仮面ライダーオメガ 第9話
この日は光輝の大学で年に4回行われている総合力試験の成績順位発表の日だった。参加は自由だが、総合的な成績が反映され、大学から企業への推薦に結びつく重要な意味も持っていた。
だが義男に促される形で、光輝たちは試験を受けさせられていた。くるみとみどり以外のゼミ生は、見るに耐えない成績を残してしまった。
「まったく、とんだ恥さらしね・・呆れてものもいえないわよ・・」
「これでは面目丸つぶれですよ・・・」
くるみとみどりが肩を落とし、光輝、隆介、草太は頭が上がらなかった。
「光輝、今夜からみっちり勉強するからね。気を引き締めるように。」
「お世話になります・・・」
念を押してくるくるみに、光輝は深々と頭を下げるしかなかった。
「それにしても、あの富士野一矢っていうヤツはすごいなぁ・・」
順位表を見る隆介がかけた声に、光輝たちが眼を向ける。今回の試験の1位は、「富士野一矢」と記されていた。
「ホントだね。しかも総合得点満点。なのにまだ2年だよ。」
「勉強トップ。運動センス抜群。完全無欠を絵に描いたような人ですね・・」
草太とみどりが感心の声を上げる。
「光輝にあの人の爪の垢でも煎じて飲ませたいところね。」
「ひどいこといわないでよ、くるみちゃん・・・」
くるみにからかわれて、光輝がさらに落ち込む。
「あっ!アイツだぞ、アイツ!」
そこへ隆介が声を上げる。彼が指差すほうに、1人の青年が歩いていた。
「富士野先輩、今回もやりましたね♪」
「総合力試験、またまたトップでしたね♪」
「この調子で次もトップを狙ってください♪」
一矢に憧れを見せる女子たちが黄色い悲鳴を上げる。彼女たちに対し、一矢は悠然さを見せていた。
「何もかも愚問だな。オレにできないことは何ひとつない。オレが試験でトップになることに、何の問題もない。」
一矢が告げた言葉に、女子たちがさらに歓喜の声を上げる。
これが富士野一矢という人間だった。「無敵」、「完全無欠」を絵に描いたような人物で、本人もそれを自負している。自分にできないことは何もないと本気で思っている。
「まぁ、今は学生生活を満喫するとしよう。あと少し時間がたてば、世界をオレが塗り替えることになるのだから・・」
一矢は女子たちに言いかけると、そのまま歩き出していった。
「やれやれ、天狗になってるよ・・」
「あれがなければ、私も憧れてもよかったんだけどね・・」
一矢の言動に隆介とくるみが呆れていた。
「富士野一矢か・・あんなすごい人がこの学校にいたなんて・・・」
立ち去っていく一矢の後ろ姿を見つめて、光輝は戸惑いを浮かべていた。
次の講義が行われる教室に向かっていた一矢。だがその途中、柄の悪い男子たちが一矢の前に立ちはだかった。
「おい、富士野・・ずい分気分がいいじゃねぇかよ・・」
「成績トップだからって調子乗ってんじゃねぇぞ・・・!」
「まず上級生への礼儀っていうのを教えとかねぇとな・・・」
男子たちが哄笑を浮かべて一矢に迫る。だが一矢は不敵な笑みを浮かべていた。
「上級生でありながら下級生に嫉妬か?堂々と言ってくれても構わなかったんだけど。」
「は?何言ってんだ?何でテメェに嫉妬しなきゃなんねぇんだよ?」
一矢の言葉に男子たちが眉をひそめる。
「オレにできないことは何もない。何でもこなしてしまうオレに嫉妬を抱くのは、至極当然のことさ。」
「コイツ、好き勝手に言いやがって!」
一矢の言葉に怒りを爆発させる男子たち。いきり立った彼らが暴力を振るうが、一矢はそれを軽くかわしていた。
「勉強で敵わないから、力で捻じ曲げて打ち負かそうとする。実に短絡的だな。」
「どこまでも調子に乗りやがって!」
一矢の言葉に男子が再び殴りかかる。だが一矢はその腕をつかんで背負い投げを繰り出す。
