仮面ライダーオメガ 第2話

 

 

 突然の出来事に驚きながらも、光輝は少女を連れて家に戻ってきた。どうしたらいいのか分からず、彼は考えの至らないまま、家に来てしまったのだ。

「光輝・・これはどういうことなのよ・・・!?

 そんな2人を目の当たりにして、くるみが言葉を失っていた。

「くるみちゃん・・実は、話せば長くなりそうなんだけど・・」

「手短に!最初から最後までちゃんと話してもらうわよ!あの人は誰!?こんな遅くまで何やってたのよ!?

 苦笑いを浮かべたところでくるみに問い詰められて、光輝が気まずさを膨らませる。

「まずひとつ大事なことが・・彼女、記憶喪失みたいなんだ・・」

「記憶喪失?」

 深刻な面持ちで告げた光輝の言葉に、くるみが眉をひそめる。彼女は困惑している少女をじっと見つめる。

「あなた、名前は?どこから来たの?」

 くるみが質問を投げかけるが、少女は黙り込んで何も答えない。

「自分の名前まで思い出せないとは・・相当重傷ね・・」

「どうしよう、くるみちゃん?・・やっぱり、警察に知らせたほうが・・」

 肩を落とすくるみと、不安の表情を浮かべる光輝。

「ダメです!・・警察は、怖いです・・・」

 そのとき、少女が声を上げた。その声に驚きを見せる光輝とくるみの前で、少女が怯えて震える。

「きっと、何かあったのよ・・もしかして、何か悪いことを・・」

「ま、まさかそんな・・記憶がないのに悪いことをするなんて、ありえないって・・」

 推測を巡らせるくるみに、光輝が不安を込めた言葉をかける。

「きっと何かの事件の犯人と間違われて、追われたんじゃないかな?・・そうじゃなかったら、こんなに警察を怖がるはずないよ・・」

「もう、真っ正直なんだから、光輝は・・じゃ、どうするのよ、この人・・?」

 少女を信じる光輝に、奈美が問い詰めてくる。光輝も少女をどうするかを最大の問題としていた。

「とにかく、この人を家で休ませようよ・・このままにしておくのもどうかと思うよ・・」

「そうはいうけどね・・」

「山積みの問題も、ちゃんと休んでから考えたほうが、いいアイディアが出るかもしれないし・・うん、そうしよう・・」

「光輝ったら・・・分かった。分かりました。保護します。」

 光輝の言い分に観念して、くるみが少女を保護することにした。

「でもあなた、一応の名前を考えたほうがいいわね・・いつまでも名前がないと、いろいろ不便だし・・」

「そうだな・・どう呼ぶべきなんだろうか・・・」

 今度は少女を呼ぶ際の名前を考えるくるみと光輝。腕組みをして考え込む2人を見つめたまま、少女は当惑する。

「光輝・・光・・・ひかる・・・とりあえず、“ヒカル”っていうのは?」

「ヒカル・・・?」

「光輝が助けた少女ってことで。とりあえず、その名前でいきましょう。」

 戸惑いを見せる少女に、くるみは「ヒカル」という名を与えた。

「ヒカル・・・私はヒカル・・・ありがとうございます・・えっと・・」

「私はくるみ。水神くるみよ。よろしくね。」

「僕は吉川光輝。よろしくね、ヒカルちゃん。」

 感謝の言葉をかけるヒカルに、くるみと光輝が自己紹介をする。

「はい・・よろしくお願いします・・・」

 ヒカルが会釈すると、光輝が笑みをこぼし、くるみが肩を落としてため息をついていた。

 

 思わぬ介入で少女を襲い掛かることに失敗した男、スパイダーガルヴォルス。彼は暗闇に満ちた夜の小道を歩いていた。

「まさかあんなのが出てくるなんて・・信じられないよ、全く・・!」

 苛立ちを抑え切れずに、そばにある壁に拳を叩きつける男。

「だがこのままで済ますと思うな・・たとえオメガであろうと、負けてなるものか・・・!」

 憎悪をたぎらせる男。感情を抑えきれず、彼の頬に紋様が浮かび上がってきていた。

「次に会ったら、確実に始末してくれる!」

 オメガに対する憎悪を胸に秘めて、男は小道の闇に消えていった。

 

