仮面ライダーオメガ 第12話
憎悪と狂気を膨らませた竜也の一閃を受け、一矢は体勢を崩された。
「心が腐ったヤツらは、オレが滅ぼしてやる!」
「このくらいのことで、オレが不意を突かれるとは・・・!」
言い放つ竜也と、不意打ちを受けたことに毒づく一矢。
「オレはしつこいヤツと、物分かりの悪いヤツは嫌いでね・・・!」
声を低くして言いかけると、一矢はベルトの水晶を右手の甲の部分にセットする。竜也が一矢に向けて、再び剣を振りかざしてきた。
精神エネルギーを集束させた「ギガブレイカー」と、竜の剣が衝突する。凄まじい衝撃がほとばしり、その反動で一矢と竜也が突き飛ばされた。
「ぐあっ!」
「ぐっ!」
うめく竜也と一矢。建物の壁に叩きつけられて、一矢が踏みとどまる。
竜也の行方を追うべく、周囲に視線を巡らせる一矢。だが周辺に竜也の姿と気配はなくなっていた。
「あれで倒せたとは思えない・・逃げたか?そのほうが懸命ではあるが、また不意打ちをされても気分が悪くなるだけ・・」
憮然さを浮かべながら、一矢がギガスの装甲を解除する。
「次に攻めてきたときに、息の根を止めさせてもらうとしよう・・」
一矢は不敵な笑みを浮かべると、きびすを返してこの場を後にした。
光輝が変身した。その姿を目の当たりにしたくるみは、動揺を隠せなくなっていた。
「光輝・・・どういうことなの、これって・・・!?」
声を振り絞るのもやっとのくるみ。彼女の見つめる先で、オメガに変身した光輝が、ウルフガルヴォルスへの反撃を開始する。
(これでもくるみちゃんが危険だってことに変わりはない・・ここは何とかして逃げないと・・・!)
だが光輝はくるみを危険から遠ざけることを考えていた。
「メガブレイバー!」
光輝の呼び声を受けて、スピードフォームのメガブレイバーが駆けつけてきた。超高速で突っ込んできたメガブレイバーは、ウルフガルヴォルスと交戦している光輝を乗せる。
「えっ!?ち、ちょっと!」
近づいてくるメガブレイバーにくるみが慌てる。その彼女を高速のまま拾うと、メガブレイバーはウルフガルヴォルスの前から走り去っていった。
「まさかこんな速さを出してくるとは・・・!」
その速さに毒づくも、ウルフガルヴォルスは光輝たちを追って駆け出していった。
高速でウルフガルヴォルスから逃れた光輝とくるみ。くるみとともにメガブレイバーから降りると、光輝はオメガへの変身を解除する。
「光輝・・あなた・・・!?」
「くるみちゃん・・・」
困惑するくるみと光輝。気持ちを落ち着けたところで、光輝は言葉を切り出した。
「ゴメン、くるみちゃん・・・危険を巻き込みたくないって思って・・・」
「もういいわよ・・それより今のは何?あの怪物は何なの?」
謝る光輝に対して肩を落とすと、くるみが問い詰めてきた。
「それなら私が説明するよ。もっとも、私も全てを知っているわけではないが・・」
そこへ声をかけてきたのはメガブレイバーだった。
「えっ!?バイクが、しゃべった・・!?」
声を発するメガブレイバーに、くるみはさらに驚くのだった。
一矢との戦闘で突き飛ばされた竜也。かなりの距離を飛ばされた竜也は、一矢を見失っていた。
「くっ!・・ここまで飛ぶことになるとは・・・!」
苛立ちを噛み締めながら立ち上がる竜也。近くに一矢がいないことを悟ると、竜也は人間の姿に戻る。
「思い上がりばかりの腐ったヤツらは、オレが全て片付ける・・それ以外に、世界に平穏は戻らない・・・」
偽善への憎悪を胸に秘めて、竜也は歩き出していった。たとえ自分を上回る強大な敵が立ちはだかろうと倒すのみ。彼はそう考えていた。
メガブレイバーの話を聞いて、くるみは渋々納得したようだった。
