仮面ライダーオメガ 第7話
ガルヴォルスの存在を思い知らされたくるみ。しかし現実的な性格の彼女は、その非現実的な出来事を受け入れられないでいた。
ガルヴォルスが何なのか。それを知っていると睨んで、くるみは光輝を伺っていた。
「あの、くるみちゃん・・そんなに睨まれると困るんだけど・・・」
ある日の朝食の時間、じっと見てくるくるみに光輝が困惑していた。
「ホントに何も知らないの、昨日の怪物のこと・・・?」
「知らないよ・・何か何だか・・・」
問いかけてくるくるみに、光輝は苦笑いを浮かべて誤魔化す。しかしそれで納得するくるみではなかった。
「は、早く朝ごはんを食べないと・・2人とも、遅刻してしまいますよ・・」
「そ、そうだね・・遅刻したら、僕の正義が粉々になってしまう・・・!」
そこへヒカルが言いかけ、光輝が相槌を打つ。
「ま、今朝はこのくらいにしておくわね・・でも近いうちに必ず聞き出してやるんだから・・・!」
いったんは手を引くと告げたくるみが、光輝に鋭い視線を向ける。彼女に睨まれて、光輝は苦笑いを浮かべるしかなかった。
朝にくるみに執拗に問い詰められ、光輝は元気がなくなりかけていた。バイクで大学に向かっていく途中でも、彼は気まずさを感じていた。
(どうしたものかな・・ホントのことを打ち明けるわけにもいかないし・・・)
走行中も考えを巡らせる光輝。そこでくるみに鋭い視線を向けられて、彼はさらに気まずくなった。
そのような空気を漂わせたまま、光輝とくるみは大学へと登校していった。
「おや?どうしたんだ、光輝?」
「何だか元気がないですね・・」
ゼミの教室にて、草太とみどりが光輝に心配の声をかける。
「そんなことないって・・僕はいつだって元気100倍♪ってね・・」
すると光輝が笑顔を見せて答える。だが作り笑顔、空元気であることを火を見るより明らかだった。
「あの光輝がここまで落ち込むなんて・・くるみ、何か知らないのか?」
「何も知らない!あたしのほうが知りたいくらいよ!」
隆介が問いかけるが、くるみは怒号を返すばかりだった。隆介たちは彼女の態度に唖然となり、これ以上言葉をかけることができなかった。
「待たせたな、お前たち・・ん?どうした?」
そこへ義男が教室に入ってきて、光輝たちの様子を気にした。
「せ、先生・・な、何でもないんです・・なぁ、草太・・?」
「え、あ、うん・・そうそう・・何でもない、何でもない・・・」
隆介と草太がそわそわしながら答える。義男はあえて彼らに追求しようとせず、講義を始めることにした。
その講義の時間が終わり、隆介、草太、みどりは即座に密談を開始した。
「なぁ、くるみの家に行ってみないか?絶対何かあるって・・」
「そうだね。くるみちゃんがあそこまで怒るってことは、ホントに相当なことだよね・・」
「2人には突然のことで申し訳ないですけど、こうでもしないと確かめようがないですから・・」
光輝とくるみに聞こえないように相談して、3人は考えをまとめた。
「みんな、時間は大丈夫?」
「私は大丈夫です。」
「オレも時間には問題はねぇぜ。」
同意して頷き合う草太、みどり、隆介。3人は溝のある光輝とくるみに視線を向けた。
わだかまりが消えないまま、家に帰ってきた光輝とくるみ。その2人をヒカルが出迎えてきた。
「おかえりなさい、光輝さん、くるみさん・・」
笑顔を見せて挨拶をするヒカルだが、不機嫌なくるみと元気のない光輝を見て困惑する。
「落ち着いてください、2人とも・・そうやってケンカをしていたら、笑顔が消えてしまいます・・」
「ヒカルちゃん・・・」
呼びかけるヒカルに、今度は光輝が困惑を見せる。
