仮面ライダーオメガ 第5話
警視庁に突如襲撃してきた怪物は、たちまちニュースとして報道された。光輝、くるみ、ヒカルの耳にもそのニュースは入ってきていた。
「警視庁に怪物・・とんでもない世の中になったものだ・・」
光輝が事件について考えて、肩を落とす。
「怪物なんているわけないでしょ。きっと見間違いから生まれた誤報よ。」
そこへくるみが淡々と言いかけてくる。彼女は怪物の存在を信じていなかった。
「何を言ってるんだよ、くるみちゃん!?怪人が出たんだよ!それもみんなの味方の警察のいる警視庁に!」
「分かった。分かったから早く朝ごはん食べちゃってよ。片付けないと出られないんだから・・」
不満を言い放つ光輝だが、くるみは全く相手にしていなかった。
「あの、片づけなら私がやっておきますから、2人とも構わずに行ってください・・」
そこへヒカルが声をかけるが、くるみは首を横に振る。
「ダメよ。そうやってヒカルに甘えたら、その甘え癖が身に染みちゃう。ヒカルの気持ちは分かるけど、自分のできることは自分でやったほうがお互いのため。」
「はい・・・」
くるみの言葉を受けて、ヒカルが小さく頷いた。
「ダメだよ、くるみちゃん。せっかくのヒカルちゃんの親切を・・」
「親切を受けるのと甘えるのとは違うのよ。かえってヒカルちゃんに迷惑になるわ。」
光輝が反論するが、くるみは聞き入れようとしなかった。
「とにかく、お互いに自分のことは自分でしっかりやること。それでよろしく。」
くるみは言いかけると、自分の朝食に入った。いつもよりも彼女が突っ張っていると感じて、光輝が当惑を覚えていた。
光輝とくるみが大学を訪れると、ゼミでは既に警視庁での事件で持ちきりになっていた。
「光輝、くるみ、聞いたか、昨日の事件!?」
隆介が訊ねると、光輝が大きく頷く。
「あれは絶対に怪人の仕業だよ!まさか警察の本部に乗り込んでくるなんて!」
「だからいつまでもヒーローとごっちゃにしないの・・」
熱烈に語る光輝に、くるみが呆れ果てる。
「何にしても、警視庁に乗り込んでくるなんて、とんでもないなぁ・・」
「怖い世の中になりましたね・・」
草太とみどりが不安を口にする。しかし光輝は全く落ち込んではいなかった。
「心配は要らないよ!なぜなら悪は正義の前に滅びるのがお決まりなんだから!」
「また始まった・・光輝の正義論・・」
高らかに言い放つ光輝に、草太がからかうような笑みを浮かべる。
「おー。遅くなったな。みんな、席に着けー。」
そこへ声がかかり、光輝たちが慌てて席に着く。教室に1人の男が入ってきた。
駒場義男。商学を専門とする教授で、光輝たちのゼミの講師も務めている。気さくな性格で、たくさんの生徒たちから慕われている。
「事件のことはあんまり考えるな。今は授業に集中すること。さて、今日は意見交換会だ。ちゃんと考えをまとめて意見するように。」
義男の呼びかけに対して、真剣に頷く人と肩を落とす人に反応が分かれていた。
光輝は義男の講義になかなかついていけてなかった。しかし義男が丁寧に助言をしてくれていたため、何とかくらいつくことができていた。
「今度は吉川、お前の意見を聞かせてくれ。自分なりの考えで構わないぞ。」
「あ、はい・・」
義男に声をかけられて、光輝が資料に眼を通しながら説明していく。あまりうまくない説明だったが、義男は不満は感じていなかった。
授業にうまくついていけていないと思い、光輝は気落ちしていた。そんな彼に、義男が声をかけてきた。
「何だが疲れているようだな、光輝。私の講義は退屈か?」
「先生・・いいえ、そんなことは決して、断じてありません!・・ただ、僕には難しくて・・」
