仮面ライダーオメガ 第10話
「えっ?新しい仮面ライダーを?」
光輝からの話を聞いたヒカルの第一声がこれだった。光輝は家に帰ってきた後に、ヒカルと2人きりの話をしていたのである。
「それで、その人は協力してくれるのですか・・?」
「分からない・・とにかく自分が1番だって感じの人で・・・僕のことを足手まといだと思っていて・・」
ヒカルが訊ねると、光輝が困り顔を浮かべる。光輝は一矢の態度を快く思っていなかった。
「とにかく、協力しないことには・・・でないとこれからの戦い、厳しくなるから・・・」
ひとつの決心をして、光輝が深刻な面持ちを見せる。その彼を眼にして、ヒカルも困惑していた。
「2人ともー!夜ご飯の支度するから降りてきてー!」
そこへくるみが声をかけてきた。光輝とヒカルは気持ちを落ち着けて、リビングに向かっていった。
その翌日、いつものように朝食を楽しむ光輝たち。だが光輝は一矢のことを気にかけていた。
「どうしたのよ、光輝?元気ないじゃないの?」
そこへくるみが声をかけ、光輝が戸惑いを見せる。
「くるみちゃん・・・ううん、何でもないよ・・・」
光輝が笑顔を見せてくるみに弁解する。だがヒカルは光輝の悩みが何なのか分かっていた。
光輝は一矢と分かり合えるかどうか不安になっていた。自分が1番という自信の強い一矢が、他人のいうことを聞く可能性は低い。どう協力してもらうか、光輝は困惑していた。
そのとき、家のインターホンが鳴り出した。
「もう、誰よ、こんな朝早く・・・」
くるみが不満を浮かべながら玄関に向かう。ドアを開けると、彼女は唖然となる。
「おはよう、水神くるみさん。早起きで何よりです。」
水神家を訪ねてきたのは一矢だった。彼は紅いバラの花束を、唖然となっているくるみに手渡す。
「うん。やはり君には美しい真紅のバラがよく似合う・・君の美しさをさらに引き立てている・・もっとも、このバラよりも、君のほうが美しいのは間違いないがな。」
「ち、ちょっと富士野さん!朝からいきなり何なんですか!?」
悠然と語りかける一矢に憤慨し、くるみがそのバラを地面に叩きつける。
「君を迎えに来たんだよ。それとも、今日は1時限目はなかったかな、君は?」
「確かに1時限目はありますけど・・どうして私を迎えに来るんですか!?」
「それはもちろん、君が遅刻しないように・・僕のこの善意、あたたかく受け止めてくれ。」
「ふざけないでください!私、あなたに付き合うつもりはありませんから!」
くるみが反発するが、一矢は悠然さを崩していなかった。そこへ光輝とヒカルが顔を見せてきた。
「あれ?富士野さん?どうしてここへ・・?」
「おや?なぜ君が水神さんの家にいるのかな?」
疑問を投げかける光輝と一矢。ヒカルは一矢の顔を見たまま、きょとんとなっていた。
「君もなかなかきれいだ。だが、水神さんには敵わない。」
「ちょっとちょっと!勝手にヒカルちゃんを見下さないでください!」
悠然と言いかける一矢に、光輝がたまらず口を挟む。
「見下してなどいない。ただ、水神さんと一緒では、さすがの彼女も見劣りしてしまう。それだけのことだ。」
「そういう優劣の仕方はよくないと思います!」
「何を言う?何者にも優劣が付けられるのが自然だ。でなければ1番も決められない。もっとも、オレが1番であることは、それ以上に明白なことだが。」
一矢の態度に抗議の声を上げる光輝。だが一矢は全く悪びれる様子を見せていなかった。
「では水神さん、急がないと遅刻してしまう。早く準備を。」
「せっかくのところ悪いけど、あたしにはあたしのペースがあるの。強引に他人のペースに引き込まれるのはイヤなの。」
一矢が差し伸べてきた右手を、くるみは払いのける。