「忘れてしまったものでしたら、思い出すことができます・・ですが失ったものは、取り戻せるとは限らないんです・・2度と戻せないかもしれません・・・」
「ヒカル・・・そうよね・・失ったら、戻ってこないものね・・・」
ヒカルの言葉を受けて、くるみが気持ちを追いつけて微笑みかける。
くるみは1年前に両親を亡くしている。大切なものがなくなる、大切な人がいなくなるのは、とても心苦しいことを、彼女も痛感していた。
「ゴメン、ヒカル・・ヒカルに冷たくするつもりはなかったの・・でも気になることはちゃんと知っておいたほうがいいと思う・・ヒカルもそう思うでしょ?」
「それはそうですが・・ムリに知ろうとしても、結局は・・・」
「・・・ハァ・・分かったわよ・・でもいつか必ず教えてもらうからね!それも光輝、アンタからあたしに話すように!」
ヒカルの言葉を受けたくるみが、光輝に問い詰めてくる。気まずさを見せる光輝が、無言のまま小さく頷く。
そのとき、家のインターホンが鳴り出した。
「誰なのかしら、こんな時間に・・・?」
疑問を覚えつつ、くるみが玄関に出る。そのドアを開けた途端、彼女は唖然となる。
水神家を訊ねてきたのは、隆介、草太、みどりだった。
「アンタたち、いきなりどうしたのよ!?」
「ちょっと近くを通りがかったもんでな。来ちまった・・」
声を荒げるくるみに、隆介が気さくな笑みを見せる。彼が口にしたことはもちろん出任せである。
「お邪魔してもいいかな?ここで小休止させてほしいんだけど・・」
「ち、ちょっと!いきなり何を言い出すのよ!?」
隆介が切り出した言葉に、くるみが声を荒げる。
「いったいどうしたっていうんだい・・?」
そこへ光輝がヒカルとともに顔を見せてきた。
「バカ!光輝、ヒカル、出てきちゃダメだって・・!」
慌しく2人に呼びかけるくるみだが、時既に遅かった。
「か、かわいい・・何てかわいいんだ・・・」
「ど、どうしたの、光輝、くるみちゃん・・こんなかわいい子と、ひとつ屋根の下で・・・!?」
「光輝さんとくるみさんに混じって、三角関係に・・・」
隆介、草太、みどりがヒカルの姿に思わず魅入られる。
「ち、ちょっとあなたたち、勝手なこと言わないでって!これには事情というものが・・!」
思わず赤面したくるみが慌しく弁解するが、隆介たちにさらにからかわれることになってしまった。
「どういう事情があるのか、聞かせてもらいたいねぇ・・」
「どんな事情が隠れていることやら・・」
「アンタたち、いい加減にしないと怒るわよ・・・!」
にやけてくる隆介と草太に、くるみが鋭く睨みつけてきた。これ以上はまずいと思い、2人は押し黙ることにした。
「とにかく上がって。話は中でしたほうがよさそうだから・・・」
光輝が言いかけると、隆介たちは納得して頷いた。
水神家にて、ヒカルについて知る限りの話をする亮平とくるみ。事情を知った隆介、草太、みどりが感動を覚える。
「うううう・・いい話だなぁ〜・・・」
「記憶喪失の女の子・・辛いよね・・・」
「これからは私たちも力になりますから・・・」
「みんな、そんな大げさなことじゃ・・・」
涙ぐむ3人に光輝は苦笑いを浮かべ、くるみは肩を落とすばかりだった。
「ありがとうございます、みなさん・・私のために・・・」
ヒカルが感謝の言葉をかけると、隆介が突然彼女の両手を握ってきた。突拍子のないことに彼女が戸惑いを見せる。
「気にしないでください。僕は常に悩み多き美少女の味方ですから・・」
「調子に乗り過ぎないように。」
ヒカルに親切に振舞う隆介を、くるみがつまみ上げる。
「あの、ヒカルさんのこと、駒場先生に話してみてはどうでしょうか?先生なら何かよいアドバイスをしてくれるのではないでしょうか・・?」
