仮面ライダーオメガ 第11話
一矢の言動がライダーにふさわしくないと怒りを覚えた光輝。だが一矢の振るうギガスの力に、光輝は追い込まれていた。
一矢の駆るギガブレイバーの前輪を叩きつけられ、光輝が突き飛ばされて激しく横転する。体力も精神力も消耗し、光輝は立つこともままならなくなっていた。
「これで理解できただろう?無敵のオレに勝てる可能性はゼロだということだ。」
一矢が勝利を確信して言いかける。だが光輝は力を振り絞って、立ち上がろうとする。
「諦めない・・正義の平和のため・・オレは諦めるわけにはいかないんだ・・・!」
「ふぅ・・バカは死ななければ治らないとはよく言ったものだ・・君のその馬鹿馬鹿しさに呆れるのは、オレだけではないな。」
決意を口にする光輝に、一矢は呆れ果てていた。
「もはや見るに耐えない・・オレがここで葬ることにしよう・・」
敵意を見せた一矢が、とどめを刺そうと光輝に近づいていく。だがそこへ、スピードフォームとなったメガブレイバーが飛び込んできた。
高速のバイクに割って入られたため、足を止める一矢。メガブレイバーがそのまま光輝を乗せて、さらに加速してこの場から走り去った。
「逃げたか・・まぁいい。オレに勝つことは絶対にできないからな。無残に負けるか、今のように逃げるか、どちらかしかないからな。」
変身を解除した一矢が悠然と呟きかける。
「いいのか、このまま放っておいて?あれでもオメガなのだぞ?」
「それが何か?誰だろうとオレに勝てるヤツなど存在しない。なぜなら、オレは無敵だからな・・」
ギガブレイバーの言葉に淡々と答える一矢。ギガスの装甲を解除した彼は、そのまま立ち去っていった。
メガブレイバーに助けられて、戦いから逃れた光輝。心身ともに参っていた光輝は、たどり着いた廃工場で倒れ込んでしまった。
「光輝!大丈夫、光輝!?」
「う、うん・・何とか・・・メガブレイバーのおかげで助かったよ・・・」
呼びかけるメガブレイバーに光輝が微笑んで答える。だが彼がかなり疲弊しているのは、誰の目からも明らかだった。
「どうしたんだ・・いつもの光輝らしくない・・・」
「・・・あの人は仮面ライダーじゃない・・子供たちのヒーローであるライダーが、あんな身勝手なはずがない・・・」
困惑を込めた言葉を投げかけるメガブレイバーに、光輝が深刻さを浮かべて答える。一矢の自己中心的な振る舞いがライダーにふさわしくないとして、光輝は許すことができなかったのだ。
「止めないと・・このままではあの人のために、人々の無事だけじゃない・・みんなの夢まで壊れてしまう・・・」
「少し落ち着いたほうがいいよ、光輝・・自分らしくないと、クリスタルユニットは最大限の力を発揮することができないんだ・・」
意思を呟く光輝に、メガブレイバーが語りかけていく。
「クリスタルユニットは、装着者の精神エネルギーが力になる。心が不安定になると、クリスタルユニットの力も半減してしまう・・今の光輝は怒りで自分らしさを失ってしまっている。だからギガスに敵わなかったんだ・・」
「そんな・・クリスタルユニットに、そんな作用があったなんて・・・」
メガブレイバーの説明を聞いて、光輝がひどく落ち込む。自分の心の迷いが表面化したことに、彼はさらなる困惑を覚えていた。
「君が何のために戦っているのか、私もよく分かっているつもりだ。だから光輝、今は休んだほうがいい。体も心も・・」
「うん・・今日はホントにありがとう、メガブレイバー・・・」
メガブレイバーからの励ましに、光輝は感謝の笑顔を浮かべた。
気持ちを落ち着けてから、光輝は岐路に着いていた。その途中で、彼は竜也の姿を目撃する。
「竜也くん・・・」