「なるほどね・・そのガルヴォルスというのをやっつけるために、オメガになって戦っていると・・」
「そういうところだね・・みんなが危険な思いをしようとしているのを、黙って見ていることなんてできないからね・・・」
頷きかけるくるみに、光輝は心境を告げる。
「それで、そのオメガのベルトを、どうしてヒカルちゃんが持っていたのかは、分かんないんだよね・・・?」
「うん・・ヒカルちゃん、記憶をなくしてから気が付いたときには、もう手元にあったって・・」
くるみが投げかけた質問に、光輝が困惑の面持ちを浮かべて答える。
「やっぱり、ヒカルちゃんが思い出すしかないってことなのかな・・・」
「それしかないね・・・今回のこと、ヒカルちゃんにも伝えておいたほうがいいかも・・」
「これでヒカルちゃんと話し合えるわね・・ヒカルちゃんにもちゃんと言っておかないと・・」
腕組みをして頷くくるみに、光輝は苦笑いを浮かべていた。
「まだこんなところをウロウロしていたとはな・・」
そこへ声がかかり、光輝とくるみが緊迫を覚える。2人が振り返った先には、先ほどの男が笑みをこぼしていた。
「もうここまでやってくるなんて・・!?」
「私は獲物を狙う狼だ。私の鼻と耳は、お前たちを決して逃さない。」
驚愕する光輝に、男は淡々と言いかける。
「さて、続きを始めようか・・オメガ、お前の力を確かめさせてもらうぞ・・・!」
いきり立った男がウルフガルヴォルスに変身する。立ちはだかる敵を前にして、光輝が水晶を見つめる。
(・・戦うんだ・・僕が戦わないと、くるみちゃんやヒカルちゃん、みんなが大変なことになるんだ・・・)
光輝が自分の中の正義を思い返していく。
(たとえ僕が信じている正義が、みんなに受け入れてもらえないものだとしても、みんなのためになっていると思って・・・!)
「くるみちゃん・・メガブレイバーから離れないで・・・」
決意を胸に秘めた光輝が、くるみに呼びかける。彼女に頷きかけると、光輝はウルフガルヴォルスに視線を戻す。
「僕は戦う・・お前たちガルヴォルスから世界を守るため、僕は戦う・・・変身!」
決意を言い放つ光輝が、ベルトに水晶をはめ込む。オメガの装甲をまとい、彼は構えを取る。
「2度も逃がしはしない・・ここで雌雄を決しようぞ・・・!」
言い放ったウルフガルヴォルスが、光輝に飛びかかる。これを迎え撃つ光輝が狼の爪をかわし、拳を叩き込む。
「ぐっ!」
攻撃を受けてうめくウルフガルヴォルス。彼は怯んだところを、光輝の追撃を受けて後退する。
「これが光輝の、オメガの力なの・・・?」
「いや・・クリスタルユニットは、装着者の精神力を力にする・・光輝の精神力が強くなっているから、オメガの力も上がっているんだ・・」
くるみが動揺を膨らませ、メガブレイバーも驚きを感じていた。ウルフガルヴォルスを攻め立てる光輝が発揮するオメガの力は、今までにないほどに向上していた。
「どういうことだ・・先ほどよりも力が上がっている・・・!?」
光輝の強さにウルフガルヴォルスも脅威を感じていた。
「だが、このままおめおめと負けるわけにはいかない・・・!」
奮い立つウルフガルヴォルスが光輝に飛びかかる。光輝が繰り出したパンチをかわして、ウルフガルヴォルスが爪を突き出す。
その爪が光輝のまとうオメガの装甲を切りつける。立て続けの爪の攻撃を受けて、装甲から火花が散る。
「光輝!」
追い詰められる光輝に、くるみが声を上げる。ウルフガルヴォルスの反撃を受けて、光輝が横転する。
「私は負けない・・たとえオメガが相手でも、私は負けないぞ・・・!」
息を荒げながらも、高らかに言い放つウルフガルヴォルス。ふらつきながらも、光輝は力を振り絞って立ち上がる。