「では私は支度がありますので失礼します。そこで待っていても、あたしはあなたと一緒に行くことはありませんので。」
くるみは一矢に言い放つと、家の中に引っ込んでいった。当惑を見せるヒカルの隣で、光輝が苦笑いを浮かべていた。
「彼女も照れくさいのだろう。でもそれも彼女のいいところでもある・・」
悠然とした態度を振りまき続ける一矢。そんな彼の前に、光輝が真剣な面持ちで立ちはだかった。
「いい加減にしてください。たとえ成績優秀でも、やっていいことと悪いことがありますよ。」
「君のような子供が、オレに意見する気か?」
抗議の言葉をかける光輝だが、一矢はそれを見下す。
「オレのガールフレンドになれる女性はそうはいない。オレからこうして誘われることは、むしろ光栄というべきだ。」
「ふざけるな!そんな自分勝手な言い分が通ると思っているのか!?あなた、それでもライダーなんですか!?」
「またふざけたことを。オレを君のような子供と一緒にするな。オレにできないことは何ひとつない。だからオレが何をしようととがめられることはない。」
「それがあなたの考えなのか・・自分のためなら、みんなのことは関係ないっていうのか・・・!」
一矢の態度に怒りを覚える光輝。
「目的のために何でもしていいなんて・・そんなの正義じゃない!」
「何度も言わせるな。オレは正義の味方ではない。オレの味方だ。」
つかみ掛かってきた光輝に、一矢が鋭い眼差しを送る。一矢はつかんできている光輝の手をつかんで、逆に振り払う。
「君が思い描いている正義など、吹けば簡単に飛んでいくような脆いものに過ぎない。」
「そんなことない!あなたが、ライダーであるあなたがそんなこというなんて!」
一矢の言葉に憤りを隠せなくなる光輝。光輝は一矢に対して一触即発の状態になっていた。
「やめてください、光輝さん!」
そこへヒカルが声をかけてきた。彼女に呼び止められて、光輝が戸惑いを見せる。
「光輝さんの気持ちは分かりますが、ケンカはよくないです。今、光輝さんがしているのはケンカですよ・・」
「ヒカルちゃん・・・」
ヒカルに注意されて、光輝が困惑を隠せなくなる。
「それにあなたも、光輝さんのことを悪く言うのはやめてください。光輝さんは日々努力しているんですから。」
「それはできない申し出だな。オレは1番。どうしても周りが下に見えてしまうのは仕方のないことだ。」
ヒカルが続けて注意を促すが、一矢は聞き入れようとしない。
「とにかく、オレはここで待たせてもらうよ。水神さんと一緒に登校するのだから・・」
悠然と言いかける一矢に、ヒカルが言葉を失い。光輝も苛立ちを浮かべるばかりになっていた。
先日のガルヴォルスの騒動から、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった街並み。その街の光景を、1人の男がビルの屋上から見下ろしていた。
「この前はギガスとオメガに邪魔されたが・・今度はじっくりと楽しませてもらうとしようか・・・)
不敵な笑みを浮かべる男の姿が変化する。光輝たちと交戦したタイガーガルヴォルスに。
異形の怪物の出現に、人々が恐怖を覚える。逃げ惑う人々を襲い、タイガーガルヴォルスが爪を振り下ろす。
狂気の爪に切り裂かれて、人々が命を落としていく。
「そうだ!この調子で楽しませてもらうぞ!」
歓喜の笑みを見せるタイガーガルヴォルスが猛威を振るっていく。怪物の暴走に街は恐怖に包まれた。
この日午前中に授業が終わる光輝には、午後にアルバイトがあった。スマイルが評価されていた光輝は、コンビニやファーストフードなどでの接客に長けていた。
その日の仕事が終わり、帰り支度をしていたときだった。
街で虎の怪物が暴れているというニュースが、光輝の耳に入った。
(虎の怪物・・またあのガルヴォルスが・・・!)