そこへみどりが声をかけると、光輝とくるみが深刻な面持ちを浮かべる。
「義男先生か・・義男先生なら何とかしてくれそうだけど・・」
「でも変に話を広げて、騒ぎになったら・・・」
くるみが口にした心配に、光輝も不安を覚える。
「あの、みなさん・・私のために、そこまでしてもらえなくても・・・」
そこへヒカルが沈痛さを浮かべて声をかけてきた。自分のために多くの人が心配になっているのが、彼女にはたまらないことだった。
するとくるみが肩を落としてため息をついてきた。
「だから、そんな後ろめたいことをいうのはやめてっていってるでしょ!」
「くるみさん・・・」
叱りつけてくるくるみに、ヒカルが戸惑いを覚える。
「ここまで乗りかかったんなら、とことん付き合ってあげるわよ。どういう人だったのか、ちゃんと確かめないと。」
「くるみさん・・・本当に、本当にありがとうございます・・・みなさんも、これからよろしくお願いします・・・」
多くの人々に支えられて、ヒカルは感謝を覚える。その優しさが、彼女の心に安らぎを与えていた。
そのヒカルの笑顔を見て、光輝も安らぎを感じていた。
それから光輝はヒカルの記憶探しに出ることにした。彼女とともに街に繰り出したが、それでも記憶の手がかりすら見つけ出すことができなかった。
「うーむ・・いろいろと回ってみれば、ちょっとぐらいは思い出せると思ったんだけど・・そんなに甘いものじゃないか・・・」
「すみません。いろいろと紹介してもらったのに・・・」
落胆を見せる光輝に、ヒカルが謝る。すると光輝がすぐに笑顔を見せる。
「気にしないでって。いつか必ず記憶を取り戻せる。まずはそう信じることから始めないと・・」
「光輝さん・・ありがとうございます。光輝さんにここまで優しくされて、本当に嬉しいです・・・」
光輝の励ましを受けて、ヒカルが感謝の言葉を返す。すると光輝が照れ笑いを見せる。
だが2人が街中の広場に差し掛かったときだった。1人の青年がふらつきながら近づいてきた。
「な、何だ・・・?」
「あの人、様子が変です・・・」
光輝とヒカルが疑問符を浮かべる。力をなくして倒れた青年が事切れ、動かなくなる。
「ど、どうしたんですか!?・・・し、死んでる・・・!?」
命を落とした青年に驚愕する光輝。ヒカルも怖がって体を震わせていた。
「見られてしまったか・・オレとしたことが軽率だった・・」
そこへもう1人、黒いスーツに身を包んだ長身の男が光輝とヒカルの前に現れた。
「でもすぐに始末してやれば何の問題もないか・・・悪いけど、仲良く始末してあげる・・・」
言いかける男の姿が、突如野獣のような怪物へと変身した。ビーストガルヴォルスの出現に、光輝とヒカルが危機感を覚える。
「ヒカルちゃん、逃げるんだ!」
「光輝さん!」
ヒカルに呼びかける光輝がベルトを身に付け、水晶を掲げる。
「変身!」
水晶をベルトにセットして、光輝が装甲を身にまとう。
「仮面ライダーオメガ!」
名乗りを果たすと、光輝がビーストガルヴォルスに向かっていく。野獣に体に向けて打撃の連打を繰り出していく。
「ほう?お前がオメガだったとはな・・まさかこうも都合よく現れてくれるとはな・・・!」
笑みを強めたビーストガルヴォルスが反撃に転じ、突進で光輝を突き飛ばす。
「ぐっ!」
「オメガ、お前の力、試させてもらうぞ!」
うめく光輝に、いきり立ったビーストガルヴォルスが猛攻を仕掛ける。豪腕と爪がオメガの装甲に叩き込まれ、火花を散らす。
「くっ!・・何てパワーだ・・このままではやられてしまう・・・!」
ビーストガルヴォルスの猛威に毒づく光輝。
「メガブレイバー!」