「負けられないのはオレも同じだ・・お前たちガルヴォルスからみんなを守るために、たとえ傷だらけになっても、オレは戦い続ける・・・!」
光輝が決意を込めて言い放つ。
「オメガフラッシャー!」
光輝のベルトの水晶から精神エネルギーが放出される。その閃光を浴びて、ウルフガルヴォルスが怯む。
光輝はすぐさま、水晶を右手の甲にはめ込み、ウルフガルヴォルスに飛びかかる。
「ライダーパンチ!」
光輝の繰り出したメガブレイカーを、ウルフガルヴォルスが寸でのところで回避する。だが光輝はすぐに反転して、ウルフガルヴォルスにパンチを叩き込む。
「ぐおっ!」
不意を突かれたウルフガルヴォルスが、痛烈なダメージを覚えて怯む。光輝は水晶を脚部に移し、飛び上がる。
「ライダーキック!」
光輝が繰り出したメガスマッシャーが、立ち上がったウルフガルヴォルスに叩き込まれる。突き飛ばされたウルフガルヴォルスが横転し、力尽きて肉体が崩壊する。
「やった・・・くるみちゃん・・・」
ガルヴォルスとの戦いに辛くも勝利した光輝。オメガへの変身を解除して、光輝がくるみに振り返る。
「光輝・・・」
「ケガはなかった・・くるみちゃん・・・?」
戸惑いを見せているくるみに、光輝が微笑んで声をかける。だが直後、精神力を消耗したために光輝がふらつく。
「光輝!?」
くるみが慌てて駆け込み、倒れそうになった光輝を支える。
「アハハ・・ちょっとムチャしちゃったかな・・・」
「もう・・心配してきたアンタがこの有様じゃ世話ないわよ・・」
苦笑いを浮かべる光輝に、くるみは肩を落とす。
「でも、いつもの光輝に戻って、とりあえずは安心というところね・・・あんな元気のない姿よりはマシだから・・・」
「ありがとう・・くるみちゃん・・・」
微笑みかけるくるみに、光輝は笑顔を見せた。大切な人を守るため、命を賭けて戦っていく。決意を新たに、光輝はこれからの戦いに身を投じていくのだった。
水神家にて、ヒカルは不安を感じていた。光輝とくるみの帰りが遅いことに、彼女は心配していた。
「どうしたらいいのでしょう・・携帯にもつながらないし・・・」
2人の安否に不安を隠せなくなるヒカル。彼女は外を出て探しに出ることも考えていた。
そのとき、玄関のドアが開く音がした。ヒカルが慌てて玄関のほうに向かう。
玄関には光輝とくるみの姿があった。2人が無事だったことに、ヒカルは喜びを浮かべる。
「光輝さん、くるみさん!・・よかった・・・」
「ヒカルちゃん・・ゴメンね、心配かけちゃって・・・」
安堵と涙を浮かべるヒカルに、光輝が微笑みかける。
「話は聞かせてもらったわよ・・ヒカルちゃんも、光輝のことを知ってたみたいね・・」
そこへくるみが声をかけ、その言葉に光輝だけでなく、ヒカルも気まずさを覚える。
「まさか光輝がホントにヒーローになってるなんて・・今でも信じらんないわよ・・」
「ごめんなさい、くるみさん・・くるみさんを危険に巻き込んではいけないと思って・・・」
肩を落とすくるみに、ヒカルが沈痛の面持ちを浮かべる。
「別に責めてるわけじゃないの。でもこれで、あたしも仲間はずれにされずに済むって思っただけよ・・」
「くるみさん・・・改めてよろしくお願いします・・・」
淡々と言いかけるくるみに、笑顔を取り戻したヒカルが手を差し伸べる。
「今ここで改められてもねぇ・・・」
苦笑いを浮かべつつも、くるみはヒカルの手を取って握手を交わした。絆が深まったと感じて、光輝は喜びを感じていた。
偽善への憎悪を膨らませていく竜也。彼はこの日の夜にも、巡回していた警官を手にかけていた。
「偽善を図るヤツらも許せないが、あの男も許してはおけない・・必ずオレがこの手で・・・!」
「もしやその男というのは、ギガスのことか?」