 その晩、ヒカルは光輝の部屋で寝ることになり、光輝はリビングのソファーで寝ることになった。朝が訪れ、1番に眼が覚めたのはヒカルだった。

 ヒカルは途方に暮れるように右往左往し始めた。そこへくるみが眼を覚まし、彼女の様子を気にして声をかけてきた。

「どうしたのよ、ヒカル?そんなにそわそわして・・」

「いえ、光輝さんとくるみさんにお世話になりましたので・・せめてご飯の用意でもと思ったのですが、食材がどこにあるのか分からなくて・・」

 ヒカルの返答に、くるみが肩を落としてため息をつく。

「別にそこまで求めているわけじゃないって。料理なら私がやるから、あなたは大人しくしてて。」

 くるみはヒカルに言いかけると、キッチンに向かって冷蔵庫を開ける。

「私、1年前に親を亡くしていてね。今日まで頑張ったおかげで、料理の腕は磨かれたわ。」

「でしたらせめて、お手伝いだけでも・・」

「ありがとう。でも朝は私も光輝も忙しいことが多いから、ペースを変えたくないのよ。」

 くるみに言いとがめられて、ヒカルが沈痛の面持ちを浮かべる。

「あなたの腕を信用していないわけじゃないの。それだけは分かってもらいたい。」

「・・・はい・・・」

 くるみの言葉を受けて、ヒカルは悲痛さを浮かべたまま頷いた。

「あ・・あれ?・・どうしたの・・・?」

 そこへ光輝が眼を覚まし、寝ぼけながら声をかけてきた。

「もう、光輝ったら・・もう朝よ。顔洗ってきなさいよ。」

 くるみがため息をついて光輝に呼びかける。光輝は小さく頷くと、ゆっくりと洗面所に向かっていった。

「とりあえず今日は午前中で終わる予定だから、お昼には帰ってくる。だからそれまで、うちで大人しくしていて。勝手に外に出たりしないで。」

「分かりました・・ここで待っています・・」

 くるみが呼びかけると、ヒカルは小さく頷いた。だがヒカルの不安は解消されないままだった。

 

 大学での講義。その間も、光輝もくるみもヒカルのことを気にかけていた。

「大丈夫かな、ヒカルちゃん・・・?」

「ちゃんとうちにいるように念を押したからね。大丈夫よ。」

「でも、不安になって飛び出しちゃうかもしれないし・・」

「心配性ね、光輝はいつも・・あんまり気にしても仕方がないでしょ・・」

「くるみちゃんは、ヒカルちゃんが心配じゃないの?記憶喪失で、どうしていいのか分かんないのに・・」

「心配しすぎても意味がないってこと。少しは落ち着きなさいって・・」

「これが落ち着けるわけないって!」

 くるみに反発するあまり、たまらず声を荒げて立ち上がる光輝。それが講義を中断させ、沈黙を呼び込む。

「吉川くん、講義中は静かにするように。」

「は、はい・・すみません・・」

 講師に注意されて、光輝が気落ちして着席する。隣のくるみも気恥ずかしさを覚えていた。

 

 午前中の講義が終わり、光輝とくるみは帰宅しようとした。だが彼女が女子たちにお手伝いを頼まれてしまい、光輝だけが先に家に帰ることとなった。

 家の前に来た光輝は、走らせていたバイクを止める。そして玄関にやってきてドアをノックする。

「ヒカルちゃん、僕だよ。光輝だよ。」

 光輝が家に向かって呼びかけるが、返事が返ってこない。

「ヒカルちゃん?・・・ヒカルちゃん・・・!?

 語気を強める光輝だが、それでもヒカルからの返事がない。

「ヒカルちゃん!」

 光輝が慌てて家の中に飛び込む。だが家の中にヒカルの姿がなかった。

「ヒカルちゃん・・・もしかして、不安になって家を飛び出したんじゃ・・!?