弁解しつつも、沈痛の面持ちを浮かべる光輝。すると義男が彼の肩に手を添える。
「そんなに落ち込むことはない。人間は千差万別。それぞれに向き不向きがある。すぐに飲み込めてしまう人もいれば、お前のように悪戦苦闘する人もいる。問題なのは、自分のペースをおかしくさせることだ。ペースをおかしくしてムリをして、逆効果になったら元も子もないからね。」
「先生・・先生にこういわれると、逆にムリをしたくなっちゃいますね、アハハハ・・・」
義男の励ましの言葉に、光輝が苦笑いを浮かべる。
「とにかくムリはするなよ。何事も自分のペースを守った人が勝利をつかむんだ。自分だけの勝利を・・」
「先生・・ありがとう、先生・・僕、頑張ります・・・」
義男の言葉を受けて、光輝が自信を込めて頷いた。
「それでは、私は光輝の成長を楽しみにしてるぞ。」
義男は気さくな笑みを浮かべながら、光輝の前から去っていった。前向きな彼に、光輝は親しみを感じていた。
大学近くの通り。そこでは人々の通りが目立っていた。
「ねぇねぇ、今日はあのお店で食べようよ。」
「そうね。あたしも丁度そこで食べたかったと思ってたのよねぇ。」
2人の女子が昼食について語り合っていた。2人はその通りから、近道として脇の小道に差し掛かった。
そのとき、女子の1人が首元に痛みを覚えて、ふと足を止めた。
「どうしたの、急に止まって・・?」
「うん・・ちょっと首にチクって・・」
もう1人の女子が声をかけると、その女子が困惑しながら答える。その直後、その女子の体が突如砂が崩れるかのように崩壊を引き起こした。
「えっ!?」
もう1人の女子は眼を疑った。友人が眼の前で砂になって消滅したのである。
「キャアッ!」
たまらず悲鳴を上げる女子。その騒ぎを聞いて、周囲にいた人々もその異変に緊迫を覚える。
その騒然とした事態を見つめる不気味な視線が存在していた。
自分の中にある正義感を抑えられず、光輝は警視庁で起こった事件の調査に乗り出した。しかし庁は警察による完全防備が敷かれており、立ち入ることもできない状態だった。
「ぅぅ・・これじゃ調べるどころじゃない・・」
気まずさを覚えて、ひとまず引き返そうとする光輝。
(でも、犯人は犯行現場に戻ってくるって、何かで聞いたことがある・・もしかしたら、またこの近くにいるのかもしれない・・・)
ふと思ったことに関心を持つ光輝。彼は少し離れた場所で、可能の限り様子を伺うことに決めた。
警視庁から少し離れた通りの真ん中で、光輝は止まった。そこから警視庁の様子を伺おうと振り返ったときだった。
そこで光輝は、丁度通りがかった1人の青年を目撃する。彼の陰のある表情が、光輝の心を引き寄せた。
「あ、あの・・!」
たまらず声をかける光輝。すると青年が足を止めて、彼に振り向いてきた。
「何だ、お前は?オレに何の用だ?」
「い、いや・・ゴメン・・ただ、ちょっと君が気になったんで・・何か、悩んでいるような気がして・・」
低く言いかける青年に、光輝が苦笑いを浮かべて答える。
「オレに構うな。オレは誰とも関わるつもりはない。」
「あぁ・・いきなり声をかけたのは悪かったよ・・でも、やっぱりほっとけないっていうか・・」
冷淡に告げる青年に、光輝が沈痛の面持ちを浮かべる。
「そうやって優しくしていれば、オレが隙を見せると思っているのか?・・生憎だが、オレはそんな騙しには引っかからないぞ・・」
「そんな・・僕はそんなつもりじゃ・・・」
「そうやって偽善を取り繕って、他人を陥れていく・・それが人間の本心となっている・・こんな歪んだ正義には、何も守れはしない・・」
「そんなことはない!」
青年が冷徹に告げた言葉に、光輝が感情をあらわにして反発する。その返事に青年が眉をひそめる。