そこへ声をかけられて、竜也が足を止める。彼の背後には1人の青年が立っていた。
「誰だ?オレに何の用だ?」
「そう邪険にするな・・お前もガルヴォルスなのだろう?」
疑問を投げかける竜也に、青年が淡々と言いかける。
「ガルヴォルス?何だ、それは?」
「知らないのか・・ガルヴォルスは人間の進化。君が変身する姿の総称だ・・」
「そのことか・・お前もそのガルヴォルスだというのか?」
「そうだ。だがただのガルヴォルスではない。お前もな・・」
青年の言葉に竜也が眉をひそめる。
「お前は誰だ?目的は何だ?」
「私は猪木幸介。周りの人間は名前の他、“ジャック”とも呼んでいる・・」
竜也の問いかけに青年、幸介が答える。
「私は君を仲間にしたいと考えている。私たちに排他的な人間たちを滅ぼすために・・」
「何?」
「君にも人間への憎悪が宿っているようだ。目的は違えど標的が同じ。私と手を組めば、君の目的が達成されるのも夢ではなくなる・・」
竜也に向けて悠然と言いかける幸介。だが竜也はため息をついていた。
「そうやって私を利用しようというのか・・そんな偽善、オレは飽きているんだ・・・!」
「憎悪が強くなりすぎているあまりに全てを疑うか・・ならば力ずく以外に手段はないか・・・」
鋭く言いかける竜也の態度に、幸介が肩をすくめる。
「本性を現したか・・たとえオレと同じ力を持っていようと、偽善者は全てオレの敵だ・・・!」
怒りをあらわにした竜也が異形の怪物へと変貌する。しかし幸介は全く動じない。
ドラゴンガルヴォルスとなった竜也が、幸介に飛びかかる。だが竜也が繰り出した拳が、幸介に片手で軽々と受け止められる。
「何っ!?」
「私の読みは間違っていなかったようだ・・だが感情のまま突っ込む猪突猛進は私には通用しない・・」
驚愕の声を上げる竜也と、淡々と言いかける幸介。幸介は人間の姿のまま、竜也の攻撃を受け止めていた。
「できることなら君を葬りたくはない・・まずは私への攻撃をやめてほしい・・・」
「ふざけるな・・偽善者の言葉に耳は貸さない!」
注意を促す幸介だが、竜也は聞き入れようとしない。
「・・・仕方がないか・・・」
幸介はため息をつくと、竜也の拳を受け止めている手に力を込める。その手から衝撃波が放たれ、竜也が突き飛ばされる。
「たとえ同じガルヴォルスであろうと、牙を向くなら敵と同じ・・本意でないが、始末するのが道理・・・!」
敵意を見せる幸介の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「せめてもの報いだ・・私のガルヴォルスの姿を、その目に焼き付けながら滅びるがいい・・・!」
幸介が異形の怪物へと変貌を遂げる。両腕と背中からトゲが生えたジャックガルヴォルスに。
幸介が剣を具現化させて、右手でつかむ。憎悪をたぎらせている竜也が、再び飛びかかる。
幸介は竜也の拳をかわすと、剣を振りかざして竜也を切りつける。
「ぐっ!」
幸介の攻撃にうめく竜也。幸介は容赦なく剣を振りかざして、竜也を追い詰めていく。
「オレは・・ここで倒れるわけにはいかない・・・オレが倒れれば、世界は腐ったままに・・・!」
傷ついた体に鞭を入れて、竜也が立ち上がる。
「心配するな。その人間たちも全て、私たちが片付けておくから・・」
幸介は言いかけると、左手から光線を放つ。その光線を受けて、竜也が突き飛ばされて、建物の壁を突き破った。
幸介はその建物の中に入り、竜也を探した。だがそこに竜也の気配は感じられない。
「逃がしたか・・変身した私から生き延びるとは、やはり大したものだ・・」
人間の姿に戻った幸介が、竜也の力を賞賛し、不敵な笑みを浮かべていた。