 不安を膨らませる光輝も家を飛び出す。彼は必死になってヒカルの行方を追い求めた。

 だがヒカルの手がかりが分からず、光輝は彼女を発見することができないでいた。

「ヒカルちゃん、どこに行っちゃったんだろう・・・」

 さらに不安を膨らませながら、光輝はヒカルの行方を追い求めた。

 

 不安に耐え切れなくなったヒカルは、たまらず家を飛び出してしまった。しかも外に出てもどうしたらいいのか分からず、彼女は途方に暮れてしまった。

(どうしたらいいの・・何も分からない・・どうしたらいいのか分からない・・・)

 困惑を拭えないでいるヒカルが体を震わせる。

(分からない・・何もかもが・・・怖い・・怖いよ・・・)

 恐怖を訴えるもその恐怖が消えることがない。彼女は人気のない公園のベンチで座り込んだままだった。

「どうしたのかな、こんなところで?」

 そこへ声をかけられて、ヒカルがうつむいていた顔を上げる。その先にいた不気味な男に、彼女は眼を見開いた。

「あなた、この前の・・・!?

「久しぶりだな。今日はナイト様はいないみたいだな・・丁度いい。もう1度楽しませてもらおうか・・!」

 眼を見開いた男に紋様が走る。その姿が異形の怪物、スパイダーガルヴォルスへと変貌する。

 とっさに逃げ出そうとするヒカル。だが道をさえぎるように糸が張り巡らされる。

「そう簡単に逃げられると思うのか?」

 スパイダーガルヴォルスが不気味な笑みを浮かべる。ヒカルが彼に振り返り、恐怖をあらわにする。

「ハッハッハッハ!観念するんだな!お前はこれから遊ばれるんだよ!」

「そんなマネはさせないぞ!」

 哄笑を上げたところで、スパイダーガルヴォルスの前に光輝が駆けつけてきた。

「ヒカルちゃん、大丈夫!?

「こ、光輝さん・・・はい・・」

 光輝が声をかけると、ヒカルは当惑を見せたまま答える。一瞬安堵を浮かべる光輝が、すぐに真剣な面持ちになってスパイダーガルヴォルスを見据える。

「コイツはいい!オメガがまた現れてくれるとは!」

「またヒカルちゃんを狙うなんて・・・お前だけは許さないぞ!」

 哄笑を上げるスパイダーガルヴォルスに、光輝が怒りをあらわにする。そして彼はベルトを腰に巻き、水晶を手にする。

(僕は戦う・・ヒカルちゃんを守るために・・・!)

「変身!」

 決意を秘めた光輝が、水晶をベルトにはめ込む。彼の体を無機質な鎧が包み込んだ。

「覚悟しろ、オメガ!」

 笑みをこぼしたスパイダーガルヴォルスが光輝に飛びかかる。だがスパイダーガルヴォルスの攻撃は、光輝の身のこなしと手さばきでかわし、防いでいく。

「はっ!」

 光輝が反撃に転じてスパイダーガルヴォルスを蹴り飛ばす。横転するスパイダーガルヴォルスだが、すぐに体勢を立て直す。

「やはりオメガは強いな。だが同じ手が何度も通用すると思うな!」

 スパイダーガルヴォルスが光輝に向けて糸を吹き付ける。光輝は横転、ジャンプを駆使して糸をかわしていく。

 だが糸の束のひとつが光輝の左腕を捕らえる。

「捕まえたぞ!」

 スパイダーガルヴォルスがその糸を振り回す。引っ張られる光輝が地面や壁に叩きつけられる。

「光輝さん!」

 ヒカルが悲鳴を上げる中、光輝が振り回されて横転する。倒れた彼を見下ろして、スパイダーガルヴォルスが哄笑を上げる。

「不様だな!この前オレを追い詰めたのがウソみたいだぞ!」

「くっ!・・オレは、こんなところで倒れるわけにはいかない・・・」

 うめきながらも立ち上がる光輝。スパイダーガルヴォルスが哄笑をやめて身構える。

「世界の平和を守るため、命を賭けて戦い続ける・・それがヒーローの、仮面ライダーの使命・・・!」

 光輝は言い放つと、決めポーズを披露する。

「仮面ライダーオメガ!」

 自らを「仮面ライダー」と称する光輝。ライダーに対する強い憧れの象徴だった。

「こ、こいつ・・ふざけたことを!」

 苛立ちをあらわにしたスパイダーガルヴォルスが光輝に飛びかかる。光輝がベルトにはめられていた水晶を取り出し、脚部のくぼみにはめ込んだ。

 水晶の力は各部位のくぼみにはめ込むことで、攻撃の威力を高める効果をもたらしていた。

 光輝が飛び上がり、スパイダーガルヴォルスに向かって一蹴を放つ。

「ライダーキック!」

 光を帯びた光輝のキックが、スパイダーガルヴォルスに叩き込まれた。スパイダーガルヴォルスが地面に叩きつけられ、激しく横転する。

「ぐっ!・・こんな・・こんなことが・・・あああぁぁぁ!ーーー!!!