「正義はみんなのために存在している!弱気を助け、悪を倒す!これが正義!これがヒーローなんだよ!」
「正義?ヒーロー?そんななりをしてそんな子供だましに引っかかっているとは・・呆れてものもいえないな・・」
「子供だましじゃない!ヒーローはみんなに夢と希望を与えるんだ!」
呆れる青年に光輝が突っかかる。光輝は自分の信じるヒーローと正義が疑われていることが腹立たしかった。
「お前もその年なら少なからず理解しているはずだ。この現実が、ドラマやゲームのようにはできていないことが・・否定するかどうかは別として・・」
「どうしてそこまで、君は正義を信じないんだ・・・!?」
「・・・オレは、お前の言う正義に裏切られたんだ・・・」
困惑する光輝に、青年が陰のある面持ちで語りかける。
「今、この世界に存在している正義は、もはや自己満足なものでしかなくなっている・・自分と、自分に得を与える人しか助けようとしない・・お前のように、損得を気にせずに純粋に他人を守ろうとする正義など、世界の片隅に追いやられた儚いものでしかなくなった・・」
「違うよ・・僕は今でも、みんなを差別なく救う正義が存在し、強く輝いている・・僕はそう信じている・・・!」
「信じている、か・・それこそ無駄なことだ。信じたところで裏切られる・・信頼など、今となっては取るにたならないものでしかない・・・」
光輝の呼びかけを頑なに拒み続ける青年。光輝もこれ以上かける言葉が見つからず、困惑してしまう。
そのとき、どこからか悲鳴が響き渡り、光輝と青年が振り返る。
「何だ、今のは・・?」
「もしかして、怪人が人々を・・・!」
眉をひそめる青年と、飛び出そうとする光輝。だが光輝はふと足を止めて、青年に振り返る。
「僕は吉川光輝。君は?」
「オレ?海道竜也だ。」
「竜也くん・・また会おうね、竜也くん!」
光輝は青年、竜也に笑顔を見せると、改めて駆け出していった。
突如街外れの通りに姿を現したビーガルヴォルス。ビーガルヴォルスは無差別に人々に襲い掛かっていた。
ビーガルヴォルスの放つ針に刺された人々が、体の崩壊を引き起こしていた。
「そうだ、そうだ。どいつもこいつも死んじゃえばいいんだ・・」
ビーガルヴォルスが不気味に呟きかける。そこへ騒ぎを聞きつけた光輝が駆けつけてきた。
「変身!」
光輝がベルトに水晶をはめ込む。彼の体を装甲が包み込み、オメガへと変化させる。
「やめろ!」
光輝が繰り出した拳が、ビーガルヴォルスの体に叩き込まれる。宙に浮いていたビーガルヴォルスが吹き飛ばされるが、着地して態勢を整える。
「何だ、お前は・・?」
「仮面ライダーオメガ!」
ビーガルヴォルスが視線を向けると、光輝が高らかに名乗る。
「ガルヴォルス、お前たちの勝手にはさせないぞ!」
「オレの邪魔をしようってか?そんなことはさせないぞ・・!」
言い放つ光輝に、ビーガルヴォルスが言い返す。ビーガルヴォルスが伸ばした両腕から、光輝に向けて針を発射する。
光輝は横転して針をかわし、すぐさま前進する。彼は一気にビーガルヴォルスに詰め寄り、打撃を連打する。
一気に追い詰められたビーガルヴォルスが怯む。とどめを刺そうと、光輝が水晶を脚部にはめ込む。
「行くぞ・・ライダーキック!」
光輝が飛び上がり、ビーガルヴォルスに向けてオメガスマッシュを繰り出す。
そのとき、突如大きな影が飛び込み、爪を振りかざしてきた。その爪による攻撃を受けて、光輝が体勢を崩された。
「ぐあっ!・・何だ、今のは・・・!?」
何が起こったのか分からず、光輝が当惑する。ビーガルヴォルスが反撃してはいない。
(他にも敵がいる・・どこにいるんだ・・・!?)