1人歩いていく竜也を追いかけていく光輝。彼の足音を耳にして、竜也が足を止める。
「またお前か・・何の用だ・・?」
「竜也くん・・・君は前に、自分は正義に裏切られたって言ったね?・・そんな君は、いったい何を信じているんだい・・・?」
冷たく声をかける竜也に、光輝が深刻さを込めて言いかける。その様子を見て、竜也があざ笑う。
「この前にオレに見せた強気が全く感じられないな。所詮正義など偽善に等しく愚かなことでしかない。お前のそれも大して変わらなかったということだ。」
「それは、今の僕には分からない・・だけど人間には、自分以外の誰かを思う気持ちが必ずある・・・」
「それは絶対にない。人間には、そのような優しさなど持ち合わせてはいない・・」
光輝の言葉を冷淡に跳ね除ける竜也。
「そうか・・そう信じたいのはお前のほうか・・どこまでもおめでたいことだな、お前は・・」
「正義と心を悪く言うのはやめてくれ・・・僕も君も、紛れもない人間じゃないか・・・!」
再びあざ笑う竜也に、光輝が振り絞るように呼びかける。だが竜也はその言葉を聞き入れることなく、光輝の前から立ち去っていった。
(オレの体はもはや人間ではない・・もっとも、他の人間は心が醜く朽ち果ててしまったが・・)
人間の体たらくに皮肉を感じながら、竜也は歩き続けていった。
帰ってきた光輝にあまりに元気がないことに、くるみは疑問を、ヒカルは不安を覚えた。
心配になったヒカルが声をかけようとしたとき、くるみが光輝に歩み寄った。
「光輝、遅いじゃないのよ・・遅くなるならちゃんと連絡してくれないと、ご飯が作れないじゃない・・」
「うん・・ゴメン、くるみちゃん・・・」
不満を口にしてきたくるみだが、光輝は力なく答えるばかりだった。
「本当にどうしたのでしょう、光輝さん・・・?」
ヒカルがたまらず不安を口にする。だがそれ以上の心配を感じていたくるみだが、それを表に出してはいなかった。
(光輝・・ホントに何に関わってるのよ・・・!?)
くるみは同時に、光輝への不審を感じていた。
その次の休日、くるみはある行動に出た。
「光輝、買い物に付き合ってちょうだい!」
「えっ・・・!?」
くるみの突然の誘いに、光輝が驚きを覚える。
「今日はバイトも勉強もなかったはずよね?たまにはあたしに付き合ってちょうだい。」
「で、でも・・・」
「何よ?あたしと一緒だとイヤなの?」
口ごもる光輝にくるみが睨んでくる。だがその強引さが、光輝の正義感に火をつけた。
「そういう無理矢理はよくないと思うよ!くるみちゃん、もう少し穏やかになって・・!」
「もう、分かった、分かったから・・・あたしもらしくないってことかな・・・」
光輝に反発されて、くるみは滅入ってしまい、1人で買い物に出ようとした。
「待って・・」
そこへ光輝が呼び止め、くるみが足を止める。
「やっぱり僕も行くよ・・・ゴメンね、きついことを言っちゃって・・・」
「・・・いいわよ、別に・・荷物持ち、やってちょうだいね・・」
微笑みかける光輝に、くるみが苦笑を浮かべて頷いた。
それから街に繰り出した光輝とくるみ。次々と買い物をしていくくるみに、多くの荷物を持たされて光輝は参っていた。
「お、女の子って・・どうして買い物の量が多いの・・・?」
光輝が口にする疑問を気にすることなく、くるみは次に買うものを選別していた。その彼女の様子に、光輝はため息をつくしかなかった。
しばらく買い物が続いたところで、光輝とくるみはレストランで小休止することにした。
「ふぅ・・さすがに疲れるよ、これは・・・」
「いろいろ付き合わせちゃったね・・お詫びにデザートをおごるね・・」