「ぐっ!」
「こ、このっ!」
うめく男子の1人と、さらにいきり立つ残りの2人。だが2人の突進を利用して、一矢が投げつける。
「ぐっ!コイツ・・・!」
「頭脳だけでなく力でもオレに勝てない。不様をさらすだけになってしまったな。」
うめく男子たちに、一矢が淡々と言いかける。
「だが悔しがる必要も恥じる必要もない。オレは世界一の力を誇っている。お前たちがオレに勝てないことに、何の問題もないということだ。」
悠然とした態度で語りかけると、一矢がこの場から立ち去っていった。苛立ちを膨らませていく男子たちだが、一矢の強さを痛感せざるを得なかった。
一矢のことが気になり、光輝はキャンバス内を駆け回っていた。なかなか一矢を見つけられないでいる光輝を、くるみが追いかけてきた。
「優等生に会ってどうするつもりなのよ、光輝・・」
「何でって言われると困っちゃうんだけど・・・勘っていうか、何となく気になっちゃったんだよ・・・」
くるみが言いかけると、光輝が困り顔で浮かべる。
「何かを心の中に抱えているような気がするんだ・・何かとんでもないことに巻き込まれてるのかも・・」
「それって正義の味方の勘ってヤツ・・・?」
真剣な面持ちで言いかける光輝に、くるみが呆れながら声をかける。しかし光輝は、くるみに完全にバカにされていることに気付いていなかった。
そんな2人の視界に、悠然とした振る舞いを見せている一矢が歩いてきていた。彼の姿を見て、女子たちが歓喜の悲鳴を上げる。
その一矢の前に光輝がやってきた。
「あなたが富士野一矢さんですね?」
「何だい、君は?あまりさえなさそうなヤツにまで声をかけられるなんて・・」
光輝に声をかけられて、一矢が呆れ気味に答える。
「何か、悩み事とかないですか?・・もしよかったら、僕にできることでよければ、力になりますけど・・・」
「悩み?愚問だな。オレに悩みなんてない。仮に悩みができたとしても、オレには自分で解決できる実力を持っている。どんな壁も、オレならば全て飛び越えられる。」
話を持ちかける光輝だが、一矢は強気な態度を見せる。完全に自分に酔っている彼に、光輝はかける言葉を失っていた。
「オレがその気になれば世界すらも変わる。世界のためにオレがいるのでない。オレのために世界があるのだ。」
一矢のこの言葉に、周囲にいた女子たちが歓喜の声を上げる。かける言葉が思い当たらず、光輝は呆然となるばかりだった。
そのとき、大学の外から騒がしい声と音が響いてきた。
「この音、もしかして・・・!?」
「オレの周りで騒ぎとは。落ち着きのないことだな・・」
緊迫する光輝と、騒々しさに肩をすくめる一矢。2人は騒ぎのしたほうに向かって走り出していった。
大学の外の通りで騒ぎは起きていた。カマキリに似た姿のマンティスガルヴォルスが、人々に襲い掛かっていた。
「切り刻んでやる・・みんな八つ裂きにしてやる!」
マンティスガルヴォルスが高らかに言い放ち、両手の鎌を振りかざす。その猛威に恐怖して、人々が逃げ惑う。
そんなマンティスガルヴォルスの前に、一矢が姿を現した。
「何だお前は?オレに切り裂かれに来たのか?」
マンティスガルヴォルスが哄笑を上げる。だが一矢は悠然さを崩さない。
「バケモノがまた現れたのか。騒々しくて鬱陶しくて、本当に頭が上がらない・・」
「コイツ、オレを怒らせたいのか!?」
一矢の態度にマンティスガルヴォルスが苛立ちを見せる。
「そんなにオレを敵に回したいとは・・命知らずとはこのことだ!」
「敵?フン。」
マンティスガルヴォルスの言葉を一矢が鼻で笑う。彼は腰に着けたベルトを見せながら、水晶を手にして構える。
「あれは・・!?」
「変身。」