丁度着替えを終えていた光輝は、そのまま外に飛び出した。彼は一目散に、タイガーガルヴォルスの暴れている現場に駆けつける。
「やめろ、ガルヴォルス!」
光輝が呼びかけると、暴れていたタイガーガルヴォルスが振り返る。
「何だ、お前は?オレに八つ裂きにされたいのか?」
タイガーガルヴォルスが不気味な笑みを浮かべて、光輝に近づいていく。
「変身!」
ベルトに水晶をはめ込み、オメガに変身する光輝。果敢にタイガーガルヴォルスに挑んでいく。
だが光輝の繰り出すパンチやキックは、タイガーガルヴォルスの素早い動きにかわされてしまう。
「どうした、オメガ!?この前よりもキレが悪くなってるぞ!」
高らかに言い放つタイガーガルヴォルスに、光輝は焦りを覚える。
光輝はオメガの力を十分に発揮できないでいた。クリスタルユニットは使用者の精神力によって機能する。使用者の精神状態によって、その力の強弱が大きく変化するのである。
光輝の心は揺らいでいた。一矢の戦う理由が、自分の理想としていた正義と違っていたことに、彼は困惑を募らせていた。
タイガーガルヴォルスが繰り出す爪で、光輝のまとう装甲から火花が散る。
「くっ!」
徐々に追い詰められていく光輝に、タイガーガルヴォルスが追い討ちを狙う。だがそのとき、タイガーガルヴォルスが突如飛び込んできた一蹴で突き飛ばされる。
「なっ!?」
「やれやれ。やはりオレでなければ必勝はありえないか・・」
声を荒げるタイガーガルヴォルスの前で、光輝に背を向けたまま言いかけたのは一矢だった。
「変身。」
一矢がベルトに水晶をはめ込んで、ギガスに変身する。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから。」
高らかに言い放つと、一矢がタイガーガルヴォルスに向かっていく。素早く動いて攻め立てるタイガーガルヴォルスだが、一矢の力に歯が立たない。
その傍らで、1人の男の子がうずくまって泣いていた。見えているはずの一矢だが、男の子を助けようとしない。
「ダメだ!近くには子供が!」
「それが?オレには関係のないことだ。」
呼びかける光輝だが、一矢はそれでも助けようとしない。憤りを覚える光輝だが、男の子を助けることを優先し駆け出した。
「大丈夫かい!?すぐに逃げるんだ!」
「う、うん・・・」
光輝の呼びかけを受けて、泣き止んだ男の子が逃げ出していった。男の子の無事に安堵する光輝をよそに、一矢はタイガーガルヴォルスを追い詰めていた。
一矢がベルトから水晶を取り出し、右手の甲部にはめ込む。精神エネルギーが集束された拳を、一矢がタイガーガルヴォルスに叩き込む。
「ギガブレイカー」を受けたタイガーガルヴォルスが息絶え、肉体の崩壊を引き起こした。
「ふぅ・・この程度の相手に手こずるなんて、オメガになっても結局は凡人か・・」
一矢は呆れた態度を見せながら光輝に振り返る。
「どうして子供を助けようとしなかったんです・・・!?」
「ん?」
光輝が発してきた言葉に、一矢が疑問符を浮かべる。
「すぐに近くで子供が泣いていた・・あなたは確かに子供に気付いていた・・それなのに助けようとせず、ガルヴォルスとの戦いを気を向けた・・どうしてなんですか!?」
「そんなことか。オレには関係のないことだ。オレがガルヴォルスと戦うのは、自分に近づいてきた火の粉を払うような感じなんだ。」
「そんなことって・・そんなことってなんですか!?」
一矢の態度に光輝が怒りをあらわにする。
「子供の心を傷つけてもいいのか・・目的のためなら、自分のためなら、何をしてもいいと思っているのか!?」
「・・やれやれ・・ここまで子供染みているとは。それは愚問というものだ・・」
「愚問って・・あなたは・・・!」
「何度も言わせるな。オレは君が思い描いているような正義のために戦っているのはない。人助けをするつもりはない。」
