝と一矢、遅れて駆けつけていたくるみが振り返る。彼らの前に幸介が現れ、不敵な笑みを浮かべていた。
「何者だ!?ガルヴォルスなのか!?」
光輝が幸介に向けて言い放つ。
「その通り。オレは猪木幸介。周りからはジャックとも呼ばれている・・」
「猪木幸介・・ジャック・・・!?」
名乗る幸介に光輝が当惑を浮かべる。
「装着者の精神状態に応じて戦闘力が変化する。それがクリスタルユニットの性質。オメガ、お前の心の強さがオメガの力となって現れているのだ・・」
「何を企んでいるんだ!?お前も人々を襲うのか!?」
「そのお膳立てのためにも、オメガとギガス、2つのユニットを手に入れることにしよう・・」
問いかける光輝に対して笑みを強める幸介の頬に、紋様が走る。ジャックガルヴォルスへの変貌を遂げて、歩を進めてくる。
「まずはお前からだ、オメガ。」
幸介は言い放つと、2本の刃を剣に変えて手にする。光輝が迎え撃とうとするが、幸介の振りかざす剣をかわすのに精一杯だった。
「どうやら思っていたほどではなかったか?まるで手応えがない。」
悠然と言いかける幸介の猛攻。その剣の攻撃で、オメガの装甲が切られて火花を散らす。
「くっ!・・力が入らない・・体力を消耗しすぎているのか・・・!」
劣勢を強いられる光輝が毒づく。幸介が剣を下ろし、哄笑をもらす。
「やはり精神力が消耗されているようだ。ギガスとの戦いで、お前は精神エネルギーを消耗し、戦闘力も低下している。」
「そんな!?・・そんなことで、力が発揮できなくなるなんて・・・!」
幸介が口にした言葉に、光輝が愕然となる。
「もはや私はおろか、並みのガルヴォルスを相手にすることもままならないだろう。」
幸介はそういうと、右手に持っていた剣の1本を投げつける。剣を叩きつけられた光輝が怯み、ひざを付く。
「光輝!」
「ぐっ!・・このままではやられてしまうぞ・・メガブレイバー!」
くるみが叫ぶ前で、光輝がメガブレイバーを呼んだときだった。その一瞬の隙を突かれ、幸介に眼前に迫られた。
幸介が右手でオメガのベルトをつかみ、引き剥がす。変身の根源を奪われ、光輝の体をまとっていた装甲が消失する。
「しまった!オメガユニットが!」
力の源を奪われ、危機感を覚える光輝。幸介がオメガユニットを見つめて、歓喜を覚える。
「これがオメガ・・ガルヴォルスを脅かすことのできる力か・・」
悠然と呟く幸介が人間の姿に戻る。彼は水晶がはまったままのベルトを装着する。
「変身。」
幸介の体を装甲が包み込む。これまで光輝の力の役割を担っていたオメガが、光輝たちの敵として立ちはだかった。
「そんな・・オメガが、僕たちの敵になるなんて・・・!?」
「この調子でギガスユニットを奪ってもいいが、この力になれるために、そこの男を始末させてもらおうか。」
息を呑む光輝に狙いを定める幸介。彼が繰り出したパンチを受けて、光輝が横転する。
「光輝!」
「来るな、くるみちゃん!・・君まで危なくなる・・・!」
駆け寄ろうとしたくるみを、光輝は痛みに耐えながら呼び止める。
そこへ駆けつけたメガブレイバー。危機の中の救援だと思い、光輝は安堵を覚える。
「メガブレイバー・・よかった・・アイツからオメガのベルトを・・!」
「私はオメガの同士。オメガでないお前に従う必要はない。」
呼びかける光輝に淡々と言葉を返すメガブレイバー。その反応に光輝が驚愕する。
「メガブレイバー・・何を言って・・・!?」
「知らなかったか?それとも忘れているのか?メガブレイバーはオメガに従う者。今のオメガは私。だからメガブレイバーは私に従うのだ。」
困惑する光輝に、幸介が淡々と語りかける。そして幸介は、自分の目の前にやってきたメガブレイバーに乗り込む。
「では行くぞ。かつての仲間にはねられて、あの世に行くがいい!」
幸介が光輝に向かって、メガブレイバーを走らせた。