眼を見開く光輝の前で、一矢が水晶をベルトにはめる。彼の体を青い装甲が包み込んでいった。
一矢はギガスだった。ギガスユニットの持ち主である彼が、ギガスとしての姿を見せてきた。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから。」
上に向けていた右手の指を、マンティスガルヴォルスに向ける一矢。高らかに言い放つ彼に、マンティスガルヴォルスが苛立ちを見せる。
「コイツ・・調子に乗りやがって・・・いい気になるな!」
いきり立ったマンティスガルヴォルスが一矢に飛びかかり、手の鎌を振り下ろす。だが一矢はこれを軽々とかわしていく。
反撃に転じた一矢が次々に打撃を繰り出していく。その重みのある攻撃に、マンティスガルヴォルスが押されていく。
「これでは眠っていても倒せるが、オレはこんなことに付き合う気はない。早々に終わらせてもらう。」
一矢は言いかけると、とどめを刺そうとマンティスガルヴォルスに近づく。
そこへもう1人、別のガルヴォルスが飛び込んできた。虎の姿に似たタイガーガルヴォルスである。
「もう1人いたのか・・・!」
突然の乱入に毒づく一矢。2対1の戦況に、光輝は一矢の危機を感じた。
「このままだと一矢さんが危ない・・・変身!」
たまりかねた光輝がベルトに水晶をはめ込み、オメガに変身する。彼はタイガーガルヴォルスに攻撃し、一矢から引き離す。
「お前たちの勝手にはさせないぞ、ガルヴォルス!」
「コイツ・・オメガか!」
高らかに言い放つ光輝に、タイガーガルヴォルスが毒づく。
「こうなれば、まずオメガから先に始末してやるぞ!」
いきり立ったタイガーガルヴォルスが光輝に飛びかかる。振りかざしてきた虎の爪をかいくぐり、光輝が反撃を繰り出す。
光輝のパンチやキックを受けて、タイガーガルヴォルスが突き飛ばされる。光輝がベルトの水晶を右足脚部にセットする。
「くそっ!このままやられてたまるか!」
危機感を覚えたタイガーガルヴォルスが光輝の前から逃亡し、姿を消してしまった。
「あっ!逃げられた!」
とどめを刺し損ねた光輝が悔しさを覚える。一方、一矢はマンティスガルヴォルスを圧倒していた。
「とどめの仕切りなおしだ。」
一矢がベルトの水晶を右足脚部にセットする。そこからジャンプし、マンティスガルヴォルスに向けて、エネルギーを集めた両足を突き出す。
その両足による蹴り「ギガスマッシャー」がマンティスガルヴォルスに叩き込まれる。決定打を受けて、マンティスガルヴォルスの体が崩壊していった。
「オレに勝てないのは火を見るより明らかだというのに・・・」
一矢がため息をつくと、同じく戦いを終えた光輝に振り返る。光輝も一矢に眼を向けて、当惑を感じていた。
「まさか君がオメガだったとはね・・さすがのオレも驚かされたぞ・・」
一矢は言葉をかけると、ギガスの装甲を解除する。光輝も同時にオメガの装甲を解く。
「ビックリした・・あなたがギガスだったなんて・・・!」
光輝が一矢に憧れの眼差しを向ける。
「あなたも仮面ライダーだったなんて・・いやぁ、嬉しいですよー♪」
「仮面ライダー?何を言っている?オレはそんな子供じゃない。オレから見なくても、君の態度は明らかに子供染みている・・」
上機嫌で駆け寄ってくる光輝に、一矢が呆れて肩を落とす。
「オレを正義のヒーローみたいだと思っているようだが、オレは子供ではない。さすがのオレでも、君の大人気ない態度には頭が下がるよ。」
「でも、ギガスの力を使って、ガルヴォルスと戦っていたじゃないですか・・・」
「オレの周りを、あんなバケモノにうろつかれたくないだけだ。君が思い描いているような正義や征服なんて、オレにとっては俗なものでしかない。」