 絶叫を上げたスパイダーガルヴォルスの体が硬質化し、砂のように崩壊を引き起こした。光輝の力によって彼は命を落としたのである。

「やった・・やったよ・・・」

 勝利の喜びを感じる光輝の体から鎧が消失する。足元を転がる水晶を拾い、じっと見つめる。

「大丈夫だった、ヒカルちゃん?」

「光輝さん・・・はい・・・」

 光輝が声をかけると、ヒカルは小さく頷いた。彼は再び水晶を見つめて、考え込む。

(それにしても、この力は本当にすごい・・・でも、本当に何なんだろうか・・・)

 水晶の、オメガの力に脅威を感じながら、光輝は疑問を拭えなかった。この力がもたらすものが何なのか。彼も、水晶とベルトを所持していたヒカルさえも分からなかった。

「あっ!こんなところにいたー!」

 そこへくるみが駆けつけ、光輝とくるみに駆け寄ってきた。

「光輝、どうしたのよ!?家に帰ったら誰もいないから、2人ともどこに行ったのかと思ったじゃない!」

「ゴ、ゴメン、くるみちゃん・・ヒカルちゃんがいなくなっちゃったから、一生懸命に探してたんだよ・・」

 問い詰めてくるくるみに、光輝が事情を説明する。これを聞いて、彼女はヒカルに振り返る。

「もう・・1人で勝手に出歩かないでよね・・光輝も私も心配しちゃうじゃない・・」

「ごめんなさい・・とても・・とても不安で・・・」

 注意をするくるみに、ヒカルが沈痛の面持ちを浮かべる。

「分かってくれればそれでいいわよ。それに不安なら1人で抱え込もうとしないように。」

「はい・・ありがとうございます・・・」

 くるみに励まされて、ヒカルが笑顔を取り戻す。それは彼女が2人に初めて見せる満面の笑みだった。

「戻ろう、ヒカルちゃん・・僕たちの家に・・・」

「光輝さん・・・はい・・・」

 光輝が手を差し伸べると、ヒカルは喜んでその手を取った。

 

 自分を虐げた男子を手にかけた後、竜也はある場所を目指していた。それは警察の中枢、警視庁だった。

 竜也は虚飾の正義を振りかざす警察を滅ぼそうと目論んでいた。その破壊をもたらさなければ、本当の正義は闇に葬られてしまうと考えていた。

「ちょっと君?」

 その途中。竜也は警官2人に呼び止められた。警官たちは立ち止まった彼に、さらに声をかける。

「君、どこかで見かけた顔だね?」

「少しお話を聞かせてもらえないかな?」

 警官たちが竜也に任意同行を求めるが、竜也は冷徹な態度を崩さない。

「虚飾の正義を振りかざすお前たちに、オレを止められはしない・・」

「えっ・・・?」

 竜也が口にした言葉に、警官たちが眉をひそめる。

「オレは潰す・・虚飾の正義を振りかざすお前たちを・・・!」

 竜也が言い放つと、龍に似た怪物へと変貌を遂げる。

「えっ!?バケモノ!?

「構わん!撃て!」

 恐怖を膨らませた警官たちがたまらず発砲する。だが竜也の強靭な体には傷ひとつつかなかった。

「従わない相手には力ずくで従わせる・・虫唾が走る!」

 鋭く言い放った竜也が警官たちに襲い掛かった。その牙にかかり、警官たちは命を奪われた。

「警察の中枢、必ず仕留めてやるぞ・・・」

 正義の復讐を果たすため、竜也は再び歩き出す。彼は今、法の中枢へと赴こうとしていた。

 

 

 

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