光輝の呼びかけを受けて、メガブレイバーが駆けつけてきた。メガブレイバーは光輝とビーストガルヴォルスの間に割って入り、攻撃を中断させた。
「大丈夫、オメガ!?」
「うん・・ありがとう、メガブレイバー・・」
呼びかけるメガブレイバーに、光輝が安堵の笑みをこぼす。そんな彼らの前にビーストガルヴォルスが立ちはだかる。
「その程度がオメガの力なのか?だとしたらとんだ期待はずれということになるな。」
ビーストガルヴォルスが不敵な笑みを見せると、光輝に向かって飛びかかる。その突進力に押されて、光輝が横転する。
迫ってくるビーストガルヴォルスに対して、光輝がとっさに立ち上がる。ビーストガルヴォルスの上をジャンプし、そのままメガブレイバーに乗る。
光輝を乗せたメガブレイバーは加速してジャンプし、ビーストガルヴォルスをけん制する。そして転回して、再び突進を仕掛ける。
だがビーストガルヴォルスが振りかざした爪が、光輝に叩き込まれた。その衝撃で光輝がメガブレイバーから落とされる。
ビーストガルヴォルスの猛攻はさらに続く。反撃に転じることができず、光輝は劣勢を強いられる。
「くっ!このままではやられてしまう!何とかしなければ・・・!」
光輝はビーストガルヴォルスとの距離を取り、ベルトから取り出した水晶を脚部に取り付ける。精神力を足に集中して、ビーストガルヴォルスへの攻撃を仕掛ける。
「ライダーキック!」
光輝が飛び上がり、光を発する飛び蹴りを繰り出す。これに対し、ビーストガルヴォルスが右の豪腕を振りかざす。
2つの強大なパワーが衝突し、火花を散らす。オメガスマッシャーをもってしても、ビーストガルヴォルスのパワーとは互角でしかなかった。
そこへビーストガルヴォルスが左腕を振りかざしてきた。2本の腕の力に押されて、ついにオメガスマッシャーが打ち破られた。
「ぐあっ!」
突き飛ばされた光輝が横転する。必殺技を打ち破られた彼は、心身ともに追い込まれてしまった。
「光輝さん!」
「ダメだ、ヒカルちゃん・・来るんじゃない・・・!」
たまらず駆け寄ろうとするヒカルに、光輝が呼びかける。彼女の前にビーストガルヴォルスが立ちはだかる。
「お前にも見られてるからな。ここで始末してやるぞ。」
「やめて・・来ないでください・・・!」
不敵な笑みを浮かべるビーストガルヴォルスを前にして、ヒカルが恐怖を募らせる。彼女を助けようとする光輝だが、思うように動くことができない。
ビーストガルヴォルスが右腕を振り上げ、ヒカルに襲いかかろうとした。
そのとき、その右腕に数発の火花が散り、ビーストガルヴォルスが怯んだ。突然のことに光輝が驚き、ヒカルがたまらず後ずさりする。
「な、何だ!?」
声を荒げて、ビーストガルヴォルスが振り向く。その先にいた人物に彼だけでなく、光輝もヒカルも驚きを隠せなかった。
それはオメガに似た装甲をまとっていた。右手には機械的な銃が握られており、今の破裂はその銃によるものだった。
「あ、あの姿・・まさか・・・!?」
「オメガと同じ・・でも、少し違う・・・!」
声を荒げる光輝とヒカル。ビーストガルヴォルスは、その人物が何なのか理解していた。
「その姿・・・お前は、ギガスか・・・!?」
「ギガス・・・!?」
ビーストガルヴォルスが口にした言葉に、光輝が疑問を覚える。
赤を基調としたオメガと違い、その人物、ギガスは青を基調としており、形状にも差異があった。
「丁度いい。ここでギガスの力も確かめておくとしようか・・・!」
いきり立つビーストガルヴォルス。渚がその間に光輝に駆け寄る。
ギガスがビーストガルヴォルスに向けて銃の銃口を向ける。事態は新たな局面を迎えようとしていた。