あくまで自分自身のために戦おうとする一矢に、光輝の怒りは頂点に達した。
「あくまで自分のために戦おうというのか・・・そんな人に、ライダーの力を使う資格はない!」
「ここまで傲慢とはな・・オレに戦いを挑むのか?」
怒号を放つ光輝だが、一矢は態度を改めない。光輝が真正面から飛びかかるが、一矢に軽々とかわされてしまう。
「猪突猛進で向かってきても、オレには通じないぞ。」
淡々と言いかける一矢の前で、光輝が振り返る。
「オレはお前のいうライダーでも正義の味方でもない。それだけでもお前の理想を叶える理由はない。」
「アンタは!」
一矢の言葉にさらに怒りを膨らませる光輝。だがその怒りが仇となり、光輝の動きは直線的になってしまっていた。
向かっていく光輝が、一矢に軽々と迎撃されてしまう。完全に一矢に弄ばれていた。
「見下げ果てたものだな。これではオレ以外のヤツが相手でも、勝てるはずもない。」
「た・・たとえ勝てないとしても、世界の平和のために、オレは戦うんだ・・・!」
「やれやれ。そこまで浅はかだとは・・もはや言葉が出ない・・」
信念を口にする光輝だが、一矢は呆れ果てていた。
「君のようなヤツは、口で言うよりも体で教えたほうがいい・・」
一矢は冷徹に告げると、光輝への攻撃に打って出た。力に長けたギガスの力に、冷静さを欠いていた光輝は劣勢に追い込まれていた。
一矢の一蹴を受けて、光輝が横転する。心身ともに追い詰められた光輝は、呼吸をも荒くなっていた。
「これで分かっただろう?オレと君とでは天と地ほどの差があるんだ。」
「言ったはずだ・・たとえ勝てない相手でも、オレは絶対に諦めない・・・メガブレイバー!」
一矢の言葉を跳ね除けると、光輝がメガブレイバーを呼ぶ。駆けつけたメガブレイバーに、光輝がジャンプして乗り込む。
メガブレイバーを駆り、一矢に向かって突っ込む光輝。その突進をかわされるも、光輝は反転して一矢を見据える。
「君がその気なら、オレもそのやり方でやらせてもらおう・・ギガブレイバー。」
光輝に言いかけながら、一矢が自分が駆るマシンの名を呼ぶ。その声を受けて、1台のバイクが駆けつけてきた。
ギガブレイバー。ギガスユニット装着者のためのマシンで、メガブレイバーと比べてパワー重視となっている。
「待たせたな、ギガス。相手はオメガとメガブレイバーではないか。」
「関係ない。ヤツと同じ条件で、分かりやすく力の差を見せておくだけだ。」
声をかけるギガブレイバーに、一矢が光輝を見据えたまま答える。彼がギガブレイバーに乗り、光輝に狙いを定める。
「思い知るといい。君のその考えが浅はかであることを、身をもって・・・!」
一矢は鋭く言い放つと、ギガブレイバーを走らせる。光輝もとっさにメガブレイバーとともにこれを迎え撃つ。
2機のバイクが交錯したところで火花を散らす。だがメガブレイバーは、ギガブレイバーに力負けして一瞬ふらついた。
(何てパワーなんだ・・オメガとメガブレイバーでも押し切れない・・・!)
毒づく光輝だが、立ち向かうことは諦めてはいない。彼はさらにメガブレイバーを走らせ、一矢とギガブレイバーに挑む。
前輪を上げてジャンプする2機のバイク。互いに前輪が衝突したが、またしてもメガブレイバーが競り負ける。
「ぐっ!」
その衝撃に光輝がうめく。それでも光輝は諦めず、一矢への特攻を行っていく。
「足掻いても無意味だ。無敵のオレに何をしようと、勝利することはありえない・・・!」
一矢が冷徹に告げると、ギガブレイバーが再び前輪を上げる。飛び込んできたメガブレイバーに乗る光輝が、その前輪に横から叩きつけられる。
「ぐあっ!」
ギガブレイバーに突き飛ばされて、メガブレイバーから跳ね飛ばされる光輝。一矢の振るうギガスの力に、光輝は悪戦苦闘を強いられていた。