疲れのあまりに吐息をつく光輝に、くるみが微笑んで言いかける。
「光輝・・あなたはあたしの家で居候してからずい分たつよね・・一緒に過ごしてきて、あたし、光輝の考えがある程度理解できたと思ってる・・」
「くるみちゃん・・・」
深刻な面持ちで語りかけてくるくるみに、光輝が困惑を覚える。
「あたしには、光輝が何か悩みを抱えているんじゃないかって思えてならない・・・もしもあたしに乗れる相談だったら、遠慮しないで・・・」
「くるみちゃん・・・ありがとう・・でも大丈夫だよ。僕だけで解決できないことじゃないから・・・」
くるみの励ましを受けて、光輝はようやく笑顔を取り戻す。
「もしどうしても1人で解決できなくなったら、くるみちゃんにきちんと相談するから・・・」
「・・あんまりのんびりしてると、後で相談してきても聞いてあげないからね・・」
感謝の言葉を告げる光輝に、くるみがわざと突っ張った態度を見せた。
そのとき、そんな2人の座っているテーブルの前に、1人の男がやってきた。
「ここにいたか・・私の五感を研ぎ澄ませても、なかなかすぐには見つけられないということか・・」
「何ですか、あなたは?・・あたしたちに何の用ですか・・・?」
低く告げる男に、くるみが疑問を投げかける。
「まぁいい・・お前の力、見せてもらおうか・・・!」
鋭く言いかける男の頬に紋様が浮かび上がる。
(まさか・・・!?)
「くるみちゃん、逃げて!」
危機感を膨らませた光輝が、くるみの手を取って飛び出す。次の瞬間、男の姿が狼の姿に似た怪物へと変貌する。
(まさかこんなところに、ガルヴォルスが出てくるなんて・・・しかも僕を狙ってくるなんて・・・!)
くるみを連れて逃げていく光輝が焦りを膨らませる。
「ちょっと光輝、この前出てきたのと似た怪物じゃない!どういうことなの!?」
くるみが声を荒げて問い詰めてくる。しかし光輝は逃げることで手一杯になっていた。
だが2人の前に、高速で追いかけてきたウルフガルヴォルスが回りこんできた。
「は、速い!」
「この私から逃げることはできないぞ。」
息を呑む光輝たちに、ウルフガルヴォルスが淡々と言いかける。
「鬼ごっこは終わりだ。そこの女共々切り刻まれたくなければ、私と戦うことだな。」
ウルフガルヴォルスが呼びかけて、光輝を手招きする。
(どうする!?・・逃げようとしてもあのガルヴォルスの速さじゃ追いつかれる・・だからって、くるみちゃんの前で変身するわけにいかない・・・!)
焦りを募らせていく光輝。もしもここでオメガに変身すれば、確実にくるみを戦いに巻き込んでしまう。彼はそう思っていた。
「悪いけど、あたしはわざわざやられてあげるほど親切じゃないの!逆に返り討ちにしてやるんだから!」
そのとき、くるみが憤慨をあらわにして、ウルフガルヴォルスに言い放つ。だがそれは、ウルフガルヴォルスへの挑発以外の何ものでもなかった。
「そんなに死に急ぎたいなら、望みどおり、この爪で切り刻んでやろう・・・!」
「くるみちゃん・・・!」
いきり立ったウルフガルヴォルスが迫り、危機感を覚える。頭で考えるよりも体が動き、光輝はオメガクリスタルを手にしていた。
「変身!」
水晶をベルトにはめ込み、光輝がオメガに変身する。ウルフガルヴォルスが振り下ろしてきた爪を、光輝は左腕を掲げて受け止める。
「光輝・・・!?」
姿を変えた光輝に、くるみが困惑する。光輝が爪を振り払うと、ウルフガルヴォルスが後退して距離を取る。
「やっとその気になったようだな・・・」
「仮面ライダーオメガ!」
不敵な笑みを浮かべるウルフガルヴォルスと、高らかに名乗る光輝。
(光輝・・・まさかホントに、あんな怪物と戦ってたってこと・・・!?)