光輝はビーガルヴォルスの動きに注意を払いながら、第二の敵の行方を追う。
そこへ1つの影が光輝の前に飛び込んできた。龍の姿に似たドラゴンガルヴォルスが、光輝の前に姿を現した。
「お前もガルヴォルスなのか・・・人々の自由と正義のために、お前たちの暴走は許さんぞ!」
「正義?・・お前も正義を語って、他人を虐げるのか・・・!?」
言い放つ光輝に対し、ドラゴンガルヴォルスが苛立ちをあらわにする。
「正義など、この力で吹き飛ばしてやる・・・!」
ドラゴンガルヴォルスが光輝に向かって飛びかかる。光輝がとっさに後退するが、ドラゴンガルヴォルスの動きが早く、一気に間合いを詰められる。
龍の拳が光輝をまとう装甲に叩きつけられる。装甲が火花を散らし、光輝がその猛攻に押されて後退していく。
(何てパワーだ!今までのガルヴォルスとは桁違いだ!)
ドラゴンガルヴォルスの力に脅威を感じる光輝。彼は負けじと体勢を整え、反撃に転じる。
だが光輝が繰り出した拳は、ドラゴンガルヴォルスによって受け止められる。
「この程度で正義などと口にするか・・笑わせる・・・!」
ドラゴンガルヴォルスは冷淡に告げると、光輝を引き寄せ、ひざ蹴りを叩き込む。この攻撃から抜け出そうとする光輝だが、ドラゴンガルヴォルスの腕から逃れることができない。
「このままではやられてしまうぞ・・・メガブレイバー!」
光輝が呼びかけると、メガブレイバーが走りこんできた。メガブレイバーはオメガの装着者のエネルギーと呼び声をキャッチして、いつでもどこでも駆けつけることができるのである。
突っ込んできたメガブレイバーに気付き、ドラゴンガルヴォルスが光輝を放して跳躍する。その間を突っ切った後、メガブレイバーが光輝に駆け寄る。
「光輝、大丈夫かい?」
「メガブレイバー・・・大丈夫だ・・・!」
メガブレイバーの声に光輝が答える。彼はメガブレイバーに乗ると、身構えているドラゴンガルヴォルスに向かって走り出す。
加速しての突進を、ドラゴンガルヴォルスは紙一重でかわす。光輝は反転して、さらに突進を仕掛ける。
だがドラゴンガルヴォルスが繰り出した腕が光輝を突き飛ばし、彼をメガブレイバーから突き放した。
「くっ!」
倒れた光輝がうめき声を上げる。そこへドラゴンガルヴォルスが剣を具現化させ、光輝に斬りかかる。
ドラゴンガルヴォルスの猛攻に押されていく光輝。彼は何度か剣を叩きつけられた後、激しく横転する。
「どうした?お前が口にする正義はこの程度のものなのか?」
ドラゴンガルヴォルスが嘆息をもらす。疲弊した体に鞭を入れて、光輝が立ち上がる。
(こんな強いガルヴォルスが出てくるなんて・・・だけど、オレは負けるわけにいかない・・なぜならオレは、仮面ライダーだから!)
自分を奮い立たせる光輝。水晶を手の甲にはめ込み、パンチ力を向上させる。
(まずはあの剣を何とかしないと・・あの剣で攻撃されると分が悪い・・・!)
いきり立った光輝が拳を握り締めて飛びかかる。ドラゴンガルヴォルスも同時に飛び出す。
「くらえ!ライダーパンチ!」
光輝が繰り出した拳とドラゴンガルヴォルスの剣が衝突する。だがその反動で光輝が大きく跳ね飛ばされる。
ドラゴンガルヴォルスも、剣を折られていた。光輝の姿が見えなくなったことで戦意を消していた。
ため息をついたドラゴンガルヴォルス、竜也が人間の姿に戻った。
「どんな正義も、オレを止めることはできない・・・」
竜也は冷淡に告げると、振り返って歩き出していった。
これが光輝と竜也。正義を分かつ2人の運命の出会いだった。