一矢に言いとがめられて、光輝は困惑しきってしまう。自分の中の正義感を揺さぶられて、光輝は返す言葉を失っていた。
「バケモノ退治を目的とするなら、君の出番はない。オレ1人で十分だ。なぜなら、オレにできないことは何ひとつないからだ。」
「待ってください!僕は世界を脅かすガルヴォルスから、自由と平和を守るために戦っているんです!やめるなんてできません!」
言いかける一矢に光輝が呼び止める。しかし光輝の態度に、一矢は呆れてため息をつくばかりだった。
「そういうのは理想の正義ではない。独善的な考えでしかない・・やはり子供ということだな、君は・・」
一矢の言葉に、光輝はついに怒りを覚えた。だが一矢への抗議の言葉が見つからず、光輝は押し黙るしかなかった。
そこへくるみが駆けつけてきた。騒動を聞きつけて、光輝を探していたのである。
「光輝、どこに行ってたのよ!?・・また怪物が出たって聞いて・・光輝が関わってんじゃないかって思って・・」
くるみに怒鳴られて、光輝が動揺をあらわにする。
「もう、何に首突っ込んでるのよ!?いい加減に教えなさい!」
「何も関わっていないって・・でも何かあったら何とかしないとって思わない?」
「思わないわよ!命がいくつあっても足りないって!」
くるみに怒鳴られて、光輝は頭が上がらなくなる。くるみが一矢に眼を向けて、深々と頭を下げる。
「すみません、富士野さん!光輝が失礼なことをしてしまって!」
光輝の代わりに一矢に謝るくるみ。だが一矢はくるみを眼にした途端、戸惑いを浮かべていた。
「あ、あの・・・?」
「き、きれいだ・・本当に美しい・・・」
困惑を見せるくるみに、一矢が突拍子のない言葉を口にする。それを聞いてくるみも光輝も唖然となる。
「オレ好みの絶世の美女だ・・是非、オレと付き合ってくれ・・・」
「は、はっ!?」
一矢が口にした言葉に、くるみが声を荒げる。
「オレは常に完璧だ。オレと付き合ってきてくれれば、君は最高のゴールインを果たすことができる。」
「ち、ちょっと、何を言って・・・!?」
慌てふためくくるみに、一矢が手を差し伸べてきた。
「君もオレと付き合っても、得はこの上なくあっても損をすることは絶対にない。君の望むもの全て、オレがつかみ取って・・」
悠然と言いかける一矢だが、いきなりくるみに顔面を蹴られた。どんな不意打ちもかわしてみせる彼だが、くるみに魅入られていたため、蹴りに反応できなかった。
「ぐっ!・・い、いきなり何を・・!?」
「成績優秀なのは賞賛しますけど、調子に乗るのもいい加減にしなさい!あたしが誰と付き合うかはあたしが決めるの!勝手に決めないでください!」
顔を押さえる一矢に、くるみが怒号を浴びせる。しかし一矢は大きな態度を変えない。
「それは理解に苦しむというものだ。オレ以外の男を付き合ったところで、君を満足させるには限界がある。だがオレなら君を満足させられる・・」
「生憎ですけど、あたしは誰かから満足させられるほど甘えん坊じゃないです!しつこいとあなたでも許しませんよ!」
悠然さを見せ付ける一矢に怒りをあらわにするくるみ。2人の様子を見て、光輝は苦笑いを浮かべるばかりだった。
重苦しい空気が和らいできた光輝たちの様子。だが、これを冷ややかに見つめる視線があった。
(彼がギガスの正体か・・徒党を組まれれば私とて厄介になるが・・・)
光輝と一矢の間柄を眼にして、青年が不敵な笑みを浮かべていた。
(うまく対立してくれれば好都合。私が手を下す手間も省ける・・・)
ひとつの策略を秘めて、青年はこの場から離れていった。
(クリスタルユニットの秘密が明らかになる・・これはそのチャンスでもある・・・)
オメガとギガスの力を求めて、青年も本格的に行動を開始するのだった。