ウルフガルヴォルスに果敢に立ち向かっていく光輝に、くるみは気持ちを落ち着けることができなかった。
正義への憎悪を抱えたまま、竜也は歩き続ける。その彼の前に一矢が姿を現した。
「君から強い殺気を感じる・・まるで人じゃないみたいだ・・」
普段と変わらぬ悠然かつ尊大な態度で言いかける一矢。その態度を目の当たりにして、竜也が眼つきを鋭くする。
「お前も自分が正しいと思い上がっているのか・・そうやって自惚れていくのか、お前も・・・!」
「自惚れ?オレにできないことは何もない。それは紛れもない事実・・」
「それが思い上がりだというのだ!」
憤怒した竜也が異形の姿に変貌を遂げる。だがドラゴンガルヴォルスの姿を目の当たりにしても、一矢は悠然さを消さない。
「ガルヴォルスだったか・・だがたとえそれでも、オレに何の障害も与えることはできない・・」
「それが自分の愚かさであることも気付けない・・もはや葬るしかない!」
態度を変えない一矢に竜也が飛びかかる。一矢は竜也の突進をかわすと、水晶を取り出す。
「問答無用か。実力行使は正直好きではないのだが・・変身。」
その水晶をベルトにはめ込み、一矢がギガスに変身する。かつて対峙したオメガに似た姿に、竜也が疑念を覚える。
「先ほどのヤツではないのか・・だがオレの敵であることに変わりはない・・」
「敵?オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから。」
敵意を向ける竜也に、一矢が高らかに言いかける。その言動さえも、竜也の憎悪を逆撫でしていた。
「どこまで思い上がれば気が済むのだ・・お前は!」
怒りをむき出しにして一矢に飛びかかる竜也。だが怒りを込めた竜也に拳は、一矢に軽々とかわされてしまう。
「攻撃性むき出しの攻撃。猪突猛進とはまさにこのことだ・・」
竜也の直線的な動きに、一矢は単調を覚えて呆れていた。だが彼はすぐに油断を消した。
「だが、徐々に力が増してきている・・ガルヴォルスの中でも特殊のようだ・・・それでも・・」
言いかける一矢が、竜也への反撃に転ずる。
「オレが上であることが覆ることはない。」
一矢が繰り出した拳が、迫ってきた竜也の体に叩き込まれる。痛烈なダメージを感じて竜也が怯む。
「別に気にすることはない。オレに敵う者は存在しない。君がオレに勝てないのは既に分かりきっていることだ・・」
息を荒げる竜也に、一矢が悠然と言いかける。その態度すらも達也を苛立たせていた。
「周りに勝手を振りまく・・お前のようなヤツがいるから、世界は・・・!」
叫ぶ竜也に向けて、銃器「ギガシューター」を発射する。その射撃を受けて竜也がうめき、その場にひざを付く。
「この際だから君に言っておくよ。オレにかかれば世界も動く。オレが変えれば、世界も変わる・・」
高らかに言い放つ一矢。自分が1番であると思って疑わない彼は、世界さえも凌駕すると豪語していた。
「そんな傲慢があるから、世界は朽ち果ててしまった・・誰もが、世界の本当の在り方を履き違えてしまった・・・!」
さらに憤る竜也が立ち上がり、一矢に迫る。
「往生際が悪いのは感心しないな。これ以上やってこられると気分が悪くなる・・」
一矢は肩を落とすと、ギガシューターの銃口を竜也に向ける。
「もはや元通りにすることはできない・・だったらオレが、全てをぶち壊してやる・・・!」
鋭く言い放つ竜也の体から衝撃が放たれる。その衝動に一矢が疑問を覚える。
竜也が具現化した剣を手にして、一矢に迫る。その動きが一気に向上されていたため、一矢は虚を突かれた。
竜也が振りかざした剣に切り付けられ、一矢は体勢を崩された。
「心が腐ったヤツらは、オレが滅ぼしてやる!」
狂気を膨らませた竜也が、一矢へ猛襲を仕掛けようとしていた。